ヤドリギの支配者 ~女を堕として拠点も落として愉しい街を作ろう!~ 作:伊井君七味
ピロンッ
「おっ、またEPが入ってきた。時間が経つと勝手に溜まるのは見てて気持ちがいいな」
背もたれを倒した椅子にごろんと横になりながら拠点の詳細情報を眺める。
昨日まで0だった十和田マンションのEPは一晩経つと4も溜まっていた。
新しく女性キャラを攻略したわけではない。
ではなぜEPが増えているのかというと…
「やっぱりこれを作って正解だったな」
先日作成した設備の説明を見る。
うむ、何回見ても強力かつ便利な効果だ。
『
設置数:1
セット枠:■■■■□ 4/5
設備効果
・セットされた女性キャラクターの配偶者・恋人にあたる男性キャラは下記の効果を受ける
・拠点内で睡眠を取ると女性キャラクターとプレイヤーが性行為をする夢を必ず見る
詳細情報:
・この設備にはヒロインまたはスレイヴを5人までセットすることができる
・男性キャラクターが夢の内容によって苦痛・恐怖を感じるとEPを取得することができる
・EP取得量は男性キャラクターの苦痛度によって増減する
・夢の内容はランダムに決定されるが女性キャラクターが指定することもできる
「こうしてみるとリア充特攻な設備だな…」
ようは「拠点内の男性に恋人・妻が他の男に抱かれる夢を見せて、苦しんだ分だけEPを獲得できる」という効果だ。
『悪夢搾精機』の効果対象になってしまった彼らは愛しの相手が寝取られる夢を見るようになってしまったのだ。かわいそうに。
何はともあれ、これでEPが勝手に増えていくようになった。
「問題はどうやって量を増やすかだな」
この設備をたくさん作るれば簡単にEP稼ぎ放題!となるわけではない。
まず設備単体では効果を発揮することができない。セットする女性キャラが必要だからだ。
最大5人までセット出来るからコスパはいいが、ヒロインやスレイヴは自前で用意しなくちゃいけない
また、より多くEPを獲得するには対象となった男性をより苦しめる悪夢を見せなくてはならない。
最も苦痛と感じる体験は人によって違う、だから同じ夢を全員に見せてもEP獲得は効率は高くならない。
本気で最高効率を目指すなら一人一人に合った悪夢を見つけ出す必要がある。
ほぼオートでEPが溜まっていく便利設備なだけあって、稼ぎを増やすためには色々な工夫をしなくちゃいけないようだ。
「まぁ雀の涙ぐらいの量でも何もしないで増えていくなら嬉しいんだけどな」
なにせ一晩で4EP、スレイヴ0.8人分もゲットできた。
毎日このぐらい貰えるなら一週間で30EP近く稼げる。
そうすれば『悪夢搾精機』をもう一台増やすこともできるし、他の設備を新しく作ることもできる。
「まずは毎日貰えるEPを増やしたいからな。『悪夢搾精機』を増設していこう」
設備一覧を眺めながら俺は今後のスケジュールを考えていく。
出来ることがどんどん増えていくな、楽しんでいこう。
ニヤニヤと笑いながら俺は広がっていく可能性に夢を見ていた。
しかしそんな余裕は数日もしないで吹き飛ぶことになる。
数日後。
俺は怒りを抑えきれずに握った拳をテーブルに叩きつける。
「くそっ!やらかした!!!」
ドンッと重い音がマスタールームに響く。
じんじんと痺れる手をキツく握りしめて大声で喚きたくなる気持ちをぐっと堪えた。
調子に乗っているつもりはなかったが、どうやら自覚しているよりも気が緩んでいたらしい。
冷静に考えればわかることを俺は見逃していた。
「もっと早く気が付くべきだった…」
今更悔やんでも仕方ないことはわかってる。
だがそれでもあと少しだけ慎重に動けば良かったという後悔がじくじくと胸を刺す。
一台目の設置から五日が経過した日。
EPが20溜まったことを確認した俺は、獲得できるEPを増やすために二台目の『悪夢搾精機』を設置した。
設備の増設によって『悪夢搾精機』にセットできるキャラは最大10人になった。
俺は新たに攻略した3人のスレイヴをセットした。これで合計7人の男たちが悪夢を見るようになる。
「これで毎日7EPがゲットできる」と気分が舞い上がっていた俺はあることに気づけていなかった。
問題が発覚したのは次の日の事だ。
今日はどの女を堕とそうかとマンション内を歩き回っていた俺は妙にやつれた男を目にした。
ぼさぼさの髪の毛、目の下にある濃いクマ、げっそりとこけた頬。
数秒後には倒れてしまいそうな様相、夜道で出会ったらゾンビと間違えてしまう確信がある。
常人なら近づきがたいであろうその男を、しかし俺はどこかで見たような覚えがあった。
「誰だっけな…」
頭を捻らせる俺の目にとあるものが映る。
彼が歩いてきた方向にある部屋、202号室だ。
「っ!そうか」
思い出した。
彼の名前は白石。
4人目にスレイヴ化した白石麻実の夫である。
前に見た時とだいぶ印象が変わっていたからすぐに気が付けなかった。
おそらく連日見る悪夢のせいで気力体力ともに削られているのだろう。
「ふっ、かわいそうだな」
嘲りながら踵を返そうとする。
しかしその瞬間、脳裏に不穏な予感がよぎった。
気のせいだと振り払おうとしても喉に引っかかった小骨のような違和感が拭えない。
駄目だ、無視できない。ちゃんと考えないと。
なんだ…?俺は何が気になったんだ…?
頭を回して思考の海に潜る。
先程までの光景を思い出しながら小さな違和感の原因を探していく。
違和感のもとは白石だ。それはわかる。
問題は彼の何が気になったかということだ。
皺が目立つスーツ、剃り残しのあるヒゲ。違う、これじゃない。
ふらふらと揺れる身体、めやにが残る目。違う違う!外見に惑わされるな!
白石の見た目がだらしなくなっているのは当然なんだ。
彼は悪夢に魘され続けて弱ってきているんだから……っ!?
思考がピタリと止まる。
探していた違和感に触れた感触。
落ち着け、落ち着いて考えろ。
わずかに掴んだそれを取り零さないようにゆっくりと手繰り寄せる。
見た目に気が使えなくなった白石。
当然だ、彼は悪夢のせいで弱ってるんだから。
弱っていること自体はおかしくない。おかしくないが…
「短時間で弱りすぎじゃないか…?」
そう、それだ。
それが気になったんだ。
廃人のような見た目、ずっと寝れなくて体力的にも精神的にも衰弱しているんだろう。
原因も結果も納得できる。
だけど、
「まだ一週間だろ?こんな短時間であそこまで弱るのか?」
ペースが早すぎる。
たった七日で彼は別人のように変わり果ててしまった。
想定したものよりだいぶ消耗スピードが速い。
しかも彼の衰弱はこの後も留まることはない。
彼を苛む悪夢はこの先も終わることはないからだ。
「このままなら一か月も経たずに死ぬんじゃないか…?」
あの様子だと肉体的には大丈夫でも、先に精神がやられてふとした拍子に駅のホームから転げ落ちてしまいそうだ。
想定外の事態に頭が痛くなりトントンとこめかみを叩く。
この状況は正直言って困る。
まだまだ彼からはEPを絞りたいんだ。早々にリタイアされるのは……っ!?
現実世界でのそれは、つまり死だ。
電子ゲームの中ではプレイヤー以外の生死はとても軽い。
大事なキャラであればセーブデータを巻き戻せば良いし、モブキャラならそもそも気にも留めない。
だけどこのゲームの舞台はリアルワールド。
一人の人間の死は周りに多大な影響を与える。
ついこの間までピンピンしていた男性の急変と死。
警察の気を引きそうな事件だ。
なにが原因で死亡したか、きっと少なくない調査がマンションに入るだろう。
それはマズい。
旦那が死んだとなれば妻である白石麻実には必ず事情聴取が行われる。
堕としたと言ってもスレイヴ達は普通の一般人だ。
警察に尋問でもされたら俺の事を話してしまうかもしれない。
頬を一筋の汗が流れ落ちた。
状況を正確に理解してしまった俺の身体からは冷や汗がとめどなく吹き出ている。
白石はこのままいけばいつ事故や事件を起こすかわかったもんじゃない。
彼に対するなんらかのケアは必要だ。
「でもこの感じだと他の三人もだいぶキてそうだな…」
そう、おそらくマズイのは彼だけではない。
最初にセットしたスレイヴ四人の恋人や旦那たち、おそらく彼ら全員が同じような状況なのだろう。
誰もトラブルを起こさないように精神を安定させる必要がありそうだ。
だけど一気に四人の人間のメンタルを回復させることなんて出来るワケがない…!
「取り合えず『悪夢搾精機』から全員外そう」
セットしたスレイヴ達を外せば旦那たちが悪夢を見ることもなくなる。
彼らが簡単に弱らないような方法を考えてからやり直そう。
急いで『悪夢搾精機』の設備詳細を開く。
スレイヴを外そうとすると画面にポップアップが表示された。
「なっ…、セットしてから一か月は外せない!?聞いてないぞ!?」
寝耳に水な情報だ。
思ってもいなかった展開に焦ってしまい何度も画面をクリックする。
いくらやっても無意味だ、頭ではわかってる。
彼女たちをセットしてからまだ一週間ほどしか経っていない。
何をどうしても彼女たちを『悪夢搾精機』から外すことはできない。
「落ち着け…冷静になって考えろ…」
スレイヴたちを外せるようになるまで残り三週間ほど。
悪夢を見ている男たちがそれまでに限界を迎える可能性は高くはないが、決してゼロでもない。
何とかなると思って放置するには少し怖い状況だ。
これは俺のミスだ。
スレイヴの旦那たちを精神的に追い詰めるのが楽しそうだという理由で『悪夢搾精機』を作ったが、その後どうなるかを深く考えていなかった。
少し考えればこうなることは予想できていたはずなのに…。
人間をゲーム的にしか捉えていなかった俺の認識がこんな状況を招いてしまったっ…!
「くそっ!やらかした!!!」
そして話は冒頭に戻る。
怒りで荒くなった息をゆっくりと落ち着かせる。
何度も深呼吸をしながらデスクに打ち付けた拳をゆっくりと開いた。
イライラしていても仕方ない。状況は勝手に好転してくれないんだ。
だからいち早く打開策を考えよう。
「フォー、いるか?」
『はい、マイマスター。なにかご用でしょうか?』
スピーカーから聞こえる彼女の声は憎たらしいぐらい普段と同じだ。
さっきまでのみっともない姿も見ていたはずなのに。
「状況は理解しているか?」
『えぇ、スレイヴの配偶者たちの様子も存じております。あまり楽観視できる状況ではありませんね』
「そう、その通りだ」
ゆっくりしている暇はない。できるだけ早急に解決するしないと。
「そもそもどうして設備からスレイヴ達を外すのにクールタイムが必要なんだ?」
『それは設備を使うことによるデメリットを簡単に回避できないようにするためです』
不満を抑えきれずに思わず漏れた問いかけにも彼女は冷静に返答して来た。
『今回のような状況になった時に設備から女性キャラクターを外して安易に解決しようとするのを防ぐためにクールタイムは設定されています』
「じゃあ俺は運営が想定していた馬鹿なプレイヤーと同じ行動をしたってことだな」
くそっ、恥ずかしい。
俺のことをいいプレイヤーだと褒めてくれたフォーの前でこんな醜態を晒したくはなかった。
髪の毛を強く握りしめて羞恥を堪える。
フォーに頼らず自分一人で解決したい。
それが正直な気持ちだ。
俺の力だけで解決して彼女に「流石です」と言わせたい。
だけど今はそんな余裕がない。
状況がこの先どんな風に変わっていくか俺には予測するできない。
だから…
「フォー…、こんなこと言うのは正直情けないんだが…、いまの俺は焦ってて上手く思考が纏まらないんだ。なにかいい解決策はあるか?」
恥ずかしくても、素直に彼女を頼ろう。
『なるほど。お任せください、マスター。あなたの危機は私が救ってみせます』
思わず伏せてしまった頭の上から胸を張っているような自信あふれる声が聞こえてきた。
『ただし私はあくまでもプランニングAI。具体案を出すことはできても、おおまなか絵を書くのはあなたの仕事です。どのような結果に落としたいのか、マスターが決めてください』
「あ、あぁ…わかった。ありがとう、フォー」
『問題ありません。ではマスター、この問題を解決した先に一体どのような光景になるのを望みますか?』
どのように解決するか、どんな終着点を迎えたいか。
言われてみればまずはそれを考えなくちゃいけなかった。
あごに手を当てて目を閉じる。
そうだ、俺が本当に望んでいるのは『悪夢搾精機』からスレイヴたちを外すことじゃなくて、悪夢を見る男たちがトラブルを引き起こさないことだった。
フォーが聞いてくれたおかげで本来の目的を思い出せた。
少し冷静になった頭で改めて考える。
男たちがトラブルを起こさないようにする。
それをどんな形で実現するか。
自由意志を奪って下手な行動を起こせないようにする?それはあまり好みじゃない。
拘束監禁して行動を制限する?これもやりたくない。そもそも男を縛る趣味なんて俺にはない。
考えよう、俺が望む解決法を。
男を調教する趣味もないので次はさくっといきたいですね。