ぷろろーぐ
部屋から差し込んでくる光があまりにも眩い。
広大な一室が幻想的な光景に見えて、これが現実だとは思えなくなる。
考えてみれば目覚めた時からそうだった。果たしてこれは現実なのかと疑ってしまい、数々の疑問を抱いている。それを払拭するための説明を受けたのだが、全てを理解したわけではない。
思わずついてしまいそうになるため息を咄嗟に呑み込んだ。肩を落として、気を紛らわせるために右手で頭を掻く。
その素振りで察したようで優しく声をかけられる。
「大丈夫? 落ち着いて。ゆっくりでいいから」
落ち着かない状況なのは、目の前に居る女性教師が驚くほど美しいことと、今自分が置かれている状況を理解しかねていたからだ。
騙そうとしているわけではなのだろう。そうだと思いたい。だとすれば彼女が本気でその認識を持っているわけでそれはそれで困ってしまう。
どうすればいいのだ。凪は頭を抱えてしまった。
しずなは優しく微笑んで見守っている。
無理に急がせようとはせずに、彼のペースで理解させようとしていた。
慈愛に満ちた表情はまるで母のようであり、姉のようであり、同時に恋人や妻のようでもあり、違和感を覚えないでもないがとにかく彼女がとても優しかったことだけは確かだ。
「その、俺が覚えてる常識とは違うっていうか……」
「どう違うの?」
「えっと……」
伝えようとするのだが上手く思考が働かない。頭の中に靄がかかっているかのように、考えようとしても自分なりの答えを出せずにいた。
ただ漠然と何かがおかしいと感じている。
頭を抱えてしまった凪は、手を伸ばしたしずなに触れられても抵抗できなかった。
「怖がらなくてもいいの。私はあなたの味方だから」
「そう、ですか……」
「というより、ここにあなたの敵なんて居ない。安全な場所だから少しずつでいいわ。今ここにあるものを受け入れていってほしいの」
触れられた肩をするりと撫でられる。
その行為に意図があるのか否か、わからない。
凪は黙り込むしかなくて、その手に触れることさえできずに固まっていた。
「あなたはどうしたい? 望んでいることを聞かせて」
しずなとの物理的な距離が近くなる。
顔を寄せられて、ふわりと甘い香りがすると同時、艶やかな声で囁かれた。
「ちなみに、私は――」
優しく肌を撫でられた。
受け入れることが義務だと伝えられている。
混乱しながらもなぜか抵抗できなくて、凪は静かに目を閉じた。