第二の人生が始まるかもしれません、異世界だそうですよ、ミサキさん 作:木桜 春雨
異世界召還を行う、王の言葉に広間に集まった者達は驚いた、貴族、魔法使い、冒険者が殆どだ。
反対する者はいないし、声もない、だが、失敗するのではというか、心から賛成ですとも言えず、失敗したらなどとは口が裂けても言えなかった。
前回の召還は十年以上も前だった、失敗ではなかったが、成功ともいえなかった。
王は広間の人間達の顔を見ながら重々しく口を開いた。
「えっ、な、なんですと」
「本気ですか、王よ」
「あの男が引き受けてたというのですか」
「皆が驚くのも無理はない、以前から考えていたことだ」
「引き受けてくれたのですか」
半信半疑、いや、本当ですかと言葉よりも視線で訴えかけてきたのは宰相だ、内緒で動いていたことに驚いたのかもしれない。
「ああ、二週間ほど前に返事が来た、こちらに来て召還の議を執り行ってくれる」
「報酬は、何を、あの男は」
宰相の顔、それは純粋に嬉しいというものではない、不安を隠せない様子に王は無理もないと思った。
魔術、魔法の腕に関して、あの男、バラウ・ヴァイダーソンに叶う者はいない、知識もあり腕もいいが、代価が高額なのだ。
相手が貴族、王族でも容赦しない、他国の貴族が彼を専属にしようとしたが、半年も立たないうちに金の工面が難しくなった。
実験や薬に使う大金が出せないとなると、この男は見限るのも早い。
情に訴えても、あっさりと切り捨てられるのだ。
「今回の召還の議にかかるのは」
王の言葉に宰相だけではない、貴族達は無言になった。
ふられてしまった、つくづく感じるのは恋愛というのは難しいというか、疲れるということだ。
途中で息切れというか疲れてしまって、面倒だなあと思ってしまった自分も悪いのかもしれない。
そのとき、仕事が忙しくなって、このままだと自然消滅するかなあと思っていた矢先、別れたい相手から言い出された時には正直、ほっとした。
いや、内心、ほっとしてした自分に驚いた、嬉しいと思うのは相手のことを重荷に感じていたんだろうなあと。
年下で甘えてくるのが、可愛いと思ったが、それは最初のうちだけだ。
男なんだから、たまには自分を引っ張ってくれてもいいんじゃないと思ったが、それを友人に話すと最近の流行じゃないと言われてしまった。
「あんたは年上相手のほうが、気を使わなくていいんじゃない」
友人の言葉に、思わずうーんとなってしまった。
「ところで、桜、本を出したよ、ライトノベルみたいな軽いやつなんだけど、恋愛ものだよ」
「れ、恋愛って」
驚いたのも不思議ではない、苦手分野じゃなかったと返すと、そう思うよねと言われて頷いた。
「それがね、Twitterでフォローされてアクセスが伸びて、商業で出してみないかって声もかかったみたい」
友人は内容をぺらへらと話しだした。
主人公は普通の女で転生して美女に生まれ変わり、現実ではお目にかかることのないイケメン三昧に取り囲まれて逆はー状態、そして群がる男達を成敗、じゃなかったと。
だが、身振り、手振りいりで説明されても、間に流行なのかオタクと英語と色々な説明を交えて説明されては理解するのも一苦労だ。
「はあっ、何、それで主人公は幸せになったの」
「それがね、異世界だから色々あって、なんか放浪しているらしいわ、いやー、笑ったわよ」
ミサキは、おやと思った、友人は本好きだが、ジャンルが結構、偏っているのだ。
「それ商業で出すの、凄いわね」
すると友人は首を振った、本人はネットのブースで通販で売り出すつもりらしい、商業での話は今の所は宙ぶらりんというらしい。
「売れたらいいとか気にならないし、欲はないからね、好きな話を書ければって感じだし、あれ、お嬢だからね」
「確かに、でも、昔、イベントに出たとき、人気あったでしょ」
思いだしたミサキに友人も、そんなことあったねぇと頷いた。
「でも、あたしは思ったわ、普通が一番って」
そういって友人は真顔になった。
「恋愛とか、結局のところは個人の趣味と嗜好よ、それに贅沢したいとかは後でついてくるものよ」
「そうね、イケメンにお姫様扱いされたいなんて、想像したら変な気分よね」
「現実ではあり得ないからね、桜みたいな、金持ちのお嬢なら、ところで、ミサキ、風呂、好きだったわよね」
これ、あげるわと言われて目の前に突き出されたのは割引券だ。
「ここ、今月末で閉店になるみたいなのよ」
最近はスパとかよりもサウナが流行でしょと言われて、そういえば最近個人でも家庭用、ポータブルサウナをってニュースでやってたなあと思い出したミサキは割引券を手に取った。
「いいの、もらっても」
「今、たるんでいるのよ、お腹、若くないし」
友人の言葉に、じゃ、ありがたく貰うわと割引券を手に取った。
少し前は岩盤浴、色々な風呂がはやったけど今はサウナか。
その日、友人と別れたミサキは、その足で割引券の店に向かったのだが、そこでライトのベルの主人公のような出来事に巻き込まれてしまうなど、想像もしなかっただろう。
「はあっ、生き返る」
広い湯船の中で手足、全身を延伸ばして、いい気分だと思いながら、でも一人というのはなあと思いながら、ミサキは目を閉じた。
友人と久しぶりに話をして近状を知って、少し落ち込んでいる自分に脱力してしまった。
桜もヨウコも前向きに生きてるなと思ってしまうのだ。
今の仕事は工場勤務、紳士のコートを作っている、給料は決して多いとはいえないが、定時で帰れるのが魅力だ。
安くて長時間労働なら考えるが、昨今は社畜、長時間労働、ブラック企業など色々な話を聞いていると、今の職場が悪いとも思えないのだ。
自分が頭も良くて得意なことが色々とあれば視野も選択も広いのかもしれない。
「仕事、転職か、新しい場所でなら考えないこともないんだけどな」
小説の主人公みたいに転生して、人生を新しくやり直す、セカンドライフの始まりだなんてこともない限りはいまの自分には無理だろう。
自分の容姿に、それほどの自身もないので婚活も勧められるままに何度か、見合いのようなことをしたが、うまくはいかなかった。
イケメンなんて高望みはしない、金持ちとかも論外だ、だが、話をしているうちに、自分の気持ちが、ずどーんと下がってしまうのだ。
専業主婦になって男に稼いでもらってなんて思っていない、だが相手は、最近の女性は最初から、そう思っていると思っているか。
挨拶直後から話し方や言葉に、感じられてしまって好感を持つこと、抱くこともできないのだ。
話をして女の方が男の自分より物知りで博識だったりすると不満そうな態度や感情を隠そうともしない。
「あーあ、自分がもう少し、可愛くて、男受けするような性格だったらなあ」
周りの友人は、なんでもできる男は必要なのかという感じで、女王様タイプだったり、とにかく癖が強いのだ。
友人の桜は、お嬢様で男受けするタイプだが、恋愛に費やす時間と労力がもったいない。
暇な時間と金があるなら、自分の好きなことに全て費やしたい、全力投球したい言っている。
割引券をくれた友人の趣味は音楽だ、バンドをしている、ロックのジャンルなど分からない自分だが、ライブに来てよと言われて行くといつも満員だ。
以前はバンドのコピーが多かったみたいだが、最近はオリジナル、ユーチューブで人気のある音楽もやっているらしい。
「あたし、だけじゃない」
脱力というか、溜息を漏らしながら男は窓の外を見た。
食事の支度、洗濯などの家事は一通りできるので困ることはないのだが、それ以外のことが困ってしまうのだ。
先日、知り合いに声をかけられて断ったことを思い出した。
まだ若いだろう、結婚を考えてみないかと言われたのだ、すぐに返事をしなかったのは驚いたからだ。
今年で359歳、一度目の結婚をしたのはよかったが、妻は領主の目にとまり、メイドとして屋敷で働くことになった。
ところが、半年もたたないうちにだ。
領主ともなれば綺麗な女などいくらでもと思う、なのに、決して美人でもなかったのにと今、思い出しても不思議でならない。
そのまま、領主の女になってしまうのだろう。
平民の自分が領主に自分の妻だからと逆らえるはずがない。
ところが、女は屋敷から逃げ出したのだ、金を持って、いや、それだけではない、屋敷に居候していた領主の妻の愛人とだ。
とんでもない女だと領主は憤慨したらしいが、醜聞を恐れてか公にはならなかった。
それから妻だった女とは会っていない。
多分、生きてはいないだろう、というのも、この国、シャルアンでは女性は子供を産めば、いや、出産で命を落とすことも珍しくはない、このままでは国の人工が少なくなってしまうと王は他国から女性の移民を求めた。
ところが移民を希望する女性の数は少ない。
他国の女性から見れば、シャルアンの男は好ましくないのだろうかと思った王は異世界召還を行った。
最初はうまくいったかに思えた、だが、召還された女性は半年、一年もしないうちに・・・・・・。
その為か、この国の男達は独り身が多い、王族、貴族でもだ。
金があれば愛人や妾などかいても不思議はないのだが、結婚すれば女は短命て亡くなるなどという噂もあって、シャルアンにいるのは人間よりも亜人の女が多いくらいだ。