プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
市川雛菜②
夜の事務所。
デスクに置いていたプライベート用途のスマートフォンに、市川雛菜のメッセージが表示される。
『連絡先はもらったよ~』
次々と。ぽん、ぽん、と区切りながら。
彼氏候補……とのやり取りを、そのままこちらにも知らせてくる。
『デートは土曜の午前までで、ランチはなし~。雛菜、お昼はプロデューサーと食べたいな~』
どうやら初デートの日付が決まったようだ。
確かに。283プロダクション内でも知名度のあるほう。市川雛菜のスケジュールを抑えるのは幾分か難しい。
レッスンの後よりは、前という事なのだろう。……それにしてもランチくらいは、と思わなくはないが。
『だから、プロデューサーは待っててね~』
そのデートにも、こっそり着いてきて欲しいのだという。送り迎えまでお願いされた。
否やはない。そこでどうして、何のためにという疑問は挟まない。
知れている。
市川雛菜は、そのためだけに
・・・
残暑が続く、とある土曜の午前。
俺は車を走らせ、休日の事務所へと向かっていた。
市川雛菜を迎えに行くためだ。
もっと正確に言えば。市川雛菜をデートへと送り届けるため、となるのだが。
街中は暑い。が、動きさえしなければ過剰には感じはしない程度だろう。
エアコンの調整をどうするべきか。そんなことを考えている内に、車は事務所へと着いてしまった。
車庫に入れる前に窓際。車道にいるこちらを見つけた影があった。
窓ガラスに表記された「283」の「2」辺り。
そこにいて、やや秋寄りの色をした市川雛菜が、手を振った。
守衛さんに一礼して、歩道を横切って、定位置となった助手席へ。
「プロデューサー、ありがと~!」
置いておいたコンビニ秋商品のバニララテを受け取って、市川雛菜は笑顔を見せた。
これから彼氏候補とデートに送り出すというのに。にっこにこで、ハンドルに伸ばそうとした俺の手を取って。
「あは~、恋人繋ぎ~」
にぎにぎと手の指を絡めて遊ぶ。
しばらくそのままにさせておく。日曜日の前日だ。車の通りは多い。ごうごうと、車道を車が走る音が続く。
「そういえばさ、プロデューサー。雛菜の次のライブは決まったの~?」
ノクチルのライブ。樋口円香とも約束をしていたものだ。
正直に言う。場所、時、共に決めてはいない。候補は絞って、皆に決めて貰おうかと思っている。
「へ~。どんなの~?」
雛菜が身を寄せてくる。俺の手持ち鞄にするりと手を入れると、らしき資料を取り出した。
「ふ~ん……。バラエティはなしにして、小中規模の箱のイベントの一部を間借りするか~……どこかの学園祭を受けるか、か~」
まさしくそれだ。
ライブイベントの盛りは夏だ。長期休暇などが明けた秋頃となると、地方営業が主となるだろう。
以前にも挙げていた2択。市川雛菜はどちらを好むだろうか。
「―― これ、透先輩と円香先輩にも聞くの~?」
はて。質問が帰ってきた。
聞くつもり。その通りだが。
「ここで雛菜が決めちゃうのはだめ~?」
……どうだろう。
浅倉透。樋口円香。福丸小糸。彼女らの意見をないがしろにはしたくない。
そういうからには、市川雛菜には選びたい択があるのだろうか。
「うん。ちょっとね~、ある~」
ならば、ノクチルの皆を説得するための手段を考えておくべきだ。
市川雛菜が選びたいと、そう言うのならば。
「そうだね~。雛菜、頑張るかも~」
俺の
今ここで見せた分、彼女には時間という利があるはずなので。
どういう選択になるのか。希望が来るのか。楽しみにしておくとしよう。
……さて、と。
指をひとつひとつ外し、絡んでいた手のひらを解く。
「あ~っ。もう止めちゃうの~?」
止める。市川雛菜は、これからデートに向かわなければならないからだ。
「む~。プロデューサー、雛菜にデートに行って欲しいの~?」
ああ。ことこの場に限って言えば、是非とも行って欲しい。
ただし。それで彼と向き合うことを放棄しては、ならない。決して許されはしないのだ。
「……そうだね~。雛菜、ちゃんと考えるつもりだもん」
ならば良い。
俺は頷くと、アクセルを踏み入れる。
デートの予定。
本日は時間も少ないので、市川雛菜の希望を
秋用の衣類やコスメを見に行くのだろう。確かに機会としてはちょうど良い。
彼とのデートが実りあるものになることを願って……俺は、ハンドルを切った。
・・・
この街の中央付近には買い物通りが存在する。
デートの舞台はまぁ、そこになるだろうとは思っていた。
市川雛菜に「そこに居てね~」と言われたカフェの店内に長居させて貰う。
PCを持ち込んで、事務とメールのやり取りだけは進めておく。
早めに始まったデートだったが、順調には進んでいるようで。
お店を3つ見て回った~……だ、そうだ。
ふと時計をみやる。既に時間は昼前。
ふたりとも店外から眺めるだけでなく、内に入ったのを見届けている。
昼までに回った件数としては中々なのではないだろうか。
そう考えながら、返答の期限をぎりぎりまで待てる学園祭の
『は~い、デート終了~。プロデューサー、迎えに来れる~?』
連絡が来たので腰を上げる。
外付けのSSDを忘れず回収し、会計を済ませ、車に乗り込む。走らせる。
市川雛菜はひとりで、買い物通りの端っこ辺りで立っていた。
近づくとすぐにこちらが発見され。車を傍に付けると、勢いよく助手席へと乗り込んでくる。
先手。楽しかったかい、と尋ねる。
「ふつ~!」
普通。なら良かったのではないだろうか。
他校の男子で、顔見知りでもない。共通の知人がいるわけでもなく、いきなりの1対1デートである。
よくやったほうだろう……と、俺としては思うのだけれど。
「そうだね~。すっごい緊張してた! ……でも見たい服は見て回れたし、リップも目星つけた~!」
楽しかった、と言えるのだろう。
ならば。「良かった」……その言葉を発するのがわずかに遅れて。
「―― じゃあプロデューサー。次はプロデューサーのお
デートの
……いいや。午後はレッスンが。
「雛菜、キャンセルした~。あは~、小糸ちゃんに伝えてって頼んじゃった~」
そう言ってスマートフォンを見ると。『すいません……ほんとです』と福丸小糸。トレーナー。よくあることではあるので、またかと小言を言われるくらいで済んでしまっている。
……これで。昼も、午後も。フリーとなった……の、だろう。
「小糸ちゃんも行ったんでしょ~? 雛菜も見てみたいな~って、思ってた~」
別宅のことなのだろう。
つまりは。市川雛菜はこう言っているのだ。
思うが早いか。
「だから~……プロデューサー。さっきまで
実際に言わせてしまった。しかもあえて、候補という単語を抜かしてまで。
その先に待つやたらな
「うんとねー、苦しくないよ~、だいじょうぶ~」
市川雛菜が身体を寄せる。
顔を寄せる。俺の腕を掴んで、抱きしめ、頭を撫でた。
「ちゃんと考えたんだ~。……まだ、デートはするけどね~。何回かって約束したし~。でも~。雛菜は彼氏君よりも、やっぱり、プロデューサーの方が好きだった~。ずっとずっと好きで~、この優先順位は変わんないかな~って、思った~!」
そうなるだろうな、とは思っていた。
市川雛菜が持つ感性や視点は、特殊に過ぎる。
時間や機運がなければ、俺も理解して貰えるかは判らなかった。
そして。今は彼女の考え方を理解出来る。出来てしまう。
結局。普通の男の子だったのだ ―― だから、理解されるのが「大変」なのだ。
かつての市川雛菜が俺に許してくれた、「ちょっとならあってもいい、大変なこと」。
彼の普通な感性は、あくまで普通。「ちょっと」を超えるまでに要する時間が多過ぎて……大変過ぎて。
だから「楽しく、しあわせ」ではないと。課程も道程も、長くて待てたものでは無いと。
そうと、市川雛菜は判断を下したのだ。たった1回目のデートで。
あまりに早い。が、改めて言う。そうなるだろうな、とは思っていた。
……自身は何を感じている。簡単だ。「こちらは既に理解出来ている」という、当たり前の優越感だ。
「プロデューサー、どう~? まだ、雛菜に~……んむ」
近くに顔があったので、手のひらで口を塞ぐ。
市川雛菜は視線だけでこちらを見上げる。
期待の目線で。
「……あは~。うん。すっごい、期待してる~」
別宅の方向へと車を動かす。
優越感。征服感。そういうものに突き動かされて。
学生を、アイドルを、真っ昼間から、連れ込もうとしている。
走り出した。
事務所の裏へ。街の隅の手前。人気の無い方へ、無い方へ。
「すこーしだけプロデューサーのこと、楽にしてあげるね~。……今の雛菜はね~。プロデューサーが相手してくれなかったからって、わざと
長めのスカートを
タイツと。下着をわざと露出して、見せつけて。
「わざとやったことぜーんぶ失敗したから~……その罰をもらおかな~って。プロデューサーにぜーんぶあげちゃおうかなって、思ってるんだ~。……ぜ~んぶあげて、ぐちゃぐちゃにしてもらおっかな~って!」
あは~と発した吐息に、初めての熱が
足を開いて。自ら布越しに陰唇をこすりあげ、身体をぶるりと
「判ったでしょ~? 結局ね~、雛菜も
市川雛菜の頬が大きく
しあわせ色に染めて、染まる。
「雛菜ね~、プロデューサーが何でも遊べる ―― お人形になってあげる~!」
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