病院から一戸建ての自宅へ帰って来て一週間。手続きを諸々済ませた。
そして今、最後の作業を済ませてPCを落とす。
「遺書もコレで書き終えた。メールで弁護士にも伝えた。後数ヶ月か……」
40を過ぎて見つかった病気に身体を蝕まれ早数年。
元々体育会系でゴツかった身体は投薬で見る見る痩せ細り、今では見る影もない。
後は粛々と最後の時を待つばかり。
心残りは自分には家族が居らず、遺産等を遺す相手が居ないこと。
「家族、作りたかったな……」
呟く様に漏れ出た言葉が自分の心を抉る。思わず涙が出そうになる。
その言葉は誰にも聞かれず消えていく……はずだった。
「ではそのチャンスを与えましょうか?」
自分しか居ない筈の部屋に他人の声が響く。
緊張して振り向く筈なのに寧ろ落ち着き、その声に安心感を覚えている自分。不思議に思いながら椅子ごと振り返るとそこには発光する人型が居た。
不思議と落ち着いている。普段なら驚いたりする筈なんだけが…。そう考えていると発光体から声が聞こえてくる。
「私の方で貴方が少し落ち着ける様にしています」
「それは…ありがとうございます。それで、先程仰られてたチャンスとは……?」
多少の混乱を残しつつも会話が続く。
「家族を作りたい。其れを叶える為の道を貴方へお伝えしようかと」
「…何故でしょうか」
「ビジネスです。と言っても私と『 』様とのビジネスですが」
「えっと…よく聴こえなかったのですが」
「この世界に対応する呼び名は有りません。端的に神様とでも思って頂ければ幸いです。」
「神様…」
途端にスケールが大きくなった。
「彼等はとても長寿です。長寿故に発情期間が基本的に無いので他者の発情を観察する事で自身も発情期間へ移ります。
しかしながら、あの方が観測する場所にはあの方と同様に長寿種が多く中々発情の機会が訪れません。以前は特に問題にならなかったのですが、あの方々も人口問題に直面しております。
そこであの方々と同様の容姿を持つ貴方を利用し、あの方々を発情へと導く……そういうビジネスを私くは請け負っております。そしてそのビジネスのお手伝いを貴方にお願いしようかと……まぁ、下請けと思っていただければ」
「話を聞く限り神様が発情する手伝いを行えと?」
「端的に言えば」
どうしよう、大きくなったスケールが一気に萎んでしまった。
「その……何故私なのですか?」
「幾つか理由はありますが……掻い摘んでいえば『善性である、後が無い、元々のスペックが高い』この辺りが貴方を選んだ理由です。勿論他にも候補は居ます。貴方が駄目ならこの記憶を消して直ぐ次へ話を持ち掛けますよ」
どうやらこの話は早い者勝ち、そして私は最初、または前の者が断った為にお鉢が回ってきたらしい。
ほんの少しだけ考えたが私の口から出たのは了承の言葉だった。
「そのチャンス、受けさせていただけますか」
「おや、契約の中身をまだ話しておりませんが?」
「このまま指をくわえていても緩やかに終わるだけです。それならチャンスの女神の前髪を、今ここで掴むべきでしょう。私の経験則ですがね」
発光体が笑ったような気がした。
「素晴らしい! 貴方はやはり『持って』いらっしゃる! 例えどの様な状況下にあろうと進もうとする意志がある! 自分の終わりが見えている状態でも冷静! ……ある意味ソレこそが何よりも大事なのです」
「さぁ、椅子から立ち上がり此方へ。
此処に契約は成されました。契約は俯瞰世界から此方を覗く『あの方々』のリビドーを引き出すこと。
その為の場へと貴方を送ります。必要なモノは私が用意しました。仔細は知識として与えておきます。
道は示しました! このチャンスをモノに出来るか! 貴方次第です。全力で頭を使ってください」
段々と周囲が光り輝いて、やがて何もかもが白で塗りつぶされていく。
音が消え自分の手足の感覚でさえ消える頃に、発光体の最後の言葉が聞こえてきた。
「時にあの方々から試練が届きます。貴方なりの行動でソレに答えてください」
その言葉を最後に私の意識はプツリと途絶えた。
次に目を覚ました時に目の前に飛び込んできたのは長閑な田園風景だった。