※この作品はR-18です。

穢されても……俺は――   作:若杉優太(テト/teto)

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必ず、助ける……!

 遅い……あまりにも遅すぎる。

 待てど暮らせど、[[rb:あいつ > ・・・]]は戻ってこない。

 

「どうしよう……綱。このまま、戻ってこなかったら……」

「大丈夫だ主、必ずあいつは戻って来る……」

 

 一旦、小さな洞窟に主の身を隠しているが、彼女の様子を見る限りでは精神的にも限界が近くなっている。

 それは、傍にうずくまっていたマシュも同じだった。

 

「先輩の令呪は残っていない状況、それにカルデアとの通信も上手くいかない……一体、どうすれば……?」

 

 二人共が絶望に顔を歪ませ、身体を震えさせている状態……今の状況でまともに動けるのは俺だけだ。

 だが、迂闊に主とマシュを置いて外へ行くわけにはいかない。

 

「(茨木……何処へ行ったんだ……?)」

 

 一匹の鬼が居ないかと、洞窟の外から見える景色を覗いてみるが、全て緑の木々と草に覆われており、茨木らしき者は確認できない。

 探しに行こうにも暗闇で視界は閉ざされ、至る所に存在する敵エネミーのせいで、安易に外へ出てしまえば敵エネミーの袋叩きに合うことは間違いない。

 こんな状況になってしまっては、ひたすらに茨木の無事を祈るしかない……俺はいつの間にか、血が出る程に拳を握り締めていた。

 

「(何処に……?何処に居るんだ……ッ!茨木……!)」

 

 焦燥感に身を焼かれ、ますます握りしめた拳から血が伝った時。

 不意にマスターが俺へ声を掛ける。

 

「綱……私はマシュと一緒に居るから、貴方は彼女の所へ行ってあげて……」

「……ッ!?主、それは承諾出来ない。この森の中でもし主とはぐれでもしたら――」

「大丈夫……これがあれば」

 

 そう言って主は懐から、小型の通信機を取り出す。

 

「これは……?」

「それは、ダヴィンチちゃんに非常用に渡されていた物。それさえあれば現在位置も知らせられるし、私の通信機器との通信もできる」

 

 主が通信機の電源を入れると、通信機の液晶に現在の位置と特異点の大まかな地図が表示される。

 ここから一番近い敵エネミーの情報や地形的な特徴、人が住む集落の情報などが詰め込まれていた。

 

「表示されている赤い点がカルデアの英霊や関係者という証、それ以外の黒い点は全て敵と考えていいよ。つまり……私達以外の赤い点があれば、それは茨木童子ってことになるね」

「なるほど、それさえあれば位置の把握が容易になると……」

「そう、だからさ――これは綱が使って」

「……ッ!」

 

 真剣な眼差しで俺を見つめ、その通信機器をマスターは俺の眼前に突き付ける。

 しかし、俺はその提案を素直に受け入れることは出来ない。

 

「主よ……俺は貴方を守ることが優先事項だ。茨木の為だけに、貴方を危険に晒すなど――」

「いいから、受け取って」

 

 頑として意思を曲げようとしないマスター、その瞳からは「いいから茨木を助けに行け」という思いがひしひしと伝わってくる。

 だが、俺の答えは変わらない。

 

「駄目だ。俺は貴方を危険に晒すことはできない」

 

 突き付けられた通信機から目を逸らし、再度洞窟の外へ目を向ける。

 確かに主の気持ちも理解できた。俺も出来ることなら茨木を助ける為に探し回りたい……しかし何よりも大切なのは茨木ではなくマスターだ。

 万が一にでも主の命が失われる危険性がある状況で、あいつを助けに行く判断をする訳には行かない。

 そもそも勝手に飛び出した茨木に原因が――

 

「本当にそれでいいの?」

「………ッ!?」

 

 少し声のトーンを落とした主の声に反応し、俺は咄嗟に後ろを振り返る。

 振り返った時に主が見せた顔は今にも泣き出してしまいそうで……辛そうな表情をしていた。

 

「ここで彼女を見捨てて、本当に後悔しない……?」

「……っ!それは……」

「もう二度と彼女と会話も交わせず、笑顔も見れない。それで納得するの?」

 

 納得できる訳がない。俺は主の問いに迷わず心の中で反射的に答える。

 

「(俺はあいつと、まだ十分に言葉すら交わせていない。なのにこんな所で別れるなんて、俺は……!)」

 

 殺していたはずの怒りの感情が蘇り、いつの間にか拳を再度握り締めていた。

 あいつを見殺しにできる訳がない……できることなら俺の手で救い出す。

 ――絶対に……絶対に、だ……

 

「綱、行ってあげて……カルデアとの通信もできない以上は貴方しか彼女を助けに行ってあげられないんだよ……?」

「……っ」

 

 主は先程持っていた通信機を俺の手に握らせ、念を押す様に言葉を重ねる。

 縋る様に俺を見つめる主。しかし、俺の心はそれでも決断ができずに揺れ動いていた。

 

「(本当に行って良いのだろうか……?もし、マスターの身に何かあれば……)」

 

 今すぐ洞窟から走り出して茨木を助けに行きたい思いと、主の元を離れる訳にはいかないという思い……二つの思いが二律背反し、俺の決断を遅らせている。

 ――どうするべきか?いや、どうしたらいいんだ?

 そんな誰かに答えを求めたくなる程に葛藤を続ける俺を救ってくれたのは、突然俺の手に重ねられたマシュの温かな手と言葉だった。

 

「先輩は私が守ります……だから、茨木さんを探しに行ってあげてください……!」

「……!マシュ……」

 

 うずくまらせていたはずの身体を起こして、俺へと訴えかけるマシュ。

 唇を震わせ、足や腕を震わせながらも彼女は強い瞳で俺を見つめた。

 これから先どうなるかという不安を抱えながらも、瞳に宿した俺への信頼。それを見て、黙っている訳にはいかない。

 俺は葛藤する心を振り払い、決意を持って口を開く。

 

「……分かった。茨木の事は、俺に任せてくれ……」

 

「綱……!」

「綱さん……!」

 

 握らされていた通信機を受け取り、俺は二人の瞳を見つめる。

 

「(主……それにマシュ、貴方達は強いな……)」

 

 カルデアとの通信が上手くいかないという緊急事態にも関わらず、仲間の事を優先する姿勢。

 それらは俺の目に危うく映ることもあったが、今の彼女達の行動や言動を見ていると、決して無謀な姿勢ではなく覚悟を持って、その姿勢を貫いていることがよく分かった。

 彼女達なら大丈夫……俺はそんな確信を抱き、洞窟の外へ身体を向ける。

 

「気を付けてね……綱……」

「ああ、こんな所で死ぬつもりはない」

 

 心配する主に言葉で応じ、俺は一歩……また一歩と洞窟の外へ足を踏み出す。

 

「(待っていろ茨木、お前は必ず俺が……見つける!)」

 

 主とマシュ、二人の温かな視線を受けつつ、俺は再度決意を新たにし洞窟の外へと駆けていくのだった。

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