※この作品はR-18です。

カラミざかり 青の季節    作:みやびまい

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「もしあの時あの子とヤったら…」

あの日4人が貴史の家に集まった時、高成が里帆とやってたらどうなっていたかを妄想するifストーリーです。


※こちらの作品は某所で更新していたものを大幅に加筆修正を施し再編集したものになります。

今話はGLBL描写も出てきます。
苦手な方はブラウザバックお願いします


Vol.3後編+エピローグ 青の季節編

『いいけど…場所とかどうしようか』

『ああ~確かに…』

 

 智乃とやり取りしていると丁度ベストなタイミングで優里からラインメッセージが届いた。せっかくなので高成は優里に智乃の誕生日会の提案について聞いてみると優里は快く了承してくれた。

 

「いいよ。じゃあうちでやる?その日は両親泊まりで姉もいないからさ。」

「いいの?ありがと…」

「いえいえ。また誰誘うか決まったら連絡しよっか。」

 

 高成は誰を誘うか考えていた所に優里から1つお願いがあるんだけど。と伝えられる。

 

「わがまま言ってごめん。山岸くんだけ早めに来てくれないかな?」

「?いいけど…」

 

ーーーーー

 

 翌日。その後智乃や優里とやり取りした結果。高成の誕生日会は優里の自宅で開催する事が決まり、出席者も高成、優里、智乃、貴史、日向、雄也と6名に膨らんだのであった。

 しかし里帆については一応高成がダメ元で誘いのラインを送ったものの既読すらついてない状態である。

 

「こーせー明日のたんおめ会楽しみだな。当日プレゼント持ってくから楽しみにしとけよな」

「マジ?楽しみにしとく。…変なものじゃねえよな?」

「さ~あ?どうだろーねー」

 

 嫌な予感しかねえと高成が内心感じていると智乃も誕プレ何にしようかなと呟いた。高成は新山も誕プレくれるの?と返すと智乃からは期待はするなという事だった。

 

「そういや今日の放課後だっけ?例の…」

「うん。会いたいですって言ったらいいよって」

 

 そう、今日の放課後ついに智乃は藤野先輩に告白するのだ。智乃の顔を見て高成は頑張れとエールを送る。

 

「ありがと。あと…今日里帆の家へプリント渡すのお願いできる?1人になるけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。道はもう分かるし。」

「じゃ、よろしくね。」

 

 智乃はふわっと踵を返し自分の席へと座った。

 放課後。貴史はいつも通り部活へ、高成は里帆の元へ、智乃は藤野先輩の家へとそれぞれ向かっていった。智乃は心臓が飛び出そうなほど藤野先輩の自宅へと歩いていく。彼女は勿論フラれたら今のセフレ関係からは脱却し、もう関係は持たないと心の中で決めてはいるが正直ここまで今の関係をずるずると引きづって来た事を考えるとすぐ吹っ切れるとも思えなかった。

 ただいつかは今の関係に終止符を打たなければならないのも事実である。智乃はその事を痛い程理解しているつもりではある。

 

(気持ちはしっかり伝えなきゃ…)

(伝えないより、伝えて後悔した方が多分良い。)

(…よしっ!)

 

 藤野先輩がいるマンションの入り口で智乃はゆっくり深呼吸をし、自身を奮い立たせた。

 

「おじゃまします。」

「どうぞ。なんか智乃ちゃんから会いたいって言われるの初めてかも」

 

 藤野先輩は自室に智乃を連れ、ベッドに座らせる。心なしか以前智乃がその部屋へ来た時よりも参考書やノートの量がやや増えているように見える。

 藤野先輩は智乃に近づきキスをした瞬間。智乃はある小さくも大きな異変を感じ取った。

 

(…?)

(先輩の顔色が悪い気がする…)

 

 そのまま藤野先輩は智乃をベッドに押し倒すも、やはり彼の顔色は悪いようなどことなくやつれている様子が見て取れる。見かねた智乃は彼へ一度声をかけた。

 

「先輩の顔色…なんか悪くないですか?」

「…」

 

 藤野先輩は気づいたか、というような表情を浮かべる。そしてぽつぽつと最近の自分のついてなにやら語り始めた。

 

「こんな事言うのもアレだけど、最近受験のプレッシャーで…食欲が湧かないというかあんま食べてなくて。今日の昼も食べられてなくて」

「…あの、じゃあ文化祭の時のたこ焼きは?」

「あれは…3人で分けて食べた。」

(まじかー…受験後の方が良かったかな)

「そうですか…先輩こんな時に会えないかなんて言ってすみません。」

 

 申し訳なさそうにする智乃の姿を見て藤野先輩は別に智乃ちゃんは何も悪くないよとフォローする。その顔は依然として暗いままだ。智乃は告白もしなければいけばいがまず何か先輩の為にできない事はないかと思案するとある案を思いつく。

 

(とりあえず告白の前に先輩をなんとか元気づけたい…)

「あの、私が何か料理作りましょうか?」

「えっ?!」

「智乃ちゃん料理できるの?」

「はっはい!勿論です!!」

「そっそっか…じゃあ、おじやでもお願いしようかな。ご飯は冷凍してるのあるからそれ使って」

「はい! じゃあ作ってきます!!」

 

 智乃はキッチンへと向かい手を念入りに洗うと冷凍されているラップに包まれたご飯と卵、調味料を取り出し準備をする。

 

 …しかし智乃の頭の中は本来の優先順位の変更を余儀なくされた事で混乱のさなかにあった。無論生きていて物事が予定通りにいかない事というのはよくある事ではあるのだが智乃はまだ高校生。動揺は隠しきれない。

 

(今日告白するつもりだったけど…やっぱ先輩の事も心配だしな…)

(てかやっぱ受験後に告るべきだったっつーか。文化祭の時も気づけよ自分。ばかかよ。あーもー…)

(とりあえずまずはご飯作って先輩の反応が良かったらとりま告白しよう。うん。これで告白できなかったら山岸に見せる顔ねーな…)

 

 ご飯を電子レンジで解凍し、水と共に鍋に入れて一煮立ちさせ調味料で味を調えると最後に溶いた卵を流し込む。ある程度卵が固まって来たら火を止めて、数分間鍋に蓋を閉じて蒸らすと美味しそうなおじやが完成した。なんとかうまいこと形になったので智乃は自身の胸に手を当ててほっとすると、部屋に行き藤野先輩を呼ぶ。

 

「おおー。出来てる…」

「まだ熱いですけど…」

(どうだろう。反応が気になる…)

「…」

 

 藤野先輩は黙ってゆっくりと食べ進める。その姿に智乃はドキドキしながらも彼の様子を見つめていると、全体の3分の1程度を食べ進めた所で藤野先輩が小さな声でぼそりと呟いた。

 

「うん。おいしい。」

「…!!」

 

 その言葉を受け嬉しさを膨らませた智乃はありがとうございます!とはにかみながらお辞儀をすると藤野先輩は茶碗とスプーンをテーブルに置いて智乃にこう問いかける。

 

「智乃ちゃんてさ、やさしいよね」

「…?」

「おれ、正直に言うと智乃ちゃんの考えてる事がいまいちよく分からない。」

「え…」

「あの時の4Pも、バイブもほんとは嫌だったよね?」

「…」

「なんでって思う。今もまだよく言葉に言い表せないけど」

 

 2人の間には沈黙が流れた。

 

(先輩からそう思われてたなんて…全く分からなかった)

(もしかして私も、私が里帆に抱いてるよくわからない気持ちみたいに思われてたのかな)

(自分の気持ちをちゃんと伝える。やっぱりこれが大事なんだ。)

「先輩。」

「なに?」

「私は先輩が好きです。」

 

 智乃はやっと藤野先輩に自身の気持ちを告白した。しかし藤野先輩はその告白をにわかには信じがたいと言った表情を浮かべている。

 

「なんでおれなんかを好きになったの。自分で言うのもあれだけど色んな子とやりまくってるヤリチンなのに」

「なんで…?」

(藤野先輩…先輩を好きになったのは、勿論)

「あの時、怪我をした私を先輩がつきっきりで手当てしてくれた時…あれで惚れちゃいました。物凄く嬉しかったし、感動しちゃった。」

 

 智乃は笑顔でそういうと藤野先輩の脳裏には今まで忘れていたその時の光景が鮮やかによみがえる。

 

(そうだ。あの時の声は…智乃ちゃんの声だったんだ。)

「そっか…」

(思いだした。自分が医者を目指し始めたのも…)

「そうだ…すっかり忘れてた。」 

「…?」

「ありがとう智乃ちゃん。なんか色々忘れてしまってた事とか思いだせた気がする。」

 

 藤野先輩はそう言っておじやをすべて食べきったのだった。

 

「ごちそうさま。美味しかった。」

「ありがとうございます。良かったです。」 

 

 智乃は嬉しそうな表情を浮かべる。藤野先輩はそんな智乃を見てどうぞ座ってと椅子に座るよう促し智乃もそれに続く。そして智乃にもう一つ聞きたいことがあると言ってこう質問した。

 

「智乃ちゃんは正直「好き」の感情以外だとおれの事をどのように思ってた?」

「好き、以外ですか…」

(そう言われるとなかなか思いつかない気がする。)

(でも、…こうして見ると好きの感情が私の中では物凄く強かったんだな。)

(好き、以外か…)

 

 そんな智乃の頭の中にはやはり自分以外の女性とも関係を築こうとする藤野先輩の姿がよみがえる。

 

(ああ、そういやなんであの時4P誘ったり文化祭の時も誘おうとしたんだろうか?)

(確かに考えてるとこ分からないことがあった…里帆みたいに誰とでもやれるとかそういう事なのかな?)

「正直に言いますね…」

「うん。言ってほしい。」

「先輩が何を考えてるのか分からない部分は、確かにあります。」

 

 両者の間には緊張した静寂が流れる。智乃は言ってしまった…とその静寂に耐え切れずうつむいてしまう。藤野先輩も無言のままだ。

 

(先輩も私の事何考えてるのかわからないって言ってたな)

(ああ、今更だけど先輩と考えてる事一緒だったんだ。となるとじゃあその後はどうすればいいのか、だよな…)

(考えがうまくまとまんない…)

 

 智乃がそう考え込んでいると藤野先輩がようやく口を開いた。

 

「智乃ちゃんもおれと同じ事考えてたんだ。という事はお互いをもっと知るべきなのかもね。多分、そこにようやく気づけたのかな。」

「ごめん。おれこういうの初めてでさ…なんかまだよくわからないとこもあったりするんだけど。でもこんなおれの事好きって言ってくれたのは嬉しい。これは分かる。」

「色々自暴自棄というかそんな状態になってた自分にこうして寄り添ってくれたのは…嬉しいかな。」

「…」

(先輩…)

「ありがとうございます。そして先輩の事もっと知りたいです。」

「智乃ちゃん…おれももっと智乃ちゃんの事知りたいと思う。」

「こんなおれで良かったら…えーと…よろしくお願いします。」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 智乃の頬からはすっと涙がこぼれ落ちる。それは藤野先輩も同じだった。

 

「ねえ智乃ちゃん早速だけどさ、好きな食べ物って何?」

「好きな食べ物…やっぱスパゲティとかですかね?」

「いいよね、おれも好き。来週一緒にレストラン行かない?美味いお店があるんだ」

「いいんですか?…ありがとうございます!」

 

 たわいない会話でもそれが2人にとっては宝石箱のような、そんなひと時なのであった。

 その頃高成は里帆の住まうマンションへと向かっていた。ピンポンを鳴らしても出る気配がない。いつも通りドアのポストに封筒を入れて帰ろうとした矢先、高成のスマホが鳴る。

 

「えっこんな時に誰…?」

 

 スマホを取り出すと着信音の主は何と里帆だった。

 

(え??)

 

 おそるおそる電話に出ると里帆は今いい?と聞いたうえで高成の携帯電話番号を教えてほしいと言ってくる。さすがに高成はどういう事だと疑問を抱かずにはいられない。

 

「…あのさ、もしかして家から出られないの?」

 

 高成がそう言っても、里帆はぼかして電話番号を教えてほしいと頼むだけだ。高成は仕方なく自身の携帯電話番号を教えると里帆はありがとう、助かるとだけ言ってさっと電話を切ったのだった。

 

(何がしたいんだ…?やっぱり考えてる事が分からない…)

 

 高成は息を吐くと里帆の住まうマンションを出て家へ向かったのだった。その帰り道。高成が歩いていると道路脇の家から1人の男子高生が出てきた。雄也だ。

 

「あれ、永瀬さん」

「山岸くんじゃん。おつー」

 

 聞けば彼はどうやら親族の集まりでここへ訪れていたらしい。その中には結婚したばかりの夫婦もいると高成に教えてくれた。それを踏まえて雄也はすごい今更だけど、と前置きしたうえで高成にこう尋ねてくる。

 

「山岸くんてさ。好きな子とかいたりするの?」

「あー…」

「…茜谷?」

(気づいてたか…でも事の始まり考えたら飯田の事も話した方がいいのかな…)

「合ってる。…ちょっと長くなるけどいい?」

 

 高成は雄也に里帆と優里について話した。

 最初は里帆に惚れていた事。しかし里帆とやった事で里帆に抱いていた幻想や罪悪感等色んなものが絡み、更には里帆の考えてる事が分からないという事、そんな中優里と出会い元彼との経験や彼女との絡みや想いを雄也に打ち明けたのだった。それを受け止めた雄也は言葉を詰まらせながらそういう事があったんだと呟く。

 

「あれから茜谷とは何度かしてたんだ。文化祭含めて。」

「まあ…最初は塚原さんのアシスト?もあったけど」

「そっか。…あいつ確かに何考えてんのかわからんえっぐい肉食ビッチだけどなんだかんだで良い奴だと思う。おれもあいつとしたけどテクやべーって思った。」

 

 で、今の山岸くんは茜谷と里帆ちゃんが気になってるんだ?と雄也が聞くと高成はそうだと返した。そのうえで雄也は里帆が文化祭で母親と揉めたと優里から聞いたと明かす。

 

「誕生日会には来んの?」

「わからない…あれからずっと学校来てないし正直来ないと思う」

「そっか…連絡は取れてるの?」

「さっき電話しただけかな。すぐに終わったけど。」

「…色々難しいって感じか。」

「逆にさ、永瀬さんは恋愛とかした事あるの?」

 

 高成からの質問に雄也は一瞬だけ驚きの表情を見せるもいつも通り飄々とした様子で答える。

 

「あー…まだないかも」

「マジで?」

「茜谷塚原とは気の合う友人て感じだとは思ってる。」

「でもその流れで塚原とやるとは今考えると思わなかったかなー」

「成程…」

「勢いでやるって事はああいう事なんだろーな、多分だけどw」

 

 雄也はふうと息を吐いて自分で言うのもなんだがお互い後悔はしないようにしていきたいと語った。

 

「永瀬さん…」

「ま、がんばって。おれで良かったらいつでも相談乗るからさ。茜谷塚原も頼りになるし。」

「…ありがとう。」

「じゃ、また明日の誕生日会で。」

 

 そう言って雄也はそばで親戚と会話しながら待っていた両親と合流し、車に乗り込んで去っていった。

 

(茜谷さんと飯田…)

(後悔しないように、か…)

 

 その夜。

 

「優里、明日あさっては2人ともいないけどよろしくね。」

「怖かったらおばあちゃん家行っても良いから。」

「はいはい。大丈夫。」

 

 夕食を食べながら優里の両親は優里に話しかける。

 明日から優里の両親は結婚記念日のお祝いの為に2泊3日の旅行へと旅立つ。優里の姉は9月から自身が働く会社と同じ系列である四国地方にあるの会社へ異動しているので数日間は優里一人で暮らす事となる。同じマンションには優里の祖父母も暮らしており、両親は何かあればそちらへ行くか連絡するようにと念には念を入れるように優里に説明していた。

 

(まあ料理は少しはできるし、最悪出前頼めばいいか。戸締りとか火の用心とか色々きをつけなきゃねー)

(大学へ進学したら1人暮らしするかもしんないし、これくらい多少は慣れとかないと)

(それに明日は山岸くん達来るし…ドキドキしてきた。)

 

 優里は夕食を食べ終わるとリビングのソファに腰かけ、少しぼーっとすると着替えを持ってお風呂へと向かう。

 シャワーを浴びながらふと自分の身体が鏡に映っている姿を見ると高成と致した記憶がふんわりとよみがえってくる。

 

(あー…山岸くんとしたい…ってばか!私変態じゃん!!)

 

 鏡から目をそらすとシャワーを蛇口をひねり置くと、浴槽へ頭ごとどぼんとつかる。

 

(私下ネタ苦手なんだけどなあ…なんで山岸くん相手だけは…エロくなれるんだろ。)

(山岸くんの事が好きだからかな?)

(今答えが出ないという事はもっと自分が山岸くんの事どう考えてるか、考えるべきなのだろうか。)

「ぷはーっ!!…はあ…はあ…」

 

 優里は潜っていた浴槽の中から顔を出し、息を整える。

 

(水の中は苦しいけどほんのちょっとだけ考えがまとまった気がする。山岸くんの事どう思ってるか、あとで整理してみよう)

 

 優里は浴槽から出て髪と身体を洗い、体を拭いて髪を乾かして部屋着に着替えると自室へと引き上げる。その道中自身の両親がソファでキスをしながら仲良くテレビを見ている様子が目に入るがそれらには構わず自室のドアを開いて中に入る。

 優里の部屋には折り紙を切ってわっかにした飾りや折り紙が複数置かれていた。全て明日の誕生日会で使う飾りだ。

 

「ん。部屋を飾るのは明日にしよう。こんだけあればいっか。」

 

 優里はそう言ってベッドに座ると自身が抱く高成への想いについて脳内で整理し始める。

 

「私は山岸くんの事が好き…なんで好きか。それは…えーと…」

 

 優里は結論から言えば今思えば一目惚れだったんだろう。と推察した。日向の言う通りたとえ無意識でも相手を好きじゃなければラブホテルになんか誘ったりしないだろうしその後色々あったが高成とセックスした事で改めて彼の事を無意識からちゃんと「好き」になった変化を感じ取ったのだった。

 

(この「好き」という感情を考えると…山岸くん。これが私の本当の「初恋」だったのかもしれない。あの元彼や早乙女君には山岸くんへ対する感情は無かったから。)

(じゃあ私は山岸くんと出会った事で本当の恋を知れたのか…じゃあ山岸くんとだけエッチ出来るのも…恋してるからって事になるのだろうか。)

 

 優里は次に「好き」以外で高成について何か思い当たる事を考えた。セックスしている時の高成が何考えてるのかと彼とのやり取りを思いだしていく。

 

「山岸くんは普段どんな感じですか?」

「ああ、いつも通りだよ。変わんないと思う。あとタメでいいよ。」

(山岸くんがどんな人物なのか、何考えてるのか、もっと知りたい…かも…)

(それだ。私は山岸くんの事もっと知りたい。)

(付き合うとか恋人同士になりたいって事よりも、山岸くんの事が知りたい。もっと知りたい。そっちの方が強く感じてるかも。)

 

 高成の事をもっと知りたい。今まで漠然としていたものがはっきりとしてきたような、そんな手ごたえを優里は感じた。そんな中脳裏には忘れた筈の記憶がちくりと優里を刺すように思い起こされ、優里は目を閉じる。

 

「お前のせいだー…」

(ああ、忘れたと思ってたのに…くそ。もうあのような事にはなりたくない。だからこそー…)

(私は山岸くんの事もっと知りたいし、知っておく必要がある。それと山岸くんだけでなく、里帆ちゃんの事も…)

 

 優里はふうっと息を吐くと部屋の窓へと向かう。すると満月がひっそりと輝いている様子が見えた。

 

「月が綺麗ですね、死んでもいいわ。か…」

 

 その瞳は優しくもあり決意にも溢れた、そんな瞳だった。

 

 

ーーーーー

 

 ガタンガタン…

 高成は電車に揺られながらふと優里の事を考えていた。

 

(茜谷さん…おれは茜谷さんの事が好きだ。あの時きみしかいないと言ってくれた事がすごく嬉しかった。)

(まさか、ヤる事で相手を好きになるなんて思ってなかった。)

(今言葉にして表すと初めてあの時相手と繋がれたような、そんな気がしたような…)

 

 アナウンスが鳴り駅に到着すると電車を降り改札口を通る。駅を出た近くに優里の住む巨大なマンションがあった。

 

(デカいなあ。飯田の家よりデカい気が)

「こんにちはー。山岸でーす。」

「はーい。いらっしゃーい」

 

 黒いニットと白いスカートを着た優里が高成を出迎えた。高成はおじゃましますと挨拶すると優里は誕生日おめでとうと彼を祝った。高成は優里に案内され、彼女の自室へと向かうと優里の履いているスリッパの音がするすると聞こえてくる。

 

「じゃ、開けるよ…」

「…!すごい…!これ全部茜谷さんが?」

 

 優里の部屋には高成の誕生日を祝う飾り付けがなされていた。折り紙を使った色とりどりの飾りに高成は目を丸くする。

 

「ふふん。どうよ?」

「すごい…!!色もカラフルでおしゃれ…ありがとう。」

「ふふっ。どういたしまして。」

 

 優里は笑うと高成に飲み物用意するけど何が良い?と聞き、高成はリンゴジュースと答える。

 

「用意してくるから待ってて。ベッド座っててもいいよ。」

「うん…」

 

 優里はキッチンへと向かう。高成はベッドに座って待つ事にしたものの、やはり何か手伝えることは無いだろうかと考え彼女の元へと向かった。キッチンが見えてくると、優里がジュースを注ぎ終わってトレイにコップをのせて運ぼうとしている所だった。

 

「茜谷さん、おれが持っていこうか?」

「いいよいいよ、ここは私が…」

 

 優里が高成を制し、両手でトレイを持って数歩ほど歩いた、その瞬間だった。

 

「ちょっうわあああああああっっっ!!!!!」

 

 優里のスリッパのつま先がが運悪くキッチンの入り口にある引き戸のレールに引っかかった事で、優里は大きく転倒してしまい、膝や肘を打っただけでなくたくさん注いだリンゴジュースを思いっきり頭からかぶる羽目になってしまった。幸いにもコップはプラスチック制だったので割れる事はなかったが、リンゴジュースは近くにいた高成の服にも飛び散る事となったのである。

 

「茜谷さん大丈夫?!!」

 

 高成が駆け寄り優里を起こす。

 

「大丈夫?けがはない?」

「いったあ…まあ大丈夫だけどめっちゃ濡れた…山岸くんも濡れてるじゃん…ごめん…あ~あ…せっかくの誕生日会だったのに…」

「おれは大丈夫だよ。これくらいすぐに乾くし。それよりも茜谷さんの方が…」

「山岸くん…優しいね。…ごたごた言っても仕方ない!雑巾持ってくる!」

 

 優里と高成は濡れた床を拭いて掃除と片付けをする。そうこうしていると喉が渇いてきたので別のコップにリンゴジュースを入れてその場で飲んだのであった。

 

「うん、美味しい!」

「ね、これうちの文化祭で出してたやつ!」 

「マジで?あ、確かに味がそうだ…」

 

 2人がリンゴジュースを飲んでいると優里はくしゅん!とくしゃみをする。高成は大丈夫?さっきの件で冷えてるんじゃ…と問うと優里はそうかも…と返す。事実高成のTシャツはべっしょりとシミが広がり、優里の髪と服からは未だにリンゴジュースの水滴がぽたぽたと滴り落ちていた。

 

(山岸くん…優しい子だ。ちょっと…勝負に出てみようか)

 

 優里はあのさ、ちょっといい?と高成に聞く。

 

「一緒にさ、お風呂入らない…?」

 

ーーーーー

 

 その頃。Yシャツ姿の里帆は高成とのライン画面を見返していた。母親は仕事に出かけており夕方まで戻らない。

 

「山岸くん…今見返したらこんなにメッセ送ってくれてたんだ…ありがとう。」

 

 里帆は頷くとドレッサーに自身のスマホを置く。そして母親のクローゼットから黒いパンツスタイルのレディース用スーツを取り出すとそれに手早く着替え、自室のクローゼットの奥にしまいこんだ大きなボストンバッグを持って洗面台へと向かう。鏡を見ると一瞬幼い頃の記憶が里帆の脳内に流れ込む。

 

「里帆の黒い髪、あのお馬さんのたてがみみたいで綺麗ね。」

「…っ!」

 

 里帆はその記憶を振り払うように自身の長い髪をはさみでざくざくと迷いを断ち切るかの如く切っていった。切った髪をゴミ箱に入れるとマスクをつけて大きなボストンバッグを持ち、初めてのパンプスを履いて家を出ていく。

 その歩く背中はどこか寂寥感と孤独感をにじませていた…

 

 一方優里の住まうマンションでは、リンゴジュースを頭から被ってずぶぬれ状態の優里は同じくずぶぬれ状態の高成に一緒にお風呂に入らないかと尋ねてきた所である。

 

「えっ?」

「あっいやその…嫌?」

「あ、嫌じゃないよ。勿論。」

 

 両者とも顔を赤くさせながらやり取りする。じゃ、先にお風呂にお湯入れてくると優里は言ってお風呂場へと消えていった。

 

(茜谷さんと一緒に…お風呂…)

(いいのか?!…いいのか…?)

 

 高成は動揺を隠しきれずぐるぐるとその場を回る。その姿をお風呂場から戻ってきた優里はどしたの?!と驚いた様子で聞くと高成は自分に言い聞かせるように大丈夫大丈夫…とつぶやく。

 

「顔赤くなってるよ?」

「…!茜谷さんも。」

「なっ…!!」

 

 優里は自身の頬を両手で押さえる。

 

「…私変かな?」

「えっ?!」

「だって下ネタ苦手なやつが男と一緒にお風呂入ろうとか…もしかして引いた?」

「いやいや全然!!そんなこと無い!!」

「ほんとぉ~う?」

 

 優里はそう言って眉間に皺をよせながら高成を疑う。

 

「ほんとだって!引かない引かない!」

「…うん。分かった。…ごめん言い過ぎた」

「いやいや茜谷さんは悪くないよ。」

「…ありがと。じゃ、行く?あ、服は後でお父さんので良かったら貸すよ。それクリーニングに出して後日返すから」

「えっ…いいの?」

「むしろそれくらいさせてよ。せっかくの誕生日会台無しにしちゃったんだし。」

「ありがとう…」

 

 2人は浴室へと向かって服を脱ぐ。服を脱ぎつつ互いに体を見つめ合う姿はどこか初々しい。

 

「へ、へえ…こんなとこ黒子あったんだ。」

「うん…」

「ね…ブラのホック外してもらっていい…?」

「うん。…茜谷さんはつけててかゆくなったりしないの?」

「たまにかな…なんでそう思ったの?」

「たまーに、親から背中に手が届かないからムヒ塗ってくれって頼まれる時があってそれで」

「成程ねー。あるあるだわ。」

「こうして見ると、その、良い身体してんじゃん」 

「そう?…そうかな?」

 

 高成の体を褒める優里は笑顔を浮かべてこう言った。

 

「もっと自信持ちなよ。」

「自信…?」

 

 優里は高成の胸部部分に掌を置いて語り続ける。

 

「うん。もっと自信持っていいと思う。…私も頑張るからさ。」

「茜谷さん…」

「山岸くんてさ、何か運動でもしてたの?」

「ああ…、元々水泳やってたんだけど…高1の時に膝やってそれでやめた。」

「そっか…」

「今はもう治ってるからたまに泳ぎには行ってる。でも勉強もあるし優先順位は低いかな…」

「…成程ね。」

 

 2人が振り返ると浴槽には大分湯が貯まってきている事が分かる。優里はリンゴジュースを被った部分は特に念入りにシャワーを浴びて浴槽につかる。

 

「は~っ…あったかい…」

「あったまる…」

「んっ…」

「ふっ…」

 

 目線が合った2人は顔を赤らめながらキスを交わす。優里はそっと両手で高成の頬に触れると彼の体温の熱さが自身に伝わってくる感覚を覚える。それと同時に高成も優里の胸部に手を当てると彼女の心臓の鼓動がダイレクトに伝わり、自身の鼓動も早くさせる。

 

「んっ…はあっ…」

 

 唾液が互いの舌を伝う。それは熱くとろけるよう。高成のそこも優里のそこもしっかり反応している。優里は高成のそこに右手を伸ばすとゆっくりと上下に動かし始めた。

 

「…あ、痛かったら、言ってね…」

「うん…」

 

 優里は上目遣いで高成に自身の行為について聞いてきた。

 

「…どう?」

「気持ちいい…よ…」

「…良かったあ…ね、立ち上がってもらっても、いい?」

「分かった」

 

 高成は優里に言われたように浴槽から立ち上がる。すると優里は右手の動きはそのままにそれを口に咥えて吸ったり舐めたりを繰り返す。

 

「っん…いい…」

「はあっ…塚ちゃんや里帆ちゃんみたいには、まだ出来ないけど…」

「茜谷さんのペースで大丈夫だよ…」

「!…ありがと。」

「んっ…はあっ」

 

 優里がそれから口を離すと高成に座るよう指示をする。そしてそれを自身の中に入れようとした。

 

「あ…」

「外に、出して…」

 

 優里の体はうっすら震えている。それを見た高成が焦らなくていいから、無理はしないでと優里に話しかけると優里はうん。と返し大きく深呼吸をして自身を落ち着かせる。

 

(なんでこんな時に…)

(大丈夫…大丈夫…これは相手が山岸くんだから出来る事。)

 

 そしてずぷっとそれを中に入れた。

 

「んんっ…」

「はあっ…」

 

 2人はぎゅっと抱き合い腰を動かしていく。

 

「だいじょうぶ…?」

「だい、じょぶ…」

 

 互いの熱と吐息と湯船からの湯気が混ざり合い2人の身体は更に熱を帯びてゆく。ふと優里が何かを思いだしたかのように高成に語り掛ける。

 

「そういえば、さ…2人っきりでやるの、初めて…じゃない?」

「たしかに…そうかも」

「いつもは…塚ちゃんとかが、いたからさ…なんだか、今までのより雰囲気、違うね…」

「はあっ…んんっ…」

「きもちいい…」

 

 ぱちゅぱちゅと跳ねるような水音が聞えてくる。

 

「なんだか、あつい…かも…」

「私も…」

 

 2人は一度立ち上がると、バックの体制で再びカラミ始める。

 

「奥まで…届いてるっ…」

「んんっ…」

 

 ぱんぱんと乾いた音が浴室内に響き渡る。高成は優里の尻をゆっくり上から下へと撫でると彼女の身体がびくっと反応を見せる。

 

「んんっ!…」

「何この、感覚…」

 

 試しに高成はもう一度優里に対して同じことをすると同じ反応が返ってくる。

 

(流石にやりすぎたらまずいか…もうちょいしてみようか)

「やまぎし、くん…」

 

 互いに快楽に溺れている時。浴室の外から着信音が聞えてきた。それを聞いた高成の動きも優里の喘ぎ声も一瞬でぴたっと止まる。高成はそれを優里から抜くと、2人はおそるおそる浴室から出て脱衣所へ向かった。高成のスマホを見ると画面には非通知と表示されている。

 

「…非通知?間違い電話かな?」

 

 しかししゃがみこんで画面を怪しむように見続ける2人をよそに着信音は鳴り続ける。

 

「…出てみる?」

「…みよっか。」

 

 意を決して高成がもしもしー?と電話に出ると聞き覚えのある声が聞えてきた。

 

「山岸くん…?飯田です。飯田里帆です。」

「飯田…?」

 

 その声は明らかに里帆のものだった。里帆の声は高成の隣にいる優里にも聞こえている。

 

「今公衆電話からかけてるから…驚かせてごめん」

「いいけど…てか今どこにいるの?!公衆電話という事は外?」

 

 高成がそう答えると里帆はうんと答えた。

 

(もしかしてあの時電話番号教えてって言ってたのは…)

「ごめんあんまり長いこと話せないから手短に言うね。山岸くん、駅まで来れる?誕生日会行ってたらごめん」

「えっ駅…?!!」

「…さよならを言いたくて。じゃ、待ってる。」

 

 里帆はそう言って電話をがちゃんと切った。つーつーという音がスマホから流れ、高成と優里は互いに顔を見合わせる。

 

「今さよならを言いたいって…」

「…まさか、どっかへ行くんじゃ…」

 

 緊張の間が流れ、先ほどまで快楽に歪んでいた互いの顔がひきつっていくのが分かる。優里はすぐさま立ち上がった。

 

「…行こう。なんかこのままだと一生里帆ちゃんに会えない気がしてきた…!!」

「茜谷さん…!!」

「シャツ持ってくるから着替えてて!!」 

 

 高成と優里は急いで服へと着替える、優里は父親の服が置かれてあるクローゼットへと向かおうとしていた矢先、今度はピンポーンと音がした。

 

「あっごめん山岸くん出てもらっていい?!!皆来たかも!!」

「分かった!!」

 

 高成は急いで下着とズボンを履くと上半身は裸のまま走って玄関へ向かう。そこには智乃、貴史、日向、雄也の4人が集まっていた。4人は高成の姿を見て目を丸くさせる。

 

「おうこーせー先に来てt…なんで上半身裸なんだ?」

「山岸まさか茜谷さんとやってた?」

「ごめん!ちょっと色々あって説明は後!!茜谷さーん!!皆来たよー!!」

「りょーかい!!ちょっと玄関で待ってもらってて!今着替えるから!」

「…ねえ山岸どうしたの?何かトラブルでもあった?」

 

 異変を感じた智乃の問いに高成は先ほどの里帆からの電話について手短に話す。

 

「…という事があって。で、今から行こうとしてたとこ。」

「まじ?それって家出?!それとも夜逃げ的な…?!」

「ごめんそこまではわかんない」

「山岸くんお待たせー!!あ、みんなとりあえずわが家へようこそ!!」

 

 優里が父親のTシャツを持って走ってやってきた。優里は制服を着ているが急いで着たためにリボンは結びきれてない。

 

「茜谷さんありがとう!」

 

 高成はさっとTシャツを着ると優里と共に4人にお願いする。

 

「ごめん皆…一緒についてきてもらってもいいかな。お願い。」

「私からも…お願い。」

 

 2人からのお願いに対し4人は当然というように返した。

 

「…勿論!」

「よし、行くか!」

 

 6人は玄関から出て優里が鍵をかけると飛び出すようにかけていった。しかし道中優里は申し訳ないがあんま飛ばして走れないと呟き、日向はどうしたのと声をかける

 

「ごめん…転んで膝打ったのとノーブラノーパンだから今。あと素足にローファーも思ったより痛いなこれ」

「大丈夫?」

 

 見かねて高成と貴史が背負おうか?と問うと優里はお尻が見えるからと言って却下した。そうこう言っている間に一行は目的地へとたどり着く。

 

「とりま手分けして里帆を探そう!茜谷さん達里帆の顔覚えてる?!」

「だいじょぶ!覚えてる!!」

 

 一行は駅前の広場に到着するとすぐさま里帆を探し始める。広場は人が多くごった返している状態だ。高成は里帆が公衆電話から電話を掛けてきた事を思い出す。

 

「公衆電話の近くにいるとか…?」

「飯田って公衆電話から電話してきたのか?ならそれあるな…」 

 

 貴史と高成は公衆電話ボックスの近くに里帆がいると踏んだうえで、まず先に公衆電話を探すことにした。建物の中へ入ると券売機の近くに公衆電話ボックスが見えてきた。

 …そして見立て通り彼女の姿もそこにはあった。しかしその姿は高成らが知るいつもの飯田里帆とはあまりにもかけ離れた姿であった。

 

「山岸くん…!吉野くん…!」

「飯田…!飯田なのか?!」

 

 短い黒髪に黒いパンツスタイルのスーツに白い不織布のマスク。黒いパンプスに大きな紺色のボストンバッグ…どこからどう見ても高成らの知っている飯田里帆の姿では無い。ぱっと見だと就活生のようだ。

 動揺が隠し切れない高成は自身に落ち着くよう言い聞かせつつ、里帆に一旦座るよう促し貴史は優里らを呼びに走る。

 

「…ほんとに飯田なの…?」

「びっくりさせちゃってごめんね。髪切っちゃった。」

 

 にこにこと微笑む姿はいつも通りの里帆の姿だがその笑顔はぎこちなく硬い。貴史の案内によって優里たちがその場へ小走りで走ってくると里帆は一瞬びくっと身構えるようなそんな動きを見せる。

 

「里帆っ…!」

「里帆ちゃん!」

「…っ!…智乃ちゃんと優里ちゃん…と、友達の方?」

 

 里帆が智乃、優里、日向、雄也を指さすようにつぶやくと日向と雄也はどこか遠慮がちに自己紹介をした。

 

「あー…塚原日向です。あかねち…茜谷さんの友人でーす…よろしくー」

「どうもー、永瀬雄也って言いまーす…茜谷塚原と同じ高校で山岸くんとは予備校からの仲でーす…はは…」

 

 里帆はまだ警戒心を解いてはいないようだ。すると里帆の隣へ智乃が座り、どこへ行こうとしていたのかと聞くと里帆はしばらく沈黙した後富山の方と答えた。

 

「富山…?なんで?」

 

 疑問に思う智乃だがそこへ優里がスカートのポケットからミニリーフレットを出し、里帆へ渡す。

 

「多分…ここへ行きたいんだよね?外れてたらごめん。」

「え…探してたけど見つからなかったのに…優里ちゃんなんで?」

「文化祭の時に拾ったんだけど返せなくて…ごめん。」

 

 優里がミニリーフレットを返せなかったことを里帆へ謝罪すると、差しだされたミニリーフレットをそっと受け取り、拾ってくれてありがとうと小さく返した。そのタイミングで駅内には発車時刻のアナウンスが流れた。

 

「里帆、もしかしてさ、その飯田ファームってとこ…」

「うん…私のおじいちゃんとおばあちゃんがいる所。」

 

 その答えに優里と日向はやっぱりか。とつぶやいた。

 

「そういえばもうチケットは買ったの?予約してたりするの?」

 

 しかしその智乃の問いに里帆は首を振って否定する。

 

「じゃあ…そのおじいちゃんおばあちゃんとこへは連絡してたりする?」

 

 その問いにも里帆は首を振って否定した。

 

「…そっか。」

 

 智乃に続いて高成も口を開く。

 

「飯田…おれからも聞いていい?さよならって言ってたけど…もう会えないって事?」

 

 高成は里帆が電話口で言っていた言葉について里帆に聞いた。

 

「うん…まだ分からないけど…でももう会えないと思う。」

 

 里帆のその言葉に周囲は沈黙が流れる。もう里帆には会えなくなるかもしれない。という事実が沈黙と共に流れてゆく。

 

(いいのか…?まだ何もわからない事だらけなのに、いいのか…?)

(私も里帆ちゃんに色々聞きたいことがあるのに…)

((このまま唐突なお別れは…駄目な気がする!))

「…ねえ!ちょっといい?」 

 

 重苦しい雰囲気を破ったのは優里だった。

 

「とりあえず…うちに来ない?」

「え…優里ちゃんの家に?」

 

 里帆が驚きの声を持ってそう答えると日向がそれがいいと思うと前置きしたうえでこう語った。

 

「その…まずはおじいちゃんおばあちゃんとこに連絡してからの方がいいかな、とは思う…それに今丁度山岸くんの誕生日会もやろうとしてたからさ、せっかくだから里帆ちゃんも参加しなよ。」

「そのさ…飯田」

「山岸くん…?」

「えーと…茜谷さんや塚原さんの言う通り、良かったら参加してほしい。このまま飯田とお別れしたら多分…一生後悔するかもしれないし。」

 

 高成の言葉に里帆は真剣な表情を浮かべていた。そして…

 

「…私も参加していい、かな?」

 

 里帆は自ら参加したいと小さいながらもどこか決意のこもった意思表明をした。その言葉に優里は喜んで彼女を迎え入れる。

 

「…どうぞどうぞ!ぜひぜひ!!」

 

 その場には先ほどとは打って変わって、まるで花が咲いたような明るい雰囲気にあふれかえる。優里は里帆の手を取り自身の家まで一緒に行こうと誘った。

 

「優里ちゃんの家ってどんなとこ?」

「マンションだよ。こっからちょっと歩いてたらすぐ着くから。」

「そっか。…私もマンションなんだ。」

「へえ~‼一緒!」

「意外とマンション住まい多いもんだなあ」 

「貴史んとこは一軒家だもんな」

「吉野君一軒家なんだ。知らなかった。」

 

 そんな中優里のお腹が鳴る音がかなりの音量で鳴る。優里は気まずそうな顔でごめんと謝ると日向はそろそろお昼かとつぶやいた。

 

「お昼どうする?」

「う~ん…誕生日会だしせっかくだからピザでも頼む?」

 

 優里のその言葉に里帆は目を輝かせる。

 

「ピザ…!?」

「そういや宅配ピザの広告家に届いてたなあ…帰ってから何頼むか見てみる?」 

 

 やはり食べ物の話題は盛り上がりやすい。こんなピザが好きとか、ここのピザは色々メニューが豊富だとかそんな意見や感想等で一同はわいわいと語り合う。

 一同は優里のマンションへと到着した。リビングへと向かうと優里は広告を取り出して皆に見せつつ、紙コップにリンゴジュースを入れていた。それを見た高成は手伝おうか?と聞くとだいじょぶと優里は答える。

 

「さっきみたいなヘマはもうしないから安心して。」

「うん…気をつけて、量多いし持ってくのは手伝うから」

 

 リンゴジュースの入った紙コップを高成と優里は5人へ配り終えると優里は何か思いだしたのか冷蔵庫の冷凍室の扉を開ける。するとそこにはフライドポテトとパスタの冷凍食品が入っていた。

 

「みんなー!これ合ったけど食べる?」

「食べる!」

 

 ちょっと間が空いて里帆も食べる!と言うと優里は笑顔でじゃ、これも開けようかねとつぶやいた。

 

「みんな決まった?」

「うん!全員決まった…ね!」

 

 お店へ電話して注文を伝えると日向はデリバリーが来るまでちょっと時間あるから…と前置きしたうえで里帆に向かって話しかけた。

 

「里帆ちゃんて呼んでも良い?私は塚ちゃんでも日向ちゃんでもなんでもいいよ。」

「うん…じゃ日向ちゃんで」

「よろしく~。とまあ自己紹介はさておき、本題に入ろうと思うんだけど。」

 

 里帆は日向の言葉を受けまたきつい視線を浴びせて警戒心を強める。日向はだいじょうぶ!取って食おうとしてる訳じゃないから!となだめながら彼女へ問いかけた。

 

「なんで家出?しようと思ったわけか聞いても良い…?」

「それは…」

 

 里帆は口を閉ざしかけた時。高成がそこへ割って入るように里帆へ懇願した。

 

「言いにくいかもしれないけど…おれも知りたい。やっぱ…おれ含めて皆心配してるから。」

「山岸くん…」

「ま、こーせーの言う通りだな。同じクラスのよしみだし?」

「おれは他校出身だけど、何か抱えてる事あるなら言ってみるのも手なんじゃないかな?」

「…私が言うのもなんだけどさ、里帆がその…何か悩んでる事とかあるなら、私も話聞きたい。」

「智乃ちゃん…」

「うちら…友人じゃん?」

 

 智乃たちの言葉を受け、決意を固めた里帆は居住まいを正した。そして大きく息を吸って吐くと決意を込めた眼差しでゆっくりではあるが芯の通った声で話し始めた。

 

「長くなるけど、いい?」

「うん…大丈夫。」

「飯田のペースで良いよ。長くなっても良いから。」

「分かった…」

 

 里帆のその言葉を合図に「飯田里帆」という人間がついにベールを脱いでいく。

 …高成らは黙って彼女を見守るのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

 飯田里帆の父親は建築会社の社長兼馬主、母親は元競争馬や元乗馬などが暮らす飯田ファームの出身である。

 この2人は互いに競馬及び牧場を通して出会い、牧場長で里帆の母方の祖父母にあたる人物からの紹介もあって結婚したのだった。実際ファームには父親が所有している馬も何頭か余生を送っている。

 ただ、なぜか当初母親はこの結婚には反対していたという。理由は里帆は知らなかったようだ。

 

 里帆は幼い頃から競馬場に足しげく通っていた。G1競走で父親の所有する馬が勝った時には口取り式にも参加した。その時の真っ黒い牝馬に母親は見とれたのかよく里帆の黒髪をその牝馬に例えて綺麗と言っていたという。

 その他習い事もしたり、旅行にも行ったり、父親が主催する「パーティー」にも出席したりと幼少期の里帆は恵まれた・幸せな家庭環境の中で育ってきた。

 しかしそんな幸せな生活は里帆が小学校高学年の頃、突如終わりを告げる。

 

 両親が離婚したのだ。

 

 理由は父親の浮気。愛人が数名おり、中には子供もいたようだった。それに激怒した母親は離婚しさらには慰謝料・教育費等を父親に要求した。

 無論それだけでは収まらず、父親の不貞について雑誌に売りつけた。しかしこれはのちに圧力か何かでもみ消される事となる。

 いずれにせよ里帆が多感な時期に家庭環境が大きく変化したのは事実である。里帆はそれまで続けていた習い事や塾を全てやめ、母親は高齢者施設の介護スタッフとして働き始めた。父親は今でも教育費を毎月支払っているようだ。

 

 そしてもう1つ変化した事があった。それは母親だった。

 

 里帆に対して異常なほど過保護になり、男性不信を増大させていった。里帆へは常日頃「男はろくでもない生き物」と教え、近づかないよう警告していたという。高校は母親は女子校に行くよう進めていたが、里帆が受験に落ちた事で共学の学校、すなわち現在通っている高校へ通う事となったのであった。

 …実際里帆が高校受験に失敗した時、母親は里帆を勇気づける事も慰める事もせずただただ嘆く日々を暫くの間送っていたようである。

 

 良い子でいる事。男を信じない事。それが里帆を縛る足かせとなっていった。

 

 そんな日々を送ってきた里帆には母親への鬱憤としがらみから逃れたいという欲求がいつしか生まれた。

(その欲求が意味するものが自由になりたいというものなのか、それとも別の何かなのかは里帆にはまだ分かっていない。)

 

 そして高成らと出会い、文化祭を経てついに家出計画を実行したのだった。かつて自身に優しくしてくれた祖父母なら…という淡い期待をのせつつ家を出ていったのだった。

 

「…これで、終わり。」

「…」

 

 一同はあまりの情報量の多さと内容に絶句する。里帆がジュースを一気に飲み終えると優里におかわりが欲しいと呟く。そんな里帆へ驚きの表情を見せつつも優里は紙コップを受け取るも、頭の中では里帆の告白に対してある疑問が湧いていた。

 

(すごい情報量だった、けど…さっき言ってたパーティー?って何だ?金持ちのあれ的な?)

「あのさ、里帆ちゃん質問良いかな?パーティーって…どういうパーティーなの?レセプション的な?」

「あー…それはね…皆で…「する」の。色んな人と。」

「え…?」

 

 その言葉を受けて優里は紙コップを落としてしまう。高成らは互いに顔を見合わせるもその表情はどんどん血の気が引いていくのがはた目にも分かるほどだ。

 

(みんなでって…それ所謂乱パ…?しかもそれ…なんかもう色々やばいだろ!警察沙汰のような…!)

 

 優里がごめんと謝りながら代えの紙コップを用意しにキッチンへと向かった所で、玄関のチャイムが鳴りピザ屋の店員がこんにちはーと声を上げた。

 

「は、は~い…!」

 

 玄関へ向かってそう答える優里の声は震えていた。彼女は高成らにピザを受け取るようお願いすると、がたがたと硬直する指先で里帆用の新たな紙コップを取り出しジュースを注ぎ、冷蔵庫からフライドポテトとパスタを取り出して電子レンジにかける。

 

(色々と衝撃的過ぎる…)

(多分あれだよね、ビッチになったきっかけは…例の…パーティー…)

 

 一同が品を持って戻ってくると机に置くよう優里は指示する。

 どこかぎこちないのは勿論優里だけではない。高成や日向、智乃、雄也、貴史もそうだ。唯一里帆だけがいつも通りといった表情を浮かべている。

 

「じゃあ、お昼にしよっか…」

 

 高成は脳内で里帆の告白を振り返っていた。

 

(こんな事言うのはよくないけど、今の話がえぐすぎて食べる気にならない…)

(やっぱり例のパーティーで飯田は…新山の言う通り、あの時点でもう処女じゃなかった。って事か…)

(なんだかよくわからない感情が薄らいだけど、逆に重い事実を突きつけられたような…)

 

 全員いただきますと告げて食べ始めるもやはり口数は少ない。そんな雰囲気を受けて高成はどこかもやもやしていた。

 

(喋らないよな…だよな…でも…飯田にも、茜谷さんにも、みんなにも、なんか申し訳無いような…)

(このままでいいのか?…おれはよくない気がする。もうこうなったらとりあえずなんか言え自分!)

 

 高成はいてもたってもいられず、口を開けた。

 

「っピザうみゃああああいいい!!!!ポテトさいこおおおおおおおおお!!!!!めっちゃうまい!!すごくうまい!!さいこう!!!」

(あーもうこうなりゃやけだ!!ってかピザとポテト美味しいのはほんとだし…!!嘘じゃないし!)

 

 高成以外の6人はいきなりの高成の行動に何言ってんだ?とばかりに目を丸くする。その後少し沈黙が流れた後最初に口を開いたのは優里だった。

 

「山岸くんの言う通りめっちゃうまい!!」

「確かに!うまい!!」

 

 高成と優里の息の合ったトーク?に日向も美味いよねとつぶやきつつ高成にこう話しかけると優里も掛け合いを披露する

 

「今日は山岸くんの誕生日。…という事は?…はっぴーばーすでー!!という事ではいっ、歌おう!みんな!!」

 

 かなり強引な流れではあるが、高成と優里と日向のファインプレー?により徐々に雰囲気も明るくなってきた。高成以外の6人は立ち上がり、ハッピーバースデーを歌う。そこには多少戸惑いながらも興味津々に参加する里帆の姿もある。

 

「おめでとう~!!!」

「みんなありがとう!」

(めっちゃ強引な流れになっちゃったけど茜谷さんと塚原さん流石だ…飯田も喜んでくれてる…)

(重苦しい雰囲気だったから盛り上がれて良かった…でも飯田の話がそれだけやばすぎたのも事実だけど今だけは楽しもう)

 

 高成らはピザやフライドポテト、パスタを食べ進める。すると里帆が高成の腕をつんつんとつついてきた。どうやら何かに気づいたようだ。

 

「山岸くんこれ美味しいよ。食べてみて。」

「これ…マルゲリータピザ?」

「うん。小さいときにホテルのレストランで食べたピザと似てる。」

「マジで?」

 

 高成がそう里帆に聞き返すと、間から優里がさっき食べたけどすごく美味しかったと紹介したうえで唐突にマルゲリータピザについて語り始めた。

 

「マルゲリータピザ…私の中ではやっぱり王道オブ王道のピザというとマルゲリータかな。トマトソースとバジルとモッツアレラチーズの組み合わせから来る絶妙な塩気を味わえば何枚でも行けちゃうしその赤白緑のカラーリングも食欲をそそる…そしてマルゲリータという名前はイタリアのお妃さまの名前から取られてるんだって。」

 

 その饒舌な語り口は以前予備校で焼きそばパンについて語った時をほうふつとさせた。優里のあまりの饒舌っぷりに里帆が反応できず口を開けてぽかんとしていると、雄也はこいつ食いもんに目が無いからと言った。それを受けて優里はむっとした表情で雄也をにらみつけた。

 

「はいはいすまん…でもうまいよねこれ。ここレストランもやってるし今度の休日食べに行こうかな。」

「確かに…おれも行ってみようかな」

「おーい。山岸これも食べた?美味いよ。」

 

 智乃がこれも美味いよと照り焼きチキンピザを指さす。先ほど高成が絶叫しながら食べたピザがこの照り焼きチキンピザなのだが、どうやら貴史と日向はこれが気に入ったようだ。

 

「お肉おいしい。」

「いくらでもいけるわこれ。」

(あ、これさっきおれがうみゃああいいって叫んだ時に食べたやつか。確かに改めて食べてみるとお肉が柔らかくて美味しいな)

 

 その後も7人はもりもり食べ進めていく。全て食べ終わった段階で優里は冷蔵庫を開けてバースデーケーキを取り出してきた。ネームプレートには

「こうせいくんおたんじょうびおめでとう」とひらがなで書かれていた。それを見て智乃はくすっと笑う。

 

「なんか幼稚園の誕生日会みたい…w」

 

 智乃の反応を見た優里はえっ?!!と意外そうな声を上げると智乃は焦りながら謝罪した。そんなバースデーケーキを貴史は懐かしそうに見つめている。

 

「バースデーケーキ自体なんか久しぶりに見るわ。おれ野球部だから忙しいし。」

「はえ~そうなんだ。野球部って食事制限とかあるの?」

「そこまでではないけど逆に丼何杯とか結構体づくりの為に食べないとってのはあるかなー」

「野球部も大変だねえ…」

 

 優里はろうそくをケーキに刺していく。

 

「どうする?17本全部いく?」

「いける…?」

「いける…よね?多分。」

「…多分?!」

 

 結果、なんとかろうそくは17本すべて刺しきる事が出来た。あとはろうそくに火をつけるだけだ。

 

「あかねちん慎重にね…」

「うん…」

 

 時間は多少かかったが火をつけ終える事が出来た。それを見た高成や智乃らは火を消す前に写真撮りたいと一斉にスマホを向ける。そんな彼等と違って里帆は座ったままだ。里帆の様子を見て智乃は彼女に声をかける。

 

「里帆、撮らなくていいの?」

「スマホは家に置いてきたから…」

「そうなんだ…ごめん。いつか後で写真送るよ」

「ありがとう…」

 

 写真を撮り終えたのち、優里は部屋の電気を消して高成にろうそくの火を消すよう指示した。

 

「では…山岸くんお誕生日おめでとうー!!」

「ふーっ!!ふーっ!!ふーーーーーーっっっ!!!!」

 

 何度か息を吹きかけてようやくろうそくの火が消えた所で部屋の電気をつけてケーキを食べ始める事になった。7頭分するのに少し手こずったものの雄也のアドバイスも得て何とか全員にケーキが配られた。

 

「頂きます…おいしい!」

「甘すぎずって感じで食べやすい…これ茜谷さんが買ってきたの?」

「うん。昨日夕方に買ってきた。」

「そうなんだ…ありがとう。」

「いえいえ!どういたしましてー」

 

 ケーキを食べ終えると7人は後片付けを手分けして始めた。お皿を洗ったり、テーブルを拭いたり…和気あいあいとした雰囲気は年頃の少年少女らしさを感じさせる。そのさなか高成がふと里帆の顔を見ると汗をかいている様子が目に入る。

 

「…熱くない?ジャケット脱いだら?」

「…脱ごうか」

 

 腕の部分をよく見るとサイズはぶかぶかだった。高成はそのスーツは誰のもの?と聞くと里帆は母親のものでクローゼットから拝借してきたと説明する。理由を尋ねると変装の為と里帆は言った。

 

「もしかして、髪を切ったのって?」

「うん…変装なのもあるし、お母さんの事思いだしちゃうのが辛かったからかな…」

「そっか…」

(あれ、飯田から辛いとかそういうの聞くの初めてな気がする…)

 

 その里帆の「辛かった」という言葉を受けた高成は頭の中で里帆への思いを巡らせる。そこでようやくある1つの事実にたどり着く事となる。

 

(さっきの飯田の話を聞いて今思うと、おれは飯田へ勝手にイメージを押し付けてたのかもしれない…そして勝手に絶望して、遠ざけてた…だから飯田に対して名状しがたい何かが渦巻いていた。)

(飯田はビッチになりたくてなったんじゃないし天使になりたいわけでも無い。ああ、そうだ。ようやく気づいた。ちゃんと向き合うべきだったんだ。茜谷さんにも飯田にも。)

「あのさ、飯田…」

「なに?」

「今まで辛かった…?それとおれの話なんだけど、今まで勝手にイメージ押し付けたりしててごめん」

 

 高成からの謝罪を受け2人の近くに現れたのは智乃と優里だった。

 

「優里ちゃん、智乃ちゃん…?」

「山岸のさっきの言葉を受けて私からも…色々とごめん。もっと里帆の意見や話を聞くべきだった。今更だけど」

「私も…里帆ちゃんの話もっと聞いた方が良かったのかもしれない…」

「茜谷さん…新山…」

 

 里帆と高成が2人を見上げると、何かを思いついたように智乃は6人に対して声を上げた。

 

「みんな集まって!…突然だけどさ、今からみんなが何考えてるか、何思ってるか、辛い事とか打ち明けたい事…告白してかない?」

 

 智乃の提案。それはここにいるみんなが今何を考えてるか、何を思ってるか、辛い事や打ち明けたい事を告白するという事である。

 

「さっきの里帆の話…皆聞いてたよね?それでさ、私達も…何か辛い事とか言えない事とか色々抱えてる事があれば…吐き出してすっきりした方がいいんじゃないかなって。」

「新山…」

 

 高成はそう言った智乃の顔を見上げる。彼女の顔はいつもより引き締まった顔つきだ。

 

「良かったら…言っていかない?勿論この場で話した事は全て他言無用・秘密厳守で。」

「あかねちん…」

「じゃあ、そうしようか。」

 

 片付けも終わリビングに7人全員が集合し、各々ソファやカーペットの上に座った。

 

「…話していこうか。とりま言い出しっぺの私からでいい?」

 

 6人は智乃に了承し、頷く。

 

「ありがと。じゃあ…私は好きな人がいたの。3年の藤野先輩っていうんだけどね。」

 

 智乃は藤野先輩の事や自身の抱えていた複雑な思いについて語り始める。

 

「先輩を好きになったのは、1年の時。その時はバスケ部だったんだけど練習中に怪我しちゃって。」

「その時同じバスケ部の先輩だった藤野先輩がすぐ駆けつけてきてくれて、手当てしてくれた…そんな優しい先輩に惚れちゃったって訳。」

 

 智乃は照れながらそう言うと周りからはおお~と声が上がる。

 

「あの人だよね、文化祭の時の…」

 

 日向が智乃にそう聞くと智乃は頷く。

 

「そう。あの人。…でも告白する前に所謂セフレの関係になった。で、先輩は私以外の人ともしてた…4P誘われたりとか、里帆ともしたり、文化祭の時も…」

「正直私には嫉妬の感情もあったかな。…里帆と塚ちゃんには申し訳なく思う。」

 

 智乃が日向と里帆に謝罪の意思を示すと日向は大丈夫だと声をかけたが里帆はよくわかっていないのか黙ったままだった。

 

「それで塚ちゃんのアドバイスを受けて私は先輩に告白した。」

「…どうなったの?」

「先に結論から言うと…私は先輩と付き合う事になりました。」

 

 智乃のその報告を受けて周りからはおめでとうと拍手が起こる。

 

「いやいや、それほどの事じゃあ…でも、ありがと…で、大事なのがここからだから。」

 

 智乃が盛り上がる皆を制するように語りかける。

 

「この体験を通して私は、そのー…自分の気持ちを伝える事の大事さを知った訳よ。告白した時に私は…先輩から「考えてる事がいまいちよく分からない」って言われたんだよね。」

「自分はそんな事1ミリも思ってない訳で…でもその後私も先輩への気持ちをよくよく考えてみたら、先輩が何を考えてるのか分からない部分は、確かにあった。」

「だからさ、気持ちを伝えるって事はすごく大事なんだよ。私はこれが一番言いたかった。それと今後は先輩の事もっと知りたいな、とは思う。その為には先輩と色々話していきたいな…とは考えてる。」

「あとまあ…塚ちゃんのアドバイスが無ければこの事には気づいてなかったかもしれないのと、山岸も話聞いてくれてありがとね。という訳で私からは以上。聞いてくれてありがとう。」

 

 智乃の告白はこうして終わりを迎える。彼女の顔はどこか清々しく見えたのだった。

 

「次は…誰にお願いしようか。」

「あっじゃあ永瀬は?」

「へっおれ?」

 

 優里からの提案を受けた智乃はじゃあ永瀬くんよろしく。と雄也を指名した。

 

「じゃあ、おれいきまーす…と言っても特には無いんだけど。」

「無いんかい!!」

 

 優里の切れ味鋭い?ツッコミがさえわたる。そんな優里の反応を受けて雄也は全くないという訳では無いから…と補足説明をしたうえで自身の心境について語り始めた。

 

「おれは…今特に好きな人はいないというか、恋愛自体まだ経験無いというか」

「へー…永瀬彼女とかいた事あるもんだと思ったわ。」

「それが無いんだよなあ…で、あの時塚原としたのが童貞卒業の瞬間だった訳。なんだけどなんかねー…これまでやる=恋人同士のものってイメージはなんとなくだけどあったからさ、色々衝撃だったよね。」

「あの流れでやれるもんなのかというか、やるとは思ってなかった…」 

 

 雄也の言葉を受けて高成は当時の様子や、初めて4人で貴史の家へ行った時を思い出した。

 

(まあ…永瀬さんの気持ちは分かる。)

「なんか…おれも永瀬さんの気持ちは分かる。最初は自分もやる事=恋人同士のもの的なイメージはあったし。」

「山岸くんマジか。…ちょっと楽になれたかも。」

「え、そういうの関係なくやりたいと思ってたのもしかしておれだけ?」

 

 そう言った貴史が高成と雄也を見つめるとまた沈黙が流れ始める。日向と優里がまあその辺は人によって色々だし…と貴史をかばうと貴史は2人に握手を求めたが日向は返したのに対して優里は拒否する。

 

「あっごめん。続きどうぞ…」

「お、おう…おれは茜谷と塚原は気の合う友人だと思ってる。だけど実際塚原とやれるとは思わなかったかなーっという話でした。今後様々な人の意見を聞いて色々考えてみたいと思う。また好きな人出来たら変わるかもしれんし。」

 

 雄也が話を終えると拍手が起こる。

 

「次は…吉野くん。どう?」

「おれ?!…分かった。こーせー、せっかくだしよあの事も話していい?」

 

 あの事とは例の公衆トイレで貴史と致したあの件についてだ。察した高成はゆっくりと頷く。

 

「…分かった。じゃあ、長くなるけど話していくわ。こんなおれにも一応憧れの人というか、好きな人はいた。」

「竹内先輩の事?」

 

 智乃の問いかけに対して貴史はうん。と答える。

 

「夏休みに告白したら付き合う事になってさ。嬉しかったし、カフェとかデート行ったりして…楽しかった。」

「あのさ、竹内先輩のどこに惚れてたのか聞いて良い?」

「いつも優しくて、なんでも話聞いてくれて、スタイルも良くて、いつも良い雰囲気してるってとこかな。」

「へえ~…」

 

「だけど、みんなで夏休みにキャッチボールいったじゃん?それでラブホ行った時にそれが野球部の先輩に撮られてて…」 

 

 貴史の告白に優里たちはえ…?と顔を見合わせる。

 

「撮られたのはおれと竹内先輩だけだった。…茜谷さんとかは多分大丈夫だと思う。で、それが監督たちにばれた。しかもばれたのは竹内先輩だけでおれの事はばれてなかった。」

「しかもそれだけじゃあ、終わらなかったんだ…」

 

 貴史の顔が徐々に暗くなっていく。高成は辛かったら無理して言わなくてもいいと声をかけるが貴史は大丈夫。全部話すと答えた。智乃はいつもらしからぬ貴史の表情に何が起こったんだ…?と顔をしかめる。

 

「おれ、その言葉を受けて一瞬にして雰囲気が凍り付いた。

「それって…輪姦?って事?」

「うん、そう。」

「えっ嘘でしょ…そのさ、吉野くんはどうしたの?」

 

 動揺しながら優里が貴史に質問する。やはり答えにくいのだろう、少し間を置いて貴史は話す。

 

「おれも参加した。その時はおれはあんな事されてる先輩に憧れたんじゃないのになんで?って思った…でもほんとは」

「おれはエロかったんだよ。エロいから最初からこうやって女子と付き合ったりするのは向いてないって分かってしまった訳。」

 

 貴史の告白は高成以外の皆が想像していたものよりも比べられえない程に辛いものだった。優里も日向も顔をうつ向かせてどう反応すればよいのか分からないという表情を浮かべている。そこに雄也が貴史にこう問いかける。

 

「吉野くんはさ、これからもう誰とも付き合わないって決めたの?」

「ああ、決めた。セフレでいいやって。それにさ、おれは竹内先輩だけじゃなくて…こーせーともした。」

「えっ?!!」

 

 一同は高成の方へ勢いをつけて視線を送る。しばらくの沈黙が流れ、おそるおそる日向は高成に問いかけた。

 

「…山岸くんほんと?吉野くんとしたの?」

「うん。…本番はしてないけどそれっぽい事は…」

「そうなんだ…」

 

 日向と違って優里はどうリアクションしていいのか分からずに口を開けたままだ。

 

「こーせーともして…だからおれはエロいんだって気づいた。だからおれはもう誰とも付き合わない事に決めた。ヤレるなら最初からセフレでいいや。…期待なんてしない。」

 

 貴史の決意は静かで硬い。そんな彼の意志に対し智乃が語りかける。

 

「…そっか。吉野がそう決めたならそれでいいと思う。」

「新山…」

「幸せの形は1つだけじゃないと思うし。私が言うのもなんだと思うけど、本人が幸せだと感じるならそれでいいと思う。」

 

 智乃の発言に全員確かにそうかもと反応し出す。

 

「幸せの形は色々あるもの…なのかもね。もしかしたらヒトの数と同じだけあったりして。吉野頑張れ。」

「…そうかもな。じゃ、おれの話はこれで終わり。ちょっと話せて楽になった。聞いてくれてあんがと。」

 

 こうして貴史の告白は終わった。彼に対して打ち明けてくれてありがとうと言うような拍手が流れる。

 

「じゃあ次は…茜谷さん」

「えっ私?!!」

「吉野くん、あかねちんはもうちょいためといた方がいいかもよ?」

「マジ?じゃあ塚原さんで。」

「分かった。…じゃあ話しちゃおうかねえ。」

 

 日向はそう言って高成の顔を見つめる。

 

「大丈夫。せっかくだし私全部話すことに決めたから。まあ、墓場まで持ってくのもありかもだけど」

「塚原さん…」

「じゃあ…私の話、聞いてくれる?私は…実は山岸くんの事、好きと言うか…気になってた。」

「え…?塚ちゃんほんとなの?」

 

 優里が日向にそう問いかける。高成は黙って日向の顔を見る。

 

「あかねちん…今まで黙っててごめん。」

「…嘘でしょ…」

「正確に言うと…私は山岸くんとエッチしたかった。やりたかった。」

 

 日向の呟きに優里はややうつむきながら質問をする。

 

「じゃあ、なんであの時永瀬としたの?」

「その時は…山岸くんだけじゃなくて永瀬ともしたかった。」

「え…」

「まさか…」

 

 雄也が視線をあちこちへ移しながらそう答える。

 

「うん。永瀬として、山岸くんともしたいって思ってた。…その後は吉野くんともしたいなあって。」

「ええ…嘘でしょ…」

 

 日向はその場の全員に視線を注ぐ。

 

「これでお分かりかもしんないけど、私はビッチだったって訳。男子を好きになってるんじゃなくて、エッチしたいんだって思ってたのに気づいた。そしてあかねちんの事は大事な友人だと思ってる。勿論。」

「塚ちゃん…」

「でも…我慢できなかった…」

「…」

 

 ははっと乾いた笑いのような何かが日向の口から聞えてくる。

 

「山岸くんとは…したの?」

「うん。あかねちんには内緒で…」

 

 優里の表情は複雑なものだ。

 

「はあ~…バカだなあ私…あかねちんごめんね…」

「…うん…その、もしかして、私と山岸くんと最初にした時…」

「勿論その時にあかねちんが山岸くんの事気になってるんだろうな、とは気づいた。でもって私なりに色々考えた結果がそう。」

 

 優里は考えがまとまらないのか或いは日向の告白が衝撃的過ぎたのか、優里はしばらく黙ったまま何も話せない。見かねた智乃は優里と日向にこう進言する。

 

「…あのさ、また時間がある時にでもゆっくり話していけばいいんじゃないかな?この後でもいいし。」

「新山さん…」

「2人の気持ちは分かるよ。なんとなくだけど…」

「おれも新山さんの意見に賛成だな。ゆっくり話していけばいいと思うよ。」

「「永瀬…良いこと言うじゃん」」

 

 優里と日向は揃ってこういうと、一瞬間が流れたのちこれまでの重い雰囲気からは一転して2人はくすっと笑う。

 

「塚ちゃん…ごめん。今は考えが上手くまとまらないけど…また色々話そうか。」

「うん…」

「でも、塚ちゃんの事大事なのは、変わらないから。」

 

 その言葉に日向は目を見開いた。こうして日向の話は終わり、拍手が起こる。日向が指名しようとすると優里が私が行くと自ら立候補した。

 

「私から話したい事は…それは、私は色々考えてた事があった。里帆ちゃんの事と山岸くんの事。」

「まず里帆ちゃんの事は…文化祭の後、3つ考えてた事があった。」

「1つは里帆ちゃんに対して嫉妬してる事。2つめは里帆ちゃんの考えてる事が分からない事。3つめは里帆ちゃんが可哀想だとも思ってる事」

 

 指折り数えながら里帆への感情を話す優里の顔を、里帆は見ながらじっと話を聞いている。

 

「でもそれらはさっきの里帆ちゃんの話を聞いて大方謎は解けたと…思う。それを踏まえて里帆ちゃんにもう一度聞きたい事がある。」

 

 里帆ははっきりと頷いた。

 

「山岸くんの事、好き?…「恋」してる?」

「…」

 

 優里の想像通りやはり里帆は黙る。そしてぼそっとまるで墨汁か何かをこぼすように言った。

 

「勿論嫌いでは無いけど…恋してる…ってなに?」

「…!!」

(飯田…!)

 

 里帆の言葉が意味するもの、それは彼女が「恋」というものを知らない。という事を意味する。優里と高成はその言葉を受けてぎゅっと拳を握りしめた。

 

(そうか…そういう事か……里帆ちゃんは恋がどんなものか知らない。分からない。…だから…)

(飯田は恋を知らない…おれはそんな飯田に自分の気持ちを押し付けてた…あれだけビッチなのも、そう…)

((謎が、解けた…))

(となると、私はどうすべきか…)

(どうするべきか…おれは飯田の事…)

((もっと飯田/里帆ちゃんの事を、知る必要がある…))

 

 …偶然にもこの時、優里と高成の思考回路は一致していた。里帆の事をもっと知る必要がある、と…そして優里はその事を皆に伝える。

 

「…分かった。私は里帆ちゃんの事、もっと知りたい。」

「優里ちゃん…」

「今後も色々話したい。これでさよならなんて…勿体無いよ。」

「…そうだよね…」

「あっ別に行くの引き留めるとかそういうのじゃないから!大丈夫!安心して!」

 

 若干慌てて里帆へそう伝えると優里は居住まいを正して語りを再び始める。

 

「そして山岸くんの事も…もっと知りたい。」

「茜谷さん…」

「私は山岸くんの事が好き。そして山岸くんの事をもっと知りたい。」

「里帆ちゃんの事も、山岸くんの事も。そして今回の告白を受けて、塚ちゃん達の事ももっと知りたい…!って思う!!」

 

 優里は自身の高成と里帆に対する気持ちを吐き出した。

 

(茜谷さん…おれは…)

「この流れで、山岸くん。ラスト飾ってもらってもいいかな?」 

「…分かった。…その前に。」

 

 高成は優里に拍手を送る。それを受けて皆も優里に拍手を送った。高成は脳内で自身の気持ちを整理する。

 

(おれの気持ち…茜谷さんの事と飯田の事…そうだ、おれ「も」…)

(そして飯田の事…好きか嫌いかで言えば…やっぱり「好き」なんだと思う。けどおれは飯田に対して自分の気持ちを押し付けてた。)

(…なら…)

 

 脳内で気持ちをなんとか整理させた高成は、優里と里帆への自身が抱える気持ちについて語り始める。

 

「おれも…結論から言えば茜谷さんと同じで、もっと茜谷さんの事も飯田の事も知りたい。」

「最初は飯田の事が好きだった。だけど同時に飯田に自分の気持ちを押し付けてた。…飯田ごめん。」

 

 高成へ対し、里帆は小さく大丈夫と告げる。

 

「そして茜谷さんと出会って…あの時初めて茜谷さんとした時、茜谷さんを好きになった。やった時相手と繋がれたようなそんな気がしたんだ。」

「飯田の事も茜谷さんの事も好きだ。だけどいつかはどちらかを選ばなきゃなんない。だからこそ、もっと2人の事を知りたいしもっと話をしたい。」

「…確かに優柔不断かもしれない。だけど飯田にやってしまった自分の気持ちを押し付ける事の方がやっぱ失礼なんじゃないかって思うし、付き合うならちゃんとお互いの事を知っておかないといけないんじゃないかって…思う。」

 

 高成の告白は続く。

 

「あと茜谷さんと出会って、塚原さんや永瀬さんとも出会わなければ飯田にしてしまった事に対して気づけなかったかもしれないし、こういう話をしたり聞いたりする機会は無かったんじゃないかな…その点で言えば皆には感謝してる。」

「長くなって、ごめん。これがおれの今の気持ち…わけわかんないかもしれないけど…以前から抱えていた飯田に対する名状しがたい感情も…あれは飯田の事をまだちゃんと知らないから、どこかで知ろうとする事が怖くて逃げていたから…なのかもしれない。」

「だから…飯田の影がちらついたりしてた。ちゃんと相手の事を知らなければならないというメッセージだったのかも。そしてその後飯田の事を知って、自分の気持ちを勝手に押し付けてた事を知った…」

「そして勿論茜谷さんの事も…知りたい。以上で。」

 

 高成は話を終えた。しばらく間を置いて6人からの拍手が響き渡る。

 

「…山岸くん。気持ち伝わってきたよ。…私と同じだったんだね。なんだかちょっとほっとした。」

「…そっか。あと飯田…聞きたい事がある。」

「何?」

「さよならを言いたいって言ってたけど…電話する相手におれを選んだ理由…今すぐには分からないかもしれない。もしよかったら聞かせてほしい」

 

 里帆はゆっくりになるけど良い?と高成に聞いた。高成は勿論飯田のペースで大丈夫だと答える。

 

「夏休みの時だったかな。山岸くんが女の子2人連れて歩いてたのを見た事があって。」

 

 里帆の言葉を受け高成はもしかして優里と日向と共に予備校から帰宅していた時の事だろうか?と内心感じつつあった。

 

「それを見た時、なんでかは分からないけど息が苦しい気がしたというか、体が動かないような気がした。それと似たような、息が苦しいような感じがして…山岸くんには伝えなきゃって思って。自分でもよくわからないけど…そんな感じ。」

「飯田…」

 

 里帆が話し終えると、優里が里帆に話しかける。

 

「…里帆ちゃん。多分それが…「恋」ってやつなんじゃあない?」

「…そうなの?」

「自分が体験した訳じゃあないからもしかすると、そうなのかもしれないし違うかもしれない。」

 

 優里がそう言うと智乃もちょっといい?と里帆に話しかける。

 

「里帆、その感覚。…ちゃんと覚えておいた方が良いと思う。いつかさ、恋がどんなものかが分かった時、役に立つと思うから。」

 

 こうして。7人全員の「告白」が幕を閉じた。各々秘密にしていた事や、今の気持ち・思い等々を述べた事でどこか吹っ切れたような、すっきりしたような表情を浮かべていた。

 しかし、そんな7人とは対照的に窓の外は雲行きが怪しくなり、遠雷の音が聞こえてくる。

 

「なんか…暗くなってきた?」

「確かに…ゴロゴロ言ってる?」

 

 優里がカーテンを開けて空を見上げる。するとぽつぽつと雨が降ってきた。

 

「うわ…降ってきた。」

 

 優里に対し高成は部屋の電気つけようか?と聞くとお願いと頼みこむ。

 

「急に降ってきたね…」

「ね…」

 

 智乃と里帆が不安そうに空を見ていると、智乃はそうだ、と里帆に話しかける。

 

「まだおじいちゃんおばあちゃんとこには連絡してないんだっけ?」

「うん…」

「とりまパンフレット借りても良い?ちょっと連絡先載ってないか見てみる」

「分かった。…どれどれ…」

「でもそれには載ってなかったような…」

 

 やはり里帆の言うようにミニリーフレットには飯田ファームへの連絡先に関する記載はない。裏を返すと

「一部の施設は事前に予約が必要となっています。詳しくは公式サイトをご確認ください。」という文言が小さく記載されているのに気づく

 

「うーん…公式サイトまずは当たってみるか…」

 

 智乃は自身のスマホをバッグから出して公式サイトにアクセスするとやはり飯田ファームの紹介ページには「見学は完全予約制です。」と記載がある。しかしそこにはやはり連絡先は載っていない。

 

「えー…マジか…まあ牧場だしな…色々地道に検索掛けるしかないか…ツイの垢は…無し。インスタも無い…あった。フェイスブック。ここなら…」

 

 智乃はフェイスブックアカウントを探し出し、プロフィール欄を見ていくと「当牧場の見学は予約制です。予約はこちらから。」という文言と共に電話番号が記載されていた。ホーム画面のヘッダー画像には里帆の祖父母と思わしき人物も馬と共に映されていた。

 

「…あ!おじいちゃんとおばあちゃん…!!」

「やっぱり?…多分ここが電話番号だと思う。かけてみよ。」

 

里帆は智乃のスマホから電話をかける事にした。話を聞きつけて優里たちも近くへやって来る。

 

「…」

 

 ぷるるる…とコール音が5回鳴った後、もしもし。飯田ファームです…と老いた女性の声が聞こえてくる。その声を聞いた里帆は思わず声を上げる。

 

「…おばあちゃん?」

「…里帆?…里帆なの?」

「うん…!そうだよ!」

「里帆…!!久しぶりじゃない…!どうしたの…?」

 

 やはり祖母と孫だからだろうか、2人は声を聞くとすぐに電話口の向こうにいる人物が分かったようだ。

 

「あのね…私、そっちへ行こうと思ってる。」

「そうなの?!まあ~いつぶりかしらね、あなたがまだちっちゃかった時以来かなあ。お母さんも来るの?」

「それが…」

 

 里帆が口を濁らせると、優里と智乃から小さい声で全部事情を話した方が良いと耳打ちを受けた。

 

「…ちょっと長くなるけど、いい?」

 

 電話越しで里帆は今の状況を全て祖母に伝えた。両親の離婚後母親との関係悪化、文化祭で母親と揉めて今は家から出られず学校にも行けない事、母親がいない隙をついて家出し今は友達の家にいる事…全てを時間をかけつつ吐き出していく。

 言い終わると祖母はしばらく間を置いて里帆にこう言った。

 

「…今までしんどかったでしょう?良かったらうちに来なさい。勿論お友達も一緒でいいから。…ごちそう作って待ってるからね。」

「…!!おばあちゃん…!!ありがとう…!!」

 

 感謝の言葉を伝える里帆の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。その姿を見て高成や優里たちはほっと息をついた。

 

(とりあえず…一安心てとこかな?)

 

 その後、祖父母と7人で話し合った結果…翌日全員で飯田牧場へと向かう事が決定した。また、その日に備えて6人は優里の家へ泊る事となった。

 それぞれ両親等に連絡を済ませたりしてのんびりくつろいでいると、時刻は夕方を指示していた。しかし雨脚は以前強いままだ。

 

「晩御飯どうしようか。」

「だねえ…私はあったかいものがいいかなー」

「雨まだ降ってるな…ちょっと冷蔵庫の中は…んー何があるかな…私もあったかいもの食べたいんだよねえ…っくしゅん!」

 

 優里がくしゃみをすると日向が優里にそういえば…と何かを思いだしたかのように声を上げる。

 

「ノーブラノーパンは流石に冷えるんじゃないかなー?あとさっきまで髪の毛濡れてたような」

「あ…そういやそうだった…後で着替えよう。…にんじんと、白菜はあるな。…どうする?寄せ鍋でもする?…ちょっと季節外れかもしんないけど。」

 

 優里は6人にそう提案する。すると皆賛成の意志を示した。

 

「確かにあったかいものの方がいいかもね。こんな天気だし。」

「茜谷さん足りないものある?」

「うーん…だしとお肉とつみれと…野菜と、鍋焼きラーメンとか?」

「じゃあ買ってこようか?」

「えっ大丈夫?!外結構雨降ってるけど…」

 

 優里が買い出しに行くという智乃を心配すると、智乃は折り畳み傘あるから大丈夫と言った。

 

「分かった。お願いしてもいい?近くにスーパーあるから。」

「りょーかい!吉野ー!一緒に行こ。」

「へ?!おれ?!!」

「だって色々買うなら重いしー」

「分かったよ…あと塚原さんもお願いしていい?この辺の道分からんし」

「いいよーじゃいこっか。」

 

 そう言って日向と貴史と智乃は近所のスーパーへ買い出しへ行った。その間に残った4人は下着を身に着け制服から私服に着替えた優里の案内の元、家から出てマンションのエレベーターで下の階へと向かう。

 

「あら、優里ちゃんと…お友達?」

「そうだよーおばあちゃん、鍋パするから鍋とお皿借りても良い?」

「初めまして。はい、そうです。いつもお世話になってます」

「どうぞどうぞ…中に入って。」

 

 優里たちは祖母から鍋とお皿を借り受け、エレベーターに乗って自宅へと戻った。その後4人は静かに買い出しへ行った3人の帰りを待つ。

 

「雨降ってるね…」

「…スマホだと夜まで降る感じだって。」

「永瀬それマジ?」

「マジ。」

 

 優里はため息をつく。静かな雰囲気がしばらくの間流れたのちインターホンが鳴った。優里と高成が玄関へ向かうと3人がスーパーから帰ってきたのだった。3人とも息を切らしながら疲れた~と玄関の中に入る。高成と優里はレジ袋を貴史から受け取りキッチンへと向かった。

 

「こんだけあったら大丈夫かな。皆ありがとう!」

「いえいえー」

「いやー…重かった。いい筋トレになったわー」

「…あれ?これって…花火だ」

 

 高成はレジ袋から花火セットを取り出す。

 

「折角だしやろうかなーって思って。」

「…でも夜まで雨降るっぽいけど…」

「まじかー…どうすっべ」

「止んだら近くの公園でやろっか。」

「だね…止むといいけど。」

 

 その後。優里の祖母にも手伝ってもらいながら夕食の鍋パーティーが開かれた。2つ置かれた鍋を7人はそれぞれ美味しいと絶賛しながら食べていく。

 里帆は大人数で鍋を囲うのは初めてのようで、きらきらとした新鮮な目つきで食べ進めていくとそんな里帆に気づいたのか優里の祖母が彼女に声をかける。

 

「あなた、優里ちゃんにそっくりね。」

「そ、そうですか?」

「鼻や口元が似てるかも」

「そうなの?おばあちゃん?」

 

 優里が尋ねると似てるわよと優里の祖母は笑って返した。里帆の顔はほんの少し赤くなっている。

 

「はー…あったかい…」

「寄せ鍋で良かったね。外結構冷えてたし」

「まあ季節の変わり目だしねーてかもう秋か。そろそろ制服も冬服出さなきゃなー」

「そういえば茜谷さんとこの高校って冬服どんな感じ?うちはブレザー」

「こっちは冬服もセーラーだよ」

 

 高成はきっと優里に似合う可愛いデザインなんだろうなと思いつつふと窓を見る。席から立ち上がってすっかり日が暮れて真っ暗になったベランダの方へ近づくとどうやら雨は上がっているようだった。

 

「雨あがってるね。」

「山岸くんマジ?!…じゃあ終わったら花火する?」

 

 優里が6人にそう呼びかけると勿論!と返って来る。あちこちから美味しいとかあったかくていいーと声が上がる。里帆もおいしそうに食べている様子を見て高成は安心していた。

 

(やっぱみんなでご飯食べるのはいいな…青春て感じ)

(それに飯田や茜谷さんたちみんなの話を色々聞けたのは本当に良かった…)

 

 あっという間に鍋の中身は〆の具材を含め空っぽとなった。

 

「ごちそうさまでした!」

「美味しかったー鍋パいいね!」

「里帆ちゃんは鍋パどうだった?…味とか変じゃなかった?」

 

 優里が里帆にそう質問すると里帆は良かった!と少し嬉しそうな笑顔を浮かべながら返す。

 

「よかったよかった…」

「茜谷さん、片付け終わったら行こうか」

「だね!」

 

 7人は片付けを済ませると花火セットとライター、水の入ったバケツを持って公園へと向かう。その道中、里帆がふと夜空を見上げた。何かに気づいたのか指で上の方向を指し示す。

 

「あ、あれ見て…!」

「…星と…月かな?」

 

 夜空には星々がいくつか点々と光り輝いていた。月も綺麗に輝いている。

 

「おっ、綺麗…」

「ねー…綺麗。」

「「月が綺麗ですね」、か…」

 

 そうつぶやいた高成の声を里帆と優里は聞いていた。

 

「それ、聞いたことある。」

「里帆ちゃんも?やっぱ有名だよね。」

 

 2人は月を見上げる。高成もまた月と星々を見つめながら歩いていくのだった。

 

 公園に到着すると各々静かに花火を楽しんでいく。中でも線香花火は様々な色や形をした光を発しながら輝いていた。その様子を写真に収めたり眺めたりしながら会話をしたりしていた。

 線香花火が消えるのはあっという間。最後にぽつんと小さな光の玉が落ちるように消えていく様は儚さと静けさを感じさせる。

 

「線香花火するの初めて…」

「そうなんだ…」

「すごい綺麗。打ち上げ花火とはまた違う。」

「里帆ちゃん確かに。この小さな花火がぱちぱちってしてるのがまた綺麗なんだよねえ。色もすごく綺麗で。」

 

 線香花火を見つめる里帆の目は大きく開かれ、瞳はきらきらと輝く。

 …それはまるで何かに興味を示した幼い子供のようだった。里帆の瞳を高成と優里はじっと見つめている。

 

(飯田花火初めてなのか…てかあんな目も出来るんだ…)

(まだ純粋さ?純真さ?を失っていない。そんな感じ…)

 

「うん?」

 

 突如、これまでの幻想的な雰囲気と静寂をスマホが鳴る音が響く。智乃のスマホだった。

 

「私のだ…ごめん皆ちょっと一旦電話してくる」

 

 智乃はその場から少し離れてスマホをポケットから取り出す。着信の主は智乃の母親だった。

 

「…なんだろ。泊まるって連絡したらOKって言ってたけど…もしもーし?」

「智乃?ごめんね。今ちょっといい?」

「いいけど。どうしたの?」

「実はさっき学校の先生から電話がきて…里帆ちゃんがいなくなったって。」

「えっ?!」

「お母さんが家に帰ったら家の中はもぬけの殻で…スマホだけが残されてたって。智乃、あなた里帆ちゃんと仲良いでしょ?見かけてない?」

 

 そんな智乃の母親の心配そうな声を聞いた智乃は里帆の方を振り返る。里帆は線香花火を楽しそうに見つめ、時折高成と優里と会話をしているように見えた。

 

(いつもなら先生からの連絡はメールだけど、メールじゃなくて電話な辺りガチのガチか。本当は正直に言わなきゃいけないんだろうけど…)

(里帆の家出…言ったらまたあの母親の元に…里帆がまた傷つくんじゃあ…なんて言えばいいのか…)

 

 智乃の脳裏には線香花火を見つめながら楽しそうに笑う里帆の笑顔がよぎる。その笑顔はこれまで智乃は見た事無いくらいに純真なものだった。

 仕方ない。覚悟を決めた智乃は母親に対し見ていないと嘘をつく事に決める。

 

「お母さんごめん…私も見かけてない…」

「そうなの…教えてくれてありがとう。早く見つかるといいけど…」

「ね…心配だよね…」

 

 智乃はこれでいいんだと脳内で自身に言い聞かせながら電話を切った。

 その後、高成と貴史にも母親から里帆の安否について電話がかかって来る。

 

「新山は…なんて答えた?」

「私は…見てないって嘘ついた」

「マジで?」

「だって、あんなに楽しそうにしてるんだもん。あれ見たら、ね…」

「なあ貴史…おれらも嘘つこう。正直に言ったら…」

「だよな。」

 

 高成と貴史もそれぞれ見ていないと返したのだった。しかしその後も智乃、高成、貴史の電話やラインにはクラスメイトから里帆の安否についての連絡が絶えず届く。

 

「ののかとアンナとにいなからも来た…結構皆心配してるっぽい。」

「マジ?おれはさっき近藤と朝比奈から来た。」

「こーせー、そういや近藤はおれのスマホにもライン来てたわ。」

 

 そんな3人の様子を知らずに里帆は未だ優里や日向、雄也と線香花火に興じている。優里と日向と雄也は里帆や高成らとは違う高校出身なので当然ではあるが連絡網も届く事は無い。

 

「ねえ、山岸と吉野。そろそろ帰った方がよくない?この近辺多分クラスの子いるよね?もし見られたら…」

「それこそ野村と近藤はこの辺じゃね?駅の近くって言ってなかったっけ?見られたらまずいよなあ…」

 

 智乃は優里と里帆の元へと歩み寄り、そろそろ優里の自宅へと戻らないかと声をかけた。幸運にも花火セットは全て使い切ったようで里帆も快く帰ろうと智乃の提案を飲んだ。

 7人は静かに片づけを済ませ、帰路につく。その間智乃と高成、貴史は道路をきょろきょろと見渡していた。クラスメイトがいないかを探るためだ。

 

(見つかってほしくはないな…家までが遠い…)

「あれ、こーせーと貴史じゃん!あと新山!」

 

 高成らが周りを警戒していた丁度その時だった。

 後ろから高成と貴史、智乃の3人を呼ぶ声がする。その声の主はクラスメイトの近藤だった。彼のがっしりとした体格がぼぅっと夜道に現れる。

 

「近藤…!お前どしたの?」

「どしたの…って午前中は塾で午後からは空手。丁度終わった所でさー。まじきっつい…」

「あー、そういや来月大会だっけ。」

「そうそう!…話変わるけど飯田行方不明になったらしいってな。ライン送ったろ?」

 

 近藤が3人に話しかける。その間智乃は里帆が見えないよう彼女のすぐ後ろに立ち、距離を置こうとする。

 

「あー見た見た。大丈夫なんかねー」

「ってあれ?新山の後ろ、飯田と似てるやついるけど…?もしかして飯田か?!!」

(まずいっ…!)

(やべえっ…!!)

 

 一瞬3人に稲妻のような緊張感が走る。しかし近藤が指さしたのは里帆では無く、里帆の隣にいた優里の方だった。

 

「すみませーん…私飯田って人じゃないです。残念ながら人違いかと。」

「えっ…あっそうでしたか…それはすみませんでした…それとお隣の方は?」

「私の姉です。」

 

 優里がそう言ってごまかすと、里帆はどうも…と頭を下げた。

 

「はは…そういや髪型が違ってたか。色々すみませんでした…」

「近藤。まあそれくらい生きてたら何度かあるよ。気にすんな。」

「だよな新山…飯田早く見つかればいいけど…」

「だね…私達も心配してる。」

 

 近藤はじゃあなと言って去っていった。

 

「…行ったか。」

「うん…」

 

 近藤の姿はもう見えない。高成らはほっと一息つくと優里の自宅があるマンションが見えてきた。

 その頃、優里と日向はぼそぼそとなにやら会話をしているようだ。

 

「あのさ。ここで言うのもなんだけど…こないだセフレ出来たって言ってたじゃん。山岸くんとこの文化祭でその人のとこへ行ってた訳でしょ?その人の事も…山岸くん達と一緒だったって事?」

「うん。…でもその中だったら山岸くんはちょっと特別だったかもしんない。」

「そっか…」

「あ、ライン来てる…今日はどっちにしろ無理だし来週かなあ」

 

 日向は自身のスマホとにらめっこしている。優里はそんな日向に何の話?と聞いた。

 

「言ったらあかねちん卒倒しそうだけど大丈夫?だからあの場では言わなかったんだけど…」

「大丈夫だけど…まだ隠してた事あったの?」

 

 そう言った優里に智乃と雄也はとりあえず聞いてみようか。とそっとつぶやく。

 

「いやまあ…一言でいうならパパ活なんだけど。」

 

 優里の顔がひきつっているのが後ろにいた高成からでも見えた。

 

「とりあえず…家でその話詳しく聞かせてもらっても良い?外で話すのはまずいかもだし。」

 

 智乃がそう言うと日向は分かったと了承する。自宅へと戻りごみを片付けると、7人はソファや椅子に座るのだった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 時間は少しさかのぼる。

 夕方。仕事を終えた里帆の母親は夕飯の食材のつまったレジ袋を持っていつも通り帰宅した。だが部屋に入り、里帆の名前を呼ぶも返事がない。

 

「寝てるのかしら…里帆―!お母さん帰ってきたわよー!」

 

 返事は無し。見かねて里帆の自室へと向かい、部屋のドアを開けるとそこはもぬけの殻だった。

 

「え…?誰もいない?」

 

 ベッドには里帆のスマホだけが残されていた。里帆のスマホにはGPS機能があるのだが、誰もいない自室のベッドに置かれている以上その機能は全く意味をなさない。里帆のスマホを見た瞬間彼女は血相を変えて部屋を飛び出し自宅内を探し回るが里帆の姿は見えない。

 

「嘘でしょ?!どこに行ったの…?!里帆?!里帆―!!」

 

 探しても探しても見つからない。マンションから出て敷地内の近くを歩いても手掛かり1つ落ちていなかった。

 

「はあ…はあ…」

 

 自宅へと引き上げると電話が置かれている机の横に貼られたクラスの連絡網が書かれた用紙を見て、担任教師へ電話を掛けた。

 

「もしもし?」

「すみません。飯田と申します。いつも娘の里帆がお世話になっております…」

「ああ!飯田さん!!あの…娘さんお元気ですか?クラスの子達も心配してるみたいですよ?」

「それが…里帆がいなくなってしまって…」

 

 それから連絡網によってクラス中に里帆が行方不明になった事が知れ渡ったのであった。

 そして今、1人ぽつんと里帆の母親は机に座っている。テレビは消えたままだ。担任教師に連絡した際、今晩中に見つからなければ警察へ連絡すべきだと告げられてはいるのだが、もとより里帆を軟禁状態にしたのは他でもない里帆の母親である。それが知られれば自身の身も危ういと薄々感じ始めていた為、今は座して娘の帰宅を待つ事にしているようだ。

 

 その中、脳内で彼女は娘がどこへ行ったのか思案していた。この時1つの仮説にたどり着く。

 

「…まさか…いや富山まで…そんな事は。」

 

 もしかして祖父母を求めて富山まで行ったのだろうか。と考えるもさすがに無いだろうとすぐさまその考えを切り捨てる。

 

「でも…」

 

 ただ、今の彼女は里帆の祖父母とはあまり良好な関係とは言えない。連絡するのも身を引けると言った具合だ。

 

「はあ…どこへ行ったのかしら…」

 

 ただただ時間ばかりが過ぎていく。

 

 

ーーーーー

 

「あっそうだ新山ちょい待ち。こーせーに誕プレ持ってきたんだった。渡さねえと。」

「おれも山岸くんへ誕プレ用意してきたよー」

 

 雄也と貴史がリュックからなにやら高成への誕生日プレゼントを取り出しているようだった。智乃と日向もバッグから誕生日プレゼントを取り出す。

 

「山岸、はいこれ。」

「新山さんきゅー。…これもしかしてペン入れ?」

 

 智乃の用意した誕生日プレゼントはペンケースだった。文房具店で買ってきたものらしく布製で紺色のシンプルなデザインだ。ケースの中には新品のボールペンも2本入っている。

 

「まあ…山岸の好みに合うかは分かんないけど。良かったら。」

「ありがとう…」

「山岸くんはい。」

「塚原さんと永瀬さんのは…クッキーだ。」

 

 日向と雄也が用意した誕生日プレゼントはクッキーの詰め合わせだった。どうやら円形のチョコチップクッキーとアーモンドクッキーの2種類が入っているらしい。高成が笑みを浮かべて2人へ感謝の言葉を言うと貴史はなぜかニヤつきながら高成へかわいらしいキャラクターがプリントされた袋に詰められているプレゼントを渡す。

 

「貴史のやつは…なんだこれ?クッキーとか飴ではないような…」

「まあ開けてみろって。今のこーせーには必要だと思ってさ。」

 

 赤いリボンを解いて袋を返すと、なにやらばさばさっと大量に梱包された半透明の何かが出てきた。その何かを見て優里はえぇ…とドン引きし、智乃と日向は失笑し、雄也は真顔、里帆は何が起こったのか分からないというような顔を浮かべる

 

「ん?これ…もしかしてコンドーム?!!」

「そうそうwこーせーに必要だろうって思って」

「いや待て誕プレにコンドーム送るやつがいるか!!」

 

 高成のツッコミに貴史はまあまあwとなだめてはいるが、近くにいた優里からはぼそっとキモい…と言われている。

 

「こーせー落ち着けって。実はこう見えてもう1つあるから。」

「まじ?」

 

 貴史は自身のリュックから小さな箱に包まれたプレゼントボックスを取り出す。高成が包装を解いてゆっくりと開けるとそこには小さなスノードームが入っていた。スノードームの中にはモミの木と2頭の黒い馬が並んで配置されている。

 

「これ…綺麗…」

「母ちゃんがスノードーム作りにはまっててさ、で教えてもらいながら作ってみた。」 

「すげえ…ありがとう…」

「どーいたしましてー」

 

 嬉しそうにする貴史をちらっと気まずそうに見ながら優里も誕生日プレゼントを高成に渡す。

 

「どれどれ…あ!スノードーム!!」

「いやあ、まっさか吉野くんと被るとはねえ…」

 

 優里が送ったスノードームは中に家とおかっぱ姿で赤い服を着た女の子が配置されている。

 

「嬉しい!!ありがとう…!!」

「へへっどいたまー!!」

 

 優里はにこにこと笑っている。そんな中里帆もそうだ…となにやら高成にあげたいものがあるようだ。

 

「これ…良かったら。」

 

 里帆が差しだしたのは青いミサンガだった。聞けば彼女自ら作ったものでいつもは自身のお守りとして持ち歩いているものらしい。

 

「プレゼント用意できなくてごめん。」

「えっこれいいの…?飯田のお守りなんだよな?」

「大丈夫。山岸くんにあげる。」

「ありがとう…」

「で、話に戻るけど…塚ちゃんパパ活もしてたの?」

 

 優里が神妙そうな顔つきで日向に聞く。日向は足元に転がってた貴史の誕プレであるコンドームのうちの1枚を拾い上げ、顔の近くに持ってきてじーっと見つめながらうん。と答える。

 

「いつからしてたの?」

「進学前から。初体験が中学生の時で、それと同じくらいの年だったかな?」

「へえー…なんかもう色々と早いなあ…」

 

 優里はそう言うと智乃に初体験はいつだった?とこそこそっと聞いてみた。

 

「私はそれこそ今年だよ。このハゲがそう。最初は痛いって聞いたからさっさとすませとこうって思って」

「おいハゲっていうなし…」

 

 貴史が不服そうにつぶやくと智乃はごめんごめんと軽い口調で言う。

 その間日向はまだコンドームを興味ありそうにじっと見つめていた。その様子に気づいた優里はそんなに気になるの?と言うと日向はうーん…となにやら優里の質問をはぐらかすような口調で答える。

 

「にしても暇だねー…」

「だったら塚ちゃんシャワー浴びる?皆も良かったらどうぞ。タオル用意して来ようか?」

「うーん…どうしよっかなー」

 

 ふんふんふーん…と日向は立ち上がったりその辺をとことこと歩いてみたりと怪しい動きを見せている。高成は何か怪しいなと感じた瞬間の事だった。

 

「?!!」

 

 皆の目の前で日向は高成に抱き付き、キスをした。

 

 …それが今からセックスを始めるという合図か。

 

 その光景に優里たち5人は口をあんぐりと開けたままだ。そんな5人と高成の反応など意に介せず日向は高成に抱き付いてキスをしながら高成の股間をズボン越しにまさぐっていく。

 

「んっ…むむっ…」

(えっやんの?!やんのか?!!みんな見てる中で?!公開処刑じゃん!!)

 

 高成は日向の肩に手を置いてそこから離れさせようとするが、日向の磨かれたテクに自身の股間は適わない。やっとの思いで口を引き離すとはあっはあっ…と息を荒げさせる。優里は塚ちゃん?!!と日向を呼ぶと日向は6人に視線を向けてこう言い放った。

 

「さっき色々カミングアウトしていった時みたいにさ…みんなで今からやらない?」

「…は?」

 

 これから皆でセックスしよう。日向からの提案に6人は驚愕の意志を見せる。

 

「あの…さっきも話したけど…私先輩がいるから流石に無理よ?」

 

 智乃がそう言うと、日向は智乃の後ろに回り込み上半身の服をめくって胸を揉んでいく。更には智乃の着用している赤紫色のブラジャーを外し、乳首をぐりぐりとこねるように刺激を与えていく。

 

「えっ…やめっ…んんっ…」

 

 高成はまるで石のように動けなくなった所へ今度は里帆が現れ、高成に抱き付いた。

 

「…やろう?」

 

 優里は立ったまま辺りを見渡していた。その表情はどこからどう見ても「無」といったものだった。

 まず、高成は里帆に抱き付かれてキスをしている。

 次に智乃は日向に胸をいじられ、そこへ貴史と雄也が近づいていっていた。貴史は高成への誕生日プレゼントとしたあげた大量のコンドームをこの際使おうぜと提案すると高成は好きにしたら?とそっけなく返す

 

(私は…山岸くんとしかこういうのは出来ない。みんなの前で…するの?)

 

 ふと優里の目線が高成とあった。表情筋の動きから高成が何やら言いたそうにしているのは理解できたが、里帆に唇をふさがれている状態なので言葉までは読み取れない。

 

(山岸くんは何かを言いたいんだろうけど…何を言おうとしているかは分からない…)

「…」

(とりあえず、近くに…)

 

 優里はゆっくりと高成と里帆の元へと近づく。するとまた高成と目が合う。優里に気づいた里帆も振り返ってじっと優里を見つめている。その目線からは敵意は感じられない。まるで優里も誘っているようだ。

 

(一緒にやろうって事…?)

 

 優里はつばを飲み込んだ。そして服を脱いで下着だけの姿になって高成に抱き付きキスをする。それを見た里帆も同じく服を脱いで下着だけとなり、高成の後ろに回って彼の乳首をいじりだした。

 日向は雄也と貴史と3Pしながら智乃の中に指を入れる。

 

 …こうしてカラミ合う夜が始まった。

 

 

ーーーーー

 

 

 セックスは気持ちいいだけじゃない。

 

 欲求や種の保存もさる事ながら、愛や恋といった自身の感情・気持ちを伝え合うコミュニケーションでもあり今複雑に絡み合う彼等はそこからさまざまなモノを得ていった。

 

 痛み、苦しみ、悲しみ、辛さ、嬉しさ、嫉妬、得体の知れなさ、共感、理解、愛、恋、想い…と挙げだすと枚挙にいとまがない。

 

 勿論言葉や文字のやり取りだけでは伝わらない感情もある。その感情を相手に伝え、相手と自身を肉体的にも精神的にも繋いでゆくのもまたセックスの極致と言えるだろう。

 

 彼等はこの短くも濃密な夏、その青い春を知って成長していった。

 

 男も女も関係なく絡み合う。

 

 少年少女達はこれでもかと体を求めあう。

 

 それはまるで神聖な儀式や祭りのようでもあり、何かを懐かしむように。

 

「ああっ…はあっ…ああっ…」

 

 優里は高成に抱きかかえられながらじゅぽじゅぽと自身の中へゴム越しに高成のものが当たっている感覚に何度も何度もイキそうになっていた。というか既にもう2回くらいは絶頂を迎えている。

 

「山岸くんのっ…すごぉいっ…」

「んんっ…」

(皆がいる前でっ…こんな顔っ…) 

 

 7人ともとっくに服を脱ぎ捨てて一糸まとわぬ姿となっている。

 それだけでも優里にとってはかなりの羞恥を感じてはいたが、それ以上に皆の目の前で高成に犯されているという事により強く羞恥を感じていた。しかし同時に相手が高成であるという事に対しては安心感も抱いていた。

 …それだけ普段は下ネタ全般苦手な彼女が高成をどれだけ信頼し愛しているかの証左と言えるだろう。優里の顔は汗にまみれ、所謂アへ顔とまではいかないが完全に目元と口はとろんとしている。

 

「ああっ…もっとっ…ついてえ!」

「んはあっ…あかねや、さん…!!」

「…あかねちんのあんな顔はじめて見たかも…」 

「ほら…2人とも生でいいよ?」

 

 同時に日向と貴史と雄也と3Pに興じていた。前は雄也、後ろは貴史…2穴責めに日向は自身の今までの経験の中では5本の指に入るほどの快感を味わっていた。

 

(これすごいっ…!!)

「ああっ…塚原のなか、やばいっ…」

「もってかれるっっ…!」

 

 貴史と雄也も快感に溺れる。前と後ろどちらもぎちぎちに締め付けてくる。

 

「んほおおっっっ!!しゅごいいいっっっ!!!」

 

 絶叫のような喘ぎ声を上げながら絶頂を迎える。2人は日向の中で果てた。

 

「ははっすごいね…」

 

 智乃は1人自身の胸と先ほどまで日向にいじられていた中に刺激を与えていた。輪の中に入ろうとしないのは勿論、藤野先輩への想いからである。

 

(いやいやさすがに無理…)

 

 そんな智乃の元に里帆がゆっくりとやってきた。

 

「…智乃ちゃん、しないの?」

「…だって藤野先輩がいるのに。」

「…」

 

 里帆は智乃に顔を近づけるとキスをする。

 

「んっ…」

 

 両者の舌が絡んでいく。ゆっくりとじんわりと舌から身体全体へ熱が伝わっていく。里帆は智乃の背中にすっと腕を回した。そこに力はほとんど加わっていない。

 

(…)

(そういや、里帆とはいつからの付き合いだっけ)

 

 智乃の脳裏には里帆と初めて出会った時の記憶が呼び起されていた。

 

(去年の夏頃だったっけ。席が前後だったから、そこであいさつしたくらいか。今思えば里帆はあの頃から友達少なかったというか、いなかったな。おとなしかったし。)

(でもなんだかんだで話してみたら仲良くなれた。色々あったんだよなあ…)

 

 智乃もまた里帆の背中に腕を回す。

 

(あたたかい…)

 

 智乃と里帆はひしっと互いを抱きしめながらキスを交わすと、横になってまたキスをすると里帆が智乃の胸に手を置いた。

 智乃のDカップはある豊かな胸と少し大きめの乳輪がびくっと揺れた。背中以上に里帆の掌の冷たさを感じたからだ。里帆の掌は滑らかだがどこか白く手汗1つもかいていない。

 

(里帆の手の冷たさがより強く感じる…)

 

 智乃は一度起き上がってそんな里帆の掌を自身の掌を重ね合わせた。

 

「里帆の手…冷たいね…」

「そうなのかな?」

 

 ぎゅっと手をつないでみたり、マッサージをしてみると徐々に掌の温度が上がっていく。

 

「こんなもんかな」

 

 智乃はそう言うと自身の左胸に里帆の手を置いた。里帆はそれを受けてもう片方の手も智乃の右胸に置くとゆっくりと揉み始めた。

 

「んっ…」

 

 ゆっくりと繊細なガラス細工を扱うように揉んでいく。藤野先輩や貴史、高成とはまた手つきが違うと智乃は感じていた。

 

「んっ…」

 

 智乃もお返しといったふうに里帆の薄い桃色の乳首をつまむとんっ…と吐息が聞えてくる。

 

(感じてる…)

 

 すると里帆は智乃の腕を自身の中へといざなった。

 

(入れろって事…)

 

 里帆の中に指を2本入れる。そこはもうぐっしょりと濡れていた。智乃の指は滞る事無くするすると奥まで到達すると、うねうねとした中の肉がぎゅっと智乃の指を締めあげてゆく。

 智乃は奥まで入った事を確認してから指をゆっくり速度を上げながらぐちょぐちょと動かしていく。

 

「んんっ…あ…」

 

 指を動かす速度を速めると里帆の喘ぎ声がより大きくなっていく。途中、奥の方を指の腹で押すようになぞっていくと里帆は腰をもだえさせながら快楽に歪む顔をした。

 

「そこっ…んんっ…」

(もっと早めてみようか)

 

 ぐちょぐちょぐちょ…ともう一段階ギアを上げる。すると里帆はんんーっと喘ぎながら絶頂を迎え潮を吹いた。

 

「ああっ…あー…っ…」

「はあ…はあ…」

 

 里帆はゆっくりと息を切らしながら起き上がると、今度は智乃の中に自身の指を入れる。そして智乃も里帆と同じように潮を吹きながら絶頂する事となる。

 

(やばっ…これっ…)

 

 そんな中優里は高成と何度もイキまくった事で既にへとへとの状態で床に転がっていた。

 

「はあっ…もう無理っ…」

 

 まだ快感が全身に残る優里の元に日向がやってくる。

 

「あかねちんもうギブ?」

「だって…!大 乱 交なんて初めてだし…!」

 

 日向は優里に肩を貸して彼女を起き上がらせてソファへ座らせる。そして股を開かせてぐっしょり濡れたそこを吸うように舐め始めた。

 

「あっやだっ…!!私っ山岸くんとしかそういうの…無理なんだって!」

 

 優里が股を手で押さえてそう制する。すると高成が2人の元へやってきた。

 

「大丈夫?」

「あ…」

 

 優里は思わず下を向いた。

 

「やっぱり私…山岸くんとしかエッチは無理…なんか、ごめん…」

「そっか…」

 

 若干気まずくなる2人の間に日向はそうだ、とある提案をする。

 

「じゃあ、あかねちんは山岸くんとしつつ4人でやろっか」

「え?」

「ほら。向こうも3Pやってるし」

 

 日向が高成と優里の後ろを指さすと里帆は貴史と雄也と共に3Pに興じていた。里帆の口は雄也のものが、中は貴史のものがそれぞれふさいでいる。その様子を里帆の胸を時折揉みながら智乃は見ていた。

 

(飯田…すごい)

(わわ…里帆ちゃん…)

 

 高成と優里が顔を赤くしながら淫らに犯されていく里帆を見ていた。日向は智乃を呼ぶと智乃はこちらへとやって来る。

 

「4人でやろ。山岸くんは仰向けになって。で、あかねちんは山岸くんの顔にまたがって。」

「えっ…!こ、こう…?」

「私はここまたがって…こっちお願い。抱き合う感じで」

「塚ちゃんこんな感じ?」

「いいよ。じゃあ、みんな動いて」

 高成の顔面には優里が、いきりたっているそれの上には日向が、そして腹部には智乃が騎乗するような形で4Pを進めていく。

 日向と智乃は抱き合うような形でキスをしたり互いの身体を触り合う。高成は優里の濡れたそこに舌を這わせて舐めたり吸ったりを繰り返す

 

「ああっ…はあっ…」

「奥当たってるっ…!」 

 

 優里は腰をそらせたりしてびくびくと反応を示す。

 

「ああんっ!…はあっ!」

 

 淫猥な水音があちらこちらから響いてくる。勿論高成らが4Pをしている場面を貴史と雄也も見ていた。

 

「こーせーたちすげえ…」

「いやあ…すっごいな…」

「なんだかこっちも負けてらんねえな」

 

 貴史は腰を動かすスピードを速めていくと里帆の口と中もほぼ同時に締め付けを強くする。

 

「んむっ…んっ…」

「やべえっ…あ、すごい吸い付きっ…」 

 

 雄也は里帆の口の中に出してしまった。里帆はそれを飲み込むと少し息を切らしながら2人にある提案をする

 

「2人とも、キスしてみない…?」

「え…?」

 

 雄也は戸惑いの様子を見せる。彼にとっては男同士で行為を進める事は初めてなので無理もない。そんな雄也に貴史は嫌なら無理しなくていいぞと声をかけた。

 

「いや…嫌って事は、無いけど…」

 

 雄也の反応を見て貴史は一度それを里帆の中から抜いて、雄也の元へ近づくと彼にキスをする。

 

「んっ…」

 

 舌が絡み合う感覚に両者は胸を弾ませる。2人の様子を下から見上げていた里帆は2人のそれを手に持って先端同士をぐにぐにとくっつけながら舌で舐めたりを繰り返す

 

「んんっ…」

 

 雄也と貴史の声が思わず漏れてくる。その一方で優里は高成に何度も敏感なそこを吸われ舐められてよがり続けている。

 

「ああっ…もう、むりっ…」

 

 ついに彼女は高成の顔面に潮を吹いてしまったのであった。

 …まだまだ淫らな夜は終わらない

 

 そんな里帆たちが淫らな欲望と互いの想いに身を任せていた頃…里帆の母親は電話口に立っていた。

 

「…」

 

 あれから担任教師やクラスメイトの親からは里帆が見つかったという連絡はまだ来ていない。彼女は里帆の祖父母に電話をかけようとしていたが手が動かずにいた。

 

「…はあ…よし。」

 

 ようやく覚悟を決めて電話する事にした。コール音が5回ほど鳴ると里帆の祖母が電話を取る。

 

「はい。飯田ファームです。」

「…母さん。」

「…あんた。久しぶりじゃない…どうしたの?」

「里帆が…どこかへ行ってしまって…母さんのとこ来てたりしない?」

 

 たどたどしいやり取りが続いた後、切り出したのは里帆の祖母だった。

 

「ああ、里帆の事なんだけど。明日私達の元へ来てもらう事にしたわ。そしてあなたの事、里帆から聞いたわよ」

「え…」

「里帆は…私が考えるには、またあなたとあの人の3人で暮らしたい。そう願っているのだと思う」

「今の環境から新しい環境へ、知らない街へ…みたいな事を言ってたけど本心では、また家族で幸せに暮らしたいのだと思っているんじゃないかしら?」

「でもっそんな事は…!あの男を許せと言うの?!!」

 

 確かに里帆の母親がそのような事を許すはずが無かった。実子である里帆に手を出し、更には他の女達とも関係を築いた。里帆の母親が男嫌いになったのも彼が主な要因の1つである。

 

「確かに、そうね…でも、里帆にとってはあの頃が忘れられないのだと思う。皆で競馬場行ったり、レストランとか旅行へ行ったりした日々が。」

「里帆にとっての家族はあなただけでは無く、あなたとあの人の2人が揃ってないといけないんじゃない?」

「…っ!いやよ!今更あの男と再婚するとか!!汚らわしいっ!」

 

 里帆の母親は嫌悪感を露わにしながら怒鳴り出す。その声を黙って聞いていた里帆の祖母はじゃあ分かったわ、と一声置いて彼女にこう提案した。

 

「里帆はしばらくうちで暮らしてもらいます。」

「なんですって…?」

「さっきも言ったでしょ。あなたの事里帆から聞いたって。里帆はあなたの事で相当心を痛めていた。しばらく心を休ませる必要があるの。…心を休ませる必要があるのはあなたもだけどね。」

「それにあなた。あの人の事が嫌いと言ったわね。それもあるかも知れないけど…本当は嫉妬してるんでしょ?里帆にも浮気相手にも」

「え…?」

「里帆へつらく当たるのは、里帆があの人とそういう関係だったからでしょう?」

 

 里帆の祖母は里帆の母親が彼女に厳しく当たるのは、里帆への嫉妬からも来ている。確かに里帆の父親がした事は許されないものではあるが、里帆への嫉妬を隠すために里帆へ厳しく当たるようになり更に里帆の父親だけでなくこの世すべての男性に敵意を向けた。と語る

 

「考えてごらんなさい。あの人は確かに酷い事をした。でも里帆は何も悪くない。何も知らなかったんだから。」

「…」

「あの人の件については勿論あなたは全く悪くないし同情するけれど…何も知らなかった実の娘にも嫉妬して厳しく当たって、自分の考えを押し付けるのは間違っていると思うわよ?だからあの子は心のどこかで両親からの愛情とあの頃の幸せな家庭を求めて家出したんじゃないの?」

 

 電話越しには沈黙が続く。

 

「…やり直せるかしら。里帆と。」

 

 ぼそりと里帆の母親はそうつぶやいた。

 

「…あなたが本当に心の底からやり直したいのならチャンスはまだいくらでもあるに決まってるじゃない。」

「お母さん…」

「今は里帆が傷ついてるしほとぼりが冷めてからにはなるけど…あなたも帰って来なさい。」

 

 里帆の母親は静かに泣いていた。

 

「…」

 

 その頃の優里の家では…

 雄也と貴史との3Pを終えた里帆は高成の近くにふらふらとやってきていた。体液まみれのその体はどこか艶めかしい。

 

「山岸くん…」

「飯田…」

 

 里帆は座って仰向けになっている高成の顔に自身の手を添えて見つめ始めた。

 

「…」

 

 そのまま里帆は高成に軽くキスをするがすぐに里帆は立ち上がって移動する。

 

(何をするんだろ…?)

 

 里帆の行動に高成は疑問を感じていると、里帆は高成の手を掴んで起き上がらせようとする。里帆に促されるまま高成は起き上がると里帆の近くには既に限界を何度も突破したと思わしき優里や智乃が横になって体を休め、日向は1人自慰行為を行っている。

 里帆は正面から高成を抱きしめてこう言った。

 

「山岸くんの身体いつも以上にあったかい気がする…お母さんと全然違う」

「…そうなの?」

「あれ、なんでお母さんの事思い出したんだろ?」

 

 里帆は首をかしげる。なぜこのタイミングで母親の事を思い出したのか自分でも分かっていないようだ里帆は高成とキスをしながらそれを右手でしごき始めた。

 

(なんで思いだしたんだろう…?何か気になる事でもあったのか…?)

 

 高成は頭の中で考えを巡らせる。少し迷ったが里帆にある質問を投げかける事にした。

 

「飯田のお母さんてさ、あったかくないの?」

「…昔は、あたたかかった…でも今はそうじゃない…」

「そっか…」

 

 里帆は一瞬目を伏せた。高成はそれを見てやはり聞かなかった方が良かったか…と内心自問自答する。高成の顔を見て里帆は彼に話しかけた。

 

「山岸くんは優しいね…」

 

 高成は目を丸くさせる。その里帆の一言にでしょ?と共感する声が上がった。優里の声だ。

 

「そこが山岸くんの長所だと、私は思うな」

「優里ちゃん…」

「それに、「あったかい」んでしょ?山岸くん」

 

 優里の問いに里帆ははっきり頷いた。

 

「ねえ山岸くん。私を…もっかい抱き締めてくれる?」

 

 高成は里帆を抱きしめた。優里は高成の背中に自身の顔を当てて寄り添う。

 

「やっぱりあたたかいね…」

 

 里帆は安心したようなそんな表情を見せる。里帆と高成はソファの上で行為を進めていた。優里は2人から離れてそっと見守っている。時折里帆の喘ぎ声が響き渡る

 高成は里帆を抱きながら彼女の顔を見ていた。純真そうな眼といつも通り笑みを浮かべた顔。最初は何を考えているのか分からなかった里帆の表情も今はある程度は分かるようになった事を高成は内心理解しつつあった。

 

(ここまで長かったなあ…)

 

 里帆は高成の背中に手を回し、快楽に身を任せる。2人の顔は赤みを増す。

 

「はあっ…あっ…」 

 

 里帆の中が高成のそれをぎゅっと締め付けていく。

 

「あっ…」

「飯田…」

「んっ…、もっと、激しくしていいから…」 

「分かった…」

 

 腰を動かすスピードを速めるとより喘ぎ声が大きく響き渡る。

 

「ああっ!…はあっ…」

「んっ…」

 

 そのまま2人は絶頂を迎えた。

 

「はあ…」

 

 高成と里帆を合わせて7人の息が部屋にこだまする。

「はあっ…」

 

 部屋には淫らな雰囲気が海のように満ちていた。まるで高成も含めて皆それに溺れているようだ。

 

「こーせー…」

「何…?」

 

 貴史がゆっくりと高成の元へ歩み寄り、彼を四つん這いの状態にし、それをいつかの夜でやったように高成の尻の割れ目へと挟み込む

 

「あっ…」

「はあっ…はあっ…」

 

 貴史は高成の尻を揉みながら腰を動かしていく。その高成の姿を里帆たちは顔を少し伏せたり赤らめながらじっと見ていた。

 

(山岸くんが男子とやってる…)

 

 優里は手で顔を覆いながらも高成と貴史の行為を見ていた。時折貴史のそれの先端が高成のアナルを突くと高成の身体にはびくびくと電流のような衝撃が走る。

 

「ひぎっ…当たってる…」

「…なあ、入れてみよう、か…?」

「いや、無理だって…慣らさねえと…」

「分かった。じゃあまた今度…な…」

 

 そのまま高成の尻で貴史は自身のそれをしごく。そして高成の尻で果てたのだった。ティッシュで出したそれを拭くと、ゆっくりとソファに倒れ込むようにして座る。高成もその場でぐったりと横になった。

 …その後も7人はかわるがわる休憩を挟みながら、カラミあっていくのだった。

 

「ん…」

 

 気づけばカーテンの隙間からオレンジ色の朝日が差し込み始めた。夜明けの時間。優里はそれに気づいてカーテンを少し開けて空を見る。

 東の空の地平線は眩い程のオレンジ色、朝日を挟んでその上は深い紫がかった青い夜空がグラデーションのようになっている。そこから少しだけ星々らしきものが小さく輝いていた。

 

(きれいだなあ…)

 

 窓からちらっと6人の顔へ視線を移す。まだ寝ているようだ。

 

(起こそうかな、出るの早いし)

 

 優里は下着を着けて、6人に声をかけて起こす。

 

「おーい!朝だぞー!!」

「んー…」

「まじで…?」

 

 一同もぞもぞと起き出してくる。高成と里帆もまた優里の言葉を受けて起き上がった。

 

「おはよう…」

「おはよ。」

 

 あれから皆は各々シャワーを浴びたり着替えたり荷物を片付けたり部屋を掃除したりして過ごしたのち、富山へ向けて出発した。

 優里が戸締りを済ませたのち、近くのコンビニでおにぎりを買って頬張りながら駅へ向かい、電車に乗った。

 

 …そして別の駅に着くとそこから高速バスへと乗り換えいよいよ富山へと向かう。 里帆は車窓からの景色をずっと眺めていた。そんな彼女へ隣に座る優里は話しかける。

 

「ねえ。里帆ちゃん」

「?」

「緊張してたりする?」

「うーん…」

「ちょっとだけドキドキするかも。…優里ちゃんは?」

「私?私はー…」

「同じかも。行った事無い場所だし、ドキドキしてるかも。」

 

 その旅路は青春らしく爽やかに彩られつつ、少し緊張も感じさせる。

 …富山へたどり着くと、そこから別のバスに乗り換えてついに7人は目的地へと到着した。

 

 木々と草原が織りなす緑色の風景が海沿いまで広がり、そこに馬房と事務所、祖父母が暮らす少し大きめの家があった。涼しく柔らかな風が吹きぬけ空は雲一つない快晴だ。

 

「ついたね…」

「うん。ついた。」

 

 7人は目的地へ到着した事を改めて実感する。

 

「…受付だっけ?どこへ行ったらいいんだろう?」

「とりまあの事務所行ってみようか」

 

 智乃の提案を受けて7人は事務所へと向かう。だんだんと近づいてみると事務所の傍らに「受付はこちら」と記された看板が見えてきた。

 

「合ってたね。…すみませーん!」

「…出てくるかな?」

 

 里帆は緊張した面持ちで唇を噛みながら荷物の入ったボストンバッグの持ち手をぎゅっときつく握った。その手には汗がにじむ。

 

 そして…

 

「はーい!…里帆!」

「おばあちゃん…!」

「「おかえり」、里帆!そして皆さんも来てくれてありがとうね…!」

「うん…!!」

 

 白髪がかった黒髪のショートヘアをした里帆の祖母は暖かく7人を迎え入れた。受付を済ませると里帆の祖父母が住まう家へと案内される。

 

「お昼まだでしょ?食べていきなさい」

「いいんですか…?ありがとうございます!」

 

 皆お礼を言うと里帆は1人外の景色を見つめている。高成がそれに気づくと里帆は感慨深い顔で語り始める。

 

「私、知らない街へ行こうって思ってた。でも、思いついたのはここだった。」

「勿論おじいちゃんおばあちゃんがいるから、とは思った。けど私はー…ここに来てようやく気づいたの。」

「もう一度家族皆で暮らしたいって。お母さんともお父さんともあの頃のようにー…」

「飯田…!」

「無理なのは分かってる。お父さんの事お母さんが許すはずがないって。でも…!」

「里帆、あなたの気持ちは分かってるよ。」

 

 里帆の祖母がそっと里帆の頭を撫でた。

 

「大丈夫。今はおばあちゃんとおじいちゃんがいるからね。それにこんなにお友達連れてきてくれて…独りぼっちじゃないみたいで良かった。」

 

 里帆は今にも涙があふれそうだった。7人は里帆の祖父母が住まう家へと通され昼食を取る事となった。色鮮やかな散らし寿司にあたたかいあさりのお吸い物と煮しめが皆の身体を癒していく。

 

「美味しい…!」

「あの…お代わりいいですか?」

「どうぞどうぞ!」

「あっ!あれ!」

 

 そんな中里帆は食卓テーブルの向こう側にある棚にあるものを見つけた。

 

「おばあちゃんこれ…!」

「ああ、それね。大事なものだから勿論飾ってあるわよ。」

 

 それは里帆の父が所有する馬が日本ダービーを勝った時に行われた口取り式を写した写真である。少し色あせて来てはいるが当時の様子をしっかりと捉えていた。

 その写真には里帆も里帆の両親も写されていた。3人とも日本ダービーを勝利した黒い馬の向かって左側に立っている。

 

「これ、小さい時の里帆?」

 

 智乃が尋ねると里帆はうんと返す。

 

「わ、可愛い~!」

「ね、可愛い…!」

 

 日向や優里らも盛り上がる。高成も思わず写真を見てみる。今と同じくらいの黒いショートヘアに白いブラウスに黒いジャンパースカートと黒い靴を履いた姿はまさにかわいらしい。

 

(おお、可愛いな…)

「可愛い…」

「えへへっ…」

 

 里帆は小さくはにかむ。その顔はいつも通りの笑顔だったが、いつもより少し明るく晴れ晴れとしていた。

 その後昼食を取り終えたタイミングで里帆の祖父が家へ戻ると、里帆の今後について話が出された。

 今後しばらくは里帆はこちらで住まう事。里帆の担任教師へは祖母が連絡をする事。近いうちに里帆の両親を呼んで話し合いを行い、おそらく様々な手続きを済ませたのちに富山へ移住・転校する事。編入試験に合格し転校がちゃんと決まった場合、今通っている高校へ挨拶を済ませてからにはなるであろうという事が議論に出される。勿論里帆の祖父母は里帆へのこれで大丈夫か?不満は無いか?と尋ね、里帆も快諾した。

 

 

 …そして、里帆との別れの時間が訪れた。

 

 バスの時間を考えると早めにここから出なければならない。6人は家の外に並ぶ。里帆は6人へ改めて感謝とあいさつの言葉を送った。

 

「皆、ここまで来てくれてありがとう」

「私は…皆のおかげでここへたどり着けた…本当にありがとう。」

「また、会おうね。」

 

 そう語る彼女の顔は爽やかな笑顔だ。優里たちも祖父母へ昼食のお礼を言うとともに里帆へまた会おうと語る。

 

「私、里帆ちゃんと色々話せて良かった。話さないと伝わらない事はある。その点でも話せて良かった。」

「また、会おうね」

「うん。」

 

 腕時計で時間を見た優里が後ろへ下がりいよいよ彼らはバス停へと歩み始める。最後に高成と智乃、貴史が里帆へ手を振りながらこう話した。

 

「いいだー!!」

「またねー!!いつでもライン送っていいからー!!」

「飯田!!まずはゆっくり休んで…それからっ!」

「色々話せて良かった!!頑張れ!!」

「うん!!頑張る!!」

 

 こうして。里帆は自身の背中を押した皆の支えもあって自らの道を歩み始める事となる。帰り際。バスに揺られながら優里は高成にこう語った。

 

「里帆ちゃん、良かったね」

「すごいなあ…」

「茜谷さんがいなかったら、皆がいなかったらこうはなってなかったかも。」

「…かもね。」

 

 バスの窓からは冷たい風が吹いている。季節は熱くもだえるような夏の時期から短い秋・そして厳しい冬へと変わりゆく途中である。

 

 …始まりは夏。セックスは快楽だけでは無いと知った。そして盛るような夏休み。悲劇を乗り越え、想いを知った。

 

 晩夏の時。彼女の本当の姿を知った。最後は皆の隠していた本当の姿も知った。

 

 その時…彼女が幸せな家庭で過ごしていた頃で止まっていた時が再び動き始めていく。その針を動かしたのも皆がいてこそである。

 

 その後帰宅した高成らは両親へ、その翌日担任教師へと休日にあった事を全て告白した。高成の両親は少し心配してはいたものの笑って許し、智乃と貴史の両親も同じような反応を見せたという。勿論3人とも学校から処罰を受ける事は無かった。担任教師へ里帆の祖父母から連絡も来ていたという。

 

 …しばらく経ったある日。里帆から高成へ電話がかかった。

 

「飯田!久しぶり…!!」

「山岸くん久しぶり…!今ちょっといいかな?」

「おう!いいけど…」

「編入試験、受かったんだ。」

 

「マジ?」

 

「うん!えっとね…」

 

 里帆は自身が編入する予定の高校について高成へ説明を始める。

 そこは富山の農業高校で馬に関する授業も行っており、引退馬への支援や競争馬の生産も行っている。里帆はその学科への編入試験を受け、見事合格したのだった。来週の休日に説明会があるので出席するのだと言う。

 また里帆曰く制服がとても可愛らしいデザインのようで、彼女は優里や日向と同じセーラー服タイプの制服を着られると喜びながら語っていた。

 

 今後の予定については来月初旬に里帆の母親が住まうマンションへと戻り、しばらくは今通っている高校へと通学した後冬休みに完全に引っ越しを終え、年明けから富山の農業高校へ通う段取りの予定だと里帆は語った。

 昨日家族とも話し合いを終え、父親は土下座してまで真摯に過去の過ちを認め謝った事と母親はまだ完全には父親を許してはいないものの、何度か話し合いを重ねたい様子だったそうだ。そんな彼女の態度も少しずつではあるが、里帆に対しては軟化しているようだった。

 

「そうなんだ…忙しくない?大丈夫?」

「うん。大丈夫。色々と楽しみですごいドキドキしてる。」

「そっか…」

 

 高成は少し寂しそうに里帆に相槌を返す。里帆が語った内容は里帆との本当の意味での別れがすぐそこまで迫っている事でもあったからだ。

 

電話している最中、祖母が里帆を呼ぶ声がうっすら聞えてくる。里帆はごめん切るねと言うと少々慌てた様子で電話を切った。

 

「…」

 

 高成はスマホを元の画面に戻して画面を落とすと、脳内にこれまでの思い出が走馬灯のように流れ出してくる。

 

「飯田とは色々あったなあ…」

「最初やった時は嬉しかったけど、誰とでもやれんのかよって思った…」

 

 里帆の考えている事が分からないまま時は過ぎ、そして優里と出会った事。優里と一夜を過ごし、辛い事もあったが結ばれた事で彼女を好きになった事。

 そして里帆の告白。皆の告白。里帆へ自分の気持ちを押し付けていたという自身の過ちに気づいた事。

 

「色々ありすぎて…これが青春ってやつなのかなあ」

「でも気づけた事もあったし、自分にとっては必要だった事なのかもしれないー…」

 

 そこで高成は自分の考えを今一度まとめる事にした。

 

(あの場でも言ったように、おれは飯田の事と茜谷さんの事をもっと知りたい。)

(そしてー…茜谷さんと飯田どちらを選ぶか…おれ自身の気持ちにしっかり決着をつけなきゃいけない。)

(後悔しない為にも…今は焦っちゃだめだ。今思えば飯田も茜谷さんも関わり始めて数か月しか経ってないもっと2人を知る必要がある)

「うん。」

 

 高成は布団をかぶった。

 

 時は過ぎ12月。冬になりマフラーやコートと言った防寒具が欠かせない季節になった。

 

「里帆、久しぶり。」

「うん。」

 

 高成らの通う高校に里帆が久しぶりに姿を現す。ブレザー姿とマフラー、変わらぬショートヘアにクラスの生徒達も里帆へ続々と声をかけた。

 

「里帆久しぶりー!髪切った?」

「うん。どう?」

「めっちゃ良いと思う!似合ってるよね?!」

「似合ってる似合ってる!!」

 

 里帆は笑顔で返す。その様子を少し離れた場所からたまたま近くを通りがかった藤野先輩も見ていた。彼は智乃を呼んでこう話しかける。

 

「智乃ちゃん、里帆ちゃんてなんかあった?なんか雰囲気違うというか」

「…でしょ?色々あったんですけど、まあ吐き出せてすっきりしたというか良かったというか」

「へえ…色々あったんだ。」

「私は今の里帆の方が好きですね。心の底から笑ってるって感じで。」

 

 こうして月日は過ぎて、いよいよ冬休み前最後の登校日を迎える。里帆は教室で最後の挨拶をする事となった。

 

「えー…知ってる人もいるかもしれないけど、飯田里帆さんは年明けに富山の農業高校に転校する事が決まりました。なので今日が最後の登校日になります。じゃあ…皆さんに挨拶を」

 

 担任教師に促されると、里帆は椅子から立ち上がって黒板へと歩いていく。

 

「飯田です。えーと…富山に引っ越す事が決まりました。」

「今までその…皆さんにはたくさんお世話になりました。本当にありがとうございました。向こうでも頑張ります。」

 

 ぺこりとお辞儀をすると拍手が起こる。学級委員長から花束が手渡されると迎えに来た里帆の母親が廊下で待っていた。

 

「じゃあ…」

 

 ついに里帆が荷物を持って教室から出ていく。別れの時間だ。クラスメイトは一斉に廊下へ出て彼女へ声をかけた。

 

「飯田ー!富山でも頑張れよー!」

「里帆ー気をつけてねー!」

 

 高成と智乃と貴史も彼等に負けずに声を張る。

 

「飯田ー!!」

 

 3人の声に気づいた里帆が振り返った。

 

「絶対また、会おうな!!何かあったら、いつでもおれを、おれたちを頼っていいからー!!」

「うちらがいるからねー!!いつでもラインして!!」

「また、そっち遊びに行っても良いかー?!」

 

 里帆は涙を浮かべながらとびきりの笑顔で頷いた。

 

「うん!!!!」

 

 里帆の姿が見えなくなるまで高成は手を振り続けた。

 

 そして里帆と里帆の母親は職員室で最後に教師へ挨拶を終えると学校を出て駐車場へと向かう。里帆は校舎を感慨深そうに見上げていた。

 

「山岸くん…智乃ちゃん…吉野くん…」

「皆ありがとう。」

 

 里帆の後ろ姿を里帆の母親はじっと静かに見守っていた。

 

「そっか。里帆ちゃんに挨拶してきたんだね」

「うん。」

 

 夜。高成は優里とテレビ電話で話していた。

 

「なんかこれまであっという間だったね。」

「確かに。夏からは時間が過ぎるのが早かったような…気がする」

「私もー…私また里帆ちゃんとこ会いに行ってみたい」

「まだ話せてない事沢山あるし。山岸くんは?」

「…おれも。」

 

 優里はふふっと笑う。

 

「だよねえ。…山岸くん。受験が終わったらさ、会いに行かない?あと時間があったら乗馬もしてみたい!」

 

 優里の誘いに高成は笑って返した。

 

「勿論!皆も誘う?」

「もちもち!」

 優里はそう言うと咳ばらいをして居住まいを正しながらこう告げた。

 

「いつかは山岸くんにちゃんと告白しようと思う」

 

「もっと山岸くんの事を知って…自分の気持ちをしっかり確かめた暁には、ちゃんと告白するから。」

「茜谷さん…おれも…!」

「うん。分かってるよ。」

 

 優里はそう言って微笑む。

 

「今思えば私達出会って数か月しか経ってないし、まだまだ分からない事だらけじゃない?…里帆ちゃんとも関わるようになったのもそれくらいでしょ?」

「だから、山岸くん…いや高成くんでいい?高成くんの事もっと知りたいな」

「茜谷さん…」

「優里でいいよ…茜谷呼び捨てでもなんでも」

「じゃ、あ、あかねさん…」

「あかねさん、か…いいじゃん!なんか新鮮かも」

 

 高成は照れながらつぶやくと、優里はふふっと微笑みを浮かべるのだった。

 

(もっと里帆ちゃんと高成くんの事知りたいな…)

 

 …年が明けた富山。

 

「里帆、似合ってるわ」

 

 黒みがかった紺色のセーラーワンピースに白いリボン。黒い分厚めのタイツに黒いローファーを着た里帆の姿がそこにあった。ショートヘアは健在だ。顔つきは少し大人びたように見える。

 

「行ってきます。」 

「いってらっしゃい。雪降ってるから気をつけてね」

 

 里帆の母親と祖母は笑顔で手を振りながら彼女を見送った。

 担任教師に付き添われ、里帆は教室へと歩んでいく。

 

「みなさーん、今日から新しい仲間が加わる事になります。「鹿屋」さんどうぞ入って」

「はい。」

 

 担任教師に促され、黒板に自身の名前を書くと里帆は生徒が座る方へ向かって挨拶をする。クラスの男女比はやや男子が多めと言った所か。

 

「初めまして。「鹿屋 里帆」です。前の学校では里帆と呼ばれていました。皆さんよろしくお願いします!」

 

 笑顔で挨拶をする里帆に拍手が送られる。こうして里帆の新しい学校生活が幕を開けた。早速休み時間には多くのクラスメイトが里帆のもとを訪れる。

 

「鹿屋さんてどこから来たの?」

「前の学校どんなとこだった?」

 

 矢継ぎ早に質問を受ける里帆。初めての事に少し緊張を感じていた時、黒髪をポニーテールに束ねた少女が彼女の元にやって来る。彼女の持つ雰囲気はどことなく優里と似ていた。

 

「大丈夫?緊張してない?」

「え、えーと…」

「初めまして。私の名前は寿 みやび。みやびでもみやちゃんでも呼び方何でもいいよ、里帆ちゃんて呼んでいいかな?」

 

 みやびは笑顔でそう名乗る。

 

「うん!…みやびちゃんでいい?」

「いいよ!こちらこそよろしくね!」

 

 放課後。里帆の元にみやびともう1人の女子生徒・北村 麗良がやってきた。麗良はおさげの髪型をしており、どことなく智乃と日向を混ぜたような雰囲気をしている。

 

「里帆ちゃん、良かったら勉強会しない?」

「え、いいの?」

「ぜひぜひ!…あっみやびさあ、あいつは誘う?どうする?」

「あ、そっか…加賀野ちゃんー!」

「なにー?!」

 

 そこへ現れたのは高成と似た姿の男子生徒だった。高成よりほんの少し目つきはきついがそれ以外は殆ど変わらない。

 

「あ…鹿屋さんだっけ?どうも、加賀野高成です。初めまして。」

「実はみやびこいつと付き合ってんの。」

 

 麗良がおどけた様子で里帆にそう言うとみやびはこらっ!と麗良に小さなカミナリを落とす。

 

「そうなの?」

「ま、まあね…夏休みから付き合いだしてさ…」

 

 みやびは視線をあちこちに向けながら素直に白状した。4人は校門をでた後、どこで勉強会をするかという話になる。

 

「加賀野ちゃんとこは?」

「ごめん無理だわ」

「…」

(今がチャンスかも)

 

 里帆は意を決して話しかけた。

 

「…あの、私のとこでやる?」

「里帆おかえり。…あら!お友達?!」

「お邪魔します!」

 

 里帆の祖母が暖かく4人を出迎えた。近くの馬房がある建物では里帆の祖父と里帆の母親が作業に当たっている。

 1階のリビングで4人は勉強会を始めた。やはり以前の高校とは進み具合や履修科目に違いがある。里帆は質問をしながら追いつこうとペンを動かし続ける。その途中で麗良は里帆にある質問をした。

 

「えっと…里帆ちゃんでいいかな?そのさ、好きな人っている?」

「え?好きな人?」

「そう。里帆ちゃんが好きな人。」

「…」

 

 里帆は一旦口を閉じた。彼女の様子を麗良とみやびはじっと見つめ、加賀野もまた見守るように見ていた。里帆の視線が麗良、みやびと順に合い、最後加賀野と合った時。里帆の脳裏に高成の姿が浮かんだ。

 

「飯田!!」

(…そうだ。)

「好きとかそういうのはまだよく分からないけど…特別だと感じている人は、いるよ。」

 

 時計の針が17時30分過ぎを示した所で勉強会はお開きとなり、3人は里帆とリビングの横にあるキッチンで夕食を作っていた里帆の祖母に見送られ去っていった。

 恋人同士であるみやびと加賀野は手を繋いで雪道を歩いていく。その後ろ姿を里帆は高成を思い浮かべながらじっと見ていたのだった。

 翌日の放課後。里帆はみやびと麗良と共に学校を出て歩いていた。すると前の方には加賀野はクラスメイトの男子とある会話をしている。

 

「なあ、このAV女優寿に似てね?」

「はあ?どこがだよ」

「ほら見た目とか…寿もだけど昨日来た転校生とも似てね?体格とかはあの転校生とくりそつだべ?」 

「それによー昨日おれん家にようやくテンガ来てよー加賀野使ってみる?」

「え、なんで」

 

 どこかで聞いた事のあるような淫らな会話。それに反応したみやびと麗良は走って2人の元へと向かった。里帆もみやびと麗良の後を追いかける。

 

「ねえちょっと。…それ使ってみてよ。」

「はあ?!北村アホじゃねえの?!」

 

 クラスメイトの男子がそう拒否するも麗良はお構いなしと言わんばかりにみやびと加賀野は行くよね?と誘った。両者ともたどたどしく目線を合わせながらうん…と答える。

 

「里帆ちゃんは…どうする?」

「え?…私は…」

 

 あの時里帆も来るでしょ?と言った智乃とは違い里帆は選択を迫られた。一呼吸置いて里帆はこう告げた。

 

「ごめん。忙しいし行けないや。」

 

 月日は流れて…また夏を迎えた。

 

 2人の男女がバスに乗って飯田牧場へと向かっている。大学生となった高成と優里だ。2人は共に同じ大学へ入学し、よき親友として歩んできた。身長も少し伸びて顔つきも以前より大人びている。

 

「ついたね。」

「足元気をつけて…あかねさん荷物持つよ」

「ありがと、高成くん。」

 

 バスを降りて牧場の受付へと向かうと芦毛の馬に乗った女性がゆっくりとこちらへと近づいてきた。里帆だ。彼女は白女大の富山キャンパスへと通いながら牧場経営を手伝っている。里帆もまた顔つきが大人のそれへと変化しているがショートヘアは健在だ。馬房の近くにある洗い場では2頭の馬にそれぞれ里帆の母親と牧場でアルバイトをしているみやびと加賀野がシャンプーを施していた。放牧地には何頭かの馬がのんびりと草を食べている。

 

「山岸くん、優里ちゃん、久しぶり。」

「飯田!久しぶり!!」

「里帆ちゃん!なんか大人っぽくなったねえ」

「へへっ、そうかな?」

 

 里帆は嬉しそうに笑う。馬から降りると手綱を引きながら来てくれてありがとうと返した。里帆はもう馬との接し方にはかなり慣れているようだ。馬を専用の馬房に戻すと、里帆は高成に語り始める。

 

「山岸くん。あれから私色々あって。これまで他人に合わしていく事が多かったように思うけど今は自分で自分の為にも行動できるようになったと思う。そしてあなたが特別だと信じています。私は山岸くんが好きです。」

 

 里帆は高成に告白した。続いて優里も同じように告げる。

 

 

「あれから、私も色んな経験をしてきた…私も高成くんが好きです。」

「…」 

 

 2人の気持ちを受けた高成は目を閉じて小さく頷くと覚悟を決めた。

 

「おれは…!」

 

 …3人の頬を風が優しくなでる。

 

ーーーーー

 

 エピローグ

 

 高成と優里、日向と雄也はそれぞれ同じ大学へと進学した。と言っても通う学部やキャンパスはそれぞれ違う。

 日向は大学へ通いながらAV女優としても活躍している。どうやらかなりの売れっ子のようだ。

 里帆はみやびと共に白女子大の富山キャンパスへ通いながら畜産を学び、牧場を手伝っている。高成たちだけでなくみやびと加賀野と麗良との友情は今も変わらない。

 智乃は藤野先輩と同じ系列の大学へ進学し、看護師を目指して奮闘中である。勿論彼との仲も続いている。

 貴史はスポーツトレーナーを目指して専門学校へと通いながら、自身とそのセフレたちのハメ撮り動画でかなり儲けているようだ。

 

 そして…

 ある日、日向が仕事でスタジオを訪れた際、別のメイクルームで水着姿のある人物と再会した。竹内先輩だった。

(あれ、もしかして高校時代に会った竹内って人…?)

 髪は少し伸びているが顔つきと大柄と巨乳は変わっていない。彼女はメイクが終わると別のスタジオへと向かっていった。

 

「やっぱそうだ…」

 

 その後仕事が終わった竹内先輩が歩いているとスーツ姿のある人物が彼女の前に現れた。加藤先輩だ。

 

「加藤…」

「竹内…」

 

 竹内先輩は加藤先輩から目をそらし、無視して歩もうとすると加藤先輩は待ってくれと静止する。

 

「その…ずっとお前の事気になってたんだ。あの時は酷いことしてごめん!!」

「何を…今更…」

「ずっとお前が好きだった!!こんなことを言っても許されるとは思っていない…だけど…」

「気持ちは伝えた方がいいと思ってこれまで生きてきた…!ずっと会いたかった…!!」

 

 竹内先輩は加藤先輩をじっと見つめ、そしてぼそっと呟いた

 

「ばか…」

 

 




これにて青の季節は完結となります
お読み頂きありがとうございました。

もし高成があの場で里帆とやれてたらどうなってたのだろうかという疑問とそして優里にも救いが欲しい・高成がどちらを選んだか読者に委ねるストーリーも読みたいと思いこの物語を書いてきました。
リメイク版では原作と同じエンディングでしたが、やはり前々から優里を選んだルートも見てみたいという声も色んなところで聴きまして、それもモチベーションの一つに繋がったと思います。

現在某所にて新たに「紅い青春」を執筆中です
今後はそちらも合わせてよろしくお願いします
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