プロデューサーは人でなし 作:どろまみれ
都心から離れた住宅街の一角に、ふたり。
ひとりは俺。
もうひとりは……黒髪をまとめて、マスクをつけて、帽子まで被って。
春のイメージからワザとずらし、花弁というよりは葉桜の色。
「へぇ。もうこんなに出来てるのね。アンタの家……というか、もうひとつの事務所。中身には
掌を
外壁が完成し始めた建築物を眺めがら、呟いた。
建築物。半年前には晒されていた水回りも床下も。
今ではすっかりらしくなり、周囲の風景に
「でもいいわね、コレ。立地も時期も、ちょうど良く造れたんじゃない?」
2重3重に組まれた足場を眺め、黛冬優子は笑ってみせる。
これはあの日、皆で建てようと話した『家』 ―― ではない。
俺自身の貯蓄とローンで建てた、新たな『事務所
家については多少は話もしたのだが……俺と身体関係のある女性は、現在
困ったことに。この人数を
……そもそもローン審査などが通るのか、という仮定はおいておく。
内縁の妻などという言い訳も、どこまで通用するものか定かでは無いのだからして。
さて。
試算を知るや否や、早速、さあ買おうと意気込んだ者も(当然ながら)居た。
しかし彼女らの中には学生も数多い。幽谷霧子のように、未来における大変さが約束された者も居る。
そもそも全員本拠として住むつもりなのだろうか。だとしたら尚更だ。少なくともそれら壁を越えてから……ということに、まとまった。
では何故、俺の貯蓄で家を購入しているのか。
趣味としか言い様がない。やたらと悪い、反吐の出る、性欲を満たすだけの、そういう趣味のため。
つまりは自分自身のための場所、だ。
「場所は住宅街の真ん中で、建築自体は普通の家。周りは壁も庭も余裕もある場所だし、密集している訳でも無い。ベッドタウンだから人のはけも良い。……見込み通りね」
まっすぐ白い拳を
「別宅」やら未来の家やらとは別に、こうした「居場所」を自分で用意したらどうかというのは彼女、黛冬優子から提案を受けていたものだった。
刃物でなぞれば崩れてしまうほどにはもろい、赤色の
つまりは。
社会の端っこたる場所を探し、当たりを付けて、建築に取り掛かってから……「別宅」を会社へ返還した。そういう
「消音材も仕込んでもらったし、防音室も買った。大型の映写機、業務用コピー&プリンター、撮影のための機材の数々……」
高価な機材の名前を指折り数え、段々とボルテージがあがってゆく。
ここまでテンションの高い黛冬優子は珍しいな、と思う。
……彼女の横顔を眺めてみる。
頬が紅潮しているし、耳も赤く火照っている。最近では変装も手慣れたもので、アイドルたる「ふゆ」の面影もオーラも感じられない。
艶のある黒髪を隠し、
「ん、なによ」
こちらの視線で我に返ったのだろう。
彼女はこほん、と咳をひとつはさんで。
「……ふゆだって選ぶのも見るのも、手伝ったんだもの。喜ぶ権利くらいはあるじゃない?」
その通りだ。
俺の趣味に付き合わせた。始めから隣に居た彼女の場合は、
あの居場所は春遅くには完成が予定されているそうだ。俺も、完成を楽しみにしている。一緒に喜んでくれると嬉しいよ、と伝えておく。
「……。……そ」
耳上側を手で払って、黛冬優子はそっぽを向いてしまう。
暖気を含んだ春風が吹き遊ぶ。外套の
「それじゃ。建築業者の方たちへの差し入れも、
パーキングへと歩いてゆく。車の助手席に尻を乗せる。
……そこで黛冬優子は上を向いて、眼を細め。市川雛菜がサングラスを入れていったのと同じバイザーのポケットに、美容院の案内券をわざわざ手挟んで。
助手席からじろり。指先で広げたマスクとフードの間から、目線でもって促される。
気持ち早足。楽しい気分のまま、ハンドルへと手をかけることにした。
車を走らせ向かうのは、大通りから外れた位置にある大手の家具屋。
建築中の事務所とは別に、内装物を選んでおこう。目星をつけておこうという流れである。
これもまた黛冬優子からの提案。
俺としては入居日が確定してからでも構わないと思っていたのだが、「アンタと一緒に選びに来たいー、とか。絶対に言われるでしょ。全員に」と言われてしまった。
自分の頭の中でも想像してみたが、全くもってその通り。
下見。および狙いを定めておくのは明らかに時間の短縮となるだろう。
俺側の想定が甘すぎて申し訳ない。提案には潔く応じることにする。
早くて損はなく、むしろ、猶予は少ないとさえ言える。
目的の家具屋の駐車場に停車して店内へ。
隣を見れば視線を真っ直ぐ。何やら考え続けているらしい黛冬優子がひとりごと。
「名義はアンタの方に揃えるとして。寝具はどうせ個人で選んでもらえば良いんだし。……必要なのは、リビングで共有出来るもの。それと撮影なんかで扱うための、ブランドを曖昧にした、映り込んでも問題ないヤツよね」
あらかじめ書き出してあるようだ。簡素な装丁の手帳を広げては、にらめっこをしている。
最後に息を吐いて。手帳をぱたり。
「まぁいいわ。ふゆばっかり主体で買っちゃうと、あんまり良い気分しない娘もいるでしょ。最終的な決定はアンタがしておいてよね」
頼もしい限り。
そういう安心を感じながら風除室。続く入り口を潜る。
背中で風を受け、明るい店内を見回す。
大手の家具屋。店内のお客は
これくらい人が
「男女ふたりで大きめの家具を見ていても、これくらいの人出なら店員からも話しかけられないわね。……あっち、行きましょ」
それこそ目星を付けてあるからだろう。歩みに迷いが無い。
黛冬優子の案内に従って、家具屋の中を下から上まで、目的地を順に巡る。
お目当てのソファ。テレビ台に、四脚机と椅子。
サメぐるみ。双葉杏プロデュースの人を駄目にするクッションソファ。
特に椅子に関してはあまり差異を出さず、既製品で揃えてしまうことにする。
「どうせ皆、個人でシールなり被せものなり敷物なり持ち込んでアピールするでしょ。むしろプレーンなのを買った方が良いくらいね。そもそもアンタの場合、椅子に
冬優子が白く細い指を向けた先。
店のやや奥まった箇所には、一昔前の家具が陳列されていた。
特集が組まれたこともある、それでいて数を注文できる品。十分だろう。
「……」
ふと横を見ると冬優子はいつの間にか注文票を手に取り、家具にチェックを付けてくれていた。
……先ほどとはまた変わって、真剣な表情の凜々しい横顔。
「……? なによ……って、そうそう。商品だけチェックしておいて。今日でなくても良いんだけど、もう発注、しちゃう?」
しておこう。早めに届けてもらって、今機材を預けているのと同じ倉庫に預けて置けばいい。
それならば分けて買うことも出来るため、業者買いせずに済むという利点もある。
……店を変えながら購入していく予定であるとはいえ、だ。
「やたらと大量発注して店の人に注目されちゃう可能性は低い方が良い、か。それもそうね」
ニュアンスで理解してくれたらしい。
一般宅でも購入を検討するであろう量にチェックを入れて。冬優子が「ん」と注文票を差し出してくれたので、ざっと目を通す。
問題無い。
このまま注文票を受け取って、店員に出してしまおうと。
した。が。
「ほら。ふゆが出してくるから」
再び奪い取られてしまった。
どうしたことだろう。
くるりとこちらへ背を向ける。
黛冬優子は最後に。しれっと注文者名の欄へ ―― 俺の
見たことの無い姓名の食い合わせとなった。
「黛」という性は綺麗に造られた字だなと、どうでもいいことを思う。
「……なによ。文句とか、ある?」
書き込んでそのまま、近場の店員に渡してしまった。
素早く決済を済ませることとする。購入は終えられた。納品され次第連絡が来て、そのまま届けられるそうだ。
それにしても。
よりにもよって俺の目の前で書く辺り、彼女の胆力が
頭の隅で考える。
支払いは終えている。別に詐称などにはならないだろうし。お店の側に迷惑がかかるわけでも無し。借り倉庫への搬入の際には帯同すれば問題も無い。レストランの待合名義をフリーザ様ご一行にするようなもの。
こうして俺の用事に付き合ってくれた彼女に対する、お礼代わりだとでも思っておこう。
むすっと顔を固めた彼女へ。俺からも「いや、何もないよ」と返す。
果たしてお礼になったのか、全くもって判らないが。
その表情を
笑顔にすることが叶うのならば、本望である。
・・・
夜中になって。
買い物を終えたなら、こなすべき仕事を消化してゆく。
―― 黛冬優子が笑顔を浮かべる。
適当なコンビニの横に駐車した運転席の足元から。
アイドルとしてではなく。舞台の客席でもなく。
画面の向こうのファンへと向けて。
―― オナホ1号として、満面の笑みを。
『……こんにちわっ! 当レーベルでこの人の性欲処理を担当させて頂いています、オナホ1号ですっ!』
「ごもひひぁっ……がぼっ……ぼべぶっ……オハホ、いひびょっ……べうっ」
同じ台詞で挨拶をかまそうとした音が、股の間から響いた。
彼女の仕事である。当然ながら口内には自身の男性器が一杯に咥えられているので、言葉にはなっていないのだが。
『今動画をお買い上げありがとうございます! まずは
画面の中……編集用のタブレットの中では、土下座を決めたオナホの頭頂部が映っている。
自身は1度そこで映像を区切り。音声の微妙なエフェクトやら、顔へのモザイクやらを施してゆく。
ただし。
顔だけ隠して、尻も女性器も乳房も隠さず。
無修正なのが
これら映像は自身が趣味として撮り溜めてきたもの。
以前はただ自身が後から使用していたのだが、現在これを死蔵するのではなく新たな趣味に使おうと試みている。
それこそ ――
「んぼ、ぼっ、ぼっ、ごえっ……ちゅ、ぼ、ぼ、ぼ」
オーラルセックス。
自身の好みを押し付けて、後頭部を抱えて激しく動かす。
竿先から根元まで。飲み込んでは吐き出す、男性器を刺激するためだけの行為。
オナホ1号の喉が広がり、締め付けて、温めて。
舌使いと唇使いも、昨年の春と比べて格段に上達した。
舌と
口蓋と喉元までが、本体として陰茎を
上等だろう。視線を戻す。
股の刺激はそれとして、動画の中では次のシーンが映し出されていた。
車内で馬乗りになったオナホ1号。
下腹部に額をぶつけるほどの勢いで、ストロークをかます。
そこへまた、自身は編集を加えてゆく。エンコードなど以外の、タブレットで可能な範囲の編集を。
映像を見ていると
編集を区切って、ふと顔を上げると。
タブレットの画面の後ろ奥から、コンビニの眩しさが目に飛び込んで来る。
夜である。周囲に人気は少ない。
わざわざコンビニの駐車場に来てまで公序良俗に反する映像を編集していることに、「自身の趣味」以外の理由も無い。
同様に股の間。
アクセルとブレーキの上で尻を振り、一生懸命に竿を扱くオナホが全裸なのも趣味。
ばれたならばそこまで。
丁度良い刺激であるとだけ、思う。
1日の最後に性欲をきちりと処理して終えられる。
自身の癖の厄介さを考えれば、これ以上に幸せなこともない。
幸せな気持ちのまま。
タブレットの横に携帯電話を置いて、アイドル達へ休日明けの
ぶるり。
「ぶぼぉっ……おぶっ……ごっ、お゛っ……オ゛ッ!?」
汚い音。下を覗き込む。
映像に合わせ、陰茎を押し込み射精したせいだった。腰と竿と空気に押し出され、整った顔立ちの中央部分。鼻穴から精液が漏れ出してきている。
「んぼっ……」
逆流の痛みを
ふゆではなく黛冬優子に特有の、苦々しく、くしゃくしゃな表情が
とても好みの顔だ。ははっと笑って、視線をタブレットへと戻すことにする。
動画の中のオナホ1号は、仰向け。
腰を受けとめるための体勢をとった。
『ごっ、おごっ、んオ゛っ、ごえっ……ぼりゅっ……ごっぼ! じゅっぼ! んごォッ!』
どうしようもなく暴力的。
尻ごと抱えるタイプのオナホールなどであれば、こうして使うのかも知れないが。
「がぼっ……ぇっ」
射精後間もなく膨らんだ陰茎に圧迫され、オナホがまたもや汚い音を漏らした。
映像の中では小綺麗にまとまっているが、こちらではお構いなし。
「ぼっ、ごぼっ、ぼっ……お゛ぼっ……!!」
男性器に抱きつくように、こちらの腰に手を回し、ひっつき。
苦しかろうが、鼻から精液が流れようが、顔が崩れようが。
ただの
声を発し、歌を歌う部位で。メイクと処理で整える顔が合って。
それを片っ端から、汚すからこそ意味がある。
「ゴ、オ゛ッ……ボ」
サッカーボールなどを持つ感覚で、両手で側頭部を抱える。
ごつんごつんと、腰に。男性器に。気持ち良くなるためにぶつけてゆく。
なぜなら、強く出し入れした方が気持ちが良いから。
「オ゛ ―― エ゛ェッ!」
竿先が喉奥に行き当たる度。瞳孔は揺れ、膝がガクガクと笑う。
べちゃっという水音が聞こえた。彼女が達したようだ。
自分でも股を擦り付けていたようだが……こちらは喉しか刺激していない。良いご身分である。
♪。
呆れていると、お馴染みの入店音が聞こえた
顔を上げる。視線を伏せていて姿までは見えなかったが、どうやら誰かがコンビニに入ったようだ。
今、男性器を咥えているオナホ1号の事を考える。
周囲も暗い。車内灯も切っている。
何よりぶるぶると震える喉は心地よいので、このままでも良いだろう。
そのまま周囲を確認する。
……と。
コンビニから出てきたのは。
手を離し、オナホを両膝で挟む。
助手席側を適当に整理して、動画を編集していたタブレットを後部座席へ放り投げる。
コンビニから出てきたのは。
出てきて、こちらと視線を合わせたのは。
「―― お? プロデューサーだ~」
「……!」
和泉愛依。
そして、その弟のご登場である。
ぱちり。車内にラジオを流す。穴を掘るやつだ。音量はやや大きめ。
何食わぬ顔を貼り付けて。運転席側の窓を口元の高さまで開け、挨拶を交わす。
「やほ、こんばんわ~。うちら、夜食買いつつ散歩にきてんだー。プロデューサーも?」
自身も同様である。ついでに、の部分までは口にしないが。
股で陰茎を差し込まれたままの喉が、もごっとだけ音を発したが。それきり黙ったので、再び動かすことにする。
「ほら、あんたも。挨拶は~?」
「お、おう。……プロデューサーの兄ちゃん、こんばんわ」
愛依が弟に挨拶を促すと、やや人見知りをしながらも挨拶をしてくれた。
こちらも返す。和泉愛依は手に持っていたビニール袋を見せる様に持ち上げて。
「プロデューサー、今リマインドくれたっしょ~? さんきゅー! ……ここのコンビニ、ホットスナックはこの時間がいちばん安くってさ~。弟とよく買いにくるんだ。ね?」
「うん」
弟がこくこくと頷く。
自身、和泉弟とも面識はある。去年には和泉家で食事をご馳走になったこともあれば……今年の初めには、ストレイライトで餅つきの練習をさせてもらったこともある。
どちらかというと快活、やんちゃな少年である印象だったが。
「そーそ~! 餅つきね~。あれから弟、ふゆねーちゃん次はいつくるんだー……ってそわそわしちゃってさー。プロデューサー、今度は冬優子ちゃんあさひちゃんと一緒に夕食でも食べに来ない?」
「ちょ、ねーちゃん!」
弟は慌てて振り向くと、姉に向けて両手をじたばた。抗議の声をあげている。
……
じろりと鋭い視線が返って来たのでこれ幸い。髪を掴んで、前後に動かすことにする。
「―― ンボッ ―― ゴェッ」
扱きながら考える。
夕食……夕食か。和泉家で食事をというのも、ストレイライトで囲むのならば問題はないだろう。
引き止める。
日程をすり合わせてみるから少し待ってくれるか、と愛依に返す。
「おっけ、こっちも家族に聞いてみるかんねー。……あ、もしかしてプロデューサー、まだ仕事中だった? あちゃ~……ごめんね、邪魔しちゃって」
構わない。
仕事中だが、愛依と会えたのは幸いである。
引き止める。男性器が気持ち良い。引き止める。
丁度、今春のストレイライトの活動について追加のリマインドを送ろうとしていた所だった。
「お、それってあさひちゃんがやる気だしてるヤツ?」
そうだ。話題に乗ってくれた。引き止める。
ユニット単位でレッスンを行う回数が多くなる。どこかの日付が夕食の候補になるだろう。
何も決まっていないよりは絞っておいた方が、効率的である。
「そっか。じゃあ少し待ってよっか」
「え~……」
愛依が弟にも「ちょっと待っててねー」と諭しながら。「今日は特別にー……ここで食べてていーよー!」と、チキンのホットスナックを取り出してやっている。
弟君は年少らしく早速と、包装紙を破ってぱくつき始めた。
「オレ、レッドのやつがうまいと思うんだ」
「そっかぁ。それはまぁ、冬優子ちゃんの好みにはあってるかもだわ~」
「ほんとか!?」
「ホーント。マジマジ。……うーん。我が弟ながら、修羅の道だー……」
「―― ゴビュッ ―― オ゛、エ ――」
和泉姉弟の会話をバックに。
日付を探す。携帯をゆっくりとスクロールさせながら、引き止める。
上半身は平静を保ちながら。
腰を動かす。腰を動かす。気持ちが良い。
和泉愛依の目の前で、オナホを使って自慰をするという背徳感。
そして和泉弟の目の前で、彼女をオナホとして扱う優越感に肩まで浸かる。
こみ上げてきた快感に任せて激しく。
車がぎしぎしと揺れ始めるのも構わない。
濁声はラジオのノイズ音に紛れてちょうどよい。
オナホが鼻血を流し始めても腰は止めない。
目的の日付までスクロールし終えた。
ラジオのパーソナリティが穴掘って埋まっている。
画面のタスクリストを見せるため、オナホごと腰を浮かして、窓際に寄って。
和泉愛依と弟の視線が集まったタイミングで。
「おー、こことかー……こことか! 冬優子ちゃんとあさひちゃんの予定は良いかもね~」
「―― ガバボッ……ア゙ッオ゛……!」
ああ。
良いか。良いだろう。出る。出す。
もう、首から上があればそれで良い。
顎を持ち上げ。その顔にのし掛かるように。
押し付けるように、射精をした。
「うちの方も多分どっちかの日はだいじょぶだと思うから、決まったら連絡する~」
引き止めた甲斐があった。
和泉愛依とその家族の目の前で。
腰が抜けるような虚脱感。
背筋を奔る真っ黒な多幸感。
顔に全体重をかけたまま。窓から出していた手を引っ込める。
ばちり。
弟君と、視線が合った。
「ンゴッ、ゴボッ……ゴッ、グビュッ」
腹に力を入れて、〆の排尿。
コーヒーを飲み過ぎた。トイレ代わりに使用する。
別れの挨拶を交わしながら。憧れのふゆねーちゃんの胃の中へと排泄する。
「じゃーね、プロデューサー! 冬優子ちゃんも心配するから、はやく家帰って休みなよ~!」
「お、おやすみ」
出し切った。
ふたりがコンビニの駐車場を離れてゆく。
……。
入れ替わりに、新たなお客がコンビニに入ってゆく。
腰の下。股の下。竿先でぐりぐりと円を描いて、尿道の中身を吸わせ。
「―― ガボッ」
オナホから男性器を、引き抜いた。
抜いてすぐさま。
「……うぶっ……げぼっ。ぼえっ……!」
オナホは助手席の足元に向かって、精液を嘔吐する。
飲んで出して忙しいことだ。
ぼたぼたと吐き出された精液を最低限拭き取って、立ち上がり。
助手席に腰掛けて、黛冬優子はこちらを
「ごぇふっ……。……あんた、愛依の弟のこと。判っててやってるでしょ」
それはそうだ。
ただ、年少たる和泉弟の(淡い)思慕の念である。
学生が言う恋だの愛だのを、額面通りの情と判別するのは難しい。
話をしながら、ウェットティッシュを取り出してフロントへ。
冬優子はありがと、と呟きながら顔を拭き。
キーゼルバッハ部位からの出血を止めるため、根元を押さえて上を向き、続ける。
「……だからといって、
眉間をつんつんと指で突きながら。頬杖ついて、前を向く。
ずっと上を向いている訳にもいかず、結局は鼻にティッシュを詰めたようだった。
鼻栓アイドルの様子を、面白い顔になったのでと写真に収めておきながら。
一応聞いてみる。和泉弟では黛冬優子の恋人として、適格ではないのだろうか。
「ないわね。好みじゃない。そもそも恋だの愛だのは足りてるわ。……そもそもあの
向こうは本気でこないからこんな距離感になっちゃってるんだけれどね、と。
黛冬優子はアイドルらしく笑ってみせる。
アイドルにならずとも幸せになる。彼女らにそう言う未来は、確かにあった。
ひとりの男を幸せにするためだけに、それら全てが閉ざされてゆく。
どろりぐつぐつ、タール状。
どす黒い優越感を腹の底で煮え立たせながら。
……努力をしよう。
せめて自分が、この人でなしが。
彼女らが望む限りの、人並みの幸せを掴めますように。
などという努力の一端が、和泉愛依とその弟を引き止めてのアブノーマルプレイ。
最悪だろう。救いようのない畜生であるのは間違いない。
そう願いながら。自嘲をしながら。
エンジンを動かし、夜のコンビニを出て行った。