「雪乃ちゃん。気をつけてね」
「何?姉さん」
「わかってるとは思うけど、あなたがこれから会うかも知れない人たちは全員が海千山千の魑魅魍魎。決して自分で処理できるような人物じゃないの」
「わかってるわ。姉さん。私はそこまで自分を過大評価してないわ」
「はぁ…あなた全然わかってないのね…」
陽乃はため息を吐きながら妹の雪乃を見つめる。
私のいる世界に来たいとこの妹が宣言したのはまだ風が冷たい3月の初旬。
最初は驚き、そして実は嬉しかった。
高校で幼稚な関係を続けていた妹がいつの間にか成長していて、その先に今の私と同じ目標を目指していた。
自分の後ろをついてくるだけだった妹が、将来進むべき道だと初めて意思表示をした。
私が今まで歩んで来た道を認められたような気がして、そして自分もそこへ行きたいと言われて嬉しくないわけがない。
同時に外面を繕い続ける日々の世界を理解しているのか不安になる。
対応一つ間違えれば大きく道を外れてしまうこの世界のことを。
私は妹の才能を疑ってはいない。
我が妹ながら冷静で知識も度胸も兼ね備えている逸材だ。
頑固な所はあるが…
だがそれだけで乗り切れるほどこの世界は甘くない。
「どういうことかしら?」
「あなた…自分の格好見てまだそんなこと言ってるの?」
「格好って…どこかおかしいかしら。充分フォーマルだと思うのだけれども」
「あのね、結婚式とか葬式に出席するわけじゃないの。学校の制服着ていく場じゃないのよ」
「会場の受付のお手伝いだから特に着飾る必要性はないわ」
「着飾る必要性はないけれど…大体スカート短過ぎでしょ。もっと長くしなさい。そんなんじゃ変な人に狙われるわよ。」
「あら、お父さん主催のパーティに変な人なんて来るのかしら」
「むしろ変な人しか来ないに決まってるでしょ。まともな人なんて社長や政治家になろうと思わないんだから」
つまりは世間一般の常識が通じない相手と遭遇した時にそれは露呈する。
そういう場面に雪乃が出会わないことを祈るしかない。
受付やってる間は問題ない。その席から外れた時が怖い。
「それではお父さんがまともな人でないってことになるのだけれど…とりあえずこれでいいかしら?」
陽乃は雪乃が降ろしたスカートの丈を確認し、
「パンスト履いてきなさい。デニールが高いのを」
「わかったわ」
着替えに行った雪乃の後ろ姿を見ながらため息を吐く。
比企ヶ谷くんと付き合い始めて雪乃は強かになった。
私がここまで気を揉む必要がないようにも思えるけど…
実は雪ノ下家に比企ヶ谷八幡という男が今後どういう影響を与えていくのかが楽しくてしょうがない。
お父さんは彼をどう評価するのか。
そして力を手に入れ、行使する立場に立った時にあの男がどう動くのか…
なんか専業主夫してそうな気がしてきた。
「お待たせ、姉さん。これで良いかしら」
「制服は変えないわけね…」
「ええ、問題ないわ」
今度スーツを見繕ってやろうと陽乃は心に誓っていた。
「とりあえず今日はどんな人が会場に来るのかを知っておいてね。主要な関係者全部来る予定だから」
「わかってるわ、姉さん。今日は受付だけだし、会場には入るつもりなかったから。それで問題ないでしょ?」
「それで良いわ。受付に徹していれば色々ちょっかいかけられることはないはずだから」
なるほど妹はしっかり弁えているようだ。
県会議員の娘というポジションだ。
多くはないとはいえ狙われる立場であることは承知しているようだ。
受付での打ち合わせを終えて、陽乃はパーティ会場へ向かう。
「頑張ってね、姉さん」
別れ際の雪乃の激励に陽乃の心が暖かくなった。
「雪乃ちゃんも頑張ってね」
振り返り激励する。
お父さんを手伝うと誓った妹の初仕事だ。無事に終わって欲しいと願う。
例えどんなに簡単な仕事でも。
雪乃は微笑みながらこくりとうなづき、尊敬する姉を見送ったのだった。
一通り挨拶回りを終えて受付を覗いた陽乃は一瞬顔を青ざめる。
雪乃がいない。
陽乃はすぐに平静さを取り戻す。ここで慌てる様子を見せれば急所と知られる。
海千山千の老獪さで急所を掴まれて絡め取られるわけにはいかない。
スマホを取り出して雪乃へ連絡を取る。
だが受付の業務の為、電源を落としているのか雪乃のスマホへは繋がらない。
陽乃はあえてここは動かずに近くの警備員へ雪乃の捜索を依頼した。
何度も何度もリダイヤルしながら…
受付の席に雪乃が戻って来たのは陽乃が来てから10分後であった。
「雪乃ちゃん!」
「姉さん…」
「雪乃ちゃんどこ行ってたの?勝手に席を外したらだめじゃない」
「心配かけてごめんなさい。ちょっとお客様を案内してて…」
「それはあなたの仕事じゃないでしょう。インフォメーションに繋ぎ取れば良いじゃない」
「それが連絡が繋がらなかったの。だから私が案内して…本当にごめんなさい。姉さん」
陽乃は会場内にも関わらず、あえてきつく雪乃を責める。
雪乃の傍に立つ男を牽制するためだ。
「いやあ、もうそれくらいで。急ぎの用でね。なんとか面談室に案内してもらいたくてお願いしてしまった。私も大変不用意だったと思う。大変申し訳ない」
陽乃は内心ほぞを噛む思いだった。
よりによってこの男とは…
国土交通省官僚「千葉 明彦」
表にも裏にも名前がでてくる男だ。
大きな利権の絡むこの業界で官僚として名前が知れてるということの意味。
それはこのパーティの出席者の全てがこの男が引っ張って来た予算で食い扶持を稼いでると言っても過言ではないのだ。
大体、この男が面談室の場所を知らないはずがない。
雪乃との接触を求めて起こした行動なのは明らかだった。
改めて雪乃の様子を伺う。
衣服に乱れた様子はなく、特に取り繕うような素振りもない。
薄いメイクのため見分けがつきにくいが特に変わりはないように見受けられる。
手ぐらいは握られたかも知れないけど、授業料と割り切ってもらうか…
「千葉さん。不慣れな妹がご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「いや、大丈夫ですよ。初めての会場にも関わらず、まるで自分の家のようにスムーズにに案内して貰いました。流石は雪ノ下建設の御息女と感服しました」
まるで雪乃を試したかのような口振りに歯噛みする。
「それを聞いて安心いたしました。妹の顔色が悪いようですので、失礼でなければ今日はもう下がらせようかと」
「ああ、そうして下さい。彼女のような若い女性にはこういうパーティは気疲れしてしまうかも知れませんね」
「ありがとうございます。雪乃、私達はお暇させていただきましょう」
「はい。千葉さん。本日は失礼させていただきます」
お母さんに電話し、事情を説明し雪乃と共に帰宅すると告げるとすぐ背後にお母さんの声が聞こえてきた。
「これは千葉さん、本日はご足労いただきありがとうございます」
お母さんの視線が千葉を射抜く。
こういう時のお母さんは本気で怖い。
たじろぐ千葉を尻目に私達は会場を後にした。
こうして雪乃は陽乃の目を欺いてみせた。
その30分前……
「申し訳ないが面談室へ行きたいんだ。少し遅れてしまってね。急いでるんだが」
記帳を終えた男が私に話しかけて来た。
『国土交通省 関東整備局 千葉明彦』
綺麗な字で書かれた肩書きと氏名を確認する。
国交省官僚を名乗る人物を前に館のインフォメーションへ内線を繋ぐ。
対応中なのか繋がらない。
「申し訳ありません。ちょっと対応中のようです。今しばらくお時間ください」
パーティ会場以外の施設への案内はインフォメーションの立ち会いが行う。
マニュアル通りの対応だが問題ない。
約束の時間に遅れた方に問題があるのだから。
ルールは守ってもらう。役人ならその辺は理解するだろう。
それが理解できないごり押ししてくる政治家やお山の大将の社長と比べれば弁えて貰える分、楽な部類だ。
5分を経過してもインフォメーションへは連絡がつかなかった。
受付の人と顔を見合わせる。結構焦ってる顔色を伺い、次善策を模索する。
組織上、受付もインフォメーションの下に属する。ならば私たちが案内しても問題ないはずだ。
「申し訳ありません。インフォメーションに連絡が繋がらないため、私が面談室へご案内致します」
「ああ、助かるよ。ありがとう」
私は千葉を面談室へと案内する。
「初めてお目にかけますが雪ノ下議員の御息女ですか?」
「はい。今日は初めて受付を手伝いに来ました」
「そうですか。初めてとは思えない対応で感心しました」
「いえ、私はマニュアル通りのルールに従って業務を進めているだけです」
マニュアルには書いてない事だったがルールには逸脱してない。ならば今の行為は問題無いはずだ。
面談室の扉をノックする。返事は返ってこない。
数回繰り返し、ドアのノブを回すとロックされてなかった扉は呆気なく開いた。
入った部屋はシンプルなベンチソファと姿見だけが添えられた殺風景な部屋だった。
「ここは完全防音でしかも盗聴できないように妨害電波が流されているんだ」
雪乃は自分のスマホを取り出してみた。圏外を示すマークが千葉の言葉を裏付けていた。
「雪ノ下建設の代表作だよこの建物は」
「ここもウチが建設したんですね」
「そうだね。小規模イベントホールに最新の技術を注ぎ込み、次世代型イベントホールのモデルルームとして発注したんだ」
「録音式の盗聴機対策のために調度品も最低限にしてある。つまりこの部屋の中での出来事は中に入った人だけの秘密というわけだ」
「随分と厳重に警戒されてますね」
雪乃は初めて見る政財界のトップが話し合うという部屋を興味深々で見回す。
完全防音を成し遂げる壁の素材とはなんなのだろう。
「吸音性を高めていくと部屋の中でも屋外で話しているような声に聞こえてくるだろう?」
「確かにそうですね。ただ屋外とはかなり違う感じも」
「屋外は雑音が多いからね。二人の話し声だけが聞こえるということはないから違和感を感じてしまうのだろう」
なるほどと雪乃はうなづいた。
人間は無意識のうちに無数の情報を得ながら生きている。
それを極限まで削り取られるとこうなってしまうのか…
つまり…
今雪乃が五感から得られる刺激は自分自身と、そして同じ部屋にいる千葉から発する情報のみ。
自然と意識が千葉に向けられてしまう。
千葉の何気ない動作や表情にも注目し、言葉だけでなく吐息まで聞き分け、微かに漂ってくる臭いに鼻を啜る。
千葉の吐息が…荒い…
私みたいな娘に興奮してるのだろうか…
否応なしに感じてしまう千葉の存在感に雪乃はどこか奇妙な居心地の悪さを感じ初めていた。
千葉へと集中させられる意識を紛らわせるように姿見の方へ近づき自分の姿を写す。
総武高校の制服に身を包んだ私が少し紅潮した表情でそこに立っていた。
特に身だしなみを直す場所は無さそうだ。
鏡越しに千葉が近づいてくるのがわかり、振り返る。
饒舌だった千葉が無言だ。
その荒くなっていく息遣いに雪乃は自分が嵌められたことを悟った。
完全防音、圏外のスマホ、壁掛けの姿見。
その全てが雪乃を追い詰めるための罠。
なす術なく姿見の鏡に貼り付けられてしまった雪乃の顎に手を添え、上向きにされてしまった雪乃の頬は赤く染まっていた。
この部屋に入ってから意識させられ続けた千葉の仕草に己に対する欲情を確かに感じ、いつの間にかあてられてしまっていた。
比企谷くん…助けて…
魅入られたように千葉から目を離せない。千葉の息遣いに合わせるように荒く早くなる呼吸。
外界から完全に隔離された部屋で目の前の男のアピールに集中させられ続けた雪乃の女が目を覚ます。
抵抗すべき時に雪乃は抵抗出来なかった。
本能に揺さぶられながらも心の中で、比企谷へ助けを求めていた雪乃の唇が奪われる。
「んっ…」
押し付けられる千葉の唇に雪乃は圧倒された。
駄目と思いつつも求められていることに身体が熱くなっていった。
固く閉じた唇の間に舌を差し込まれて千葉が本気なのだと悟った。
閉じた空間で感じられるのはひたすらに私を求める男の愛撫とそれに昂っていく自分の身体の感覚のみ。
時間の感覚も失われ、どれだけの唇の攻防を繰り返したのかわからない。
しかし少しずつ緩んでいく雪乃の唇は千葉を受け入れつつあった。
唇に集中していた雪乃の無防備な両足の付け根に千葉の手が触れる。
熱く潤み始めていた秘所に触れられ、雪乃の心の防壁が崩れていく。
開いてしまった口内に侵入した舌が雪乃の舌を追い回す。逃げ回る舌を追い詰め、絡め取り、唾液を流し込み、混ぜ合わせて啜る。
口内を汚辱されることに仄暗い肉欲を目覚めさせながらも両手で千葉の手を抑えてそれ以上の侵食を食い止めようと足掻く。
しかし隔離された空間に響く水音は次第に大きくなっていき、雪乃の口から漏れる声は徐々に艶を帯びていった。
雪乃の心に快楽とともに千葉という男が侵食していった…
車中で陽乃は語りかける。
「雪乃ちゃん?」
「何?姉さん」
「あんた、あの男に変なことされてない?」
「別に何もなかったわ」
「だったら良いけど。多分これからも千葉からちょっかいあると思うけど絶対返事しちゃダメよ」
「わかってるわ、姉さん」
雪乃は身体に植え付けられた快楽の記憶に股間を潤ませながら陽乃を欺き続けた。
今すこし、注意を払っていれば…
のちに陽乃はこの日のことを後悔した。
自分の部屋に入り、雪乃はベッドの上に大の字に寝転んだ。
衝撃的な経験だった。
まさか自分があんなことをされるなんて…
思い出すと今でも顔が真っ赤に染まる。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
キスをされながら、スカートの中へ手を入れられた。
下着の上を指先でなぞられる度に身体が震え、力が抜けていった…
最後には自分からも舌を絡めていった。
なんであんなことになったのかわからない。
大して広くないとはいえ逃げられたはずだ。
だけど近づいてくる千葉から距離を取るでもなく、容易く絡め取られてしまった。
最初に感じたのは恐怖だった。
最後までまさかと思っていた。
唇を奪われてからはパニックに陥り、我を取り戻す頃は快感に飲まれ始めていた。
「あん…」
いつのまにか股間へと伸びていた右手の刺激に思わず声が漏れる。
自分の口からこんな艶のある声が出るのかと驚きながらも右手で弄っていく…千葉の動きを思い出しながら…
『明日、お昼空いてるかい』
雪乃の敏感な場所を揺らしながら千葉は聞いて来た。平日の昼間なんて空いてるわけがない。
『あぁん、あん、あん、んんっ』
ましてや喘ぐばかりで返事ができない雪乃に一方的に場所と時間を告げ千葉の手はその動きを激しくしていった。
『ああっ!あああっ!あっ!』
生まれて初めての絶頂に雪乃を導いて千葉は嘲笑った。
ビクンビクンと痙攣する雪乃をその腕に抱きながら…
千葉に嘲笑われながら雪乃は自分がその手の中に落ちたと知った。
「あれ?雪ノ下は?」
「ゆきのんならまだ見てないよ」
「鍵閉まってたから今日はまだ来てないみたいですね」
「ちょっとラインしてみるね」
「あれ、ゴミいちゃんは自分の彼女の予定も知らないの?」
「それ以上はやめろ、死ぬぞ。俺が」
「ありゃ、未読のままだ。取り込んでるのかも」
実家の仕事で何かあったのだろうか。
漠然とした不安が比企谷の心を覆っていった…
某所一室
「ん…んむ…ちゅぱ…」
初老の男と黒髪の少女は舌を絡め合っていた。
胡座をかいた男の上に跨るように鎮座し、その薄い胸を男の胸板に押し付けながらしがみつき、夢中に男の唇を貪る。
必死にしがみつく少女の細い腕とは対称的に男の手は細い腰に軽くあてがわれている。
どちらがこのセックスの主導権を握っているのかは明らかだった。
ベッドのシーツについた血痕は数時間前に散らした少女の破瓜の痕跡だ。
だが数時間に渡って男の肉棒に慣らされていった少女の秘所は今やその剛直をスムーズに飲み込みつつ、ジュブジュブと音を立てながら抽挿される度に白濁した液体を滴らせていた。
熟れていった少女の愛液でもあり、何度も少女の中に放たれた男の精でもある。
雲の切れ目から差し込む夕陽に少女の身体が照らされる。
昼過ぎから全身余すことなく男の手と舌に嬲られ続けた身体は汗と唾液に濡れ、男の腰の動きに併せて艶めかしくくねっている。
男を知り女の悦びを教え込まれた17歳の身体は淫らに開花させられていた。
行ったら戻れなくなると知りつつ男の腕の中に飛び込んだ少女の勇気と愚かな判断に祝福を。
男の腰が跳ね始める。
本来なら冷徹である少女の理性を男の肉棒にすり潰されながら、少女は何度目かもわからない絶頂に押し上げられていった。
こんなはずじゃ…
長い髪を振り乱し、膣壁を激しく抉られながら少女…雪乃はこの部屋に入ってしまったことを後悔する。
あの一室での出来事を盾に自分の都合の良い条件を引き出そうと…
薄い胸を激しく上下に揺らし、膣内で千葉の肉棒を締め付けながら雪乃はこの部屋で押し倒された時、処女を散らした時を思い出す。
あの時と同じように唇を奪われてそのまま流されるように千葉の舌を、手を受け入れていった。身体を走る快感に背中を押されるように溺れていった…
アソコを舐められるなんて想像もしてなかった。
熱い粘膜から与えられる刺激に抗えなかった。
そして…そして…私は…
腰を支えていた千葉の手が雪乃の秘所へと伸びていく。
まただ…この男は私の息の根を止める時に必ずソコを弄りにくる。
雪乃の急所に親指の腹を添え、バウンドする腰の動きに合わせて刺激する。
ああ…きた…またこれでイカされる。
雪乃の思考は飲み込まれ、降りてしまった子宮を何度も突き上げられながら果てていった。
「明後日の夜は空いてる?」
「空いてます」
私と千葉との関係は八幡が解決するまで続けられた。