※この作品はR-18です。

プロデューサーは人でなし   作:どろまみれ

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プロローグ②:人でなし

 

 自分自身②

 

 

 そうして日々業務をこなしながら、数か月。

 社長から通達があった。例の部屋が出来たぞと。

 業務報告ついでに部屋の鍵を受け取る。今日の内にも向かう事にするとしよう。

 そんなことを頭の隅で考えながら仕事を進めてゆく。

 進めて。

 進めて。

 

「―― じゃあね~、プロデューサー~!」

 

 市川雛菜が、事務所の出入り口を潜って階下へ降りてゆく。

 ノクチルの最後尾。ひらひらとこちらへ手を振って、鼻歌交じりにご機嫌そうに。

 

 俺は手を振り返し「さようなら。気を付けてな」と告げる。

 事務所に静寂が訪れた。事務員であるはづきさんも、シーズの送り迎えをしつつ……妹がいるのでそのまま直帰すると連絡をもらっている。つまりは現在、事務所には俺しかいないということだ。

 

 最後の仕事を片付ける。

 PCの連絡先のメールフォルダを空にして、スリープに。

 窓が閉まっていることを確認。警備システムをOnに。事務所の扉を閉める。

 日差しは暖かに(だいだい)を帯び、帰り路の空を染め上げている。

 

 いつもより少しだけ帰り道が楽しみだ、と思う。

 それは間違いなく社長からもらった「福利厚生」によるおかげなのだろう。

 

 明日、明後日は休日だ。ご飯を、飲み物を買い込んでマイバッグに詰める。

 藍色に変わりゆく空の下、教えてもらった方角へと歩く。

 

 小道を横へ。(すす)けたビルの合間を抜ける。

 公園を横切る。目立たない程度の門を開けて、扉を潜る。

 なんだか秘密基地みたいな行程を経て、俺は「別宅」へとたどり着いた。

 

 一見すると集合住宅の一画にも見える様な場所だが、実の所はカモフラージュされた一軒家。

 表側の道路や高所。人出の多い場所との接点が全て絶たれ、ひと工程置かねば訪れられないようになっている。

 

 鍵を差し込んで扉を開く。薄暗い玄関でブレーカーを入れ、電気を点ける。

 入り口側からリビングが見えた。広い。少なくとも、今の俺の部屋よりは広い。

 一般的なリビングキッチン、寝室に浴場。キャッチボールが出来そうなくらいのベランダ。

 上を見上げれば階段があり、屋上の様なものまで存在していた。

 総じて、豪華が過ぎる。少なくとも都心に気軽に建てられるような代物ではないだろうというのが素直な感想である。

 

 冷蔵庫や電子レンジに電気を通し、買い込んできたものを突っ込む。

 氷製機を作動させ。ろ過機を使い。ふと部屋の隅をみると、地下への階段まであった。

 

 見つけた階段を下る。階段の途中にあった注意書きに従って、空調を作動させる。

 地下室だ。大きなスクリーンが収納されている。シアターとして使う事が出来る……のだろう。その中途には、喫煙室までもが設置されていた。

 

 豪華だ。豪華が過ぎる。

 正直に言って今現在住んでいるアパートよりもこちらの方が勝って、劣る部分はないだろう。

 

 皮張りのソファを無視して、壁に寄りかかる。……防音壁だ。しかも、かなり厳重な。

 徹底されているな、と思った。社長の言葉を思い出す。そのため(・・・・)に使う事を含めるとするならば、確かに必要な設備ではあるのだろうが。

 

 ふと、ならばまずは「そういうこと」に使うべきだろうとも思う。

 この場合のそういうことは、アイドルを連れ込むことではない。性欲を発散させるための物……ようはアダルトグッズをこちらに置いておくべきだろう、ということだ。

 

 事務所や、今までは自分の部屋に居てもこんな思考になることはなかった。

 プロデューサー業を始めてからの忙しさ。女性の傍に居るから、という使命感そういった辺りに起因するのだろう。

 さて。自分の趣味はどういうものだっただろうか……と思い出す。

 ……残念ながら。久しぶりが過ぎて、思い出せそうにもない。

 

 そういう映像を借りる、というのにも忌避感があったほどだ。

 なにせ店員に顔でも覚えられようものなら、噂がたつ可能性がある。そう考えていた。

 ただ、今ではそういった映像はいくらでもネット上でやり取りが出来る……らしい。らしいというのは、年代的に知ってはいても、積極的に利用することが長らくなかったから。

 だから、初めて使ってみよう。そう思った。

 

 食事と風呂を済ませて地下に入る。

 スクリーンを小さめ……テレビモニター程度に広げて、灯りを落とす。

 

 ベッドの様なソファに腰かける。アダルトサイトを広げて、好みの動画を探す。

 さて ―― どうだったか。

 

 俺自身、学生時代には恋人を作ったこともある。今は過去形だが、複数人だ。

 高校生の時は清く。進学と共に自然に別れて。

 大学に入ってからは身体の関係にもなった。業界に入るため、演出や経理に関する多角的な勉強を始めてからはとても忙しく、こちらも……結構長く付き合いはしたものの。最終的には別れることとなった。

 社会人になってからはこの様で。生憎これ以降、恋人はいた(ためし)がない。

 

 あの頃の性生活はどうだったろうか。

 満足していただろうか……いや。相手方を満足させる、が中心にあったように思う。

 

 だとすれば自身の性趣向というものがそこにはない。

 好み。性癖。俺が性欲を処理するための効率的な何か。そういうのを、まずは探すべきなのだろう。

 効率とか言っている時点で、やはり判っていないと。社長には笑われてしまいそうな気はするが。

 

 仕方があるまい。

 正直に言えば、性欲の処理というものはしていなかったのだ。

 忙しかったから。そもそもその欲が沸いてくる感覚が薄かったから。アイドルを担当する身だから。

 そうする必要が、なかったから。

 ただ社長の言葉を鑑みるに、それは良い事とは言い辛い。人間としての欲求。神経・ホルモンバランス。これを整えるべきというのも理解はできる。なぜならそういう「自然な人間としての営み」の視点からみれば、自分は確かに健全ではないからだ。

 

 だとすれば。せっかくなので、自分の性趣向を探すところから始めたい。

 俺が始めたのは動画を片っ端からみることだった。

 

 いちゃいちゃするもの。

 あまり刺さらない。

 

 ドラマもの。

 自分には刺さらない。

 

 企画もの。

 ……少しだけ、琴線に触れる部分も、無きにしも非ず。

 

 触れた部分からタグを使って漁ってゆく。

 女優の傾向、関係ないようだ。

 寝取られ、少しだけ。

 露出、場合によりけり。

 

 深く。深く掘ってゆく。

 いつしか俺は夢中になっていた。

 

 久しぶり ―― そう。久しぶりの感覚が湧き上がってくる。

 掘り起こされたと言い換えても良い。昂ってゆく感覚だ。

 

 少しずつ刺さった趣向を脳内に並べて、タグ付けてゆく。

 全てが刺さった訳ではなく、特定の部分ごとだった。

 傾向を揃える。興奮したシーンを抜き出す。

 

 寝取られて ―― 汁塗れのまま、彼氏の前でがに股ピースをさせられているシーン。

 露出し ―― 公園で首輪とアナルプラグ尻尾を入れられ、四つ足で散歩させられているシーン。

 高飛車な女優が ―― 完全に人格を否定され、便器のように使われているシーン。

 二次元で ―― 新世紀の性癖、人格排泄のシーン。

 

 どうしたことか。

 股間が反応し、脳が夢中になるのは、こんなシーンばかりだった。

 

 そうだ。

 

 律することが出来ているからこそ、背徳こそが甘味で。

 許され難い趣向だからこそ、成すことが自由で。

 普段は輝いているからこそ ―― 無様(ブザマ)になる二面性が、(くら)く輝く。

 

 乾いた笑みが出る。

 虚しさと呆れと悔しさとが混ぜ込められて、涙になって溢れ出る。

 アイドルをプロデュースしていた時間が、長すぎた。 

 己を圧していた時間が。性欲を発散せず放っておいた時間が。いつしか、こんなにも罪のある癖を生み出していたのだ。

 

 既に股間は隆起している。

 発散しなければ、にっちもさっちもいかない。

 

 用意してきたコンドームをひるがえす。

 性癖をタグづけ、脳内で区分する。

 

 豚語。鼻フック。オナホ化。ギャル化。羞恥露出。異物挿入。

 

 ひと箱目が尽きる。

 予想は出来ていた。ふた箱目に手を付ける。

 

 淫紋。催眠。洗脳。近親。腹パン。箱化。

 

 時間の感覚がない。3箱目。

 

 人間家具。裸体落書き。ピアッシング。浣腸。膣内放尿。

 

 数えきれない程の動画と画像を追って。

 肉棒がようやくと収まりを取り戻す頃には ―― 翌日の昼間となっていた。

 

 我ながら呆れたものだ、と思う。

 そういえば最後の彼女にも同じようなことを言われていたな、と思う。身体が持たないと。

 

 俺は周囲を片付けてゴミ出しし、久しぶりに地下室を出る。

 腹が減っているようだ。身体も疲れているようだ。

 

 しかし ―― 確かに、すっきりしていた。

 

 ストレスを数値化することは難しい。自分にも溜まっているものだろうとは思っていた。ただ、発散する方法を探すまでに至っていなかったのだ。

 俺は社長に心中でお礼を言いながら、次の日までは堪能し。その後、別宅を後にしたのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 事務所では人一倍気を遣うようになった。

 身だしなみも、普段よりも数段整える。スーツやハンカチ、ネクタイも量を増やしローテーションを倍増させた。

 おかげで、俺がそうしたことに励んでいる(・・・・・)ことは察せられてはいなさそうだった。

 

 実の所、俺が激務に硬い顔で向き合う姿はアイドル達にも心配されていたようで、少しばかり表情が晴れたのは見破られていた。

 社長にも笑顔で肩を叩かれた。安心させられたようでなによりだ。

 

 ただ。

 数か月たつと、(せき)を切ったように性欲が溢れてくるようになった。

 坂道を転がるが如く、急激に。とどまることなく。

 

 就業中は耐えられる。表面にも出してはいないだろう。

 けれども仕事の後。事務所の戸口の最終点検をしている時間。

 そういう機会に、無様な格好をする女優の表情が頭から離れなくなる瞬間がある。

 

 股間に熱が集まってゆく。

 スーツがびんと張り、下着が狭苦しい。

 

 収めなければとは思う。しかしその場で発散しようとは思わない。

 時間経過で何とかなるので、消しかけたPCを再起動し、仕事を行っている内には忘れる事が出来ていた。

 その後、別宅を使って発散する。そういう日々が続いた。

 

 なんとか人並みの折り合いがついたのだ。

 ストレスの発散先を、俺は、確かに見つけたのだから。

 そう思っていた。

 

 ……そこで、ひとりのアイドルに声をかけられるまでは。

 

 

 

「―― ねぇ。ちょっと。ふゆに付き合ってよ、アンタ」

 






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