「たっだいま〜!」
カランカラン。リコリコのドアが開くと任務へ出ていた千束とたきなが帰ってきた。店番をしていた蒼真達も二人を迎え入れる。
「おかえり。二人共」
「ただいま〜。いや〜疲れた〜」
「早かったな。午後までかかるんじゃなかったのか?」
「うん。たきなが全部片付けちゃってさ〜」
「マジかよ、流石だな。たきな?」
「まぁ…はい。千束がふざけなければもっと早く終わりましたが…」
少し疲れたようにカウンターに座って一休み。
すると目の前にコーヒーが置かれる。
「…?」
「お疲れ。たきな」
「ティークさん」
ティークの差し出した優しい笑顔を見てほんのり頬を赤く染める。それを悟られまいと少し慌ててコーヒーのカップを掴む。
「い、いただきます」
「?…あぁ」
そんな様子を見てティークは小首を傾げて、ついでの団子を取りに裏へ行く。最近たきながずっとこんな調子、ティークを見るとすぐに顔を伏せる。それも分かりやすく。顔を赤くする時もある。これはこれはぁ?、と蒼真と千束は顔を見合わせる。
「たきな」
「っはい…!」
急にティークに呼ばれてたきなは体を弾ませる。すると、差し出されたのは一本のみたらし団子だった。
「これ、食べてみてくれ」
「これは…?」
「あ〜、一応新商品って名目で作ってたんだが、味見はたきなにやらせろってアイツがな」
と言って、ティークは千束の方へ目を配る。たきなも千束の方を向くと千束はウィンクで返してくる。蒼真は知らなかったと目を丸くしている。
「たきなは試作の味見よくしてるでしょ?だから、たきなの舌は信頼できるのです」
「千束は味見関係なく食べるからでしょう…もぅ」
「っはは、まぁ頼むよ。たきな」
「……分かりました」
・・・・・・
「たきなが最近そっけないぃ???」
リコリコ営業終了の時間。更衣室で二人で着替えてる時にティークがやたらと神妙な面持ちで言ってきた。
「っデカい声で言うな。真面目な相談なんだよ」
「真面目な相談ってお前………」
そんなのお前の事が好きだからだろ。と蒼真は言葉にしそうになった。でも、実際二人がお互いを想い合っていて、それにお互い気づいていないのはどう考えても、二人が鈍いか奥手なだけ。そんな事を思いながら蒼真はギリギリで言葉にしないように口を開く。
「それは、たきなに直接聞いた方がいいんじゃないか?男同士で相談ってのもなぁ…」
「なら、千束か?アイツに聞くべきなのか?」
「なんでそんなに躊躇ってんのよ。別に普通に聞けばいいだろ。俺なんかした〜?って」
「あぁ、まぁ…」
いつになくウジウジしているティークが不思議で我慢出来なくなった蒼真はもういいやとハッキリと言葉にした。
「お前、たきなの事好きなんだろ?」
「ッバカを言うな!」
ティークは蒼真の言葉にわかりやすいぐらい顔を赤くして大声を出した。蒼真は驚いて目を丸くしたが、すぐに笑顔に戻ると、ティークへ話を続けた。
「なんだよ。やっぱりじゃんか」
「違う。そういうんじゃない。だってそうだろ、俺達はそんな事出来る人間じゃないだろ」
じゃあ、千束と付き合ってる俺はなんなんだよ。と言いたくなったが、蒼真は堪えてティークの解決策を考えた。と言っても、お互いが思い合ってるのは確定なので「そんなのは自分で何とかしろ」、と言いたげに目を向ける。ティークはその目線に珍しく嫌そうな顔をする。
「お前、そんな顔出来んだな」
「こういうのは専門外だ。いらない知識だから」
「ほ〜ん?」
まだ顔が赤いティークを見て蒼真はニヤニヤと顔を歪める。
「んだよ」
「ティークも変わったな。すげー素直になった」
「バカ言え、俺は変わってない」
「はいはい。自分の変化には自分では気づかないもんさ」
着替えを終えると、蒼真は得意げに胸を逸らしてティークの前に立つ。
「なら1つアドバイスだ。女の子との恋愛はとにかく話し合い探り合いだぜ?」
アドバイスらしいアドバイスでは無いそのセリフに呆れたため息を吐いてティークもロッカーを閉める。
「……覚えておく」
・・・・・・
「あの…千束」
「ん〜?どったの?たきな」
千束とたきなの帰り道。相変わらず俯いてるたきなが千束へ質問を促してきた。
「私って、ティークさんの事を好きなんでしょうか」
「え…?」
「え…?」
ま、まさかここまで一緒にやってきて疑問形?、と千束はたきなから顔を逸らす。変な脂汗が出て無い心臓が早く動いているような気がした。確かに最近ティークの事を目で追っているように見えてはいたがそれは電波塔の事件が解決したあとの話。千束と蒼真が宮古島へ行った後に二人で迎えに来ていたが、その時もなんだか2人は微妙な距離感だった。まさか、ここで相談に来るとは…。
「千束でも…わかんないですか…」
「ん〜……えぇっ……と……」
分からないと言うよりも自分で気づいて欲しいという気持ちが強い千束。諭すような言い方はどうも苦手だ。だから、千束も困っている。変に踏み入って、二人を引き裂いたら大事だからだ。それは千束も避けたい。それに、やっとたきなも異性への気持ちに気付き始めている。千束を見て変わったということを自分で自覚させたい。そういう所だからだ。千束は意を決して、諦めたようにため息を吐くとたきなの方を向く。
「ごめん、たきな。それは自分で考えて答えを出して欲しいんだ。そういうことは人から聞くんじゃなくて自分で気づいて決めるもの。私はそう考えてるの。だから、これは私からは答えられないや」
「………」
まずったか?返答間違えたか?、千束は頭でグルグル考える。でも、言ってる事は本心なので変な汗を浮かべながらたきなの顔を見つめる。
「やっぱり…」
「っ」
「自分で確かめるしかないんですよね…」
たきなは当然俯いた。でもすぐに顔を上げる。その瞳は迷っているような瞳ではない。目的が出来た、リコリスの瞳だった。
「行ってきます!千束!」
「え?あ、おう!行ってらっしゃい…」
たきなは千束に目もくれず駆け出した。
「え?今から?もう夜だよ?」
・・・・・・
「はぁ……」
ティークは帰宅後、部屋で一人ベッドに横たわっていた。たきなの事を相談したが結局は自分で解決するしかない道を選択させられたティークは納得出来なかった。スマホを点けてたきなの番号を表示する。
「今電話かけるのはなぁ…」
蒼真に言われた通りにまずは話し合おうとしてみてはいるが、中々仕事以外の話をするような間柄でない事に不安を覚えている。いきなり“そんな話題”を出して良いのだろうか、と。【side B】とリコリスの仕事が最近あまり無いのでこのもどかしさは今のうちに解決しておきたい。
「たきな……」
居ない彼女の名を呼んで、ティークは天井を仰ぐ。不思議とたきなにだけは嫌われたくない。そう思うようになっていた。そう思い始めたのはいつ頃だったか。もうそんな事は忘れていた。
「───?」
と、そこでティークのアパートの部屋のインターフォンが鳴る。
扉を開けると、そこには息を切らせたたきなが立っていた。
「たきな…?なんだこんな時間に」
「っはぁ…はぁ…すみません急に。あの、聞いて欲しい話があります」
たきなは真っ直ぐに自分を見つめてきた。そして、話があるのはティークも同じだった。こんな偶然があるのだろうか。こんな事が本当に起きるのだろうか。望んでもいなかった、いや、望んでいた事が今現実に起きたと実感しつつもティークはたきなを部屋へ入れた。
・・・・・・
「………」
「………」
部屋にあげてから三十分。二人は向き合ったまま動かない。何の間合いの取り合いなのか、何の睨み合いなのか、はたまた読み合いなのか。
「あのっ…!」
「なぁ…!」
口を開けば同時に二人は固まった。
「っ…はぁ…たきなから話してくれ。何か用事があったからきたんだよな?」
「はい…その……」
珍しく歯切れの悪い言葉遣い。仕事の事なら流暢に話して的確な事を言ってくるのに、今は嫌にたどたどしい。口を開けたり閉じたり、何か言い出そうとしてはいるのだが、言いづらい事なのかたきなは何かを躊躇っている。そして、意を決したように目を真っ直ぐにすると口を開いた。
「ティークさんは、私の事好きなんですか?」
その言葉を聞いて途端にティークは吹き出した。あまりにも予想外の事に驚いたなんてものではすまなかった。むせ返って慌てて吹き出したコーヒーを拭きながら呼吸を整える。
「なっ…!なんだ急に!」
「いえ…ただ単純に気になっていたんです」
慌てるティークに対して、たきなの表情は変わらない。ティークの事を真っ直ぐに見据えている。
「ずっと、貴方に助けられてきた。ジンと戦った時も、吉松と対峙した時も、あの時も…千束を助けに行った時、真島の手下に阻まれて私一人じゃどうしようもなかった時も、ずっと貴方に助けられてきた。それに、私を助けに来てくれた時のあのセリフは…」
『悪いな。自分の女は自分で守れ。そう習ってんだ』
「いや…あれは…」
その場のノリに近かった。たきなが居なくなるのを防ぐのに必死だったから。【side B】として、それよりも一人の人間としてたきなを守りたかった。千束は蒼真が守っている。だから、ティークはたきなを守る事を優先した。でも、それは仕事だからでは無い。『たきなを守りたかったから』だ。
「お前が、居なくなるのが嫌だった。千束の事を必死で守ろうとしてたお前を、その手助けをしたくなったんだ。そうしてお前の事を考えてる度にお前の……事を……」
ティークは恥ずかしそうに顔を片手で隠す。その意外な表情にたきなもゆっくり頬を緩めて、ティークへ近づいた。
「たき…な…?」
そして、そのまま俯いたティークの頭を抱えるようにたきなは抱き締めた。
「不器用なんですね。私も、貴方も」
「……」
「私も、今は千束より貴方の事を優先したいんです。私も貴方への気持ちに気づいてしまったから」
「たきな…それって───っ!?」
たきなからのキスをティークは止められなかった。時間にして一瞬。それからたきなが離れるといつもの無愛想な彼女じゃない。年相応の女性らしい顔をしたたきなが居た。
「私もあなたの事が好きです。どうしようもないくらいに。こんな事をしてしまう程に」
そこから二人は溶け合うように重なった。
翌日・・・・・・
「おはようございます…」
「っあぁ、おはよう…」
昨夜の事を思い出す。気まづさと恥ずかしさが込み上げてくる。それでも、ティークがした事は事実だし、たきなが言った事も事実だった。布団で体を隠しながらたきなは恐る恐るティークへ問う。
「その…昨日の返事は…その…肯定してくれたと言うこと…でいいですか?」
「っ、あぁ、そのつもりだ。すまん」
「な、なんで謝るんですか…」
「昨日はなんか、その…色々飛びすぎてな…」
それこそ、見た事ないティークの表情にたきなも思わず頬が緩んでしまう。
「なんだよ」
「いえ、見た事ない表情でしたので」
「あんまり見るな。追求されるのは得意じゃない」
「拷問とか苦手そうですもんね」
「そういう問題じゃない。いいから、朝飯作るぞ」
その後2人は、朝ごはんを食べて喫茶リコリコへ向かった。
・・・・・・
「おはようございます」
「おはようございます」
扉を開ければミカが迎えてくれる。
「あぁ、おはよう。二人揃っては珍しいな」
「まぁ、はい…」
「たまたま…そこで会ったので…」
2人は歯切れが悪そうにお互い明後日の方を向いて答える。すると、2人が来たのを察したのか蒼真がやって来た。
「おはよう。2人共。ん?」
2人の距離感と雰囲気で何かを察した蒼真。はは〜ん?、とイタズラな顔するとティークに近づいた。
「上手くいったのか?」
「っ……、ちょっと来い」
「え?あ、ちょ!そんな怒んなって!祝うよ!そういうのは!」
それを見届けたたきなの後ろから今度は千束がやって来る。
「たきな!?」
「ち、千束?どうしたんですか?慌てて」
「さっ、さっきティークさんと一緒に歩いてるの見たから!昨日大丈夫だった!?」
たきなは千束の質問に昨日の事を思い出して少し顔を赤くしたが、はにかんで答えて見せた。
「はい。何とか」
「っ〜〜〜!そっかぁ〜!そっかそっかそっかぁ〜!!良かった!良かった!!おめでとう!!たきな!」
「ありがとうごさいます。千束。また分からなくなった時は相談に乗ってください」
「うん!うん!もちろんだよ!やった〜!」
「わ、ちょ、千束っ、もう…」
ティークとたきなの物語はこれから始まったばかりだ。