「まさか、冥界から既にいなくなっていたとは」
そう言いながら、俺は冥界でようやく辿り着いたイングヴィルドに関する記録。
その記録は、イングヴィルドを攫ったと思われる上級悪魔の屋敷を捜索している中で発見することが出来たものだ。
屋敷は既にもぬけの殻だったようだが、それでもイングヴィルドがそこにいたことは間違いないだろう。
そして、そんなことならもうとっくにイングヴィルドの居場所を探し当てている。
「それにしても、なぜ海に?」
この上級悪魔の記録によれば、イングヴィルドの中にある悪魔の血とは別に何かが海に関係している事をイングヴィルドは未だに眠っているから知らない。
だけど、それを悪用する事は目に見えて分かる。
そして、それを許せないという気持ちが確かにある。
「よし、このまま海を越えてみようか」
既にこの冥界で調べるべき情報はない。
そして、イングヴィルドの力を最大限利用する為に、海にある現時点の拠点から移動する可能性はない。
ならば、次に、その拠点へと向かって、イングヴィルドを取り戻した時は、ある意味、長い旅の一つの決着が着く事になるだろうな。
俺は、まだ見ぬ拠点を目指して再び海を渡る事にした。
それと共に、俺は冥界から地上に向かって、海へ出るまでの道を辿ることにした。
「にしても、10年ぶりに地上に出たけど、結構地上も発展したな」
10年前に地上に出た時でも、既にかなりの街が出来ていた。
しかし、今はその数倍はあるんじゃないかと思うほどだ。
現在は1980年。
俺がかつて生きた時代まで、あと40年は近づくだろう。
「その頃には100歳か。
なんというか、本当だったら爺さんなのに、変な気分だな」
まぁいいや。とりあえずは、イングヴィルドを取り戻す事に専念しよう。
だが、その時は確実に近づいていた。
「それにしても、海を越えるにはどうするか」
そう言いながら、俺は海岸近くに来ていた。
さすがに現代に近い事もあって、自動車が多く走っている。
そんな中でどうやって海を渡ろうか迷っていた。
すると、目の前に一台の車が通り過ぎる。
「あんたか?
爺様の言っていた友人は?」
「あんたは?」
「俺は杉本ってんだ。
あんたが言っていた爺さんの知り合いだよ」
杉本と名乗った男は、どこか気さくな雰囲気の男だった。
それよりも杉本って、まさか。
「もしかして、あぁ!」
確かに、その顔には、俺の知り合いである杉本の面影があった。
「それで、なんで俺に」
「爺様から、いずれこれを渡せって頼まれてな」
そう言い、杉本が案内された先にあったのは。
「これって、船!?」
「いずれ、海を渡るから必要になるからって、爺様が用意してくれたんだ。
整備もばっちりだぜ」
「けど、本当に良いのか?」
「婆様も世話になったらしいからな」
「婆様って、もしかして、アシリパちゃん!?」
「おう、知っているな」
その年齢差は分からないが、あの時のアシリパちゃんが生きていれば、今は80代前後くらいだろうか。
しかし、これで海を渡ることが出来るぞ。
「ありがとうな、そのあいつらは今は」
「……天寿を全うしたよ」
そう、寂しげに呟いた。
「そうか」
確かに、あれからもう60年は経っている。
もしかしたら、生きているかもしれないという期待していた。
でも、それももう叶わないんだな。
それから少しだけ話をして別れた。
そして、俺が乗る船は2日後に出航する予定だそうだ。
「墓はあるのか?」
「あぁ、けど、ここからじゃ、少し遠いぞ。
山道だから、車でも」
「なぁに、問題ないよ。
場所は、そのアシリパが住んでいた村だよな」
「あぁ、そうだが」
「ありがとう」
俺はそれだけ言い、歩いて行く。
これまでも、多くの戦いをくり抜けてきた。
それでも、未だに鮮明に思い出すあの1年。
俺はそんな懐かしさと共に。
そして、イングヴィルドを取り戻す決意を行う為に。