釘宮円は姉御肌な少女だ。
明るくノリがよく、友達と騒いで遊ぶのが好き。そんな年頃の女の子といった姿を持つ一方、困っている人を見かければたとえ知らない人でも無視はできない性分であった。クラスメイトには彼女を頼る者も少なくはなくて、面倒そうにしながらも手を貸さずにはいられない姿をよく目撃されている。
「ねぇ凪さん……日曜、桜子とデートするんだって?」
彼女のそんな顔を見るのは珍しいことだったが、凪にとっては初めてではない。
空気を入れて頬を膨らませ、不機嫌そうにむくれている。
自分のせいなのだな、と彼女の発言だけで察した。
「あー、うん。約束しちゃった」
「二人っきりで?」
「そう……」
「ふーん」
睨むように凝視されていたのだがぷいっと顔を逸らされる。
こうした仕草を見せる相手は限られるだろう。そしてその一人が自分であることは、信頼や好意の表れだとも受け取れるため、嬉しくもある。
反面、機嫌を取るのは簡単ではないと知っているため、喜んでばかりもいられない。
「えーっと……」
「ふーん。二人っきりでデートかぁ。しかも一日」
「夜には帰ってくるつもりだし、その後は別に誰か居てもいいって桜子が」
「でも一日中二人っきりで居られるんだぁ」
じとりとした目で見つめられる。
普段がからっとした性格なだけに、よもやここまで嫉妬深い人物だとは思わなかった。しかしそれもまた彼女の可愛げだとも思えるわけで凪は嫌がってはいない。
「ごめんなさい」
「むぅ……まあ別にいいけどさ。こんなの初めてじゃないし、絶対埋め合わせもしてもらうし、わかった上で付き合ってるんだから」
「そ、そうか。そうだな」
たじたじになる凪は多くを言い返せずに、困った顔で視線を彷徨わせるばかりだった。
キッと彼の顔を睨みつけ、腰に手を当てて堂々と円が言う。
「とりあえず、お風呂一緒に入って」
「う、うん。わかった。それだけでいいの?」
「とりあえず、ね」
「そりゃそうか……じゃあ準備するから」
踵を返す凪が風呂場へ行こうとした。その背中に円が飛び掛かる。
「あと服脱いでよ。待ってる間どうせ暇でしょ」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
背後からしがみ付くように抱き着いてくる円はそのままに、凪は移動を始めて、その最中に円に気をつけながらも服を脱ぐ。
目立って良い体というわけではないが近頃は筋トレをするようにしている。
若い男の体が少しずつ露わになっていき、その様を至近距離で見ていた円は、脱がせるために時折離れながらも隙さえあれば抱きしめた。
衝動に駆られて我慢できず、背中にそっと唇を押し当てる。
ちろりと舌を出してほんの少しだけ触れた。
ぴったり張り付いた円は離れない。彼女をしたいようにさせながら凪は風呂の準備をする。
「ほら、円も」
「ん……脱がして」
浴槽に湯を溜める間、どうしても暇になる。
彼女の期待に応えるために凪が振り返り、従順に従う円の服を脱がしてやった。
一枚ずつゆっくり剥ぎ取っていき、細く締まった裸体が露わになる。円は恥じらいを見せたが嫌がってはいなくて、裸になると途端に凪へ抱き着いた。
「はぁ、ふぅん……凪さんちゅーして」
「ん」
艶っぽい溜息をこぼして、目を潤ませ、我慢できないという顔で懇願される。
冷静だった凪はすぐに応えてやり、ちゅっと唇にキスを落とす。
すぐに離れて何度か繰り返そうと思っていた凪とは裏腹に、円は離れたがらず、長いキスを求めているようで彼の首に腕を回して捕まえてしまう。
二人はしばし強く抱き合ってキスをし、首の角度を変えて何度となく唇を貪り合う。
「んー……私ともデートしてよね」
「いいよ。どこがいい?」
「家がいい。二人っきりで、ずっとイチャイチャしてたい……」
「わかった。時間作るからそうしよう」
彼女のお願いにあっさり頷き、凪は求められるままに再びキスをした。
その時の円は幸せそうで、彼に対する大きな愛情を露わにしていた。