明るい喧騒の中、今日もっとも前線で活躍した少年は、周りからの誘いを申し訳無さそうに断っている。
赤く小さな相棒に別れを告げ、あらかじめ彼女らと示し合わせていた部屋の扉をノックする。
すぐに開くと、
「あら、グランさんにしては、早かったですね。お姉さまとルリアちゃんも、向かっているそうですよ」
「う、うん」
グランは息を呑んだ。冷静に微笑む彼女とは対照的に、どうしても恥ずかしくて慣れたものではない。
カーテンを締め切った部屋に、ベッドは二人用のものよりも大きい。本日貢献した団長用の贅沢部屋と言われれば、否定はできない。
「先にシャワーを浴びますか?」
「いや、済ませてきたよ」
グランが部屋の中央へ、多くの団員たちが外で酒宴に酔う中、グランももう剣を帯びていない。
ガチャリと、鍵の音が鳴った。
「え?」
グランが振り向くと、
「お姉さまが鍵をお持ちですから、大丈夫ですよ」
「そ、そう……んっ!?」
瞬間、グランの視界は目をつぶったヴィーラで埋め尽くされた。飛び込んできた勢いとは裏腹に、唇の感触は柔らかい。
グランは彼女の全体重を、後退りせずに抱きとめていた。
(ヴィーラさん……)
愛おしい恋人の口づけに、グランは浸った。
「ん……ちゅる……はぁ……ふふ……三十六回、この数字が何かおわかりですか?」
「い、いや……」
情熱的な彼女の行動とはうってかわって、その表情には冷たさがあった。
ヴィーラはすぐに「ふふ」と三日月型の微笑みを作り、
「あなたが今日、女性団員の方と肌を触れ合わせた回数です。ずいぶんと気が多いのですね」
「えええ!? そんなに!? ていうか、全然心当たりが……あっ」
いざ思い返してみると、確かにマギサやナルメアから手を握られたり、カリオストロから肘で小突かれたり、メーテラやユエルからじゃれつくように抱きつかれたような気がしないでもない。
「心当たりはいかがでしたか?」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりは……」
「わかっています。謝罪が欲しかったわけではありませんから。ただ一つ言っておくと、私は今日、男性と触れ合ったのはあなたが初めてですよ。昨日も、ですが」
(それは、そうだろうな)
「その回数だけ、私達のことを不安にさせた落とし前は、どうつけてくださるのでしょう?」
ヴィーラの声色にはからかいが混じり始めている。互い、鼻をこすりつけ合いつつ応酬する。
「三十六回……キスをする?」
グランは自分で言っていて恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、ここは男の意地の張りどころ、よどみなく言えた。
ヴィーラにはそんなグランがつつぬけだったが、あえて突っ込まない。
「飽きがこないようにこなせるのなら、お受けしますよ」
見つめ合うヴィーラとグラン。二人自然に目を閉じて、引き合うように唇が、
「キスだけじゃだめですっ!!」
「こ、こらルリア、すまない二人とも、邪魔してしまったっ……」
扉が勢いよく開くと、ルリアとカタリナは頬を紅潮させながら入室してきた。
カタリナは申し訳無さそうに、ルリアはプンスカとかわいく怒りながら。
「あら、お待ちしておりましたよ。ルリアちゃん、お姉さま♡」
「み、見てたの……!?」
グランとヴィーラ、抱き合ったまま、顔だけ距離が空いた。ヴィーラは全く落ち着いている。
「ヴィーラさん、二人が覗いてたのわかってたの……?」
「ふふ、グランさんも修行が足りませんね♪」
ヴィーラは言いながら片腕をグランから離し、自身とグランの間にスペースを空ける。
「さ、どうぞ」
ヴィーラの声の先にはルリアとカタリナ。
ルリアがカタリナの手を引きながら、
「今日は、カタリナが最初に正面ですね」
「あ、ああ、そうだったな。よろしく、頼むよグラン……♡」
「う、うん、どうぞ……」
何度体験しても、グランにとってこの世のものと思えない愛の快楽と幸福だった。
ヴィーラが左からグランを抱き、右からルリアが抱きついてくる。そして正面からは、少し躊躇しながら、でも喜びで微笑むカタリナが、体を密着させてきた。
そして三人は、グランならばどれだけ強く抱きしめても受け止めてくれる信頼のもと、
「「「はあっ……♡」」」
ぎゅうううっ、と音が出そうなほどにグランを中心にして四人の体を密着させる。
(うっ……!!)
グランがうめいたのは、固くなった自分の怒張がズボンを押し上げ、さらに正面から抱きついてくるカタリナの、
「あっ……♡」
レギンスの股下から、服越しに女の園を押し上げたからだった。
カタリナはたまらず、
「グラン……んちゅううぅ♡」
グランの唇に覆いかぶさるようにして口づけする。
「お姉さま……私にも……♡ ちゅうぅう♡」
「わたしもわたしも♡ ちゅちゅうう♡」
(あっあああっ)
彼女達の体重を支えることはたやすくとも、三方向からの同時キスは対処しきれない。
呼吸をしようと口を開けば、すぐにカタリナとヴィーラが唇をつけ合いながら、
「にゅるちゅるる♡」
「れろちゅるちゅぱ♡」
舌を絡ませながらグランの口内に侵入、ルリアも負けじと、
「ちゅるるれろっ♡」
グランの口端から舌を付き入れ、カタリナがルリアへ目配せしながらグランの舌を共有する。
グランの口内が彼女たちの唾液で泡立ち始めたころ、口を離したヴィーラは
「ちゅぷはぁっ、そういえばルリアちゃん、キスだけではだめと言ってましたが……」
「ちゅるはぁっん、はいっ! だって、三十六回のキスなんて、すぐ終わっちゃいます」
「んくっぷはっ……確かに、この調子なら、一時もあればこなせてしまいそうだな」
(う……あ……!)
グランはすっかりキスに魅了されてしまっていたが、三人の女性の視線は一斉にグランの下半身へ。
「グランさん、このままベッドへ行ってもらえますか? あなたが下で……」
「……え、あ、うん」
グランは器用に三人を抱いたままベッドへ横たわる。その過程でも、頬、口と彼女たちにキスされまくり、夢心地だった。
グランを見下ろす、愛する女性たち。だがその表情には、サディスティックを含んでいた。
すでにグランは半裸に脱がされ、彼女たちはグランの目上でストリップ。
ごくりとつばを飲むグラン。だが初めから彼女たちが上とは珍しい。
先程からルリアとカタリナとヴィーラが小声で会話している。結論が出たようで、グランにくだされた判決は、
「ではグランさん、三十六回、しっかりとあなたの精を、私達にそれぞれ注いでくださいね」
「え」
ルリアは考え込んだ後、
「えーと、三十六回かける、三人だから……百八回ですね!」
「正解だルリア、えらいぞ」
「えへへー」
「え、え」
カタリナは自身の顎に手を当て、
「しかし、百八回も一晩にできるものなのか?」
「え、いや、む」
グランの声を制し、ルリアは大量のエリクシールをどんと脇に置いて、
「今日の依頼でたくさん買い込みましたから、大丈夫ですよ!」
「ふふ、私達の団長さんは、いつも不可能を可能にしてきましたからね」
グランは死を覚悟した。だが、次に起こった事象が幸せすぎて、思考を麻痺させてしまった。
ルリアが、カタリナが、ヴィーラが、裸体のまま惜しげもなくグランへ抱きついて、
「明日はオフだからな、依頼で別行動だった分、たっぷり君を補給させてもらうぞ♡」
「あなたとこういうことをするのって、けっこう大変なんですっ。だからいーっぱい甘えちゃいます♡」
「私達三人を幸せにすると言ったあの日の言葉、今日もしっかりと果たしてくれると、期待してますよ♡」
グランは返答しようと口を開いた瞬間、三人の唇と舌に、もみくちゃにされる。
あまりの興奮と快楽に皆が溺れ始める中、グランはふとヴィーラの言葉を思い出していた。
『三人を必ず、幸せにする』
そう、意思と偶然が折り重なって完成したこの関係。カタリナが自身にまたがって挿入するまでの間、グランの脳裏には、この関係を決定づけた、運命の二日間が去来していた。
雨天、時刻は昼下がり。
(お姉さま達とピクニックの予定が……ままならないものですね)
窓に映る自身の姿は、流れる水にぼやけている。稲光が響くとヴィーラは目を瞑って「ふう」と息を吐き、窓から体を離した。
(せっかくポート・ブリーズでオフだというのに……)
ルリアに頼んでティアマトに晴れにしてもらおうかとも思ったが、天災とも言えない天気、自然現象をいたずらに操作するわけにもいかないだろう。
コンコンと、自室の扉がノックされる。
「はい?」
「ヴィーラさぁん」という声は今しがた思考にあったルリアの声。「ヴィーラさん」と、グランの声もする。
「はい、なにかごようでしょうか?」
ヴィーラが扉を開けると、声の通りルリアとグラン、ビィの姿は無い。
(あら、気をきかせたのでしょうか。あの赤いトカゲにしては殊勝ですね)
ヴィーラの頭には、もう二人が訪ねてきた理由が予測できていた。
「あの、ヴィーラさんに手伝って欲しいことがあって、ついて来ていただけますか?」
「ヴィーラさん、さえよかったらなんだけど……」
「ええ、かまいませんが……」
特に疑問に思う素振りも見せずに了承するヴィーラ。ルリアは「よかったぁ」と軽くグランと手を合わせる。
(ふふ、ここで意地悪しても仕方ありませんからね)
そもそもヴィーラが部屋で暇をしていたのは、ルリア、グラン、カタリナとのピクニックが悪天候で中止になったがゆえ。
ならばヴィーラが部屋で軽くアンニュイになっていた間、他三人は何をしていたのか。ヴィーラにはわからない。
(今日ぐらいは少し、自惚れていいでしょう)
わからないが、ヴィーラには確信があった。ヴィーラが今浮かべる微笑みは心からのもの。
きっと予定が頓挫したとしても、ルリア、グラン、そして――。
「さあ、扉を開けてください!」
笑顔でヴィーラを導くルリアとグラン。ヴィーラがノブを回し、開いた先には、
「誕生日、おめでとう! ヴィーラ」
「お姉さま……!!」
最愛の人が待っていた。
「ぉぉ、お姉さま……その格好は……!」
ヴィーラはわなわなと震えだし、両の手のひらで自身の頬を包む。
「ああ、似合っているか?」
そう優雅に腕を広げたカタリナの姿は、服は青と白を基調とした男装の礼服、髪は後ろにシニヨンと三つ編みでまとめられ、遠目に見れば細身の美青年に見えないこともない。
「グランが君の誕生日にはこれがいいと、わざわざ一緒に買いに行ってくれたんだ。今日は一日、君をエスコートしよう」
「あぁっ、あぁあぁああお姉さまぁ……♡」
ヴィーラは熱い視線でカタリナに夢中だった。そのままカタリナに手を引かれ椅子へ導かれる。
ルリアはこしょこしょとグランの耳へ口を寄せ、
「コーデリアさんとアンジェさんに相談してよかったですねっ。次は……」
「うん、さっそく」
ヴィーラとカタリナはテーブルを隔てて対面に座り、テーブルの上には銀色のフードカバーに守られた料理がある。
「「どうぞー!」」
左右からルリアとグランがカバーを外すと、そこにあったのはイチゴとホイップクリームたっぷりのホールケーキ。チョコプレートにはヴィーラ・リーリエの文字が刻まれている。
オーソドックスなスタイルだが、手間ひまかけて作られた一級品であることは、様々な催しに出席してきたヴィーラには一瞬で見てとれた。
「まあ、これは……グランさんたちが?」
カタリナに夢中になっていた心情に、ルリア、グランへ向けられた暖かい感情が混ざる。
(お姉さまのこの身姿に、ケーキまで……私は、この騎空団に入って、本当に……)
久しく忘れていた団欒の感動にヴィーラが浸っていると、対面のカタリナは、
「ああ! このケーキは私たちが君のために作った自信作だ! 存分に味わってくれ……!」
「はいっ。……えっ」
ヴィーラの表情が一瞬固まり、再度ケーキを見る。
(……お姉さまが私の誕生日のために御作りになったケーキ、天にも昇る喜びと共に食す以外にありえません。しかし、どう見ても……見た目も香りも一級品……これは……?)
ヴィーラとて、カタリナとはバレンタインのチョコを共に料理した経験がある。その時には見た目こそ多少繕うことができたものの、カタリナの料理センスの前では、その絶望的味付けに屈するほかなかった。
ヴィーラがつい無言で視線を送った先はグラン。彼とはカタリナのバレンタインチョコを共に食してきた戦友、当然カタリナの料理の質は理解している。
そのグランもまた無言で、ヴィーラの視線に対して頷いた。
グランの『信じて』という声に出さない言葉を、ヴィーラは確かに受け取った。
「……いただきます」
ヴィーラはフォークを手に取り、恐る恐るケーキを口へ運ぶ。すると、
「……美味しい……! 美味しいですわ、お姉さま!!」
「おお、そうか! では他のもぜひ味わってくれ!」
(そんなっ信じられない!! お姉さまのケーキが、こんなにも……!!)
口に入れた瞬間見た目通りの素晴らしい味わいが広がる。ヴィーラは感動していた。
「美味しい……世界一美味しいです……!」
この言葉を、心から声に出せるときがくるなんて、ヴィーラは夢にも思っていなかった。
ヴィーラの感想に対してルリアとカタリナの弾む声、グランはそっと胸を撫で下ろしている。
ヴィーラはそんなグランの様子を見て
(このケーキに至るまでの過程……ルリアちゃんは喜々として試食したでしょう。しかしグランさんはそうではない)
ヴィーラはケーキを味わいながら目を細める。
(この見た目、芳醇な匂い、甘く柔らかい口当たりにたどりつくまで、どれほどの食材を使い、味見と称して美味たる部分のみを残していったのか……グランさん。あなたの労苦が目に浮かびます)
そして目の前には麗しき礼装のカタリナ。再度ヴィーラはうっとりと頬を緩ませると、カタリナは、
「ふふ、このケーキも私のこの衣装も、グランのアイディアなんだ。君ならきっと、喜んでくれると。彼にもお礼を言ってあげてほしい」
「……グランさんが」
ルリアもケーキを取り分けつつ、
「はい! グランすごかったんですよ! コルワさんにも協力してもらったり、アルビオンにもヴィーラさんとカタリナの行きつけのカフェのケーキを」
「す、ストップっルリア!」
誇らしげなルリア、恥ずかしげに慌てるグラン、「ふふ」と微笑むカタリナ。
(ああ、私は)
ヴィーラは視界に映る光景を、自身の心に焼き付ける。
(この幸せのためなら、どんなことでもできますね)
「……グランさん」
「ん!? は、はい」
「ありがとうございます。お姉さまとルリアちゃんと、あなたのおかげで、最高の誕生日になりました」
ぱあっと、グランの顔が太陽のように明るい笑顔になり、またヴィーラの微笑みに対して頬を染めて顔を背けた。ルリアがちょっと嫉妬している。
(あなたにとって、見返りはこれで十分なのでしょうね。ずるい人……)
ヴィーラ自身、自分の幸せの一部分に、一人の男性がいることを認めている。ヴィーラを理解し、ヴィーラを想い想われている、唯一の男性が――。
当初の予定では、ケーキを披露しつつさりげなくカタリナとヴィーラ二人きりにするつもりだったが、
「ルリアちゃんとグランさんとも、ぜひご一緒に」
とのことで、四人一つのテーブルについて、今はケーキに舌鼓を打っている。
ヴィーラがカタリナに「あーん」をされて失神しかけている傍ら、あまりにまともなケーキにグランは自画自賛していた。
(よく、ここまで美味しくできた……)
困難なミッションだった。カタリナ、ルリアと三人でケーキを作るとは言ったものの、カタリナの壊滅的な料理センスの前には二人ではいかんともしがたく、すぐにローアイン、エルメラウラ、ファスティバ、レオナ他団員達に協力を求め、カタリナが謎の材料を投入してはルリアが試食し、無事な部分をレオナ達がトリミングして仕分け、正常な食材を足し、カタリナに工程を戻す。
カタリナが、
「もう、充分美味しくできたと思うのだが……」
と出来上がった暗黒物質の前で言っても、グランは、
「いえ! ヴィーラさんを満足させるためにはまだまだ!!」
「そ、そうか」
と、スパルタ気味の熱意と勢いでカタリナに再度料理を促し、ルリアが試食している間、団員たちと次の対策を練る。
また一人、また一人と団員たちがカタリナの調理過程で倒れていく中、ついに奇跡は起きた。
「さ、味見してみてくれ」
「……!!」
(このケーキなら、いける!!)
というわけで現状、ヴィーラは心からの『美味しい』と共にカタリナと至福の時間を過ごし、グランと対面のルリアはケーキを頬張りつつ、グランと目が合うと笑顔でサムズアップする。ルリアの無限の味見がなければこの成功はなかっただろう。
今グランが食べているのは、間違いなくカタリナが作ったケーキなのだ。そう思うと、ヴィーラが喜んでくれていると事とは、また別種の感動もあった。
「あれ……?」
「はわ……?」
(なんだ……? 頭がぼっーとする……)
グランとルリア二人、頬が紅潮し、すこし視界がぼんやりしてきている。端的に解説すると、カタリナの料理への異常投入と正常な食材投入を繰り返した結果、奇跡的な調合で媚薬に近い成分が出来上がってしまったことは、後に料理係の団員の分析でわかったがこれは余談。
ともかくグランは、軽く魅了されている。
(ルリア……あんなに色っぽかったっけ……? いやルリアだけじゃない……カタリナさんも……ヴィーラさんも……)
顔、瞳、唇、首筋と、グランは明らかに常軌を逸したねっとりとした視線を三人へ向けている。幸運だったのは
「あら、グランさん、そんなに私をじっくり見つめてどうしたのですか?」
「ああ、いや」
視線に気づいて少し挑発的な声色のヴィーラ。しかしヴィーラの心情は、
(私のカタリナお姉さまへの愛情を心底理解し、そして私の誕生日のためにここまでしてくれる、グランさん……私が認める、唯一の男性……)
「そんな視線は、少し女性に対して失礼かと……私以外の女性には注意してくださいね」
と、普段なら絶対にしないであろうウインクを添える。ヴィーラへ取り分けたケーキは空になっている。
『か、かわいすぎる(ますぅ)……!!』
そのウインクで魅了されたのは、グランだけではなかった。多分にケーキを食べていた、カタリナとルリアまで。
「ふ、ふう……少し、熱いか……? 窓を開けるわけにもいかないしな……」
そう言いつつカタリナは礼服の胸元のボタンを外し、中に風を入れる。そのさまは遊び盛りな貴公子のよう。
(((……!?)))
ガタッと膝を鳴らし慌てて鼻血をふき取るヴィーラ、「はわぁ!?」と真っ赤な顔を手で覆い、しかし指の間から目が離せないルリア。キュンと胸をときめかせるグラン。
「はわぁ……カタリナと、ヴィーラさんと、グラン……なんだか……いつもよりすっごく綺麗で、魅力的に……」
もともと大好きなグランとカタリナ、そして女性的な綺麗さと可愛らしさを兼ね備えるヴィーラ。ルリアの視界では、三人の背景にバラが咲き誇っている。
しかしそんなルリアも美少女、真っ赤な顔とうるんだ瞳で唇を尖らせ、頬を掌で包むしぐさは、小動物と呼ぶには性的で可憐だった。
(((守りたい……)))
カタリナとヴィーラとグランの思考がシンクロする。ただしグランは、自身がヴィーラとカタリナと比肩するとは思えず、
「み、魅力的だなんて……カタリナさんとヴィーラさんはともかく、僕は……」
「いえ、そんなことはありません」
「そんなことありません!」
「そんなことはないっ」
「ええっ!?」
ヴィーラは少し頬を膨らませて可愛らしい怒りをあらわにしながら、
「私にとってグランさんは、私が何にも縛られることなくありのままでいられる、幸せの場所を作ってくれた、かけがえのない方です。それを卑下するのは、たとえグランさん自身であっても許しませんよ」
カタリナは凛として、
「ヴィーラの言う通りだ。君は常に陣頭に立ち、皆を導いてくれる、笑顔にさせてくれる。君の輝かしい成長は、常に冒険を共にしてきた私が保証する。君は、皆が誇るべき男だ」
ルリアは、
「はい! グランは強くて、頼りになって、えっと、その……一番、かっこいいです……!」
三者三様の微笑みを向けられて、グランは天にも昇る気持ちだった。
「あ、ありがとう……大好きな女性からそう言ってもらえると、うれしくて、どうにかなっちゃいそうだよ……」
グランの視界がゆがむ。体と思考がふにゃふにゃになってきていたが、意識を手放すまではいかなかった。
対してルリア、カタリナ、そしてヴィーラは、
「「「…………!?」」」
微笑みが止まり、頬を紅潮させたままグランを凝視する。
今、グランが、
『大好きな女性』
と言った。
例えばこれが、『大好きなみんな』や『大好きな仲間』ならば、これほどの衝撃を及ぼさなかっただろう。
グランは確かに『女性』と言った。
その意味を、ルリアは反芻する。
(はわっ……え、グランが……はわぁっ――!?!?)
カタリナは動転している。
(いや、まさかっ、わたっしのことをっ、ええっ!?)
ヴィーラは、呆然としている。
(……そう、だったのですね……)
「ああ……幸せだなあ……大好きな女性から、僕が、魅力的だなんて……」
(((……?)))
ルリア、カタリナ、ヴィーラは気づいた。ここに三人の女性がいる。ならば、グランが言う大好きな女性とは誰だろう。
(そ、それって、カタリナ? ヴィーラさん? ……わわ、わたしってことは……!?)
(早とちりしてしまった……そうだ、ここにはルリアもヴィーラもいる。だが、まさか、もし……)
(ルリアちゃんだったら何も問題はありません。お姉さまだったら大問題。私だったら……)
ヴィーラのぼやけた思考が、結論をだせない。グランはかけがえのない戦友、またはそれ以上の、
(私、だったら……?)
三人の女性の思考もまたぼやけ始めていた。答えが知りたい、知りたくない、もし自分だったら、思考による沈黙の中、グランが酩酊したように口を開く。
「ルリアは……」
「はわ!? はい!」
「明るくて優しくて一生懸命で、それなのにとんでもない美少女で、いつも僕の傍にいてくれる、大好きな女性……」
しんと静まり返る室内。ルリアの動きが止まり、徐々に活動を再開するにつれ、顔は真っ赤になって口がわなわなと震えだす。
そしてカタリナとヴィーラは、どこか落ち着いていた。
(そう、だな)
(……当然ですね)
決着はついた。
(まったくグランさん、私の誕生日にそんなことを言わなくても……)
ヴィーラが祝福の言葉を口にする。だが、
「おめで」
「カタリナさんは……」
「「「え?」」」
グランはこの後、一生分の後悔をする。
グランは、気だるげに机に突っ伏している。声はくもらないように、口と腕の間に空間を開けていた。
「カタリナさんは、ずっと僕を見守ってくれて、助けてくれた、強くしてくれた、支えてくれた。僕が無茶をするたびに、怒ってくれた。一緒にルリアの盾になってくれた……」
「グラン……」
カタリナは聞き入っている。自身の心に、かつてない暖かさを感じている。
「そんなカタリナさんが、大好きになってた。女性として、大好きに……」
「……!! 君が、私を……女性として……!」
今度こそカタリナの胸が鳴った。今までグランと過ごしてきた日々が走馬灯のように脳裏によみがえる。かつて違う男性から告白されたときとは明らかに違う、体を駆け巡る歓喜。
「な、なにを言っているんですかあなたは! ルリアちゃんだけじゃなく、お姉さまもなどと……!」
ヴィーラの声には怒気が含まれている。私は今日誕生日なのに、私のことはどうでもいいのか。
(違う! この私の怒りは……そう、二つ。彼の不誠実さと、お姉さまへの告白)
ちなみにルリアは最初にグランに告白されてから幸せでふにゃふにゃになっていたが、ヴィーラの怒声で幾分現実へ戻る。
「そ、そうですよ! ヴィーラさんの言う通りです! カタリナと私と、どっちも好きだなんて、わわ、私もどっちも好きですけど! どうなんですかグラン!」
ルリアはグランへ詰め寄り、グランの肩を掴んで揺すり抗議する。しかしグランはさらなる爆弾を投下する。
「ヴィーラさんは、気づいたら魅了されてた……」
「……!?」
「冗談はやめてください」
と、ヴィーラは口に出したつもりだった。しかし現実は沈黙。グランの声が続く。
「カタリナさんと一緒にいるために、団に入ったことはわかってる。けれど、旅を続けて、僕のことを、大切な人って言ってくれて……欲張りになってしまった」
『私も、欲張りになったものですね』
ヴィーラは、いつかの自分の発言を思い出していた。グランは同じことを言っている。
「ヴィーラさんのことが、女性として大好きになっていた……ヴィーラさんの中で、僕が、特別な人になれたんだと思うと、気づいたら……」
「………」
ヴィーラは目を閉じる。心の中で、グランの言葉が反響していた。
(私にとって、グランさんは、特別な存在……グランさんにとって、私は……)
「あれっ……る、ルリア、危ないよっ」
グランを揺すっていたルリアがバランスを崩し、慌ててグランは立ち上がりルリアを支える。
「はわぁっ……」
カタリナもグランを手伝い、
「ルリアっ」
と、ルリアの手を取る。が、全員顔は紅潮し、ケーキの毒、もとい効果が全身に回り始めていた。
「カタリナさんっ」
ルリアとカタリナの足がもつれ、倒れそうになるのをグランがまとめて抱える。自然、グランの腕の中でカタリナとルリアが抱き合う格好になった。
グランがしっかりとルリア、カタリナの二人を支える。ルリアとカタリナはグランのたくましさを再認識し、グランの顔を熱っぽい視線で見つめる。
普段なら、グランはすぐに二人を手放しただろう。だが、
「きれいだ……」
乙女の顔をしたルリアとカタリナを見て、グランは呟く。その呟きにルリアとカタリナの胸が高鳴る。
「グラン……」
ルリアの手がグランの服を掴み、
「……グラン……」
カタリナの手がグランの腰へ回る。
グランの視界が、二人の顔で埋まっていく……。
「ま、待ってください!! 何をしてっ」
ヴィーラが叫びながら割って入ろうとすると、ふらついた足でつまずき、三人へ向かう。
「あっ」
「「ヴィーラっ」」
グランとカタリナは素早く反応し、ルリアを安全圏へ置き、二人でヴィーラを抱きとめる。
「大丈夫ですかっ」
ルリアが今度はヴィーラに抱き寄り、バランスを取る。
気づけば今、グランの目の前にはヴィーラ、右にカタリナ、左にルリア、互いに互いを抱いている状態。
自然、互いの顔も芳香も近かった。
グランの思考が、現実感を失くしていく。
(あれ、僕、なんで、みんなを抱いているんだっけ……)
可憐なるルリア、麗しのカタリナ、艶たるヴィーラ。
閉じられた部屋の中で聞こえる彼女たちの吐息、全身で感じる柔らかい感触、三者三様の花のような女性特有の香り。
(柔らかい……いい匂いがする……このまま……ずっとこうしていたいような……)
「あの……グラン、さん」
「え、あ」
ヴィーラの少し問いかけるような声に、カタリナとグランははっとした。自分たちはなぜまだ抱き合っているのか。ルリアはまだぼーっとしている。
(そうだ、みんなの体を離さないと、頭もなにか、ぼやんとしているし……)
グランはそう思うものの、体は動かない。離れたくない。カタリナも離れようと一瞬腕に力を込めたものの、それ以上動かない。
グラン、ルリア、カタリナ、ヴィーラ、この密着した状態から、離れたくない。そんな漠然とした思考が、グラン、ルリア、カタリナに芽生え始めている。
ヴィーラはというと、
「グランさんの、先程の言葉は、本気なのですか?」
「え……」
「私と、お姉さまと、ルリアちゃん。三人を女性として、愛していると……」
グランに躊躇いはない。思考はクリアだったが、正常には戻っていなかった。
「……うん。その、こういう言い方が正しいかはわからないけど、他の女性や仲間といるときと、今のこの三人でいる時は、どこか違ったんだ」
言葉を紡ぐことに、ルリア、カタリナ、ヴィーラの体重が、グランに寄りかかってくる。グランは背後にあるベッドを認識して、ゆっくりと三人の重みを受け入れていく。
「その違いはなんだろうと思ったとき、三人といる時は、うん、ドキドキして、安心して、誰にも渡したくなくて、ああ、これが、好きって気持ちなんだって」
「欲張りな方ですね」
「まったくだ」
「まったくですっ!」
「ご、ごめん」
密着したままの四人の体がベッドへ倒れ込む。
(あれ? なんで僕、押し倒されて……)
グランは徐々に襲い来る睡魔に戸惑っていた。正直な気持ちを吐露していて気づいたら、ルリア、カタリナ、ヴィーラが自分の体の上にいる。自分を見下ろしている。
三人の女性の顔は笑っておらず、少し不満げだったが、恐怖は感じない。されどグランには彼女たちの意図を感じ取れない。
口を尖らせたルリアは、
「じゃあ結局グランは、どうしたいんですかっ」
「え?」
「私とカタリナと、ヴィーラさん、三人だなんて、そんなの、えっと、ずるいです!」
「ルリア……そうだな。グラン、君の気持ちを聞かされた私たちは、極めて複雑だよ。なあ、ヴィーラ」
「ふふ……本当です。この無自覚人たらしを、どうしてくれましょうか……!」
もしかして自分は、自ら地雷をばらまいた土地の上でタップダンスしていたのか、そんなことをようやくグランは自覚し始める。
しかし半分まどろみの中にいるグランの口から出た言い訳は、言い訳のていをなしていなかった。
「ご、ごめんっ……でも、この四人で、特別な関係になって、ずっといっしょにいられたら……家族になれたらって……」
「「「……」」」
「そう思うと……ぼくは……みんなと……ずっと…………ぐぅ……」
襲い来る睡魔と、三人からの詰問からの現実逃避も相まって、グランの意識は暗闇に沈んでいく。
そしてその睡魔は、同じデザートを食した女性陣も同様だった。
「あれ……?」
ルリアがぱたりとグランの上に寝そべり、
「ん……あ……」
カタリナがグランの右腕をまくらに目をつむり、
(……味は美味しくても……これが、お姉さまの料理の、威力…………)
ヴィーラもまたグランの左腕を枕に、ルリアを抱きながらカタリナと手をつないで、意識を手放した。
「おはようございますグラン! もう朝ごはんできていますよっ」
「あら、寝坊ですよグランさん。お姉さまの前なのですから、しゃきっとしてくださいね」
「まあまあヴィーラ。昨日夜遅くまで頑張っていたんだ。多めに見てやろう」
(あれ……?)
今グランの目の前には、食パン、目玉焼き、サラダ、スープといった朝食が並べられ、ルリア、カタリナ、ヴィーラと同じテーブルについている。
「はい、グランっ」
「グランさん」
「グラン」
「「「あーん♪」」」
「……あーん」
三方向からの食物を口に入れ、笑顔で今度は「あーん」を返す。
みんなで食べ終え、食器を洗い、身支度を整え、依頼のため部屋を出ようとする。
すると、
「あら、忘れ物がありますよ、グランさん」
「あっそうですね……」
「!? あっああ、そうだったな……」
グランの前に来るヴィーラ、ルリア、カタリナ。はて、グランには心当たりがない。
「忘れ物って……?」
「愛する女性達との、日課がまだですよ」
「えへへ……」
「こ、こほん」
は? とグランが疑問を浮かべている間に、体は彼女たちにつかまれ自由がきかなくなる。
視界を埋めるは三人の瞳を閉じた顔。唇が気持ち突き出され、グランのもとへ迫ってくる。
「な、なっえっ!?」
「「「んー♡」」」
戸惑っている間に彼女達の顔が迫りすぎて、三人の唇が視界から消える。
(あっ!! こんなこと、彼女たちがするはずがないっ。これは)
夢だ。興奮と同じだけの罪悪感で、グランは自らを無理やり覚醒させる。
「はっ!?」
ちゅんちゅんと、小鳥の声が聞こえる。日差しが窓から差込み、暖かく心地よい空気を肌に感じる。
(はぁ……夢、だよね、そりゃあ……あれ? なんか体が、重……!?)
「むにゃ……もうたべられないれすぅ……」
「おねえさまぁ……すぅ……すぅ……ふふ……すぅ……」
「すぅ……すぅ……ん……」
グランが感じる重みは三人分。ルリアはグランの胸板に頬ずりし、カタリナはグランの耳たぶへ口づけながら穏やかな寝息を立て、ヴィーラはグランの頬を時に吸いながら深い眠りについている。
(な、なんでこんな状況!? てそうか、昨日、あのまま寝ちゃったのか……)
三人の乙女の無防備な寝姿、全身に感じる様々な柔らかさに、グランはごくりと息を呑む。
(だ、だめだ抜け出さないとっ。三人をできるだけ起こさないように……)
グランとて青少年、さらには好いている女性に対してこの状況、何も想わないわけない。だからこそ、
(……ばれないうちになんとかしないと)
自身のズボンを盛り上げる朝の生理現象を、彼女たちに知られるわけにはいかなかった。
カタリナ、ヴィーラにしていた腕枕をゆっくりと外し、ルリアを抱きかかえて自分が眠っていた場所に置き換える。
川の字に眠る彼女たちを見ていると、昨日の記憶がふつふつとグランに蘇ってくる。
『大好きな女性からそう言ってもらえると、うれしくて、どうにかなっちゃいそうだよ……』
(う、うわああああああああああ!?)
無言で頭を抱えるグラン。幸か不幸か、記憶はすべてばっちり残っていた。
彼女達三人、それぞれへ愛の告白。明らかに酩酊していたとはいえ、取り返しのつかない言葉。
(さ、最悪だ……なんてことだ……想い人へ……堂々と三又宣言なんて……)
あるいは先程の就寝状況は、自分の恋の行方を哀れに見た女神がもたらした、最後の晩餐だったのかもしれない。
そう思えるほど、グランの感情は絶望が支配している。
(終わった……僕の、初恋……。ちゃんと、一人を選んで、準備をして、最高のシチュエーションで、送るはずの言葉が……)
昨日の言葉に嘘はない。だが、許されないことであることをグランはちゃんと理解していた。答えもそのうち、ちゃんと出すはずだった。
だが、想像だけならば、ということも多少あった。三人全てを手中に、男の夢。想ってはいつも罪悪感で、首を振っていたけども。
とにかく、グランは大分テンションが終わっていた。眠り姫たちはそんな状況を知る由もない。
グランの思考は先に進む。
(みんな……怒ってるし、失望したろうな……特に、ごめんなさい、ヴィーラさん……せっかくの誕生日だったのに……)
グラン自身の悲しみは隅に置いて、今自分にできること、やるべきことはなんなのか。
(みんなが起きたら、真っ先に謝ろう。そうだ、昨日の食器もそのままだから、すぐ片付けて、せめて今できる最高の朝ご飯と紅茶をみんなに……よし)
自分のことは二の次、すぐに大切な人のために即時即決即実行。厨房を借り、手早く調理をして料理を載せたトレイを手に部屋へ向かう。
すると廊下で、
「あら、グランさん。おはようございます」
「ヴィーラさん! お、おはようございます……」
(ヴィーラさんは、いつもと変わらない感じだ……でも、怒っているかどうかは、見ただけじゃわからないよな……)
グランは少し言葉の歯切れが悪かったが、ヴィーラはいつもの笑顔で口調もいつも通り。それがグランにとってある種の恐怖ではあった。
ヴィーラはグランが手にする料理を見ると、
「あら、これは私達に朝食を?」
「う、うん。あ、もしルリアとカタリナさんが起きてないなら、起こさないで大丈夫です。冷めても美味しく食べられるものにしましたから」
「ふふ、そこまでお気遣いしていただき、ありがとうございます。もう起きていらっしゃいますので、みなさんでいただきましょう」
「う、うん……」
グランはヴィーラの笑顔から視線を外して下を向いた。
が、ヴィーラは下からグランの顔を覗き込むようにして、
「いきましょう」
と、優しく言った。その仕草に、グランはどきりとしてしまった。
(かわいい……はっ!? みんなで朝食、か……)
昨日の今日で気まずくなるのは目に見えている。グランはさしたる解決策を見いだせぬまま部屋につき、すでに普段着に着替えたルリア、カタリナと面会した。
「お、おはようございます……グラン……」
「おはよう、グラン……」
(ふたりとも、目を合わせてくれない……うう……。ヴィーラさんはいつも通りだったからもしかしたらって思ったけど、そりゃそうだよね……)
朝食のために四人でテーブルについても、ルリアとカタリナはもじもじとしてグランから視線を外している。ヴィーラは変わらずニコニコしている。
(言うなら、早く言わないと)
食事に手を付ける前に、グランは開口一番、皆へ頭を下げた。
「昨日は、ごめんなさい!!」
「え?」
「なっ?」
「…………」
「せっかくのヴィーラさんの誕生日会だったのに、僕が皆を、その、困らせることを言って、本当にごめんなさい。お詫びにできることがあったらなんでも……」
「……一つ、よろしいでしょうか?」
グランが顔を上げ、ヴィーラを見る。彼女の笑顔は消えていた。
「その謝罪は、昨日のグランさんの発言は取り消すということでよろしいでしょうか? 私達に、心にも無いことを言ったのですか?」
「え、いや、それは……」
「嘘、だったんですか……?」
悲しげな声はルリアからだった。カタリナはルリア、ヴィーラ、ついでグランを見て複雑そうな顔をしていた。
そんな現状で、グランは言葉の駆け引きができるほど大人ではない。
結局ぐるぐるとした思考の中でグランができたのは、正直に、誠実に言葉が伝わるようにするだけだった。
「……昨日、僕が言ったことは、僕の本心。だけど、許されないことだってわかってる。三人全員だなんて……伝える気はなかったんだ。皆を困らせて、不快にさせてしまうってわかってたから。だから、ちゃんと自分の気持ちに答えを出して、一人を選んで伝えるつもりだったんだ。でも、言ってしまった」
「……待ってくれ。昨日普通じゃなかったのは、君だけじゃなかったように思えるんだ。私も含めて……何か、外的な要因があったんじゃないだろうか」
カタリナの言葉に、ルリア、ヴィーラは昨日の自身の姿を思い出したのか、少し頬を高調させた。
そしてその原因に、ヴィーラだけは心当たりがあった。
(お姉さまのケーキ……味は美味しくできても、その異常性だけは、グランさんでも……)
グランは首を振った。
「だとしても、僕に、不純な気持ちがあったことに変わりはない。しかもヴィーラさんの祝いの席だったのに、台無しにしてしまって……絶対に、言っちゃだめなことだった。ルリア、カタリナさん、ヴィーラさん、ごめんなさい」
しばし沈黙した。
ヴィーラはふうと息を吐き、
「グランさんは、昨日ここにいる私達三名に好意を抱いていることを告白し、そのことで私達が不快な思いをした。だから、謝罪すると。そういうことですね」
「うん」
「それで、いつ私たちが不快な思いをした、とあなたに伝えたのでしょう?」
「……へ?」
きょとんとしてしまったグランに対し、カタリナが助け舟を出す。
「……私達が起きてから、昨日の事を話していてな。確かに君の昨日の発言にはびっくりしたが……結論としては、ルリアや私、そしてヴィーラは、君に対して特に不快な思いは抱いていないよ。驚きはしたがな」
ルリアはかわいらしく咳払いしたあと、
「わ、私はちょっと怒ってますよ! 私だけじゃなく、カタリナもヴィーラさんもだなんて、グランは欲張りです!」
「そ、そうだよね。ごめん……」
ヴィーラはからかうように微笑みながら、
「私も少し驚きました。これだけ魅力的な女性団員の方がいて、あなたへ露骨に好意を示す女性も少なくないというのに……ルリアちゃんとお姉さまはともかくとして、私の事までそのように想っていただけていたとは、想像にもしていませんでした」
「う、うん……」
「昨日グランさんが普通な状態でなかったことはわかりましたし、別に他人に対してどう想うかなど、それだけで罪になることはありえません。過度な謝罪こそ、人を不快な気持ちにさせてしまうこともありえますよ」
「そ、そう、だね……えっと、ルリアはその、ごめんね。欲張りで……」
「……はい、ちゃんと謝ってくれたので、大丈夫です。素敵な朝食作ってくれてありがとう、グランっ」
ルリアの花が開いたような笑顔で、グランの心も明るくなった。ヴィーラも安心と呆れが混じった息をつく。
これで万事解決となるはずだった。しかし、カタリナは一人考え込んでいる。
「……もしかしたら、あの果物を混ぜたせいか……? だとしたら、やはり……」
カタリナのつぶやきに三人の視線が一斉にカタリナへと向く。
カタリナはグランを正面から見据え、
「グラン、君が伝えるつもりのない本音を意図せず話してしまった原因は、私達が作ったケーキにあるのではないか?」
「お姉さまっそんなことは」
カタリナがヴィーラの前に手をやり制する。
「ヴィーラ……君のその慌てよう、気づいていたんだな。世の中には、食い合わせというものがある。食材と食材を合わせて美味しくなるものもあれば、健康上禁じ手とされるものがあると本で読んだことがある。ケーキの味をひたすらに追求していくなかで、酒に酔ってしまうような効果を発揮するケーキが、偶然生まれてしまった……。私達の昨日の行動を鑑みても、これが一番考えられる原因じゃないだろうか」
そこまでの予測ができてなぜ料理が壊滅的なのだろう、グランとヴィーラは頭に起こった疑問を慌ててかき消す。
「で、あるならば、君一人が責任を負う必要はない。ケーキ作りに関わった私にも当然原因の一端はあるということだ。その……」
カタリナが突如頬を赤くして言いよどむ。しかしカタリナは、グランが誠実に話してくれたことを思い出し、言葉を続ける。
「その……君のことを慕っていた私が、実は好きあっていたと知って、舞い上がって君を押し倒してしまった……。君は自身のことを加害者と思っているようだが、その実……」
「ちょちょちょちょちょっと待ってくださいお姉さまっ!!」
「ん!? どうしたヴィーラ、まだ結論が言えてないのだが……」
「い、いま、なんとおっしゃいましたか……!?」
カタリナはグランの罪悪感を軽減させようと言葉を急いでいたため、過程でとんでもないことを口走ったことを、本人だけが気づいていないようだった。
ルリアは顔を真っ赤にしながら、
「え、えええええ!? そんな、カタリナも、グランのこと……えええええ!?」
グランはカタリナの言葉を受け止めきれていない。脳が喜びでヒートしている。
カタリナは不思議そうに三人をみやり、
「今、私が何と言ったかなんて、もう一度言おうか。君のことを慕って……」
そこまで再確認して、カタリナはやっと、顔をゆでダコのようにしてわなわなと震えだした。
「ちちち、違う!? いや、違わないのだが、違う! そういう意味ではなく、ああっ……!!」
カタリナは額に手を当てて考え込んでしまった。
(そうか、彼は、グランはこういう気持ちだったのか……!!)
取り返しのつかない事態が起きている。
グランの脳のヒートが急に冷えていったのは、ヴィーラの方から得も知れぬ寒気を感じたからだった。
「ふふ、ふふふふ、そうですか、お姉さま、ふふふふふ……!」
(あれ? 僕やばくない?)
「この感情、どうしてくれましょうか……!」
「カタリナは、いつからグランのことが好きだったんですか!!」
思わぬ恋のライバル出現に、ルリアはテンパっている。
「い、いつからなんて……気づいたらとしか、言い様がないんだ。一緒にいる時が幸せで、他の女性と一緒にいる君を見ていると、いいようのない不安があった……だから、それが好きなの、だと……か、勘弁してくれルリア……」
ヴィーラはというと、ごちゃ混ぜの感情が怒涛のように押し寄せて乾いた微笑みを浮かべたままフリーズしている。グランも突然の告白に、どうすればいいかわからない。言葉が出ない。
「そ、そもそも好きでもなければ、い、いくら信頼している君でも、抱きあったり、一緒のベッドで寝るはずがないだろう!」
顔を真赤にしてやけくそ気味になってしまっているカタリナ、昨日のケーキの香りがまだ残っているのかもしれない。また、この言葉は、ルリアとヴィーラに対するとどめでもあった。
ルリア、ヴィーラの中で、カタリナの言葉が反響する。
((好きでもなければ、抱きあったり、一緒のベッドで……))
次いでルリアとヴィーラの中で思い出されるのは、昨日のグランの、それぞれへの愛の告白。
蒼き少女ルリアは、彼への思いを再認識する。
(グランにとって、私は……)
『明るくて優しくて一生懸命で、それなのにとんでもない美少女で、いつも僕の傍にいてくれる、大好きな女性……』
狂恋の忠騎ヴィーラは、結論を出すことに躊躇している。
(私にとって、グランさんは……)
『ヴィーラさんのことが、女性として大好きになっていた……ヴィーラさんの中で、僕が、特別な人になれたんだと思うと、気づいたら……』
「お、落ち着いてカタリナさん……」
グランは真っ赤な顔をしながらいさめる。嬉しさで表情筋がゆるんでしまうが、これ以上カタリナに墓穴を掘らせ続けるのはあまりに不憫だった。
そんな中、ルリアは決断していた。
(グランは、一人を選ぶって、そう言ってました。だったら……)
「私、グランが好きです」
『この四人で、特別な関係になって、ずっといっしょにいられたら……家族になれたらって……』
ヴィーラの頭の中で、昨日のグランの声が反響している。
(あれが、今のグランさんの本音……)
ヴィーラの周囲には魔物たちの屍が転がっている。ヴィーラが物思いに耽っているのは、魔物討伐の依頼を終えてクールダウンしているときだった。
剣を納め、脳裏に浮かぶはカタリナ、ルリア、グラン。
グランがこの四人の間にもたらした波紋は、あまりにも大きい影響を与えている。
(ルリアちゃん、そしてよりによってお姉さまが、グランさんのことを……)
ヴィーラの一途な想いは変わらない。
同時に、ルリアとグランのためならば躊躇いなく命をかけられる。それが恋心からと言われたら、否定の言葉がまず浮かぶ。それは当たり前のことだった。
『ヴィーラさんは、気づいたら魅了されてた……』
(違う、私は喜んでなどいない。私の気持ちはあくまで、お姉さまを……)
言葉ではそう想っても、浮かぶ光景は昨日、グランを中心にカタリナ、ルリア、自身と抱きしめられ、ベッドに横たわり、体をかけめぐった安心と興奮。
(彼だって、私がお姉さまを愛していることは十分理解している。だからこそ、あの奇跡の産物ともいえるお姉さまの美味しいケーキを、私に……だから、私は彼のことなんか……いえ、大事にはもちろん想っています。ですがそれは、決して恋などでは……)
ヴィーラの想像は、言葉とはいつまでも裏腹だった。アウギュステの夜、なぜ彼にあんなことを語ったのか。シュヴァリエとの融合問題で自身が倒れたとき、目覚めとともに感じた彼の手の温もりに、自分は何を想ったのか。クリスマス等様々な祝の席で、カタリナを楽しませるために、なぜいつも彼を誘い独占したのか。
バレンタイン、レストランにて、カタリナが来ると思っていたのに彼が現れたときの、自身の感情。思い出すだけで心があたたまる、二人だけのひととき。
(戦友以上の絆……その名前を、彼は、出していたのですね……)
そのことについて、ヴィーラがとやかく言う権利はない。恋とはどうしようもないものだと、ヴィーラ自身が身にしみてわかっている。
いま現実のヴィーラの視界には、同じ依頼を終えたグラン、ルリア、カタリナが集まっている。普段どおりに見えるが、明らかに三人は顔を見合わせると、恥ずかしそうな、けれど幸せそうな顔をしていた。
(今日の朝食で、ルリアちゃんとお姉さまは、グランさんから好意の返答を求めませんでした。ただ、明らかに、この騎空団の中で、あの三人だけが、変化している。三人の関係性だけが、誰も踏み込めないような領域に……)
疎外感を感じるのはなぜだろう。カタリナを奪われてしまったから、というのももちろんある。だからといって、グランに敵意を感じるかといえば、それはない。
グランが、心から信頼できる、通じ合える人だと知っているから。
そんなグランから女性としての好意をもたれて、心に起こった感情を、ヴィーラは否定できていない。
そうだ、ヴィーラだって、あの輪の中に入る権利はあるはずだ。この美女美少女が揃う騎空団の中で、彼にとって唯三人だけの存在、そのうちの一人は、私。
(……なんて、私は、どうなりたいのでしょうね……)
彼のことが好きだと断言したならば、この気持は晴れるのだろうか。
(いえ、彼がルリアちゃんと結ばれ、お姉さまと私が結ばれれば、万事解決……)
カタリナの想いが、グランに向いているというのに。
グランにふられる未来のカタリナを想うと、得も知れぬ悲しみが起こる。
成就しない恋の苦しみなど、感じないほうがいいに決まっている。
グランとルリアが結ばれた状況を想像して、なぜヴィーラに変な感情が起こるのか。お似合いではないか。納得する人間も多いだろう。
(そう、グランさんが、お姉さまと私への恋心を断ち切るように、そう誘導して……)
ヴィーラが求める、一番の幸せの最短距離。
(誘、導……して……)
ならなぜ、心が締め付けられるのか。彼の笑顔が頭に浮かぶのか、ヴィーラには、わからない。
今朝、ヴィーラが半覚醒状態で覚えている感覚は、ヴィーラにとってどれほどの価値があったのか。
グランの胸の中で、ルリアとカタリナを抱き、いつまでも嗅いでいたい芳香と、ほどよく硬い男の体と、柔らかい女の体。
ヴィーラの命よりも大事な人達の中で、今まで感じたことのない安らぎの空間。
『四人で、特別な関係になって』
『欲張りになったものですね』
ヴィーラは沈黙したまま、ルリア、カタリナ、グランへと歩み寄る。
グランたちもまた、ヴィーラが魔物討伐を終えて平穏無事であることを認め、一緒に街へ帰ろうと促している。
ヴィーラは努めていつもの笑顔を作り、いつも通り腕を組んで左手を自身の頬に当てながら、からかうように提案した。
「お姉さま、ルリアちゃん、グランさん」
グランへ半ば抱きつくようにしていたルリアと、グランと手をつなごうかつなぐまいか逡巡していたカタリナ、そしてグランの視線が、ヴィーラへ一斉に注がれる。
「昨日のグランさんのこのお言葉、覚えていらっしゃいますか? 『この四人で特別な関係になって、一緒にいられたら』という、グランさんの望みです」
表情がぴしりと固まるグラン。ルリア、カタリナは少し神妙な面持ちになってヴィーラの声へ耳を傾けている。
「私、このご提案、そこまで悪くないように思います」
目を見開くグラン。
「えっ!?」
カタリナは声に出して驚き、
「!?…………」
ルリアは一瞬驚いたあと、あとは考えこむようにして下を向き、グラン、カタリナ、そしてヴィーラを見た。
そんなルリアを見て、ヴィーラは手応えを感じながら続ける。
「グランさんが私達と特別な関係を築きたいというのならば、私としてもルリアちゃん、お姉さまならば、やぶさかではありません。なにも最初から恋人としてでは」
「そうですよっ!!」
ルリアの巨声に、ヴィーラの提案は半ばで遮られた。
「え?」
きょとんとするヴィーラ。あくまでヴィーラとしては、まずは四人で家族のような関係になってみようという、自身とグラン達の欲望の助走的折衷案を出すつもりだったのだが、
「私、カタリナと、ヴィーラさんなら、グランと全員恋人でも……大丈夫です!」
「「「!?!?!?」」」
ルリアの爆弾発言に、今度はヴィーラが固まる番だった。
ルリアはカタリナの手を取り、
「昨日、カタリナとヴィーラさんと抱きあって、グランの腕に抱かれて、ずっとこのままでいられたらなあって、想ってて……もし、グランが一人を選んで、私が選ばれなかったらいやですし、カタリナか、ヴィーラさんが選ばれなくて、悲しむのも、もし避けられるなら……」
「ちょ、ちょっと、ま、待ってくださいルリアちゃん、何も私は」
「そうだな、ルリア……」
「お姉さま!?」
「私も昨日、グランの気持ちを聞いたとき、想い合っていたと舞い上がっていたが、今朝グランから続きの想いを聞いて、私はいずれ選ばれなくなるのだろうと、半ば、あきらめていた。私は色恋には疎いし、恋について積極的に行動するというのも、慣れていない。きっとルリアか、ヴィーラへグランの想いが向くのだろうと……だが、ヴィーラとグランの提案通り、四人で特別な関係になれるのならば……私は、ぜひ、受け入れたいと思う」
「……」
口をパクパクとさせるヴィーラ。ルリアとカタリナはすっかり恋の乙女の表情になり、二人で見つめ合ったあと、グランの手をそれぞれ取って、二人一斉にグランを見つめる。
「グラン……私、みんなでグランと特別な関係になりたいです」
「君さえよければ、受け入れてもらえるだろうか……?」
(恋は盲目とはおっしゃいますが、お二人がここまでとは……!!)
自分のことは棚に上げて驚愕するヴィーラ。
(しかも……!)
驚いていたグランだが、すぐにルリアとカタリナの想いを噛み締め、頬を赤く染めて笑みを浮かべる。グランが拒む理由など、どこにもない。
グランはルリア、カタリナと見つめて、
「ルリア、カタリナさん、ヴィーラさん……」
当然の肯定を告げようとしたグランだったが、ヴィーラの表情を見て、止まった。
(あれ……ヴィーラさん?)
完全に想いが通じ合っているルリア、カタリナとは明らかに違う、ヴィーラの戸惑いの表情。その意図するところを推測するため、グランの脳がフル回転する。
(も、もしかして……ヴィーラさんは違うことを提案しようとしていたんじゃ……!? ルリアがヴィーラさんの言葉を途中で遮って言い出した気が……!?)
瞬間、世界が分断されていた。グランとルリアとカタリナを一つの円として、ヴィーラとの間に境界線がある。
グランは、その円へヴィーラを引き込みたい。だが、無理強いは絶対にできない。ヴィーラの純粋な想いを知っていたからこそ、グランは彼女を好きになったのだから。
ヴィーラは、動けない。自分の中で答えが出ているなら、とうに発している。
(わた、くしは……)
「愛しています、グラン」
グラン、カタリナ、ヴィーラの呼吸を一瞬止めたのは、ルリアの告白だった。
ルリアは太陽すら恥じらうような輝く笑顔で、言葉をつづける。対象はカタリナ。
「愛しています、カタリナ……えへへ」
「る、ルリア!? 君は……」
「だって、四人で特別な関係ってこういうことだと思うんです。ヴィーラさん」
「!? は、はい……」
ルリアは片手でグランの手を握りながら、もう片方の手をヴィーラへ差し伸ばす。
「ヴィーラさんのこと、大好きです! 愛してますっ!」
「……!!」
ルリアからヴィーラへの告白。ヴィーラが人生で、体験したことのない胸の高鳴りだった。カタリナと出会ったときとは別種の、もっと清廉な天啓。
カタリナがルリアの姿を見て、表情を引き締め、覚悟を決めた表情になる。
(お姉さま……。もし、これから、私の想像する通りのことが起きたら……)
ヴィーラは、ルリアの手を取る。
「グラン、カタリナ・アリゼは、君のことを……愛している」
すっと心に入ってくるような、凛とした安心感のあるカタリナの告白を、グランは受け止めた。
「ルリア、私は騎士として、家族として、君のことをこれからずっと守っていこう。愛しているよ」
「はい、私も大好きです!!」
(ああ、だめです、お姉さま。その言葉をそのまま、続けてしまったら)
ルリアの片手を取ったままのヴィーラを、グランの片手を取ったままのカタリナが見つめる。
「ヴィーラ……」
「は、はいっ!」
思わず背筋を伸ばすヴィーラに対し、カタリナは手を差し伸べる。
「もう、私に迷いはない。永遠に君のそばにいよう。愛している、ヴィーラ」
「はっ……!! ぁあっ……ぁぁ……あっあぁぁ……!!」
円の中へと、カタリナが誘っている。
ヴィーラの体を駆け巡る、天へ登るかのような喜びと興奮は、ヴィーラの頭を沸騰させて全ての論理を崩壊させる。
何も考える必要はない。幸せが目の前にある。
「はい……私も、愛しています……お姉さま……!」
ヴィーラはカタリナの手をとった。
そのままルリアとカタリナに引き込まれるようにして前へ進み、ヴィーラの左右にルリアとカタリナ、正面にはグランがいる。
(もう、答えは出ました)
「ルリアちゃん、愛しています。これからよろしくお願いしますね」
「はい、ヴィーラさん!」
そしてグランとヴィーラは見つめ合う。ヴィーラが微笑むと、グランもつられ微笑んだ。
(まったく、あなたの誕生日プレゼントは……とんでもないものでした)
「グランさん」
「……はい」
「ヴィーラ・リーリエは……あなたを、愛しています」
「……ありがとう」
四人の体の距離が、徐々にゼロになっていく。
グランもまた、改めて宣言する。こんどは宣誓のために。
「ルリア、愛している」
「……! はいっ」
「カタリナさん、愛してます」
「ああ」
「……ヴィーラさん、愛しています」
「……ええ」
グランはルリア、カタリナ、ヴィーラの顔を見回し、改めて宣誓した。
「……僕は、三人を必ず、幸せにします」
「「「……はい」」」
しばし、四人で微笑みを交わした。
戦闘後のため、グラン、カタリナ、ヴィーラには鎧他貴金属がついている。そのため四人は軽く抱き合うのにとどめ、首を傾けて頬をつけあったりしながら互いの温度を確かめている。
するとルリアが離れ際、
「あの……船に戻ったら、グランの部屋で、これの続き、いいですか……?」
ルリアは嬉し恥ずかしそうな表情で三人を見上げる。
三人は了承した。また、昨日の温もりの続きが体感できるなど、誰も夢にも思っていなかった。
夜の帳が下り、船窓から暗い雲が右から左へ流れていく。
グランの部屋はランプが一つ。
淡い光に照らされた中、グランの左にはルリアがいる。
「グラン……」
ルリアがグランの背に片腕を這わして密着。グランの右にはカタリナが、
「強かったら、言ってくれ……」
欲望と羞恥を帯びた表情で、グランの背に片腕を這わす。
左右にルリアとカタリナ、正面にはヴィーラ。
「では、失礼しますね」
ヴィーラがルリアとカタリナの背に手を這わす。
昨日と同じ、四人が密着して抱き合った体勢。お互いの心音が胸を伝って聞こえてくる。
昨日と違うのは、全員の想いが確実に通じ合っていること、そして全員、幾分理性があることだった。
((((思ったより、恥ずかしいっ))))
告白合戦で半ばトリップ状態だった魔物討伐依頼後とはうってかわって、船に戻り、日常生活に戻って考える時間があった。
もちろん、ルリアからの提案を了承した手前、抱き合うことに全員抵抗はない。むしろ、安らぎと興奮をシラフで再認識していた。
そしてルリアに芽生えたもう一つの想いがある。
(やっぱり、船に帰った途端、グランの周りにはいっぱい綺麗な人が……カタリナとヴィーラさんは私も大好きだし、ちゃんとグランと好きあっているからいいけど、でも、これ以上他の人にグランは……!)
もてる男を好きになった少女の焦り。やっと想い人を手にしたのだから、今度は手からこぼれ落ちないようにしなければならない。次手を打つなら早ければ早い方がいい。
対してグラン、昨日の再現をするならば、このまま四人抱き合ってベッドインするところ。
(さ、さすがにそれは、ない……よね?)
女性経験はなかったが、さすがに付き合って即日ベッドインは……あるのだろうか? そんなことをすれば不潔と言われるのでは? いやでも逆に男ならどんどんリードするべきでは? 堂々巡りの思考が答えを出してくれない。
カタリナはというと、
(こんなことになるとは……でもやはりこう抱き合うと、ドキドキとすると共に、とても安らぐ……)
悩むことなく、顔をほころばせてすっかり現状に浸っていた。
そしてヴィーラは全員の表情を見ながら考えている事を推測し、
(ふふ、グランさん、悩んでいる間に、ルリアちゃんにリードされちゃいますよ)
ヴィーラ自身、心と身体に感じる幸せに、あの時円の中に入って本当に良かったと、喜びを噛み締めている。今はもう、年下のルリアとグランの動向を観察する余裕すらあった。
(あら、ルリアちゃん……)
ヴィーラは、ルリアの瞳に宿った決意を見逃さなかった。カタリナの肩に首を傾けて顔を乗せ、ルリアの動向を見守る。
「グラン、ほんのちょっとだけ、かがんでもらっていいですか?」
「うん」
グランが気持ち膝をおる。すると、ルリアは体を伸ばし、
「ちゅっ」
「!?」
「なっ」
「まあ」
ルリアはグランと唇をくっつけた。触れるだけのキスを数秒、すぐにルリアは姿勢を戻し、
「え、えへへ……いいですよね、恋人、ですから……」
はにかんだように微笑むルリア、もじもじとグランを見上げている。グランも顔を真赤にしながら、
「う、うん……恋人、だもん、ね……!」
と、了承した。
つられて顔を真赤にしているカタリナ。恋人になったとはいえ、即日キスのシチュエーションなど、カタリナは考えたこともなかった。
「な、なんという……!」
ヴィーラはというと、
(あら、この流れは……)
「では、グランさん、私達にもお願いできますか?」
「あっはっはいっ」
まさかヴィーラから提案されるとは、グランは声が上ずっている。
「わわ、わたしも、だな……!」
カタリナは期待と躊躇が半々といった、緊張した様相。
「あら、お姉さま。そんなに固くなってはいけませんよ、少し、練習いたしましょうか?」
「え、あ、ま、待ってくれヴィーラ!」
ヴィーラの唇がカタリナの唇にふれる寸前で止まる。カタリナは顔を引かず、キスを拒否するわけではなさそうに見えた。
カタリナは言葉を紡ぐ。
「練習……ではなく、本気で、キスをさせてくれ、ヴィーラ……」
「お姉さま……! ……チュ……」
ヴィーラとカタリナの口づけは、まるで絵画のワンシーンのように絵になった。ルリアとグランは二人に見とれて呼吸を忘れてしまう。
数秒のキスが終わる。ヴィーラとカタリナはそのまま、濡れた唇のまま流し目でグランを見る。
ごくりと唾を飲むグラン。半ば状況に流されるようにして現在の形に落ち着いたが、キスぐらいは自分からリードしたい。そうすべきだ、彼女たちもそう望んでいるのではないか。あとでルリアにこちらからキスしよう、とグランの男性的プライドが芽吹く。
グランがヴィーラと視線を合わせると、ヴィーラはこくりと頷いた後、カタリナへ視線を移す。グランはカタリナへ顔を近づけていく。
「グラン……ん……チュ……」
グランとカタリナはゆっくりと目を閉じて、互いの唇の感触を確かめあった。ちゅっと音を立てて離れ、薄く目を開けて見つめ合う。それだけで、互いが幸せで満たされていることがわかる。
カタリナは微笑んで視線をヴィーラへ。
グランから見たヴィーラは、カタリナとのキスとの幸福で、メロメロになっているように見えた。だが、グランが愛情と決意をもって見つめると、ヴィーラの表情に余裕と包容力の笑顔が灯る。
(あなたのキスで、どうか幸せにしてくださいね?)
そういう挑戦とも取れた。グランは全力で応える。
「ん……チュ……ん……」
ヴィーラの瞳が閉じられ、初めて男性に唇を許した。
触れるだけのキス。少し硬い。ゆっくりと離れると、ヴィーラは静かに、しかししっかりとした声色で、
「あなたが私にとって、最初で最後の、そして唯一の、愛する男性ですね……」
深く周囲の心に沈み込ませるように、宣言した。
そんなヴィーラに魅せられたのは、グランだけではなかった。カタリナ、そしてルリアは欲望を抑えきれず、
「あ、あの、ヴィーラさん、私にも……」
「あら……はい、ルリアちゃん……チュ」
今度はヴィーラとルリアの唇がつながる。
グランからして、その光景はあまりに美しく淫靡にすら見えた。欲望のたがを外して、めちゃくちゃにキスしたい衝動をかろうじて抑える。
だがしかし当のルリアとヴィーラは唇をつけながら、
「んちゅ……カタリナぁ、カタリナも……」
「お姉さまも、ぜひ、こちらに……んちゅ……」
「わ、わたしもか……!?」
顔を真赤にしているカタリナ。この中で一番理性の度合いが高いであろう彼女が堕ちれば、この場はどこまでいってしまうのか。グランは想像がつかない。ヴィーラはむしろ、狙っていたのかもしれない。
カタリナは不安げにグランを見たが、グランは黙って頷いた。カタリナさえよければ、こちらを気にせず愛情表現を。グランの頷きを、カタリナはそう受け取った。
ルリアとヴィーラの口と口の間に、横一人分入れる隙間が生まれる。カタリナは目をつぶって唇を尖らせ、
「んちゅ……んんんっ!?」
「んちゅ、ちゅうう♡」
「ちゅぱっちゅうう♡」
カタリナの唇が、ルリアとヴィーラの唇によって、もみくちゃにされた。部屋着となっている三人のお腹、胸部をすりつけあい、体をよじらせては唇の当たる角度を変え、三人の女性がトライアングルキスに狂う。
荒れ狂う唇の波に戸惑うカタリナが、「んぷはぁ」と、口を開けたとき、ふいにカタリナの舌先が、ルリアとヴィーラに触れた。
「あんっお姉さま、舌を出していただけるなんて……♡ ちゅるれろっ♡」
「はわっ!? ヴィーラさん、舌がっ、あっ♡ 気持ちいいれすぅ……♡ れろちゅぱ♡」
「ま、待ってくれ二人ともっ。ふあっ♡ あふっんん♡ ちゅぷ♡」
激しい水音を立てだした舌と唇、体を擦り付け合う中で、ヴィーラとカタリナの双丘が押し付けあいながらむにゅむにゅと形を変え、もじもじと太ももをこすらせるルリアの股下から、透明の液体のしずくが漏れて床に染みを作る。
「あっあっ……!」
グランはといえば、突如眼の前で始まったキスの狂乱から目を離せない。嫉妬や混ざりたいとかそういう感情が起きる以前に、初めて生のエロティックな光景を目にした興奮が、脳を支配している。
では、ルリア、カタリナ、ヴィーラはどうか。
そもそもの発端を考えれば、彼女たちの膨らみ始めた欲望の行き先は、
「「「ちゅる……♡」」」
三人の唇と舌が一斉に離れ、トライアングルを形成した唾液の橋が、逆放物線を描きながらゆっくりと落ちていく。
じっとりと粘度を帯びた三人の視線が一斉にグランへ向く。濡れた唇で微笑みを作り、
「グランとも、ちゅーしたいです……♡」
「君をもっと、感じさせてくれるか……♡」
「さあ、お覚悟はよろしいですか……♡」
左からルリア、右からカタリナ、正面からはヴィーラが、薄く口を開け、舌先を見せながら、唇を突き出してグランへ迫ってくる。
恋というにはあまりに情欲にまみれた彼女たちの姿、グランはもう、何も考えることができなかった。
本能が告げている。彼女たちと、キスをしたい。唇と舌を交わらせて、ぐちゃぐちゃのぐちょぐちょのぐちゅぐちゅになりたい。
「みんな……んんっ」
グランがルリア、カタリナ、ヴィーラを抱き寄せ、そして一気に、
「「「んむちゅううううう♡」」」
(う、うわっ)
「はむっちゅる、れろっグラン、好きれす♡ らいすきれすぅ♡ ちゅうう♡」
「んむっ、ちゅるる、あんっ、好きだっ♡ ずっと君と、こうしたかった♡ ちゅるるる♡」
「んあっ、ちゅぷれろちゅぱ、あなたのせいですよグランさん♡ あなたが私達を♡ 狂わせる♡ れろっちゅうう♡」
グランが口を開き突っ込んだ瞬間、ルリアがちゅぶちゅぶと唇と舌でグランを吸引しては絡みつき、カタリナがむちゅむちゅと唇を押し付けては舌で舐め回し、ヴィーラはグランの舌先は唇でくわえ、内部でれろれろと舌先で擦れ合いながら、唾液を交わらせて泡を作る。
四人で対等にキスをするのとは違う、明らかにグラン一人に照準を合わせた彼女たちのキスの乱舞に、グランはたまらず抱きしめる力を強くする。
(これ、だめだ……!!)
グランはもう、戻れない位置にいることを認識した。気持ちいい、気持ち良すぎる。
ルリア、カタリナ、ヴィーラを抱く感触も、彼女たちの香りも、唾液が乱れ飛ぶぬるぬるぐちょぐちょの唇と舌のキスも、何もかもが気持ち良すぎる。
世のほとんどの男性が人生で経験することのない感触に、グランは一瞬で溺れ狂った。
ルリアは一生懸命唇と舌を絡めつかせて、
「グランっ好きっちゅる♡ 好きぃい♡ ちゅるるちゅぱ♡」
カタリナは緊張しながらも唇と舌を押し付けてはぬるぬるとこすり合わせ、
「あっだめだっ♡ 君とこうするのが、癖になってしまう……♡ ちゅるるれろっ♡」
ヴィーラはまるでグラン全てを包むかのように、喘ぎ悶えるグランをからかうように淫らにキスを支配する。
「あふっ♡ らめれすよっグランさん♡ もっと体を、舌を、唇を押し付けていただかないと……♡ ちゅるる♡ れろちゅぱっ♡ ちゅううぅ♡」
唾液が飛ぶたび、喘ぎ声が漏れるたびに、ルリア、カタリナ、ヴィーラの股下から、だらだらと涎のように液体が漏れ始める。グランもまた、ズボンを突き破るほどに盛り上がった怒張が、彼女たちの下腹によってクニュクニュと刺激され、暴発寸前だった。
彼女たちのキスに溺れるグランからしてみても、男として当然の欲望が湧き上がる。
(……セックスしたい……! ルリアと、カタリナさんと、ヴィーラさんと! このまま!!)
ここはグランの部屋、ベッドは少し大きめ、四人でも体を密着させればおそらく大丈夫。
グランはキスの切れ間から、なんとか言葉を紡いでいく。
「ぷはっ……! んんっもっと、ん、もっと愛し合いたい……みんなとっ」
「ちゅるっグラン……?」
ルリアがキスを舌先でつながるだけに止めると、カタリナも唇をつけるだけのキスへと変わる。
カタリナは、グランの望みにいち早く気づいた。
「そ、それは……! いや、ここまでしといて、あれだがっ……」
カタリナの一握りの理性。自分とヴィーラならともかく、ルリアにはまだ、早すぎるのではないか。
ヴィーラはグランの舌の湿り気をチュルルと吸った後、
「ふふ、ではお姉さま、ルリアちゃんは私達がリードしてあげましょう」
「い、いや、私も初めてで……」
「あらこれは僥倖ですわお姉さま! お姉さまと同じ日に、同じ愛する男性から、処女を散らすことができるなんて……♡」
「しょ、処女って……そっか……セックス、ですね。グラン……」
「ルリア……」
グランからすれば、ルリアにその知識があるのは意外だった。本で知ったのだろうか。
ルリアの表情に、迷いはなかった。
「私も……あなたと一つになりたいです。あっ、なってますけど、その、愛する人として……えへへ……♡」
「……うん、僕も……」
興奮と温もりが同居する心情。カタリナも、ルリアにならった。
「あまり、積極的には、できないかもしれない……だが、君を想う気持ちは本物だ。私とも、一つになってくれるか……?」
「もちろんです、カタリナさん」
ヴィーラは興奮で上気しつつも、自身の頬に手を当てて挑発的に微笑む姿は、いつも通りさまになっていた。
「ルリアちゃんにお姉さま、そして私の処女を差し上げるのですから、途中で力尽きないでくださいね、グランさん♡」
「うん……絶対大丈夫です」
「それでは……」
しゅるりと、ヴィーラの外衣のリボンが解かれ、カタリナが下着をさらし、ルリアがいつもの白いワンピースを脱ぎ去る。
グランは彼女たちの一挙手一投足を目に焼き付けながら、意を決して自身の衣を下半身含めてすべて取り去った。
「あっ……♡」
「う……♡」
「まあ……♡」
グラン自身自覚はないものの、彼もまたある種完成された肉体をしていた。引き締まった体と戦闘実用性のみを追求された無駄のない筋肉。
そして、天を貫かんとするほどに勃起した男根。
グランが彼女たちを見ると、ヴィーラがルリアとカタリナを両手に花の状態で、ベッドへ仰向けになるように導いている。
全員裸になった。
「私からで、いいのですね。お姉さま、ルリアちゃん」
「はい、ヴィーラさんからの提案がなかったら、こんな関係になれませんでしたから」
「……無理はしないようにな。グランも、よろしく頼む……」
「ではその前に……」
ヴィーラの淫蕩な視線は、ルリアとカタリナにも向いている。
(ああ……グランさんだけでなく、ルリアちゃんとお姉さまとも、こうして肌と肌を……!)
「はわっ!?」
「ヴィ、ヴィーラ!?」
「ふふ……」
ヴィーラの手が、裸体のルリアとカタリナの上を泳ぎ回る。
ルリアとカタリナはあれだけ女同士キスしてきたものの、自身の体を愛撫された経験などない。
「ふっああぁっ!? ヴィーラさんっんあぁあ♡」
ルリアのもっとも深い場所にヴィーラの指が滑り込み、カタリナもまた、
「くっあぁああ!? ヴィ、ヴィーラ、なんで君は、こんなっうまっあっ♡」
「ふふふふふふ、長年イメージトレーニングを積み重ねてきましたので……!」
ルリアとカタリナの体が、未知の快感で下の口から涎を垂らし始める。
自然、三人の体が湿り気を帯びて密着し始め、唇を求めて顔が近づいていく。
「お姉さま……ルリアちゃん」
「ヴィーラさん……カタリナぁ」
「ルリア……ヴィーラ……」
「「「ちゅううぅ……♡」」」
グランからすれば、まるで、百合の花園に土足で踏み込んだかのような背徳感。
目下、カタリナ、ヴィーラ、ルリアの順で川の字に横たわる美女三人の裸体。
上気した吐息、むせる雌の匂いの中で、三人が隆起した乳首と乳首をすり合わせながら、身を寄せ合って唇を重ね合っている。
普段、グランが就寝しているこのベッドの上で。
「お姉さまぁ……あむ、ちゅうぅ♡」
ヴィーラがカタリナの舌を吸い寄せれば、
「んちゅ、ヴィーラんちゅっ♡ ルリアもほらっ……♡ んちゅうぅ♡」
カタリナがヴィーラを巻き込みながらルリアを抱き寄せ、
「ちゅ、ヴィーラさんもっカタリナもっ、らいすきれすぅ……♡ ちゅうぅぅ♡」
ルリアは音を立ててヴィーラとカタリナの唇に吸い付いていく。
太ももと乳房と唇を重ね合わせた女三人の睦み合いが、目の前でいつまでも続いていく。
常軌を逸した淫らな光景、ドクドクとむき出しのペニスから我慢汁が出ると共に、
(僕は、ここにいていいのだろうか?)
と今更すぎる寒い思考がグランに突き刺さる。
蒼く輝く髪に、白い素肌をさらす美少女ルリア、ブロンドヘアーに引き締まっていながらグラマラスな裸体をさらすカタリナ、いつもの美しくも鋭い三日月型の微笑みを崩し、キスの快楽に唇を喘がせるヴィーラ。
その三人が、男、グランのすぐそばでクチュクチュと音を立てて睦み合っている。
グランがつかむはヴィーラの太もも。全員の合意のもと、グランの初めてはヴィーラ。
両手でヴィーラの股をカパリと開かせ、少し腰を押し進めればペニスがヴァギナへ即挿入。
そんな状態であるはずなのに、目の前に繰り広げられるのは、咲き乱れる百合の三華にして讚歌。
本当に今更な足がすくむような場違い感、しかしいつまでも見ていたい下卑た性の興奮。
そして、
(僕も、混ざりたいっ)
あらゆる方面から極刑を言い渡されているような寒気の中、グランはふらふらと酔っ払ったようにヴィーラへ徐々に体を倒していく。
「んちゅぅ……あらっ、ふふ」
ヴィーラはルリア、カタリナと絡めていた舌を離し、てらてらと濡れた唇でグランへ微笑むと、
「焦らしていたつもりではありませんよ。グランさんがいたから、私たちは結ばれたのですから」
「えっ?」
グランがほうけた声をしている間に、ルリア、カタリナ、ヴィーラ、六つの手のひらが、グランの頬を包み込む。
ルリアの美声から始まる。
「あなたと、早くこう、したいです……♡ その、恥ずかしい、ですけど、えへへ……♡」
カタリナは、グランを見ると少し緊張した面持ち。
「……君とこうなることを望んだのは、私達自身だ。君も、そうだろう……♡」
ヴィーラは目を細めてカタリナを見ていたが、一度目を閉じ、再度正面からグランへ微笑んだ。
「さあ、来てください。グランさんは私達の……愛する人なですから♡」
ヴィーラの腰が少し下がると「ちゅっ」と膣口がグランの鈴口へ口づける。
グランの首に回された女三人の腕に力が入り、グランを女体のベッドへ導いていく。
ふにょん。
「う、あっ……!」
(な、なんて柔らかさ……!)
グランが正面から感じるのはヴィーラのたわわな乳房と暖かい彼女の全身、右半身はカタリナが抱きついて腕を双丘で挟み、左半身はルリアが全身で抱きついて胸・膣・太ももを擦り付けてくる。
服越しではない、甘い匂い、体を包む柔らかさ、極楽過ぎて動けない。さらに、
「グランさん……お慕いしています……ん……ちゅうう……♡」
「私も……愛している……ちゅぅ……♡」
「グラン……大好きです……ちゅううぅぅ……♡」
視界が目を閉じたヴィーラで埋め尽くされ、唇に柔らかい感触。口づけが少し浅めだったのは、カタリナとルリアが割り込む隙間を作るためだった。
(三人の唇がっ、またっ、うあっあっ)
口づける度に深く入り混んでいくヴィーラの唇、
「ちゅ、ちゅっ、ちゅううう♡」
恥ずかしげに、しかし確実に触れる頻度が増えていくカタリナの唇、
「ちゅ……♡ ちゅうぅ…♡」
好き、好き、と声にならない声が聞こえてくるような、ついばむようなルリアの唇、
「ちゅっちゅっ♡ ちゅううっちゅううっ♡」
三者三様の柔らかさと甘い味に支配され、グランは夢中になってまたキスに溺れていく。
そしてバキバキに硬度を増したペニス、亀頭はくちゅくちゅとヴィーラのヴァギナの入り口を撫でまわしている。
(入れたいっ入れたいっ入れたいっ!!)
入れればすぐに密着正常位、極限まで高まった性欲は暴走状態、初めてを経験する青少年ならば誰もが陥るような猿並みの思考状態。
そんなことを見透かされたのか、ヴィーラは微笑みをこぼしながらキスを中断すると、
「もうちょっと、下ですよ」
「あ、うんっ」
グランは言われるまま腰をずらし、はっきりとした入り口のフィット感に息を呑んだ。カタリナとルリアも釣られて息を呑んだ。
ずぷっ……ずんっ!
「いっ!? っつぅ……!」
「! ヴィーラさん……!」
あのヴィーラが、痛みに表情を歪ませている。女性の初めては痛いと知識にはあったが、戦いの中ですらほとんど出さない表情を、ヴィーラは今、目の前で見せている。
それをさせたのは、挿入した自分。興奮の熱がどこかへ行ってしまうような気さえした。どうすればいい、彼女が感じている痛みを消すためには。思考をフル回転。
ガンガンと突き上げるなどもってのほか、それなら、それならば、
(はっ!!)
「……ヴィーラさん」
「……は、い?」
「愛しています……ん」
「ん……ちゅ……ん……ちゅう……♡」
グランは挿入したまま、ヴィーラに体を密着させ、優しくキスをする。
自分がどれだけヴィーラを愛しているかが彼女に伝わるように、いたわるように優しく、彼女のためにどこまでも口づけていく……。
サンプル版はここまでです。