以前のコミックマーケットにて頒布したものを掲載しています。
これを機に、今後のコミケ頒布が捗るといいなという思いです。
お話としては既に完成原稿がありますので、途中逃亡はないと思います。
毎週末に更新の予定です。
のんびりとおつきあいくださいませ。
第一章 施設
魔導国の設立から、はや幾年。もはやナザリック地下大墳墓に守護者が全員いること自体が稀となってしまった。
周囲の国々に対してコキュートスは武力的圧力、デミウルゴスは裏工作と妨害工作、そして美しさと優雅さの中に耐えがたい恐怖を与えるアルベドの外交。動物をはじめとした未開の地の平定はアウラとマーレ。冒険者モモンの中身を最近ではもっぱらパンドラが務め、ナーベラルも冒険者としてふるまってくれている。そして各国で内定調査を行うセバスとソリュシャンをはじめとするプレアデスの面々。
世界をこの手に収める――その目標までもう少しで手が届く。すべてが順調といえた。
しかしモモンガとして、魔導王として自身の、そして部下の慢心は戒めなくてはならない。ダムの決壊は小さなひび割れからという。モモンガは自分で自分の無能さを知っている。
それ故にモモンガには油断がない。考える。わからなくても考える。悩む。それは鈴木悟という人間が有能だったからではなく、むしろその逆。自身の無能さ、自身の限界を知っているからこその臆病さなのだ。
そんな中、アルベドの姉であるニグレドからモモンガへと遣いがあり、第五階層への招待を受ける。火急の用件とは思えなかったが、今は早急に片付ける仕事もないことを本日の担当メイドに確認した後、従者不要として第五階層へと向かう事とした。
モモンガの懸念はニグレドと会話。人形を投げ捨てるところから始まる一連の悶着が面倒なのだ…と思いながら氷点下の第五階層を踏破する。アンデットであればこその不眠不休で、氷に閉ざされた世界でも快適に移動可能というもの。
氷結牢獄が見えてくる。通常であれば絶対に部屋から出てこないニグレドが、氷結牢獄の前へと既に前に立っていた。
ニグレドは黒の喪服を着て、顔は髪で隠れて見せないようにしている。モモンガの姿を見つけるとすぐに「御身の前に」と跪く。
モモンガは『ほう…』と、思わず声が出そうになる。このように恭順するニグレドは初めて見た気がする。
「ニグレド、見せたいものがあると聞いたが?」
モモンガは恐る恐るニグレドに問いかける。今回は、普通に話しかけても平気な気がした。
「はい。御身にお見せしたい場所がございます」
「ほう、このナザリック大墳墓内に私が知らない場所があると申すか」
「はい、武人建御雷様のご協力を得てタブラ様が作成した施設にございます」
ナザリックの趣味ギミック作成にタブラさんは心血注いでいたからなぁ…とモモンガはかつての仲間へと思いをはせる。
「なるほど、それでこの第五階層か…」
「ではこちらへ」
ニグレドはアルベドかと見間違えるほど、優雅に立ち上がり先頭に立って歩みを進める。至高の四十一人の名前を出して、ニグレドがモモンガを罠にはめる可能性は低いものと推察し、ただ無防備についていく。
どのくらいの距離なのか、時間なのかも問わずに雪原の中、歩みを進める。十分程歩いただろうか、ニグレドは立ち止まり「少々お待ちくださいませ」と言って礼をする。その場所とは何もない…本当に何もない雪原の中に、雪の塊が異彩を放って鎮座する。
雪とは言えカタチはあり、そして積もれば体積ができる。モモンガは第五階層の吹雪を意に介さないが視界は良くない。そんな真っ白な視界の中にも形があるのがわかる。高さは三メートル程、横幅は五メートル程の雪の塊。ニグレドは雪の塊から飛び出ている小さな突起に手を当てて、少し捻ると眼前にあったただの雪の塊は静かに口をあける。雪の塊からぽっかりと入り口が出現する。異彩を放っていた雪の塊がいわゆるカマクラになり、ようやくモモンガにも合点がいった。
外側から見える限りだが、カマクラの中にはただ下に階段が存在する。他には何もない。つまり上層部はただの飾り。本当に必要な部分は地下部分という事だろう。
「モモンガ様、こちらはタブラ様と武人建御雷様からの書簡にございます。勿論、中の記述につきまして私は読んでおりません。ただ、タブラ様にて『渡すタイミングはニグレドに一任』とされておりましたので、今まで秘匿させていただいておりました。私は中までは入れませんので深層部にて書簡の中をご確認ください」
「なるほど、お二人からの書簡、確かに受け取った」
書簡を受け取り、カマクラの中へと歩を進める。あの二人が作成した場所ならば、特に悪意はないだろう。
タブラさんの趣味が発揮された罠でなければ…