「お願いしますッッ!!」
蒼真は深々と頭を下げた。
某月某日、喫茶リコリコ。DAの司令楠木が密かに立ち上げたDA傘下の特殊派遣戦闘支援部隊、もしくは特殊派遣共同技術戦闘支援部隊【side B】所属の少年。『蒼真』はミカに頼み事をしていた。
「それは、構わないが…楠木はなんと言っているんだ」
「司令も出来れば数を揃えて作戦に望んでくれとの事です。今ウチの組織も真島の銃の回収や、痕跡探しで戦力が分散してて、俺らだけでは片付けられないのが現状なんです。本当に申し訳ないと思っているのですが、お願いしますッ!」
そう言って再度、蒼真は頭を下げた。
「だそうだぞ、千束」
「うぇぇ〜…蒼真達の案件〜?意外と重労働で疲れるんですけど〜」
「……」
ミカが促すと、座敷に座っていた赤服の1thリコリス『錦木 千束』がちゃぶ台へ項垂れた。その様子を見て蒼真はなんとも言えない顔になる。それと同時に千束の隣にいる青服の2ndリコリス『井ノ上 たきな』もだらしないその様子にため息を吐いた。そして蒼真へ顔を向き直す。
「そもそも、リコリスのサポートや救助が目的の蒼真達の組織が何故、今回は護衛を請け負っているんですか?」
「そうだな。まずはそこからだな。護衛は俺達とは別なヤツらが請け負ってんだけどさ、え〜っと…」
「俺が説明しよう」
蒼真は説明しようと唸ると、蒼真と同組織に所属する『ティーク』がたきなのほうへ振り向いた。
今回、蒼真達に通達された任務は護衛していた対象を誘拐しようとした組織の壊滅だった。蒼真達の組織【side B】がリコリスと共に大統領クラスの要人を護衛中、その誘拐組織と一部交戦。要人の護衛には成功し無事護衛任務を終えている。そして次いでアジトを特定した【side B】はその組織の壊滅に目的を変えた。どうやら、その誘拐組織も銃を所持しており真島がばら蒔いた残りの銃やその他の武器も回収出来るかもしれないと、蒼真達へDAの司令楠木が命令を下した。
「俺達の組織の決定権も楠木司令にある。だから、自然とこういう事を押し付けられることもあるんだよ…」
「その、誘拐組織がこの東京にある。ということなんですね」
「そう。だから楠木司令に他の奴ら応援出せねぇの?って聞いたら、フキ達は別任務で出撃不可、セカンドやサードを送られても足でまといだしってさ」
「それなら私だって同じようなものでは…?」
「そんな事ないって!たきなは千束と一緒に任務をこなしてきたろう?だからたきなの実力は信頼してる」
「なんだか腑に落ちないですが…」
たきなは不満そうにむくれるが納得してくれた。それでも、千束は隣でブーたれている。手足をジタバタさせて、子供のようにぶーたれる。
「最近任務続きで疲れてま〜す!」
その様子にはミカもカウンターで座っているミズキもクルミも少し呆れていた。何故こんなふうに駄々をこねているのかも、ティークとたきなは分かっていた。もちろん蒼真もわかっている。
「千束…」
だが、この任務が終わるまではそれは解決することはなかった。
・・・・・・
「それでは、お疲れ様でした。店長」
「お疲れ様でした」
「あぁ、二人とも気をつけてな」
リコリコの閉店時間。ティークとたきなが先に帰宅する中、千束と蒼真はまだ少しピリピリしていた。ミカもそんな2人を見て少し心配そうだった。
「じゃぁね先生。お疲れ様」
「お疲れ様でした。店長……って千束!待てって!」
早足で帰る千束を追いかける蒼真。その様子にミカは思わずふっと頬を緩めた。それに対してクルミとミズキはまだ呆れていた。
「ようやく二人も喧嘩するくらいの仲になったか」
「惚気でしょどうせ。あ〜嫌んなっちゃうわ」
「お前もちゃんとした男を見つけないとな?」
「うっさいわよ、ガキ」
・・・・・・
「千束!待てって!おい!」
「ふんっ」
とにかく話をしようと蒼真は振り向いてすらくれない千束を呼び止める。
「なんだよ、なんでそんなに怒ってんだよ」
「べっつに〜?」
そう言いながらも不機嫌な顔は変わらない。
「『約束』…守れなかったからか?」
「だったらなに?」
本当にこの手のことになると千束は子供っぽくなって面倒くさくなる。
蒼真がいう『約束』とは、千束が提案したデートの約束の事だった。付き合い始めてから一年記念のデート。それはそれは二人でちゃんとした計画を立てて日程まで決めていた。そして、そこに訪れたリコリスと【side B】の任務。しかも一筋縄ではいかない任務が立て続けに行われて千束も蒼真も大忙し。喫茶リコリコを締めなければ回らない程の忙しさとなった。おかげでデートの予定は綺麗さっぱり無くなってもう少しで2ヶ月が過ぎようとしている。その不満から千束はずっとむくれているのだった。
「しょうがないだろ。お互いが忙しかったんだからさ」
「そうね」
「っはぁぁ…なぁ、千束、いい加減に機嫌直してくれよ。仕事だけは外せないだろ」
「……」
これでもダメだ。千束はまだ納得していない。
「私の事、優先してくれるって言ったじゃん」
「っ……」
そして、トドメの一撃。そういえばそんな『約束』もしていた。ほぼほぼその場のノリで言ったことだが、今となっては千束にとって嬉しい言葉になっていた。
確かその言葉を言ったのは真島と対峙した時だった。たきなの救助が間に合わず俺に任せろと千束の元まで一直線に走っていった。その時に発した言葉だったはずだ。
その言葉を忘れたことは無い。でも、仕事となると話は別だ。一緒に沖縄へ逃げたのも、一緒にこれまでやってきたのも、嘘偽りはない。あの時の約束も本心だった。
「今回の任務が終わればしばらく俺らも休暇扱いになる。その時に行こう。な?千束」
「………」
内心焦りながらも蒼真はとりあえずのような『約束』を千束へ持ちかける。一方の千束はむくれたまま振り向いてはくれた。
「絶対?」
「絶対」
千束はまだ不満そうな顔をしている。でも、声はさっきより穏やかで甘えている。
「じゃあ───んっ」
「え?」
「ん!」
そう言って蒼真の方へ顔を少し突き出した。
「いや、道のど真ん中なんだけど」
「ん!!」
「っ…はいはい、わかったよ……」
そう言って、『約束』のキスをした。
深くない一瞬だけのキス。明日の任務があるからこれ以上はしない。それのせいかお互い名残惜しそうに離れると千束は蒼真の胸に顔を埋めてきた。
「一緒に帰る」
「わかったよ。悪かったな。千束」
「ん…大丈夫」
・・・・・・
「千束達は…大丈夫でしょうか」
「ん?」
所移ってティークの家。シチューの鍋をお玉で回しながらたきなが心配そうに口にした。千束と蒼真の事を店長の次に心配していたのがたきなだ。千束と蒼真が付き合い始めてから色々と気にかけていた(興味津々で目で追っていた)のもあり、喧嘩沙汰になるといつも自分事のように考えてくれている。
そんな、たきなを見るなりティークもふっと頬を緩めて口を開く。
「喧嘩なんていつもの事だ。今回は少し厄介な事が混じって長引いてるだけさ。いつも通り、どちらかが折れて謝ってる頃だろうな」
「ティークさん、意外とあっさりしてるんですね。私は作戦に支障が出るって思ってるんですが…」
「信用してるから、なんて言葉で片付けていいかは分からないが、多分大丈夫だろ」
「そうですか…」
「不安か?」
「まぁ…一応」
「明日になれば分かるさ。俺達は出来る限りアイツらを手助けしよう」
たきなは少し唸るがティークの顔を見て頷いた。
「はい。分かりました」
・・・・・・
『よ〜し、お前ら配置に着いたな〜?』
「はい」
「いつでもいいよ」
「オーケー」
「いいぞ」
次の日。
誘拐犯のいる組織の建物。海沿いの廃工場。随分とありきたりな場所にアジトを作っていたと全員が口を揃えて言っていた。しかし、腐っても廃工場。それなりの広さと地下まである。クルミのドローンの高性能カメラで捉えた人数を見るに、20人。蒼真達一人5人の計算で、廃工場の東西南北に配置に着く。
「クルミ、一応人数増えたりしてないよな?」
『まぁ今の所は、な。そっちの情報はどうなんだ?本当にこれだけか?』
「あぁ、改めて調査した仲間の報告ではここにいるヤツらで全員だ。地下に入っても人が増える様子もないし…」
「なら、とっとと終わらせて報告だ」
ハンドガンタイプの麻酔銃をリロードし、蒼真達は突撃用意。蒼真とティーク。千束とたきな。二人組を作りクルミの合図で作戦開始。
『よし。いいぞ』
「「了解」」
蒼真が扉を開けて、ティークが左右をクリアリング。当然裏口から入っているので、誰もいない。そこからそこ組織のボスがいる所を目指す。
クルミ曰く、このアジトはロールプレイングゲームのステージのような構図になっていてボスはどうやら中心の部屋にいるらしい。それを取り囲むように手下が見張りとして巡回している。正面玄関が1つ。裏口が2つ。その裏口2つから、千束達と蒼真達が侵入していく。着実に静かに敵を無力化しつつ中央の部屋を目指す。
「見た所、平屋のまんまだな。この工場」
「そうだな。武器を隠している場所もない。後は地下くらいか?」
麻酔銃で眠っている団員をハンドガンでペシペシと叩く。組織の団員一人一人としては強くない。蒼真とティークだけでもかなり余裕だった。
「地下の調査は千束達に頼もう。このままならすぐに終わる」
「そうだな。聞いてたか?千束」
『う〜いわかったよぃ。証拠見つけたら直ぐにそっちに合流するね』
「頼む。行くぞ、ティーク」
「あぁ」
通信を切り、蒼真達は組織のボスの部屋へ向かった。
・・・・・・
それらしき扉の前で位置に着く。ティークが左、蒼真が右。扉越しに気配を感じとるも、蒼真が首を傾げた。その様子にティークは小声で呼びかける。
「どうした?」
「会話聞こえねぇな。監視カメラも無いし、静かに眠らせてきたから俺らが来てる事に気づいてないはずだから何かしら話しててもいいと思うんだけど」
「確かに…そもそも、気配もないな。本当にここにいるのか?クルミ」
通信機に触れ、クルミと連絡を取る。
『間違いない。ドローン映像ではその部屋から動いてないぞ』
監視役のクルミが言うなら間違いない。ドローンの光学カメラでかなり遠い位置からでもそれを捉えている。蒼真は特殊装備の『ガントレット』を腕に付けると、ドアノブに手をかける。
「俺が行く」
「待て、ダメだ。リスクがある。二人で対処するぞ」
「りょーかい」
そうして二人は扉を勢い良く蹴り開けて、麻酔銃を構える。部屋の中にはクルミの言う通り、組織の親玉が居座っていた。だが、二人が部屋に入ってきたのにリアクションがない。
「ぁ?」
椅子に座っているが俯いていて顔が見えない。動揺している様子も無い。何かおかしいと思った蒼真は親玉の目の前に立つ。
「ちわ〜っす。組織ぶっ潰しに来ました〜」
肩を揺らすと親玉は椅子から転げ落ちる。
「え、ちょ!」
よく見ると、親玉は死んでいた。
「は?死んでる?」
「自殺か?」
「いや、これは───」
『蒼真ッ!後ろだ!!』
「おん?」
そして、蒼真達の後ろに何かが忍び寄ってきていた。
・・・・・・
「千束。ちょっといいですか?」
「ん?どったのたきな?」
地下にいた組織の団員達を無力化し、武器を集めている証拠も手に入れた千束とたきなの二人は蒼真達へ合流すべく階段を昇っていた。そんな時、たきなが千束を呼び止める。
「蒼真とは、もう仲直りしたんですか?」
何を神妙な面持ちでいいですかと思えば、千束と蒼真の事を心配してくれていた。千束はその心配に対して罪悪感を抱きながらバツの悪そうな顔をして唸る。
「あ〜…まぁ、したっていうか…まだかもっていうか…」
「なんですかそれ」
「ん〜、まぁこれ終わったあとの『仲直りの約束』はしててさ。それの内容次第?って感じかな〜」
「『約束』…?」
たきなが首を傾げると千束は顔を赤くして慌てて首を横に振る。
「ごめんごめん!なんでもない!いいから早く合流しよう!」
「はぁ…やっぱりあなた達は分からな───」
『千束!たきな!』
「「っ!?」」
ただならぬ声のクルミの通信。二人は顔色を変えて応答する。
「どうしたの、クルミ」
『蒼真達が押されてる!直ぐに援護に向かってくれ!』
「え、なんで!?」
『カメラに写ってなかった敵が居た!多分やり手だ、急いでくれ!』
「了解。行きましょう、千束」
「うん!」
・・・・・・
「うぉぁっ!?」
蒼真達は倉庫へ逃げ込んだ。追われつつも物陰に身を隠して、相手の様子を伺う。クルミのドローン映像から逃れた者がいた。しかも、外からの出入りはしていない。ずっとこの組織の中にいたという事になる。それを見逃していた。しかし、ヤツの雰囲気を見るにただのチンピラではない。
最小限の足音、刺突の得物、常人じゃない身のこなし、片目を隠した髪型、【side B】のリストにそんな人物が居た。
「アイツ…リストに載ってるよな」
「あぁ、重要目標リストに載ってる。暗殺者の『リンキ』だな」
目の前に立ちはだかる異質な人影。陽の光で明らかになるその顔は片目を画した若い男性。蒼真達とはそう離れてはいない。ただその眼差しは少年と呼べるものでは無い。
「リコリスじゃないな…お前達…」
「ぁ?おいお前!なんで、リコリスって単語知ってんだ」
「さぁな、風の噂だ。日本にはそういう奴らがいるってな」
リンキから出てきた単語は蒼真達を少し驚かせた。海外の活動を中心にしてるはずのリンキがリコリスという単語を口にしたのだ。そもそも、リコリスは一般市民はもちろん、普通の暗殺業をしているようなものでもそうそう耳にはしない。耳にした所で関わった瞬間殺されているからだ。
「最近は女の肉を食べていない。男の肉は不味い。ここに来ればリコリスという女を殺せると聞いたんだがな。女の肉じゃないと俺は満足しない」
ナイフのような暗器を煌めかせ、異様な笑顔を作るリンキ。そして、蒼真達はそのセリフに普通にドン引く。
「マジか、暗殺者でカニバリズム持ちかよ。流石にやべぇだろ」
「そんな事より、リコリスという単語を知ってる時点でアウトだ。ここで確実に捕まえてDAに引き渡す」
「わかってる」
蒼真達は武器を構えた。
「終わらせるぞ!」
その瞬間、蒼真はいきなり前へ出る。リンキの右へ回り込みながら片方の『ガントレット』から短剣の刃、カタールを引き出す。そしてもう片方の『ガントレット』からはワイヤー付きのアンカーを射出する。ワイヤーを巻き取ると同時に跳躍。カタールを振りかざしリンキへ振るう。
「おらっ!」
振るった刃はリンキには届かず、すり抜けるように上へ避けられてしまった。だが、蒼真にとってはそれは計算通り、上に飛べばティークが既にハンドガンで狙いをつけていた。
「遅いな…」
「なっ!?……ぐっ!」
ティークが引き金を弾くよりも早くリンキはナイフを投げてティークのハンドガンを弾き落とした。
それを見た蒼真は直ぐに体勢を立て直して次の攻撃に移る。
「手練だな…っくそ!」
再度、カタールを振りかざしてリンキへ距離を詰める。空中から着地した瞬間を狙う。それに合わせて、ティークは弾かれた武器を拾いに行く。
「そこだ!」
「っ──!」
リンキは着地と同時に二本目のナイフを取り出して、再び蒼真の一撃を受け止める。そして、体を浮かせるように捻るとその場から離脱して蒼真達と距離を取った。音もなく地に足をつけるその様は本当に幻影のよう。身構えていなくても、近寄れないその覇気も尋常じゃない場数を踏んできた証拠だ。二対一を想定した動きにも無駄がない。
「二対一も慣れてるな。時間かかるぞ」
「だからって千束達には頼れないからな。俺らの立場を忘れるなよ」
「言われるまでもない」
『ちょっと蒼真!そっち大丈夫なの!?』
と、そこで千束からの通信が入った。蒼真は二ッと笑うと自信満々に答える。
「大丈夫。合流する頃には終わらせるさ。後は任せろ」
そう言って通信を切る。
【side B】として、リコリスに援護を求めるのは許されない。ましてや、千束とたきなは蒼真とティークの恋人。尚更、そんな事はさせたくない。
蒼真は瞳を紅くすると、両方の『ガントレット』からカタールを展開して先程よりも勢いよく前へ出る。それに反してティークは、持っていた麻酔銃のハンドガンをしまい、口径を圧倒的に大きくしたリボルバーを取り出して後ろへ下がる。二人は完全に殺す気でリンキへ立ち向かう。
「来い…」
蒼真は間合いに入ると渾身の力でカタールを振るう。鉄と鉄が触れ、甲高い音と火花が散る。特殊装甲のカタールを当てても切れないリンキのナイフもどうやら特殊な素材のようだ。しかし、弾かれようが関係ない。蒼真は次々に刃を突き立てる。上から下に、右に左に、とめどない連続攻撃の中、ティークは静かにリンキへ狙いを定める。アイアンサイトの向こうに映る敵の脳天。反動を抑えるべくより一層の踏ん張り、引き金を引く。
「甘い…」
蒼真の一撃を弾くとリンキは揺れるようにティークの放った弾丸を避けた。
「なっ!?躱された!?」
「このッ…!ぐあっ!」
蒼真の一撃すらも返して弾き飛ばす。飛ばされながらも体勢を立て直すとすぐさまカタールを構える。
(殺気で躱されたのか…それとも、千束と同じタイプか…攻撃のバリエーションが少ない俺の手が読まれ始めたら長引くのは不利と見た)
(蒼真の攻撃をいなしながら俺の弾道を読んだか…確かに手練だな。長引かせるのは良くないな)
蒼真とティークはアイコンタクトで頷くと、再び蒼真は前へ出る。
「芸がないな…っ!?」
すると、蒼真はリンキへ向かってアンカーを射出した。リンキは対応がワンテンポ遅れてしまいナイフを弾かれる。そのままアンカーは壁に刺さり、蒼真は跳躍。勢いをつけた鋭り蹴りがリンキに命中する。さっきとは比べ物にならない速度と蹴りの重さにリンキは驚愕する。
「なん…だ!?この速さはっ…!」
「まだまだ行くぞっ!」
防御態勢に入るのでギリギリ。蒼真の鋭い攻撃はリンキでは対応に遅れてしまう。
瞳の紅くなった蒼真は人体実験の影響下にある。瞳が紅い間は普通の成人男性の3倍ほどの身体能力になる。しかし、それは蒼真が集中してる間だけ。
リンキを再起不能にすると言う目的のために集中している蒼真にはもうティークも手助けなど必要ない。
凄まじい速度で連撃を入れる蒼真とそれをギリギリで何とか捌いているリンキ。もし蒼真がやられた時の後隙を取るために構えているティークが何かを感じ取る。
(なんだ…違和感…?)
何か引っかかる。物事が上手く進む時に限って生じるあの違和感。今まで出会ってきた暗殺者は不利な状況になると、撤退を選ぶ者がほとんどだった。しかしリンキはそうはならない。撤退を選ばないとなると、この状況を返せる何かを仕込んでいるに違いない。ティークは周りを見渡すと、チラホラとワイヤーが張りめぐされている事に気づいた。
「っ!?───蒼真ッ!」
「え?───っが!?」
手を伸ばした時には遅かった。蒼真の足にあるワイヤーが作動させた装置から無数のナイフが天井から飛んできた。頭に刺さりはしなかったが、蒼真の体には二本ほど切り傷が出来る。予想外の事に蒼真は対応できずに膝から崩れ落ちる。リンキはその隙を逃さない。ナイフを構えて蒼真へ走り出す。その距離ではティークが撃つよりもナイフの方が早い。
「終わりだ…!」
「立て!蒼真ッ!」
「っ…しまっ───」
何とか立ち上がろうとしたその瞬間───。
「ぐぅっ……!」
突然鳴った三回の銃声。リンキに命中した三発の弾丸。
だが、血は出ておらず、足元に散らばったのはゴムの欠片だった。
「ゴム弾?……まさか!?」
「蒼真!ティークさん!」
振り向けばそこには千束とたきなが駆けつけてきた。千束は蒼真の側へ、たきなはティークの側へ駆け寄る。
「ティークさん、ご無事ですか?」
「すまん。助かった」
「ちょっと!蒼真!それ…」
「擦り傷だよ、大丈夫」
千束に支えてもらいながら立ち上がる。心配そうな目をよそに蒼真はリンキを睨むように見据える。
油断していたが、よくよく見ればリンキの周りにはさっき作動させたワイヤーが張り巡らされていた。どうやら、このワイヤー地帯までおびき寄せられたらしい。
「なるほどね、さっきまで距離を開けながら戦ってた理由はこれか」
リンキは余裕の表情を見せているが、蒼真もやり返すように歯を見せて笑う。
「これで四対一。やりずらくなったんじゃないか?」
「……」
リンキは手をかざした。
「本当にそうかな…?」
「なんだと…?───っ!?」
ティークが眉をひそめると、その後ろから誰かが襲いかかってくる。なんとかティークとたきなは避けられたが、その人影を見るともう一人のリンキだった。
「兄さん…コイツら殺っていいの?」
「っ…双子か…」
リンキの弟がそこに居た。一人でも手こずっていたのに二人に増えてしまった。ティークは頬に汗を垂らすと、蒼真の表情を伺う。その表情は何も変わっていなかった。余裕を見せて笑っている。その理由もティークは分かっている。
「千束達がいるんだ。何人増えても変わんねぇよ。な?千束」
「え?私?」
「それぐらい答えてくれよ…」
「決めゼリフなんて急に言えないっちゅーの」
「千束、蒼真、ふざけないでください」
「全く…片付けるぞ」
「うぇぇ…なんで私まで怒られたのぉ?」
「っはは、よぅし!行くぞッ!」
蒼真は変わらずカタールを展開して前へ出る。さっきと変わって千束の援護が入る。だが、千束も同時に前へ出た。左右から挟み込むように回り込んで蒼真はカタールを振るう。リンキも再びナイフにて応戦。斬撃の応酬の最中千束は狙撃のチャンスを狙っている。
「…?」
リンキは異変に気づく。蒼真の動きがさっきよりも軽い。斬撃が早くなっている。そして、背中に蠢く寒気。二人の紅い眼光がこちらを見ている。それならば、とリンキは急に蒼真の腕を掴んだ。正確には『ガントレット』の部分を掴む。
「何っ!?」
「まずはリコリスからだ…」
ほぼ予備動作なしで取り出されたハンドガンから放たれる弾丸。それは確実に千束へ命中する弾道だった。
だが───
「なんだ…今のは?」
千束には命中するどころか掠ってすらいなかった。何かおかしいとリンキは何発か再度引き金を引く。それなのに結果は変わらない。千束には掠るどころか当たりもしない。それ以前に『弾丸を避けている』。その事実がリンキを一番驚愕させてた。
「馬鹿な…」
「あぁ、何発撃っても無駄だよ。俺だってまともに当てられた事ないからな」
「何───がっ!」
蒼真はリンキの腕を振り払うと、サマーソルトキック。見事顎に命中した蹴りはリンキの頭を大きく揺らした。
「千束ッ!」
「っ!」
蒼真の掛け声と共に千束は狙いを定めて引き金を引いた。リンキの体に命中したゴム弾の威力でそのままリンキは気絶する。それを見届けると蒼真はゆっくり立ち上がって、深く息を吐いた。
「ぅよし。お〜わりっと」
「ちょっとぉ〜、蒼真。何やられてんのよ」
「悪かったよ。しょうがないだろ?相手が手練だったんだから」
「私とたきなが来なかったらどうなってたか…」
「別に何とかなってたろ。ナイフが刺さってる訳でもないし」
「そういうことじゃなくて〜!」
「なんだよ今度は!」
二人の会話を聴きながら、ティークとたきなは呆れたように笑い顔を見合わせる。こちらの二人もリンキの弟を無力化していた。柱にワイヤーで括り付けられた弟は気絶している。
「いい連携だった。助かった、たきな」
「はい。こちらこそ」
ティークとたきなの様子を見てうんうん頷いていると、蒼真の背中に千束が弱く拳を当ててくる。その後、自身の頭を擦り付けてきた。
「やっぱ傷だらけじゃん。すぐに私達呼んでよ…無茶しすぎだぞ…ばか」
「だから、大丈夫だって。お前が来てくれたんだからさ」
蒼真が笑いかけると、千束はまだ納得していないように頬をむくれさせる。
「次のデート。奢りね」
「…………はいはい」
「朝昼晩全部ね」
「え、いや、給料日前にそれはかなりキツイんだが───っ!?」
蒼真の目線の先にはさっきまで気絶していたリンキが立ち上がっていた。ナイフを持って千束へ向かってきている。千束は気づいていない。明らかに千束を狙っている動きで駆け抜けている。
「千束ッ!!」
「え…?」
蒼真は千束を庇うように前に出ると、リンキが向けていたナイフが腹部へ刺さる。
「っぐ!……ティークッ!」
「クソっ!」
ティークがマグナムの引き金を引くと、リンキに命中。高威力の弾丸が当たった事により、リンキは吐血してその場に倒れ込んだ。腹部にナイフが刺さったまま蒼真を膝をつく。
「っくそ、あの距離で足音無しか…っ、気づくかってんだよ…馬鹿が……っ……」
「え…?そう…ま…?」
「たきな!止血だ!」
「わかりました!」
「蒼真……蒼真っ!!」
流れる血は止まらず、蒼真もそのままその場で倒れてしまった。千束は突然の出来事に唖然とするしかなかった。ティークとたきながクリーナーが来るまでの間に止血処理をしている間、千束はずっと動揺しながら蒼真の名前を呼んでいた。
・・・・・・
また『約束』を守れなかった。正確には先延ばしにしているだけなのだが、それでもちゃんと守ってあげられなかった。千束と付き合い始めてから何度かそういう事があった。守ると言いながら守ってあげられなかった。そういう後悔が何度かあった。その度に喧嘩したし、仲直りもした。千束と一緒に宮古島に逃げた時も、海沿いで白いワンピースをなびかせながら踊るように歩く千束を見て、自分の心にもう一度誓っていた。言葉にしていた。
『今度は必ず千束を優先する。必ず千束を護る』
と、それを聞いた時千束は笑っていた。
『もうそんな必要はない』
『ただ隣にいてくれればそれでいい』と。
それでは納得しなかった。吉松を殺して千束を生かしてしまった事が、千束にとってどれだけ無責任で、望まない未来だったか。そんなことは分かっていた。ミカが良いと言ってくれても、千束が否定した瞬間、蒼真の考えはすぐに消えてなくなる。そういうハズだった。でも、千束は蒼真と共にいることを選んだ。そうして、蒼真と千束は宮古島へ逃げて行った。
すぐに連れ戻されることはなかった。しばらく二人の時間を過ごしていた。
なんでもない。ただの人間の時間。
『こんなに長く生きられなかった二人』の時間。
『ねぇ、蒼真。昔した『約束』覚えてる?』
『約束?』
『私と蒼真がまだ病院にいた頃のやつ』
『んな何年も前の話。覚えてねぇよ。なんかしたっけか?』
『ほら、二人で「誰かを助けられる人になろう」って』
『あ〜……言ったな。そんなこと』
『も〜、ほんとに覚えてるの〜?』
『だって、昔の約束よりも、今の約束の方が多いんだよ。お前、こっち来てからほんとにワガママになったからな』
『え、そ、そうかな〜?そんなことないと思うけどな〜?』
『っはは、長生きの反動だろ。ホントはもう、俺達は死んでたんだからさ』
『蒼真…』
『だから、俺は嬉しいよ。千束との約束が増えて』
『う〜わ、キザなセリフ。でも、私も嬉しいよ。独りになるのはちょっと怖かったから』
宮古島でした唯一覚えている会話だった。それからはティークとたきなに見つかって連れ戻されてからはドタバタの大忙し。ハワイに行って帰ってきて、DAに戻ったり【side B】に戻ったり、息付く暇もなかった。楠木に叱られたのもよく覚えている。そうして戻ってきた。『俺』の日常。千束との日常。
その『約束』を、果たす為に───。
・・・・・・
「ちさ…と…」
目を開けば見知らぬ天井。とはならず山岸の病院だった。リンキに腹を刺された後、応急措置を間に合わせたティーク達によって蒼真は一命を取り留めたらしい。見渡しても誰も居ない。外は夜だった。とりあえず蒼真は枕元にあったナースコールを鳴らした。
すると、すぐに職員がやって来て、山岸を呼びに行った。
「おや、目覚めたかぃ。致命傷は自分で避けたみたいだね。傷も深くなかったし、よく判断出来たもんだよ」
「あんくらいなら、リコリスだって皆出来ますよ。それよりも、ティーク達は?」
「皆無事だよ。千束は昼間はずっと付いてたけどね」
千束の名を聞くと蒼真はやらかしたようにため息を吐いた。
「千束を庇った話は聞いたよ。それのせいで千束もずっと付きっきりだったしその事を引きずっていたよ。今は家に返してるけどね」
「山岸、その辺にしてもらおうか」
「あぁ、司令来てたんですね」
「楠木司令…」
次いで入ってきたのは司令の楠木だった。
「それじゃあ、アタシはこれで」
「あぁ、すまんな」
そう言って山岸は出ていった。楠木はしばし蒼真を見つめた後、ため息を吐いてベッドの横の椅子に座る。
「油断したな」
「足音も立てないやつだぞ。無理に決まってんでしょ」
「昔のお前ならそれくらい乗り越えていたな」
「昔は昔。今は今」
「お前も弱くなったようだな」
「弱くない。トレーニングは毎日してる。リコリスを守るのが俺の仕事だからな」
「庇うのと、助けるのでは意味が違う」
「それでも、守ったんだから良い。千束達は無傷だろ」
「だが、お前は死にかけだ。組織の長としては改善の余地がある。どういうふうに命令すれば隊員を減らさずに済むか…とかな」
「それは現場の判断が優先されるだろ」
「まぁ、何はともあれ、無事でよかったよ」
「………」
蒼真は珍しく素直な言葉を発した楠木を不思議な目で見てしまった。あまり感情を表に出さない人が、こういう素直なセリフを言うことに驚いた。そして逆に疑ってしまった。
「それはどっちの意見?」
「どういうことだ?」
「母親としてか、司令としてか」
「さぁな。今の台詞はどちらとも使えるな」
「素直に心配したっていえばいいじゃん。わざわざ病院にまで来てさ」
「そうだな。そう思っていればいい」
二人の会話はこれくらいが普通。傍から見れば仲の悪い親子だがこういう風に楠木と会話できるのは蒼真だけだ。
「お前も変わったな」
「変わってないよ。リコリスを守るのが俺の仕事だ」
「以前までは庇うような守り方はしなかった」
「……」
「以前のお前は、逃がす守り方をしていた。自分の命と相手の命を考えて戦えていたな」
「んだよ。何が言いたいのさ」
楠木はふっ、と笑う。
「お前も惚れた女には弱いということだ」
「むっ……」
蒼真は図星を突かれたように眉をひそめる。
「好きな人なんだからあれぐらいが普通だろ。むしろ」
「あぁ、その通りだ。親として人らしく生きているお前が誇らしいよ」
「何が親だよ。栄養剤のカプセルの中に入ってた俺を育てただけだろ」
「だが、【side B】を作るまでに育てたのは事実だ。赤ん坊の頃はお母さんと呼ばれてたからな」
「それはもう昔の話だろって。俺はもう……一人の人間だよ」
視線を窓に逸らした蒼真を見るなり、楠木は鼻で笑い、部屋を出る。
「朝には家に帰って良いそうだ。気をつけて帰れよ。あと報告書は相方に任せてある。気にするな」
「う〜い」
・・・・・・
「じゃあ、帰りは気をつけな」
「はいす。ありがとうございます。山岸先生」
「いつもの事さ。しかし、いいのかい?相方も千束も呼ばなくて」
「今は仕事中だと思いますし、大丈夫ですよ。連絡はこっちからしとくんで」
「そうかい。なら気をつけて帰るんだよ」
「はい」
蒼真は軽く頭を下げて、病院を後にした。
「ティークにだけは連絡しとくか」
スマホを取り出してティークに退院のメッセージを送る。すると、すぐさま返信が返ってきた。
『もっと早く連絡しろ。付き添いは行けないぞ』
なんだかんだ心配してくれているティークのメッセージを見て蒼真は小さく笑う。
『別に大丈夫。暫くは任務に出るなだって』
『店長に伝えるぞ。いいな?』
『頼む。でも、千束には言わないでくれ』
『なんでだ?』
『心配かけたくない。もし聞かれても、大丈夫ってだけ言っといて』
それから返信が一拍置いて返ってきた。
『分かった』
蒼真は多分分かってないと思いながらも家へ帰った。
・・・・・・
「ん?」
帰宅して直ぐに掃除、洗濯をして、洗濯物を干していると蒼真のスマホが鳴った。着信元を見ると千束だった。あんまり出たくないと思いながらも、蒼真は電話をとる。
「はい。蒼真ですけど」
『ちょっと蒼真!?病院から帰ってきたなら連絡してよ!』
「いや、仕事中だろお前。そんなんで呼び出す訳にはいかないだろ」
『平日なんだから人少ないの!暇だったんだから!』
「いや、言っちゃダメだろそれ」
『とにかく今から家に行くから!山岸先生の言いつけ守ってるから見に行くから!』
「は?いやお前だって守らない───切られた…」
そうして暫く経つと、家のインターフォンが鳴る。
扉を開ければ心配そうな顔をした千束が居た。
「もう…大丈夫なの?」
「ぁまぁ…一応、山岸先生にはオーケーもらって帰ってきたけど、わざわざ家に来なくてもよかったのに。リコリコ終わってから来たんだろ?」
「だって心配だったんだもん。一人で帰るってティークさんから聞いたから…」
「アイツ…」
舌打ち混じりにティークを呼ぶ。蒼真は頭を少し掻くとため息を吐く。自分の容態を含めて、今千束には会いたくなかった。余計な心配をさせたくないと、だから病院からも一人で帰った。
「いやまぁ…ありがたいんだけどさ…その…」
「何よ。退院したばかりなんだから、誰か付いてる方がいいでしょ?というか、私がそうしたい」
「いや〜、その〜…」
珍しくウジウジしている蒼真を見て千束も少しムッと顔をむくれさせる。
「むぅ…言いたいことがあるなら言ってよ」
「………いや、俺さ、今目紅いだろ?」
「あ、そういえば確かに」
蒼真の瞳は紅いまま。普段生活するだけなら瞳は紅くなる事は無い。だが今の蒼真は落ち着いているのに瞳が紅くなっている。千束が覗き込むと蒼真は恥ずかしそうに目を逸らす。
「ちょっと逸らさないでよ」
「なんで紅いのか説明するからちょっと待て」
「何したの?」
「いや、こないだの任務で紅いまま結構な時間動いてたから、その反動っつーか、なんつーか…目の色…元に戻んなくて……」
「ぅぇ!?待ってじゃホントにヤバい状態じゃん!やっぱり一緒に居た方がいいって!」
「違う違うッ!普通に生活は出来る!何も問題はない!問題は無いん…だけど…」
蒼真の容態が分からない上に妙にギクシャクしている蒼真に千束は更に首を傾げる。余計に何も分からなくなってしまった。蒼真の言いたいことも汲み取れないし、千束が考えていることも間違い。蒼真はなんとも切り出しそうで切り出せない。話題の出し方を忘れたような話し方をする。
「私…なんかした…?その…やっぱり私のせいだったりするの?」
「そ、そんなことない!そんなことあるもんか!いや…その…今、お前が隣に居ると…」
「今隣に居ると…?」
千束がおずおずと尋ねると、蒼真は顔と目を赤くして恥ずかしそうに答える。
「この目のせいで…我慢が…きかないって…いうか…」
「我慢が効かないって…なにそれ?」
「いや…理性的な問題……」
「りせいてき?…な?って………っっっ!!!」
蒼真の言ったことを反芻して、今の状況を重ねると、千束の顔はみるみるうちに赤くなった。
「なっっ!!へ、変態!あほぉ!せ、せっかく善意で来たのにそういうこと言うかね普通!」
「だから言いたくなかったんだよ!だから帰れっつったの!」
「ばばば馬鹿じゃないの!?退院して直ぐに発情してるとかホントにッッ…ホントにっっっ……!」
蒼真は体質上、集中力が増したり、感情が昂ると、瞳が紅くなってしまう。その『昂り』の中には性的な興奮も混じっている。瞳の色が戻らないというのは常にその状態が何かしら維持されていると言うこと。だから今の蒼真はほんと少し変わった発情期のようなものだった。
そして言い争いのような大声を出した後に返ってきた静寂。あまりにも居心地が不安定過ぎて千束は思わず後ろを向いてドアノブに手をかけようとする。
「じゃ、じゃあその言葉通りに帰った方がいいよね。うん。そうしよう。一人で安静にしてた方がいいにキマッテルヨネ。ウン。」
誰に言い聞かせているのか後半からロボットのような声になりながらもドアノブに手をかけると、千束の手に蒼真の手が重なって抱き寄せられてとめられる。
「───いや何言ってんの」
「っっ!!」
ビクッ、と肩を揺らす千束に蒼真は体を擦り寄せて後ろから呟く。
「もう来たんだから、帰すわけないだろ」
「ぁ…ぅ…」
男性の手と男性の体に抱き止められて、千束の体にも熱がこもる。蒼真の手もわかりやすいほどに熱くなっていて、千束の体は自然と力が抜けて蒼真の方へ倒れ込んでしまう。
「『看病』してくれるんだろ?」
「そういうのじゃ…ないし…っん…」
少し強く抱き寄せられると、その刺激に千束は少し身悶えする。
「お前だって人の事言えねーじゃんよ」
「誰のせいだと思ってんのよ…」
「お互い様だろ」
「違っ……んんっ!!」
言い訳をしようと後ろを振り返った瞬間、千束は蒼真に唇を少し強引に塞がれる。押し付けられるように重なった二人は玄関の扉の前でその温度を確かめ合う。
「ちょ…つよ…いってばっ…んっ!」
実に何ヶ月振りの愛撫。しばらく忙しくて二人の時間が取れなかったのもあり、一度始まるとお互いにヤメ時が分からなくなるもので、口を離しては着け、離しては付ける。その繰り返し。啄むようなキスは既に終わって、今度は互いの口内を確かめ合う。
「ん…んん…ぁ…ん…」
千束の瞳が垂れ下がる。恥ずかしがってた態度は消えて、蒼真を離すまいと抱きしめる。それを悟ったのか一旦キスの雨が止む。
「ここ…玄関なんたけど…このケダモノ…」
「いや結構限界なんたけど…ここじゃダメ?」
「やだ…ベッド行こ?…普通に恥ずかし───ぁんっ」
腰を抱き寄せられて、無理やり目を合わせる。千束はそれに抗えない。見つめられると、不思議と体の力が抜けていく。玄関の棚にもたれ掛かり逃げられなくなる。蒼真はそんな微熱を千束へ移すように、千束の肩に顔を乗せる。
「千束の体、柔らかくてすげー興奮する」
「そういうこと言わないでよ…めっちゃ恥ずい…」
「可愛い」
「だっ!…からぁ。そういうの言葉にしないでよぉ…」
「触っていい?」
「もう全部触ってるじゃん…聞かないでよ」
「まぁ…一応さ」
そう言いながらも蒼真は千束の体を撫でながら、匂いを嗅ぐ。
「ちょっとっ、嗅がないでよ」
「風呂上がり?」
「シャワーだけは…一応ね」
「すげーいい匂い。素の女の子匂いってやつだよな」
「意味わかんないし…あっ」
そのまま、蒼真は腰に巻き付けていた手を千束のお尻の方へ下ろしていく。綺麗な曲線の腰から浮き出たシルエット。柔さも抜群で、これに魅了されない男子は居ない。蒼真の抑えている息も少し荒くなる。
「お尻っ…ちょっと…揉まないでよ…んんっ」
「千束の体久々だからヤバいかも…」
聞いてはくれない彼氏に千束は呆れながらも抵抗はしない。むしろ受け入れるように抱き寄せている。
確かめるように動く手が千束を少しづつ溶かしていく。耳元で吐かれる吐息と小さく喘ぐ声が蒼真にとって心地よい。
「脱がしてい?」
「玄関だからやっ…だ、はぁっ…ん…」
「じゃ、片足あげて」
「やだぁ…っ、そう、ま…んっ」
グズグズ嫌がる千束をよそに蒼真はまた唇を塞ぐ。尻を撫でている手が、ゆっくり太ももを撫でて、持ち上げる。女の子らしい下着が濡れていて太ももまで垂れてきていた。
「……まだキスしかしてないんだけど」
「それでも濡れるもんは濡れるの…」
赤くなった顔を隠しながら、千束は言う。蒼真はそんな余裕も無く、ズボンを脱ぐ。出てきたイチモツをみて千束は更に息を荒くする。
「ねぇ、おっ……きぃん…だけど…?」
「いや、何週間ぶりだと思ってんだよ。普通はこうなるだろ」
少し怖がっている千束を見ると蒼真は千束を反転させた。
「え、ちょ、何?」
「この体勢ヤッたことないからさ」
いわゆる、バックと呼ばれる体位へ変える。
「ま、まって、これでやるの?」
「ん…」
もじもじと濡れた秘裂を隠すように脚を擦り寄せて千束は蒼真の顔を覗く。だが、その動作が千束の大きなお尻を揺らしていてまるで誘っているように見えて仕方がなかった。
「ケツ、揺らしすぎ。誘ってんでしょ」
「ちがっ…んっ…ちょっとぉ、揉まないでよ…」
ぐにぃ、と手に力を入れると大きく形を変える千束のお尻と吸い付くような肌。やめてと口では言っているが一切抵抗はしない。蒼真は自分のイチモツの先を千束の秘裂に少し擦り付けると、千束は体を弾ませて反応した。
「っ…んっ」
「悪い。千束…」
「ぅえ?───あ゙っ!?」
蒼真はたまらなくなり、千束のナカへ突っ込んだ。
「ちょ、まっ、そう、まっ…!まっ、まってっ…!いきなりはっ───」
「っ…ちさ、とっ!」
淫らな水音と千束の喘ぎ声が蒼真の心を駆り立てる。玄関先にも関わらず蒼真は本気で千束を犯す。バックで突き立てるイチモツが千束のナカを掻き乱す。最奥を突かれる度に、膣が締まり蒼真から精液を搾り取ろうとしてくる。いつの間にか繋いでいる手も離さずに、千束は蒼真に犯される。
「お前、本当はMだろ」
「違うっ、そんな変態じゃないからぁっ…!」
「コレ、全部千束の音だけど?」
「恥ずかしいから言わないでってばぁ!───ひゃぁん!」
少し上向きで突いてやると千束は大きく喘ぐ。その声が蒼真にとっては甘美な喘ぎに聞こえて仕方ない。こんなにスタイルも顔も良い女をいいようにできるその支配欲が蒼真の中で大きくなってきた。しかしそれは行為中のいつもの事だった。
「マジで、千束の体ヤバい。全部柔らかい最高」
「あっ、んっ、ちょっと、おっぱいまで、全部触るの、だ、だめ、だめぇぇ…!」
千束は服の中へ手を入れられて、ブラの上から胸を掴まれる。蒼真の荒い息遣いと、激しいピストンが止まらないまま、今度は胸を弄られる。乳首をつねられたり、そのまま揉まれたり、蒼真は欲望のままに止まらない。
「ひゃぁっ!そんなっ、一気にされると、私っ…もたないからぁっ…!」
「千束っ…!千束っ…!」
「もっ…だめっ、イッ…ク、イクッ…!っ、っっ〜〜〜〜〜〜!!!」
「っぐ!」
千束と蒼真は同時に果てた。いつぶりかも分からない射精は千束の子宮を満たしていく。少しの時間では止まらない射精は千束の中を満タンにしてもとまらなかった。
「っはぁ…はぁ…ははっ、すげー出た」
「ばかぁ…ナカに出したぁ…」
「出来ないようになってんだろ?」
「こういう時ばっか言うなぁ……ん…」
千束の唇を塞いで、膣からイチモツを引き抜いた。
「なんで、まだおっきいのさ」
「一回で終わるなら俺だって苦労しないよ」
「さいてー」
「………」
「………」
「ベッド行くぞ」
「…ん」
・・・・・・
「………んぅ」
千束は少し目が覚めた。時計を覗けばまだ皆が寝ている時間。蒼真も隣で呑気に眠っている。子供のように寝息を立てて上下に動く蒼真の体。胸に耳をすませばしっかりと動いている心臓。生きている。その感覚が、千束を少し安心させた。
「ほんと、無茶ばっかしてさ。ばーか」
なんて嬉しそうに頬を優しく一突き。
んにゃ、と子供のように寝言を垂れる。
「でも、かっこよかったぞ。そーま」
ふにゃりと笑顔に溶けて、千束は蒼真に寄り添うように眠る。その夜はとても静かな夜だった。
・・・・・・
「ん……んんぅ……」
蒼真はカーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚める。寝返りをうとうとすると、隣に違和感を感じて目線をやる。すると、そこには自分の腕の中で眠っている千束がいた。相変わらず、眠っている顔はお姫様そのものだ。
「昨日はやり過ぎたな…」
艶やかな髪を撫でながら、昨日の事を後悔する。賢者モードに入ってから千束に無理をさせたと後悔するのは最悪な事だ。けれど、千束が自分に会いに来てくれた事が嬉しかったのも事実で、蒼真は隣の机に置いてある箱を見た。
「とっとと、渡した方がいいよな」
その小さな箱を見るなり、自分の意気地無しな所が嫌になって小さくため息を吐いた。
箱の中身は一周年記念のプレゼント。それこそ渡す暇がなくてずっと机の上に乗っていた。千束と宮古島へ逃げるまで、蒼真もこうして生きていることはなかったはずだった。【side B】は保護対象のリコリスと同時期に『造られる』。だから、保護対象のリコリスが出荷の時期になったら【side B】の職員も必然的に不必要となり処分される。それが、蒼真達の組織の仕組み。しかし、今回それが例外として無くなった。ティークも蒼真もまだ生きている。そして、蒼真とティークの寿命は普通の人間と同じになった。真島との一件で色々変わってしまった二人の運命はこんな形で幸せとなって訪れていた。
「んぅ……」
そうこう考えているうちに、千束が目を覚ました。
「おはよう。千束」
「おぁよ…」
くしくし目を擦り、また蒼真の胸に顔を乗せる。二度寝を決められると面倒なのでそのまま千束を起こす。
「ほ〜ら千束、朝だから」
「んん……まだ寝る…」
「今日は出かけるんだろ。朝ごはん食べよう」
「んぅ…」
・・・・・・
「ふぁぁ〜……」
朝ごはんの後の皿洗い。二人で台所に立っていると千束が大きな欠伸をした。
「眠そうだな」
「昨日は何処かのケダモノのせいで寝不足ですぅ〜」
千束が蒼真に体をトン、と当ててくる。少し顔が赤い千束に対して蒼真は可愛いなと微笑む。今度は千束がその顔に対して赤くなる。
「そういう顔出来るのなんかずるい」
「そうやって赤くなってくれる千束も可愛いよ」
むぅぅぅ〜…。と本当に納得していなさそうな顔をする千束。そうして思わず蒼真は吹き出した。
「ぷっ…ははっ!じゃあ、ずるいついでにもう一個。手ぇ拭いて待ってて」
「んぇ?」
蒼真は言うと茶の間へ行く。千束は言う通りに手を拭き蒼真を見送った。直ぐに戻ってきた蒼真の手には小さな箱が一つ。その中から小さいリングを取り出して千束へ近寄る。
「手、貸して」
「え、ちょ…」
そのリングをゆっくり千束の薬指に通すと、再び二人は目を合わせる。
「これ…」
「一周年記念のプレゼント。『約束』を果たせるようにするお守り。恥ずかしい話、これはまだ本物じゃないんだけどいつかきっと、本当の意味でそばにいれるようにするから。だから…」
蒼真の瞳は紅くなる。
「これからも、俺の傍にいてくれますか?」
「っ……っっ……!」
「千束…?いやまぁ、らしくはないって思ってるけ───っとと!?」
感極まってしまった千束は思い切り蒼真に抱きついた。
「朝から泣かせるなバカヤロー!っていうか急すぎてびっくりしたわ!」
「タイミング失ってたんだよ!本当はもっとこう…」
こうして消えかかっていた二人の間に『約束』がまた増えた。
『いつまでも、傍に居る』という約束が。
終わり。
「へっへ〜ん!蒼真からペアリングもらっちった〜!」
「ペwアwリwンwグw。蒼真もまだまだね」
「なにお〜?ミズキだって誰からも貰ったことないくせに〜!」
「アイツが私に相談してきたのよ?どうすればいいですか〜?って」
「どうせロクなアドバイスもしてないんでしょ。ミズキだってほぼ無経験だからに〜」
「うっさいわね!いつかアンタの男よりも良い男掴んでやるわよ!!」
「はい負け惜しみ〜!!」
「きーー!!!!」