プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
大崎甜花①:(アイドル)
10月。
大きなイベントを終えて、秋は過ぎ去ろうとしている。
冬に向けて、年末に向けて。283プロダクションは再始動してゆくこととなる。
競技会を終えて、変化がみっつ。
……ひとつ。
黛冬優子のアイドルグレードが大きく上昇した。
本人とも忙しさは調整しながら進めるが、しばらくは仕事詰めとなる程だ。
「―― 折角だから、どこまでやれるのか試してみようかなって。あんたもその方が良いでしょ?」
とのこと。
彼女はどこまでも、俺を救おうとしているのだろう。
汚れたも何もない。アイドルとしての輝きは別の場所から放たれるものなのだ、と中空で証明し続ける。
事務所としても、個人としても。彼女に対しては感謝の念が絶えない。
だから俺も、彼女をどこまでも支えようと思う。心に留める。
……ふたつ。
俺はまた、再び、七草にちかを優先してプロデュースする。
レッスンの方向性も目指す場所も、これから彼女と決めてゆくつもりだ。
年末に向けては再び忙しくなるが、アドリブの必要ない部分での収録などはアイドル達自身に任せることが出来る。
もともと同時進行する場合にはこうしていた。今ではレッスン業の一部を兼任出来るようになったはづきさんも居る。
そもそも俺がまったく触れないという訳でもないので、心配は無いだろう。普段通りの延長と言える。
七草にちかとの距離はやはり、図りかねている。
遠くはない。近くもない。
無闇に触れれば刺さる程度の
見目麗しく、傍に置いても不快感はない。
それでもだ。彼女を担当するのは俺の願いであり、希望なのだ。誰にも譲るつもりはない。
いつかどこかのタイミングで、はづきさんに相談してみても良いのかも知れない……と、予定とひとつ加えておくことにする。
……みっつ。
年末にかけては七草にちか、緋田美琴の属するシーズともうひと組。
大崎甘奈。大崎甜花。桑山千雪。
アルストロメリアにも、優先的に俺が付いて動くことになった。
理由はとても単純で、人数比がちょうど良いからだ。
シーズがふたり。アルストロメリアは3人。合計で5人。
これでもおおよそ他のグループと比べて、多いわけではない。
ふたりだけに注力する訳にはいかないというのが、中規模事務所の人的資源の難しい点である。
人数で言えばイルミネーションスターズはまた別だが……八宮めぐるが、前回の競技会を経て発奮しているようだ。
そちらにも気を配っておくことにする。彼女もまた、ソロとしての活動も始めたばかり。不安を感じているだろうから。
寒空の下。
手元で手帳を広げて、少しばかり先を見る。
冬期の予定。
年末年始は仕事が多いが、今年の主たるものは収録物に限定した。今季のピークは競技会に吸われているからだ。
283プロには学生のアイドルも多い。幾分か余裕を持って、家族と過ごす時間も作ることが出来るだろう。
いずれも彼女たちにとっては大事なことだ。
折角予定は組めたので、可能な限り良い年末年始と出来るよう、細心の注意を払いたいと思う。
……これにて俺を取り巻く環境は再び。
昨年末と同じく、元通りとなった。
負担が増えた、のではない。
また向かい合う機会を得たのだ。
自分の抱えたどす黒い欲望と、もう一度。
正面から。
――
――――
家の中。リビング。
寒くなってしまった外とはうってかわって、ぬくぬくの室内。
夕飯の後で、少し眠気もあるけれどゲームなタイミング。
「―― うーん……。ねぇ甜花ちゃん、ちょっとだけ、相談、いい……?」
なーちゃんからの相談。
甜花で力になれるのかは不安……だけど。
聞くだけなら、
両親がテレビと家事に取り掛かったのを見計らって。
なーちゃんの部屋に行って。
「あのね……。ク、クリスマスに……プロデューサーさんを、その……ディナーに! 誘いたいな……って」
やっぱりプロデューサーさんの事。
予想通り。なーちゃんが
プロデューサーさんは年上で。大人な男の人。
頼りになる。甘えても許される。
でも、仕事ではぴりっとさせてもくれる。
そういう色んな気遣いが出来ていて。
つまりは大人の人だなぁ……って、甜花も思う。
でも。
「……プロデューサーさんを……誘う、の? なーちゃんの、ほう……から?」
「あう。……。……そうだよね。甘奈から誘うのはやっぱりちょっと、だよね」
「う、うん」
積極的で良いと思う。
でも甜花たち、学生だし。
プロデューサーさんは、大人の人だし。
「予約……は、出来る……か。甜花もなーちゃんもお小遣い、あるし。……足りる……とは、思う、けど」
「そういうのはプロデューサーさん、受け取ってくれそうに……ないよね」
「無理……だと思う……」
プロデューサーさんに奢って貰うっていうのも、それは違う。
なーちゃんから誘ってるのに。女の人として。
「だ、だよね~……あはは~……」
「……うん」
「はは、は……はぁ。……どうしよう。甜花ちゃん。これくらい先手をうたないとプロデューサーさんの予定、埋まっちゃう。これ以上、差を付けられたくない……」
ベッドに倒れ込んで、クッションを抱きしめながら、溜息を吐き出すなーちゃん。
こんなでも可愛らしい。流石はアイドル。
……なーちゃんにこういうことを相談されるようになったのは、今年の初めから。
事務所でみんなが、プロデューサーさんの事を心配するようになった頃のことだ。
確かにあの頃のプロデューサーさんは、甜花から見ても具合が悪そう……と、言うか。
思い詰めていると、言うか。
苦しそうと、言うか。
今まではそういう側面を、ずっと表情に出し続けることはなかったから。
余計にみんなが心配していた……ような、気がする。
甜花も心配したから。
なーちゃんはもっと、だったろう。
「プロデューサーさんだって世間体とかあるし……。でも今年のクリスマス当日はお仕事入れないで、みんなは家族で過ごしてって空けてくれちゃってるし。はぁ……配慮……大人……」
落ち込んでいるのにちょっとうっとりしている。これも可愛い。
とにかく。なーちゃんがプロデューサーさんに恋をしてる……のは、ばればれだった。
甜花にも隠さなくなってからは、もっとだ。
一度目線がそっちに行くと、クラスの男子とかには向かなくなっちゃう。
そもそも近しい男の人って。プロデューサーさんだけ、なんだけど。
でもそれがとっても素直で簡単に、なーちゃんの心を掴んだんだ、と思う。
気持ちは……うん。わかる。そうなった。
甜花も
「どうしよう~……どうしよう、甜花ちゃん」
「……うん。ちょっと……考える……! 一緒に……!」
「ほんと!?」
甜花がやる気を見せると、なーちゃんがぱぁっと明るくなった。
考える。考えて、みたい。こういう話してるの、楽しいし。
プロデューサーさんの事を考えている時間は、好き、だし。
甜花、悩む。形から。
鼻の下、唇の上に指を当てて。
「むむむ……。今から、やっぱり、お仕事を入れて……もらう……? 終わってから食事にはいける、と、思う」
「それは千雪さんも巻き込んじゃう可能性があるかな……。流石に甘奈たちの都合で振り回すのは、ちょっとね」
「そか。……でも、方向性……合ってる、よね」
「うん、そうかも。そもそもプロデューサーさんって、クリスマスもお仕事してると思うし」
「じゃ、日中、だめか。……夜は、空いてる……よね」
「どうだろう……? 送り迎えとかがあれば別だけど。今回のクリスマスはアイドル全員の予定を空けたよ、って言ってたし。居るとすれば事務所、かな」
「なるほど、なるほど……むむむ」
甜花、考える。
逆に言えば、プロデューサーさんの予定を。アイドルの側から埋めに行くことも、出来てしまう。今のなーちゃんみたいに。
まだ2ヶ月はある、けど。確かに。急いだほうが、よさそう。
「……まずは、プロデューサーさんの予定、聞くところから……かな」
「あ、そ、それはそうだね。さっすが甜花ちゃん」
「にへへ。任せて。……明日、甜花が、聞いてくる……!」
「えっ……いいの?」
頷く。ぶいさいん。
明日の放課後は、甜花ひとり。
事務所でゲームする予定だったから、ちょうど、いい。
「あわよくば、クリスマスの予定も、入れてくる……!」
「そ、それは流石に甘奈が……」
「だいじょうぶ。甜花となーちゃんのふたりで予定、入れれば。……甜花が後から抜ければ、作戦通り……!」
名案だ。
ちょっとだけつけ込むみたいで、ごめんなさいだけど……。
アイドルからのこういうお願い、断らない、から。プロデューサーさん。
あとはプロデューサーさんとふたりの時を狙うだけ。
割り込まれるのだけ注意、しよう……!
「甜花……頑張る……!」
「あ……うん。あ、あんまり気負わないでね、甜花ちゃん……?」
にへへ、頼られた……!
覚悟、してて! プロデューサーさん……!!
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