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何とかペースを上げたいのだ。
10月中旬。
季節は秋に移り、あの鬱陶しい暑さから解放されてようやく寒さを感じる時期が訪れてきた。実に非健康的だが汗を流さずに過ごす日々は何かと性に合う、やはりゲーマー…、陰な生き方が結局一番落ち着く。
ただ最近は服を着ないで裸で眠る日々が増えたから秋の寒さは中々キツイものだと俺は思った。裸になっている理由についてはもはや語るまでも無いが、性行為をするにしてもやはり服は着たままにした方がいい気がしてくる。少なくとも秋冬はだけど。リア充みたいな生き方をしていないと気づきようがない事実だな。
「うぅん…」
隣で寝ている義妹も同じ思いなのか、その豊満なバストを押し付けながら俺の腕にしがみ付いてきた。本気で寒いのか、彼女の肌がぶるっと震えていたのが分かる。やはり服は着るべきだな。
俺は小さく笑いながら空いた片方の手で彼女に毛布を掛けなおす。しかし動く度に腕が幸せな感覚に襲われ否が応でも股間が熱くなる。少しムラっと来たので俺は寝ているスグにいたずらをしたい気持ちが芽生えてくる。すやすやと寝ている彼女の胸に思わず手を伸ばす。何度も揉んだであろう柔らかくて大きいわがままFカップおっぱいに触れる寸でのところで指が止まる。
俺は頭を横に振った。またやらかしてしまうところだった。今回も勢いでヤってしまったけどいい加減『これ』はやめにしないといけない。そうしないといけなくなった。
「すぅ…、すぅ…」
スグは俺の腕にしがみ付きながら小さな寝息をたててる。おっぱいじゃなく彼女の髪に触れて優しく撫でる。
「…はぁ」
スマホを取って画面を眺める。俺の恋人、アスナからの電話はおろか、メールが無い。今日の夕方頃に話さないかと彼女にメールを送ったが、日付がそろそろ変わりそうなのにまだ連絡の一つもない。目を通してない筈がないと思うし…、まぁ、単に気づいてない可能性もあるだろうが不安だ。いや、今の時間帯なら眠っている筈だから連絡なんて来るはずもないが…、いや、しかし、…うーん。
落ちつかない。
それというのも最近学校で嫌な噂を耳にするようになったからだ。
アスナが俺以外の男と一緒にいる。それも中良さそうにしているとか。
馬鹿馬鹿しいと思った。そんなことはあり得ないと思った。
だって俺はアスナの事をよく知っているからだ。誰よりも一途で、頭が良くて、愛する人の為に全力で尽くすそんな彼女が俺以外の男とそんな事をする筈が無いって。
そもそも彼女にだって男の知り合いの一人や二人ぐらいいるだろうさ。なんなら血盟の誰かと未だに連絡し合ったりそれで外で会うような事をしてもその程度は不思議にも思わない。だから悪い噂は全てデマだと思う。…その筈。
寝ているスグにチラッと見る。
彼女と…、いや、彼女たちとこういう関係になったのは大分前だと記憶している。恋人に隠れて別の女性と肉体関係を持つ。最初は魔が差しただけだった。俺の方からではなく彼女たちに求められてたから心のどこかで俺は仕方ないと思った。なのに気が付けば俺の方が止まらなくなっていた。彼女たちの思いを無下には出来ないと自分に言い訳しながら…、俺は、ただひたすら気持ちよくなりたいだけになった。それでもいいと思った。プレイボーイ気分で女を侍らせながら生きるのも。皆と口裏合わせをしているからアスナにはバレないだろうし隠せる自信もある。ずっと必死に生きて来たんだ。それぐらいのご褒美があっても罰は当たらないだろうと思った…、最近までは。
アスナがもしかしたら浮気しているという噂。それもただの噂じゃなくちゃんとした目撃情報もあるリアリティーのある噂。
それはあり得ないだろうと思った。アスナの性格上そんな事が起こる訳ないって。
でも…。
俺が彼女に隠れて浮気しているように実はアスナも…、なんて思えてしまう。
そういえば彼女と最後にエッチしたのっていつだったっけ。顔合わせも殆どが学校かゲームだしデートも最近はしていない気がする。…あれ? 恋人らしい事って最近していないな俺…。い、いやある意味ALOを共に冒険するのもデートと言えるのでは? いや、そういう問題じゃないか。まぁ仮に浮気が本当だとしても理由は『これ』では?
寝ている義妹を寄せながら俺の中の不安が少しだけ大きくなった。
ーーー
ーー
ー
ここはSAO帰還者学校。長いから通称『学校』で呼ばれている。元々は何かしらの名前があった建物らしいが政府が私達の為に専用で通う施設と化している。ここでは通う事自体にこれといった強制などは無い。あくまで現実世界における若者たちの2年間分の青春を取り戻す為の国なりの誠意である。
青春といえば何なのだろう、勉強とか部活とかだろうか。友達と遊んだり恋人と恋愛するのも青春と言えるだろう。恋愛方面で淫らな事をするのも青春と言えるのかどうか少し悩むが…。
そんな学校にも淫らな事をする事が出来る場所がいくつかある。学校は『そういう事』をする場所ではないのは頭では分かっているのだが自分自身の本能を襲えるってのは中々難しい。話を戻そう。学校の中であるにも関わらずエッチな事が出来る場所の条件は人気が無い所である。この間○○君はトイレをチョイスしたけれどあそこはちょくちょく人が通うからエッチするのにあんまり向いてなかったりする。とはいえあそこでヤるのはかなりスリリングだから私としては捨てがたいけど。
今私がいる図書室はまさに淫らな事をするのに向いてる場所の一つだったりする。読み物なんて今時の人はやらないので基本ここは無人である事が多い。放課後誰かが静かに勉強する為に利用するぐらいだが逆に言えば放課後より前なら誰も利用してないってわけ。
そして今現在私は誰かと待ち合わせをしながらその図書室の中にて待機している。相手は誰だって誰かが気にし出したら普通は恋人のキリト君だと大勢が予想するだろうが違う。ここで○○君の存在を一瞬思いついたが残念ながら彼でもない。ていうか今モーレツに彼に抱きしめられたい気分だから本当に来てくれないだろうか。
「ごめんこめん遅れちゃったっ」
ガララっと勢いよくスライド式のドアを開けたのは親友のリズベットことリズ。走って来たのか息を切らしての登場である。確かに待っていたけど別に急ぎの用事もないからもっと落ち着いてもいいのに。
「はい、アスナの分」
「ん、ありがと」
手に持っていたジュースを渡されたのでそれを受け取る。ストローを刺して一口だけ飲む。そういえば今更だけど図書室での飲み食いって普通に校則違反なんだよね。まぁ、学校でエッチな事をしている時点本当に今更だわ。
「それで? 話って何?」
「あー、うん…」
言い淀むリズ。彼女の様子からはどことなく言うべきかどうかみたいな気まずさや気乗りしない感じを察する。自分の考えをハッキリ口にするリズにしては珍しい光景だ。
「あー、最近さ、キリトとはどうよ…」
「どうって…、いつも通りだけど」
「あ、そうなの…、ふーん」
私の答えにどことなく納得いってない感じ。ただリズが何を確かめたいのかなんとなくだけど分かる気がする。ただ私もまどろっこしいのは好きじゃないので話を進ませる。
「ハッキリ聞いたら? どうせ例の噂とかについてでしょ?」
「んー…、じゃ聞くけどアスナってキリトと別れる気無い?」
そんな気がしてたけどこれについては私の答えは最初から決まっている。
「無い」
「そ、そうなんだ」
「一応理由について聞いてもいい? 大体察するけど」
「だって例の『彼』について噂になってるし…、それに私も見てしまってるし…、なんとなく別れるのかなーって気になっていたんだよ」
机で突っ伏しながら顔を伏せて落ち込むリズ。なんか悪いことをしたみたいで少しばかり申し訳ない気持ちになる。
リズ達の気持ちは分かっているつもりだ。私とキリト君の中を祝福こそするけれども完全に諦めた訳ではないと。どんなに強く結ばれた恋人同士でも恋愛は永遠じゃないから必ず崩壊する時は来る。それにかけて順番待ちをしていたのが彼女たち。まぁ、だからといって彼氏の浮気を容認する理由にはならないけど。
「アスナは平気なワケ? あんな噂が立ってるのがさ」
噂のというのは私がキリト君以外男性と交際しているという内容。話は少しだけ捏造されているけど実際は○○君と会って話をしたり一緒にいたりしている所を見られているだけ。スキンシップについてはむしろ上手く隠せている方だったりするしトイレの方だって結局バレる事は無かった。
まぁ…。
「噂流したの私だけどね」
「そうなの!?」
リズはガバっと起き上がって驚く。その表情はどこかありえないものを見るような顔をしながら。後ここは図書室だから一応大声出さないで欲しいんだけど。まぁ私とリズ以外人はいないけどさ。
「こらこら、ドン引きしない」
「いや、えー…、だって何の目的で?」
まぁ、理由が分からないとそんな反応もやむなしだと思うけど驚きすぎ。
「…キリト君の気を引く為よ」
「キリト?」
少し愚痴るような感じで零しながら一口だけジュースを飲む。
「最近彼とはあまり進展が無いのよね」
「そうなの?」
「デートだってあまりしなくなってし、顔合わせなんて大体学校かALOよ、エッチなんて一月以上もご無沙汰だもん、誰かさん達が相手なら直ぐ欲情するのになー」
「あ、あはは…」
にらみつけると目を逸らしながら乾いた笑いを零す我が親友ことリズベット。おいこっちを見なさいこっちを。
「…もしかしてバレてた?」
「逆になんでバレてないと思ってるのよ」
「いや反応無かったしてっきり隠せてると思ってたのよ、アスナって前に嫉妬とか顔に出してたし」
「まぁ、確かに」
「もしかしてさ、例の彼との逢引って私達の浮気のせいだったりする?」
「半分当たりだけどもう半分は不満だったからよ」
「不満?」
「私ってもしかしたらハイパーセクシュアリティにかかっているかもしれない」
「ハイセ???」
「…要するにセックス中毒ってことよ」
「セッ!? え、もしかしてヤってんの!?」
ガバっと私の方に顔を詰め寄る。近い近い。
「まぁね」
「何で悪びれもせずにドヤ顔なのさ」
「いや、彼って本当に凄いから、気絶しそうになるほど私を無茶苦茶にするから中々いいのよ」
「…人の彼氏と浮気しといてなんだけどそれってキリト相手じゃダメなの?」
見ればリズが頭痛を抑えるみたいに手を額に当ててる。キリト君を私から寝取る気満々でいるのに私がキリト君以外の男を抱いてるのが余程堪えてるらしい。
「正直に言うとキリト君のでは満足出来ないんだよね…、ていうか物足りないかも」
「どういう意味?」
「別にキリト君が嫌って訳じゃないのよ…、例えばご飯食べる時って普通に食べるか味わうするかが一般だけど今の私ってお腹いっぱいになりたいのよ」
「あー、だから中毒なのね」
「うん」
「はぁ…、私も人の事は言えないけど気持ちとしてはどうなのさ、私としてはいいニュースが聞きたいけど」
「いやだから別かれないって…」
「そっちじゃなくて例の彼についてどう思っているかだよ」
「…」
どう思っているか…、か。考えなかった訳じゃないけど今の私にとって一番難しい質問だった。
「彼ってさ、よく…、分からないんだよね」
「分からない?」
「多分私の事を意識してくれてるんだと思う…、多分、だけどその割に私をどうこうする感じとか全然ないんだよね…、こう、自分の女にしたいとかさ…、だから私の事好きかどうか少し分からないんだよね」
「この前は結構強引な奴に見えたしアスナの事好きなんじゃない? 実際あんたを連れ去ったじゃん」
「あれは私の方が挑発していたからよ…、○○君は普段から受け身で自分から手を出すような事はしないわ…、彼、私の方から何もしないと絶対に抱いたりしないもん」
「ふーん」
「気持ちとしては今でもキリト君が好きよ…、例え私に隠れて色んな女の子を何人侍らせようとも最終的に私の傍にいればいいし…、でも」
「でも?」
「…○○君、凄く手放したくないんだよね、こう、いつまでも傍にいて欲しいっていうか寂しいって時に慰めて欲しい存在みたいな…、この気持ち…、多分好きとは別な…」
「いやそれが好きって事では?」
リズに指摘されて改めてこの感情が好きと認識してみる。まぁ薄々そうなんじゃないかって私も思っていたんだ。思っていたんだけど何だかなぁ…。
「うーん恋にしては何かキリト君の時と凄く違うんだよねぇ」
百歩譲ってこの感情が恋と仮定しても出会い、シチュエーション、これまでの付き合いからしてそういう体験が恋に繋がるものだろうか。キリト君のように何かしらのドラマチックなイベントを起こしたわけでもないのに。でも気になるのは確かなんだよねぇ…、やはり身体がいいのか。
「そうは言うけどアスナだって違いが分かるほど色んな男性との恋愛経験が豊富って訳でもないでしょ」
失礼な。恋愛に関してはそうかも知れないが経験人数ならそれなりに豊富だから多少の理解はあるわよ。浮気しても普通の範疇を超えてないリズには言えないから口には出さないけどさ。
「はぁ、恋なのかなぁ…」
「きっと恋だよそうに違いない、相手も同じ気持ちに違いないし両想いだねウン」
「あんた私から恋人を横取りしたいだけでしょ」
「バレたか」
相手が友達じゃなかったら今頃首をはねているところだわ。
「因みにさ、キリトに例の○○君の事を話したらどうする?」
「別にどうもしないわ、バレてもいいとも思っていたし」
「おや、強気じゃないですか」
「○○君の方から声をかけてたならともかく実際は私の方から彼を求めているんだよね」
「あー、受け身って言ってたもんね」
「そう、逆ならまだしも真相は私が進んで浮気しているからキリト君は何も言えないわよ多分」
「捨てられるかもよ?」
「捨てられないわよ…、キリト君の事だから浮気の事実を知っても自分を責めながら落ち込んで逆に謝りに来るわよきっと」
「エッグっ、え、そこまで分かってて浮気してたの?」
「当たり前でしょ? 浮気が酷い夫にはいい薬になるんじゃないかなと思って」
…最近になってね。
本当は違う。本当は自分の欲望に忠実なだけだった。キリト君がそうであったように。
本当は怖い。この気持ちが本当に恋だとしたらキリト君への気持ちがどうなってしまうのか。積み重ねた時間と思い出が全て彼との肉欲で上書きされるのでは。
彼は何も悪くない。だって彼をずっと利用してたのは私の方だから。
遊びで始めた関係なのにいつの間にか私の方が惹かれてしまった。
本当は駄目なのに、直ぐに離れなきゃいけないのに、ずっと彼と一緒にいたいと思ってる。それが駄目なのに。
だからキリト君には早く目を覚めて欲しい。私の事をまだ愛してるって証明して欲しい。
でないと私は…。
「はぁ…、○○君好き、でもキリト君の事も好き」
「アスナ、人はそれを優柔不断って言うのよ」
ジュースを飲もうとするといつの間にか空になっていた事に気づく。
図書室には紙パックの空音だけがうるさく響いた。