※この作品はR-18です。

リコリス・リコイル SSまとめ   作:扇 漱真

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たきなのキレたやつの少し前の話。
ミカとたきながお話してます。
千束がまだ病院で入院してる頃の話。


Why cigarettes taste bad

「たきな。どうだ?一杯」

「え…?」

 

帰ろうとしたら不意に店長から止められた。

何か叱られることでは無い。どうやら、自分のブレンドのコーヒーを飲んで欲しいらしい。でも、別な理由があるのはすぐに分かった。

 

「さぁ、飲んでみてくれ」

「ありがとうございます。いただきます」

 

いつものは違うコーヒー。それでも、私にはよく分からなかった。何が違うのか、豆か入れ方か…よく…分からない。

 

「無理して感想は言わなくていい。俺が聞きたいのは最近のたきなの様子についてなんだ」

 

やっぱりか…。千束の心臓が治って以来、私はいつものように笑えてなかっただろか。コーヒーの水面に映る自分を見て目を細めてしまった。悟られたか。

 

「やっぱりな…千束の事か?」

 

悟られてしまった。

 

「はい。多分…」

 

カチャリとマグカップを握る手が揺れた。

 

「気にするな。アイツは元々ああいう奴だ。今回のはたまたま全て上手くいっただけの事だ」

 

店長が言いながら煙草を見せてきた。吸いたいのだろうか。別に煙草が平気な私は頷いた。

 

「それが許せないのなら、帰ってきた千束に少し文句を言ってやるといい。今まで散々振り回された分のな」

 

吐いた煙が宙を舞う。目で追っていた煙が消えて私はカップに視線を戻した。

 

「でも、そんなこと言っても…」

「隠す必要はないだろう、千束には。お前の本心を」

「隠すなんて…」

 

不思議と煙草が目に入る。

何か、特別なことでもあるような。

それでも、ただの煙草だ。

それでも、やたらと目に入ってくる。

 

「店長、煙草吸うんですね」

「ん?あぁ、多少な」

 

言いながらまた煙を吐く。

 

「なんで、吸うんですか…?」

 

素朴な疑問だった。体に悪いと散々言われてるのに、吸う人は吸い続ける。

 

「そうだな。罪悪感を感じた時。だな」

「罪悪感…?」

 

よく分からない。

 

「吸ってみるか?」

「え……」

 

差し出された一本の煙草。自然と受け取ってしまった。

なんの躊躇いもなく。軽い…なんかほんとにただの草の詰まった棒だ。咥えると……なんか変な味。草を食べるとこんな感じなんだろうか。持ち方も…店長のを真似てみる。

 

「火をつけたら、軽く吸ってみてくれ」

「はい」

 

店長は火を付けてくれた。言われた通りに私は軽めに煙草を吸う。

 

「ぅ…!?」

 

一気に流れ込んでくる嗅いだことの無い香り。

蒸し暑さ。

飲んだことのない味。

素直にまずい。これだけは言えた。

 

「げほっ!げほっ!…ま、まずいですっ…これっ」

 

店長はそんな私を見て笑った。

 

「そりゃぁ、そうだろう。だが、これで千束よりも先に大人の階段を登ったな」

「そうでしょうか…げほっ…」

 

言われてもピンと来ない。こんなのを吸っても体が成長するわけじゃない。時間が進むわけじゃない。訳が分からない。

 

「そう、煙草は『まずい』んだ」

 

店長はやたら意味のある言い方をした。

まずいのを分かってて吸ってしまった自分を恨んだ。

大人はこんなものを吸っている。やっぱり分からない。

自分にはまだ理解できない領域だろう。嫌がるように煙草を見やる。

 

「だが、この『まずさ』にはいろんな『まずい』が隠されてるんだ」

「え…?」

 

色んな…?

 

「煙草を吸うことがまずい。この煙を吸うことがまずい。煙草の味がまずい。あれがバレるとまずい。隠し事が見つかるとまずい。騙してしまった事がまずい。そんな、色んな『まずい』を、色んな罪悪感を、いろんな焦りを、こうして吸って…」

 

店長が煙草を吸った。そして、天井へ向けてまた煙を吐いた。

 

「こうやって、吐いて飛ばすんだ」

 

ユラユラ揺れる煙草の煙。それはやがて天井へ着く前に消えて無くなる。

 

「俺はもう、色んな事を隠して、騙して、こうして煙にして消してきた。だからもう、煙草の味なんて分からないんだ。だが、たきなは煙草を吸ってどうだった?」

「美味しくない…ですね。『まずい』です」

 

自分の煙草を見る。店長は優しく微笑んでくれた。

本当に暖かい人だ。千束のお父さん。そう言われると納得してしまうのもわかる気がする。

 

「それは、たきながまだ隠し事をしなくていいからだろうな」

「え…?」

「俺は、千束の心を、本心を、理解出来ていなかった。最後の最後まで迷い続けてしまった。そして、千束に許しを乞うてしまった。情けないやつだよ」

「それは…」

 

その時の会話が分からない。だから何も言えない。

無理矢理何か言うのは、千束と店長の間に入るのは出来ない。

 

「いいんだ、今はたきながいてくれるだろう?」

「私が、ですか」

「俺は、たきながこんなに千束に寄り添ってくれて嬉しいんだ。一緒にここで働いて、一緒にリコリスの仕事して、一緒に帰って、一緒に遊んで。たきなの事を話す千束は本当に嬉しそうで楽しそうな顔をしてるんだ」

「……」

 

そんな…事が…。

 

「だから、この煙草の『まずさ』は千束に正面から向き合ってくれた証拠だ。隠し事がない。罪悪感がないってな。俺はもうそういうことがないから煙草の味も分からなくなったんだ」

 

店長は私から煙草を受け取り、灰皿で火を揉み消した。

 

「今、千束とどう接していいか分からないんだろう?」

「っ……はい……」

 

本心を突かれてしまった。色々なことが急に起こって私はまだ戸惑っている。千束にはどう接していいか、いつも通りにしたいのは山々だが、何故か一歩引いた距離を保ってしまった。術後に病室で会った時も会話があまり弾まなかった。

 

「気にする事はない。千束はお前の事をずっと見てくれているよ」

「ん…」

 

店長が私の頭を撫でてくれる。暖かい手。本当に。

私にも、父親のように接してくれる。本当に暖かい人。

こんなに優しい人に出会えて、千束には感謝しないと。

なんだが、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「そうだな…それでもまだ迷ってるなら、やっぱり文句を言ってやるべきだな。自分の本心をしっかり伝えて、これからも千束の友達として、居てやってくれ」

「ふふっ…千束と喧嘩になってしまうかもしれませんね」

 

店長も微笑んでくれた。

 

「そうだな、だが、今の二人にはそれぐらいが丁度いい。お互いの意見をぶつけ合ってきたんだ。それぐらいなんともないさ」

 

そうか…。

 

「そうですね」

 

なら、私は、千束が退院するまでに千束とどう接するべきか考えてみよう。今までずっとわがままばっかり言ってきた千束に。こちらのわがままでも言ってやろうか。困った千束の顔を想像すると可笑しくて笑ってしまう。

あぁ、明日からのやりたい事が決まった。目的があるって本当にいい事だ。合理的だ。

だから、まずはそのための一歩を踏んでみよう。

 

「んっ…!」

「お?」

 

店長に入れてもらったコーヒーをしっかりと味わい飲んだ。感想なんていらない。そう言ってくれたけど、いただきますは言った。なら、次に言う言葉がこれだ。

 

「ごちそうさまでした。美味しいコーヒーでした。ありがとうございます」

 

目の前の景色が変わったように見えた。迷っていた分。

私は違う景色を見ていたんだ。店長には本当に感謝しか出来ない。ありがとうと言い尽くしても足りない。

本当にお父さんのような存在だ。私にも家族がいたのならこんなふうなお父さんがよかった。

 

「もういいのか?」

「はい。煙草とコーヒーをありがとうございました。お父……っ!?」

 

思わず口を塞いでしまった。それを聞いた店長は大きく笑った。

 

「そうか、たきなからもお父さんと呼ばれてしまうか」

 

店長は一度下をむいた。だが、直ぐに向き直り笑顔で頷いた。

 

「ありがとう。たきな。気をつけてな」

「…はい。お疲れ様でした」

「あぁ、煙草。吸った事は千束には言うなよ」

「はい!」

 

だから、私も笑顔で返した。

リコリコのドアから出た時店長が独り言を言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。

さぁ、明日からはやりたい事を考えよう。

次千束に会う時にどんな顔をするか、どんな挨拶をしようか、私は星空を見上げて歩き出した。

 

・・・・・・

 

「これで、ようやく二人も、立派に一人立ちか…」

 

煙草を吸い、煙を吐く。

 

「親としての勤めを果たせた…か。今の俺にそんな資格があるだろうか」

 

煙草を吸い、煙を吐く

 

「あぁ、やっぱり少し『まずい』なコイツは」

 

・・・・・・

 

店長とそんな会話をしたことがあった。

あの後に店長が吸っていた煙草の銘柄を聞いて、一つ買っておいた。とは言うものの、今の今まで吸う機会なんて無かった。忘れていたわけではないが、千束との時間が凄く幸せだったからだ。でも、その会話を、店長との隠し事を思い出した私は、煙草を一本手に取った。

 

「えと、火を付けて…」

 

吸った。

 

「うっ…!?」

 

ダメだ。まだ『まずい』

 

「げほっ!げほっ!」

 

あぁ、でもこの味だ。あの時の煙草の味。

千束よりも一歩先に大人になった瞬間。ほんとにこんなものを吸う人の気持ちはまだ分からない。

 

「あ〜〜!!!」

 

おや?

 

「たぁ〜きな、煙草吸ってる〜!」

 

ベランダにいた私を見つけたのは、最愛の人の千束だ。

全く、ワイシャツ一枚でなんでこんなに元気なんだか。

 

「なになになにちょっと、何一人で大人の階段登ってんだよ〜。君はまだシンデレラだろ〜?」

「千束にはダメですよ。健康に悪いんですから」

「そぉんなの!たきなだって同じじゃんよ〜!」

「だーめーでーす。私も『今初めて吸った』んですから」

 

私は嘘をついた。

私は千束を騙した。

私は千束に店長との会話を隠した。

 

「え〜!いいじゃ〜ん!私も吸ってみーたーい!」

 

朝からうるさいのが私の最愛の人だ。仕方ない。

 

「分かりました。ちょっと待っててください」

「やたー!」

 

私は煙草を吸った。おや?隠し事をしたからだろうか。

煙草があまり『まずく』感じない。

そして、そのまま煙草の煙を千束にふきかけてやった。

 

「うぇ!げほっ!げほっ!なんだよ何すんだよたきな!」

「うえって、今言ったでしょう?だからダメです」

「も〜!なんなんだよ〜!」

「ほ〜ら、朝ごはん作りますから座っててください」

「んぇぇ〜…なんか隠してない〜たきなぁ〜」

 

店長。私は一つ千束へ隠し事をしてしまったようです。

相手に煙草の煙を吹きかける意味。千束へ隠してしまいました。でも、これぐらいなら、許されますよね。店長。

 

 

 

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