※この作品はR-18です。

戦禍の女達   作:早起き三文

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「白醜の修道女(前編)」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 シスター服というものは、意外と脱ぐのが大変なものだ。それでも。

 

 スゥ……

 

 これが、わたくしの仕事着。

 

「……傭兵団への慰問か」

 

 わたくしの、女性としては落第、情けないこの身体を、主への信仰の元に、隠してくれる。

 

「せめて、わたくしの同胞であるシスター達が、酷い目に遭わないように、大いなる偉大なる主よ……」

 

 聖なる、衣服。

 

 

 

――――――

 

 

 

 水浴びをするときに、嫌でも見てしまう、わたくしの裸体。

 

 ゴリィ……

 

 乳房というには、あまりにも小さい胸部。

 

 クゥ、リィ……

 

 か細い肢体、女の魅力などは欠片もない、少年のような肉体。

 

 ゴ、ツゥ……

 

 それに加えて、わたくしは顔の方も十人並み。

 

「……」

 

 しかし、そこまではまだいい。

 

「……主よ」

 

 わたくしは別に小娘ではない、すでに20の歳を超えているシスターではある。

 

「……わたくしは、別にいいのです」

 

 もちろん、わたくしの発育の悪さは、生まれつきの物だろう。

 

「すでに、この身体は神に捧げ……」

 

 昔から、誰からも女として見られなかった、わたくし。

 

――なんだぁ、てめぇは女だったのかよぉ?――

 

 男からも。

 

――貴女って、私達と同じ「シスター」って、呼べるのかしら?――

 

 女からも、馬鹿にされ。

 

「……欲情に、肉欲には決してとらわれず」

 

 しかも、慈悲深き主は。

 

 ム、リィ……

 

 わたくし自身から見ても、まさしく、でき損ないと言える女の性器。

 

「……生涯純潔の誓いも、守っておりますから」

 

 色素は黒ずみ、形は極めついて、いびつ。

 

「……殿方とも、婚約する事もありませんので」

 

 スゥ……

 

 わたくしの裸体の白さ、そこだけはかろうじて、女性としての魅力があるという、理屈もあるが。

 

 グゥ、ニ……

 

 その色白さ、それがかえってわたくしの陰部、腐敗した二枚貝の殻のような、歪んだ「線」の織り成す秘部。

 

 グ、グゥニャア……!!

 

 二本の歪んだ、赤黒い、毒々しい、腫れた「太い線」と、硬くデコボコの、その汚物にと、真横から食い込んでいる、二つの硬直した秘丘。そして。

 

「……子供を、授かる事もありませんから」

 

 そして、女性の乳房とは全く思えない胸の板、その両胸の尖端に位置する、女の蕾。

 

「……乳も、子供に与える事はありませんから」

 

 それもまた、秘部と同じく、どす黒く、その上。

 

 ムゥ……

 

 何か、地虫だか青虫の体色のような、沈んだ青みが、強くかかっている、そう例えるならば。

 

「……そう、例えるならば」

 

 腐りかけの葡萄、病気に掛かった、汚ならしい紫色を帯びた果実。それが小さく、しかし不格好に出っ張っている、不気味な、二対の葡萄の、浅い容器たる、わたくしの「胸部」

 

「……しかし、わたくしは、修道女なのです」

 

 そう、そう呟きながら、わたくしは「信仰の幸せ」に包まれながらも、それでも無意識に己の左手、それの人指し指は。

 

 スゥ……

 

 かるく、己の秘部近くへと導かれてしまう。

 

「ですので、このような物は、用を足すときにしか……」

 

 秘部、もともと男女問わず、人間の生殖器というのはグロテスクな物であるが、その中でも極めつけに歪な、わたくしの部位、それの不気味さを際立たせているのが。

 

「……そう、一つの事にしか」

 

 一本も、陰毛が、無い恥丘。

 

「……使いません、一本も、一つも、本来ならば、要らないのです」

 

 穢れを知らない、と言えば聞こえはいいが、自分がその下腹部を鏡に映したとき。

 

「……」

 

 腐った二枚貝、それの醜さが恐ろしい程に隠されず、恥骨近くの、その周辺の肌の白さもあって、まるで。

 

――白い皿に載せられた、排泄物――

 

 これもまた、生まれ持った体質、運命なのだろう。

 

「……わたくしは、慈悲深き主の御心さえあれば、いいのです」

 

 そうなのだ、わたくしは聖職者。それだけで十分だ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 これは、少し前の話になるが。

 

 サァア……

 

小さな、修道院の近くの泉で、一糸纏わぬ姿になり。

 

――フウ、今日は風が気持ちいい――

 

 自分の「醜い」裸体を晒し、身体を洗っていた最中の事。

 

――……?――

 

 シィ……

 

 何者かが、わたくしの水浴びを覗いている。確かにその気配をわたくしは、肌で感じた。

 

――あの辺りの草むらが揺れた、不自然に――

 

 いる、何者かが、破廉恥な者が、だが。

 

――……だが、だけど――

 

 だが、確かにその一瞬には、わたくしはその痴れ者に対して、軽い怒りを感じはしたが。

 

――わたくしを、女として観てくださるの……?――

 

 スゥア……

 

 風も、水も冷たい。

 

――ハァ……――

 

 しかし、徐々にわたくしは、その冷たさが感じられなくなってくる。まずは脚のつま先から。

 

 カァ、ア……

 

 熱を持ち、そして、下腹部の辺りから。

 

――ハァア、ハァ……!!――

 

 血の熱さが、どんどんわたくしの裸身を駆け上がり、胸へと、首筋へと、そして最後には。

 

 カ、アァ!!

 

 頭部にと、熱が上昇し、帯びて来るのを、わたくしは感じている。

 

――揺れている、アノ、草むらは、風とは、逆ニ……!!――

 

 そして、自分でも無意識に。

 

 クゥ……

 

 軽く、有るか無しかの胸部を反らし、そのまま。

 

 ギィ!!

 

――今、確かに、光った、ならば、わたくしは、次にここを!!――

 

 そう臀部を、硬く、女としての魅力などない、コツコツとしたその腰を、先程に前へと突きだした胸部と同じく、僅かに顔を赤めつつ。

 

――わたくしは、あの草むらからの、間違いなく、光った目に、向けて……!!――

 

 クゥ……

 

 未だの、20越えの処女の恥を感じつつも、軽く、トンと、なるべく「性的」になるように。

 

――どう、ですか?――

 

 尻を、突き出して、みせる。

 

――どうですか?――

 

 そう、あたくしは、これでも女なのです。

 

――れっきとした、女なのですよ――

 

 聖職者としては許されない、下劣な性欲。それは自分でも解ってはいるが。

 

――女と、認めて下さい――

 

 抑えられない衝動、わたくしを女として見て下さる、覗き魔への、自分でも解らない、謎めいた好意。

 

――わたくしの裸体を、貴方の頭に記憶しても、決してわたくしは、怒りません、だから――

 

 わたくしを、見て。

 

――見て、欲を感じて、下さい!!――

 

 だが、しかし。

 

――ちっ、女かよ!!――

――……!!――

 

 グゥア、ラ!!

 

 わたくしが目星を付けた草むらから響く、乱雑な葉擦れの音。

 

――つまんねぇな!!――

 

 続いて、呻くように風を伝わって聴こえてきた、罵りの言葉。

 

――あっ、アッ、アァ……!!――

 

 わたくしがいつも、周りの人間から言われている陰口、嘲りの声。

 

――どっかに、可愛い小僧はいねぇもんかなぁ!!――

――そ、そんな……!?――

 

 勝手に覗かれた挙げ句に、最初から男と間違えられ、さらには。

 

――全く、実に汚ねぇマ○コをしやがって、痩せ細った、豚女が!!――

――……!!――

 

 さらには、一方的に、女性の肉体としての「価値」を評価され、あまつさえ、不合格の烙印を「圧され」る。

 

 

 

―――――

 

 

 

 サゥ、ア……!!

 

涼しく、冷たい風が水面になびいた。

 

――夕方、夕陽……――

 

 ああ、神様、太陽が行ってしまいます。

 

――なんで……!!――

 

 ザァ、ン!!

 

 わたくしの、怒りが、嘆きが、そのまま非情な夕陽の光を浴びて。

 

 ザァ!!

 

 大自然でさえ、わたくしの心を嘲笑うように、透明の水の色から、ギラついた、吐き気のするオレンジ色に変化した、水面へ。

 

――……ナンデ!!――

 

 ザァム!!

 

 清らかな色から、穢らしい色彩へと変わった、その水面に向かって。

 

――ナンで、こんな、酷イ……!?――

 

 ガァ、ザァ!!

 

 強く、殴り付けられる。

 

……スゥ、ム!!

 

 わたくしはそのまま、滲む涙も拭かずに、自分の忌まわしい肢体を、肉体を、ゴミを、泉の中に縮こませ、その己の顔を、強く両手で覆い。

 

――わたくしは、生前に何か罪を犯したのでしょうか――

 

 男性にも、同性にも馬鹿にされ、罵られる、わたくしという。

 

――わたくし、にだって、異性への興味くらいは……!!――

 

 女の、出来損ない。

 

 

 

――――――

 

 

 

 従軍シスター、それは決して生易しい、簡単な神への奉仕ではない。

 

「薬草、煎じ薬、そして包帯に……」

 

 しかし、教会と、それに附属する修道院。それらは王国が大きなスポンサーとなっている以上、そうそう国からの要請を断る事は出来ない。

 

「金瘡の薬、これは絶対必要ですね」

 

 当然、従軍した味方の軍が敵対する、その相手の軍隊には充分に警戒する必要はある、のは当然だが。

 

「……」

 

 味方、シスターとして、健全なる奉仕を行う味方の軍。だが。

 

――ヘッヘ、良いケツしてんなぁ、尼さんよォ?――

――や、やめて下さい、悪ふざけが過ぎますよ!?――

 

 正規の軍隊にしろ、傭兵団にしろ、しまいには民兵の集団でさえ、たとえわたくし達が、どれだけ、慈悲の救済を心がけても。

 

――イャァアァ、助けテェ、ヤメテェ……!!――

 

 蹂躙される事がある。全くもって、女というのは、弱い立場である。

 

「……まあ、いいわ、あとは」

 

 あとは、教会に伝わる薬草などを使用した、怪我や病気に対しての、治療法の道具。

 

「疫病の万能薬、ニンニクにショウガ……」

 

 わたくしの噂に聴く限りでは、聖職者の中には神の奇跡、祈祷による祈りが天に届き、あたかも。

 

「……そう、どこかに、そのような魔法みたいな薬が、無いかしらね?」

 

 極一部の人間のみが使える力、魔法と呼ばれる秘術を使える聖職者もいるらしいのだが。

 

「これは、あのシスターに頼んでっと……」

 

 少なくとも、わたくしの知る限りでは、そのような本物の「奇跡」を起こした人間は、今まで一人も見たことがない。

 

「……よし、あとは悪から護る奇跡が起きるように、聖人の像を」

 

 今回の教会本部からの指示、それは、とある傭兵団に従軍シスターとして、神と人への奉仕を行う事。

 

「……偉大なる処女聖女よ」

 

 当然、起こり得る「女性」への危険、それは承知しているが。

 

「……わたくし達、神に仕える善意のシスターを、お守りください」

 

 そう、わたくし達、教会の下部であるシスターには、上層部からの命令に対して、拒否権はない。

 

 

 

――――――

 

 

 

 湿る空気、先程までの雷雨の残り香によって、重く湿気を含んで、わたくし達にのし掛かる空気。

 

「早く、医療テントへ!!」

 

 その空気、それは決して天候のせいだけではない、重い空気を切り裂き、わたくし達のリーダーである、シスター長の叫びが、月灯りの無い、夜の野営地に拡がる。

 

「大丈夫、自分で歩けるわ」

「だけど……!!」

「それより、何か腰に纏う物を下さらないかしら?」

「あっ、はっはい!!」

 

 それは一目瞭然、わたくしの目の前の女性戦士、この傭兵団のメンバーらしい彼女は、その下半身を産まれたままの姿で晒し。

 

「……神は、この方をお見捨てになったのね」

 

 ここまで自力で歩いて、帰還したのだ。

 

「ふん、全くあのクソ野郎!!」

「……」

「今度会ったら、あの汚い物を、短冊切りにしてやる!!」

 

 だが、おそらくはこの傭兵の彼女、わたくしとは同年代の女性は、相当に気丈な人間なのだろう。心に苦痛を受けているには違いないが、それを闘志に変えている。

 

「まあ、ともかく、一応治療は頼むわ、シスターさん」

「も、もちろんです、早くこっちへ!!」

「……あー、ごめん、股が痛むのよ、ちょっとヨタヨタとしか、歩けない」

「あっ、す、す、す、すみませんっ!!」

「……フフッ」

 

 わたくしは、自分のデリカシーの無さを心の内で呪いながらも、とにかく、彼女をわたくし達の医療テントの中に案内して、そこに「男性」が誰もいない事を確かめると。

 

「さっ、早くここに横になって下さい!!」

「ええ、お願い」

 

 そのままわたくしは、薄暗いテントの中で先程彼女に手渡したばかりのボロ布を。

 

「ごめんなさいね、股間が臭い女で」

「そっ、そんな、貴女は悪くない!!」

「まあ、負けたのが悪いって言う、理屈は間違ってないけど」

「……」

 

 スッ、ズゥリ……!!

 

 自分の顔を強張らせつつも、その彼女の腰周りから滑らせ、そしてわたくし達の後に付いてきた、もう一人の同年代のシスターと、軽く目配せをした。

 

「……」

 

 診たところ、命に関わる致命傷は無いと思われる。出血もほとんど止まって、流血が見られない上、そもそもここまで歩いてこれたのだ。

 

「わたくしは上半身を見ます、下の方はお願いします!!」

「任せて!!」

 

 まずは傷の消毒、毛布の上に横たわる彼女の鎧、上の身体を護る、革鎧の止め革、それの金具を外し。

 

 カチィ……

 

 その内側の衣服も脱がす。脱がすのが難しい所は、ハサミで切って、裂く。

 

「……」

 

淡いライトブルーのレースが、申し訳程度に中央に巻き付いているだけの、簡素な麻布のブラジャー。

 

「すみません、外しますね!!」

「あ、そこは多分大丈夫だと思うけど……?」

「でも、確かめなくては……!!」

「……まあ、そうね」

 

 プツゥ、ス、リィ……

 

 そして、その下着から弾けたのは、女性としての美しさに満ちた、二つの、形の良い乳房。

 

「……傷は無い、みたいです」

 

 同性である、わたくしの目から見ても、見惚れてしまう程の、魅力ある双丘。

 

 プルゥ、ン……

 

 紅く、艶やかに色付きながらも、収穫したばかりのイチゴのような初々しさ、瑞々しさがある、その先端の張り。

 

――……ドクンッ!!――

 

 わたくしの、疾病じみた、腐臭すら漂いそうな「葡萄」とは違う、本物。

 

――これが、まともな女性の乳房なんだわ――

 

 ズゥ……

 

 このような状態に、全くもって、あるまじき、醜いわたくしの嫉妬の炎。それが心に、僅かに芽生えてしまったその時、わたくしの視界の端に。

 

 キィ……

 

 近くに置いていたハサミ。彼女の衣服を切り裂く時に使われたハサミ。

 

 キィ……

 

 鈍く、テント内を力無く照らしている、カンテラの光を浴びてその刃を光らせる、ハサミ。

 

 チィ、キォ……

 

 カンテラの灯りを反射し、放たれる妖しい光、ハサミ。

 

――……!?――

 

 一瞬、わたくしの頭に、とてつもない「魔」が忍び寄る。

 

――……主よ!!――

 

 が。

 

「……どうしたの、シスターさん?」

「じょ、上半身には、異常無し!!」

「そ、そう、それは良かった……!?」

 

 わたくしとて、神に仕える従軍シスターだ、その「浅ましい」を通り越して、圧倒的な、悪魔じみたその考えを一瞬の内に、脳裏から消し去る位には癒し手、シスターとしての誇りはある。

 

「そ、そっちはどうですか!?」

「出血はあるにはあるけど、さすがは鍛えている戦士、元の強い筋肉が上手く、血止めを助けているわ」

 

 その間にも、同じシスターの仲間が、彼女の下半身、そこに幾多もある傷の診断をしつつ。

 

「あとは感染症とかの問題、染みるけど我慢してね、傭兵さん?」

「すまないわねシスターさん、助かるわ」

 

 手早く、アルコールを含んだ綿を、比較的に深いと思われる傷から、順にあてがっていく。

 

「……うん、ほとんど全ての傷は浅いわね、消毒さえすれば、あとは化膿とかの予後が、悪くならないように祈るだけ」

「上半身の方はほとんど無傷、これからわたくしは、雨の中で冷えきった彼女の身体を暖める薬湯を作ります」

「そうね、お願い」

 

 傷自体は彼女の身体中、いや下半身中に相当多く、痛々しかったが、どれも深手ではない。

 

「……あとは、望まない妊娠さえなければ、いいのだけど」

「……ちょっと、シスターさん?」

 

 後は勿論、女性の問題。肉体の「内部」と、心の傷の問題だ。

 

「……ねえ、シスターさん?」

「ええ、しかし、わたくし達には……」

「今は止めて、その話?」

「えっ、は、はいすみません!!」

「もう、いくら聖職者さんとは言え、同じ女でしょうに……」

「ほ、本当にわたくし達が悪かったです!!」

 

 ともかく、それについては、今考えてもどうしよもない。

 

「……わたくしには、彼女への慰めの言葉も、上手く見つからない」

 

 さすがに、今は横たわっている彼女から少し離れて、薬湯を作りつつ、仲間のシスターだけと、ヒソヒソと話している。

 

「……あたしたちに、お金があったら堕胎薬を検討出来るけどね……」

「ああ、あれの事ですか……」

 

 堕胎薬、それは一種類だけ聴いたことがあるが、極め付きに高価な品物。

 

「……たしか、以前にわたくしは」

 

 以前に、わたくしは修道院の年老いたシスターから、その堕胎薬の効果について、聴いた事があったが。

 

――堕胎とは名ばかり、実質は子宮破壊薬、子宮と二つの卵巣を腐敗させるによって、その子宮をただれ、ボロボロに崩れさせる、劇薬、毒物――

 

 と、修道院の長老格である彼女はそう、重々しい口調で話をしていた。

 

――最良の結果で、堕胎こそ成功するが、子宮は全て破壊される。中程度の結果で、その腐敗による毒が心の臓に廻り、その者の死亡――

――……最悪は?――

 

 そのわたくしの問い、それには、彼女は何も返事をしなかった。

 

「……」

 

 推測ではあるが、恐らくは死よりも辛い結果となるのであろう。

 

「……しかし」

 

 そのような結果が、あるのだろうか。

 

「……いや」

 

 あるかもしれない、例えば、わたくしのような、身体になるとか。

 

「……でも、まあ」

 

 まあいい、どのみち手に入らない品物だ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 一通りの治療を終えた後、一息つくために、わたくしが出たテントの外では。

 

「……終わったの!?」

 

 褐色肌の少女剣士、いま治療を行った彼女と付き添って、戦場から帰ってきた少女の剣士が、イライラとしながら待っており。

 

 グゥウ……!!

 

「姉さんは!?」

 

 険しい目付きで、真剣な面持ちをしつつ、わたくしに向けて、噛み付かんばかりに言葉を投げつけてくる。

 

「姉さんは大丈夫なの、いや、ですか!?」

「ええ、身体の傷は大した事はありません」

「あの、その、傷ではなく、その……!!」

「……それについては、何ともわたくしには、言えません」

「……ああ、姉さん!!」

 

 そのまま彼女は、褐色の肌をした少女傭兵は、悲痛な叫び声と共に、その両目の端に光る物を見せて、しばしの間うつむいていたが。

 

……グゥ!!

 

「……許せないわ、あの傭兵団は!!」

「……」

「あたしがこの手で、姉さんを犯したヤツを、殺してやる!!」

「……」

 

 敬愛する、その凌辱された女性に対する献身、そして彼女に不幸をもたらした者への、怒りと憎しみに満ちた雄叫びを上げ始める。

 

――ドクゥ、ン……――

 

 しかし、その時にわたくしは。

 

――わたくしも――

 

 彼女の、少女の激怒の声を聴いている内に。

 

――わたくしも、危険な場所に――

 

 再び。

 

――もし、危険な場所に行く機会があれば、わたくしも女として、どのような形であれ、オンナとして、見てくれる人がいるのでは?――

 

 再び、わたくしの脳裏に悪魔が滑り込んで来た。

 

 

 

 

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