リンズ姫がズオウ様にあんなことやこんなことをされて可愛がられちゃうお話 作:buitre
しれっと再開。方針変更します。俺のやりたいようにやる!
リンズ周りをバッチリ書きました。
せっかくなので原作誌には出来ないことをしたい。ゲハハ(ゲス顔)
原作がアレでナニだからこれは完結させてやりたいね。何年掛かっても。
待って貰えるかなー?
いいよね、だって原作はいくら待ってもはじまら…
それはそうと……
どんどん応援してね!(ニッコリ)
これ一番大事w 今作は質量最大、合わせて労力作成時間最大(俺比)。
あれおかしいこんなはずじゃ無かったんだけどな…。要活力継続力意欲。
時間掛かっても諸々の合間でやれる時に書く+マイナー、終了、話題すら無しのロンリー3連コンボに相当の要求も無しのもう1連だと完全にトドメ打ち切りエター
ヒノワやってみてはどうですか
「リンズ様、宜しいでしょうか?」
畳いっぱいに敷かれた豪奢な庇の向こうから聞き慣れた声がした。
―――天狼国
ここは国王に目をつけられ、囲われた女達が住まう後宮――通称花園。
一見すると高価な着物で化粧を施した容姿の整った女達が整列する絢爛な場所である。しかし、内実は我先に国王の寵愛を得ようとする女達の欲望と愛憎、果ては殺意の交錯する熾烈な空間であった。
今、その花園の中でも最も奥まった、ひときわ広く開放的な部屋の真ん中で若い女が二人対座していた。襖の手前には花柄をあしらった華麗な打掛の女、そしてもうひとりは小柄で地味な風情だがキリリと袴を腰高に締めている。いずれも十の後半だろう。顔立ちや着衣から覗く肌には張りがある。瞳はくっきりとし、表情は引き締まり、知性を伺わせる。
双方この場所に気後れしない容姿だが、中でも打掛の少女は傍から見ても抜きん出ていた。出会う者の視線を釘付けにし、興味を持たせずにはいられない程人目を引くのである。色白の吸い込まれるような雪肌、柔らかな緋の髪は下肢まで届き、頸の位置で長紐縛りにしている。ふっくらとした頬は薄塗りにし、やや垂れた眦、小さな唇には朱をさし華を添えている。
――その美貌は甘美にして至高。気高く、凜としているがそれでいて威圧感は無く、優美な印象すら余人に与える。元より凡百の人間とは生まれも育ちも違うのだろう。少女はこの花園の中でも他の追随を許さぬ程目立っていた。ゆえに、国の主が最も目を掛けている女の一人なのである。
元蒼海国第二王女、天狼国王ズオウが第五夫人。
名は――リンズと言う。
だが今はその可憐な雰囲気に似つかわしくない位表情は険しく、ことに桜色に彩った唇はぎゅっと一文字に結ばれていた。女二人の間には重々しい空気が鎮座している。
沈黙を破ったのはリンズだった。
「……いま、今何と仰いましたか……」
動揺を隠しきれず、声が上擦っていた。鈍器で頭を殴られたようにクラクラしていた。今言われた事、全てが嘘であって欲しかった。
対して、もうひとりの女――イロハが何事も無かったかのように淡々と述べた。リンズの願いとは裏腹に、処刑宣告のように彼女の胸に突き刺さった。
「はい。今一度申し上げます。先程ズオウ様がお帰りになられました。リンズ様へと言伝を賜っております。『今夜、湯殿へ参上せよ』と」
「……何ですってっ」
聞き違いでは無かった――、その言葉に典雅な相貌が凍り付いた。
***
「どういう事でしょうっ、花園の役目では無いはずですよ」
やはり動揺は隠しきれない。それでも上擦りそうになる声をあらん限り抑え、平静になろうと声音を整えて問うた。
「はい。その通りです。本来お役目ではございません。何でも伝え聞いた話によると、此度の遠征でズオウ様の湯の世話係が負傷したと」
湯の世話係――、その単語に記憶の片隅を探った。リンズと同じ年頃の少年。何度か見かけたが驚く位にズオウに絶対の信頼を寄せ、それなりに腕も立つのでズオウも側近としているようだ。到底理解出来無いが、あれ程いつも近くにいるからには当人はズオウの傍にいる事を生き甲斐としている様子。やや軽薄そうに見えたが
だが―――
「だからと言って私が受ける役目では無いでしょう」
冷静になるとこの少女に訴えても仕様の無い話だが、どうにも焦りが先行し、誰でも良いからと言わずにはいられなかった。しかし、少女はリンズの動揺を予め見越していたようだ。存外これまで通り、落ち着きを払った調子で言う。
「ですが、ズオウ様が仰っています。『これは命令である』と」
「っ………」
『命令』――リンズはその言葉を持ち出されると非常に弱い。彼女が妃に治まっているのは何も望んでの事では無い。天狼軍に攻め入られ故国の城が陥落する際、ズオウが直々に乗り込んできて人質とした侍女の命を懸けリンズを手籠めにし、強制的に娶られたのだ(イロハや今日はまだ姿を見せていないネムリも蒼海の兵士だったが戦利品として連れて来られ、リンズの女官兼花園の警備係に治まっている)。
そして現在も侍女の命がダシに使われ、命令に従わざるを得ない状況が作られ続けている。リンズは国が堕ちるまで当然だが処女だった。しかし、花園に連れて来られてからはズオウが頻繁に体を求めてくるため、不本意だが手順だったり、熱さだったり、触れてくる手の感触だったりと閨事とはこういうものだと心とは別に体が理解してしまっていた。湯の世話といっても世話だけで済まされないのは目に見えているし、一度受けてしまえば今後もという事にもなりかねないから嫌な物は嫌である。でも命令とあらば……。どうしたら良いものか。
如何にしたらこの危機を避けられるのか形の良い眉を寄せ逡巡していると、少女が不意に近づいて来た。
「リンズ様、御髪に埃が……」
彼女は常に周囲を警戒している。天井裏にズオウが監視で付けた者がいるからだ。だが傍から見るとそうは思わせない自然な素振りであった。
少女が声を潜めて言う。
「リンズ様、これは好機です。―――を取り、奴が―――になる時。これを使わない手はありません。―――――のです」
「!?」
紡がれた言葉に吃驚した。今日はイロハが訪ねて来てから動揺しっ放しだ。確かに彼女の言う通りだった。これを逃したらもうまたと回って来ないのではないか。しかし、そう易々と達成出来るのか。
「果たしてそう上手く行くのでしょうか。あなたも前仰っていたでしょう、ズオウは常に身辺を警護させていると」
「はい、仰る通りです。ですが、湯場にまではいません。万が一上手く行かなかったとしてもズオウはあなたの命は取りませんし、あなたの体に傷はつけません。あなたは天狼でも絶大な支持を得、民に好かれているのですから」
「好かれているだけではどうにもなりません……」
「いいえ、重要な事です。あなたの歌は国を越えて民衆を奮起させます。貴重な能力をお持ちなのです。とにかくズオウを脅す事が大切なのです。『これ以上お前の好きにはさせない。“海の民は死んではいない”』と」
「…………!」
天狼軍が攻めて来る前、生まれてこのかたリンズはいつも幸せだった。王家の次女として生まれ、蒼い海と豊かな大地に囲まれた環境で育ち、巡察で行く先々では歌姫として国民を鼓舞し、熱狂的な声援を得、愛されて育った。豪放磊落だが国民の事や国の行く末を一番に案じていた父、頼りになる兄に、口喧しくなりがちだが優しい母と姉、そして――、最愛の人。農民の出だったが強い意志と不屈の努力で武将に昇り詰め、リンズとの結婚を懸けた闘いに勝ち、将来を誓い合った最愛の人――ヒサメ。あの謹厳実直、朴訥な少年の事が思い出される。
争いが激化するさなか、この闘いに勝ったら祝言を上げ二人で幸せな家庭を築こうと約束した。だがヒサメはズオウとの決闘に敗れ、四肢胴体を切断され、リンズもズオウに操を奪われた。兄も前線で首を撥ねられ、両親や姉も処刑された。
蒼海国は天狼国の領地となったが民は元の場所で生活している。しかしながら、圧政に虐げられていると聞く。以前この少女と誓ったように、何の武力も無い自分に出来るのはこの身を使ってズオウを誘惑し、堕落させ、天狼国を滅亡させる事である。と同時に生き残った蒼海の民がこれ以上恐怖に震え上がったり、苦しむのを止めなくてはならない。蒼海国の姫としての最後の務めだと思っている。
――私の大事な人達は蒼海のために闘い、守り、そして殉じた。私は何の役にも立たず、穢されこの国に連れて来られた。一時は自らの運命を嘆き悲しみ、呪った。でもイロハに諭された。『この体を使ってズオウを骨抜きにし、天狼を弱らせるのです』と――。
『その美貌にて籠絡し、傾国に導け』――遙か昔ワコク創世の頃、地上に天女が降り立ったという。女は絶世の美女でとある大国の王に近づき、あふるるばかりの魅力で誘惑し堕落させ、遂には国ごと破滅に追い込んだという伝説がある。リンズは以前王族教育で戒例として習ったが、桎梏に囚われた今となっては非力な自分にはこれしかない。もう絶望に打ち拉がれて泣くだけの人生は終わった。私が切り開くのだ。自分自身で活路を見出し、この国を終わらせてやる――。リンズは固く誓ったのだった。
リンズはひとつ決意を胸に秘め、周囲に良く通る声できっぱりと告げた。
「分かりました。呼び出しが掛かったら声を掛けて下さい。すぐに向かいます」
***
「リンズ様、後でお迎えに上がります」
湯殿へと繋がる仰々しい門まで送って行くと、少女がそう言い残し、離れていく。小さな背中がより小さくなっていなくなるまで見送った。心に決めても戸惑い、足が遠のいてしまう。ズオウはリンズにひとりで来るよう命じた。出来る事なら関わりたくない。
だが――
(やると決めた以上、言い逃れは出来ません)
リンズは目を閉じ心を落ち着けると、重厚な作りのそれに手を掛けた。
中には誰もいなかったが、男物の寝着が綺麗に折り畳まれて置かれていた。ここ最近は見なくて済んだが、否が応でも良く見る代物である。もちろん、あの男のだ。急に身近に感じられ、ハアと溜息が零れた。
もう決意が揺らいでしまったのか。こんな事では目的を達成できない。しっかりせねば。
(何をやっているのでしょう。ダメよ、やると決めたのよ。負けてはいけません)
意を決してリンズは着物を脱いだ。持参した襦袢型、膝丈の白い湯衣に袖を通し、緩まぬようしっかりと帯を締めた。長紐で束ねていた髪は頭の上部でさらに纏めた。
いよいよか――
敵陣に乗り込む前の心境だ。木製の扉を前に両手を胸の前で重ね、目を閉じて深呼吸を繰り返した。脳裡に大切な者達の顔が浮かぶ。天に向かって志を表す。願いなどでは無い。確実に達成させるから……。
(父様、母様、兄様姉様、ヒサメ……、今日で終わらせます。どうか見守っていて下さい……)
そう胸の裡で話しかけるとひと息で扉を開けた。
そこはいつもの見慣れた光景だった。王族専用の湯殿。人数はそこそこなのにとにかく呆れる程広い。扉の左手に木張りの湯船、正面が通路となっており、椅子と湯桶が端の方にいくつか重ねられている。行燈の芯が掻き立てられ、夜の居室以上に明るい場所である。湯口からは大量の湯が噴き出し、時折ザザっと派手に湯船から溢れ出ては打ち寄せる波のごとく曳いていく。毎度ながら凄い熱気だ。今までで一番熱いのではないか。立っているだけなのにジワリと汗が滲み出てくる。
それにしても……、あの男がいない。
やはりホッとする。思わず体の力が抜け、胸を撫で下ろしたその時――
「待ちくたびれたぞ、妻よ」
「!?」
前方からの声に心臓が跳ねる。
「久しぶりだな」
もうもうと立ち上る湯気の中に浮かぶ人影。
離れた所からでも垣間見えるがっしりとした体躯の髭を生やした中年の男。
湯船の奥から現れたのは今会わなくてはいけなくて、けれど世の中で一番会いたくない男だった。
**
男――ズオウは片手を上げ、手招きをする。直ぐ傍には徳利とぐい呑みに手拭を乗せた盆が湯に浮かんでいる。
「どうした、早く入って来ないか」
「別に待たせてなどいません。勝手にお待ちになっていただけでしょう。私は言いつけられて仕方無く来ました。あくまでも湯の世話をしに来ただけです」
プイッと顔を背ける。考えずともつっけんどんに返していた。下々の者が聞くと卒倒する発言だろう。明らかな口答え、国王に返すにはあり得ない物言いである。リンズは普段からこの調子なのだ。番になってもそこに愛情など無い。早くズオウが死んでこの関係が終わってしまうが良い。
強く
「まあ良い」
ズオウはリンズの素っ気ない態度には取り合わず、フンと息をつくと、立ち上がった。ザバッと湯水が勢い良く跳ね、湯船から溢れた。そそくさと湯船から出て椅子を持って来るとドカッと尊大に腰掛けた。腰には布が巻かれている。
「余は此度の戦役にていたく消耗した。さあやれ」
「ご自分でなされば宜しいでしょう。それとも世話の者がいないと出来無いのですか、呆れた方ですね」
嫌味のひとつでも言ってやらないとどうにも気が済まなかった。でもこうして優位に立てるなど思い返してみても初めてだった。途端、清々しさが胸に満ち渡る。些細な事だが嬉しい。
うふふっ……
内心リンズが勝ち誇ったようにほくそ笑んでいると、焦れたのかズオウが苛々を滲ませながら言い放った。
「早くつべこべ言ってないでやれ。余は気が長い方ではない。――これは命令である」
「…………」
またいつもの手を引き合いに出してくる。卑怯なやり方に胃の底が熱くなる。心地良さを得たのはほんの束の間だった。この男の『伝家の宝刀』にはうんざりさせられる。リンズの立場を把握した上で逆らえないように仕向けられているのだ。
だがそれも今日までの事だ。臨終で後悔するがいい。
リンズは唇でそっと半月を作り、手にしていた白布を湯桶の中に入れた。