※この作品はR-18です。

別世界線のユーニとの淫靡な記憶   作:氷見 逢

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三、肩車

「——瞳に送っといたから。じゃあ、二人に頼むな」

「了解」

 

 フォーチュンクローバーを二人で探した日から数えて六日ほど経った。

 それ以降は特に二人だけの時間があったわけじゃない。私は特務部隊として、普段はノアやランツと一緒に行動する。ショウは別の部隊だから、行動が一緒になることは少ない。アグヌスとの戦闘は無くとも、訓練はほぼ毎日あるし、訓練以外でもやることは常に目白押しだ。

 そんなこんなで、特に何があるわけでもない日々を過ごしていたのだが——、

 

「ったく……せっかくの休憩時間だってのに……」

「ですよね……」

 

 軍務長からたまたま近くにいたショウと一緒に呼び出され、キャッスルから届いた物資を備蓄する倉庫に行って、不足した物資を持ってくるように命令されてしまったのだ。

 倉庫はコロニー9の裏口近くにある。訓練場からは遠く離れたところにあり、人気のない物静かな雰囲気だ。

 

「それで、何を持ってけば良いんだっけ?」

「えっと……携帯口糧(レーション)と包帯だったと思います」

 

 んな大事なもん常に手元にあるようにしとけよ、とぼやきながら、倉庫の立て付けの悪い扉を力任せに開ける。

 倉庫の中は薄暗く、じめっとしている。あまり長くは居続けたくないものだ。

 倉庫を隅々まで調べて、目当ての物資を探しているが、なかなか見つからない。さっさと見つけて帰らないといけないのに、と少し苛立ちを覚え始めた頃、ショウが「ありました!」と声を上げた。

 

「やっとあったか……、さっさと帰ろうぜ」

「いえ、それが……あんなところにあるんです」

「は?」

 

 私がショウに近づいて、そう声をかけると、ショウは気まずそうな顔をして上を向き、指をさした。

 ショウの指の先には、携帯口糧と記載されたコンテナ。それは、五層に分かれた棚の一番上にあった。

 手を伸ばして取ろうにも、ショウですら手が届きそうにない。ショウより拳ひとつ以上背の低い私には、もっと無理だ。辺りを見回しても、ハシゴや仮設階段はない。棚に足を掛けるのは不安定だし、コンテナがどれくらいの重量かわからないから危険だろう。

 

「よし。ショウ、私を肩車してくれ」

「えっ……」

 

 私がそう言うと、ショウは目をぱちくりさせて、私を見つめてきた。

 

「良いんですか、それ?」

「何がだよ」

「体勢的に、僕がユーニさんの脚持つことになりますけど」

 

 それがどうしたんだよ、と思ったところで、この前のことをまた思い出した。

 一週間前、私から触らせたとはいえ、公衆浴場で胸を散々揉まれまくったこと。キスまでされかけたこと。そして、何でも一回命令できる権利を握られたこと。あれから時間が経って忘れかけられていたというのに。

 そういえば、まだあの命令権は使用されていない。いつ来るのかと気にしているのももう疲れた。

 

「……変態。ってかあんだけ胸揉んどいて脚くらいで何言ってんだ。ほら、さっさとしゃがめ。変な気起こすなよ」

「はーい……」

 

 ショウがあーだこーだ言うのを封じて、無理やり屈ませる。背後から頭を挟むように脚を入れ、肩にお尻を乗せる。少し恥ずかしい体勢だが仕方ない。

 私が下になって、ショウを肩車することも考えたが、そっちは即座に却下した。パワーアシストがあるから、持ち上げるのは苦でも何でもないが、やっぱり肩車は男が女を持ち上げるのが理想形だろう?

 いっせーのーで、と声を合わせ、ショウが曲げた膝をゆっくりと伸ばす。ショウが膝を伸ばし切った時、コンテナは私の目の前にあった。

 私が手を伸ばして、コンテナを掴もうとした時、股間に妙な違和感を感じた。ショウの後頭部が、私に押し付けられているのである。

 

「……おい、ショウ。変な気起こすなって言ったよな?」

「わざとじゃないですって。今一番楽な体勢を探してるだけですから」

 

 ショウは頭を動かすのをやめない。私がやめろと言ってもやめない。

 そのうち、段々とその揺れが下腹に響き始めた。すると、何故だか、胸を揉まれた時と似たような、けれども少し違うような、不思議な感触が伝わってきた。

 

「ん……だから、動くなって!」

「我慢してくださいよ。ほら、さっさと僕の頭から手を離して、コンテナ取ってください」

「……動くなよ? 絶対だぞ?」

 

 恐る恐るショウの頭から手を離し、コンテナに手を伸ばす。コンテナに指先がかすかに触れたか、というところで、ショウの頭がまた、今度は大きく揺れ、私の股間を刺激してくる。

 ……少し股間が湿ったような気がする。認めたくはないが、少しずつ快感も強くなってきた気がする。

 

「おっ前! 今のはわざとだろ!」

「えー? わざとじゃないですよー」

「いーやっ! ぜってえわざとだ! わざとに決まってらあっ!」 

 

 ショウの肩にかけた脚を振り上げて、報復だと言わんばかりにショウの胸板をバシバシと踵で蹴る。

 その衝撃で、ショウの身体はバランスを崩してしまった。

 

「ちょっ……バランス崩れっ……」

「え? うわっ……やべっ」

 

 ショウが脚を滑らせ、後ろに背中から倒れてしまう。

 私は倒れまいと手を伸ばしてコンテナを棚を掴もうとするが、すんでのところで指がかすり、掴めない。

 私とショウは後ろに倒れ込んでしまった。その衝撃に耐えるように、目をぎゅっと固く瞑り、歯を食いしばる。

 

「……っつ、つつ……いってえ……後ろにマットあって助かったあ……」

「……」

 

 ユーニが恐る恐るまぶたを開け、周囲の状況を確認すると、私はマットに寝そべり、私のお腹に顔を埋めるようにしてショウがうつ伏せに倒れていた。

 ショウは黙り込んで何も言わない。

 

「……おーい? ショウ、大丈夫かー?」

「……」

「なあ。……悪かったって、さっきはやり過ぎた。謝るからさ」

 

 私が頭を撫でながら、優しくショウにそう言うと、

 

「わざとじゃないんですけど」

 

 と、ぶっきらぼうな答えが返ってきた。

 

「いや、最後のは絶対わざとだ。そこは譲らないぞ? ほら、早く起きろって、お前が立たないと私も立てないから……って、え?」

 

 いつのまにか、ショウの手が私の手を掴み、指一つ一つを交互に組み合わせるようにして手を組んできた。それも両手とも、だ。

 そしてショウは私の手を、自分の手と壁とで挟み、固定した。私の体勢は、それこそ指名手配犯のように両手を上げ、投降したかのような体勢になっている。

 

「ど、どうした? ショウ? 何で手なんか掴んで……」

「……今から、僕は、ユーニさんを襲います」

 

 何を言っているのか分からない。

 私はポカンと目を丸くして、固定された両手とショウの顔を交互に見つめた。

 襲う? どういう意味で? 物理的に? この状況でそれはおかしいだろう。じゃあどういう……

 そこまで考えたところで、はっと私は理解した。

 ショウは私を、性的な意味で襲うと言っているのだと。

 

「お前ってやつはホント……これがショウの命(・)令(・)で良いのか?」

 

 ショウはにこりと笑って首を横に振る。

 

「違いますよ」

「は? 違わないだろ、どうみても……」

「襲うって言ったのは、別に抵抗するなっていう命令じゃありません。ただの宣言です、ユーニさんを今からめちゃくちゃにするっていう宣言です」

 

 自分の顔が呆れの表情をしているのが分かる。しかし、それと同時に顔が極度に朱に染まったのも分かる。

 

「……舐めるんじゃねえ、私だって抵抗くらい出来るってんだ」

 

 私の腰に装着しているパワーアシスト。

 それは兵士の身体能力を底上げし、アグヌス兵と対等以上に渡り合うためのものだ。これがあるおかげで、私はガンロッドを軽々と振り回し、整備されていない荒れ狂った道なき道を走り続け、相手の攻撃を見切り、受け太刀や受け流すことができる。

 これがなければ、とっくに私は戦場で野垂れ死んでいるだろう。

 

「じゃあ、僕の手をはね除けてみてくださいよ」

 

 渾身の力を腕と手に込め、ショウの手を除けようとする。

 が、しかし――、

 

「……なっ、力が……入んねえ……?」

「そりゃそうですよ。ユーニさんのパワーアシスト、出力ゼロにしておきましたから」

 

 自分の目をできる限りひん剥いて、自らの腰にあるパワーアシストを視界の端でとらえる。普段青白く光るパワーアシストは、何色にも光らずに機能停止していた。

 

「お前……いつの間に」

「ついさっきですよ。……抵抗しないのなら襲いますよ」

 

 ショウの顔が、私の顔にだんだんと近づいてくる。

 これは、ア(・)レ(・)をしようとしている。両手を封じられ、ショウは私の脚の上に乗っているから、脚も動かせない。パワーアシストも使えない。

 

「ショウ、ここがどこだか分かってんのか? いくら人気がないところって言っても、私たちの帰りが遅かったら、誰かしらが探しに来るぞ?」

「無理ですよ。今は休憩時間です。それが終わるまでは、僕たちが帰ってこなくても気にしません。まだ休憩時間は一時間近くありますし」

「もし襲ったら、大声を出してやる。加害者はお前になるぞ」

「倉庫の壁は厚いですし、扉も閉めてます。出しても届かないですよ」

 

 私の発言に覆いかぶせるように食い気味に論破してくる。

 私が黙ると、ショウは再び口を開いた。

 

「まあ、でも叫べるのなら叫んでも良いですよ。……叫べるのなら」

「は? お前、何言って……」

 

 ショウの意味の分からない発言を受けて、私が口を開いて話す途中で――、

 

「んむっ!?」

 

 私の唇は、ショウの唇によって防がれた。

 キスをされたのだ。

 

 

 

 

 

 

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