※この作品はR-18です。

プロデューサーは人でなし   作:どろまみれ

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 system:
 競技会①~③は成人向けシーンなし。
 代わりに一斉投稿なので、ご了承の上でお読みください。
 その後はいつものに戻る予定となっています。





「ぁ。詩花、さん」

「? ……あっ! わぁ、こんにちは! 七草にちかさん!」

「はい。こ、こんにちは……です」

「初めまして! ……では、ありませんね。厳密には。昨日も同じ組でしたから。あ、でも、お話しするのは初めてですから……改めて。初めまして!」

「えっと、はい。今日も、宜しく、お願いします」

「はい! 今日のフェスもお互いに頑張りましょうね!」

「……」

「……七草さん……ううん、にちかさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい」

「ありがとうございます! それで、その、にちかさんは……283プロダクションに所属しているんですよね」

「そうです、けど」

「283のプロデューサーさんって、どんな方なんでしょう?」

「え……」

「あ、ごめんなさい。フェスの前だっていうのに。活動区分が違う事務所のアイドルの方々とは、お喋りする機会があんまりなくって。いつかご一緒出来たら聞いてみたいな、って思っていたんです」

「……。……どうしてそれを私に……。じゃ、なくて。なんで他の事務所のプロデューサーのことを、詩花さんが……。……気に、するんです?」

「ふふ、ごめんなさい。……961プロダクションでは、専属のプロデューサーは居ないので。わたしの場合は社長……パパが取り持ってくれたり。玲音お姉ちゃんに伝手を聞いたり。基本はセルフプロデュースだったりするんです」

「……」

「自分でもプロデュースする側の視点を持てればなぁ……って、始めは思っていました」

「……」

「けれど今は違うと思います。もっと上の舞台で咲くためには、全部が全部、足りないんです」

「……」

「自分で自分を磨くのは当然(・・)だとして。最も足りないのは、時間だと感じました」

「……」

「人がふたりで、人手も2倍! ……だ、なんて。簡単なことだったなぁって思っちゃいますけどね。気づくのに、こんなに時間がかかってしまいました」

「……」

「今は少しでも取り戻そうと頑張っている最中なんです。一緒に歩くための準備も進めています。このフェスに参加させてもらったのも、色々と考えた手順のひとつで……あら?」

「―― ひぃぃっ!? トップ・スターのし、詩花ちゃんだーーっ!? 人気超絶沸騰中の七草にちかちゃんまでーっ! ぼ、ぼくをこんなとこに放り込みやがってプロデューサー!」

「……。……」

「ひとりでまともに挨拶できるはずがないだろおおんぎゃあああこんにちはーっっ!!」

「こんにちは! あなたは346プロダクションの……。……あら? にちかさんは……?」




ブリッジ:競技会③

 

 

 競技会③:星を目指すはなし

 (Sub:七草にちか②)

 

 

 『 Meteor//Sworm 』の第2週が始まった。

 会場は同じ。天候も同じく秋晴れ。注目度は先週に増して高くなった。

 

 本戦だ。関心が集まるのは当然であるし、開催側としても本望だろう。

 そこに挑戦するアイドル達からしてみれば、善し悪し。

 知名度はあがる。が、本戦でのプレッシャーも高まることになるからだ。

 

 オーディションと違う点があるとすれば。

 勝利を収めたとしても得られるものが仕事ではなく、栄冠という名誉である事か。

 無論、栄冠に仕事はついてくるだろうけれども。直接的なものはない。

 

 形式がW.I.N.G.に少し似ているな……と何でも無いことを思う。

 人数が多いのに2日間で決勝まで通しで行われるため、ハードなスケジュールと言える。

 

 283プロダクションの皆が輝けることを願って。

 裏方から、見守っている。

 

 

 

 

 

 ――

 ――――

 

 

 ―― 準々決勝。

 

 七草にちかは敗退した。

 コンディションは良くなかった。昨日の時点で明白だ。

 ピークを持ってこれなかったあたり、自らのプロデュース能力の未熟さが浮き彫りとなった形となる。

 

 自分が全てをコントロールできるとは思っていない。

 しかし七草にちかの能力と箔を考えれば、まだ上に行けたはずだ。

 それを、悔しく思う。

 

 

 芹沢あさひが敗退した。

 彼女のグレードからすれば番狂わせ(アップセット)をくらったと言える。

 しかし本人は敗退後に「すごかったっす! すっごいすごかったっす!!」と連呼し、興奮していた様子。

 

 得たもの見たものの大きさを感じられるリアクション。

 理由(・・)も明白。刺激になったに違いない。

 出場した甲斐はあっただろう。

 

 

 八宮めぐるが敗退した。

 イルミネーションスターズは他ユニットと比べると、レッスンに十分な時間が取れなかった。

 事務所の看板のひとつとして常日頃から忙しくしているためだ。

 

 その中でもきちりとパフォーマンスを発揮し、ここまでこれたことは。

 八宮めぐるが個人としてもしっかりと地力を付けていることを意味していると思う。健闘だ。

 舞台裏にて。悔し涙を流す彼女の背中を優しく撫でながら、必ず活動の(かて)となるよと繰り返し伝えた。

 

 

 

 

 

 ―― 準決勝。

 

 幽谷霧子が敗退した。月岡恋鐘も、同じく。

 この人数この規模この質の競技会で準決勝までこれたのは、十分に高順位と言えよう。

 それでもふたりは悔しさ半分、疲労半分の笑みを浮かべ、舞台裏まで駆けて来てくれた。

 

 巡り合わせから出場の叶わなかったアルストロメリアや放課後クライマックスガールズの面々から、色々と託されていたようだ。

 抱えたまま準決勝まで走ってこれた。それについては嬉しさを。

 最上位を持って帰れなかったことについては悔しさを。

 トップアイドル達と競えたことに満足を覚えて、彼女らは会場を後にした。

 

 

 市川雛菜が敗退した。

 グレード換算では順当。コンディションもレッスンも十分。残るは時の運といった所で、あと一歩恵まれなかった。

 強いて言えば順番か。「いちばん最初だし~、やっぱり組み合わせが足りなかったな~」との事。

 

 やや名残惜しそうに。しかし振り返り事無く彼女は舞台を降りてくる。

 そのまま俺の横に隣立ち並び、負けてはいなかったと語った。

 何に対して負けなかったのか。「ん~? あは~、もちろん……しあわせの総量~!」との事。

 

 

 

 

 

 ―― そしていよいよ、決勝が終了した。

 

 大規模合同競技会『 Meteor//Sworm 』のトップ3は以下の通り。

 

 1位、詩花。

 

 2位、黛冬優子。

 

 3位、天海春香。

 

 電光掲示板に順位が並ぶ。

 283プロ最後の参加者 ―― 黛冬優子は、準優勝と相成った。

 

 アイドル6人が並んだ決勝の舞台の上。

 黛冬優子は自身の……アイドル然としたキャラクターを、殺さず、生かし、活かした。

 必死さを表に出したのだ。活動に真剣に取り組むという側面をくみ取って、しかし、ふゆというアイドルを崩さぬまま。

 準々決勝で同組となった芹沢あさひをして凄いと言わしめ、その瞳を輝かすパフォーマンスを発揮してみせた。

 

 機運の全ては彼女に味方した。

 283プロ所属の最後の生き残り。グランドファイナルと言う花形の舞台。

 初めて見せる必死な表情と、(すが)りつき、(かじ)りつくような勝負への執着。

 中天(トップ)を走る詩花という存在を追う、二番手と言う立ち位置。

 

 準決勝でも決勝でも削って、削れて。

 そのぶつかり合いを、火花を、星の尾を多くの人の目に焼き付ける。

 そういう輝きを放って見せたのだった。

 

 因みに入賞6位に、何故か現場ノリで観客票を取りまくって決勝に来た夢見りあむが居る。

 こういうのもなんだが、346プロらしい結果だろう。間に挟まった4位も、同事務所のアイドルである。

 

 この結果に、隣で「満更でもない苦笑」を浮かべる346の先輩と。

 恋人が優勝、自事務所が3位と言う喜びはあるが喜び辛い状況の765の先輩と。

 黛冬優子の輝きに目を奪われた俺が、並んで揃って拍手を送った。

 

 

 

 

 

 ――

 ――――

 

 

 祭りの後。

 アイドル各々の帰宅を見守り。健闘を称え。SNS上での発表と処理と御礼と挨拶を終える。

 

 総じて、結果は上々。

 中でも全員が本選にまで進んだという事実によって、283プロダクションの属する区分(グレードランク)他所(よそ)と比べても遜色ないレベルであることを証明できたと思っている。

 

 個々人のプロモーションはもちろんだが。

 今回の競技会の試みとしては、各所のアイドルが一堂に会して競えたこと、そのものが成果である。

 負けず劣らず。切磋琢磨し。民衆を沸かす。

 

 その一端を担う事が出来た、と言えるだろう。

 彼女(・・)は。

 

「結果を残すつもりで出場したんだもの。嬉しいのは……勿論、そうだけど」

 

 すっかり冷えた秋の夜長。夜道。

 祝福と歓喜の輪を抜けてきた黛冬優子を送りながら話す。

 

「あんたとこういう(・・・・)関係になったからこそ、結果は必要だった」

 

 黛冬優子はかつかつと早足にアスファルトを鳴らし。

 赤紫のマフラーを口元に手繰り寄せて、発言をぼかし。

 

 近づいてゆく。

 事務所を出て来た原因たる人物を、細めたその目に捉える。

 

「―― ね、にちかちゃん」

 

 呼びかけられた人影……そう、人影だ。

 生気に乏しいと表現するのが相応しい。

 意気消沈した、七草にちかが、足を止めた。

 

「……。おめでとうございます、黛さん」

 

「ありがとう」

 

 素っ気ない言葉が、互いに向けて放たれる。

 社会的には当然だが。黛冬優子はともかく、七草にちかは表情を隠しきれていない。

 

「準優勝、でしたけどね。けれど、今のふゆは出し切れたと思いますから」

 

「そうですか」

 

 電車は近くの踏切を通り過ぎて間も無く。街を彩る喧噪と人気(ひとけ)は遠い。

 こちらを選んで歩いてきたのは、七草にちかである。不満げな様子を隠そうともせず。

 

「……まだ、何か」

 

「準優勝しました。だから、聞いていてください」

 

 強引な押し付け。

 七草にちかが半身のまま、首だけで振り返る。

 黛冬優子が一歩前に踏み出して、踏み出された分だけ後ずさる。

 

「言っておきたいんです。ふゆが、自分勝手に。だからにちかちゃんの返事は必要ないんですけれども……そうしないと、すっきりしないですから」

 

 視界の内で、表情が歪む。

 らしからぬ形に。

 

「この人に手を出したのは。選んだのは、ふゆ達の側です」

 

 こちらを指さしながら言う。

 黙って息を吸う。吐く。

 

「そして、パフォーマンスには関係がありません。証明は出来たと思います」

 

 黛冬優子は胸を張る。

 七草にちかが唇を噛む。

 

「ファンには……知られたら、流石に、呆れられちゃいますけど。でもそれが、アイドルとしての立場も踏まえた選択であるなら。いつかは許されるって、知っています」

 

 ……俺は今、黛冬優子に連れられてここに立っている。

 こんな局面でまで、我ながら、実に情けない事だと思いはするが。

 どう取り(つくろ)っても、俺の側から発するのでは、言い訳でしかないからだ。

 

「それは恋愛結婚した先達アイドルの方々が証明しています。そもそもが人間としての欲求ですからね」

 

「……だから?」

 

 耐え切れなかった七草にちかが、せめてもの反抗とばかりに先を促す。

 黛冬優子が、待っていましたとばかりに朗々と声を張る。

 

「覚えていてください。()は今日、自分自身が笑顔であるために、全てを出し尽くしました。結果を出してこの人を安心させるために。ふゆというアイドルを燃やして輝かせて……消費して(・・・・)。飛べるところまで、飛びました」

 

「……」

 

「心配は必要ないです。あなたに手を出したアイドルでも輝けます……って、証明したんです。だから」

 

 掠れた視線と、今尚熱を帯びた視線が、交わる。

 

「次は貴女が結果を出してください、にちかちゃん。そうしないと、この人の底にこびりついた傷は消えません。どんなにふゆ達が支えても。……貴女が何度でも、傷口を広げてしまうから」

 

 空気が凍る。

 おそらく、呪いの言葉。

 

「責任を取ってください。貴女がこの人を縛ったように。今度は貴女が、この人に縛られてしまって」

 

 まだ頑張って前へ進めと、残酷な言葉を彼女は彼女に言う。

 

「アイドルになってください。自分の心からの笑顔を見せられる、アイドルに」

 

 ぼんやりと明るいビル群の灯りを背にしたまま。

 ようやくと、どちらともなく、応酬が始まる。

 

「黛さんなら、なれますよ」

 

「アイドルに成りたいと想ったのは自分自身のはずです。自分の願いを叶えるために、きちんと踏ん張ってください」

 

「その人の近くには、いっぱいいるじゃあないですか」

 

「自覚があるのなら考えるのを止めないでください。甘えるのは……ええ、ふゆ達と同じなので、構いませんが。でもそもそもが、貴女自身を担保にするせいでしょう」

 

「……。それは……さん……な……」

 

「自……を真っ……に棚に……て……」

 

 ぼうっとしたまま。言葉のやり取りだけは、自分の耳に焼き付ける。

 いつかの夜の公園で、ビッグになりたいだとか、空虚な偶像を語った彼女の表情を思い出す。

 

 その時と同じだ。

 あの横顔は、鏡で毎朝見る自らの表情に似ているのだ。

 ようやく気付いた気がする。

 

 彼女が救われなければ。

 俺もまた、救われないのだと。

 

「……」

 

「……」

 

 遂には言葉が無くなって。

 伝えるものは伝えきって。

 

 腹の底に残っているものは多分、出涸(でが)らしか胃液。

 だから彼女も。七草にちかもまた、あの時の俺自身と同じ具合の悪さで。

 

「……。う゛ぇっ。……まだ、私、飛んでるんですか。走ってるんですか。ぐるぐるしてるんです。今いるここは空ですか、地面ですか、海ですか。……知ってますよね、プロデューサー」

 

 じろり。

 頬を流れた涙は伝って乾いて、(よだれ)の様。

 

「きっと隣で輝いている人が居るから、目が眩んでいるんですよ。私って。ばかみたいに血反吐を吐いて、壁にぶつかることしか出来ない。壊れるかなんて二の次で。……でも飛びます、歩きます」

 

 最後の力を振り絞って、嘔吐(おうと)する。

 濾過(ろか)を重ねられたそれは、本当の意味での彼女の覚悟。

 

 彼女自身の願いのこもった言葉がぽつり、向けられる。

 随分と久しぶりだ。空虚ではない。

 

 具合が悪い。

 とても嬉しく思う。

 

「―― 人でなし」

 

 





 もしかして:空間識失調


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