※この作品はR-18です。

プロデューサーは人でなし   作:どろまみれ

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 system:前話と同時投稿しています(最新話から飛んだ人向け注意)

 system:成人向けシーンなし。

 system:あくまでブリッジでしかない。
 しかし消化はしなければならない内容。
 



ブリッジ:緋田美琴:(アイドル)

 

 

 事務所にて、仕事を片しながら人を待つ。

 退勤の定時に近い。約束の時間に遅れなく。

 

「―― こんばんは、で良い時間かな。お待たせ、プロデューサー」

 

 レッスン明けの緋田美琴が、立って居た。

 

 

 

 

 

 ――

 ――

 

 

 緋田美琴と連れ立って、予約していた個室の酒場へと向かう。

 ……個室の酒場とは言っても、よくよく利用するたるき亭ではあるのだが。しかし天井社長と一緒によく利用させて貰っているこの分店は、芸能関係の事務所が使うことも多い。話をするにはもってこいなのである。

 

「プロデューサーはお酒、飲む?」

 

 個室に入って。防寒具を脱いで。

 いつもの運転代行の連絡先は控えてはあるが。

 いや、今日は控えておくよと告げる。

 

「そう。なら、私も」

 

 飲み物とお通しを貰って乾杯。

 ひとくちずつ口を付ける。

 

「お腹は空いているけど、炭水化物は今日は良いかな」

 

 負荷にもよるか。そもそも筋力トレーニングの類いは、緋田美琴には維持程度で問題ないとは思っている。

 そういう、仕事の話から始めることにする。

 

「どうだろう。栄養学を学んでいるわけじゃあ、ないから」

 

 その辺りは俺がサポートするよ、と返す。

 

「プロデューサー、詳しい?」

 

 いいや。必要であれば専門のトレーナーと相談をする……という事になるだろう。

 俺自身に頼り甲斐があればいいのだが。

 

「ふふ。それだと頼りっぱなしになっちゃうから、丁度良いんじゃないかな。疲れちゃうでしょ、プロデューサー」

 

 ご尤も。

 ……何を隠そう、春先に俺が「動けなくなった」時。真っ先に駆けつけた、というか。隣に居たのが、緋田美琴だった。

 肩を支えられたこと。必死で名前を呼ばれたこと。事務所だったため、天井社長を呼ばれたこと。

 …………他のアイドル達には話さないで居て欲しいこと。それらを、約束して貰ったこと。

 全てを全て、とてもありがたく思っている。

 

 そういう事を伝えると。

 

「そっか。良かった。元気なら、それで」

 

 ああ。

 その感想はこちらこそ、だ。

 

「うん。私も、元気。……それじゃあ本題、話す?」

 

 そうしよう。頷く。

 

 緋田美琴。

 283プロダクションのユニット「 SHHis 」において、七草にちかとコンビを組んでいるアイドルだ。

 アイドルとしての経験は以前からあり。天井社長から紹介されたという形ではあるものの。今では283プロダクションにおいても一定の結果を残している個人でもある。

 

 ただ、諸々のいざこざ(・・・・)が再燃し。ここ半年ほどは、顔出しをしないラジオなどのトーク番組や、連続ドラマの様な知名度は落とさずとも表だっては動かない収録の仕事。また同事務所内におけるレッスンコーチの様な(・・)立ち位置で動いて貰うこととなっていた。

 七草にちかが曇り、焦り。俺自身としても吐き気を覚えるようになった、その発端となる出来事がそれである。

 

 端的に言えば、問題そのものは解決された。

 そもそもが初めから問題とは言い難い、軋轢(あつれき)や衝突によって発生した、山火事のようなものだ。

 対処する必要はあるが防ぎようはない。そういうものである。

 

 天井社長が俺自身にあれこれと気を使うのも、率直に言えば、彼が問題を持ち込んだようなものだからだ。

 ただ俺としては酒の席で内容やらも深いところまで聞いているため、社長の心情も理解出来る。恐らく俺であってもそうする……そうしたいと思うだろうから。

 

 ただ、業界としての居所が悪くなったのは確かだろう。

 だからこそ合同競技会『Meteor//Sworm』においても緋田美琴は欠席した。パフォーマンスは間違いなく国内アイドルの最上位であるというのに。七草にちかを代理にたてたのである。

 

「そうだね。色々とごめんね、プロデューサー」 

 

 いいや。緋田美琴が、俺に謝る必要は無い。

 

「……でも」

 

 事務所間の移籍は、よくあることだ。

 大きな所で言えば男性トップアイドルのジュピター。315プロダクションを盛り立てるようになった、最たるもの。

 あの765プロであっても、我那覇響や四条貴音が所属する際には、961プロとなにやら一悶着在ったらしい。星井美希については言わずもがな。

 

「そう、なんだ」

 

 そうだ。

 少し毛色は違うが最古の事例、覇王エンジェルから魔王エンジェルへの転換劇なども、最後に765sによって討伐(俗称)されたという顛末までを含めて、大枠で言えば当てはまる。

 話は逸れたが。つまりは事務所側で処理するべき内容で。その点について緋田美琴には非が無いのである。

 

 ……ただまぁ、別枠の部分もあるだろう。

 世間について。ファンについて。元のユニットメンバーについて。

 その辺りの対処について、社長も俺も、緋田美琴も経験が浅かった。

 まとまったとは言え、時間がかかったのは確かである。

 

 もっと勉強が必要なのだろう。お互いに。

 

「うん。私もね」

 

 ふたりして、結末の後にはこうして笑っていられたのだから……終わりよければ、という事なのだろう。

 こうしていざこざ、それ自体は解消された。ただ、問題は未だある。 

 

 店員のノック。

 次々と注文した料理が運ばれてきたので、それらを受け取り、並べて。

 ウーロン茶で喉を濡らして。

 

 緋田美琴の側から。 

 

「休んでいる間、色んな事を考えてた」

 

 実際には休んでは居ないのだが、フェスシーンから遠ざかっていたのは事実。

 手元に視線を落として、指折り数える。

 

「ルカの事。他の、元メンバーの事。ステージの事。アイドルの事。283プロの皆の事。にちかちゃんの事。……プロデューサーの、事」

 

 顔を上げる。

 彼女にしては珍しく。……いや、俺の前では比較的よく見せてはくれる表情だったか。

 兎に角。内では無く外を見ている表情で、緋田美琴は話す。

 

「私、たぶんだけど、にちかちゃんの気持ちは分かったんだと思う。……この半年間。上も下も、海も空も、アイドルも女優もタレントも、どれもこれもが混ざっちゃって、判らなくって。プロデューサーとはづきさんが居てくれなかったら、死んでたんじゃないかな」

 

 それだけ沢山のものを見てきた。見せてきたという自負もある。

 視界は飛んで店の外。多分、七草にちか。

 

「プロデューサーがあの日事務所で嘔吐(えず)いてた気持ちも、ちょっとだけ。……合ってる?」

 

 こんどはこちら。

 合っていると思う。俺の場合は視線の高さが違うのだろうけれども。

 

「……本当に、そうかな」

 

 そう思っていたが、違うのだろうか。

 

「うん。私は少し、違うと思う。……プロデューサーは地底って、見たことある?」

 

 話はやや飛んだ。地続きでは有るのだろうけれども。

 ……内容そのものには興味がある。続けよう。

 

 地底は、見たことが無い。

 定義が判らない。どこからが地底なのだろうか。マントルか。対流か。岩盤に突き当たったら、その時点で地底なのだろうか。現在の人類が掘削によって到達出来た最高深度は……。

 

「ふふ、ふふふっ。……じゃあ、海底は?」

 

 笑われてしまった。

 ……海底は、浅瀬、もしくは深海魚を特集した映像でなら。

 

「だよね。海底は、私もそうかも」

 

 ひとしきり笑ってから。

 緋田美琴は口元を隠していた手のひらを広げ、ひらりひらりと、天井の照明にかざす。

 

「空を飛んでいるとね。絶対に見えないよ。ぽっかり空いた暗い穴の底も、海の底の亀裂の奥も。雲もあるし、遠いし。目の分離能とかもあるし。……動画サイトも多分、見れないね」

 

 そのまま手を目の前に持ってきて。

 色のついた瞳で、中指と人差し指の間から、俺を見る。

 

「ひとりって怖いよね。着地も離陸も、きちんと確認してもらった方が、安心だって。……プロデューサーは飛べないんじゃ無くって、私達のために地面に立って、管制をしてくれている人」

 

 手を下げて。

 指を(ほど)く。

 

「見えなくなんてない。飛べば、見えるよ。きっと」

 

 緋田美琴が笑う。

 その笑みを見て、俺自身も確かに、肩の荷がひとつ降りた気がしていた。

 支えていた彼女がこちらを向いて、今度は俺を支えようとしてくれている。

 

 ……支えようとしてくれている。

 

「だから、私とか、SHHisもさ。無理には、遠慮は ―― え?」

 

 その言葉を遮って、財布を取り出し机に置いた。

 緋田美琴の精神性はある程度は理解している……と、自惚(うぬぼ)れる。

 

 財布を開いて。

 取り出したチケットを、彼女の前に滑らせる。

 

 繁忙期のフライトチケット。

 行く先は、海の向こう。

 

「……」

 

 差し出しておいて手は着けず。

 ぱちくりと可愛らしく瞬いた彼女の求めに応じて、説明をすることにする。

 

 半年間で。

 いや、283プロに移籍してからもずっと。

 どころか移籍する前からの、アイドルとして活動を始めてからの、本当に長い間をかけて。

 緋田美琴はパフォーマー(・・・・・・)として界隈の理論値に近いであろう技術をもつ。

 その大きな大きな身体を、肥大化した(から)の中を満タンにするべく、沢山の中身(・・)を詰め込んできた。

 それはかつて問いに答えることの出来なかった「自分そのもの」であり。

 鏡写しで確かに目に映る、自らの色彩でもある。

 

 ひたすらに追い求めたパフォーマンスを、ただ輝いて眩しくさせるだけでなく。

 暗闇の中、同程度の等級を持った星だけが、憧れを抱いて眺めるのではなく。

 空の燃える火が光年かけて届いてやっと、色を認識できるように。

 地に立つ人々の目からも ―― 一般的な人からも佳く(・・)見えること。理解してもらうことこそが必要だと考えていた。

 彼女が時間をかけて根ざした自らの色こそが、ようやっと、多くの人に共感を生む……と言い換えても良い。

 

 かつて追い求めひた走った若き緋田美琴に存在しなかったキャパシティが。

 今の枠を広げた緋田美琴には、確実に存在するからこそ。

 質を高める、という手段以外での表現力の発露に繋がるだろう。

 

「……」

 

 その上で、舞台をひとつ上に置く。

 あの日の飛行機の行く先を追って、海外。283プロダクション初の展開だ。

 その役目を俺と、緋田美琴で担うことになる。

 

 本拠はあくまで国内に置きつつ、徐々に展開。

 しばらくは国内外を忙しく行き来することになるだろう。

 

 人選の理由はとても単純で。

 歌やダンスのパフォーマンスという部分について。国内よりも海外の方が受け入れのルートが多いから、である。

 これまでの経験から、国内における「アイドル」という括りは。良くも悪くも雑多が過ぎる……と、俺自身は考えている。

 

 なにより挑戦してみたいのだ。

 283プロダクションの緋田美琴がどうやってステージ上で輝けるのかを、試行錯誤してのたうちまわって、苦しみながらも共に模索したい。

 

 何分、初めての試みである。準備は念入りに行った。

 ハリウッドでの所属経験もある765の先輩プロデューサーや、事務所自体の力が大きい346の先輩プロデューサーなどの力を借りて、伝手(つて)は数多く用意した。

 それでも苦労はするだろう。申し訳ないが。

 

「……」

 

 なにより。

 個人での渡航になる部分については、今後の展開(・・)にもよるが。

 これは七草にちかのためにもなる、足掛けの第一歩でもある。

 

 だから。

 七草にちかを完全にソロで切り離したり。

 緋田美琴を自己プロデュースさせてしまう方向に舵を切ったり。

 SHHisを解散するといったことは、絶対に無い。

 

 ……。

 

 ここで話を区切ってリアクションを待つ。

 緋田美琴。片手で握っていたジョッキを両手で持ち直し。

 

「……うん。そっか」

 

 待つ。 

 視界の端で湯気をたてていた(だいだい)色のパスタが冷める程度の時間。

 

「なんで、プロデューサーも来てくれるの? こっちに皆、居ると思うんだけど」

 

 俺は緋田美琴のプロデューサーだからだ。

 

「……私には手、出してないのに?」

 

 それは自身()だけの問題だからだ。

 

「出さないの?」

 

 緋田美琴に魅力がないかと問われたならば当然、(いな)

 しかし逆に問う。

 今の緋田美琴の中心に誰かが入りうるだけの場所(スペース)はあるのか、と。

 

「……」

 

 年齢では無く。いや、それもだが。

 アイドルとして駆けている途中の道程ではなく、壁にぶつかっていた君は。

 他のアイドル達に比べて、アイドルとして成熟している君が。

 野垂れるでなく。誰よりもステージの上に焦がれ、膿み、末期のしとねと決めている君に。

 逃げ場でしかない誰かが入る余地は、ないだろう。

 緋田美琴の中心は舞台にこそ在る。

 

「……」

 

 手を出された(・・・・)アイドル達の中心がそこにない、という訳では決して無い。

 しかし緋田美琴と彼女らでは立ち位置が。時間の軸が違い過ぎる。

 

 熱を絶やせば冷えてしまう。

 けれど緋田美琴の核は燃えている。

 その熱は有象無象の誰かなどで発散するのでは無く、舞台の上にこそ置いてくるべきだ。 

 

 だから。連れて行って欲しい。

 君が飛ぶならば。俺も。空へ。 

 

「……はー、ぁ」

 

 ため息。

 想像していたよりも上々のリアクション。

 

「情熱的。プロポーズのテンションだった気がする」

 

 プロポーズでは無いが。

 ただ、これは俺個人にとっての宿願でもある。

 

「プロデューサーの。……どんな?」

 

 例えそれが手の届かない果てだとしても、肉眼で認められない場所があることが苦しかった。吐き気がするほどに。

 それなのに、俺自身が飛ぶだなんていうことを、今までは考えたことが無かったのだ。

 

「苦しそうだったもんね、プロデューサー」

 

 ああ。

 だから、見に行こうと思った。

 誰かに託すだけでは、多分、今度こそ、自分は耐えられず崩れるだろう。

 

「……うん。それは、判る」

 

 頷きを返されて再びの沈黙。

 下の階から喧噪が聞こえてきた。団体客が入ったらしい。

 とても遠く小さなもので、向かいに座った緋田美琴の吐息の方が間近に大きく聞こえる。

 

 彼女の視線を受け続けた氷が、ウーロン茶の中でひとつ(ほど)けた頃。

 

「ふたつ、お願いがあるかな。私が燃え尽きたら、遺灰はどこにもまかないで、プロデューサーが持っていて欲しい。海外に行くのも面白いな、だなんて思えたのは。きっとプロデューサーみたいに視ていてくれる人が出来たから、だから」

 

 緋田美琴が顔を上げる。

 しっかりと俺を見て。捉えて。笑う。

 

「……だから。もしも私が燃え過ぎたりしたら、何とか出来るのってプロデューサーだけだと思う。注意して、ちゃんと傍に居て、視ていてくれる?」

 

 頷く。

 抱えられたジョッキは重くなくて軽くも無く。

 きっと飛ぶのに丁度良い必要分でしかない。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 ……ここからは未来の話になるが。

 

 緋田美琴は、復帰した競技シーンの初舞台にて。

 アイドルランクのシーズン査定を、復帰前からひとつ上げての中間上位(グレード5)からのスタートとした。

 

 オーディションとしての仕事は入れず、劇場での評価稼ぎに注力。

 勢いそのまま、年内のフェスシーンまでを荒らし回った。

 

 年始。

 国内評価をひっさげて海外、西海岸の中規模競技会にて入賞。

 そのまま横断して欧州シーンにまで突撃。

 歌、ダンス。果てはウォーキングをこなすモデルまで。

 もちろん失敗も、むしろ失敗の方が多かったとは思うが。

 それでも緋田美琴は、次の日には別のシーンで舞台に立った。決して最後まで笑みを絶やさず。

 業界の批評は兎も角として。SNSを含む市井(しせい)のシーンにおいて、名を馳せる。

 その結果、別々の分野に次々と姿を現しては印象を残す「アイドル」として活躍の場を広げることとなる。

 

 分野が大き過ぎたからこそ可能な輝き方。

 目前の相手を、両手をばたつかせた緋田美琴でもって殴りつけるためのフリースタイル。

 

 外の世界がこの国の「アイドル」という立ち位置に対して持つ前提を、切り裂いて散り散りにして澄まし顔。

 鮮烈なパフォーマンスにて強烈な印象を残したそのくせ、国内へのとんぼ返り。

 通り過ぎたのはヒーロー像を濃く映す彗星。跡地に広がる傷だらけの循環血液量不足。

 

 話題になる。ならない理由が見当たらない。

 緋田美琴というアイドルらしからぬアイドルの形が、結実した瞬間である。

 






 system:字数が嵩んだので独立しました。

 system:たぶん、わたしが緋田美琴を成人向けで描けない理由の最たる物。
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