前に言われた嘘。
『大丈夫。私は死なないよ』
目の前の本当。
『もって、2ヶ月ってとこだね』
もう、何もかも分からなくなってしまった。
・・・・・・
心配して一言入れてみれば、貴方はまたそんなヘラヘラと平気な顔で誤魔化してくる。こっち事なんて何も考えないで、ただただ、ずっと私に大丈夫と押し付けてくる。そろそろ、私も我慢の限界だった。その類の言葉はもう聞き飽きていた。
「いい加減にしてください!!!」
気休めにもならない、怒りを買うだけの言葉なのに千束は、ニコニコと、ヘラヘラと、いつも通りに接してくる。接してくれる。だからそれが嫌だった。
私の心配はどうでもいいのか。
こんなに与えてくれたのに何も知らん顔して私の目の前から消える気なのですか千束。
感情が爆発してしまった私は、そのままリコリコから逃げ出すように帰って行った。
雨が降る。傘もささないで家まで歩いていく。
傘を持ってこればよかった。でも、今はこれでいい。
ちょうど頭を冷やしたかった所だ。冷静に考えて言い過ぎただろうか。こっちも千束の気持ちを考えなかった。
『いいのよ』
鳴り止まない。千束の薄い励ましが。
止めどなく流れてくる千束との思い出がポタポタと自分の目から落ちてくる。
「っくそ!!!」
壁を殴り付ける。手が痛い。
でも、他の部分がもっと痛い。
彼女の声を聞きたい。
彼女の声は聞きたくない。
「どうして…私はっ…」
ズルズルと壁に崩れ落ちる。目を閉じても思い出が蘇るのが止まらない。勢いが増すばかりで、いつも映る千束は遠くで私を見て笑っている。安心しろと、私はいなくなっても大丈夫だと、
「そんなわけないでしょう……」
橋の下にいた私はいつ間にか勢いが増した雨に逃げ場を無くされてしまった。さっきからずっとこの調子だ。
雨も、私も、雨の日は気分が沈んでしまうと言うが、ここまでとは最早笑ってしまいそうだ。
虚空を見つめる私にはこの雨が何か言っているようにも見えた。だが、何を言っているかは分からない。
ただの雨だ。そう、ただの雨。
「なんで、そんなに冷たいんですか…」
誰に話しかけたんだろう。どうして今言葉を発したのだろう。雨にでも同情を求めてるのだろうか。
せめて今ぐらいは、この雨も逃げ場のない私ではなく。
行き場のない私ではなく、他の人を選んで欲しかった。
・・・・・・
「はにゃ〜、怒っちった」
「アンタもいい加減にたきなに謝ってきなさいよ」
「だぁってさぁ……別に気にする事はないって言ってんだけどなぁ…」
ミズキの言うこともわかる。
言えばこうなるとは分かっていた。
だから、言わなかった。言いたくなかった。
でも、なんでたきなに黙っていたのかは自分でもよく分からなかった。
どっかのタイミングで言えばよかったのかな。
思い出を反芻して、考える。
あの時かな。もしかしてたら、あの時にかも。
過ぎた思い出ばかり蘇る。もうそんなこと気にしても仕方ないのに。それでも、たきなは私の為に泣いてくれた。罪悪感なんてらしくも無い感情が出てくる。
「千束、仕事だ」
先生がいつも通りの声でやってきた。たきなを泣かせてしまったお仕置だろうか。
仕事なら今はほかのことを考えるのをやめよう。
どうせすぐにたきなも戻ってくるだろうし。
「あ〜い、りょ〜かいっ」
どうせ、私が悪いんだから。
・・・・・・
「ねぇ。たきな、今日は一緒に寝ない?」
「え……?」
言い出したのは私だった。何を言っているか分からないと言う顔をしたたきなを面白がりたいとかじゃなくて、手を出したいと、たきなを犯したいと、そう思ってしまった。性的に、と言うよりも、何か空いたものを埋めたい気分だった。何故かなにかしがみつくものが欲しかった。今までそんな事は考えたことなかったのに。だから、別に抱きつくだけでよかったし、何もキスまでとかそういう気分ではなかった。
流された私も悪かったし、流されるような気持ちでやったたきなも悪いと思う。
でも、これだけは、本当に私が悪い。
「千束は誰にでもこういうことをやるんですか?」
「んぇ?」
一頻りたきなを堪能した後、スマホを弄っていると寝てると思っていたたきなが喋りかけてきた。
誰にでも…そっか…そうだよね。今この瞬間の私はそういう風に見えたんだよね。ん〜、でもまぁ、他の人とヤッた事がないのはほんとだし。
「そんな事ないよ、たきなだけだよ」
とりあえず笑顔で取り繕う。嘘は言ってないし別に大丈夫でしょ。そんな事よりそのたきなの顔が赤く染っているだけなのに妙に可愛く見えてくる。
「ねぇ、たきな…、もっかい、いい?」
「え、ちょっと、千束っ…」
・・・・・・
「あっちゃ〜、あん時かな〜」
余計なことを考えるなって自分で言ったのに、色々考えている内に何故か悪い輩が道端に並んで倒れている。
マガジンのゴム弾も予備マガジンもいつの間にか無くなっていた。執拗に撃ちすぎただろうか。またたきなに「無駄弾は撃たないでください」って怒られちまうぜ。
「まぁでも…」
こんな奴らのせいで、たきなが居なくなるよりはマシかな。
「ん?」
なんで…?なんでたきなが居なくなるって話になった?
なんで?どして?あれ?なんでだ?
私は、その場で蹲り考える。
なぜ今たきながいなくなる前提で話をした?私は、たきなの事が好きなのか?いやでも違うだろそれは。私はたきなをDAに戻したいんだ。だから、それを応援するって決めたんだ。たきなが居なくなっても、何も…。
「っえ?」
突然上から瓦礫が降ってきた。
・・・・・・
「え、店長!それは本当ですか!?」
『あぁ、千束と連絡がつかなくなった。クルミに千束の位置を送らせた。急いで向かってくれ』
「分かりました!」
どうして、また、いつも、貴方は、一人で。
・・・・・・
瓦礫が落ちてきた。どうやら、意識のある奴がいたらしい。ソイツが爆弾でも爆発させたんだろう。
「あっちゃ〜、閉じ込められちった」
動いたせいでスマホもどっかに行った。
何故か綺麗に私だけが埋まらないで、その場に立ち尽くしていた。運が良かったな。でも、瓦礫に囲まれて、何も出来なかった。だから、また蹲る。
「このまま死ぬんかな〜」
ありもしない事を言ってみる。でも、ここで死ぬなら別にそれでいい。誰の顔も見ないで、誰の目にも届かないで、眠るように死ねるならそれでも。
(千束!)
オゥ…やばい幻聴まで聞こえ始めてきた。
たきなの顔は綺麗だし可愛いからいつまでも見ていたい。だから、何か用があるわけでもないけどたきなの顔を見るのは好きだった。ちょっと不機嫌そうに睨んでくるその顔も、美味しいものをアーンした時に嬉しくなっていたその顔も、私がふざけた時に笑ってくれたその顔も、全部全部好きだった。
蹲っている体を更に縮こめて、独りを紛らわす。
「うぉぉぉマジか。私たきなの事好きだったのか」
全部好きだった。抱いた時も、多分好きって言ってたと思う。
あ〜あ、ほんっと、たきなに嘘ばっかり言って、自分のこと誤魔化して来たんだな私。
別に何か聞くわけでもなくそばに居てくれた時もあったし、ちょっと泣いた時はあの綺麗な指で涙を吹いてくれた。歩く時はしっかり隣で歩いてくれた。
ほんっと、バカだな…私は、またたきなの気持ちを考えないで全部押付けてたんだ。
「あ…」
ポロポロ涙が零れてきた。
罪悪感と自分への怒りと孤独と。
そして、何よりも、今は死にたくないと思ってしまった。止まれ……止まれ……今泣いたって全部遅い。
もう、戻らないんだ。受け入れろ。受け入れろ。
止まれ。
「いやだ」
受け入れろ。
「いやだよ」
私は。
「私は」
もうすぐ死ぬんだから。
「死にたくないよ……」
なんでこんな事を今更考えてしまうのか。
今の私には分からなかった。分かりたくない。
この気持ちを理解してもどうせ死ぬんだから。
もういい。もういい。全部嫌いだ。全部消えればいい。
「千束!!」
「っ!?」
いつの間にかたどり着いていたたきなが目の前にいた。
私に必死に手を伸ばしている。あんなに手がボロボロになるまで探してくれてたんだ。こんな私を。
「手を!千束!」
届きそうで届かない距離。指先も触れ合えない。
私とたきなの今の距離みたいに。なんだか、私が自分から遠ざかっているような気がする。今この手を取ったらどうなるんだろうか。交わらないこの距離で。
私は、戻れるのだろうか。
「いい加減にしてください!」
「えっ」
「またそうやって、自分で勝手に思い込んでるんですよね!?」
「……」
「そんな事はどうでもいいです!説教なら後で沢山します!だから、私の手を握ってください!」
「っ!」
救われた気分だった。
光が差し込んだ気分だった。
伸ばした手はしっかりたきなが握ってくれた。引っ張り上げる時もずっと強く握ってくれた。
「千束、大丈夫ですか?」
「たきな…」
とにかく抱き着いた。どこにもいかないように。
また自分勝手にたきなを抱き留めてしまった。
顔を伝うこの雫は何の雫だろうか。雨か涙かも分からずに。
「ごめん、たきな。私また勝手に…」
「もういいですから…とりあえず、うちに帰りましょう」
「うん…」
・・・・・・
「では、千束。また明日来ますので」
「待って!」
あの後は、とりあえず店長へ千束の無事を報告。クリーナーを呼び、山岸先生へ検査の予約を入れて、近くの千束のセーフハウスへ帰ることにした。念の為、寝室まで付き添い、お互いに落ち着いた所で帰ろうとしたら腕を掴まれた。
「今日は一緒にいよう?」
またこれだ。正直、今は一緒にいたくなかった。
「別に私がいても何も変わりませんよ」
「いいの!……慈悲でも情けでもいいから。今はひとりにしないで…」
背中に抱きついてくる千束に対してなんだか自分でも情けないぐらいに何も言えなかった。振り向いたら今までの怒りが出そうで。
「本当はこんなこと言って一発殴られるぐらいは覚悟してたの。でも、今は違うから…ね、たきな今日は…」
「そうですか」
そうか。向こうが望んでいるのなら。
ゆっくり振り向いて、千束の顔を見た。今にも泣きそうな顔だ。こんな顔が出来たのか。私の顔は今…多分睨みつけるような表情になっていると思う。
「っ!」
バシンッ!
本当にビンタを食らわせてやった。
ムカつくぐらいに千束は綺麗にそのビンタを受け入れた。何も言わずに。痛いとも言わずに。叩いた横顔がなんとも情けなく見える。その横顔も本当に腹が立つ。
「服、脱いでください」
どうせ『一緒にいて』というのもこういう事だ。
「えっ」
「ですから服を脱いでください」
「ちが…たきな私そういうんじゃ…」
「だからっ!」
「っ!」
ベッドへ力任せに千束を押し倒す。両手を上へ持っていき、動けないように抑える。
「いつもみたいにやればいいでしょう!?」
「っあぅ!」
千束の体を揺らして脅す。今にも泣きそうな千束がもっと泣きそうになっている。泣きたいのはこっちだと言うのに。
「あれ以来、ろくに抱いてもくれない!自分勝手に押し付けて、自分だけ気持ち良くなって、何が楽しいんですか!?」
「いっ…!」
握り潰す、とまではいかなくてもとにかく千束が痛がるようにその大きな胸を掴む。グニグニ手を動かすと面白いくらいに形を変える。柔らかい胸。痛がってるのか気持ちいいのか分からない顔をしている。
「そんなっ、んっ…八つ当たりみたいにしないでよっ…」
彼女から信じられない言葉が出てきた。怒りが噴火してしまったように感情がまた爆発した私は、もうそこからは何を言ったかは覚えていない。
「ッ八つ当たりで私とセックスしたのは誰ですか!」
驚いて千束は体を揺らし私を見た。
「そうやって勝手に思い込んで!自分の都合で!好きでもない女に触れて!」
「たき…」
「オナニーしたいなら一人でやってください!」
ブワッと千束の顔が一気に赤くなる。
「違…」
「じゃぁ、好きだったとかですか!?その時はそんな気持ちなかったんですよね?えぇ!?」
「そんな聞き方しないでよ…今はっ…」
何が今はだ。
「っ!」
「んむっ!?」
めちゃくちゃだ。何もかも。
この時ばかりは千束の事を大事に出来なかったと思う。
こんな風に、かぶりつくようなキスをするとは思わなかった。なんでキスしたのかも分からない。その時はそうするものだと思った。多分口封じみたいな。
「ほら、あなたのここ。こんなになってますよ?」
「んぁぅっ…」
こんな状況でもしっかりと濡れている千束の股下。抑えてない方の片手でぐちゃぐちゃになった蜜を指で絡め取り、千束の口へ指を入れる。
「ほら、気持ちいいでしょう?千束。自分が今どんな顔してるか分かりますか?」
我ながら意地の悪い言い方だと思った。
塗り込むように千束の舌へ指を擦り、グリグリと押し込む。感じているのかなんなのか、なにか言いたげにこっちを見ている。
「あ゙ぅ…ん゙ぅ……」
「っは、そんなにこれ良いですか?」
嘲笑うかのように口がニヤケてしまう。こんな千束を見るのは初めてだったから。こんな弱々しい千束を。
蜜を絡みとっていた指を少し奥へ強く押し込んだ。
「あぅ!…っ…んぃっ…あ゙っ、ぐ…」
掻き乱す様に動かして、膣の蜜を引きずり出す。
何が嫌なのか千束は首を横に振っている。
「嫌じゃないでしょう?こうして欲しかったんじゃないですか?」
「そんな言い方しないでよっ!!」
一瞬気圧される。
「たきなだって!なんで説教してる相手に突っ込んでんだよ!偉そうなこと言ってさ!!」
涙目で、息が荒くて、ほぼ半裸で、私達はお互いを罵りあっていた。
「ッ…うるさいっ」
「んっ!」
また口封じ。何故か受け入れられる。喧嘩腰に互いの舌を舐り合う。だが、こちらの手は止めない。千束の方も膣をビクつかせて限界に近い。キスのせいで鼻息も荒くなる。それでもやめない。意地になっていただろうか。もうこの時は全部がめちゃくちゃで本当に世界が二人だけの様だった。
「んんっ…ん゙はっ…あ、あ、ん、っあ゙、たき、な」
必死に私を呼ぶその顔は。まるで…。
「ぁ゙っ、イッ、っ〜〜〜〜〜!!!」
ぎゅうう、と体を縮めて千束は果てた。膣が指を離してくれない。ビクビクと体も痙攣している。こんな事で絶頂するこの人は本当に…。
指を離してくれない膣中をもう一度膣中をこねくり回してやろうかと思ったが、
「ひっ…ぐすっ…ぅ゙……」
さすがにやり過ぎたか。
千束は私に抱き着いて泣いていた。喚かず、静かに。
嗚咽がなぜだか子供っぽい。これ以上やると面倒になる合理的ではない。だから泣きたいのはこちらだと言うのにこの人は。
「まったく…」
何故、貴方が泣くのですか…。
・・・・・・
「ん…んん…」
カーテンがまだ空いている窓に映っていたのは暗い星空だった。
「寝てた…?」
たきなとの喧嘩のような言い争いのようなものを終えて目を閉じた後の記憶が無い。おそらく寝てしまったんだ。
「あ…」
「あ」
たきなが頭を拭きながら寝室へ入ってきた。
シャワー後だ。タオルをまた首にかけながらたきなは私の横に座る。
「起きたんですね、千束」
「たきな…」
「今日はすみませんでした。完全に我を忘れてしまい…」
「わ、私だって!たきなにずっとわがまま押し付けてばっかで…」
二人して黙る。お互い悪かった、なんて言ってしまえばそれまでなのだろう。私は膝を抱えて、たきなにまた謝る。
「ほんとにごめん。たきな。なんか、その、たきなに怒られた時、凄い嬉しかったんだ」
「え…?」
「何言っても頷いてくれるたきなが本当は自分の考えを押し込めて隠してるんじゃないかって思ってた…。だから調子に乗って何でもかんでも口に出しちゃってたんだと思う…多分。ごめんなんか…上手く言えない」
「……」
その場に置いているたきなの小指を摘むように掴む。
今自分から手を握ると怒られるから。また、私が求めてしまうから。
「そうですね」
たきなは言いながら私の手を握ってくれた。
「私も、気が動転してたのは同じです。だから、こうならないように、二人でゆっくり考えましょう」
儚げなたきなの笑顔はやっぱり私を昂らせる。
でも、今はキスだけ。今はこれだけでいい。
「ん……」
「はい。シャワー浴びてきてください」
「んふふ…うん」
なんにもない。しがみつく所がないのに、たきなは私の前で手を差し伸べてくれている。
今度は、きっと違う。ちょうどいい所にいたからなんて変な理由じゃなくて。言い訳なんかじゃなくて。
もっと。
当たり前な。
普通の距離で。
たきなこれぐらいキレても良かったんやない?
って思いました。僕は少なくとも千束のあぁいう態度にはキレると思います。