プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
幽谷霧子①
秋終わりの
名称は『
よくあるゲームの魔法などで耳にするのはメテオスウォームの呼びだろうか。……兎に角。そういうフェスが、開催されるのである。
以前からこのフェスへの参加を慎重に打診していたのには理由がある。
競技会との名を冠しては居るものの……交流会。そして「現アイドルのナンバーワン決定戦」という側面を多く含むからだ。
名付けの方式が違うのもそのせいで、多くのプロダクションを参加させるための統一方式となったようだ。
その成果や根回しの良さもあってか、業界殆どのアイドルプロダクションから参加が成される予定となっている。
765も、961も、346も。そして、283やその他多くの事務所から参加を募られている。
天井社長に曰く。
どうやらメディア向けの統一したフェスを試験的に開催したい……という意見はだいぶ昔からあったようだ。
事務所の方針や大きさがバラバラなため、今までは難しかったが……昨今の各事務所の成長もあり。バランス良くアイドルを参加させ、競うことが出来るだろうと判断されたようだ。
765のプロデューサーであるセンパイにも内々に話をしてみたところ、タイトルは結構大きなものになりそうだとのこと。
向こうのプロダクションも、そして業界最大手の346も、粒ぞろいのアイドルを出してくるだろう……との見解である。
逆に言えば961は出てくるアイドルがわかりきっている。黒井詩花だ。恋人であるセンパイの前なので、あえて話題にはしなかったが。
さて。そんな『 Meteor//Swarm 』だが。
こちら283プロダクションからは、各ユニットから数名を選出し送り出すことに決定した。
イルミネーションスターズからは、八宮めぐる。
アンティーカからは、幽谷霧子と月岡恋鐘の2名。
放課後クライマックスガールズからは、杜野凛世、アルストロメリアからは、大崎甜花……の予定だったが、ここは訳あっての回避。
ストレイライトから、芹沢あさひと黛冬優子の2名を。
ノクチルから市川雛菜。
そしてシーズから、七草にちかが選出された。
これは俺と社長で話し合った結果ではあるが、ほとんどはアイドルランク順という順当な物である。
イルミネーションスターズは全員
アンティーカは大きく差が無く困難だったが、ランク順では僅差でこうなる。
杜野凛世と大崎甜花はユニット内ではトップだったが、フェス自体の選考基準に関するオーディションへの参加が足らず基準外に。
ストレイライトから事務所トップの芹沢あさひに、最近では追いつけ追い越せな黛冬優子を入れてやることが出来た。
市川雛菜はナンバーツーなので自動選出。
……ただし七草にちかは、シーズの相方である緋田美琴の事務所間のあれこれと。社長と俺の推薦があっての選出となっている。
これら、合計7名の大所帯である。
揉めはしなかった。既に選出は済み、競技会へのエントリーも終えている。
ここからは個人個人の練度を高めてゆくだけである。
秋終わりまでは、この競技会へのレッスンを中心に据えて活動を行っていく……ということを、各アイドルへと連絡した。
その、帰りの路のことであった。
・・・
仕事を終えて。
俺は珍しく、事務所の屋上を開放していた。
柵に捕まり。ビル群や、大きな内科の看板を横目に、風を浴びる。
タバコは吸わないし。換気を試みた訳でもない。
強いて言えば日を浴びたかった……の、だろう。
今回のフェスは、明らかに、アイドル界隈に一石を投じるものだ。
オーディションとはまた違った、ある種のタイトルを重んじる、強い思惑を感じてならない。
その善し悪しは別として、だ。
……そこに、俺達は俺達としての、思惑を差し込んだ。
うまく行くだろうか。
行って欲しい。そう思う。
そう、
「―― あ……プロデューサー……さん?」
後ろの昇降口から声がしたので、振り向く。
夕日に照らされて、秋めいて黒く清潔色のワンピースがはためいている。
「やっぱり……プロデューサーさん……です」
幽谷霧子。
アンティーカの一員。うす灰色のツーサイドアップと、最近では少なめの包帯と絆創膏。
怪我をしているわけではない。これは彼女にとってのお守りのようなものだと、今では十分に理解している。
彼女もまた学生としての義務で、忙しくしているはずなのだが。
今日は直帰しなかったのだろうか。
「……すぅ、はぁ。……おひさま、浴びたくて……」
そう言いながら俺の隣まで、とつとつと薄い足音で歩いてくる。
柵に乗り出さず。寄りかかりもせず、その手前で歩を止める。
見上げるのは空ではなく……俺。
「プロデューサーさんも……おひさま。かぜ。……浴びに……来たんですか?」
ああ、と同意する。
少し背伸びをしたくって。事務所の中は楽しいけれども。風の通りは、冷たくて気持ちいい時もあるから。
「ふふ。……プロデューサーさんが、……ひえひえになりませんように」
幽谷霧子はそう言って、何処かへ向けてお祈りのポーズで掌を組む。
俺のために願ってくれるというのならば、ありがたい。冷えないうちに戻るよ、とは言っておく。
「鳥さんも……帰る時間。虫さんも……奏でる時間。……夕方、ですもんね」
少し話もしたいようだ。
幽谷霧子には勉強でも忙しい中、例のフェスにも注力して貰うことになる。
もしも願いがあるならば叶えてあげたいし。わがままなんてあるならば、全部を聞いてやりたい。
しばしの沈黙。しかし目を合わせ、頷き、幽谷霧子の発言を待つ。
「……。この間まで。プロデューサーさんが……」
ふと、遠くの街並みへと目を向けた。
日は沈み。人は帰り。世界が夜に移り変わろうとしている。
「ひとりで……どこかへ、行ってしまう。海の底か……空の果てか……地の底か。そんな夢を……見たんです……。何度も、何度も……」
半年は前の事ではあるが。いつも皆には心配されてばかりだな、と脳内で独り
アンティーカの皆とは確かに合わない日々を過ごしていた。彼女の様子を見るに。やはりアイドルの皆に心配をかけていたのだな、と実感せざるを得ない。
あの頃は精神的にも身体的にも揺らぎ、
俺はアイドルという成り立ちそのものに……根幹からの、不安を感じていたのだから。
「ですから……不安でした。でも……最近は……」
すぅ、っと。
重力なんてないかの様に、柵から大きく身体を乗り出して、俺の目を覗こうとしてくるので。
慌てて横を向いて、霧子が落ちないようその身体を引き戻す。
「ふふ。……わたし……祈ってました。……それに、わたしだけじゃ、なくて……みんなが」
ありがとうな、と返した。
返しても返しても、返しきれないかも知れないけれども。
それでも、ありがとうと。
「はい……。だから、きっと……あったかさに包まれて……。飛んで来てくれるって……思ってました」
ふいと浮いてしまいそうな笑顔で、幽谷霧子は俺の手のひらを掴んで。
やさしく、ふわふわと振り回す。
「嬉しかった……です。そして、きっと……これからも……」
そうだ。そして、これからも、が大一番になるだろう。
幽谷霧子を頼りにしている。率直に、そう伝えておく。
「はい……。わたしの……力の限り……」
左の手のひらを空に向けて伸ばしてゆく。
追うように、右の手も。
「あの星に……届くのかは……わからない、けれど……」
繰り返して。繰り返して。
ジャンプをするたびに、きっと翼は強くなる。
きっと輝きは、増してゆく。
「わたしもお手伝い……しますね。……見えること。……感じられること。……プロデューサーさん達に、お伝えできるように……」
幽谷霧子がゆるりと掲げた手のひらの上。
太陽の傍に、
まだ白くない息を吐き出して。そろそろ事務所に入ろうか、と促した。
「はい……。……あ……えと……」
途中で立ち止まった彼女に、どうかしたかと尋ねる。
「……」
考える間。額に手を当てて。
耳をそばだてて。
「わたし……もう、明日からでも……レッスン、したい……です……。プロデューサーさん……にも、見て欲しくて……」
こちらへ向かって正面。
小首を
「一緒にいて……くれますか……?」
任せておいて欲しい。手伝うよ、と力強く返す。
「はい……。お願いします……。送り迎え……も……?」
勿論だ。
間髪入れず応える。
幽谷霧子からも笑顔で答えを、貰う事が出来ていた。
そうして。他の人らよりも一層早く。
俺と霧子の『 Meteor//Swarm 』に向けた日々が、始められたのだった。
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