※この作品はR-18です。

プロデューサーは人でなし   作:どろまみれ

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市川雛菜②:(アイドル)

 

 

 市川雛菜②

 

 

 

 夜の事務所。

 デスクに置いていたプライベート用途のスマートフォンに、市川雛菜のメッセージが表示される。

 

『連絡先はもらったよ~』

 

 次々と。ぽん、ぽん、と区切りながら。

 彼氏候補……とのやり取りを、そのままこちらにも知らせてくる。

 

『デートは土曜の午前までで、ランチはなし~。雛菜、お昼はプロデューサーと食べたいな~』

 

 どうやら初デートの日付が決まったようだ。

 確かに。283プロダクション内でも知名度のあるほう。市川雛菜のスケジュールを抑えるのは幾分か難しい。

 レッスンの後よりは、前という事なのだろう。……それにしてもランチくらいは、と思わなくはないが。

 

『だから、プロデューサーは待っててね~』

 

 そのデートにも、こっそり着いてきて欲しいのだという。送り迎えまでお願いされた。

 否やはない。そこでどうして、何のためにという疑問は挟まない。

 

 知れている。

 市川雛菜は、そのためだけに()とデートをするのだから。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 残暑が続く、とある土曜の午前。

 俺は車を走らせ、休日の事務所へと向かっていた。

 市川雛菜を迎えに行くためだ。

 もっと正確に言えば。市川雛菜をデートへと送り届けるため、となるのだが。

 

 街中は暑い。が、動きさえしなければ過剰には感じはしない程度だろう。

 エアコンの調整をどうするべきか。そんなことを考えている内に、車は事務所へと着いてしまった。

 

 車庫に入れる前に窓際。車道にいるこちらを見つけた影があった。

 窓ガラスに表記された「283」の「2」辺り。

 そこにいて、やや秋寄りの色をした市川雛菜が、手を振った。

 

 (ほど)なくして降りてくる。

 守衛さんに一礼して、歩道を横切って、定位置となった助手席へ。

 

「プロデューサー、ありがと~!」

 

 置いておいたコンビニ秋商品のバニララテを受け取って、市川雛菜は笑顔を見せた。

 これから彼氏候補とデートに送り出すというのに。にっこにこで、ハンドルに伸ばそうとした俺の手を取って。

 

「あは~、恋人繋ぎ~」

 

 にぎにぎと手の指を絡めて遊ぶ。

 しばらくそのままにさせておく。日曜日の前日だ。車の通りは多い。ごうごうと、車道を車が走る音が続く。

 

「そういえばさ、プロデューサー。雛菜の次のライブは決まったの~?」

 

 ノクチルのライブ。樋口円香とも約束をしていたものだ。

 正直に言う。場所、時、共に決めてはいない。候補は絞って、皆に決めて貰おうかと思っている。

 

「へ~。どんなの~?」

 

 雛菜が身を寄せてくる。俺の手持ち鞄にするりと手を入れると、らしき資料を取り出した。

 

「ふ~ん……。バラエティはなしにして、小中規模の箱のイベントの一部を間借りするか~……どこかの学園祭を受けるか、か~」

 

 まさしくそれだ。

 ライブイベントの盛りは夏だ。長期休暇などが明けた秋頃となると、地方営業が主となるだろう。

 以前にも挙げていた2択。市川雛菜はどちらを好むだろうか。

 

「―― これ、透先輩と円香先輩にも聞くの~?」

 

 はて。質問が帰ってきた。

 聞くつもり。その通りだが。

 

「ここで雛菜が決めちゃうのはだめ~?」

 

 ……どうだろう。

 浅倉透。樋口円香。福丸小糸。彼女らの意見をないがしろにはしたくない。

 そういうからには、市川雛菜には選びたい択があるのだろうか。

 

「うん。ちょっとね~、ある~」

 

 ならば、ノクチルの皆を説得するための手段を考えておくべきだ。

 市川雛菜が選びたいと、そう言うのならば。

 

「そうだね~。雛菜、頑張るかも~」

 

 俺の(あお)るような言葉にも、彼女はそれこそ楽しそうに応じてくれた。

 今ここで見せた分、彼女には時間という利があるはずなので。

 どういう選択になるのか。希望が来るのか。楽しみにしておくとしよう。

 

 ……さて、と。

 指をひとつひとつ外し、絡んでいた手のひらを解く。

 

「あ~っ。もう止めちゃうの~?」

 

 止める。市川雛菜は、これからデートに向かわなければならないからだ。

 

「む~。プロデューサー、雛菜にデートに行って欲しいの~?」

 

 ああ。ことこの場に限って言えば、是非とも行って欲しい。 

 君が(・・)考えることは伝わった。俺にとっての刺激ではある。

 ただし。それで彼と向き合うことを放棄しては、ならない。決して許されはしないのだ。

 

「……そうだね~。雛菜、ちゃんと考えるつもりだもん」

 

 ならば良い。

 俺は頷くと、アクセルを踏み入れる。

 

 デートの予定。

 本日は時間も少ないので、市川雛菜の希望を()んだウィンドウショッピングだそうだ。

 秋用の衣類やコスメを見に行くのだろう。確かに機会としてはちょうど良い。

 彼とのデートが実りあるものになることを願って……俺は、ハンドルを切った。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 この街の中央付近には買い物通りが存在する。

 デートの舞台はまぁ、そこになるだろうとは思っていた。

 

 市川雛菜に「そこに居てね~」と言われたカフェの店内に長居させて貰う。

 PCを持ち込んで、事務とメールのやり取りだけは進めておく。

 

 早めに始まったデートだったが、順調には進んでいるようで。

 お店を3つ見て回った~……だ、そうだ。

 

 ふと時計をみやる。既に時間は昼前。

 ふたりとも店外から眺めるだけでなく、内に入ったのを見届けている。

 昼までに回った件数としては中々なのではないだろうか。

 

 そう考えながら、返答の期限をぎりぎりまで待てる学園祭の剪定(せんてい)などを行っていると。

 

『は~い、デート終了~。プロデューサー、迎えに来れる~?』

 

 連絡が来たので腰を上げる。

 外付けのSSDを忘れず回収し、会計を済ませ、車に乗り込む。走らせる。

 

 市川雛菜はひとりで、買い物通りの端っこ辺りで立っていた。

 近づくとすぐにこちらが発見され。車を傍に付けると、勢いよく助手席へと乗り込んでくる。

 先手。楽しかったかい、と尋ねる。

 

「ふつ~!」

 

 普通。なら良かったのではないだろうか。

 他校の男子で、顔見知りでもない。共通の知人がいるわけでもなく、いきなりの1対1デートである。

 よくやったほうだろう……と、俺としては思うのだけれど。

 

「そうだね~。すっごい緊張してた! ……でも見たい服は見て回れたし、リップも目星つけた~!」

 

 楽しかった、と言えるのだろう。

 ならば。「良かった」……その言葉を発するのがわずかに遅れて。

 

「―― じゃあプロデューサー。次はプロデューサーのお(うち)に連れてって~!」

 

 デートの感慨(かんがい)を全く見せず、残さず、感じさせず。市川雛菜はそう言った。

 ……いいや。午後はレッスンが。

 

「雛菜、キャンセルした~。あは~、小糸ちゃんに伝えてって頼んじゃった~」

 

 そう言ってスマートフォンを見ると。『すいません……ほんとです』と福丸小糸。トレーナー。よくあることではあるので、またかと小言を言われるくらいで済んでしまっている。

 ……これで。昼も、午後も。フリーとなった……の、だろう。

 

「小糸ちゃんも行ったんでしょ~? 雛菜も見てみたいな~って、思ってた~」

 

 別宅のことなのだろう。

 つまりは。市川雛菜はこう言っているのだ。

 思うが早いか。

 

「だから~……プロデューサー。さっきまで彼氏君(・・・)とデートしてた雛菜と、えっち、しよ~」

 

 実際に言わせてしまった。しかもあえて、候補という単語を抜かしてまで。

 その先に待つやたらなえぐみ(・・・)に、俺は思わず顔を(しか)める。

 

「うんとねー、苦しくないよ~、だいじょうぶ~」

 

 市川雛菜が身体を寄せる。

 顔を寄せる。俺の腕を掴んで、抱きしめ、頭を撫でた。

 

「ちゃんと考えたんだ~。……まだ、デートはするけどね~。何回かって約束したし~。でも~。雛菜は彼氏君よりも、やっぱり、プロデューサーの方が好きだった~。ずっとずっと好きで~、この優先順位は変わんないかな~って、思った~!」

 

 そうなるだろうな、とは思っていた。

 市川雛菜が持つ感性や視点は、特殊に過ぎる。

 時間や機運がなければ、俺も理解して貰えるかは判らなかった。

 

 そして。今は彼女の考え方を理解出来る。出来てしまう。

 

 結局。普通の男の子だったのだ ―― だから、理解されるのが「大変」なのだ。

 かつての市川雛菜が俺に許してくれた、「ちょっとならあってもいい、大変なこと」。

 彼の普通な感性は、あくまで普通。「ちょっと」を超えるまでに要する時間が多過ぎて……大変過ぎて。

 だから「楽しく、しあわせ」ではないと。課程も道程も、長くて待てたものでは無いと。

 そうと、市川雛菜は判断を下したのだ。たった1回目のデートで。

 

 あまりに早い。が、改めて言う。そうなるだろうな、とは思っていた。

 ……自身は何を感じている。簡単だ。「こちらは既に理解出来ている」という、当たり前の優越感だ。

 

「プロデューサー、どう~? まだ、雛菜に~……んむ」

 

 近くに顔があったので、手のひらで口を塞ぐ。

 市川雛菜は視線だけでこちらを見上げる。

 期待の目線で。

 

「……あは~。うん。すっごい、期待してる~」

 

 別宅の方向へと車を動かす。

 優越感。征服感。そういうものに突き動かされて。

 学生を、アイドルを、真っ昼間から、連れ込もうとしている。

 

 走り出した。

 事務所の裏へ。街の隅の手前。人気の無い方へ、無い方へ。

 

「すこーしだけプロデューサーのこと、楽にしてあげるね~。……今の雛菜はね~。プロデューサーが相手してくれなかったからって、わざと普通(・・)彼氏君(・・・)を作ったりしたのに……結局だめだめ~。プロデューサーもいまいち、妬いてくれなかったし~」

 

 長めのスカートを(めく)って。

 タイツと。下着をわざと露出して、見せつけて。

 

「わざとやったことぜーんぶ失敗したから~……その罰をもらおかな~って。プロデューサーにぜーんぶあげちゃおうかなって、思ってるんだ~。……ぜ~んぶあげて、ぐちゃぐちゃにしてもらおっかな~って!」

 

 あは~と発した吐息に、初めての熱が()もる。

 足を開いて。自ら布越しに陰唇をこすりあげ、身体をぶるりと恍惚(こうこつ)(ふる)わせた。

 

「判ったでしょ~? 結局ね~、雛菜も普通(・・)じゃダメだったんだよ~、プロデューサー。だからプロデューサーにぐちゃぐちゃにされた後も……学校に行くし~、アイドルもやるし~。……ぐちゃぐちゃのまま罰ゲームみたいなデート、させられて~……みたいな!」

 

 市川雛菜の頬が大きく(ゆる)んだ。

 しあわせ色に染めて、染まる。

 

「雛菜ね~、プロデューサーが何でも遊べる ―― お人形になってあげる~!」

 

 






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