オレンジ色の髪を二つに括って、首の辺りには二本のおさげを作り、快活で行動的、喜怒哀楽が鮮明で表情がころころ変わる。
傍に居れば賑やかで、悪く言えば騒がしい。
彼女が居るだけで場の雰囲気が明るくなるようなムードメーカーであった。
「ねー凪さん、頭撫でて~」
桜子が甘えてくるのは珍しい事態ではなかった。
正面から抱き着かれた凪は動揺することもなく平然としていて、胸元にぐりぐり頭を擦り付けてくる仕草を可愛いと思いながらも、呆れた表情をしている。
機嫌を悪くしないようため息は呑み込み、言われた通りに頭を撫でてやった。
「んふふふふ。えへへへへ」
桜子は上機嫌そうだ。
主人に甘える子犬か子猫のように、頭を撫でられるとわかりやすく口角を上げて、隠すつもりがないとでも言うかのように喜んでいる。
なぜかはわからないが往来の場でしかと彼女を抱きとめ、頭を撫でてやる。
奇妙な状況に凪の表情はぴくりとも動かなかった。
それこそ最初に抱き着かれた時などは激しく動揺して、異性との関わりに照れたものだが、それが毎日続くとなるとだんだん慣れてくる。
決して嫌なわけではない。抱き留めた体の細さや頼りなさ、意外な柔らかさに女性であると意識せざるを得ないものの、年下の天真爛漫な少女が相手であるせいか、妹を扱うか犬猫のように思えてならないのだ。
「ねぇねぇ、もっとぎゅーってして」
「んー? こう?」
「えへへ、そうそう」
彼女は甘やかされたり抱きしめられたり頭を撫でられるのが好きらしい。
本人に催促されるのだからわかりやすくて助かる。だが視界に入った途端に笑顔で駆け出して、走る勢いそのままに飛びついてくるのだから受け止めるのが大変だ。
それでも近頃はすっかり慣れた。
嬉しそうな桜子の顔を見下ろして、ふにゃりと力の抜けた笑顔を確認すると、やはり凪は異性として意識せずに妹を甘やかす兄のように苦笑するのだ。
「そういえば凪さん、今度の日曜暇?」
「日曜? 特に予定はないけど」
「じゃあデートしようよ」
「ん?」
「デートっ。私と」
唐突な提案に多少驚きはするものの、嫌がる素振りは見せなかった。
期待した顔で下から覗き込んでくる桜子を見つめ返し、一旦は気まずそうに視線を外して、あーと考えるふりをした凪はすぐに答えを決める。
「別にいいけど。何すんの?」
「だからー、デートだよ! 一緒に買い物したり、遊園地行ったり、とにかく恋人っぽいことしてイチャイチャするの」
「それはわかるよ。でもイチャイチャって……」
「するのっ! 凪さんは私とイチャイチャしたくない?」
不安そうな顔をして、わずかに目を潤ませ、じっと見つめてくる。
彼女は、可愛らしい外見に反して強かだ。男を手玉に取る方法を理解した上でそうしているのかもしれない。事実凪はその顔に弱く、本音がどうであれ応えてやりたくなる傾向があった。
今度こそ小さくため息をつき、彼女が望む答えを用意してやった。
「そりゃしたいよ。桜子は可愛いから、できればずっとイチャイチャしてたい」
「えへへへ~、そうかなぁ? もーしょうがないなぁ凪さんは」
そう言えと言わんばかりの態度だったとはいえ、いざ言われてみれば頬を赤く染めてこれでもかと照れてしまい、湧き上がる衝動をどうにもできなくて痛いほどに凪の体を抱きしめる。胸元に顔を押し付けて苦しくなっても離れようとしない。
態度を見れば一目瞭然。桜子は心底幸せそうで、凪はやれやれと頭を撫でてやった。
「じゃあ次の日曜日。一日デートしてずっとイチャイチャしようね」
「二人っきり?」
「もっちろん! 二人っきり! 他の人と予定入れちゃだめだよ。私だけ独占。誰かに誘われてもちゃんとそう言ってね」
「それって怒られそうだなぁ……」
「だってそうでもしなきゃ独り占めできないもん! もう約束したからねー!」
強く言いのけて桜子は彼の胸倉を掴み、ぐいっと引き寄せる。
ふわりと甘い香りがして、唇に感じる柔らかい感触。
パッと離れた桜子は悪戯が成功したように無邪気に笑っていた。
「日曜日は私だけの凪さんだからね」
「あーわかった。そうなる」
「えへー。凪さんだーい好き」
「俺もだよ。桜子だーい好き」
「えへへへ~」
性格がわかりやすいだけに機嫌を取るのも難しくはない。
失礼だと思う気持ちはあるがそれが事実だった。
凪は彼女が望むままに抱きしめてやり、桜子は非常に満足そうに笑っていた。