※この作品はR-18です。

プロデューサーは人でなし   作:どろまみれ

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夏イベント⑦:最終日

 

 

 サマーイベント⑦

 

 

 283プロダクションの夏イベント。「シャイニーグロウン」も最終日となった。

 装いを変えて3度目。海辺のステージを使用したノクチルのライブが行われている。

 

「―― プロデューサー! ノクチルのみんな、今日は一層輝いとるばい!」

 

 1日おいてわざわざレポーターとして再上陸してくれた月岡恋鐘が、観客(スタッフ)席の側から元気よくエールを送る。

 彼女の売りだ。元気の良さ……というよりは。自信の在り方、というか。

 

「うちもリポート、頑張ってくるけんね! ……そしたらご褒美に、こんど、プロデューサーもうちの遠出に付き合ってくれると嬉しかー!」

 

 そう話すと照れたのか、月岡恋鐘は小走りにスタッフ側の方へと移動していった。

 ……そう。俺が福丸小糸とふたりで下見周りを行ったことが事務所内で(なぜか)知れわたっており、何かと同伴……という呼び方はどうなのかは知れないが。兎に角。俺と行動を共にすることを希望されるのである。

 

 まずいよな、とは思う。

 ただ迫られただけなら逸らすだろうが。

 そこに俺が執着する要素が在りさえすれば。

 

 いずれも仮定の話である。月岡恋鐘については故郷である長崎に付いてきて欲しいらしいが、残念ながらそこまでの遠出の機会はそうそうない。

 それこそ「行けたら行く」の出番である。社会人としてどうかとは思うものの。プロデューサーとアイドルの関係を考えるならば、まぁそういう回し方もありなのではないだろうか。

 

 言い訳は終了。

 ノクチルのライブも終盤に差し掛かる。

 

「あは~! みんな、ありがとぉ~!」

 

「ば、ばいばーい!」

 

 順に手を振ってカメラがフェードアウト。

 フェードアウト仕切って画角から外れた瞬間に、市川雛菜はばっちり俺に視線を合わせて。福丸小糸はやや控えめに、それでも俺に向けて手を振った。

 ついでに樋口円香からの冷たい視線を頂戴する。浅倉透は、そんな雰囲気そのものをなにやら楽しげに見つめていた。

 

 これら4人の仲は「良好」ではあるのだが。関係の軸は浅倉透に置かれているように感じられる。

 学年も違うというのに。不思議な関係だなぁ、幼馴染みって。とは思うのであった。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 無人島そのものやロッジの片付けは、業者に委託(いたく)してある。

 なので俺たちは機材などを各々撤収すれば、役割としては終了だ。

 

 帰り道。

 実は事務所から遠くはなく、ロケバスを数台走らせれば事足りる距離。

 

「―― あは~。雛菜、プロデューサーのとなり~!」

 

 俺が運転するバスにはノクチルが乗る運びとなり。真っ先に助手席に、市川雛菜が乗り込んできた。

 浅倉透、樋口円香は異論無いようですぐに後部座席に乗り込んでいる。福丸小糸は少しだけ悲しそうな顔をして俺と雛菜を交互に見て後、俺と視線が合うとあわあわと逸らして後部座席へと乗り込んだ。

 ドアを閉める。荷物の一部を後ろに積んで。走らせる。

 

 窓から景色が通り過ぎてゆく。

 283プロダクションとして過ごした夏の夜が、海が、砂浜が遠ざかってゆく。

 

 当然疲れているのだろう。

 浅倉透は眠り始め。樋口円香は両目を閉じ、両耳にイヤホン。福丸小糸も浅倉透に寄りかかって寝息を立て始めた。

 

 ゴムタイヤがアスファルトをかむ音。

 箱形の車体が空気を潰して、裂いて、走る感触。

 

 隣の助手席でご機嫌にサイダーを歌っていた市川雛菜が、少しだけ空けていた窓を、声が遠く程度に細めて言う。

 

「ねえ。プロデューサーは~……」

 

 途切れる。

 話しかけられたといえど、運転中である。

 正面を見たまま。無言の後。赤信号が灯り。車も止まる。

 

「プロデューサー、雛菜には~、しないの?」

 

 左腕を持ち上げられて。暖かく、布地を超えて確かに(やわ)い感触。

 首を超高速で左へ向ける。いつものように表情を柔らかくしたままの、市川雛菜がそこに居る。

 俺が左腕で捕らえているのは、彼女の胸部だ。

 

「今日とか、この後は解散だろうし……時間、あると思うんだけどな~?」

 

 後部座席。

 浅倉透(ねむっている)福丸小糸(ねむっている)樋口円香(われかんせず)

 

「あは~。やっぱり、透先輩達には秘密にしなきゃね~」

 

 そのままぐりぐりと俺の腕を遊ぶように押し付ける。

 布越しでも十分な柔らかさ。モデルも務める彼女のスタイルは良い。

 とはいえ、俺もそれだけで興奮するほどに()えている訳でもない。

 

 夜道に信号は未だ赤。こちらは車線の少ない側。大の字交差点。目の前をゆっくりと地元の人が横断している。

 説明するだけの時間はあるか。感触は覚えつつも、無言を貫く。

 

「……やっぱり駄目か~。雛菜、いちおう研究したんだけどな~」

 

 なんの研究だろう。

 

「透先輩とか。円香先輩とか。……あとは~、恋鐘ちゃんとか」

 

 なるほど。……なるほど、と言いづらい人選もあるが。

 

「プロデューサーに一緒にいて欲しいな~って思ってる人の~、動き方とか~……くっつきかた!」

 

 その結果が胸を押し当てる、なのであれば研究は残念ながら失敗と言わざるを得ないだろう。

 ……確かに俺は月岡恋鐘の胸に触れてしまったことはあるが。あれは事故である。月岡恋鐘も月岡恋鐘で「い、今は仕事中やろ~!?」みたいな反応をしたのが良くなかった。事務所に結構な人が居たのも、尚更良くなかった。

 

「……ちょっとごまかしたけど~。一緒に居て欲しいっていうよりは~……好きな人、だよね~」

 

 赤信号が長い。左の掌に、やや早い鼓動。

 

「プロデューサー、でも小糸ちゃんにはしたんだよね~?」

 

 後部座席を再確認。眠っている。

 ……頷く。

 

「あは~、どういう基準なの~?」

 

 さて。ついに核心を尋ねられてしまう。

 左腕は離して貰える筈もない。2台ほど前をゆくイルミネーションスターズを乗せたロケバスのテールランプが、曲がり角に消えるのが見えた。

 俺は何処(どこ)まで落ちるのか。着の身着のまま。流れに身を任せているばかりでは、本当は駄目なのだろうけれども。

 

「ん~?」

 

 鞄の内ポケットから、プライベート用途のスマートフォンを取り出す。ロックを2つ開けて。

 左腕を離してもらうその代わりに、市川雛菜に手渡した。

 

「これって~……」

 

 説明を重ねる。

 市川雛菜に魅力がないはずはない。そうでなければ、アイドルとして採用などしていない。

 俺が特殊な趣味を抱えているのだ、と。小声で続ける。

 本体に保存してある動画類を見てくれ。イヤホンをつけて。市川雛菜は指示に従う。

 

「……」

 

 信号が青に変わる。おかげで4台あったロケバスの最後尾に取り残された。ゆっくりと進んでも問題はない、と解釈しておこう。 

 オートマ。アクセルを踏むだけ。市川雛菜が目当ての動画を見つけた。サムネイルを見てしばし固まった後、むに、と親指の腹で動画を再生する。

 

 再びゴムタイヤがアスファルトをかむ音。

 箱形の車体が空気を潰して、裂いて、走る感触。

 

 イヤホンはしっかりと接続されているようだ。ほっと、少しだけ安心する。

 春からの動画がひたすらに並ぶ。各女子に付けられ悲惨(・・)な名前と共に。

 

 喉オナホール(まゆずみ ふゆこ)

 落書き帳(ななくさ はづき)

 雌畜生(さくらぎ まの)

 肉棒入れ(ふくまる こいと)

 そして、臭い狂い(こみや かほ)

 

 暗い車内。スマートフォンの画面ライトが、市川雛菜の顔にうす青く照り返る。

 落胆されるだろうか。そういう考えが頭を()ぎる。

 拒絶できたならばそれで良い。軽蔑(けいべつ)されたのならば仕方あるまい。

 市川雛菜に対しては、そういう諦めの感情が浮かんできてしまう。

 

「……」

 

 指ですい、と画面をスライドさせている。

 動画だけではない。

 黛冬優子が店頭に並んでいる画像や。

 七草はづきがディルドを貼り付けまくって遊んでいる画像や。

 櫻木真乃が全裸で見知った公園の柵に陰部を擦り付けて自慰している画像や。

 小宮果穂が俺の男性器を顔に乗せてご満悦している画像。

 そういうのが続いている。

 

「……」

 

 横目で見やる。嫌悪の表情はない。

 ただたまに、うわぁといった様子で口をぱかっと開けてはいる。

 ……はづきさんに向けて、こっちはコンビニに寄っていくので多少遅れますと連絡を入れておく。

 実際にそうなるのかは、判らないが。時間はあって損はない。

 

「……う~ん。なぁるほど~」

 

 市川雛菜が指を頬にあて、何事か考える様。

 ぱち、と瞼を開いてこちらを見る。

 

「雛菜も、なにか考えなきゃってこと~?」

 

 尋ねられた。こちらが聞きたい、と思いもするが。

 つまりはそういう事だろう。

 今、俺の運転するロケバスの助手席に座っているのは ―― モデルにしてアイドル。ノクチルの市川雛菜である。

 

 輝きがある。翼がある。

 しかし、汚れてはいない。

 

 それを、自身という屍食い(・・・)の肉食人は受け付けない。

 魅力は間違いなく感じるが。食べるに値しないという訳ではないが。

 食べてしまえば、俺自身が死を伴うほどの激痛を受けるのだと ―― そうと知っている。

 

「そっか~。……プロデューサーは~、プロデューサーだもんね~」

 

 市川雛菜がお尻の位置をわずかに前にずらして、ずり落ちる。

 そしてその体勢のまま。スマートフォンは離さず、動画の再生を続けた。

 

 吸い込まれてゆくように伸びてゆくアスファルトの道路。

 海岸線につうと引かれたそれは、いよいよ山へと差し掛かる。

 

 ……反吐(はきけ)は、吐き出してしまえばそれで済む。

 しかし痛みは吐き出せない。飲み込む他ない。いずれはそれで、命に支障が出るとしてもだ。

 

 簡単に言えば。

 プロデューサーという仕事が。結局、俺は好きなのだ。

 だからそのままのアイドルに情欲を抱くことが、生理的にない。

 ……普通ではなく。いつしか。なくなって、しまったのだ。

 

 だから人を外れたと。人でなしだと。

 俺は自分自身をけなし続ける。

 

 市川雛菜が眺めるスマートフォンに映る彼女らは、そんな自身に寄り添って。

 俺を人に留めようと。人たらしめようとしてくれている人達である。

 

「……そうだね~。雛菜も、ちょっとくらいは大変でも。それがいいな~」

 

 唇に人差し指を添えて。

 市川雛菜はんー、と悩みの声を発し。

 

「……うーん。うぅん。……。……そうだ」

 

 考えついてしまった、のだろう。

 尻をずりあげて。姿勢を正し。

 

「新学期が始まったらね~、試してみたいこと、あるかも~」

 

 だから楽しみにしていてね、と。

 言われてしまった。

 





 next:小宮果穂④


 system:気紛れアンケートありがとうございました。
     なんとなく判っている方も多いとは思いますが、結局は同人。
     好きにやりますので悪しからず。
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