「ぁ…あっ!」
最近、堪えられない。
『それが怖い』
「っ…んんっ!」
声も、反応する体も。
『それが少し怖い』
「ゃ、千束っ…!」
私の体は変えられてしまった。
『だから、それが怖い』
「たきな…」
この人に。
「あっ…ちさ…と…っ!」
私は囚われている。
「んッ!…はっ…」
この人に。
そして、また私は溺れていく。
「ちさと…」
私の愛する『錦木千束』に。
・・・・・・
「はぁ……」
南国の眩しい太陽の下で私はため息を吐く。最近、体が感じやすくなっている気がする。日中仕事をしている分には何もないのだが、問題は夜だった。自分の意識の問題か、体の相性なんて事もありうる。誰にも邪魔されない二人きりの空間を作りやすくなったからだろうか。私の体は千束をすぐに欲しがってしまう。だが最近、その心に違和感を感じるようになった。
「なんだ?ため息なんて珍しいな。たきな」
メニューをぶら下げてクルミは歩いてきた。
こんな事はクルミには相談できない。
「あ…いえ、疲れてしまって」
「千束となんかあったか?」
言いながら、メニューを取り外して私の前に座る。
さすがクルミ。伊達にここまで一緒にやってきた訳では無い。あっさりと見抜かれてしまった。私は周りに誰かいないかを確認してから、頷いた。
「喧嘩か?そんなようには見えないけどな」
「あいえ、私個人の話なんです」
「ん?」
こんな事…普通は人には話さない。
それでも、誰かに話せば楽になると思った。
「最近…その…夜に…シテルトキ…ナンデスガ…」
「ほぉ〜〜〜?」
言葉の発音が曖昧になってしまう。それを見てニヤけるクルミ。やっぱり話すべきではなかった。なんで話そうとしたのか、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。久しぶりに顔が赤くなる。やっぱりやめておこう。
「っ〜〜〜、やっぱりやめます。今は言いたくないです」
「まぁ、そうカッカするなよ。何が言いたいのかは分かるよ。たきな」
「それほんとに言ってますか?」
「お前、前よりも分かりやすくなったからな」
言いながら、クルミは椅子に片足を乗せて自分の足を揉みほぐすように弄り出す。本当に綺麗な足だ。
その足に見蕩れていると、クルミが目を合わせてきた。
「会えなかった反動でも来てんじゃないのか?お前、余裕そうに見えて1番焦ってたからな」
「っ……」
少し重たく言葉がのしかかっきた。視線を落としてテーブルに置いてあるコーヒーに映る自分を見る。やっぱりそうなのだろうか。病院から消えた千束を見た時は驚いた。最初は呆れてしまって、声も出なかった。クルミに調べで貰ったら駅や街の監視カメラのあちこちに映っていたので、最初はそんなに大きな出来事ではないと思った。だけど、クルミが千束を見失い日にちが経つにつれて、本当に消えたのではないかと不安が募り始めた。結局沙織さんの写真が決め手となり、千束を見つけることが出来たのはいいものの、クルミの言う通り焦っている日々はそれなりに続いていた。
「で?どうなんだ?」
「えっ…あ…」
会えなかった反動。言われてしまえばそうかもしれない。今千束がそこにいる嬉しさはある。眩しい笑顔でまた皆を照らしてくれている。だから私はただ、そこにいるだけでよかった。千束の隣にいるだけで。だから、これ以上踏み込まないで、溶け込まないつもりだった。
「寂しかったから…なんですかね?」
「じゃないのか?なんでたきなまで疑問形なんだ」
分からない。分からないけど、何となくそんな気がしてきた。それも今日確かめるべきか。だが、どうやって…?堪えられなくなったこの自分と変えられてしまったかどうかを確かめるなんてどうすればいいのか。過去の自分に会いたい気分だった。
「じゃあ、こうだ」
「?」
クルミは立ち上がり、私の前に立った。
「ほれ」
ぺちん。
クルミが私の太ももに触れる。私よりも小さな手が私の太ももを撫でる。
「え、なんですか?」
「何か感じるか?」
それは全く感じない。いや、触れている事は感じてはいるのだが、何も、ただの、誰かが私に触れてるだけ。でも、クルミのそのすまし顔が非常に……。
「いえ、何も、むしろムカついて殴りたくなってきました」
「そのセリフにボクは驚きだよ」
表情を一切変えずに驚くと口にしたクルミは元の位置に戻る。
「これが、千束だったらどうだ?」
「っ…」
心臓が一瞬跳ね上がった。多分顔も赤くなったと思う。クルミは呆れたように息を吐くと、肘をついて言ってきた。
「『それ』素直に受け入れらんないのか?」
「え…?」
素直…に?
「もう千束はお前に遠慮なんてしてないんだぞ」
「それは…いつもじゃないですか?」
「まぁ、確かにそうなんだが……そういう事じゃなくてな?もっと…こう…矢印の感情の事だよ」
「……?」
矢印…?感情…?『それ』とは、私に向けられている千束の感情という事だろうか。クルミも少し曖昧な言い方をする。感情は…向けられて…嬉しいは嬉しい。でも、それ以上に、その先を、考えてしまう。
失う恐怖や見捨てられる恐怖。余計な事を。
私はこれ以上に、千束へ踏み込んでも良いのかどうか、私自身分からなかった。
「で?どうなんだ?当たってるのか?ボクの言ってる事は」
「それは……」
「たきな〜!こっち手伝って〜!」
「あ、は〜い!」
クルミに答えを言えないまま私は千束に呼ばれてしまった。慌てて駆けだす私を見送るクルミの顔は納得いってなさそうな呆れ顔のように見えた。
「クルミと何話してたの?」
「いえ、別に…」
「んぇぇ〜、いいじゃ〜ん教えてよ〜」
「千束には関係ないですから」
「ふ〜ん?」
・・・・・・
「ふぅ……」
今日の営業も終了。その疲れを癒すために私は自宅のお風呂で一人安堵の息を吐いた。何となく天井を見上げる。私が動く。水の音。そっと目を閉じる。
『それ、素直に受け入れらんないのか?』
クルミの言葉を思い出す。素直に受け入れる。でも、そんな事をしたら、千束はまた私の前から…。
「素直に…」
私は自分の胸に手を当てて鼓動を聞いた。
とくん。とくん。
私の小さな命の鼓動。
自分の心へ質問した。私がどうしたいのかを。
「千束…」
彼女の手を思い出す。私に触れる、千束の手を。
「んッ…」
胸はこう…撫でるように触れる。私の胸は大きくないから、千束は下から寄せ上げるように…触ってくる。
そこから必ず、私の乳首をこねてくる。
「っ…ぁ……」
ゆっくり、馴染ませるように。決して痛くしない。
必ず優しく。少し引っ張ったりして、コロコロと指で摘んで転がす。千束は甘く。
「ちさ…と…」
その次は、秘裂だ。片手でまだ転がしてこねたまま、違う方の手で私の秘裂を撫でてくる。表面を、筋の形に撫でるように。千束は優しく。
「んんッ…!あっ……」
一通り撫で終えたら、今度は指を少しずつ入れていく。
ズブズブと、ゆっくり、これも馴染ませるように。
私の体に負担をかけないようにしてくれる。これも千束の優しさ。
「はっ…あぁっ…」
入れた指を少し折り曲げる。腟内を引っ掻くように曲げる。そこから引き抜いていく。
「っぐ…ぁ、んんっ…っはぁ…」
それを何度か繰り返す。
胸を弄って。秘裂を撫でて。指を入れて引き抜いて。
「あっ!っ…んっ…っ〜〜!」
大きな声が出そうになり慌てて自分で自分の口を塞いだ。
「っはぁ……はぁ……」
自宅のお風呂の中での自慰行為。
腟内を弄っていた手に残るお湯で流れたはずのぬめり。千束の手じゃないから、その快感は軽いものだった。
まさか同棲しているのに、こんな事をする日が来るとは思わなかった。
千束を先にお風呂に入れていて正解だった。
指のぬめりを見ながら、私はまた、ため息を吐く。
私はやっぱり『それ』に囚われている。
「お湯…汚したかな…」
当たり前のことを言いもう一度深くため息を吐いて、私は体をもう一度洗ってから浴室を出た。
・・・・・・
「た〜きなっ♪」
「ひゃっ、ちょ千束…!」
お風呂から上がるなり、千束は私にくっ付いて顔を擦り付けてくる。全く本当に困った人だ。皆から逃げたなんて思えないくらいに。
「やっと上がったかよ〜。結構長い時間入ってたね、のぼせてない?」
「はい………っ!?」
千束の頬が私の頬に触れる。また心臓が跳ねる。後ろから抱き着いてくる千束の手つきが少しやらしい気がする。まとわりつくような手つき。私のシャツをなぞって、私の胸に触れるか触れないかの位置で弄ぶ。反対の手は私の下腹部に触れて、撫で回される。
「ねぇ〜、もういい?お風呂待ってる間寂しかったんだぞ〜」
「ちょ…と、千束。まだ髪乾かしてないですからっ…ンっ」
千束の手が私の乳房に触れてきた。触れるだけ揉んではいない。手を添えられているだけ。意地悪だ。この人は。私がもう逆らえなくなってるのを知っている。知っていて、甘く誘惑して、また私を犯しに来る。
「そんなの後でいいからさ…ね?」
千束を剥がそうとした自分の手がいつの間にか千束の手に重なっている。誘われた私は何も言わずに千束へ顔を向ける。
「ん…」
千束も何も言わずにキスをしてくれる。
これが私たちの合図。
『愛シキ時間』が始まる。
これが私の溺れ方。
・・・・・・・
「たきな…」
いつの間にかベッドに連れてこられて、私は寝かされていた。千束は私の首筋にキスを落としている。絡んだ手のブレスレットが当たる。ベッドの軋む音。千束と私の足がシーツを擦る音。邪魔な生活音もない。聞こえてくるのは波の音。私の荒い息。千束の荒い息。
「っあ…」
首筋をまだ責められているのに千束の手が私の胸に触れる。服の中を、下着の中を、まさぐられる。あ…直接触れてきた。いつも通り、撫でるように揉んでくる。人差し指で乳首をこねてくる。夢中になって黙っている千束が少し怖い。
「たきな…可愛い」
「っん!」
その言葉と同時に乳首を少し強くつまんできた。
まるで私を塗り替えるかのような囁き。
何かが込み上げてくる。快感とは違う『何か』。
それが怖い。得体の知れない『何か』が最近込み上げてくる。負の感情とかではないのは分かる。だが、それが『何か』は分からない。
受け入れられるものなのか。受け入れたらどうなるのか。私はそういう事ばかり想像してしまう。つい最近まで大人と殺し合いをするような生活だった。それが今は最愛の人と共に暮らせる生活になった。
急に変わりすぎだ。私の周りの世界は。
この人に関わるといつもそうだ。私の世界はあっという間に景色を変える。それは私が望んでいる世界で、私が望んでいる景色で。私の見たくない景色を消し去ってくれる。
「んっ…ちさとっ…あぅ…!」
これ以上私の景色を変えて欲しくない。
私は千束の隣でずっと。
「たきな、今の声可愛い…」
私はあなたの隣で。
「言わない…で…」
私はあなたに変えられてしまって。
「そんな事ないよ、好きだよ。たきな」
私はあなたに囚われて。
「千束…」
私はあなたに溺れて。
「たきな…」
私は、あなたと共に『……』になって。
「っい……」
『それ』に私は変えられて。
「まっ…千束っ…」
『それ』に私は囚われて。
「なんで?気持ちいいでしょ?たきな」
『それ』に私は溺れて。
「そん、な…ソコはさっき…んッ…!」
『それ』を受け入れて。
「綺麗だよ、たきな」
そうすると…あなたは…
『いつかまた私の前からいなくなる』。
「っ!!!!」
気づけば私は千束に枕の下に念の為に隠していた銃を向けていた。セーフティを外して、トリガーには指をかけずに。
怖くなった。
『それ』を受け入れるのがまた一段と怖くなった。銃を向けられた千束は頭にハテナを浮かべているが、私は違った。体の外まで聞こえるような動悸で、上手く呼吸が出来ていない。握った銃も分かりやすく震えている。『それ』を与えてくれる千束が怖くなった。
目に見えないものだからこそ、それまでは長いこと与えられてこなかったものだからこそ。私は『それ』に恐怖する。
「たき…な?」
「っ…ぁ…」
平然とした顔で小首を傾げる千束とよそに、私も私自身の行動に困惑する。
何故、千束へ銃を向けた…?
私はそれをして何か解決すると思った…?
素直になれない自分への怒り…?
分からない。何も分からない。『それ』が怖くて堪らない。遠ざけてしまいたいのを堪えられない。『それ』の恐怖に囚われている。普通の人なら受け入れられるはずの『それ』に。
「どうしたの、たきな?」
「っ!?」
差し出された千束の手が全く違う人の手のひらに見えて怖くなった。千束じゃない。真っ黒な人影に。なら、私の目の前にいるのは誰…?私はこの人影に囚われていた?
千束じゃない…千束じゃないなら敵だ。
敵は、倒さないと。
「ぁぁぁああああ!!」
ガァン!!
私は迷いながら引き金を引いた。エージェントとして有るまじき行為。引き金を引く時は迷ってはいけない。
でも、目の前の人影は千束に見えた。だから迷った。
弾は当たらないにせよ私の愛する人に見えたのだ。誰であってもそんな状況なら判断が鈍るし、心に迷いが生じる。その迷いのおかげで撃ち込んだ弾丸は千束の横を掠めて壁にめり込んでいる。
「ちょっとほんとに…たきな…?」
「ちさっ…とっ?…千束っ…?」
まずい…私が壊れる。今自分のしていることに、嫌悪と不安と恐怖が混じって心を滲ませる。冷や汗と震えが止まらない。千束の瞳の色に私を重ねて、自身の恐怖に歪む顔がこちらを覗いている。
私…何やってるんだ…。千束にこんなものを向けて…
私は…また…この人に…。
ごめんなさい…ごめんなさい…!
私は…!私は…!!
「た〜きな」
「っ!?」
千束は私を包んでくれた。
「大丈夫。大丈夫だよ。私は生きてるよ。なんにも怖くないよ。大丈夫だから、安心して、ね?たきな」
「はっ……はっ……はぁ……はぁ……」
浅く震えていた私の体と呼吸は、千束の温もりで収まっていく。必死に抱きついている私の体を優しく包んで撫でてくれる。やっぱり、落ち着く。安心する。鼓動のない体に確かに感じるその温もりはずっと私が欲しがってきたもの。会えない間ずっと欲しかったもの。いつの間にか私の手から転がり落ちたM&Pはどこかへ消えて自分の両手で千束を絞め殺すように抱きしめている。
あぁ…『これ』だ。この気持ち。私が千束と一緒にいる時に湧いてくるこの気持ち。
私はまだ、この『幸せ』を受け入れる事を怖がっている。
・・・・・・
「アッハハハ!何それちょっと面白すぎでしょ!」
「なにもそんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「だぁって、そんな悲劇のヒロインみたいな事言うから…ぷっくくく……」
「ちょっと、千束?」
「あぁ、ゴメンゴメン!」
「もぅ…」
ベッドから離れてベランダへ。
私の動揺を落ち着かせるために、千束は珈琲を容れてくれた。それを、月を眺めながら二人で飲む。
テーブルには二つのカップとアロマキャンドルが一つ。ロウソクに灯る火がゆらゆら揺れている。
「どう?ちょっとは落ち着いた?」
「はい…まぁ、とりあえず。さっきは本当にすみません」
「いいよ、いいよ。あんな至近距離で撃たれても私には当たんないから」
まだ射撃に自信があるとは自分から言いたくはないのだが、当たらないと言われるとさすがに少しむくれそうになった。千束を少し見やり、私は珈琲に映る月を見る。安心しきっている心のどこかで私はまた悲劇を心配していた。だから、完全に『幸せ』を受け入れるのが怖かった。受け入れたらその分、今度は何処かで不幸が訪れる。良い事と悪い事はバランスよく振り分けられる。大きな『幸せ』を得た分、きっと何処かで大きな『不幸』が訪れる。私はそれが嫌だった。
「『幸せ』を受け入れるのが怖い。ねぇ…」
千束は上を見上げる。そして、思い詰めたように自分の胸に手を当てる。
「この心臓が、ヨシさんの心臓だってのは、たきなから連れ戻されてから先生に聞いてたんだ」
「え…」
「どうしても気になってたの。ヨシさんの事が。だから、私もその現実を受け入れるのに時間がかかったの。だって、他の人から抜き取った心臓だよ?ましてやヨシさんからなんて私はビックリだよ」
それでも、彼女はいつもの陽気な様子だった。
「病院にいる時も、何となくそんな気がしてたんだ。だから、逃げ出した。ここにいるヨシさんを受け入れる時間が欲しかったのと、ここにいるヨシさんに世界はこんなに綺麗なんだよって見せるために」
「それは…」
「ま、私のワガママなんだけどね。だけど、『受け入れて、全力!』それで、大体良い事が起きる。前にそういったでしょ?」
それでも、彼女はいつものように笑ってみせる。
「それでも、私もたまに自分が『錦木千束』だって思えなくなる。それを、その不安を消してくれるのが、たきななんだよ?」
「私、ですか?」
「そう、私が『錦木千束』だって自覚できるのはたきながそばに居てくれるおかげ。手を繋いで、一緒に笑って、一緒にご飯を食べて、一緒に家に帰ってきて、一緒に過ごして。そうする事で、私は私だって実感できる。他人に囚われず、私自身がしたい事。それが出来てるのは、たきなが隣にいてくれるから。だから、私は今『幸せ』だよ、たきな」
アロマキャンドルと月に照らされている彼女の笑顔は真昼の太陽の様に明るく眩しい笑顔だった。
「そう…ですね」
つられて私も口角が上がる。
彼女の笑顔は他の人も笑顔にする。本当に凄い人だ。私にはもったいない、なんて考えてみる。でも、この笑顔が私を救ってくれる。私も『幸せ』を感じて良いのだと、救ってくれる。
「私も、千束のおかげで今『幸せ』です」
「ん、よかった」
今度は大人びた笑顔。月明かりに照らされる美しい笑顔だ。お互いの『幸せ』を再確認し、千束はゆっくり立ち上がる。
「さて、と。色々解決した事だし、私達もおねんねしますかね」
「そうですね」
私も立ち上がる。千束の背中とベッドが見えた瞬間。私の中で込上がってくる性への欲が抑えられなくなった。
「千束っ…」
「っうおいなによ」
私は構わず千束のシャツを引っ張って、恥ずかしがりながらもお願いする事にした。まだ私は安心しきっていないのと、この『幸せ』を受け入れる事が出来た確認をしたかった。
「あの…やっぱり、さっきの続き…」
千束は少し笑うと、こちらを向いた。
「うん、言うと思ってた」
そして、両手を広げた。
「おいで、たきな」
そして私はまた千束へ溺れに行く。
・・・・・・
「ん…っは…」
さっきとは違い、確かめるように千束は私へキスを交わす。優しい強さで。暖かい。
「ごめんねたきな…私のせいで」
「…?」
千束は私の肩の傷を撫でる。千束を助ける時にできた傷。ワイヤーで引き裂かれた私の肩は大きな傷跡を残してしまった。少し泣きそうな千束を抱き寄せると私もさっきの千束のように背中を撫でる。
「いいんです、こんなものは。あなたが無事なら」
「………うん。ありがとう」
千束の左腕辺りに出来た弾丸の跡を見て私も見ないように目を閉じる。深入りはしない。お互いが無事だったのだから。私達は互いを感じるだけで充分だ。
「んっ…」
いつの間にか、私の太ももに滑り落ちてきた千束の手。
そのまま、持ち上げられて、太ももの内側に一つキスマーク。オーバーオール着てるからいいものの、短パンを履くと見える位置だ。
「本当に、千束それつけるの好きですよね」
「うん。なんか付けるの癖になってるかも」
にへら笑いで瞳が溶けている。私もその瞳にあてられて目尻がゆっくり落ちてくる。眠いけど眠くない。千束を求めているからだろうか。私はこの人に触れられているだけでこんなに『幸せ』なんだ。狂ってしまいそうなくらい。
「っあ!?」
すると、突然私の中へ強い快感がやってきた。その原因を見ると、千束がいつの間にか私の下着を脱がして、私の秘裂を舐めていた。
「ち、千束っ!舐めるのはダメっ…んっ!」
「んぇぇ〜?だってさっき途中で止めさせられたんだも〜ん」
筋をなぞり、少し秘裂から垂れる愛液を吸う。
ぢゅぅぅ、と汚らしいような、いやらしいような音が聞こえる。私の体から聞こえる。筋を少し向いて、中から出てくる小さな突起。それを舌で軽く弾く。
「んぁっ!」
また、一際強い快感。ソコはどんな状態でも敏感だから弱い。私の弱点の一つだ。執拗にソコを責めてくる千束はなんだか少し楽しそうに見えた。
「たきな、ほんとにここ弱いよね。まぁ分からなくはないけど」
「んっ…わかってるならっ…くっ…優しくしてくださいよっ…ぁんっ…」
「えぇ〜、どうしよっかな〜、私さっき撃たれたしな〜」
イタズラなその赤い瞳は舌なめずりをして、私の秘裂の突起を指で転がす。刺激が少し強い。転がされる度に体を左へ右へ堪えられず動かしてしまう。
「たきなが、シテ欲しいって言うならいいよぉ?」
出た。これが狙いだ。最近のマイブームなのか欲しがる私を見て千束はゾクゾクと体を震わせる。私自身もこういう事をされて『幸せ』を感じているのも大概だと思った。
「っ〜〜〜………。欲しい…千束がシテくれないと…やだ」
「っ〜〜!可愛いなぁもう!」
「ちょ…んっ!」
やん♡やん♡と、顔を震わせて、強い突撃のようなキス。されるこっちがビックリする程すごい勢いで飛んできた。それと同時に、しっかりと私の腟内には千束の指が入ってきた。
「んんんっ!!?」
あんまりにも強い勢いで広げられる腟内に驚いて、体が弾んでしまう。嬉しさが込み上げてくる。この人になら乱暴にされても良い。
ぐじゅぐじゅに口の中を舐られて、離した唇にはお互いの唾液が繋がっている。
「たきなのスケベ♡」
「っあ!?」
その唾液をまた舌なめずりで拭うと、千束の指が一気に私の腟内を犯しに来た。
粘っこい水の音と私を犯す千束の息遣いにまた『幸せ』を感じる。腟内から感じたことの無い快感が押し寄せて、シーツを握る力が増していく。
「う、あっ…っ…んっ…あぁっ!」
腟内を好き勝手にいじられて私の体はビクビクと跳ねる。少し強めに奥を刺激されると、絶頂がすぐ目の前まで来ている。
「んっ…っ…ちさ、と、私っ…」
「ん、いいよ。ちゃんと感じててね」
千束の指の動きが早くなる。
「っあ!んっ、あ、あ、あっ!っ、っ、っ〜〜〜〜!!!」
私は耐えられずに果てた。
「はぁ…はぁ…はぁ…ンっ…」
「うんうん。気持ちよかったね〜」
快感の余韻で反り返った私の体を見て、千束はまたニヤけて頭を撫でてくる。その顔が愛おしくて、何故か少しムカつく。
自分ばっかり責められているのは納得がいかない。
だけど、今は本当に『幸せ』だ。
そのせいかまぶたが少し重い。
「お眠?」
「はい…もう、眠い…で…」
私の意識はそこで無くなった。
・・・・・・
「まったく…また何も言わないで抱え込んじゃってさ」
子供のような寝顔に小さな寝息。
撫でる髪はサラサラで手に絡まない。
「まだまだ、言えないこといっぱいありそうだね。君は。まぁ、私も言えた事じゃないか」
前髪を撫でる。
「本当はね。私はヨシさんから逃げたかったんだ。病院で寝てる時、夢にヨシさんが出てきてさ。私怖くなったんだ」
『おめでとう千束。君の新しい人生は私の死によって完成する』
「そんなこと言われて、私は怖くなって逃げ出した。何処までも何処までも、逃げても逃げてもヨシさんは私にまとわりついてきた。気持ち悪くて何回も吐いたし、夜は眠れない時が何回もあった。でも、その度に恋しくなるのはたきなの事だったんだ。でももう、たきなには迷惑かけたくなかったし、私みたいな人に囚われて欲しくなったから、私は帰らなかった。それでも、君は私を見つけてくれたよね。たきな」
頬を撫でる。
「見つけてくれた時、実はめっちゃ嬉しかったんだよ?なんか日に日に孤独だけが増していって涙なんて出なくなってた私を、見つけてくれたのがすごい嬉しかった。堪えることばっかり上手になってさ、我慢ばっかりしてる私を溶かしてくれるのはたきなだけだよ。だから………私は……あの時嬉しくなりすぎて抱き上げちゃったんだ……」
涙が出てきた。
「また、抱きしめてくれて、ありがとう。たきな」
こんなに嬉しいのに涙が止まらない。
ヨシさんに囚われていた分今泣いているような気がする。
ただ、ただ泣きたかった。思いっきり。人前では泣かないようにしていた分。君にも見せないようにしていた分。
その後に、思いっきり笑いたかったんだと思う。吹っ切れた心で。何も壁を隔てず、心に何も偽らずに。
そんな事をまだ、君には話せていない。
「それでも君は、私を愛してくれる…?」
不躾で。
不本意では無く。
また押し付けるような質問。
寝ているから答えないのは分かってるけど、君をどれだけ突き放しても君は私の元へやってきた。
もう気付かないふりはやめた。
気付いていたから。
いつの間にか、私も君に変えられていた。
いつの間にか、私も君に囚われていた。
いつの間にか、私も君に溺れていた。
そして、何処かで君を失う事を恐れていた。
でも、もう迷わないよ。
だから、私は君と『幸せ』になるよ。
だから、もう一度だけ、感謝の言葉を。
「ありがとう。愛してるよ」
「んっ…んぅ…ちさ…と?」
「っ!」
起こしてしまったかと思ったが、どうやら寝言のようだ。可愛らしい寝言にそっとキスを重ねた。
「おやすみ。たきな」
これからも、一緒に居て欲しい。
私の愛する『井ノ上たきな』。
・・・・・・
「ん…」
起きれば朝になっていた。なにか、どこかで、千束が私の名前を呼んだような気がした。それで目が覚めた。
だけど、千束は隣で寝ている。相変わらず『幸せ』そうに。
っていうか、私のシャツの中に入っているのはどういう状況なのだろうか。相変わらずの寝相の悪さは健在だ。寝起き早々にビックリした。
「千束。起きてください。千束?」
「んぇ?」
シャツの中から、おはよう。とモゾモゾと出てきた。
カタツムリさながらの這いずり。
えちょっと、私の胸に涎着いてますよ千束。
寝ぼけた顔のまま千束はまた私に抱きついてくる。
「あと、5分…」
「ダメですよ、遅れちゃいます」
「ん〜……ゃ」
「ダメです。起きて千束」
「んに!?」
かぷり、小さな力で千束の首筋を噛んだ。千束を起こすにはこれぐらいでいい。噛み跡は千束が起きなかった罰だ。そこからは二人慌てて支度をして家を出た。
・・・・・・
「ふぅ…」
リコリコで使う材料の入ったダンボールを置いて一息。
今日も見上げれば澄み渡る青空。昨日の不安がまるでなかったかのように心が軽い。心做しか足取りも軽かった。
「うぅ……お、重い…」
振り向けばクルミが死にそうな顔で運んできた。
だから、無理をしなくていいと言ったのに。
さすがに見てられないのでクルミを手伝う。
「クルミ、大丈夫ですよ。私が全部やりますから」
慌てて駆け寄ると、クルミはその場でダンボールを置いてへたり込んだ。やっぱりハッカーは力仕事よりも電子戦の方が向いている。こういう事は合理的ではない。
「あぁ、悪いなたきな。しっかし、昨日の不安そうな顔はどこに行ったんだ?」
「え?……あ…」
そういえば昨日のクルミとは話している途中で終わっていた。今その事を思い出した。
「『それ』よーやっと受け入れられたのか?」
呆れ笑いのクルミが言ってきた。
素直にうんと頷くのが恥ずかしいが、私ははにかんだ。
「そう…ですね。もう大丈夫です」
「そうか…」
クルミも安堵の息を吐いて小さく笑った。
そして、向こうから聞こえてくるミズキさんと千束の声。
「ちょっと、アンタそんなに持たなくても…」
「いいから、いいから!ミズキもそっちのそうが楽…ウォァ!?」
「なぁぁぁ!なにやってんのよ!アンタは!」
「ごめ〜ん!たぁきな〜!」
「はい!今行きます!」
私は変わった。変えられた。千束だけじゃなくて皆に笑顔で振る舞えるようになった。
『千束との幸せ』に変えられて。
『千束との幸せ』に向き合って。
『千束との幸せ』に溺れて。
『千束と幸せになって』。
今日もあなたの隣で笑って生きていく。
それが今の私の一番やりたい事。
だから、これからも、私を笑顔にしてください。あなたを笑顔にさせてください。私の願った未来へ。新しい夢を目指して。一緒に居させてください。
『私の愛する錦木千束』。