プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
福丸小糸①
も、もうすぐ夏が来る。
背伸びをしなくてはならない ―― そ、そういう季節になってしまった。
お、幼馴染みの中では年下のほうで。た、体型や容姿にも突出した部分はなくって。
みんなと同じ学校に通うことができた。追いついて、また一緒になった。
縁があって。そうなろうという経緯があって。
そして
そう。ノクチルはアイドルグループだ。
283プロダクションに所属している。
わたしもそこで、ア、アイドルに……なったのだった。
ち、ちょっとだけ。ずるは、したけれども。解決したから。
少しずつ。少しずつ。
重ねて、重ねて、選んでいって。
そ、そうして少しでも。わたしは成長出来ているでしょうか。
問いかけた。
成果は見えた……と、わたしは思う。
成長できている……って、プロデューサーさんは言う。
魅力のあるアイドルだ……って、プロデューサーさんが。
お世辞じゃあない……って、プロデューサーさんは、な、何度も言う。
成長したね……って、お母さんは言って。
頑張ってね……って、妹が言った。
最後ふたつは、あ、あまり関係ないと思うけれど。
少しはわたしも、アイドルだっていう自覚を持てるようになってきた。
透ちゃんも。円香ちゃんも。雛菜ちゃんも。
みんな、アイドルっていう仕事をこなせているように、わたしには見える。
だ、だから。わたしも……きっと。
……。
で、でも。
ノクチル、ではなく。
出来ること。活かせること。
な、何をすればいいんだろう? って。
うーん……って、不安になる日が多い。
少なくとも足りないものは、目に見えてひとつ。ふたつ。みっつ。
幼馴染みながらに、感じてはいるけれど。
足りないところ。
わたし自身に、足りないところ。
ひとりの、アイドルとして、足りないところ。
福丸小糸というひとりのアイドルとして、って考え始めたのは……さ、最近になってから。
アイドルとして一番判りやすい魅力は、わたしにはない……と思う。
だ、だとすれば。他の魅力を伸ばしたり、探したほうが良いだろうか。
探しては、きた。おかげで、い、いくつかは見つけることが出来た……と思う。
そうだ。頑張って、見つけられた。
ひとりでなく。わたしに、教えてくれた人が、居る。
その人は、アイドルを始めたときから、い、一緒に。見守って貰って。
少し、アイドルになるための……強引だったあれは、迷惑をかけちゃったと思うけど。
でも、認めてくれて。ついにはW.I.N.G.っていう、大きな大会で優勝できた。
まさかわたしが、って。信じられない気持ちが、つ、強かったと思う。
わたし、ひとりなのに。みんなも、雛菜ちゃんすらも、いなかったのに。
でも、ホントだった。わたしは、優勝できた。
ステージに立っているわたしが、別人に見えた。
ほんとうにそれくらい、輝いていた。
輝かせて、くれた。
……で、なんだけど。
さ、最近。わたしは、その人のことをよく目で追うようになった……なっていた。
す、好きだとか。そういうのではない、けど。
普段はシュッとしてるのに。大人だなーって、思うのに。
わたしがいないとダメダメな部分が、あったりする人だったから。
特に最近はダメダメだった……と、思うし。たぶん。
そ、それで。
見ていて、気付いたことがある。
283プロには沢山のアイドルが所属していて、ユニットも沢山ある。
だ、だからあんまり。他の人が、その人とどう関わってるか……なんて。知らなかった。
ううん。
知ろうと、してなかったんだと思う……。
だ、だから。注意深く観察をしていて。
初めて、気付いた。
普段はアイドル然としている人が、その人にだけ近しい態度でいたり……とか。
ほんわか暖かな人が、その人だけには頼ることを惜しまない……とか。
そもそも傍目にも隠そうとしていない(溢れている)月岡さん杜野さん……とか。
な、なんとさらには。
透ちゃんも何やら最初っから意味深で好意的な目線。円香ちゃんは湿度の高い目線。
雛菜ちゃんは普通に好きって言うし……やっぱり、いつもの「好き」とは、ち、違うく言ってる……気がする。
何とも思わないなら、それで良かったんです。
何やら想ってしまったので、残念なんです。
自信のない自分を、むなしく思います。
真面目なだけでは、ど、どうにもならないのを。悔しく思います。
……悔しく? なぜ……?
こう思ってしまった時点で。今までに沢山積み重ねた言い訳は、く、崩れてしまったんですが……。
だから。だから、そういう、アイドルとして一番判りやすい魅力……魅力? 魅力も。
ど、ど、どうしようかな……って。
思ったり、した……ん、です、けど。も ――
・・・
出先にて。
スタッフさん方への挨拶を終え。俺は自身の車を走らせる。
少し郊外まで回って、コンビニへ。コーヒーを注文して、自らの車の中で口付ける。
サマーイベント「シャイニーグロウン」もいよいよ本格的に手がける時期になった。
具体的には、そろそろ下見に行かなくてはならない。
イベントの内容はこうだ。
ただ、サバイバルでは決してない。アイドル達にバカンスを楽しんで貰いながら、その様子を配信したり、ラジオイベントを行ったり、後に動画として公開したりする。そういうのが重点だ。
このためのロケ地として、他の番組などでも貸し出しをしているという、近隣の無人島を10日ほどチャーターすることが出来た。
こればかりは天井社長の伝手だ。同時にクルーザーもどきも着いてくれたので、買い出しなどは普通に行うことが出来る。普通にスマートフォンも各種会社の電波範囲内にある場所である。不便ということはあんまりないだろう。
近場の海で行うよりは視線が少ない分、アイドル達への負担は減らすことが出来る。
同時にスタッフさんを慣れた人達で固められたので、運営側としても利のある選択となった。
ちなみに。
参加するアイドルは希望を取りつつ、基本的にはユニット単位で招集した。
イルミネーションスターズ。
放課後クライマックスガールズ。
ノクチル。
この3ユニットが参加する運びとなった。
イルミネーションスターズは最近出ずっぱりだったこともあり、スケジュールを広めにとってやりたかった。放課後クライマックスガールズはイベント系統に応じられる多様さがあるし。ノクチルは4人感が強いがそれはそれでラジオや配信向けで、経験も多い。
まぁ、そういう理由はあるものの。これをプロダクションで動かすからという理由で、他グループと交互に夏休みをとることが出来るというのが最も大きな価値なのである。
最近車に持ち込みしたお高いリクライニング椅子に背を預け、脳内の情報を整理する。
水着の調達は経費込みで今月中にみんなに実施してもらえばいいし。
配信機材は持ち出しできるし。女性のスタッフさんも、はづきさん含めて多数用意できたし。
自由時間もかなり挟めている。……うん。良いんじゃないだろうか。
俺は学校の先生でもない。夏休みを考える側に回るとは思っていなかった。
ただ、女学生を相手にするからには……の延長戦にある考え方ではある。
そういう意味では
……そういう余裕が出来たのは、多分。あの3人のおかげだと思っている。
人並みの生活、とやらがどんなものなのか。
未だに想像の中にしかない。
けれども、精神的には充足してきたと思う。
これ以上を、と思わないのだ。
アイドル達に寄り添い、見守り。成長を促すべきプロデューサーたる立場にあって。
彼女らに寄り添われなければ、人として立っていることも出来ない。
そういう自覚は十分にあるのに。引きずり込んで、そのままだ。
返せるものがあるとすれば、彼女らのその先の幸せを重んじることだけだ。
それすらも、自身の性嗜好を
彼女らは、それでもアイドルだ。
可能な限り、輝かせることだけが、俺に出来る全てだと。
そう思っている。
……目を閉じる。
346プロダクションあたりが、台頭してきてからか。
こういったアイドルの戦国時代……という表現は、今はもう古いみたいだが。
沢山いて。磨いて。競って。
その上に立つ者たちこそが輝いているのだ ―― と誇示するような時勢になったのは。
俳優や声優、果ては芸人にまで
タレント、という言葉が。アイドル、に取って代わるようにも、一部、なり。
仕事の割を奪い、満たし、食っていった。
当時はかなり批判もあったようだが。
それすらも、346は……いや。美城は、跳ね飛ばせるだけの力があった。
そうして出来上がった舞台に。時代に。
アイドルでビルが建って、アイドルで経済が動いて、アイドルで国が繋がって、アイドルで人の心が通じ合った。
こうして。アイドル、という立場は。俺たちの生活の中に、針の様にずるりと入り込んできたのだった。
以上。
「学生でアイドル」が社会的に許されるようになった、俺なりの背景に対する解釈である。
大学時代の論文で出したやつだ。教授の評価は、まぁ、そこそこ。
今となっては少し外に出すのは恥ずかしいやつだ。名前は残ってしまっているが。
……目を開く。
正確に言えばこの論文は、
アイドルは、そういう領域を
つまりは「より強力な個性」が、前に出る時代になった……というだけのことなのだ。
職務上分けてあった表記が、マルチなタレントによって再溶融され、区分が曖昧になった。それだけだ。
魅力を持たせて、俗に言うアイドル的な活動をしているのならば結局、アイドルはアイドル。
なんてったって……だ。
そういう部分に。自分自身に何が出来るのか、と悩んでいるアイドルは数多い。
今も探している子もいる。プロデューサーとしてその手助けをする事も数多い。
丁度、そんなことを考えながら、事務所に着いた。
車を止めてガラス戸を開ける。……この間、はづきさんがディルドを貼り付けていた扉だ。
事務所に帰る最中にこういうことを考えていては、いけない。
誰か……特に、アイドルがいるかも知れないのだ。
一度、男子トイレに寄って顔を洗った。
多少前髪が降りたが、手櫛で適当に流しておく。
階段を曲がって。踊り場を……無心で通り過ぎる。
共有廊下を前だけ向いて歩いて。
―― 事務所の扉を開いた。
窓から飛び込んでくる夕日の色と。
視界の端で動く黒髪と。
弓なりに、肌色。
「……。……」
福丸小糸。唖然とした顔。目が合った。
服をはだけて。うつ伏せに。
「……ぴ」
乳首を、シートの背部分に。
片脚を大きく開いて、陰核を、肘置きに。
「―― ぴぁああああああぁぁっっっ!!??」
絶叫が、響いた。
俺は事務所の入り口で、恐らくは彼女自身よりもずっと、唖然としながらも。
その絶叫を、甘んじて受け止めた。
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