プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
system:
競技会①~③は成人向けシーンなし。
代わりに一斉投稿なので、ご了承の上でお読みください。
その後はいつものに戻る予定となっています。
競技会②:星が瞬くはなし
(Sub:七草にちか①)
合同競技会の1週目を終えた日曜日。
283プロダクションの皆の結果は、その日の夜には発表された。
見事に7人全員が予選を突破。来週の本選へと駒を進めることとなった。
喜びに溢れた週末の事務所内。
天井社長からも珍しく(事務所に居たので)言葉を貰った。主に安心したという旨の内容だ。
そんなに気負ってはいないですよ、と苦笑しながら返すことになってしまう。どうやらまだ心配をされているようだ。
……いや、仕方の無い事か。不安定なのは変わらない。皆のおかげでなんとか折り合いをつけられているというだけなのだから。
この競技会に向けて気合を入れていたのは事実。結果は出せた。安心させられたならば、これ以上ない。
……喜びに溢れた週末の事務所内。
学生のアイドルらにはアプリ内で連絡通知を入れただけとなったが、それでも喜びは伝わってくる。
そんな中で。
ひとり。
「―― 勝っちゃいました。また」
嬉しさを抱きしめきれず、溢したままの。
豪奢な金管のファンファーレはなく。オルガンの音が聞こえる。
不協和音。人に危うさと不安を想起させる……今は、俺にしか聞こえない音。
「タレント色のお仕事じゃない、じゃないですか。なのに、勝っちゃいました。また。……パッション、でしたっけ? そういう
近寄ることはない。
向かいに座ったまま。
窓をぶつ夜雨の音を上書きに、辛うじて和音の上辺をなぞるように。
膝を抱えた少女の言葉を聴く。
「無言で居ないでくださいよ。何かないんですか。面白い話とか。お祝いの言葉とか。プロデューサーなのに」
面白い話が求められていないことだけは理解出来る。
まずは「おめでとう」と返す。彼女が2週目に残ったのは、素直に嬉しいことなのだ。
とっかかりを探すため、少し考える。
今は日曜の夜。雨天。秋。
何故、七草にちかが事務所を訪れたのか……は、聞いても良いことだろうか。
「は? 関係ありますか、それ。プライベートなんですけど。……こんな時間に事務所に来たの、私ですけど。……。……フェスの結果、直接聞こうと思って来たんです。だってどうやって連絡するかって、決めてなかったじゃないですか」
成る程。
思い返せば、彼女が勝利を勝ち取ったその瞬間に……隣に俺が居なかったのは、今回が初めてだ。
本来はおおよその連絡方法が決まっている。だから発表の時間や媒体は、伝えていなかった。
競技会の運営発表待ちの時間を加味していたのだが、伝えていないのも確か。
謝罪を挟む。彼女は謝るこちらを横目に見ながら。スマートフォンを指で摘まんで、ぶら下げる。
「そしたら普通に連絡、来ちゃいましたし。美琴さんの休養日を邪魔したくないですし。……家には今、お姉ちゃん、忙しくって居ませんし」
競技会に俺が時間を割いた分、今はレッスン業務を正式にこなせるようになったはづきさんが割を食っている。
これもまた申し訳ない。再びの謝罪。
……ここで夕食の話などに逃げるのは簡単だが、それはない。
互いに刃物を突き付け合う
そして自らの不甲斐なさに呆れている暇もまた、ない。
競技会の間、俺は七草にちかを見ていた。
プロデューサーとして、彼女が不安を覚える心情は察することができる。
七草にちかが演目を披露し。
その直後の巡目は ―― 詩花だった。
961プロが誇る、第二の玲音に成り得る素養を持つ、誰しもが認めるトップティア・アイドル。
その本気のアピールを、舞台の隣で。同組で目の当たりにした。
「良いんです。
その瞬間の嬉しさを塗りつぶされてしまった、のだろう。
無理はない。心情も理解できる。……七草にちかの発言は、事実として彼女自身が
事務所には俺しか居ないのだ。対抗心を持つのも悪くはない。問題はないだろう。
会話は途切れさせず、続ける。
感想に嘘はつかない。つく意味はない。
俺は「詩花は輝いていた。あの会場で間違いなく、1番だと思う」と率直に述べる。
「当たり前です。詩花ちゃんですよ。……けどじゃあなんで、私を参加させたんですか。こんな高グレードのフェス」
話題は突飛だが、俺も彼女の現況を知る身である。
アイドル・七草にちかは。アイドルとして苦しんでいる最中なのだ。
いや。歩き始めの時点で、既に悪路を行くことを決めていたと言う方が正しくはあるが。
新人アイドルの登竜門であるW.I.N.G.を
地力が試されるG.R.A.D.でも落ちることなく、最後まで飛び続け、制覇した。
けれども歩くべき路は複雑で、多くて、長くて。
怪我をしたまま歩き続けた彼女は、痛みに悪態をついている。
「W.I.N.G.の時は私、追いかける側でしたけど。上だけ見てれば、良かったですけど」
下を見る機会になってしまった、と言いたいようだ。
もしくは太陽に目が眩んでしまったか。
「それ、ふざけてますか」
ふざけてはいない。揶揄してもいない。強いて言えばそちらに合わせただけである。
とはいえ七草にちかに……詩花の。マルチリンガルなタレント力や、万能+歌唱力に長けたアイドル型である彼女の凄さや実績を説明するのも今更に過ぎる。
強いて言えば、そういう路線を
では改めて、何故、七草にちかを『 Meteor//Sworm 』に推薦したか。
既に社長と並んで説明はしたのだが、復唱してみることにする。
必要なランクとグレード。経験を七草にちかというアイドルは有している。
W.I.N.G.とG.R.A.D.の両制覇というのは、それだけで箔になる実績だ。
だから高くなり過ぎた名声とのギャップに苦しんでいる、という面もあるのだろうけれども。
前置きはそれとして。
『 Meteor//Sworm 』ならば。試験的なユニバーサル・フェスであるために。
直接的なシーズン内でのグレードの上昇・下降に関係なく、他のアイドルを間近に見ることが出来る。
それが、フェスシーンに強い緋田美琴が事務所間の駆け引きから出場叶わず。
代役として七草にちかを推薦した、主たる理由となる。
「もう聞いたやつです、それ。……詩花ちゃんを見るだけなら、テレビでもフェス配信でも、幾らでも出来るじゃないですか。そもそも見るのが目的なら、負ける可能性が高いって判ってて参加させたってことですよね」
頷く。
呆れはある。
しかし、怒声はない。
先を促す。
「……。……。……私、ばかなんで。勘違いするんで。理由があるのなら、はやく説明してください。プロデューサーなんですよね、私の」
分かった。頷く。
以前のようにぶつ切りではなく。俺の思惑を聞きたいと、口に出して伝えてくれたことを嬉しく思う。
だから伝える。
彼女が上でも下でもなく、前を向いて来週の競技会に臨むことが出来るのであれば。
その背を押すでもなく、支えるでもなく、見守ることを許されるのであれば。
ためらう理由はなかった。
話す。
果たして伝わっただろうか。
言葉は受け取ってくれたと、そう思う。
実の所、
後方だからこそ確認できる遠望と。
足元から曲がりくねって伸びる泥道と。
地平線の上に並んで空を覆う高い峰。
目を凝らしてようやくと見えるのも。
奥のまた奥、雲の上。飛んでいってしまって豆粒のように小さな彼女の姿、その背中と翼だけ。
輝いているのは判る。夜だから。しかしその表情すらも、見えやしない。
見えない場所がある、というのが許せなかった。
感覚が狭苦しい。耳が遠い。目が霞む。気が遠くなる。
俺が鬱屈した性癖を抱える羽目になった原因はその辺りに由来する……の、だろう。
もどかしい。かといって自身が直接的にどうこうできるものでもない。
吐き気がする。ひっくり返った胃を持て余すくらいの気持ち悪さ。
もしも空をゆく翼が、肉眼でくっきり確認できたとするならば。
気紛れであっても。休憩であっても。墜落であっても。
降り立ち、土と泥と血に
熱が湧いてくると意識が
……今はそれは無理やりに、考えない。思考がそちらに流れるのは、節操なしのろくでなし。
だから彼女の背中しか見えない俺などよりも。
ずっと前の景色を見せてくれる誰かが居てくれさえすれば。
そうと願いを込めて、今日も祈る。
挑むこと負けることを恐れるのは当然で。
身を削るのは世の摂理で。
彼女が上を見過ぎて目をくらますのではなく。
詩花の直前の演目という不利な順だったのに ―― 勝ち進むことが出来た。
そんな自らの光り様を喜ぶことが出来るまで、歩みを見守りたく思っている。
歩み続けてくれさえすれば。
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(Sub:七草にちか②)