ようこそおまんこペロペロベロチュー中出し至上主義の教室へ 作:ぷにる
春休み。
特にやる事もない僕は、自室の窓からあてもなく外の風景を眺めていた。
「少しあったかくなってきたか……」
春の穏やかな陽気と潮の香りが鼻先をくすぐる中、僕は大きく伸びをする。
「んーっ!」
思い返すと去年の今頃は確か、不安でいっぱいだった。なんでこんな学校にわざわざ入学してしまったのだろうと後悔の念で押し潰されそうだったな、そういえば。しかし、何はともあれ周りの助けや協力もあり、僕は無事に2年生に上がる事が出来た。頭の悪い僕は、ただみんなの言う通りにしてるだけではあったけれども、それでも、またこうして退学する事なく、並木道に咲き誇る桜を見る事が出来たのだ。
「桜……か……」
窓の外は快晴で春の青空が広がっている。歩いてみるか……。たまには散歩も悪くは無いだろう。そう思った僕は端末をポケットに入れ、上着を羽織り外へと出る。
「やっぱり、まだ若干冷えるな」
パーカーにしたのは少し失敗だった。もう少し厚手の上着の方が良かったかも知れない。寮から出た僕は、自室から見えた桜を目指して並木道の方へ歩いていく。道中、すれ違うのはコンビニ袋を片手に下げた生徒ばかりだった。昼時の為、飯でも買いにみんな降りてきたのだろう。僕は歩きながら深く息を吸い込んだ。頬を撫でる風はまだまだ冷たいものの、やはり暖かな春の陽射しが心地良い。視界のやや先に丁度良く桜を眺められるベンチがあり、僕はなんとなくそこで花見でもする事にした。
「コーヒーっと……」
道中に自販機があったので、僕は温かい缶コーヒーを買って、並木道のベンチに座る。
「八分咲き……くらいか」
視界一面がピンク色に染まる。こんな贅沢に桜の木が植え尽くされ、穏やかに花びらの雨が振っているにも関わらず、この絶景が誰の目にも触れていない事が少し勿体ない。まぁ敷地内には学生しかいない為、仕方のない事なのかも知れないが、これじゃあ僕がこの景色を独り占めしているみたいだ。僕は桜を眺めつつ、缶コーヒーを飲む。
「あったけぇ……」
華やかなコーヒーの香りがゆっくりと鼻を抜ける。面前の桜の光景をよそに、耳をすますと小さな波の音も聞こえる。そう、都会の喧騒などここには微塵も見当たらなかった。ただの静寂がここにあるだけだ。澄んだ春の青空と桜を眺めていると、僕はなんとなくこの風景を残したく思えて、ポケットから端末を取り出す。
「あれ……平田君……」
端末にはメッセージが1件。平田君からだった。僕は内容を確認する。
『山井君。この一年間、僕と共にクラスに協力してくれてありがとう。なにか言葉にしたいと思ってここに感謝の意を伝えさせてもらったよ。4月からもまたよろしくね。僕たちは仲間だ』
「あはは……平田君らしいや……」
僕の事なんて、まるっきし気にしていないと思っていたけれど、平田君はこうしてクラスメイトの隅々にまで目を配らせて見てくれている。ましてやこんな僕に対してまで。それがなんだか、小っ恥ずかしくて、こそばくて、僕は変な笑みがこぼれてしまう。けれども僕も平田君の誠意に応えたくて、目の前の綺麗な景色を写真に撮り、
『こちらこそ一年間どうもありがとう。平田君のおかげでクラスが一つになっていたよ。また来年もこの景色をみんなで見られるよう共に頑張っていこう。今度はAクラスとしてね』
そうメッセージを打って、僕はこの桜の風景を添付し、平田君に送った。するとすぐに平田君から電話がかかってきた為、僕は電話を受ける。
「山井君。ごめんね、急に」
「ううん、どうしたの?」
「あまりにも綺麗な風景だったからつい気になってさ、これは並木道の桜かな?」
「あはは、そうそう。散歩してたら綺麗でさ、なんとなく写真に収めとこうかなって」
「今もまだ、並木道のところに居るのかい?」
「え、うん」
「じゃあ僕も暇だし、今からそっちに行こうかな。清隆君とか誘ってさ」
「そうなの? じゃあ一緒に花見でもしようか」
「いいね、すぐ行くよ」
そう言って、平田君は電話を切った。風が優しく吹き抜け、木々がなびく。
「男三人で花見か……。ふふ……」
なんだか自然と笑いが込み上げてくる。何をやっているのだろうかと。大人は桜を見ながらお酒を飲んだりして楽しむようだけど、僕らはまだ子どもでお酒も飲めないのに。僕を含めて、とんだジジ臭い趣味を持った連中だ。だけど、
「綺麗だからいっか……」
そう、今この景色が綺麗な事になんら変わりはない。そして僕らは綺麗なものを見るのが好きな生き物なのだ。また何より、その風景を共有したいと思うのも人間の自然な欲求なのだろう。そこに大人も子どもも関係ない。桜はただそこに咲き誇るだけなのだから。
「ていうか……綾小路君はくるのかな……」
あんまり、こういう事には興味無さそうな感じだけど。けれど平田君が誘えば、彼も来るのかも知れない。平田君と綾小路君はクラスでもいつも仲良さそうだし。そして僕はしばしの間、一人でベンチに座って待つ。するとしばらくして、
「おーい、山井君」
声の方を振り向くと、平田君と綾小路君がいた。僕は手を上げて、
「ここだよー!」
平田君の手にはコンビニ袋がぶら下がっている。僕はベンチの端に座り、二人を出迎える。
「ごめんね山井君、待ったかな?」
「ううん、全然大丈夫だよ」
「うわぁ……桜……綺麗だね」
平田君は暖かそうなコートに身を包み、並木道の桜を圧巻とした様子で見上げている。そして、何気なく僕の隣に座る。綾小路君も意外にオシャレなロングコートで身を包んでおり、いつものように黙って桜を眺めつつ、ベンチに腰を下ろした。
「そういえば山井君、お菓子買ってきたんだ。一緒に食べようよ」
「ありがとう平田君。おっ、ポテチ久しぶりだなぁ」
「ほら、清隆君も遠慮なくさ。みんなで一緒に食べよう」
「あぁ……」
綾小路君はぼーっと桜を眺めている。僕は春の陽射しを浴びながらポテチをつまみつつ桜を眺める。すると綾小路君が珍しく自分から口を開いた。
「山井は桜が好きなのか」
「え、いや……好きってわけでもないけど」
「こんな事をしてるのなら、それは好きではないのか」
「んー、どうなんだろうね。好きなのかな」
僕が困った様子に見えたのか、平田君が間に入る。
「でも確かに、山井君の反応も分かるなぁ。桜ってみんな特別な物だと意識はしてるけど、好きかって言われると少し困ってしまうよね」
「そんなものなのか」
「そういう清隆君はどうなんだい?」
「オレは、好きでも嫌いでもない」
「そう言うと思ったよ」
平田君のツッコミに僕は笑う。僕が笑うから平田君もつられて笑う。そんな僕らを案の定、綾小路君は不思議そうに見つめる。それが尚更可笑しくて僕はもっと笑う。そんな僕らの笑い声が春の陽気の下、木々のあいだへと伝っていく。
「あはは、山井君も清隆君も面白いなぁ本当に」
「僕は何もしてないよ。ぜんぶ綾小路君でしょ?」
「オレ?」
綾小路君が本気なのか冗談なのか、少しだけ驚いたような顔をする。そんな顔をされるとまた可笑しみが腹の底から込み上げてくる。僕は少し冷めてきた缶コーヒーを口に含む。
「待って山井君」
平田君の声に僕は缶コーヒーに口を付けたまま動きを止める。すると、平田君が僕の前髪に手をかざして、
「付いてたよ。桜の花びらが」
「あぁ……ありがと」
平田君が僕の前髪に付いていた花びらを見せてきて渡そうとするから、僕は自然と受け取ってしまう。手の平の上で少しだけ赤く色づいた、なんてことのないそれを、僕はじっと見つめる。冷えたコーヒーの匂いが鼻から抜けていく。そんな花びらを見ていたら、いつの間にか僕はこんな言葉を口にしていた。
「また……こんな春を迎えられるのかな」
僕の言葉に二人はやや驚いた顔をしていたがそれも束の間、平田君が言葉を返す。
「迎えられるよ僕らなら……。ね、清隆君?」
「あぁ」
てっきり何も返事をしないだろうと踏んでいた綾小路君も、何故だか小さく言葉を返してくれた。僕はそれが嬉しくてーー
「ねぇ二人とも! 一緒に写真を撮ろうよ!」
「良いねぇ! これも思い出だしね!」
「オレもか?」
僕はポケットから端末を出して、インカメを起動させる。そして二人の間に割って入って、強引に両手で肩を組む。
「山井君落ち着いて。ちゃんと桜をバックにしないと」
「オッケー!」
「山井、首が痛いんだが」
やがて桜は散る。それは仕方がない事だ。だけど僕はみんなといた、この瞬間を残しておきたい。
「じゃあ取るよー! はいチーズ!」
パシャリ。
「あはは、綾小路君顔死んでる」
「僕にも見せて山井君! ふふ本当だ」
「別に死んでない」
併せて月日は僕らの関係をも変えていく、移ろいやすいこの春の青空のように、不安定に。
「もう一枚撮ろうよ!」
「うん!」
「オレは別に」
けれど、それで良いんだ。未来が見えないからこそ、この今が強く輝くから。
「ほら、綾小路君も笑ってよ」
「清隆君! 山井君がそう言ってるよ!」
「いや、笑ってるつもりだが」
そう、未来が見えないからこそ、この一瞬が、大切なものにへと変わっていくんだ。
「ほら撮るよー二人とも! せーのっ」
閑話終わり。