「ようやく、日本での暮らしにも慣れた」
そう言いながら、俺は疲れながらも、現在の住まいとなっている一軒家にあるソファに座る。
かつて住んでいた頃に比べれば、未だに発展している途中の場所というのは分かる。
それでも、これまでほとんど野宿のような暮らしが多かった俺からしたら、安心して暮らせるこの家はかなり良かった。
「それに、さすがにイングヴィルドを野宿させる訳にはいかないからな」
それと共に、俺は今はこの家の一室で寝ているイングヴィルドを見つめる。
未だに眠り病の治療の目処は立っていない。
それでも、彼女を守る為にもここで暮らすしか無かった。
俺は、何よりもまずはイングヴィルドの命を守らなければならない。
それが、俺が彼女を守る為に出来る最善の事だと思っていた。
そんな事を考えながら、これからの事を考える。
「これまでは過去で、未だに機械文明が発達していなかったからこそできなかった。
だけど、今の、この時代ならばできる事は多い」
既に1980年頃に入るこの時代。
1970年代中ごろに普及し始めた8ビットマイクロプロセッサを用いて、ごく限定された機能・性能ながら個人の計算やデータ処理を行うことができ、価格的にも手が届くコンピュータが作られるようになった。
そして、一応は現代の知識と、物に意志を宿す事ができる能力を使えば、その技術を一気に進化させる事ができる。もちろん、まだまだ色々な壁はあるだろうけど、それでもこの時代にない技術を使って物作りをするのは難しい事では無いはずだ。
むしろ、現代の方が、昔よりも様々な分野の研究が進んでいると言ってもいいかもしれないくらいだった。
そう考えると、なんだか色々とやりたくてしょうがない気持ちになるのだが、とりあえずは目の前の問題であるイングヴィルドの病状について考えるべきだろう。
未来の医療現場では当たり前に使われている物を再現する事は難しく無い。
だが、それはあくまで治療の過程での話だ。
そもそも、現代の医学でも原因不明とされている病気に対して、どうすればいいのか?
それが分からなければ、対処療法以上のことはできないし、根本的な解決にはならない。
だが、物の意志を実体化する事ができれば、その症状をより詳しく聞く事が可能だ。
「そういう意味では、これからは別の意味で責任を負わなければならない」
既にある物に意志を宿させるのではなく、俺自身がその物を作り、意志を宿させる。
それには、命を作り出す責任を持たなければならない。
「それでも、俺はイングヴィルドを助けたい。
だからこそ」
俺はそれと共に、覚悟を決める。