プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
大崎甜花②
通りの街路樹が染まった葉を落とし始め、空はより高く。
即物的な所を言えば、冬に向けてのセールの広告をようく見かけるようになる季節。
良い機会なのでクリーニング店に、幾つか外套を受け取りに出掛けることにした。
冬に向けての準備にしては早いが、混み合うようになってから引き取るよりは良いだろう。
受け取った寒色寄りの外套を車の後部座席に掛けておいて、事務所へ向けて走り出す。
昼休憩は終わりそうなタイミングだが、今日の外回りは午前まで。昼食も車内で済ませたので問題は無い。
駐車場。歩道。ガラス扉。守衛。階段。通路。扉。
ノックした後、挨拶を口に出しながら事務所の中へ。
誰も居ない部屋奥側に歩いて行く。
業務中はどうせパソコンは落とさないため、暖房は薄く入れてある。
ジャケットをハンガーに掛けて後、軽くマウスを振ってスリープを解除した。
メールは多数。
こちらから声をかけさせてもらった物もあれば、事務所名指しでくる物も。
多くは来年以降、もしくは駆け込みで年始特番に……イルミネーションスターズやストレイライトあたりを呼べないかという打診。
俺だけが判断を下すわけではないが、一度、フィルターは通す必要がある。
仕事を貰えるのはありがたいことだが。それだけに走り回る訳にもいかないだろう。
彼女らがいつまでアイドルで居られるのか。
何者かに変わるのか。変わらず、何処かへと帰るのか。
時間は有限だ。学生であれば尚更である。取捨選択は必要なものとして認識している。
……頭の片隅に、艱難辛苦が待ち受けるであろう七草にちかの路を思う。
偶像も偶像だ。答えをくれる誰かが居るのならば
漠然としているだけならまだ良い。自らの光りを見つければ良いからだ。
しかし彼女は確たる憧れの形を持っている。持って、しまっている。
合わせる必要はなく。同じになることは不可能で。所詮は、他人の光。
八雲なみの事は調べた。
彼女の現役時代の歌も踊りも。今現在身を置いている……場末の、飲食店も。
当時のことは天井社長にも聞いておくべきだろう。これもまた、予定として組んでおく。
その上で、七草にちかの目標地点を絞っておく。
俺ひとりでは決められないが、
それが彼女が嫌悪する不自由だと知ってはいるが。
プロデューサーなのだから。
……。
日が落ち始めていた。
昼は短く、夜は長く。
チャイムがなるくらいの時間帯。
講義が6限まで詰め込まれていればまだこれから……な、時間帯。
俺が大学生だった頃は、どうだったろう。院生になる友人と、馬鹿をやっていた期間であるような気もする。
両親は普通、と呼べるであろう家庭で育った。
それが無い環境は、想像できても実感はない。
同僚であるはづきさんの苦労の程を知れば知るほど、大変だっただろうなという無駄な
……俺がはづきさんと籍を入れてしまえば。
合法的な手助けも出来るのではないか、なんて、酷い想像も浮かんで消える。
こういう考えを回すせいで、無駄に助長がされるのである。
吐き気がするなら吐き出せと。もう手に入れているではないかと。
息を入れる。コーヒーを入れて、リセットを試みる。
仕事はまだある。集中していれば、思考がそちらに流されることはない。
―― がちゃり。
「おはようござい……まーす……」
きょろきょろと周囲を見回す。
大崎甜花。アルストロメリアの、双子の、姉の方だ。
挨拶を返して。
「学校は終わったか?」と、常套句から入ることにする。
「プロデューサー……さん。……居た。良かった……うん。学校、終わって、ゲーム……しに来た」
わざわざ事務所で、という部分に驚きはない。そういう娘だ。
俺はまだ仕事があるのでパソコン前に居ることを伝えておく。
「いい、よ。……うん。よし。頑張る」
大崎甜花は俺と鞄との間で視線を行き来させて、最近買い換えたL字ではない方のソファにぼふんと沈み込む。
完全に寝そべった姿勢をとった後、鞄から携帯型のゲーム機とイヤホンを取り出した。
起動して。イヤホンを刺そうとして。
「……違った。今日は……えと、プロデューサーさん……お話、しよう……し、仕事の……こと」
もの凄く珍しい話題が飛んできた。
ゲーム画面から視線が外れていることからして珍しい。
妹の話題でもないとくれば、驚愕すべき事態である。
最近はアイドルの活動にも前向きになってきてくれているなとは思っていたが。
……折角なので、聞いてみたいと思う。
彼女がゲームを握ったままなので、こちらもキーボードには指を置いたまま。
「甜花、やってみたいこと……あって……」
身を
各社有名なキャラ同士が吹っ飛ばし合うタイプのゲーム。
「ゲーム実況……して、みたい……!」
大崎甜花は伺うように屈みながらも、拳をぐっと握る。
ゲーム実況。動画投稿者、配信者が発展させてきたスタイルのコンテンツだ。
最近では有名な事務所に属するアイドルでも、活動の幅を広げるために取り入れている人が多く居る。
まずは彼女の希望に応えるために、考える。
……面白いな、というのが率直な感想だ。
考えなければならない部分も多くあるが。
「考える……こと?」
そうだ。
まずゲームを活動の余白として取り込めるのはとても良い。
大崎甜花が前向きに取り組める内容だ。
しかし、配信となるとリアルタイムでのコンプライアンス管理が必要となる。
学生だ。ゲームの種類は。配信するゲームの開発側の規約の確認。機材の設定。プラットフォームの選択。
あとは……とてもストレートに言うと。対戦型のゲームで暴言を吐かないか、とか。
「し、しない……よ」
勿論だ。俺としてもそう思う。可能性を列挙しただけなので許して欲しい。
……上記の内容を全て管理するには動画という形態がいいと思うが、それではリアルタイムならではの良さや話題性を失う。
コンテンツとしてがっつり連載できるなら動画でも良いだろうけれども。
不定期ならば、要望の通りの配信が良いだろう。
「うん……うん」
彼女が理解するための間を取って、続ける。
特に仕事として取り組むならば、機材はこちらで……事務所の側で購入することが出来るだろう。
常からして大崎家に置くわけにはいかなくなるが。貸し借りならば、問題は無い。
「……機材。……どゆう、やつ……かな?」
ふむ、と考えて適当に検索エンジンに語句を入力。
大崎甜花も携帯ゲーム機を小脇にソファから立ち上がり、こちらへと歩いてきて。
「んしょ」
座った。ひとつの椅子に。
俺の大腿の間に尻を入れる形で。
だけでなく、思い切り寄りかかられてもいる。
マウスを握っていなかった左腕まで、ぎゅうと胸元に抱きかかえられた。
「あっ……。機材。高い、ね」
パソコンモニタ。視界を占める彩色のフード。
彼女は画面を見ながらもぞもぞと尻を動かし、収まりの良い安地を探しているようだ。
……大崎甜花は確かに。座ったり寝転んだりと、楽な体勢を好んではいる。
とはいえこれは、と考えつつも。仕事の話は進めておく。
機材はそこまで高くなくても良い。
高い音質を求めなければ、マイクなどは自社で確保している物も流用できる。
問題はミキサーなどのスタジオでまかなっているソフトをどうするか。
「そ……そう。んへ」
いつもの笑い調子が、ひきつる感じで歪んだ気もしたが。
他に必要なものがあるとすれば……人員か。
「……は、え。……ひと?」
ああ。
配信の設定や機材に慣れるまでは、サポートのための人手が必要だろう。
「あ、そ、それ……。甜花……ぷ、プロデューサーさんが……いい。……いい……」
それはサポートのための人手が、ということだろうか。
「う、うひ、ん。……ダメ……か、な」
背中を預けたまま。
左腕を両手で抱え込んでは胸に押し付け、股に挟むくらいの勢い。
そしてこちらの様子を窺うためにと振り返り。
にへら。
「んへ、へ……。ん、はぁ」
だらしなく頬ずり。口はぽかりと開いたまま。
目線は完全にこちらを捉えたまま焦点を結ばず。
身体の全てを密着させたまま、尻を意味も無く上下に揺する。
……いや、意味はあるか。自慰だ。
やたらに嗜虐心を煽る大崎甜花の表情は、自身の股に顔を埋めている際の小宮果穂などがよく見せるそれ。
何がスイッチでこうなったか。
「いい、いい……ん、ほぉぇ……プロデュ、サー……」
もはや取り繕うことすらなく陰部に擦り付けられる、自身の左腕。
片腕では足りないとばかりに右腕も抱き込んで、自分に
お気に入りのフード付きケットではないのだが。それはどちらかというと、幽谷霧子の立ち位置である。
「お、ぉ……ぅ、ほ……。んお゛っ、ふ」
波だった心のまま、大崎甜花の自慰を見守る。
シャツの裾をしゃぶられながら。男の節くれ立った親指の節で陰唇を擦り、突き、陰核を潰す。
手慣れているようだ。自身は玩具の類いでもないのだが。
腕の中。小さく背を丸め。
ぎこぎこと椅子を揺すりながら、小刻みに腰を振り。
「ふ、ぅーーっ……!! はっ、べはっ」
絶頂した。
だらりと力を抜いて。
自身の胸板を背もたれに、腕を肘掛けに、寄りかかる。
呼吸が整うのを待って。
こうして、彼女の自慰に付き合った訳だが。
「にへへ……どう……だった?」
どうとは。
「興奮……した?」
こちらを社会的に抹殺するタイプの質問である。
最後まで付き合ってしまったので、魅入ったことは間違いないが。
「……え、と。悪くはなさそうか、な」
無言を貫き通したが、抵抗
良い悪いで語るようなものでもないが。
股に擦り付けられていた指を舐めながら。つまり、彼女は。
「んべぅ。えぇろ。……お行儀悪い、けど。……手付け、しちゃった」
手付け。
契約の話になってくるのだろうか。
「う、うん。……その。ゆーわく。プロデューサーさん……嫌じゃ……なかった? ばっちぃ、とか。思わな……かった?」
いきなりだったので多少は思った。
「あう」
思った……が。
決して男として刺激を受けなかった、わけではない。
大崎甜花には魅力がある。女性的なものも、勿論だ。
「……」
自身はプロデューサーだが。
抱えている重い物を降ろすタイミングがあることは、とても嬉しく思っている。
特に今は。再び向き合っている最中だから。
「……むむ」
理性は保てている。辛うじて。
話を少し逸らす。なんでこんな手段をとったのか。
「……? なんで……って……」
首を傾げ。
しばしの無言の後。
「……あっ」
明らかに何かを思い出したリアクションで、狼狽し始めた。
「う……。きもちくて、忘れてた……。その。プ、プロデューサーさんが。甜花のこと嫌じゃ、なかったら。クリスマスの予定……貰おうと、思って」
まだ随分と先の話だ。
確かに埋まっては居ないし、アイドル達に関しては意図的に予定を空けた部分でもある。
再び自身の腕をぎゅうと抱いて。
「代わりにあげられるもの……たくさんいろいろ考えた、けど。……甜花、アイドルのお仕事頑張るくらいしか、思い付かなくて」
それで配信の話題に、一度は移ったと。
もじもじと腿をこすり合わせながら。
「でもさっき、プロデューサーさんの顔見たら……むずむずって、して。名案、浮かんだ」
前置きを全て過去にして。
幸せそうに。実に、幸せそうに。
「にへへ。あげられるもの、あった。……プレゼント、甜花!」
表情をころころと変える。
とどめ。自慢気な、してやったりな。
実に引っ叩きたくなるような顔で。
「プロデューサーさんなら、甜花に、なんでも。えっちなことでも……していい、から! クリスマス、甜花たちに……ちょうだい!」
名案かどうかは判らないが。
自身にとってはクリティカルに魅力的な提案を、してきたのだった。
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