ありがとうございます!!
「お~じ~さ~ん~お~そ~い!」
休日の昼下がり。
人の往来が増え始めた駅前に、彼女はいた。
肩にかかるくらいの長さで揃えられた暖色気味の白髪を揺らしながら、彼女は俺に向かって手を振っている。
今日はいつもの制服姿じゃない。半袖の赤いジャケットと黒いトップスを重ね着し、スカートから伸びる健康的な太腿を晒したデニムパンツを履いている。
その格好も相まってか、いつもより大人びて見えた。
だけど、大きく手を振っているせいで髪止め代わりのリボンが揺れていて……それが少し子供っぽく見えてしまう。
「ごめんね、ちさとちゃん」
「も~時間は有限なんだよ? 遅刻なんて許さないんだから!…………って言いたいところだけど、おじさんだから仕方ないよね。それに、私もちょっと遅れちゃったし……」
「うん、それじゃあ行こっか」
「うんっ!」
そう言って笑う彼女の笑顔はとても眩しくて、思わず見惚れてしまいそうになるほどだった。
でも俺はそんな気持ちを抑えながら、彼女に背を向けるように歩き出していく。
「えへへ、おじさんの隣♪」
隣を歩く彼女が嬉しそうな声を上げる。
俺の腕に抱きつき、身体を寄せてくる。
ふわりとした甘い香りと共に、柔らかい感触が伝わってきた。
「あの、ちさとちゃん?」
「ん~どうしたの?」
「その……腕を組む必要はあるのかなって思って……」
「あるよ~だってデートだもん!」
「いや、それはわかってるんだけど……。でもほら、周りからの視線とかもあるしさ……」
チラリと周囲を見渡す。
すると、通り過ぎる人の多くがこちらを見ていて、中には驚いた表情を浮かべている人もいる。
そして何よりも恥ずかしいのが、すれ違う人が男女問わず皆俺たちのことを見ていることだ。
もちろん恋人同士と思われるような目で見られることは嬉しいけど、同時にすごく気まずく感じる。
特に、隣にいる彼女を見るたびに心臓が激しく脈打ってしまう自分が嫌になる。
「大丈夫だよ~気にしない気にしない♪」
「うぅ……わかったよ……」
結局折れてしまった。
きっと、こういうところがダメなんだろうなぁと思う。
もっと大人の余裕を持って対応できたらいいんだろうけど……。
「やったー! おじさん大好き♡」
「はいはい」
満面の笑みで言う彼女に苦笑いを浮かべながら、駅へと向かって歩いていった。
電車に乗って数十分後、いつものように他愛も無い世間話をしつつ俺達は目的の場所まで辿り着いた。
そこは所謂コスプレショップと呼ばれるところで、アニメのキャラクターの衣装だったりゲームに登場する武器なんかが置いてあったりする。
店内に入ると、やはり女性客が多い気がする。
男一人だとどうしても浮いてしまう。
「ねぇねぇおじさん! これ見てみて!この銃、すっごいリアルだよっ。特にこのグリップのところとか!」
キラキラとした瞳で商品棚にある衣装を手に取るちさとちゃん。
どうやらこの店に置いてあるものに興味津々のようだ。
確かに、普段こういった場所に来なければなかなか目にする機会は無いかもしれない。
かくいう俺もあまり来たことがないわけだけど。
「ちさとちゃんには似合いそうだね」
「ホント!? じゃあさ、試着してみるね!」
そう言うなり、彼女はレジの方へ向かっていく。
「えっと、お願いします!」
「はい、かしこまりました」
店員さんに服を渡した途端、すぐにカーテンで仕切られたスペースに入っていく。……なんだか、本当に着替えるみたいだ。
一体どんな格好を見せてくれるんだろう? 期待半分不安半分といった感じだ。
「お待たせ~!」
しばらく待つと、カーテンが開きちさとちゃんが出てきた。
その姿を見た瞬間―――俺は息をすることすら忘れてしまうほどの衝撃を受けた。
そこに立っていたのは……『魔法少女』だったのだ。
フリル付きの白いブラウスの上に赤いジャケットを羽織っていて、スカートから伸びる脚を黒のタイツで覆われている。
そして頭には大きなリボンが付いたカチューシャを付けていて、まるで物語に出てくる女の子のような姿をしていた。
「ふふ~ん。どうかな、おじさん?」
得意げな顔をしながらくるりと一回転。スカートの裾がひらりと舞う。
その仕草も可愛らしくて、思わず見惚れてしまうほどだった。
しかしそれ以上に気になったのは、その服装についている名札に書かれた文字である。
正直可愛いと思った。こんな姿の彼女を独り占めできるなんて、幸せ者以外の何物でもないんじゃないかって思えるくらいだ。
「うん、凄くいいよ」
「でしょ~」
相変わらず自信ありげに話すが、俺の言葉を聞いて少し嬉しそうに笑うちさとちゃん。
そんな姿を見ているだけで、自然と口元が緩んでしまう。
「じゃあ次はこっちね!」
「えっ!?」
再びカーテンの向こう側へ消えていく彼女。
まさかとは思ったけど、今度は別の服を着てくるつもりらしい。
ドキドキしながら待っていると、しばらくしてからまた姿を見せてくれた。
「じゃーん! メイドさんだよっ♪」
ちさとちゃんはそう言ってスカートの裾を摘まむようにしてポーズを取る。
その仕草はとても可愛らしくて、思わずドキッとしてしまう。
「えへへ、おじさんこういうの好きかなって思って。どう、似合ってるかにゃ?」
「うん、とてもよく似合っているよ」
「えへへ、当然だよ♪」
するとまたカーテンを閉めて着替え始めるちさとちゃん。どうやら、まだなにかあるらしい。
「おぉ。これなんだろ?」
隔てられている一枚の薄い布越しから、声が聞こえてくる。
当然俺にはその内実を確かめる術は、ちさとちゃんからカーテンを開けてくれてくれるほかない。
「ん~よくわからないけど、とりあえず着てみようかな?」
ゴソゴソと何かをしている音が聞こえる。
何を着けているのか気になるところだけど、それを訊ねる勇気は無かった。
「よし、おっけ~!」
すると、勢い良くカーテンが開く。
「ど、どう……かな……?」
そこには、先ほどとは毛色の違う衣装が待っていた。
まず言及すると魔法少女やメイドのようなフリフリの衣装ではない。かといって露出度が多いわけでもない。
それでいて、全体的にシンプルなデザインなのも印象的だった。
肌触りの良さそうな白い布地のトップスに、ズボンというにはあまりにも布面積が小さく見える赤いそれはもはやショーツと同じと言ってよかった。
「お…おじさん?」
ちさとちゃんが身につけていたのは体操着。
それも俺の世代ですら化石と言われているブルマと呼ばれる代物である。
「……」
「おじさん? お~い」
「あっ……ごめん。あまりにもよく似合っていたものだから、つい……」
「えぇ~本当? 嬉しい♡」
照れ臭くて顔を背ける俺とは対照的に、満面の笑みを浮かべるちさとちゃん。
恥ずかしい気持ちはもちろんあったけれど、それよりも彼女が喜んでくれていることが嬉しかった。
きっと彼女のことだから、俺のことを喜ばせるために色々と頑張ったんだろう。
しかし、今の彼女は今までの衣装と比べてダントツで俺の好みにハマっていた。
特にブルマのおかげで露わになった太もものラインがくっきり見えていて、より一層艶めかしさが際立っているように感じる。
「どうしたのおじさん?」
「あぁごめんごめん。なんでもないよ」
「変なの。でもそっかぁ、おじさんもこういうの好きなんだね!」
「えっ!?」
「だってすっごく見てたもん」
「いや……その……えっと……うん」
確かにちさとちゃんのことばかり見ていたかもしれない。
なんせこんなにも可愛い女の子が目の前にいるんだ。見惚れてしまうのは仕方ないことだと思う。
「ふふっ、素直でよろしい! じゃあ次はこれ着るね!」
そう言うなり、ちさとちゃんはカーテンの向こう側へと消えていく。どうやら、彼女のファッションショーはまだ始まったばかりのようだった。
そして――
「あー楽しかったー」
両手を大きく広げながら伸びをするちさとちゃん。
あれからしばらく、俺達は店内で色々な服を見て回った。
最初は恥ずかしかったけど、段々慣れてきて今はもうすっかり平常心を取り戻している。
むしろ今ではこの店に来て良かったと思っているくらいだ。
「最近はたきなと出かけたりすることの方が多かったけど、たまにはおじさんとも遊ぶのも楽しいかも」
「そうだね」
つい苦笑にもとれるような笑みを浮かべてしまう。
たきなちゃんの名前を出されたからだ。先日あれだけのことをした現場をちさとちゃんに目撃されたから妙に心臓に悪い。
「でもよかったの? 衣装たくさん買ってくれたけど」
「うん。前にボーナス入ったから」
「そう? なら甘えちゃおっかな~」
そもそもあまりお金を使う予定がないから貯まる一方だし、それに今日は可愛い女の子とデートできたようなものだから、それだけで満足である。
いや、少しだけウソをついた。
俺とちさとちゃんは道なりに歩いて行くとある場所に辿り着いた。
ある意味、一番の目的がまだ済んでいないのだから。
「あ…ここって」
そこはアルファベットでホテルと書かれているが、脇の看板には休憩やらフリータイムやらの文言が並んでいる。
俺はもちろんだが、彼女もこの場所がどういう場所なのかすぐに理解してくれた。
「な~んだそういうことか~。おじさんも男の子だねぇ」
「あはは……まあね」
「いいよ。最近たきながうるさいから二人であまりできなかったし」
俺の腕にしがみつくようにして密着してくるちさとちゃん。
見下ろすと胸元が見えてしまいそうになるので、視線を上に向けると、ちょうど上目遣いの彼女と目が合う。
すると、悪戯っぽく笑うと彼女はこう言った。
「じゃあおじさん、最初は何来て欲しい?」