「——瞳に送っといたから。じゃあ、二人に頼むな」
「了解」
フォーチュンクローバーを二人で探した日から数えて六日ほど経った。
それ以降は特に二人だけの時間があったわけじゃない。私は特務部隊として、普段はノアやランツと一緒に行動する。ショウは別の部隊だから、行動が一緒になることは少ない。アグヌスとの戦闘は無くとも、訓練はほぼ毎日あるし、訓練以外でもやることは常に目白押しだ。
そんなこんなで、特に何があるわけでもない日々を過ごしていたのだが——、
「ったく……せっかくの休憩時間だってのに……」
「ですよね……」
軍務長からたまたま近くにいたショウと一緒に呼び出され、キャッスルから届いた物資を備蓄する倉庫に行って、不足した物資を持ってくるように命令されてしまったのだ。
倉庫はコロニー9の裏口近くにある。訓練場からは遠く離れたところにあり、人気のない物静かな雰囲気だ。
「それで、何を持ってけば良いんだっけ?」
「えっと……
んな大事なもん常に手元にあるようにしとけよ、とぼやきながら、倉庫の立て付けの悪い扉を力任せに開ける。
倉庫の中は薄暗く、じめっとしている。あまり長くは居続けたくないものだ。
倉庫を隅々まで調べて、目当ての物資を探しているが、なかなか見つからない。さっさと見つけて帰らないといけないのに、と少し苛立ちを覚え始めた頃、ショウが「ありました!」と声を上げた。
「やっとあったか……、さっさと帰ろうぜ」
「いえ、それが……あんなところにあるんです」
「は?」
私がショウに近づいて、そう声をかけると、ショウは気まずそうな顔をして上を向き、指をさした。
ショウの指の先には、携帯口糧と記載されたコンテナ。それは、五層に分かれた棚の一番上にあった。
手を伸ばして取ろうにも、ショウですら手が届きそうにない。ショウより拳ひとつ以上背の低い私には、もっと無理だ。辺りを見回しても、ハシゴや仮設階段はない。棚に足を掛けるのは不安定だし、コンテナがどれくらいの重量かわからないから危険だろう。
「よし。ショウ、私を肩車してくれ」
「えっ……」
私がそう言うと、ショウは目をぱちくりさせて、私を見つめてきた。
「良いんですか、それ?」
「何がだよ」
「体勢的に、僕がユーニさんの脚持つことになりますけど」
それがどうしたんだよ、と思ったところで、この前のことをまた思い出した。
一週間前、私から触らせたとはいえ、公衆浴場で胸を散々揉まれまくったこと。キスまでされかけたこと。そして、何でも一回命令できる権利を握られたこと。あれから時間が経って忘れかけられていたというのに。
そういえば、まだあの命令権は使用されていない。いつ来るのかと気にしているのももう疲れた。
「……変態。ってかあんだけ胸揉んどいて脚くらいで何言ってんだ。ほら、さっさとしゃがめ。変な気起こすなよ」
「はーい……」
ショウがあーだこーだ言うのを封じて、無理やり屈ませる。背後から頭を挟むように脚を入れ、肩にお尻を乗せる。少し恥ずかしい体勢だが仕方ない。
私が下になって、ショウを肩車することも考えたが、そっちは即座に却下した。パワーアシストがあるから、持ち上げるのは苦でも何でもないが、やっぱり肩車は男が女を持ち上げるのが理想形だろう?
いっせーのーで、と声を合わせ、ショウが曲げた膝をゆっくりと伸ばす。ショウが膝を伸ばし切った時、コンテナは私の目の前にあった。
私が手を伸ばして、コンテナを掴もうとした時、股間に妙な違和感を感じた。ショウの後頭部が、私に押し付けられているのである。
「……おい、ショウ。変な気起こすなって言ったよな?」
「わざとじゃないですって。今一番楽な体勢を探してるだけですから」
ショウは頭を動かすのをやめない。私がやめろと言ってもやめない。
そのうち、段々とその揺れが下腹に響き始めた。すると、何故だか、胸を揉まれた時と似たような、けれども少し違うような、不思議な感触が伝わってきた。
「ん……だから、動くなって!」
「我慢してくださいよ。ほら、さっさと僕の頭から手を離して、コンテナ取ってください」
「……動くなよ? 絶対だぞ?」
恐る恐るショウの頭から手を離し、コンテナに手を伸ばす。コンテナに指先がかすかに触れたか、というところで、ショウの頭がまた、今度は大きく揺れ、私の股間を刺激してくる。
……少し股間が湿ったような気がする。認めたくはないが、少しずつ快感も強くなってきた気がする。
「おっ前! 今のはわざとだろ!」
「えー? わざとじゃないですよー」
「いーやっ! ぜってえわざとだ! わざとに決まってらあっ!」
ショウの肩にかけた脚を振り上げて、報復だと言わんばかりにショウの胸板をバシバシと踵で蹴る。
その衝撃で、ショウの身体はバランスを崩してしまった。
「ちょっ……バランス崩れっ……」
「え? うわっ……やべっ」
ショウが脚を滑らせ、後ろに背中から倒れてしまう。
私は倒れまいと手を伸ばしてコンテナを棚を掴もうとするが、すんでのところで指がかすり、掴めない。
私とショウは後ろに倒れ込んでしまった。その衝撃に耐えるように、目をぎゅっと固く瞑り、歯を食いしばる。
「……っつ、つつ……いってえ……後ろにマットあって助かったあ……」
「……」
ユーニが恐る恐るまぶたを開け、周囲の状況を確認すると、私はマットに寝そべり、私のお腹に顔を埋めるようにしてショウがうつ伏せに倒れていた。
ショウは黙り込んで何も言わない。
「……おーい? ショウ、大丈夫かー?」
「……」
「なあ。……悪かったって、さっきはやり過ぎた。謝るからさ」
私が頭を撫でながら、優しくショウにそう言うと、
「わざとじゃないんですけど」
と、ぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「いや、最後のは絶対わざとだ。そこは譲らないぞ? ほら、早く起きろって、お前が立たないと私も立てないから……って、え?」
いつのまにか、ショウの手が私の手を掴み、指一つ一つを交互に組み合わせるようにして手を組んできた。それも両手とも、だ。
そしてショウは私の手を、自分の手と壁とで挟み、固定した。私の体勢は、それこそ指名手配犯のように両手を上げ、投降したかのような体勢になっている。
「ど、どうした? ショウ? 何で手なんか掴んで……」
「……今から、僕は、ユーニさんを襲います」
何を言っているのか分からない。
私はポカンと目を丸くして、固定された両手とショウの顔を交互に見つめた。
襲う? どういう意味で? 物理的に? この状況でそれはおかしいだろう。じゃあどういう……
そこまで考えたところで、はっと私は理解した。
ショウは私を、性的な意味で襲うと言っているのだと。
「お前ってやつはホント……これがショウの
ショウはにこりと笑って首を横に振る。
「違いますよ」
「は? 違わないだろ、どうみても……」
「襲うって言ったのは、別に抵抗するなっていう命令じゃありません。ただの宣言です、ユーニさんを今からめちゃくちゃにするっていう宣言です」
自分の顔が呆れの表情をしているのが分かる。しかし、それと同時に顔が極度に朱に染まったのも分かる。
「……舐めるんじゃねえ、私だって抵抗くらい出来るってんだ」
私の腰に装着しているパワーアシスト。
それは兵士の身体能力を底上げし、アグヌス兵と対等以上に渡り合うためのものだ。これがあるおかげで、私はガンロッドを軽々と振り回し、整備されていない荒れ狂った道なき道を走り続け、相手の攻撃を見切り、受け太刀や受け流すことができる。
これがなければ、とっくに私は戦場で野垂れ死んでいるだろう。
「じゃあ、僕の手をはね除けてみてくださいよ」
渾身の力を腕と手に込め、ショウの手を除けようとする。
が、しかし――、
「……なっ、力が……入んねえ……?」
「そりゃそうですよ。ユーニさんのパワーアシスト、出力ゼロにしておきましたから」
自分の目をできる限りひん剥いて、自らの腰にあるパワーアシストを視界の端でとらえる。普段青白く光るパワーアシストは、何色にも光らずに機能停止していた。
「お前……いつの間に」
「ついさっきですよ。……抵抗しないのなら襲いますよ」
ショウの顔が、私の顔にだんだんと近づいてくる。
これは、
「ショウ、ここがどこだか分かってんのか? いくら人気がないところって言っても、私たちの帰りが遅かったら、誰かしらが探しに来るぞ?」
「無理ですよ。今は休憩時間です。それが終わるまでは、僕たちが帰ってこなくても気にしません。まだ休憩時間は一時間近くありますし」
「もし襲ったら、大声を出してやる。加害者はお前になるぞ」
「倉庫の壁は厚いですし、扉も閉めてます。出しても届かないですよ」
私の発言に覆いかぶせるように食い気味に論破してくる。
私が黙ると、ショウは再び口を開いた。
「まあ、でも叫べるのなら叫んでも良いですよ。……叫べるのなら」
「は? お前、何言って……」
ショウの意味の分からない発言を受けて、私が口を開いて話す途中で――、
「んむっ!?」
私の唇は、ショウの唇によって防がれた。
キスをされたのだ。