目覚め。それはカラスの鳴き声によってもたらされる。
「ん……ぅ……」
霧が掛かった意識が少しずつ晴れ、少しずつ前が見えてくる。
ぼんやりとしながらも、吾は手足を動かそうとしてみる……が、何故か手足は思うように動かず、その代わりにジャラジャラと鎖が擦れる音が聞こえてきた。
「動かぬ……何故だ……?」
言うことを聞かない手足の方へ目を向けると、手と足には頑丈な枷がはめられている。
枷からは鎖が伸びており、手枷を天井で釘打ちし、足枷を地面へと打ち付けて吾を宙吊りにしていることが分かった。
「(一体、ここは何処なのだ……?吾は消滅したはずではなかったのか?)」
意識を失う直前に感じた、霊基が崩れ行く感覚。もう駄目だと覚悟は決めていたが、こうして消滅を避けられたのなら儲けもの……混乱する頭を整理し、吾は現状把握に努めることにした。
「(地面に敷き詰められた藁、そして鼻へ来る獣臭……ここは家畜小屋……?)」
だが、家畜小屋と言っても周囲には家畜は一頭も居ない。
部屋の面積も家畜を育てるには小さく、家畜小屋というには趣味の悪い拷問器具が部屋の隅に飾られていることから、絶対に家畜小屋ではないと断言できる。
――逃げなければ……
そう直感で感じていると、突然……部屋のドアが開いた。
「よぉ!元気にしてるか?鬼ちゃん……?」
「……ッ!?」
吾が思わず目を見開かせてドアへ目線を送った先に居たのは、気を失う前に散々吾を挑発した男だった。
「この……ッ!よくも吾をこんな風に扱ってくれたな――ッ!」
「おお、怖い怖い……やっぱり枷を付けておいて正解だったぜ」
考えるよりも先に身体を動かし、吾は枷を引き千切らんとする勢いで男へと迫ろうとする。
下種な男に一矢報いてやろう……そう思って必死に枷を外す為にもがくが、男は余裕の笑みを見せたまま、こちらへと近づいてきた。
「さっきまで死に掛けていたっていうのに、もうそんな元気があるとは……これは今後に期待ができそうだな?」
「うるさい……ッ!解放されたら、汝から喰い殺してやる……ッ!!」
そう。きっとマスターやマシュ、それに……頼りたくはないけれど綱が助けに来てくれるはずだ。
男の汚い身なりと獣のような目を見る限り、恐らくは山賊か追い剥ぎだろうが、そんな奴らなど吾が解放されれば一瞬で殲滅できることは間違いない。
吾を見下すこいつが命乞いをする姿。それを想像し、吾は男へ不遜な笑みを返してやる。
「汝のような奴などマシュや綱に掛かれば、すぐ挽肉になるわ……!くく……精々、それまで勝利の美酒に酔うといい!」
余裕の笑みを浮かべていた男を逆に笑ってやると、不意に男は真顔になった。
「そうか……あいつらはお前の仲間か」
「……?」
「いや、丁度さっき桃色髪の女と銀髪の男を捕まえたって聞いたからよ……そいつらを殺すか、奴隷として売り飛ばすか考えてたんだ」
「……ッ!?」
男の意味ありげな話を理解した瞬間、吾の背筋に冷たい物が走った。
目の前の男が話した内容に出てきた男と女。偶然にしては、自分が知っている人物に髪の色が似通い過ぎている。
どうせ、ハッタリに決まってる……そう思って男の顔を伺うが、男の表情は嘘を付いているようには見えない。
「俺は別に殺そうが、奴隷として売り飛ばそうがどっちでもいいんだが……まぁ、お前次第だ。俺達に従順であれば二人の待遇は考えてやるし、抵抗するんであれば二人は即座に殺す……簡単だろ?」
「……っ!」
さっきのように吾を嘲笑う訳ことをせず、男は吾を試す様に問いかける。
「(綱とマシュが捕まるはずなどない……ないはず……だが、もし本当に捕まっていたとしたら……?)」
今の所、マシュと綱が捕まったことを示す証拠は無い。
しかしながら、男の顔を見る限りでは捕まった可能性を捨てきることも出来ないのが現実。
男がもし本当の事を言っているならば、吾がこのまま抵抗を続けると問答無用でマシュも綱も殺されてしまうことになる。
どうするべきか?判断に迷う吾に、男は追い打ちを掛けてくる。
「答えを出すなら、早くした方がいいぞ?さっき俺の仲間が色々と[[rb:道具 > ・・]]を用意してたからな」
「く……ッ!」
下種な奴め……そう口に出したいが、今この男の機嫌を損ねてしまえばマシュと綱の命が危ないかもしれない。
全ての可能性が捨てきれない中、吾は遂に重い口を開いた。
「……分かった……吾は汝達に従うと、誓おう……」
屈辱に顔を滲ませつつ、吾は男から目を逸らしながら言葉を言い切る。
たかが人間如きに絶対言いたくなかった服従の言葉。それを言わされていることに、吾は思わず男へ噛みついてしまいそうだ。
「ふっ……賢い選択だ。鬼にも仲間を想う気持ちはあるんだな?」
「……」
感心したように言葉を投げかける男の言葉を無視し、吾は沈黙を決め込む。
「だんまりか、まぁ……それぐらいの反抗なら許してやる。ただし、俺達が遊ぶ時に少しでも抵抗したら、お前の仲間はあの世へ直行することを忘れるなよ?」
この男が言う遊ぶとは、きっと吾の身体を弄ぶことを指しているのだろう。
拷問を受けるか、犯されるのどちらか……そのどちらも抵抗は許されず、全てを受け入れなければいけない。
綱とマシュが捕まっている事を仮定すると、助けを期待するのも絶望的だが、吾はそれでも助けを待つ。
「(さっきの話を聞く限り、マスターは捕まっていない。ならばきっとカルデアから酒吞が来てくれるはず……!)」
僅かな希望を頼りにし、吾は弱気になってしまいそうな心を奮い立たせる。
それがいとも簡単に崩れるとも知らずに……
これから一体、何をされるのだろう?恐怖と緊張で身体を強張らせていた吾だったが、予想に反して男は懐から鍵を取り出し、いきなり吾の手枷や足枷を外し始めた。
「……何故、吾の枷を外す?」
「ん?別にお前が俺達に従順なら、枷なんて要らねぇだろ。それにお前を宙吊りにしたままだと、俺達の遊びもやりづらいしな」
そういうことか。マシュや綱を人質に取っている今、さっきのように吾が襲い掛かってくる心配も無いから、枷を外しても問題ないと。
完全に舐められている……そう思うと怒りがこみ上げてくるが、ここは何とか怒りを抑えるように努め、外されてゆく枷をじっと見つめる。
右足、左足……右手。
テンポよく枷は外されてゆき、最後に左手の枷を外した時には地面へ落下しそうになるが、すんでの所で男が吾を両手でキャッチした。
「っと……!どうだ?枷を外された気分は?」
「……最悪に決まっておろう」
「そうか、そりゃあ良かったな」
一瞬でも抱き抱えられたことに不快感を覚え男を睨みつけると、男は薄ら笑いを浮かべつつ、吾を地面へ下ろした。
「さて、これからお前で色々と遊ぶんだが……まずは服から変えてもらうとするか」
男はそう言うと、部屋に置いてあったタンスから一着の麻服を取り出し、吾の前へ放り投げる。
「着物と下着を脱いで、今投げた服に着替えろ。いいな?」
「……っ!分かった……」
渋々ながら男の言葉に従い、吾はその服をとりあえずは着ることにした。
上半身だけ用意された服は見た目からして囚人や奴隷が着ているようなみすぼらしい麻服だ。本当は着たくもないが、吾は必死に感情を押し殺して、着ていた着物を脱ぎ始める。
「(何故、服を脱ぐ所を見られなければならんのだ……ッ!)」
下種な男の視線に晒されてゆく吾の身体。それだけで自分の首を切って死にたくなる程の羞恥心に襲われた。
マシュと綱の為……!そう思うことで何とか感情を抑え、素早く着物と下着を脱ぎ去った。
「へぇ、意外と胸はあるんだな」
「う、うるさい!すぐ着替えてやる……!」
感心した様子で吾の胸を見つめる男から胸を覆い隠し、さっさと麻服を身体の上へ被らせる。
この麻服は見た目のみすぼらしさと比例して、やはり着心地は最悪だ。
肌に麻の繊維が刺さっているのか、着ているだけで身体が痒くなってくる。
見た目に関しても最悪だ。胸は少し目を凝らせばすぐに見えてしまい、下半身に至っては全く隠れておらず、吾の性器がすぐに覗ける状態……明らかにこの麻服は女に羞恥心を与える為に作られた物で間違いなかった。
「いいじゃねぇか、似合ってるぜ?」
「外道が……この報いは必ず受けてもらうぞ……ッ!」
「へいへい、できるものならやってみるんだな……まぁ、やった瞬間お前の仲間はもれなく首だけの状態になるだろうが」
「く……ッ!」
「とりあえず、着替えが終わったなら早速遊ばせてもらおうか?」
吾の鋭い視線を軽く受け流し、男は自身の履いていた股引を脱ぎ始める。
下着のような役割を担っている股引の下から出てくるのは、既にパンパンに膨れ上がり勃起をしていた男の肉棒……生で見た事は何回かあるが、まさか間近で見ることになるとは。
「まずはこれを綺麗にしてもらおう……しっかりしゃぶれよ?」
「っ……!それを、吾が……?」
見た事はあった人間の男性器。しかし、いざ目の前で見てしまうと、そそり立つ肉棒が何か恐ろしい化物のように思えてしまう。
だが、そんなことで怯んではいられない。
臆病になっている自分を奮い立たせ、吾は震える身体を抑えながら男の下半身まで膝を屈ませる。
「(うっ……!やはりこいつ、風呂へ入っておらぬな……!)」
眼前まで迫った肉棒から放たれる腐った魚類の匂い。
匂いを嗅いだだけでも胃の中の物を戻してしまいそうだが、全ては綱とマシュの為に……吾は我慢して見せる。
「おーい、まだか?」
「い、今からやる!少し待て!」
退屈そうな顔を浮かべる男に言葉を返し、吾は肉棒へ口を近づける。
口を抑えたくなる程の匂いだったが、それでも口を抑えずに大きく口を開け――吾は肉棒を口内へ収めた。
「んっ……!ぉ……え……ッ!?」
まずは少しずつしゃぶっていこう。そう思い先端部分から口を付けたが、口を付けた瞬間口内へ広がる生臭い香りは尋常じゃない物だった。
――気持ち悪い、気持ち悪い……ッ!
脳が必死に口を離せと命令してくるが、ここで口を離してしまえば男が何をしでかすか分からない。
綱とマシュ。二人の顔を思い浮かべつつ、吾は必死に肉棒をしゃぶる。
「おお……!中々、いいな……慣れてないのに結構やるじゃねぇか!」
「じゅる……っ!ん……ッ!」
「これだったら、もう少し可愛がってやってもいいかもな」
犬猫を扱うように吾の頭を撫でる男だが、そんなことをされても全く嬉しくなどない。
早く満足しろ……!それだけを思って吾は肉棒をしゃぶり続ける。
「れる……っ!れる……ッ!じゅる……ッ!」
じわじわとこみ上げてくる吐き気を抑えて、肉棒をしゃぶる吾の姿。
部屋には肉棒をしゃぶる度に出る唾液が、卑猥な音を部屋中へ響かせた。
その卑猥な音が大きくなる程、男の肉棒は気持ちよさそうに吾の口内でビクビクと跳ね、肉棒を更に大きくしていく。
「ああ……上手いぞ、もっとだ……!」
「んん……ッ!?」
されるがままだった男は突然、吾の角を掴んで肉棒を口内の奥深くへ突き入れた。
「ぅ……ッ!?」
「苦しいか?だが、安心しろ。すぐに終わらせてやるから、よ……!」
「……ッ!ぉ……ご……ッ!」
息苦しさのあまり白目を剥く吾に構わず、男は突き入れた肉棒を素早く抜き差しを始め、気持ちよさそうに天を仰ぐ。
「(し、ぬ……!死んでしまう……ッ!)」
肉棒が口内を占領しているせいでまともに空気を取り込めない吾は、ただ息苦しさと戦うばかりだ。
そして、ここになって大きくなっていく男の肉棒。その肉棒からは妙にしょっぱい液が流れ始め、亀頭の部分も最初よりも数倍膨れ上がっていた。
――まさか射精するつもりなのか……?
心の中で一瞬思ってしまった予感。それはすぐに的中することになった。
「そろそろ出すぞ……!いいな……ッ!?」
「……ッ!?ん――ッ!!」
「ああ、悪い!出る――ッ!」
男の言葉に対して『出すなッ!出すな……ッ!』と念じた吾だったが、その言葉は届かずに次の瞬間……無情にも男の肉棒は脈動を始め出す。
「んぐ……ぅ……ッ!!」
男が肉棒の動きを止めた瞬間、一瞬の内にどくどくと吾の口内へ溢れる白濁汁。
肉棒を咥えた時の倍はあるであろう生臭い香りが、口だけでなく鼻をも犯し尽くし、吾の吐き気を煽っていく。
最初は、こんな気持ちの悪い物を飲む訳にはいかない……!そう思って必死に舌の上へ白濁汁を留めていたが、絶え間なく続く肉棒の射精と息苦しさに屈し、仕方なく白濁汁を嚥下する。
「(苦い……それに臭い……ッ!うっ……うっ……!何故、吾がこんな物を飲まなければならんのだ……!)」
仲間の為とはいえ、人間の性処理として使われる吾の姿。
鬼から娼婦へ成り下がった自分を情けなく思い、悔し涙を流す。
なるべく酸素を取り込む為にひたすら放出される白濁汁を飲み込む地獄の時間。それが終わったのは射精から数十秒後のことだ。
「ふぅ……中々良かったぜ。おい、口を見せろ」
「ん……あー……」
「よしよし、ちゃんと飲んでるな」
射精が終わり、肉棒を抜いた男へ大きく口を開ける吾の腑抜けた顔。
肉棒を咥える前は男への復讐心に燃えていたはずだったが、すっかりそんな思いや心は消え去ってしまった。
「見た目がガキだったから、性処理なんてできねぇと思ってたが……こいつは”教育”したら使えるな」
「う……ぁ……ぁ」
まだ性交すらしていないというのに吾の身体は、すっかり雄に支配される恐怖でその場に座り込んでしまう。
これからどんな仕打ちを受けるのか?男から身体を舐め回すような目線を受けつつ、吾はその未来を悲観するしかなかった。
…………
……
…
「どこだ……!茨木……!」
暗闇の中を駆け抜けながら、俺は夜の山奥に響き渡るように力の限り叫び続ける。
主から授かった通信機の情報では、敵エネミーを指す黒い点が数個がこの付近に集結していると表示されていた。
それもただ集結しているわけではなく、赤い点を囲うようにして……
「(絶対に居るはずだ……!なのに何故見つからない……ッ!?)」
通信機を見る限り、この付近であることは間違いないはずなのだ。
だが、どれだけ付近を見渡しても一向に敵エネミーの集結している様子は見られない。
焦燥と怒り。二つの思いが徐々に俺の心も、時間すらも蝕んでいく。
「(く……ッ!やはり、もう一度この辺りを探すしか……――ん?)」
焦っていた俺の思考を落ち着かせるように遠くから聞こえる僅かな足音……それは獣の足音ではなく、紛れもない人の足音だ。
一人、いや二人程の足音は、徐々にこちらへと迫ってきている。
「(通信機からの反応を見ても、敵エネミーなのは違いない。ならば、後を付ければ何か分かるかもしれんな)」
咄嗟にそう閃くと、俺はひとまず傍にあった茂みへ姿を隠す。
早く茨木の元へ行かねば……そんな思いを必死に抑え込み、数十秒の間茂みで待ち続けていると、だんだん足音だけでなく声も聞こえ始めてきた。
『今日は――が――を捕まえたらしい』
『本当か……!?まさか――を?』
やはり茂み越しで聞いているせいか、あまり話の内容が聞き取れなかったが少なくとも足音の人物は男であり、茨木の行方についても知っている可能性があることは分かった。
主達が身を隠す洞窟から出てから、かれこれ数時間は経過してしまっている今、おそらくこれが最後の茨木を見つける機会になる。
「(茨木……必ず、お前を見つける。だから、それまでは生きていてくれ……!)」
ただひたすらにあいつの生存を願いつつ、俺は機会を見計らって茂みから抜け出し、近くへ迫ってきていた二人の男の後ろをこっそりと追う。
それが、茨木の行方を知る手掛かりになると信じて――