※この作品はR-18です。

カラミざかり 青の季節    作:みやびまい

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 この物語はもし山岸高成があの時飯田里帆とヤれていたらのif妄想ストーリーとなります。某所で更新していたものを大幅に加筆修正し再編集したものになります。
 
 設定も本作独自のものがいくつかあります。
 キャラクターの外見や性格についてはリメイク版と原作ごちゃまぜになってます(ハゲはリメイク版要素強めです)
 長いので一気読み推奨です

 なんでも許せる方はどうぞ


Vol.2後編 赤紫色の夏休み編

 時は流れて…

 夜明けとともに受付辺りから響き渡るガタンガタンという大きな音で高成と優里は目覚める。

 

「おはよ…なんだろ」

「わかんない」

 

 何かを言い合う声が響くがどのような内容までかは聞き取る事は出来ない。しかも物音は段々とこちらに近づいてくる。

 

「えっ…何?」

 

 …そして荒々しく部屋のドアが開かれた。そこには優里の彼氏とその友人がいた。どちらもザ・不良といったいでたちの大男だ。

 

「…っっ!」

「やっぱりな。浮気確定かー?」

「…優里。…迎えに来たぞ。」

「…来てくれたんだ。」

 

 優里の彼氏は高成の存在に気づく。友人はにやにやと面白そうにその様子を見ていた。

 

「お前…やっぱこいつと浮気してたのか…?」

「え?そんなわけないじゃん。この子は電話で言った通り予備校のおんなじクラスの子だよ。」

「…っ嘘だ!!」

 

 優里の彼氏の大きな声に優里と高成は思わずびくっと肩を跳ね上げる。

 

「あ~ここにゴムが捨てられてたって事は…まあやったんでしょうね~」

「失礼な…してません!ほらっ使ってないの分かるじゃないですか!」

 

 優里はゴムを拾い上げ未使用である事をアピールするが聞き入れてもらえない。

 

「でもどうせ生でやったんでしょ?」

「私の言う事信じないって言うんですか…?!」

 

 友人は優里を煽るように問い詰めていく。次第に優里の顔からは焦りが具現化したような冷や汗が浮かび上がる。

 

「あのさ、俺はずっと半年待ったんだ…いつかはやってくれるだろって…」

「可哀想にね~ほんと健気だよこいつw」

「でもさあ、優里ちゃんはこいつじゃなくてこのぽっと出の可愛い系くんとやったんでしょ?かっわいそー!」

「だからしてないですって!ふざけんな!!何度からかえば気が済むの!!」

 

 優里の怒りは沸点直前まで達しようとしている。それを見かねた高成もしていない。彼女とはそんな関係では無いと声を上げた。

 

「はあ~めんどくせえ…埒が明かねえな…どうでもいいからさっさとやらせろし。」

 

 優里の彼氏の友人はそう小声でつぶやくのと同時に高成の後ろに忍び寄り後頭部めがけて回し蹴りを打ち込んだ。

 

「えっ…?」

 

 高成はそのまま床に倒れると優里の悲鳴が部屋の中に響き渡った。ただ高成は這うように近づいて優里の彼氏の友人の足を掴み押し倒すとそのまま両者は取っ組み合いの状態となる。怒りを覚えたのか優里の彼氏とその友人は2人がかりで高成の胸倉をつかみ顔面や腹部にパンチを何度かお見舞いするともつれるようにして高成と共に部屋の外に出ていく。

 

「ひ…っ!ちょ、ちょっと…」

「…こうなったのも全部お前のせいじゃねえか、優里」

 

 優里の彼氏はそのまま高成を追って部屋の外へ行こうとする優里の肩を掴んで押し倒し、バスローブを強引に脱がして投げ捨てる。そしてそのまま愛撫する事もなく力任せに優里の股を開いて犯し始めた。優里は抵抗する事も声を上げる事も出来ずただただ涙を流す事しかできなかった。

 部屋の外では高成が起き上がりドアへ向かおうとしていた。それを見て優里の彼氏の友人は高成の喉元にナイフを突きつけながらそして優里が犯されている様子を高成に見せつける。

 

「おっと…動いたらどうなるか分かるよな?」

「…何をっ…」

(ああ…茜谷さんが…) 

(おれのせいだ…)

(守ってあげなければならないのに…)

 

 朦朧とする意識の中で高成は己を責めた。すると受付の方から大きな声が響き渡る。どうやら警察のようだ。

 

「ここですっ!」

「お前たち動くな!警察だ!!」

 

 部屋へ向かって警察官が何人かなだれ込んできた。おそらく受付のスタッフが通報したのだろう、その言葉を聞いて優里の彼氏の友人はナイフを手から落としたのとほぼ同時に高成の意識は途絶えた。

 意識が途絶える最後、女性警察官が優里を保護する瞬間をおぼろげながら高成の視界は捉えていたのだった。

 

 騒乱のラブホテルから時間は経ち。

 

 病室へと運ばれた高成はその後意識を取り戻した。迎えに来た母親からは心配の言葉を投げかけられたのち、念のため夏休みの期間中はしばらく県外への遠出は禁止すると言われたのだった。高成は優里を守れなかった自責の念にかられていた。

 

(もっと飯田の時のように強くかばってやってれば…)

 

 そう考えた瞬間里帆のあの言葉と小刻みに震える背中がよぎる。

 

(…やっぱこれ以上はやめとこう。)

 

 高成がベッドに横になろうとしたとき、部屋にノックする音が響く。

 

「?どうぞー」

 

 部屋に現れたのは菓子折りの入った紙袋を持った優里だった。神妙な面持ちでドアの前に立っている。彼女の目元は両目とも赤く腫れていた。

 

「茜谷さん…」

「山岸くん…これ、どうぞ…」

「…ありがとう。茜谷さんは大丈夫なの?」

「私は大丈夫。山岸くんはどう…?」

 

 高成と優里はぽつりぽつりと会話する。高成からはもう退院出来る事、優里からは彼氏とその友人は逮捕された事とその後怪我や避妊の為の手当を受けた事などが話された。

 

「ほんとうは最初からヤリ目だったんだって…あの2人」

「そうだったんだ…」

「でもあの人は私に対してちょっと情が湧いたとかなんとかで半年は待ってくれた…だけど結局は塚ちゃんの言うように酷い人だったんだ」

「…塚ちゃんの言う事ちゃんと聞けばよかった。なら山岸くんもこうはならなかったのに…」

「山岸くんごめんね…私のせいだ…」

 

 優里は大粒の涙を流し何度も高成に己を責めながら謝罪した。痛々しいその姿に高成は心の中で彼女の言う事を否定する。

 

(そんな、茜谷さんのせいじゃない…)

(茜谷さんは悪くない…)

 

 その瞬間、高成は優里を優しく抱き締めた。これは勿論高成自身も意図が合っての事では無い。突発的な事だ。

 

 あまりにも予想だにしていない行動に優里の息がコンマ何秒か程止まる。そして高成のあたたかさとまるで優里に寄り添い慰めるかのような、そんなぬくもりに触れた優里はそっと高成の肩に顔をうずめるのだった。

 夕方。高成の母親が彼の様子を見に来た。椅子に腰かけ高成にこんな事を話し出した。

 

「あの子、茜谷さんだっけ?…もしかして高成の事好きなんじゃあない?」

「えっ?」

「好きとまではいかなくても、意識はしてるはずよ。あの子私の元にも菓子折り持って謝りに来て。酷い事されたあとなのに…責任感の強い子なのねきっと。」

「…」

「…おれは、茜谷さんの事、守れなかった…もっと強く出てれば…」

「あなたも優しいわね。…いい?気持ちは思うだけじゃダメ。ちゃんと相手に伝える事が肝心よ。」

「そして何かあったら周りを頼りなさい。」

「…」

 

 高成の母親は周りを片付けたのち、じゃあまた明日迎えに行くから準備しときなさいね。と言って去っていった。高成はその背中を見ながらその言葉を頭の中でリピートさせる。

 

(伝える事か…)

(そうか…) 

 

 そして高成が退院してから数日後、予備校の後半日程が始まった。いつも通り予備校へ向かうと教室のドア付近で日向に呼び止められる。

 

「あっ山岸くんお久しぶり!…ごめん悪いけど今ちょっといい?」

「お久しぶり…何?どしたの?」

 

 日向に廊下の角へと連れられた高成は日向の身にまとう少しピリッとした雰囲気を感じ取っていた。日向は周囲に人がいないかを確認して高成の耳元に向けてこう告げる。

 

「実はあかねちんの様子が変でさ…あの後何かあったか知ってる?」

「え…」

「まるで花火が燃え尽きる前に一瞬火がめっちゃ大きくなるアレみたいな…」

「…!」

「待って、このワードセンスかっこよくない?」

「と、とりあえずどういう事…?」

「ごめんごめん、要はあかねちんの様子が変な気がして…何か知らない?ちょっとした事でもいいからさ…」

 

「あ…」

 

「何かあったら周りを頼りなさい」

 

 日向にあのラブホテルでの件を言うべきか一瞬戸惑うも、母親の言葉を思いだした高成は日向に打ち明ける事にした。

 

「実は…長くなるけどいい?」

「いいよ。大丈夫。」

 

 高成はラブホテルであった事全てを日向に打ち明けた。全てを聞き終えた日向は放心した状態でその事実をどう受け止め口を開いたら良いか迷いを見せた。

 

「…そんな事が…あったんだ…」

「ごめんね山岸くん、教えてくれてありがとう。もうけがは大丈夫なの?」

「いや全然…うんそっちは大丈夫。」

「…2人でラブホテル行って、おんなじ部屋に泊まって、それで…」

 

 そうつぶやく日向の声はいつもより暗い。

 

「全然知らなかった。それに…悪い予感がこうして当たるなんて、嘘だと思いたい…」

「塚原さん…」

「…でも、あかねちんにはもっと私を頼って、ほしかったかも…ごめん!こんな事言っちゃあ駄目なのは分かってるけど」

「教室戻ろっか。…ちょっと私なりにどうするか色々考えてみる。」

「うん…」

 

 重い足を引きずるように2人は教室へ戻ると優里は雄也らと楽しく談笑していた。しかし日向と高成には気づいていないのか、或いは目線を合わそうとしないのか優里から2人へ目線を投げかける事は無かった。

 

(…やっぱ無理してる…?)

 

 授業が終わり放課後。荷物を片付けようとすると日向が優里の腕を引いて高成の元へやってくる。

 

「おーい2人ともこの後時間ある?!」

「あるけど…」

「あかねちんの部屋で勉強会しようよ」

「はあっ?!!」

 

「いいじゃんいいじゃん~」

 

「まあ今日は18時くらいまで家に誰もいないし、いいけど…」

 

「やったあ!山岸くんも来てね!」

 

「分かった…」

 

 やや強引に誘われた事で優里は少々ふくれっ面だが、何とか日向の誘いに承諾した。

 

(何考えてるんだ…?)

 

 帰り支度をして予備校を出ると3人はそのまま優里の家へと向かう。途中日向がドラッグストアに行くと言いだしたのでそれに付き合い、改めて優里の自宅であるマンションへ到着した。

 

「おじゃましまーす」

「どうぞ入って…私お茶入れてくるから…塚ちゃん、山岸くんに変な事しないでよね?」

「分かってるって」

 

 優里の部屋はシンプルで、同じ年頃の女子の部屋と言った具合だ。棚には教科書や参考書籍と言ったものがずらりと並んでいる。高成と日向が床に座って待っていると優里が麦茶を持ってやってきた。

 

「はい、どうぞ。暑かったし遠慮せず飲んで」

「ありがとう…」

「ありがとー!助かる!!」

 

 日向はそう言って一気に飲み干すとこないだ雄也の部屋でもしたようにうーん…と伸びをする。優里がどの教科から先に進めようかと話しかけた瞬間だった。

 

 どさっ…

 

(え…?)

 

 気づけば高成は日向に押し倒され、キスをされていた。高成も優里も何が起きてそうなったのか理解できない顔をする他無かった。日向の唇が高成の口から離された瞬間息継ぎをするように高成は待って!と言うもそれに蓋をするように再度日向の唇が高成の元へ強く押し付けられる。

 

「塚ちゃん…ねえ!ちょっと何やってんの!勉強するんじゃなか」

「あかねちん…チャンスは「今」しかないよ…」

「え…?何言ってんの…?」

「なに…言って…」

「あかねちん…自分の胸の上に手を当ててみて、そして振り返ってみて…」

「あの時何をしたか、あかねちんに自覚は無いかもだけど」

「自覚があるのか無いのか分からないけど何かしら理由が無ければ、普通彼氏じゃない男子とホテルなんかにはいかないよ…」

 

 普段のおちゃらけた様子とはがらりと違った、日向の低く響き渡る声が優里の部屋にこだまする。

 

「塚ちゃん…なんで知ってるの?」

「…ごめん、おれが教えた…塚原さんが茜谷さんの事心配しててどうしても聞きたいって」

「…」

 

 高成の言葉に対し優里は怒る事も無くただただ棒立ちのままだ。その間にも日向は高成との行為を進めていく。日向は高成のズボンのファスナーを下げモノを取り出すとそれを加え舐めたり吸ったりを繰り返す。

 

(これやばいっ…変な声出そうっ…)

「んんっ…あ、やばいっ…」

 

 高成は日向の口の中に精を吐き出した。日向はお構いなしと言わんばかりにそれを飲み干しそのまま吸ったり舐めたりを繰り返す。

 

 そんな2人を優里は自身の胸に手を当てながら息を荒くして凝視していた。

 

(塚ちゃんは多分、私が山岸くんの事が好きか気があるって事を言いたいんだと思う)

(山岸くんが私から魅力的に映ってるのは事実だ。)

(なんで、あの時私は山岸くんとホテルに泊まった?)

(なんで、あの時「月が綺麗ですね」と「死んでもいいわ」ってワードが浮かんだ?)

(ああ、そうだ…自分でも全く分からなかったけど、その答えは)

(…好きだからだ。)

 

 …点だらけだった部分が線へと繋がる瞬間はこういう事である。優里の脳の中の回路が一気に繋がり光り出す。それは優里が今まで向き合ってきた難問の中で最も難しく最も解きがいのあるものだった。

 

 

「なんだ、簡単な事じゃん」

 

 優里は静かに日向と高成の元へ歩み寄る。そしてそこで制服とスカートを脱ぎ、下着姿になる。

 

「私も混ぜなさい。」

「…え?」

「混ぜろって言ってんの」

 

 下着姿でそう言い放った優里の腕は小刻みに震えながらも目はブレる事無く真っすぐに高成を捉えていた。

 

「ほら…やっぱり。そう来なくちゃね?」

 

 日向はその場で着ているものをするっと全て脱ぎ、更に優里の背中側にまわってブラジャーのホックを外した。日向と優里は全裸の状態で佇んでいる。日向は高成の後ろへ移動し、後ろから優里を抱きしめるよう誘導し、高成の腕を優里の胸元へと動かす。生暖かい日向の身体とは違って優里の身体はどこか冷え切っているのを高成は優里の胸を揉む事でそれを感じる。

 

(茜谷さんの身体…冷たい)

(それに心臓の鼓動が伝わってくる…)

(例えるならこの感じ、大きな氷の中に閉じ込められてるみたいだ)

(茜谷さんをその中から助け出してあげたい、そう感じるけれど…)

「んっ…」

「ねえ…茜谷さん…」

「な、に…?」

「本当に、おれでいいの…?」

「…」

 

 

 優里は高成の方へと振り返り、彼の手を取ってこう言った。

 

 

「いいも何も、君しかいないの。」

「…!」

 

 

 ーおれしかいない。いないんだ。

 

 

(なんだろう、このうちから湧き上がってくるこの気持ち…)

(飯田とした時とはまた違う…)

(そうだ…おれは…)

 

 茜谷さんが自分を必要としている。それは誰の目から見ても明らかな事だ。

 

 なら、今こそその気持ちに答え、彼女を助けるー…高成は目を閉じ優里を抱き寄せ、そして目を開いて彼女を抱きかかえベッドへ押し倒す。その彼の目はいつになく真っすぐだった。優里の頬は赤くなるも目線は外さない。

 

 キスをしながら彼女の濡れたそこに指を入れてゆっくりとかき混ぜる。甘い吐息が耳元へ霧のようにかかる。日向は2人の様子を見守るように見ていた。

 

「…そろそろ、いい…?」

 

 高成のその言葉に優里はしっかりと頷く。それを見た日向は無言でドラッグストアで購入したゴムを高成に装着すると傍にはけた。

 

「んっ…うん…」

「ねえ…山岸くん…」 

「?」

「激しくしていいから…」

「あの時の事、忘れさせて…今だけでも山岸くんの事、考えていたい…」

「…分かった。」

 

 ゆっくりとその動きを激しくする。吐息も段々激しくなっていくのが分かる。冷え切っていた優里の身体が徐々に温かみを取り戻していくのが高成自身にも伝わって来る。

 

(あたたかくなってる…)

(ああ、やっと茜谷さんの事助ける事が出来た…)

 

 高成の脳裏に笑顔の優里の姿がおぼろげながら浮かび上がった。

 

(おれは…) 

(そうだ。茜谷さんの事、好きになってるんだ…)

(茜谷さんは下ネタ苦手だと言っていたけど)

(「君しかいない」と、そうおれに頼んできた…)

(あの時セックスで味わった辛さはセックスでしか流せないのならば、それで助けるほかない。)

(やる事でこんな気持ちになるのは初めてだー…)

 

 2人はお互いに何かを確かめるように激しく絡み合う。何度もキスをし体位を変えて絡み合う。

 

「あっ…はあっ、はあっ…」

「ん…ふうっ…」

 

 優里は何度か絶頂を迎えているようだったが高成は行為をやめようとはしなかった。そんな高成の姿を見て何かを感じた優里は高成の頬に手を触れて自らの顔に向けてこう話しかける。

 

「私、山岸くんに出会えてよかった…」

「おれも…」

 

 そのまま優里と高成は対面座位で交わり、最後は2人ほぼ同時に果てたのだった。手を繋いでベッドに転がる二人を日向は眺めながらこうつぶやく。

 

「…これにて一件落着、かな?」

 

 その後。着替えて帰路につく高成と日向に優里は途中まで送っていくと答え、駅まで付いて来る事となった。

 

「あのさ、あかねちん」

「なに?」

「しんどかったよね?」

「うん。でもあの人とはもう別れたし…それに2人のおかげで水にきれいさっぱり流せたから」

「そっか。…あのね、こんな事言うのはあれかもだけど、もっと私の事頼って欲しいというか」

「…ごめんね。確かに塚ちゃんにはこの事真っ先に言うべきだった。」

「言いにくいのは分かるよ。けどあかねちんの顔見ていてすごく辛そうだったからさ」

「それにあかねちんは一人じゃない。私も山岸くんもいるんだから。」

「塚ちゃん、それと山岸くん。ありがと。」 

「いえいえ。どういたしまして。」

 

 3人は穏やかな夕日に照らされながら駅へと歩き出す。

 

 …その様子を見ている人物が2人いるという事には気づくはずも無く。

 

 …時は午前中にさかのぼる。まずは智乃からの視点だ。

 

 この日、智乃は母親と日帰り旅行に出かけていた。しかしその道中、彼女はある光景を見ていた。

 

 それは里帆が藤野先輩と2人で先輩の家へと入っていく場面であった。智乃の心の中はあっという間に里帆へ対する嫉妬とあの日部屋にこだました里帆の母親の絶叫に占領される。

 

(っ…!!) 

 

 母親と様々な観光地や食事を楽しむ気にもなれず夕方、智乃は更なる光景を目撃する事となる。それが高成が日向と優里と共に駅へと向かう場面である。

 

(山岸と…誰だ?制服見る感じ他校の子だけど)

(どういう事?意味不すぎ…あいつ、里帆の事はもう…?)

 

 家に帰った智乃はなぜああいう光景を見たのか自分なりに推理するためにベッドの中で夏祭りの時の事を思い返す。

 

(里帆はあの時嫌じゃないよと言った。それで山岸は多分…里帆に完全に幻滅した?)

(確かに里帆は藤野先輩もハゲ吉野も山岸も相手に関係なく、大体はほいほいついていくというかなんというか…)

 

「そういえばさ、あの時おまえらが帰った後ー…」

(あのハゲそういえばベッドに血がついてたって言ってたの思いだした。私はハゲが初めてだったし、パンツにも血がガッツリついてた。)

(そしてあの里帆のママ…という事は…里帆は、まさか)

 

 ちりちりざわざわとした嫌な予感が智乃の心の奥で不気味なほどうねり、うごめくのだった。

 

 

 そしてもう1つ。里帆の視点だ。

 

「今日から2人で会わない?」

 

 藤野先輩からそう言われ、特に断ることも無く里帆は彼の家でいつも通り行為を行っていた。しかし夕方になるにつれ彼女はセックスに気が入らなくなり、喘ぐことも無くなっていく。

 

 それは無理もない話だった。なにせ里帆には門限がある。門限を破ればまた母親からの厳しい叱責からは逃れられない。

 

 幸いにも里帆が時計を何度も見る素振りに藤野先輩は気づき、はやく帰りなと促してくれた。急いで家を出た彼女が目にした光景が、高成が優里と日向と共に楽しそうに歩いていく場面であった。

 

 里帆はそれを目にした瞬間、思わず動けなくなってしまった。

 

(息が苦しい。体が動かない。なんで?)

(わからない、わからない…)

 

 そして、かぼそい声が里帆の喉から発せられた。

 

「山岸くん…」

 

 

 数日後の朝。里帆はゆっくりと起きると里帆の母親から挨拶と共にその日の予定を言われる。

 

「今日、9時から個別指導の塾へ行くからちゃんと綺麗な服着るのよ。」

「うん…」

「あと髪もお母さんが綺麗にまとめてあげるから。里帆の担当の先生白女大出身なんですって。あなたも白女大行けるように頑張らないと。」

「うん」

「白女高に落ちても頑張れば大学へ行けるんだから、頑張るのよ。お母さんも応援してるからね。」

「うん。頑張る。」

 

 朝食を取り、部屋に戻るとスマホに藤野先輩からの連絡が来ていた。今日会えないかと言う内容だ。

 

 しかし今日は無理だ。里帆は断りの連絡を入れ、着替えるのだった。

 

 …白女高とは、地元でも有名な女子高かつ中等部・高等部・大学・大学院のいわばエスカレーター式の学校で、優里たちが通う高校とは同系列である。かつて里帆はそこを目指していたが不合格となり、今の高成たちが通っている高校へ通っているのだった。母親は前から里帆へ予備校へ行くよう進めていたが、夏休みの間の1週間お試しで個別指導の塾へ里帆を向かわす事にしたのだった。勿論彼女を担当するのは白女大出身のエリート女性講師である。

 

 里帆の表情は機嫌のよい里帆の母親とは対照的にどこか鬱屈としていた。

 

 そしてその頃高成は予備校へ向かっていた。予備校が見えてきた地点である人物に呼び止められる。

 

「山岸おひさー」

「…新山」

「ちょっといい?話したい事があるんだ」

「何、話って…」

「里帆の事。」

「飯田か…それで?」

「今里帆は藤野先輩と多分セフレになってる。この前2人で歩いてるとこ見てさ」

「…」

 

 高成の脳裏にはやはりな、という思いと糸のようにからまった何かが浮かび上がっていた。

 

(ビッチだしやっぱりなというのと…でもあの震えが説明できない)

「それと…里帆はあの時既に経験済みだったんじゃないかって」

「…え?あの時って?」

「ハゲ吉野の家にオナホ見に行った日。あいつあたしらが帰った時ベッドに血がついてたって言ってたじゃん?」

 

「あれあたしのだった…。だから里帆はあの時点ではもうとっくに非処女だった可能性が大って事」

 

 その言葉は文字通り里帆があの時高成とした時点ですでに非処女。経験済みだったのでは?という事だ。その言葉に高成は衝撃を受ける。

 

「…!じゃあ、筋金入りのって事?」

「それはわっかんない、あんた里帆とした時血出てたか覚えてない?」

「うーん…言われてみれば見えなかったような出てなかったような…」

「そっか。それとあたしと里帆が先輩とやった時、里帆のママがめっちゃブチ切れててさ」

「何かあるんじゃないかなーって思ったけど…人様の家庭環境探るわけにもいかないしさ、とりま山岸にはつたえとこーかなって」

「そっかあ…」

 

 智乃はじゃあもう行かなきゃと言ったあと、高成にこう質問した。

 

「あのセーラー服の子、もしかして好きなの?」

「うん。」

「じゃあ頑張れ。ちゃんと気持ちは伝えないとね。」

「分かった」

 

 智乃は手を振ってその場を去った。同時に日向と優里が予備校にやってくる。

 

「おっはよー。山岸くんあの人誰?」

「同じクラスの子。久しぶりに会ったからちょっと話してた」

「そっか」

 

 高成は胸の中で里帆に対する黒くぐるぐるとしたどこか名状しがたき感情を感じていた。

 

(なんだろう…飯田…もやもやする)

 

 予備校が終わり帰り道。高成は雄也と日向と優里を交え4人で書店へと訪れていた。優里がおすすめの参考書を教えてくれるというのでそれについていく形だ。

 

「ただ勉強だけじゃなくて、進学先によっては資格や検定に重きを置いてるとこもあるからそういう本も見た方が良いかもね」

 

「へ~確か茜谷って英検受けるんだっけ?」

「うん。3年になってからじゃ色々忙しいし、今のうちに受けた方がいいかなって」

「あかねちん真面目だねえ」

「茜谷さんこういうのはどう?」

「ん~あくまで私個人の見た感じだけどこっちのが分かりやすいかも」

「どれどれ…確かにこっちの方が分かりやすいかも。ありがとう」

「いえいえ。」

 

 4人で様々な参考書を探していると高成を呼ぶ声が聞こえてくる。声の主は貴史だった。

 

「こーせー久しぶりじゃん!元気にしてたか?」

「おっ貴史!元気だよ。そっちは?」

「復帰してからはもうバリ忙しくて…連絡する暇も無くてさ~…あれ?飯田じゃん。久しぶり~」

「えっ?誰アンタ…違いますけど」

「はっ…ごめん!まじでごめん」

 

 どうやら貴史は優里を里帆だと勘違いしたようだった。間違えた上に優里の背中を軽いノリでたたいてしまった事で彼女から蛇の如く冷たい目で睨まれた貴史はへこへこと謝っていたのだった。

 

「それで?貴史は何探してんの?」

「ああ~…スポーツ医学というか、肩ひじのケアとかそういうの」

「ならあっちにあったよ。案内しようか?」

「まじ?じゃあ、お願いしまーす」

 

 貴史は雄也に付き添われお目当ての本があるコーナーへと向かっていった。日向はあの人山岸くんの友人?と聞くとそうだと高成は答える。

 

「へえ~結構筋肉質だしよさげかも」

「塚ちゃんまた変な事考えてる。」

「だって欲求不満だもん…最近セフレ出来たけどさ、その人と永瀬じゃ足りないというか」

「やりすぎるのもほどほどにしなさいよ、妊娠したり病気になったら色々とやばいんだから。」

「分かってますって~…うん。」

 

 その後貴史と雄也は3人の元へ合流し、皆会計を済ませた後書店を後にする。帰り際雄也はもう予備校もあとわずかか…とつぶやいた。

 

「3人ともこーせーとおんなじ予備校?」

「そうだよ。高校は違うけどね」

「そっかあ。じゃあさ、良かったら土曜みんなでキャッチボールでもして遊ぶ?その日部活は休みだからさ」

「おっいいね~皆どうする?」

「折角だし行こうかな」

「じゃあ決まりな!永瀬さんだっけ?ライン交換しとく?」

「だね、吉野くんなんて呼べばいい?」

「貴史でもなんでも。」

「じゃあ「ハゲ」」

「それはやめーや!そもそも好きでこの髪型してるわけじゃねえし…ていうか茜谷さんちょっと怖い…」

「ええ~そうかな~?そんな事無いよね山岸くん?」

「え“」

(そこでおれに振る?!!)

 

「茜谷さんはとっても良い人で賢くてお美しくて素晴らしいお方デス…ワタクシも心の底から尊敬いたしておりマス…」

 

「ほんとうに?」

「ほんとだよ!!」

「ほほう…くるしゅうない、山岸くんのお言葉に免じて許してやろう…」

「あかねちんも山岸くんもどした?顔真っ赤だよ?」

「塚ちゃんはちょっと黙ってて…」

「えっなんでよ?!」

 

 たわいのないやり取りが続き、5人はそれぞれ解散していった。高成は優里への気持ちを再確認しつつ、里帆へのどこか不穏な虫の知らせのような名状しがたき何かが薄らいでいない事も察知する。

 

(そうだ。おれは茜谷さんの事が好きだ。尊敬している。)

(だけど飯田…なんか変な予感みたいなのがするのはなんでだ…?)

 

 一方個別指導塾で里帆は勉強に励んでいた。里帆のそばにつく女性講師が休憩しようかと声をかけると里帆はシャーペンを置いてペットボトルのお茶を飲む。

 

 里帆は自分から喋り出そうとはしない。それを見た女性講師はこう質問してみた。

 

「里帆ちゃんは何かしてみたい事とかってある?」

「う~ん…なんだろう…」

 

 里帆は案の定答えを出せず黙り込んでしまう。やはり初対面だからかそれとも別の理由があるのか女性講師が話しかけても里帆は黙り込んだり上の空だったり煮え切らない受け答えしか出来ていないのであった。そこで女性講師はあえて自身の過去を話してみる事にする。

 

「私ね、里帆ちゃんと同じ年齢だった頃乗馬に興味があったのよね」

「乗馬、ですか…?」

「うん。もともと生き物に興味があってね。そこで白女大は乗馬の同好会があるって聞いて。だからそこ目指したわけ。」

「そうなんですか…」

「里帆ちゃんはそういうの興味あったりする?筆箱のアクセサリーのモチーフがなんか蹄鉄みたいだったからふと気になって。」

「馬は好き、です。走ってるとこが綺麗と言うか、なんというか…」

「自由に草原を走る姿は、好感が持てます。」

「そっか。あ、もうそろそろ時間だね。ここやったら終わりにしよっか」

「…はい。」

 

 塾の時間が終わると母親が迎えに来ていた。挨拶をして帰宅し、夕飯を食べる。食べ終わって一度自室に戻ろうとした時里帆は自身のスマホを落としてしまう。ふと気になったのか里帆はライン画面を開いて高成とのやり取りを見返すのだった。

 

 …あれから連絡は来ていない。

 

「山岸くん…」

 

 里帆は画面を見てそうつぶやいたのだった。

 

 土曜日。一同は貴史に指定された河川敷へと集合する。ボールとグラブは貴史が用意するというので貴史以外の四人は近くの屋根のあるベンチへ座って待っていると貴史が荷物を持ってやってきた。

 

「お待たせ~よし、全員いるな!」

「貴史手伝おうか?」

「こーせーありがと!助かるわ。実は助っ人に来てもらっててさ…」

「みんな初めまして、竹内と言います!よろしくお願いします!」

 

 そこに竹内と名乗る女子がやってきて5人に挨拶をする。優里や日向、里帆や智乃とは違い背の高いがっしりとした肉付きはアスリート風の雰囲気を併せ持つ女子だ。

 

「初めまして!えーと助っ人という事は、吉野くんの知り合いですかね?」

「えーと、吉野くんの所属する野球部のマネージャーをしてます。」

「竹内先輩3年だからその…皆失礼の無いようにな…?」

「はっはい…」

「みんなそんな気使わなくていいよ、せっかくの休日だし肩の力抜いてこ!あと暑いから水分補給はこまめにね!」

 

 竹内先輩の号令の元キャッチボールが始まった。

 

2人組を作ってキャッチボールを始める。高成と優里、日向と貴史、雄也と竹内先輩の組み合わせだ。日向と雄也は初心者の為、それぞれ貴史と竹内先輩がボールの持ち方や投げ方などを指導しながら進めていく。どうやら竹内先輩はマネージャーでありながら野球の実践経験も豊富なんだと貴史は語る。

 

「吉野くーん、これで合ってる?」

「塚原さんそれでおっけーっす!」

「いやあ思ったより難しい…」

「永瀬くん肘はこんな感じで、…そうそう飲み込みはやいね!あとは自信もってやれば行ける行ける!」

「ははっ、あざます…」

「山岸くん結構上手だね。」

「ははっ…ちょいちょい貴史の練習相手してて」

「そうなんだ。楽しい?」

「うん。楽しい。」

「私もー。キャッチボールってやってて楽しいね。」

「だね」

 

 2人組でやる以外にも円陣を組んでパスをするようにキャッチボールをしたり、遠投にチャレンジしたりと6人はこまめに水分補給しつつキャッチボールを楽しんだ。

 

しかし時間は経ち昼過ぎの事。徐々に雲行きが怪しくなってきた事に日向は気づく。

 

「なんか暗くない?めっちゃ曇ってるし」

「そうだね…もしかしたら一雨来るかも。」

 

 優里がそう話した瞬間遠くからゴロゴロ…と遠雷の音が聞こえてくる。竹内先輩は道具を片付けて雨が降る前にどこか雨風をしのげる場所へ移動するよう皆に伝えた。

 

「皆一旦移動しよう!雷はほんと危ないからね。」

「りょうかいっす!」

 

 道具を片付け終わりその場を離れようとしたタイミングで雨が降り出す。雷の音も近くなってきた。

 

「やばいってこれ…」

「どっかこの辺に良い場所があればいいんだけど…山岸くん吉野くんそういうとこ無い?なんか寒くなってきた…」

「カーディガン貸そうか?」

「あかねちんありがと…助かる?」

「ごめん貴史どこか知ってる場所ある?」

「ああ~…そうだなあ…一つあるにはあるけど…ん~」

「どうした貴史?なんかあったか?」

 

「そこラブホテルなんだよな」

「え、ラブホ?」

「そうなんだよ…」 

 

 貴史が言うにはそこはラブホテルなのだと言う。高成の脳裏には優里との例の事件がフラッシュバックされる。

 

「あとはもうそこくらいしか…」

「はっくしゅん!」

「塚ちゃん大丈夫?顔色悪いけど…はっくしょん!駄目だやっぱ寒い…」

「私はもうそこでいいよ…寒いしお腹もペコペコ…」

「じゃあ、入ろうか…」

 

 優里と日向の様子を見て一同はラブホテルで雨宿りをする事にした。幸い部屋は3つ確保でき、それぞれ竹内先輩と貴史・優里と高成・雄也と日向の組み分けで受付を済ませ入室する。

 

「みんなー!また何かあったらラインしてなー!」

「分かった!」

 

 高成は優里の顔を覗くと彼女の唇は紫色に変色していた。その様子を見た高成は急いでシャワールームからバスタオルを用意し寒さに震える彼女の背中に被せる。

 

「ありがと…ああ、おなかへった…あったかいものが食べたい…あとドライヤーない?」

「ちょっと待ってて…あった!」

「ありがと、ご飯頼んだらお風呂入って来る。山岸くんどうする?」

「茜谷さん先に入りなよ、おれはもう髪は乾いてるし後でいいから」

 

 2人はラーメンとフライドポテトを注文し、優里はシャワールームへと消えていく。高成はドライヤーでTシャツを乾かしていると貴史からラインが入る。

 

『こーせーと茜谷さん大丈夫か?』

『おれは大丈夫。茜谷さんは今シャワー浴びてる』

『そっか』

『とりあえず永瀬さんにもライン送っといたけど、雷収まるまではここにいた方が良いって先輩言ってたから』

『りょーかい(スタンプ)』

『そういや竹内先輩ってなんで来てくれたの?』

『いや実はさ、先輩おれの彼女なんだよ』

『マジ?(スタンプ)』

 

 貴史のラインを見て高成は驚く。その後この事は秘密にしてほしいと返信が送られてくる。どうやら部内での恋愛は明確には禁止されてないもののあまりよくないといった雰囲気なのだそうだ。それにモテモテであるにも関わらず竹内先輩を狙っている先輩もいるので結構面倒くさい所もあるのだと貴史は言った。

 

 そして貴史はこう返信する。

 

『こーせー、知ってっか?』

『気持ちはしっかり伝えなきゃいけねんもんなんだよ』

『茜谷さん狙ってんだろ?頑張れよ。また何かあったら頼ってくれ(スタンプ)』

『ありがとう(スタンプ)』

「貴史…」

(あいつすげえな…)

 

 ライン画面を見て貴史の行動力に高成は感心する。程なくして優里がシャワールームから出てきた。

 

(気持ちを伝えるという事か)

(おれは茜谷さんが好きだ、でも…)

(それとは別に何か嫌な感じがしてよくわからない感情もある)

(多分飯田の事だとは思うけど…)

(なんだろうか…)

「お待たせ~ああ、あったまった~」

「おかえり。」

 

 優里がシャワールームから出てくると廊下の奥にある小窓から注文していた食事が手渡される。優里はドライヤーで髪とか乾かしてから食べるから先に食べてと高成に告げる。あたたかいラーメンは身体を芯から温めるのに丁度良いものだった。

 

「これおいしいよ。」

「ほんと?!」

 

 髪を乾かし終えた優里はラーメンを口にするとおいしい!と目を輝かせていた。2人はラーメンの味を語ったりキャッチボールについて振り返りながら食事を進め、食べ終えると優里はソファに腰かけた。

 

「美味しかった、あったまった…」

「まだ雨降ってるね。雷は収まったかな?」

「山岸くんどうする?もうちょっと休んでく?」

「うん…」

 

 まだ外は大雨が降り続いていた。貴史からのラインもあれからは来ていない。高成は優里の隣に座り窓を見つめる。

 

『こーせー、知ってっか?』

『気持ちはしっかり伝えなきゃいけねんもんなんだよ』

「あなたも優しいわね。…いい?気持ちは思うだけじゃダメ。伝える事が肝心よ。」

 

 母親と貴史とのやり取りが呼び起される。

 

(そうだ…伝えなきゃ)

「あ、あのさ…」

「?」

(すきだ…)

 

 

《山岸くん》

 

 

「?!!」

 

 …気持ちを告げようとした瞬間、高成の頭の中になぜか里帆が彼を呼ぶ声がこだまする。その様子を映像に例えるならば里帆の形をしたような黒い幻影が彼を呼びながら追いかけてくるような、手を伸ばしているようなそんな感じだろうか。高成は金縛りにあったかの如く優里を好きだという思いを声にする事が出来ない。それは高成にとって全く理解できない事だった

 

「…?」

(なんで…?)

(なんでこんな時に飯田が…?)

「山岸くんどうしたの…?」

「…っ」

 

 高成は反射的に優里を抱きしめた。

 高成は勿論優里を抱きしめたいという意図を持ったうえで抱きしめた訳では無い。自分でもなぜ優里を抱きしめたのか分かってはいないながらも何かを確かめるように、なぞっていくように優里の背中に両手を回す。

 

「山岸くん…ふるえてる…」

 

 高成の身体の震えを優里は感じ取っていた。優里のあたたかい体温が高成の身体にも伝わってくるのを高成は知覚する。

 

(おれは茜谷さんが好きだ…好きなんだ…)

「山岸くん…」

 

《ヤマギシクン…ワタシカラニゲナイデ》

 

(違う!)

(違うちがうちがう…)

 

 高成の様子を見て優里も自身の腕を高成の背中に回し、ぎゅっと硬く寄り添う。高成の息は荒くなっているのを優里は察したようだ。

 

「あたたかい…?」

「…うん」

「あたたかい…」

「そっか」 

 

 高成は雨が収まった後も優里を抱きしめ続けたのだった…

 

 その後。貴史からラインが届き、今日はもうこのまま解散しようという事になった。各々ラブホテルから出て家路へと向かい、高成は優里を駅まで見送る。彼女の笑顔を見て高成は少しだけ安心したのだった。

 

 こうして長い長い予備校の日程も夏休みも全て終わる事となった。予備校の最終日、優里はまた遊びに行こうと高成に声をかけてくれた。

 …勿論その誘いは高成にとっては嬉しいものだったのだが、どこか純粋に喜べないようなよくわからない何かも同時に感じていたのだった。

 

 家で新学期に向けての準備をするたびに高成は段々とどこかだるいような重い気分になってくるのを感じていた。

 

(飯田…)

(また、みんなでヤる流れになるのかな)

(考えるのはよそう…) 

 

 

 9月。新学期。

 

「こーせーおはよ~!」

「おっ貴史おはよ!」

 

 朝。いつも通り登校した高成は下駄箱で貴史と再会し、高成はいつも通り挨拶をした。

 その時誰かが高成の背中をぽんぽんと撫でるように叩く。高成が後ろを振り返るとそこには里帆が立っていた。

 

「おはよう。山岸くん、吉野くん」

「飯田…おはよう。久しぶり…」

 

 里帆はいつもと変わらぬ笑顔で挨拶をするのだった。

 

 

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