プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
大崎甘奈①
冬の入り口に差し掛かって。
283プロダクションの事務所。
送迎を終えて事務所に入るなり、慌ただしく動き出す……アイドルが2名と、プロデューサーが1名。
活動は別々だが、特に注力する事となったため、この頃は同道することも多くなったふたり。
「―― プロデューサーさん。ふゆの来週の予定はもう送ってくれましたか?」
ああ、と頷きながら。紙として出力もしてあるので、板に挟んで机の横へ。
黛冬優子が早足に寄ってきて手に取る。眺めて。
「―― プロデューサーさん。私の方の、明日の、レッスン場の変更って……」
ホワイトボードを指さして記載済みであることを、七草にちかへ伝える。
一応の確認。音楽理論は学んでみても良いだろうが、基礎の基礎は試すのも重要だ。
幸いにして現在はデスクトップミュージックの全盛期。ミキシングは別で高額な音源が入っているわけでも無いが、シーケンサくらいは事務所の作業用ノートPCに入っている。
「……私が勝手に使って、いいんですか?」
なんなら家に持って帰っても良い。重いソフトでも無いので問題なく動くだろう。
そもそもシーケンサだけならフリーで出来が良い物は多く在る。多少は音源を入れてあったり、仮想の接続の類いを済ませてすぐに使えるようにしてあるというだけなので、必要ならば七草家のPCの方をセッティングしても良い。
「ならなんで、事務所に置いてあるんでしょうか。わざわざ。誰が使うんですか?」
「……黛、さん」
黛冬優子が会話に入ってきた。七草にちかが表情を隠さず歪めて腰を引く。隠さなくなったのは、前進だろう。
……なぜ置いてあるかというと。時間があるときに俺の方で弄って遊ぶからだ。曲を分解したり音源を差し替えてみたりするのは、存外に楽しいときもある。
もっと言えば。デモの段階からMIDIデータで取り扱いが出来れば、円滑に作業を進められるという作曲側の人も居る。データとしてアイドル達の音声があるならば、尚更だ。
「遊ぶ……って。はぁ。プロデュ-サーさん、趣味まで
呆れた顔をされてしまう。こちらとしては苦笑するほか無い。
そういう訳なので、と七草にちかに向き直り。283プロダクションの方で管理をしている楽曲については、全てMIDIとして入れてある。必要ならば使ってくれ、と話す。
「そう、ですか。……じゃあ、明日のレッスン帰り、借りていきます。どうも」
アイドルらしからぬむすっとした顔のまま、七草にちかはお礼を言う。
ああ、と相槌をうって。
……。
あの秋の競技会の後から。
七草にちかは一度フェスシーンから離れ、出演する番組を絞り。
黛冬優子は一層ポイント稼ぎに熱心に、アイドルランクを上げ続けている。
どちらもふたりの意向を汲み取ったものだ。
無論。その聴取の際には俺自身、プロデューサーとしての私情も挟ませては貰ったが。
ふたりがふたりとも、別方向ではあっても、前進と言える内容になったなと考えている。
「次の予定は……ええ、歌姫楽園、ですか? ランク的にふゆは参加資格を得たばかりなのに。それもわざわざ向こうのホームグラウンドのに参加、と。そもそも出来るんですか? 参加」
心配はご尤も。
しかしこのオーディションだけは全区画で名前が使われている歴史があり、別側にも籍があれば参加は可能だ。
ちなみに籍は合同競技会の際に作られている。とはいえこういった形での参戦は初の試みであるため(大会主催側の確認は取っているが)、ある意味ではサプライズでの発表となることだろう。
「そうですか。……なら、面白くなりそうですね」
黛冬優子は足場固め、と呼べるであろう取り組み。
「ふゆ」というアイドルは、あの競技会を経て多少は新たな側面を見せたものの。そもそもが、強みも弱みもハッキリしている。
偶像という名の仮面を最後まで被り通し、誰かに笑顔を与えたならば。それはやはり、素晴らしい結末であると思うのである。
強みも同様。アイドルパターンの流行という面から見ると、ふゆというアイドルは逆行しているようにも見えるだろうが、それだけに ―― 歴史のあるキャラクター性で。横も縦も、大きな層に向けて、判り易い。
元も子もないことを言ってしまえば。ふゆというアイドル像を芯から外まで全てそのまま丸ままであって欲しい……と願う類いの人間が居たとして。それを裏切る結末を彼女がもたらすだろうか、と。
ヘイトの集まり易いキャラクター像ではあるだろう。しかし。
万人が「かくあれ」と願う形のアイドル像を体現し、命を燃やして走り飛び描く。そういう人間を。黛冬優子という少女が全力で活動を続けることを、皆が皆嫌悪するだろうか、と。
俺はそうは思わない。全てが全て。好きも嫌いも。
だからこそ彼女の熱意はきっと、誰かを笑顔にするに足ると信じている。
そうと信じさせてくれたのは他ならぬ、彼女自身なのだから。
「うえー……近く、テストもあるんですけど。レッスン場、遠くなっちゃったじゃないですかぁ。プロデューサーさん、送迎ってないんですか? ……お姉ちゃん。ああ、うう。……。その、帰り、事務所に寄るんじゃ駄目ですかね。いえ。運転が荒いとかじゃあないんですけど……お姉ちゃんだと移動中に眠れないって言うか。お小言が始まるというか」
七草にちかは座学に比重を割いて取り込むこととなった。
好評をもらっている番組への出演などは続けているが、オーディション数を著しく減らしている。事実上のフェスシーン参加の休止と言って良い。
理由は当然在る。彼女の行く先を、再び定めるためだ。
八雲なみというアイドルを
しかしそこを終着点にする必要はないというのが、プロデューサーとしての俺の考えだ。
だから彼女自身がもっと先を見るために、助走を付けておく。旅程の万全を期しておく。そういう心づもりである。
座学の内容は彼女自身と俺とが直接相談を重ねたものだ。先ほど会話に出した音楽理論の学習もそのひとつ。
彼女自身も職業柄、コピーバンド用のスコアなどは問題なく読めるようなので、こちらから提案したものが受け入れられた形となる。
アイドルとして目指す方向性として音楽への理解。
七草にちかというアイドルの話題性として(G.R.A.D.における裸足
七草にちかという個人のキャラクター性としてバラエティ。
欲張りだろうか。強突く張りだろうか。そうは、俺としては、思わないのだが。
そういう意味で、いずれは……
それもまた。この旅を経た後の。未来の彼女の身に残る、熱次第である。
「それじゃあ、ふゆは先に失礼します。プロデューサーさんも、きちんと切り上げてくださいね」
黛冬優子がするりという擬音を残して事務所を去って。
「私も失礼しますー。……お話、プロデューサーさんの後からにしますんで」
七草にちかからは無言の圧をかけられる。
……少しだけ、扉を閉める手を止め。
「引き留めますからね、私は」
ばたり。
恨めしげな視線を残して、去って行った。
……。
事務所内に静けさが戻ってきたので、再び薄くBGMを流しておいて。
手元で個人用の携帯電話に、黛冬優子からの「ほんとに早めに帰りなさいよ。あと、別宅行くなら教えなさい」とのありがたいお言葉。
……そうだ。
七草にちかが
彼女らはユニットだから。そしてその最初の説明は、俺からしておくべきだろうとも。
仕事用のタブレットを動かし連絡を入れる。
どうやら今週末には話の場を設ける事になりそうだ。
行きつけの店に予約を入れて。事務所を片して。
本日の仕事を、終了することにした。
――
――
ふたりには注力しているが、それだけではない。
先月半ばから、大崎甜花が配信業を始める事が出来ていた。
元から知識はあったので設定周りでも特に問題は無く、こちらの仕事としては権利関係。配信可能な範囲の確認。ガイドラインの確認などが主たるもの。
個人としては初のチャンネル開設。そもそもが大崎甜花というライブリアクション向きのキャラクター性もあり、出だしは好調。無理なく続けられそうで何よりである。
事務所全体の方針として大きな仕事。特に遠出や長時間の収録が必要なものは、年末年始にかけて入れていない。
ただしアルストロメリアにはユニットとしてやや注力し、事務所を指定して依頼された生放送や出張周りの仕事を振っている。これまで中心的だったイルミネーションスターズ、アンティーカ、放課後クライマックスガールズの3つから比重を割く形だ。
そう。全てでは無いにしろ。283プロ内で業績トップのユニット3つから、である。
なので大変に忙しくはあった。桑山千雪とも話はしたが。
『ふふ。心配して下さるのは嬉しいですけれども、皆、そんなにやわじゃあありませんよ。ひと月ほどですし。とはいえ、何かあったらお伝えしますけれども……そうそう。疲れと言えば心配な甜花ちゃんも、最近は特に元気ですし。それにグループとして忙しいのは。とぉっても、良いことですからね』
との事だった。
どうやら全体を見てくれているらしく、大変にありがたい限りである。
話を戻す。大崎甜花が配信業を始めた。問題は起こっていない。
……起こっていないが、順調なので、個人として関わる時間はかなり少なくなった点がご不満だそうだ。
むしろこれに関しては、配信業準備の期間が特別だったと言って良いと思うのだが。
大崎甜花に
『甜花のこと。こんな身体に……しておいて。……。あっ。でも、クリスマスの予定はもらったから……おあいこ……?』
そうだと認識している。
取りあえず別宅の事は伝えたものの。
『……あう。夜、ひとりじゃ。外とか、出れない……。プロデューサーさん、迎えとか、これたり……しない?』
大崎甜花、実家住まい。その通りである。迎えは行けても連れ出せない。
なので彼女とひとしきり話し合ったところ、妥協案が出揃った。
こちらから俺の声によるシチュエーションASMR
仕事用のものとは別の専用回線アカウントを使用し、自慰の餌を用意して欲しいこと。
『通話でも……いいよ?』
だそうだ。どれも大崎甜花の要望を100%受け入れた形である。
通話以外は空き時間で可能な類いだったので請け負っておくことにする。録音用マイクはバイノーラルは流石に無いが、試用の収録マイクは沢山在るので何とかなるだろう。
ただし台本は時間が無いと書けない(時間が無いので書けない)ので、そこだけは大崎甜花にも協力をお願いする。
『にへへ。いいよ。任せて……!』
快諾された。
そうして届いた台本をこれで良いのかと思いつつも読み上げて、大崎甜花に送信しておいて。
真夜中にどうやら自慰が
……。
……明くる日。
日曜日。夜中では無く、昼間。
午前の外周りを終えて283プロダクションが入っているビルの入り口を潜り。
カードキーで事務所に入り、はづきさんが居れば昼食にでも誘おうかと考えて室内を見回す。
どうやら居ないようだ。ひとり。外套を外しデスクに腰掛け。
ふと。
鞄の中の個人連絡用のタブレットが明滅していることに気が付いた。
個人用と銘打つだけあって、普段から自身の性癖を満たすためだけに使っているタブレットである。
少なくとも真昼間から連絡が来ていることは珍しい。考えながら、PCの前に立てかけキーを外しホームを開く。
大崎甜花。
どうやら件の専用回線アカウントを使用しているようだ。
……彼女に予定があるのかは判らないが、休養日ではあるはずだ。
なのにこうして回線を使用しているということは、真っ昼間からお盛んであるということだろう。
自身が収録した音源などを聞くだけなら回線を開く必要はない。映像をクラウドなどで残しているわけでも無い。つまりはオンラインにする必要は、全くもって存在し無い。
ただ、「居るなら入ってきてくれ」という類いのメッセージであるのかも知れない。
そう考えて、立ち上げて。
『うっ……ふぅっ……! あっ、あ、ぁ、う! あ!!』
ベッドの上。インカメラの前で大開脚。
ヘッドホンを被って女性器を必死の形相で
唖然としつつも、映像内で周囲を確認。
どうやら
他に人の気配も、無いようだ。
『んあっ……うっ、うぅっ、ぉぉっ、ほっ』
脱ぎ捨てられたスウェットの上に尻を置いて。しかし下着は脱がないまま、2本指を陰唇の上で上下。
すでに出来上がっているようで、じっとりと湿り気で溢れているのがカメラ越しにも確認できる程。
『……さんっ、甘奈、あま……う、う、ぅ』
何かを叫びながら、ぼふり。枕に顔を
今度はうつ伏せのまま尻を高く上げ、右手で……そこらにあったぬいぐるみをひっつかんで。
あろうことか、股に挟んで擦り始めた。
『ふっ、ふっ、ふぅ、ふ、ふっ、ふっ……!』
荒い吐息を枕に向かって吐き付けながら、ぬいぐるみ相手にリズム良く腰を振る。
ぬいぐるみの種類は、遠目だが色で判る。デビ太郎だ。この間の初放送を記念して作られた、筋肉質な奴。
腰を振るには丁度良いのだろう。
ぎしぎしぎし、と軋むベッドの音が段々と勢いづいてくる。
『う、ぅ。……う、う、う、ぶふぅ』
どうやら彼女の自慰は普段からこのスタイルのようで、手慣れている。
へこへことデビ太郎に向かって腰を振る動作は流麗で
……そのせいで、余計にシュールな景観となってはいるのだが。
『ふーっ、ふーっ! ……う、う……!』
ちらりと顔を横へ。大崎甘奈と視線が合った……ようでいて。
実際には彼女がPCの側を見たというだけなのだろう。
どうやらインカメラの存在に気付いていないようだ。そうでなければこうはならない。
何かを熱心に見つめながら合わせて腰を振っているようなので、手元で再生履歴を見ることに。
再生中の動画は、先日。
我慢が出来なかった大崎甜花へ、事務所にあるものを手当たり次第突っ込んで遊んでいた時の動画である。
成る程。動画を再生し、ヘッドホンで音声を聞きながら
同時にインカメラが起動しているのは、大崎甜花の横着だろうか。こちらは在席状態を隠しているため通話状態にはなっていないのが幸いか。
『うーっ……! うーっ……! ……う、はぁっ、ぁ』
顔を上げたせいで漏れた吐息を、再び枕に顔を突っ込むことで押さえ込む。
根本的な解決にはなっていない。尻は高く上下したままだ。
動画の内容は終盤。
有栖川夏葉がよく座りながら(ダンベル片手に)雑誌を広げているソファのコーナー部分へ向けて、逆さM字開脚の状態の大崎甜花を転がして。
隣に座り。目線の高さに持ち上げられた彼女の女性器に、わざわざ指を突っ込むのも
『……! ふーっ、ぶふーっ……!』
映像内、大崎甘奈の腰の動きが一層の盛り上がり。
擦り付けるという言葉を置き去りに、もはや叩きつけるような速さとなる。
たんたんたんたん、と上下する尻。
ぎっしぎっしとベッドが反発して軋むせいで、うつぶせ状態の身体が跳ねたり
動画の中で、大崎甜花が雑誌をびしょびしょにして
自身が出演していたブライダル特集の宣材写真がふやけて飛び散って。
『う……うう゛ーーーーっ……ぷ、はぁっ……! はぁぅっ……ぅ』
映像の中では、大崎甘奈が高く掲げた尻をぶるぶると振るわし、絶頂した。
……絶頂して。
『ふ、あ……ああ!? あ、だ、駄目だって……あ、あああぁぁ~~……!』
陰部に当てられていたデビ太郎が湿り気を帯びてゆく。スウェットも巻き添え。
ベッドのシーツに届きそうな頃合いになってやっと尻を
『う……うう~……』
気持ちよさそうに出し切っておいて。
自己嫌悪に首まで浸かった大崎甘奈はなんとか、
『片付け、しなくちゃ……。甜花ちゃんが帰ってくる前に……』
いそいそと部屋着、下着、汚した寝具。デビ太郎などを回収してゆく。
最後に個人回線用のノートPCを、おそらくは部屋に入る前と同様の折り畳んであるだけの状態に戻して……ぱたり。映像は途切れることとなった。
……。
姉だけで無く妹の自慰まで、最後まで見届けることとなってしまったが……顛末の想像はつく。
家事として洗濯を行う前に姉の部屋に入り、ついでに自慰をしていたということだろう。
なぜそのPC内に「そういう映像」が入っていたのを知っているのか、は仔細までは判らないが。
とはいえ、大崎甜花の始末の悪さからすれば。そのお世話を買って出る大崎甘奈の目に留まる可能性は確かにある。
ぎしり。寄りかかった背もたれが軋む。
どうしたものか。天井社長にもばれていた、俺個人へ向けられた親愛の視線。それが最も濃く感じられる人物のひとりが、大崎甘奈である。
無論今では、肉体的な関係があるアイドルはもっと多くなってはしまったが。
大崎甘奈。彼女からは直接的に迫られた訳でも無い。
あの様子からして大崎甜花が
続けるべきか否か。そもそも姉があんな目に
……結論が出るはずもない。
いずれにせよ仔細は伏せて、大崎甜花に相談してみよう。
そう、決め込むのであった。
next:大崎甘奈②