その少女の歳頃は、おそらく十歳から、十二歳といったところであろうか。
「……シスター」
しかし、その彼女の体つきは、すでに出るところは出ているようだ。
「あたしは、懺悔を致します」
――そう、わたくしが、昨日見た子――
教会の隅にある、小さな懺悔室。そこでは罪の告白に訪れた人間と、その懺悔を受け入れる聖職者との間は薄い「しきり」で遮られ、お互いに顔は見れないが。
――昨日の、市場での子ね――
その細く、可愛らしい声は、わたくしが昨日、街の市場で出会った少女であると、示している。
――おばさん、この花の種を下さい!!――
元気と、そして威勢の良い少女であったから、昨日の今日であったが為に、わたくしはその姿と、声を覚えていたのだ。
――えー、この前にカボチャの種を、うちの父さんが沢山譲ったじゃない!!――
粗末な、継ぎはぎだらけのワンピース、それを纏う彼女の胸部には。
フゥ……
――……わたくしには、無い――
わたくしには無い、僅かな、とはいえ。
――20をすでに越えている女である、わたくしの胸は、この子にすら、及ばない――
確かな、女の膨らみがあり。
――はーい、これも下さい!!――
同じく質素なスカート、それが包んでいる彼女の腰回りは、小さいながらも。
――こんな、小さく幼い子なのに――
プルゥ……
緩くカーブをし、子供から、女への成長を感じさせる。
「……」
「シスター様、あたしは」
「……」
少くとも、わたくしよりは遥かに、小娘のくせに「オンナ」の力がある。
「あたしは、淫らな女なのです……」
「……」
「あの人の、あの人の事を思う度に、身体が熱くなり、そして……」
真意な、子供ですらあると言える少女の放つ、微かに震える、か細い声。
「……その、夜のベッドで、あるいはトイレで、そして時おり、誰もいない昼間の、村の近くの花畑ですら……」
何となく、わたくしにはその彼女が続ける言葉が解る。
「……自分を、慰めているのです」
懺悔、その不純ではあるが、罪とまでは言えない、清純な少女の悩み。
「……その上、あたしは、その」
「……」
「は、母と姉が隠し持っていた、何か、その、あの……」
彼女の、その未熟ではあるが、確かに女としての開花が始まっているその。
「……異物を、こすり付けている事すらあります」
可愛い、思春期の少女ならではの悩み。
――昔から、いや昔は、わたくしの女性としての部分は、20
過ぎの今より、もっと酷かった――
偉大なる主は、本当に不公平だ。
――誰かを愛するなど、そんな事さえ思いつかないほどに、醜かった――
ズゥ……
怒り、哀しみ、そして。
ズゥ、ウゥ……!!
悲観に、少女への妬み。しかしそれらを全てを上回った。
――誰か……――
その時の、わたくしの感情は。
――誰か、わたくしを、犯して、下さい――
劣情。
「シスター様、あたしはどうすれば、救われるのでしょうか……!!」
少女にとっては真剣な悩み、そう、わたくしよりも、遥かに若き青春に恵まれている、その彼女なのだが。
――主よ、わたくしに克己心を――
だがしかし、わたくしのような、愚かなシスターに懺悔をするほど、この少女にとっては深刻な、心からの告白なのだ。
「……」
仕切りの板、それと机との間にある小さく、細い隙間から、わたくしは。
コッ……
――決して偉大なる主は、己の罪を自覚している者を、見放しはしません、貴女の魂は汚れてなどはいません――
と、書かれた紙片を押し出しつつも、わたくしは。
――神よ!!――
何か。
ヌ、リィ……
何か、心の中で蠢いた「ナニカ」にうながされ。
――この小娘に天罰を!!――
と、心の内で、聖職者にあるまじき罵声を放つ。
――あっ……――
今、わたくしは。
――悪魔に、負けた……――
――――――
本当に、偉大なる主は、本当に不公平だ。
――罪を自覚している者、それを神が罰する事はない――
先のわたくしが放った、己の罪深き内心とは、裏腹の文字。
――主は、罪を自覚している者を、お許しに――
しかし、それでもわたくしには、未だに迷いはある。が
――……!!――
ムゥ……
自分の肉体に予告はなかった、その予告無しに。
ムゥ、ア……
――あっ!?――
わたくしの秘唇が、灼熱し、蠢き。
――お許しに、なる!!――
ポ、タァ……
下腹部から。
ヌ、ポトゥ……!!
わたくしは、秘唇から、天啓を受けた。
――――――
フォ、フォウ……
何処かで、ふくろうが鳴いている。
――この街の外れに、確か――
スゥ……
覆面、顔がほぼ完全に隠れる、頭のてっぺんから垂らした、純白の布の帳。
――さすがに、あまり前は見えないわね――
暗闇を歩むわたくしは、その布にと、眼と口の部分にだけ、僅かに切れ込みをいれている。
――でも、ここまで来たら――
そして、わたくしが羽織った、いつものシスター服の下には。
ポ、タァ……
一糸も、纏っていない裸体。
――わたくしは、わたくしは……!!――
主よ、お許し下さい。
――本当に、御許しを……!!――
ズゥウ、ズゥ……
夜の帳の中、わたくしは静かに自分の目を輝かせ。
――熱スギル、ソシテ……――
ポ、ツゥ……
秘部、無毛のその割れ目から、恥を、わたくしの心と同じ位に、昏い水を満たしつつ。
――あれ、だ……――
街外れの、夜営を行っているらしい者達。傭兵団か、あるいは、難民かジプシーのキャンプにと、静かに近付く。
――このような放浪の者達には――
もちろん、その中には男もいるだろう。
――女性、街で娼婦を買う金銭に困っている者も、いるかもしれない――
スゥ、ア……
灯りが見える、おそらくは焚き火の明かり。そして。
――あれは――
そして、その夜営のテントのすぐ近く。
――あれは、オトコだ――
そこで、焚き火の火の蔭で。
シュ、シャ……
一人の、歳若い少年が、一心に剣を研いでいる。
――子供……?――
見るからに純朴そうな少年、あまり、戦さ人であるとは想像出来ない、その年若い少年の姿格好は。
――そうか、このキャンプは、あの時の――
そう、先に、約一月前に、従軍シスターとして訪れた傭兵団、そこに所属していた女性傭兵の「特殊」な治療の後、修道院に帰還する前に、チラリと見た、その少年傭兵の姿だ。
――野蛮な男には見えない、だけど、モタモタしている時間もない――
真夜中に、覆面を付けた女が一人で出歩いているだけでも、充分に不審である。その上。
――顔を見られたら、そして、もしもシスター服の「下」が判明したら――
修道院からの追放、いやそれだけでは済まないかもしれない。
キィ……
「……誰だ!?」
――……!?――
なるほど、さすがに少年とはいえ、傭兵をやっている事はある。
「……僕に、何の用だ!?」
――上手く、いくのでしょうか……?――
一応、素人であるわたくしなりに、足音は忍ばせたのだが、気付かれては仕方がない。
スゥ……
「……!?」
スゥウ……
その少年の、焚き火の前に姿を現したわたくしを見る目。
「……な!?」
訝しげ、そして警戒心のこもった面差しは当然だ。
ヌゥ、ズッ……
裸足の、白いシスター服はともかく、覆面をしている人間が。
「な、名前を名乗れ!!」
真夜中に、一人で、徘徊している人間など、誰だって用心する。
――こんばんわ、君――
「……女の人、いや、男?」
――夜分に突然、申し訳ありません――
「な、何か言ったらどうだ、女の人!?」
そう、わたくしは女、よく気付きましたね。
「ぼ、僕に、何のようだ!?」
そして、わたくしは、今から。
ポッ、トゥ……
それを、オンナを証明したい。
「……」
わたくしは訝しげる少年の前で、両の素足を晒している、その足首まで届く純白のシスター服、神官衣とも呼ぶその「纏い」のすそに、震えつつも両手を伸ばし。
「……な、何を、して!?」
スゥ、ウ……
ゆっくりと、しかし力強く、引き上げる。
「あ、わわっ……!?」
ド、クゥ……!!
服が上がる度に、わたくしの肌の露出が僅かづつに増える度に、心臓の鼓動が速くなる。
「なっ、や、止めて……!!」
――もう、無理なのです――
ピィ、ア……
焚き火の光に照らされる、わたくしのふくらはぎ。
――わたくしは、オンナを止められません――
続いて、光によって白く照らされる、わたくしのふともも。
――ここまでは、まだ人に、あらゆる意味で見せられる――
そして、そしてわたくしは。
グゥ、ウ……
――ここまで、来たら!!――
サ、アァ……!!
一気に、恥と共にわたくしの、わたくしの「醜い」部分を、闇夜に放った時。
――ああ、もう引き返せない――
本当に、自分の心臓が比喩ではなく、跳ねたような気がした。そして。
「あっ、がっ、がっ……!?」
そして、少年の、焚き火の炎よりも、なおも赤く染まった顔からして、彼の心臓、それも「跳ねた」様子が見て取れる。
「ひ、人を呼びますよ!?」
――……!?――
その少年の悲鳴、それにわたくしは身がすくみ、僅かに心がたじろいだが。
――だけど、このまま!!――
このまま、このままもう、本当に引き返せないのだ、世間体という意味で、心という意味でも。
――主よ、罪深きわたくしに、勇気を!!――
そして、わたくしはその純白、清廉さを。
スゥ……
「も、もう止めて!!」
――いえ――
全て。
ザッ……
全て、下腹部腹部みぞおち、穢い板状の両乳房、わきに肩に首筋。しかし、覆面だけは剥がさないようにしつつ。
ザ、ザァア……!!
頭上、から、投げ、放った。
「あっあっ、アア……!?」
乱雑に。
――そう――
闇の中、白き覆面だけを頭部に被った、全裸の。
「アッア……!?」
一応の、女。
「ねえ、君?」
「……は、はいィ!?」
彼に会って、初めて出したわたくしの肉声、そして、それに答える少年の、悲鳴混じりの、上ずった声。
――ここは、どうですか?―
フゥ……
「そ、その……!?」
秘部、ではない。わたくしが、指先で指したのは。
「……触って、みて下さい」
「……!!」
その声、その頼みは本当に心からの、わたくしのモノ。
「あ、あの、その、おっ……!?」
「……」
いや、頼みというよりも、懇願、無言の哀願である。
「……貴方を、君を信じます」
「う、あ……」
「お願い、致します」
「……う」
シィ、ン……
その、しばしの無言の間に、どうも、この少年もわたくしが、単なる不審者ではない。
「……お姉さん」
何か、いかなるモノとは言え「決意」のような心、それを持っていると、気が付いたのかもしれない。
「……わかりました、お姉さん」
――ごめんなさいね、君――
スゥ、ウ……
その少年の指先、震える彼の。
「……ゴク、リ」
彼の、唾を飲み込む音と共に差し出された、男にしては細い、その人指し指に圧され。
「いく、よ……」
僅かに、わたくしの。
ツゥ、ウ……
乳房とは、誰も認めてくれない、その胸部が。
――あっ!?――
ム、ニィ……
小さく、本当に僅かにへこむ。
――アッ、アッ……!!――
その瞬間。
カァ、ア……!!
わたくしの、肉体が沸騰しそうになる。
――気持ちいい、躯ではなく、魂が!!――
「……柔らかい」
その言葉、単なる肉欲ではなく、未知の感覚を伝える、そよ少年が吐く、吐息と共の声。
――……なるほど、そう、なのですね――
おそらくは、この少年も、異性との、このような物事は、未経験。
――そう、なのですか!!――
カゥ、カァ!!
身体が、躯が、わたくしの、肉体が、燃える、燃えてしまう!!
――な、ならば!!――
「……お姉さん、もう離してもいい、ですか?」
――ここまで、わたくしが出来たなら、ならば!!――
唯一、わたくしが女であることを、証明出来る箇所。それは、一つだけある!!
「……少し、離れて下さい」
「は、はィ、スミマセン!!?」
それは、この胸部でも、汚れた股間部でもない。
……ドゥ、クゥン
さすがに、わたくしと言えども、その行為に踏み切るのは覚悟がいるが。
「……では、ここも」
そう、わたくしは微かに声を震わせながらも。
「あっ、お、お尻……!!」
彼に、背を向けて。
――主よ、勇気を、わたくしに!!――
そして、硬い。
――わたくしに、誇りを!!――
コチコチと、ただ堅いだけの。
スゥウ……
尻の、臀部の両丘を、自分の手のひらで。
グゥ、ヌュ……!!
「……ヒィ!?」
ああ、わたくしは、なんという破廉恥な女、痴女なのだ。でも。
――ここは、どう?――
しかし、けれど。
「あ、わ、ワァ……!?」
――ここは、この、場所は――
けれども、この場所だけは、その尻の排泄孔だけは、わたくしの肉体の中でも決して、決して。
――どう、でしょうか?――
「……あっ、あっ、アッ!!」
ムゥ、ニィ……!!
自分でも、鏡で見た事がある尻孔。艶やかな桃色の筋が凝縮し、可憐な花びらのように、締まり。
スゥ、ア……
そして、純粋なピンク色、他の秘部のような、歪んだ色彩は一切ない、もしも。
――そう、もしも――
女性の価値が、それが肉体的な物だけで判断される、そのような極端な仮定であれば、わたくしにとって、値打ちのある所は。
「……ここは、オンナですか?」
「……」
勇気を出して、再度の肉声を振り絞ったわたくしに、少年からの、返事はない。
――ああ、やはりここも、醜いの?――
絶望、その気持ちを抱いたまま、そのまま、哀しみに満ちたわたくしが。
――ああ、すみません、少年さん、穢い物を見せて――
わたくしが、覆面に隠された、涙の滲んだ双の瞳を後ろに、振り向けた、そのわたくしが見た、少年傭兵の顔。
――あっ……!!――
その幼さが残る、微かにニキビがあるその顔が、真紅に染まり、そして。
「……」
彼は、何も言葉を発しないまま、しきりに自分の。
――あの、男の部分……!!――
スゥ、ム……
両のふとももの辺りを、両手でさすっている。
――あれは、その、殿方のい、イン……!!――
そう、微かに、しかし確かに、彼のズボンの前面、そこが。
「……あの、ね、姉さん!!」
グゥ、ウ……!!
モゾリと、盛り上がっているのが、わたくしの視線に止まる。
――ああ、わたくしを、オンナと、見てくれた人がいた――
ならば、ならばわたくしは、満足なはず、そのはず。
――だ、だけど!!――
そう、ここまでくれば。
――この子は、多分優しい男――
婚約者以外の、異性との性交、それは俗世の者でも、一般的には「罪」と、主は定めている。
――けど、わたくしはこれでも、ここまでしても――
そう、わたくしはシスター。この街の修道院に入る時に。
――この身を、大いなる主に捧げます――
一生不犯、その誓いを立てている、が。
――だけど――
だけど、主は、お許しになる。
――己の、わたくしの――
罪さえ、自覚していれば。
――そう、この先の生涯を永遠に、罪を背負って、修道女の道を、全うする、覚悟をすれば……!!――
そして、そしてならば!!
「もう止めて、姉さん!!」
え?
「そんな、白くて、凄く綺麗な身体をしているのに」
―……え!?――
「変態な行為を、やっちゃダメだ、自分を粗末にしては!!」
最期の方の、少年の言葉などはわたくしの耳に入らない。
――わたくしが、綺麗……?――
「美人の姉さんが、そんな事をしては!!」
その、時。
ポゥ……
わたくしの、何の変哲もない顔、魅力の無い顔の、その目の端から。
ポッ、トゥ……
――わたくしが、ビジン……!!――
水滴が、溢れた。
――ああ、わたくしは、わたくしは!!――
「服を着て、姉さん!!」
――ここまで、慈悲を見せてくれる、人ならば、少年ならば、君ならば!!――
ならば、このような行いをした、してしまった、わたくしの素顔も見せるのが。
「早く、その服を……!!」
――ありがとう、ありがとう!!――
全てを失っても、正体を明かすのが、この少年への礼節ではないか、そうであると、わたくしは思いつつも。
――だ、だけど!!――
今のわたくしの顔、それはおそらく。
――顔布の下に、涙を溢れさせた、女の、いや――
情欲に満ちたオンナ、メスの獣のような表情をしている、確かめなくても、解る。
――口がカラカラなのに、よだれが――
「早く、誰か来ちゃうよ!?」
心配の声など、もはや。
――身体からの汗、が――
彼、少年の声は、もはや、わたくしの耳に入らない。
――そして、股間の穢れた粘液が、止まらない、ふとももに、垂れている……!!――
恐らく、今のわたくしの顔を、鏡で見たら、実に。
――色欲に満ちた、浅ましい女……!!――
その、顔をしているであろう。だが。
「そんなに綺麗な、美人なお姉さんなのに」
ピィ、ネチャ……!!
「そんなに清らかな、美しい身体なのに!!」
――アタマが、ニクタイが、燃えてル……――
「こんな変質的な事を、美しい姉さんは、してはダメだ!!」
――カミ、サマ、ダメ、デス……!!――
プ、ツゥ……
わたくシ、の、なかデ、ナニか、が。
「……お姉さん?」
――アリガトウ、僕――
クゥ……
そして、そのままわたくしは、己の裸体を、勢いよく、本当に激しく、翻し。
――清らかな、優しい子……!!――
「……お、お姉さん?」
ズゥ……
素足、むきだしの脚、そして下半身と腹部に力を、きしむ程の、渾身の力を込めて。
ガァウ!!
「う、ウワァア……!?」
――今、ワタクシの、全てヲ、差し上げ、マス!!――
まさに、まさしく「獣」のように、彼に飛び掛かろうとした、凌辱しようとした、その次の瞬間。
ゴゥウ!!
何か、鈍器か何かであろう。
――ア、レッ……?――
首筋に受けたその衝撃、それによって、
――何よ、この女は!!――
その声、どこからともなく聴こえた、その叫びを最後に。
スゥ……
わたくしの、視界が漆黒に包まれた。
――――――
――何よ、この女は!?――
――わ、解らないよ!!――
――そう、アンタはあたしといつまでもヤれないから、こんな変態を買ったのね!?――
――ほ、本当に解らないんだ、信じて!!――
――……最っ低!!――
――あっ、そ、そんな……!!――
――申し開きは、後で聴くわ!!――
――ご、ごめん!!――
――それより、この痴女、コイツの顔を見なくては……――
――だっ、ダメだ!!――
――何よ!?――
――か、可哀想だよ!!――
――あ、アンタ何を言って……!!――
――お願い、何でもするから!!――
――……何でも?――
――う、うん……――
――……全く、このバカ!!――
――……ごめん、本当に――
――……でも、この女――
――えっ?――
――この恥女、どこかで見たような……?――
――そ、そう……?――
――……まあいいわ、それより、もうじき朝よ、集会の時間よ――
――まって、この人は丸裸だから……――
――だから、何?――
――せめて、大丈夫なように――
――ハア、本当に、あんたって人は……!!――
サァ……
――カワイイ――
サァア、ア……!!
――カワイイ、お人ヨシの、あたしの、オトコ――
――――――
うっすらと、朝ぼらけが始まっている様子。
「……」
それが、ぼんやりとした、わたくしの視界に滑り込む、小さく、光が差し込む。
「……朝」
しかし、朝にしては目の前が暗い、そして、息も苦しい。それで、わたくしは。
「……朝!?」
ガゥバ!!
今の、いや先の真夜中からの、自分の姿格好、それを思い出す。
ザァ……!!
まずは、勢いよく、顔の白い覆面を脱ぎ去り、そして。
「……あれ?」
完全に、昨晩に服を、神官衣を脱ぎ捨てた事に取り乱す、そのわたくしの裸体には。
「これは……?」
自ら脱ぎ捨てたシスター服、純白のそれが、覆い被されている事に気が付いた。そして。
トゥ……
「……?」
わたくしの傍ら、丁度近くの大樹の根元に、綺麗に折り畳まれた衣服。
「……多分、殿方用の服」
男の衣服、それを訝しげに見つめつつも、わたくしはそっと、それを手に取った。
「腰布、そしてシャツ……」
それらを持ち上げたその時、その衣服達の間から。
スゥ、ン……
小さな紙切れが、わたくしの素足の甲に落ちる。
――この辺りは危険です、早く帰って下さい、お姉さん――
「……」
――男物の下着と上の麻服ですが、洗ってはあります。取り合えずは、これを着て下さい。後で捨てても構いません――
「……」
優しい、この世の中には、似つかわしく無いほど、優しい男の子。
「……主よ」
彼は、わたくしを女として、見てくれて、感じてくれて。
「あの少年に、祝福を……」
そして、この「不審者」かつ「変質者」の覆面も取らず、シスター服をわたくしの裸体に掛けて、休ませ。
「……そして、わたくしはあの少年に対して、侮辱に値する行いをしたことを」
あまつさえ、衣服までくれる、優しい男。
「心から、懺悔致します……」
また、会いたい。
「……金色の髪の、子」
あの少年の瞳。侮蔑も無く、かとかいって男の欲望に満ちた、ギラついた目でもない。
「……清らかな、瞳と心を持った、子」
肉体だけではあるが、確かにわたくしを、女として認めてくれた、あの男の子。
「……」
いや、それどころではない。
――綺麗な、美しいお姉さん――
「……ありがとう、ございます」
この、感謝の気持ちだけには、わたくしの低劣な罪の意識は無い。間違いなく彼の行いは、主の御心にかなった物だ。
「こんな、こんな心まで下劣な女、いやケダモノとなってしまった、わたくしに……」
尊敬すべき、清らかな心の少年。
「……これは、これはわたくしの肉欲のみの気持ち、ではない」
トゥ、ン……
少し、思い出しただけでも心が熱くなる、あの少年の顔、その彼の瞳が。
「名前も知らない、あの子の……」
あの瞳が、顔が金色の髪が、いつか。
「いつか、また……」
わたくしに、向けられたい。
「……もう、わたくしはこのような真似は、決していたしません、神様」
もう、今のわたくしのこの魂は、肉欲などでは、満たされない。
「……産まれて初めて、わたくしは、霊的な女性の喜びを知りました、ですので、もう」
もう、相手が誰でもいいなどとは、決して考えません、天の主よ、偉大なる父よ。
「……だけど」
しかし、神様。
「それでも、いつか……」
いつか、いつか、わたくしに、わたくしの全てに、彼の心が向けられますように。
「……そして、これが」
ツゥ、ウ……
肉の欲望ではない、人の気持ちが、彼の心が、わたくしは、心底に、欲しい。
「わたくしの初恋、恋という物なのですか、神様……?」
――会いたい、また、会いたい――