プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
ご拝読を下さるあなたに感謝を。
書いた側として、あなたには是非とも読んで欲しさがあります。
ただし、今作はとても尖った内容が故に、幾つか注意点を記載します。
現実と創作を区別することが出来る方。
原作と二次創作の違いを、(解釈を挟んだとしても)寛容な理解を持って区別・住み分け出来る方。
そしてプロローグ内に描いたような性癖・内容を許容できるお方に向けた小説です。
また、成人向け小説のため、登場人物は全て要件を満たした年齢です。
以上。
読む際には、十分な
自分自身①
283プロ。新興かそれに近い、よくあるアイドルプロダクションだ。
翼をもった少女達が、いくつもいくつもここを飛び立ち ―― 俺はその背を見送ってきた。
そのたびに青空を見上げるはめになる。どこまでも青くて、清々しい青空を。
時期を調整しながら新人デビューを華々しく飾り。
感謝祭を成功させ。
ユニットライブを成功させ。
再び大きな大会に取り組んで。
年月を経て、かつては新人だった俺の立場も変わっていった。
業界では知られる立場となった。ただし、こちらにスポットライトが当たりそうになった場合は、ほとんどの場合は避けさせてもらっている。そこについては徹底している。
事務員さんの協力もえて、ほとんど1人でプロデュースを行えた。失敗もあるが成功も多々あった。責任は大きいが見返りも十分過ぎる程。お金に関しては余している、とすら表現できるだろう。
年月を経て、みんなとの関係も変わっていった。
問題がひとつ。アイドルから親愛の感情を浴びせられることが多くなった。
複数人、多感な時期の少女もいる。どうしたものかと社長に相談したが。アイドルに関する不祥事が「そうはならないタイミング」がある ―― そういう旨の返答だった。
簡単だ。年相応までアイドルという仕事を完遂させればいい。きちんと自分で責任を取り、その手を取り合って歩み続ける事が出来るなら。ファンの声を振り切って、社会的に許されるだろうと。
その意見には俺としても賛成だ。ただ ―― それにしては数が多いな、とも思う。
俺に対してそういう感情を向けてくるアイドルは、複数人居るのだった。
多感な時期の少女だから。いつも付き添って裏方を務め、接する機会が多い異性 ―― それが俺だ。仕方ないという心理的な要素は理解できる。
だからこそ己を律さねばならない。俺はそう心に誓った。
そういう感情を大きくするようなアクションは、上手く避けねばならない。
対してあちらからのアタックは受け止めつつ、いなさねばならない。
2人きりの状況を作らないことが肝要だ。彼女らにはユニットという仲の良さを保てる環境がある。円滑に。丸く、丸く。
俺はしっかり助力をしつつ、けれども感情の数値をコントロールし。付かず離れず。そういうポジションを確立することに注力していった。
事務仕事をこなして。
トレーニング帰りの少女達にドリンクや軽食を振舞いながら、輪の隅で事務員と仕事の話をする。
送り迎えをして。
当たり障りのない会話をこなしつつ、次の仕事、次の学業、次の目標などに向けた格式ばった会話も選ぶ。
オーディションを受かったならば、アイドルたちと全力で喜び。
その監督らに率先して挨拶と根回しと面通しを行い、裏方側とこそ仲良くなる。
そういう日々をこなした。
283プロダクションにおけるプロデューサーという仕事の幅は、業界内でも広い方だ。だからこそ親愛の感情を育んでしまうのだろう。
ならば俺は、そこに所属するプロデューサーとして
そう、己を律し続けた。
ずっと。ずっと。
……ずっと。ずっと。
大人の男だから。そうしていられると、思ったからだ。
・・・
いつからだろうか。
俺は天井社長からやたらと心配されるようになっていた。
簡単に言えば ―― プライベートの方を、だ。
俺は独身である。実家からも離れ、事務所周辺に家を借りている。
帰ることが遅い時期はあれど、全く帰れないという事もない。休日も、年頃の少女が所属するからには定期的かつ十分に与える必要はあり、そのために俺たち裏方の側にも……不定期とは言え必要分は与えられている。
不満はないように思う。ただ、確かに仕事を中心に生きているなという自覚はあった。
それはまずいことだろうか。仕事による充実感はあるのだが。
ある日の飲み屋、たるき亭。個室をとっての晩酌にて。
『まずくはないな。ただ、それでお前が壊れてしまわないかっていう一抹の不安は
天井社長の言葉だ。
283プロダクションの社長 ―― 天井務さんは俺よりも年上の経営者なのだが、にしては若い。いや。若過ぎる部類と言えるだろう。
その若さを生かした手腕というか。俺との距離は積極的に近づけてくれる人だった。
会うたびに食事に誘ってもくれた。思いやりを感じさせる、快活で温かみのある言葉をくれる。
尋ねられた。仕事をしていない自分を想像できるか、と。
……。……。素直に答えた。今は出来ません、と。
笑われた。苦笑だった。
『お前が心配なんだよ。嫁さんもいない。時間外の仕事は多く、プライベートもない。そもそも、
困ったように笑うとかいう器用な表情で、天井社長は
酒も入っている。男と男の。友人と友人の席である。
しかも久しぶりの……恐らくは、気疲れを起こした俺を気遣って開いてくれた席だ。やや砕けた態度や話題が多いのはいつもの事だが、今日は一層に近しい距離で会話をしよう、という事なのだろう。
小指。意味は分かる。俺に現在、恋人はいない。そしてアイドルを忙しくも担当している。つまりは性的な欲求を解消出来ているのか、という遠回しな確認だろう。
男である以上は、彼女のひとつも欲しいもの。ただ、俺はアイドルプロダクションのプロデューサーだ。そんな立場の人間に必要だろうか、と返答する。……また心配をかけてしまうな、とは思いつつも。
『アイドルに気をつかうってのは、わかるけれどもなぁ。なにせ年頃の女性が相手だ。そういう匂いのひとつ。視線の乱れ。キャバやオッパブの名刺。財布のコンドームひとつすらも残せない。……それはまぁ社会人的にはどっちにしろ必要か。とにかく。単純に、お前に恋人が出来ないのはしかたないにしろ……そういう環境に居ること自体が心配だってのも、理解してくれ』
なるほどな、と思う。そもそもこれは、アイドルのプロデューサーという仕事に付き物な問題なのだろう。
俺も年を重ねたが、未だ……少なくとも若いと表現できる年齢であることは自負している。
メンタルバランスを整える。必要ではないが、そういう
『ああ。適応障害とかな。友人にひとり煩っている奴が居てな、結構苦しそうなんだよ。そういうバランスを意図的に取れるってんなら、それに越したことはないだろうと思う。……俺の場合は、昔に色々とやってたからな。お前も聞いたことはあるだろ? 俺の実体験は、参考にはならないのよ』
だからこそ自己管理の一環として。そういうお題目をもって。
そういうつもりの、馬鹿話のひとつ。そういうことなんだろう。
『ここで対策会議というやつをしておこう。いいか? ……まずひとつ。仕方ないことだが、お前の自宅の場所はアイドル達には公開されてる。いや、積極的には公にしてないがな。何かあった時に連絡取れないと困るんだから、いずれは伝わった情報だろうな』
天井社長がすまんなと、またも苦笑を浮かべる。
理解はしている。家の中に性欲処理のためのものをざっくばらんに用意できないのは、そういった理由も確かにある。病気になったりしたとしても、自宅に来るのはまず事務員の七草はづきさんだが、それもそれ。
アイドルを家に入れることは、まずないだろうが……必要が出る可能性は、ゼロではないのだ。
話の間に、焼き鳥とビールを嚥下して。
『最近のな、アイドル達の
親愛の視線の事だろう。そうか。だからこそ心配している、という流れになってしまったか。
ご迷惑をおかけします……と、頭を下げる。向こうも下げて来た。
『いや、それはこっちこそだ。……うまくはづきさんの側にもバランスを取って貰えちゃいるが、感情ってのはコントロールしきれん事象だってのも理解してるつもりだ。伝説的なかのアイドル日高
俺らの年代からすればレジェンドともいえるあの人を槍玉にあげながら、天井社長は強めの日本酒を追加する。
……脱落。もしくは辞めることになったアイドル。天井社長のことは、俺は実際知っている。知らされたと言っても良い。
だからこそ彼にとっては耳の痛い、苦い経験であるはずだ。日高さんの実例は、あれはあれでアイドルどころか「人としての」ハッピーエンドのひとつと言えるだろうけれども。
『いずれにせよ、アイドルが年の盛りに辞めるってなっちゃあ、世間的には奇異の目に晒される。ただな。きちりと純愛であれば許される所もあろうって、それは証明されたんだ。かつて男連中みんなが憧れた
ふぅと息を吐き。遠い目をして。
手元のビールの
『そしてそれはアイドルだけじゃあない。当然一人の人間たるお前にもいうべきなんだ……って、今は思ってる。アイドルのためにプロデューサーが縛られてちゃあ、いけないってな。……ただ、外部でなくそこがくっついちまうと、業界じゃご法度にされる事もまぁあるんだろうが……責任者はこっちだ。何かあったら、一緒に対応すればそれでいい』
なんとも男らしい言葉を天井社長はくれる。
一息を挟んで。
『性欲は三大欲求のひとつ。この場合の性欲という単語には、愛も信も親交も含むぞ。だからこそ、どうしてもお前が耐えられないって言うんなら ―― 恋仲になることを、少なくともこっちは許容する。……ああ。してみせる』
上役としては信じられない言葉を口にした。
『無論プロダクションとしては、彼女らの人生にとっての幸であることが大前提にはなるがな。そして、ひとつ。福利厚生としてこういう場所をくれてやろうと思ってる』
未だ衝撃が抜けていない私の前で、つまみの皿をよけながら、天井社長は図面を広げた。
事務所からやや離れた……しかし徒歩圏内でゆける場所。
『ここに名義がお前の
背を壁に預け、ちょっと赤らけた顔で照明を見上げながら、天井社長は続ける。
『―― 昨年の年度末に、お前に聞いたな? 我が社に欲しいものはないかって』
確かに聞かれた。業績評価のための面談で。業績は右肩上がりだから、と。
俺はこう答えたはずだ。「欲しいものはないです。アイドル達に使ってあげてください」と。
『だから考えた。お前が欲しいもんを探せる機会を作るべきじゃあないか、ってな。……さっきはわかりやすい形で尋ねるために彼女の有無なんて聞いたが、普通に彼女作って、その彼女と過ごす場所にしてもいい。趣味部屋みたいにしてもいい。ゲームとか、コミックスとかな。日本にいれば、探せる趣味は山ほどあると思ってるよ』
つまりは「アイドルに見せない方の私室」として使って良い。そういう事だろうか。
『そうなる。ちなみにそうじゃあなくて、ただの事務所に近い休憩室として利用してもいいだろうな。無論、ストレートにアイドルと密会するための場として使っても。……だから受け取りそれ自体は、拒否してもらう必要はないと思ってるが……どうだ?』
断る余地はないだろう。断る必要もないだろう。
俺は天井社長に頭を下げた。ありがたく頂戴します、と。
『はっはっは! まぁ、福利厚生としちゃあいまいちかもしれんがな。お前にも十分な貯蓄はあるだろうし。ただし、これだけは言っておく。わが社の、ひいてはアイドル達の成長を願っている……が、同時にお前が壊れることを望んでいない。これは俺個人ワガママだが、ただな。そのために出来ることは、可能な限りさせてくれよ』
そういって天井社長が俺の背をぽんぽんと叩く。
本当に良い上司を持ったと思う。その日の飲みは、とても楽しい気持ちで終わることが出来ていた。
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