※この作品はR-18です。

戦禍の女達   作:早起き三文

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「白醜の修道女(後編)」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 その少女の歳頃は、おそらく十歳から、十二歳といったところであろうか。

 

「……シスター」

 

 しかし、その彼女の体つきは、すでに出るところは出ているようだ。

 

「あたしは、懺悔を致します」

 

――そう、わたくしが、昨日見た子――

 

 教会の隅にある、小さな懺悔室。そこでは罪の告白に訪れた人間と、その懺悔を受け入れる聖職者との間は薄い「しきり」で遮られ、お互いに顔は見れないが。

 

――昨日の、市場での子ね――

 

 その細く、可愛らしい声は、わたくしが昨日、街の市場で出会った少女であると、示している。

 

――おばさん、この花の種を下さい!!――

 

 元気と、そして威勢の良い少女であったから、昨日の今日であったが為に、わたくしはその姿と、声を覚えていたのだ。

 

――えー、この前にカボチャの種を、うちの父さんが沢山譲ったじゃない!!――

 

 粗末な、継ぎはぎだらけのワンピース、それを纏う彼女の胸部には。

 

 フゥ……

 

――……わたくしには、無い――

 

 わたくしには無い、僅かな、とはいえ。

 

――20をすでに越えている女である、わたくしの胸は、この子にすら、及ばない――

 

 確かな、女の膨らみがあり。

 

――はーい、これも下さい!!――

 

 同じく質素なスカート、それが包んでいる彼女の腰回りは、小さいながらも。

 

――こんな、小さく幼い子なのに――

 

 プルゥ……

 

 緩くカーブをし、子供から、女への成長を感じさせる。

 

「……」

「シスター様、あたしは」

「……」

 

 少くとも、わたくしよりは遥かに、小娘のくせに「オンナ」の力がある。

 

「あたしは、淫らな女なのです……」

「……」

「あの人の、あの人の事を思う度に、身体が熱くなり、そして……」

 

 真意な、子供ですらあると言える少女の放つ、微かに震える、か細い声。

 

「……その、夜のベッドで、あるいはトイレで、そして時おり、誰もいない昼間の、村の近くの花畑ですら……」

 

 何となく、わたくしにはその彼女が続ける言葉が解る。

 

「……自分を、慰めているのです」

 

 懺悔、その不純ではあるが、罪とまでは言えない、清純な少女の悩み。

 

「……その上、あたしは、その」

「……」

「は、母と姉が隠し持っていた、何か、その、あの……」

 

 彼女の、その未熟ではあるが、確かに女としての開花が始まっているその。

 

「……異物を、こすり付けている事すらあります」

 

 可愛い、思春期の少女ならではの悩み。

 

――昔から、いや昔は、わたくしの女性としての部分は、20

過ぎの今より、もっと酷かった――

 

 偉大なる主は、本当に不公平だ。

 

――誰かを愛するなど、そんな事さえ思いつかないほどに、醜かった――

 

 ズゥ……

 

 怒り、哀しみ、そして。

 

 ズゥ、ウゥ……!!

 

 悲観に、少女への妬み。しかしそれらを全てを上回った。

 

――誰か……――

 

 その時の、わたくしの感情は。

 

――誰か、わたくしを、犯して、下さい――

 

 劣情。

 

「シスター様、あたしはどうすれば、救われるのでしょうか……!!」

 

 少女にとっては真剣な悩み、そう、わたくしよりも、遥かに若き青春に恵まれている、その彼女なのだが。

 

――主よ、わたくしに克己心を――

 

 だがしかし、わたくしのような、愚かなシスターに懺悔をするほど、この少女にとっては深刻な、心からの告白なのだ。

 

「……」

 

 仕切りの板、それと机との間にある小さく、細い隙間から、わたくしは。

 

 コッ……

 

――決して偉大なる主は、己の罪を自覚している者を、見放しはしません、貴女の魂は汚れてなどはいません――

 

 と、書かれた紙片を押し出しつつも、わたくしは。

 

――神よ!!――

 

 何か。

 

 ヌ、リィ……

 

 何か、心の中で蠢いた「ナニカ」にうながされ。

 

――この小娘に天罰を!!――

 

 と、心の内で、聖職者にあるまじき罵声を放つ。

 

――あっ……――

 

 今、わたくしは。

 

――悪魔に、負けた……――

 

 

 

――――――

 

 

 

 本当に、偉大なる主は、本当に不公平だ。

 

――罪を自覚している者、それを神が罰する事はない――

 

 先のわたくしが放った、己の罪深き内心とは、裏腹の文字。

 

――主は、罪を自覚している者を、お許しに――

 

 しかし、それでもわたくしには、未だに迷いはある。が

 

――……!!――

 

 ムゥ……

 

自分の肉体に予告はなかった、その予告無しに。

 

 ムゥ、ア……

 

――あっ!?――

 

 わたくしの秘唇が、灼熱し、蠢き。

 

――お許しに、なる!!――

 

 ポ、タァ……

 

 下腹部から。

 

 ヌ、ポトゥ……!!

 

 わたくしは、秘唇から、天啓を受けた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 フォ、フォウ……

 

 何処かで、ふくろうが鳴いている。

 

――この街の外れに、確か――

 

 スゥ……

 

 覆面、顔がほぼ完全に隠れる、頭のてっぺんから垂らした、純白の布の帳。

 

――さすがに、あまり前は見えないわね――

 

 暗闇を歩むわたくしは、その布にと、眼と口の部分にだけ、僅かに切れ込みをいれている。

 

――でも、ここまで来たら――

 

 そして、わたくしが羽織った、いつものシスター服の下には。

 

 ポ、タァ……

 

 一糸も、纏っていない裸体。

 

――わたくしは、わたくしは……!!――

 

 主よ、お許し下さい。

 

――本当に、御許しを……!!――

 

 ズゥウ、ズゥ……

 

 夜の帳の中、わたくしは静かに自分の目を輝かせ。

 

――熱スギル、ソシテ……――

 

 ポ、ツゥ……

 

 秘部、無毛のその割れ目から、恥を、わたくしの心と同じ位に、昏い水を満たしつつ。

 

――あれ、だ……――

 

 街外れの、夜営を行っているらしい者達。傭兵団か、あるいは、難民かジプシーのキャンプにと、静かに近付く。

 

――このような放浪の者達には――

 

 もちろん、その中には男もいるだろう。

 

――女性、街で娼婦を買う金銭に困っている者も、いるかもしれない――

 

 スゥ、ア……

 

 灯りが見える、おそらくは焚き火の明かり。そして。

 

――あれは――

 

 そして、その夜営のテントのすぐ近く。

 

――あれは、オトコだ――

 

 そこで、焚き火の火の蔭で。

 

 シュ、シャ……

 

 一人の、歳若い少年が、一心に剣を研いでいる。

 

――子供……?――

 

 見るからに純朴そうな少年、あまり、戦さ人であるとは想像出来ない、その年若い少年の姿格好は。

 

――そうか、このキャンプは、あの時の――

 

 そう、先に、約一月前に、従軍シスターとして訪れた傭兵団、そこに所属していた女性傭兵の「特殊」な治療の後、修道院に帰還する前に、チラリと見た、その少年傭兵の姿だ。

 

――野蛮な男には見えない、だけど、モタモタしている時間もない――

 

 真夜中に、覆面を付けた女が一人で出歩いているだけでも、充分に不審である。その上。

 

――顔を見られたら、そして、もしもシスター服の「下」が判明したら――

 

 修道院からの追放、いやそれだけでは済まないかもしれない。

 

 キィ……

 

「……誰だ!?」

 

――……!?――

 

 なるほど、さすがに少年とはいえ、傭兵をやっている事はある。

 

「……僕に、何の用だ!?」

 

――上手く、いくのでしょうか……?――

 

 一応、素人であるわたくしなりに、足音は忍ばせたのだが、気付かれては仕方がない。

 

 スゥ……

 

「……!?」

 

 スゥウ……

 

 その少年の、焚き火の前に姿を現したわたくしを見る目。

 

「……な!?」

 

 訝しげ、そして警戒心のこもった面差しは当然だ。

 

 ヌゥ、ズッ……

 

 裸足の、白いシスター服はともかく、覆面をしている人間が。

 

「な、名前を名乗れ!!」

 

 真夜中に、一人で、徘徊している人間など、誰だって用心する。

 

――こんばんわ、君――

 

「……女の人、いや、男?」

 

――夜分に突然、申し訳ありません――

 

「な、何か言ったらどうだ、女の人!?」

 

 そう、わたくしは女、よく気付きましたね。

 

「ぼ、僕に、何のようだ!?」

 

 そして、わたくしは、今から。

 

 ポッ、トゥ……

 

 それを、オンナを証明したい。

 

「……」

 

 わたくしは訝しげる少年の前で、両の素足を晒している、その足首まで届く純白のシスター服、神官衣とも呼ぶその「纏い」のすそに、震えつつも両手を伸ばし。

 

「……な、何を、して!?」

 

 スゥ、ウ……

 

 ゆっくりと、しかし力強く、引き上げる。

 

「あ、わわっ……!?」

 

 ド、クゥ……!!

 

 服が上がる度に、わたくしの肌の露出が僅かづつに増える度に、心臓の鼓動が速くなる。

 

「なっ、や、止めて……!!」

 

――もう、無理なのです――

 

 ピィ、ア……

 

 焚き火の光に照らされる、わたくしのふくらはぎ。

 

――わたくしは、オンナを止められません――

 

 続いて、光によって白く照らされる、わたくしのふともも。

 

――ここまでは、まだ人に、あらゆる意味で見せられる――

 

 そして、そしてわたくしは。

 

 グゥ、ウ……

 

――ここまで、来たら!!――

 

 サ、アァ……!!

 

 一気に、恥と共にわたくしの、わたくしの「醜い」部分を、闇夜に放った時。

 

――ああ、もう引き返せない――

 

 本当に、自分の心臓が比喩ではなく、跳ねたような気がした。そして。

 

「あっ、がっ、がっ……!?」

 

 そして、少年の、焚き火の炎よりも、なおも赤く染まった顔からして、彼の心臓、それも「跳ねた」様子が見て取れる。

 

「ひ、人を呼びますよ!?」

 

――……!?――

 

 その少年の悲鳴、それにわたくしは身がすくみ、僅かに心がたじろいだが。

 

――だけど、このまま!!――

 

 このまま、このままもう、本当に引き返せないのだ、世間体という意味で、心という意味でも。

 

――主よ、罪深きわたくしに、勇気を!!――

 

 そして、わたくしはその純白、清廉さを。

 

 スゥ……

 

「も、もう止めて!!」

 

――いえ――

 

 全て。

 

 ザッ……

 

 全て、下腹部腹部みぞおち、穢い板状の両乳房、わきに肩に首筋。しかし、覆面だけは剥がさないようにしつつ。

 

 ザ、ザァア……!!

 

 頭上、から、投げ、放った。

 

「あっあっ、アア……!?」

 

 乱雑に。

 

――そう――

 

 闇の中、白き覆面だけを頭部に被った、全裸の。

 

「アッア……!?」

 

 一応の、女。

 

「ねえ、君?」

「……は、はいィ!?」

 

 彼に会って、初めて出したわたくしの肉声、そして、それに答える少年の、悲鳴混じりの、上ずった声。

 

――ここは、どうですか?―

 

 フゥ……

 

「そ、その……!?」

 

 秘部、ではない。わたくしが、指先で指したのは。

 

「……触って、みて下さい」

「……!!」

 

 その声、その頼みは本当に心からの、わたくしのモノ。

 

「あ、あの、その、おっ……!?」

「……」

 

いや、頼みというよりも、懇願、無言の哀願である。

 

「……貴方を、君を信じます」

「う、あ……」

「お願い、致します」

「……う」

 

 シィ、ン……

 

 その、しばしの無言の間に、どうも、この少年もわたくしが、単なる不審者ではない。

 

「……お姉さん」

 

 何か、いかなるモノとは言え「決意」のような心、それを持っていると、気が付いたのかもしれない。

 

「……わかりました、お姉さん」

 

――ごめんなさいね、君――

 

 スゥ、ウ……

 

 その少年の指先、震える彼の。

 

「……ゴク、リ」

 

 彼の、唾を飲み込む音と共に差し出された、男にしては細い、その人指し指に圧され。

 

「いく、よ……」

 

 僅かに、わたくしの。

 

 ツゥ、ウ……

 

 乳房とは、誰も認めてくれない、その胸部が。

 

――あっ!?――

 

ム、ニィ……

 

 小さく、本当に僅かにへこむ。

 

――アッ、アッ……!!――

 

 その瞬間。

 

 カァ、ア……!!

 

 わたくしの、肉体が沸騰しそうになる。

 

――気持ちいい、躯ではなく、魂が!!――

 

「……柔らかい」

 

 その言葉、単なる肉欲ではなく、未知の感覚を伝える、そよ少年が吐く、吐息と共の声。

 

――……なるほど、そう、なのですね――

 

 おそらくは、この少年も、異性との、このような物事は、未経験。

 

――そう、なのですか!!――

 

 カゥ、カァ!!

 

 身体が、躯が、わたくしの、肉体が、燃える、燃えてしまう!!

 

――な、ならば!!――

 

「……お姉さん、もう離してもいい、ですか?」

 

――ここまで、わたくしが出来たなら、ならば!!――

 

 唯一、わたくしが女であることを、証明出来る箇所。それは、一つだけある!!

 

「……少し、離れて下さい」

「は、はィ、スミマセン!!?」

 

 それは、この胸部でも、汚れた股間部でもない。

 

……ドゥ、クゥン

 

 さすがに、わたくしと言えども、その行為に踏み切るのは覚悟がいるが。

 

「……では、ここも」

 

 そう、わたくしは微かに声を震わせながらも。

 

「あっ、お、お尻……!!」

 

 彼に、背を向けて。

 

――主よ、勇気を、わたくしに!!――

 

 そして、硬い。

 

――わたくしに、誇りを!!――

 

 コチコチと、ただ堅いだけの。

 

 スゥウ……

 

 尻の、臀部の両丘を、自分の手のひらで。

 

 グゥ、ヌュ……!!

 

「……ヒィ!?」

 

 ああ、わたくしは、なんという破廉恥な女、痴女なのだ。でも。

 

――ここは、どう?――

 

 しかし、けれど。

 

「あ、わ、ワァ……!?」

 

――ここは、この、場所は――

 

 けれども、この場所だけは、その尻の排泄孔だけは、わたくしの肉体の中でも決して、決して。

 

――どう、でしょうか?――

 

「……あっ、あっ、アッ!!」

 

 ムゥ、ニィ……!!

 

 自分でも、鏡で見た事がある尻孔。艶やかな桃色の筋が凝縮し、可憐な花びらのように、締まり。

 

 スゥ、ア……

 

 そして、純粋なピンク色、他の秘部のような、歪んだ色彩は一切ない、もしも。

 

――そう、もしも――

 

 女性の価値が、それが肉体的な物だけで判断される、そのような極端な仮定であれば、わたくしにとって、値打ちのある所は。

 

「……ここは、オンナですか?」

「……」

 

 勇気を出して、再度の肉声を振り絞ったわたくしに、少年からの、返事はない。

 

――ああ、やはりここも、醜いの?――

 

 絶望、その気持ちを抱いたまま、そのまま、哀しみに満ちたわたくしが。

 

――ああ、すみません、少年さん、穢い物を見せて――

 

 わたくしが、覆面に隠された、涙の滲んだ双の瞳を後ろに、振り向けた、そのわたくしが見た、少年傭兵の顔。

 

――あっ……!!――

 

 その幼さが残る、微かにニキビがあるその顔が、真紅に染まり、そして。

 

「……」

 

 彼は、何も言葉を発しないまま、しきりに自分の。

 

――あの、男の部分……!!――

 

 スゥ、ム……

 

 両のふとももの辺りを、両手でさすっている。

 

――あれは、その、殿方のい、イン……!!――

 

 そう、微かに、しかし確かに、彼のズボンの前面、そこが。

 

「……あの、ね、姉さん!!」

 

 グゥ、ウ……!!

 

 モゾリと、盛り上がっているのが、わたくしの視線に止まる。

 

――ああ、わたくしを、オンナと、見てくれた人がいた――

 

 ならば、ならばわたくしは、満足なはず、そのはず。

 

――だ、だけど!!――

 

 そう、ここまでくれば。

 

――この子は、多分優しい男――

 

 婚約者以外の、異性との性交、それは俗世の者でも、一般的には「罪」と、主は定めている。

 

――けど、わたくしはこれでも、ここまでしても――

 

 そう、わたくしはシスター。この街の修道院に入る時に。

 

――この身を、大いなる主に捧げます――

 

 一生不犯、その誓いを立てている、が。

 

――だけど――

 

 だけど、主は、お許しになる。

 

――己の、わたくしの――

 

 罪さえ、自覚していれば。

 

――そう、この先の生涯を永遠に、罪を背負って、修道女の道を、全うする、覚悟をすれば……!!――

 

 そして、そしてならば!!

 

「もう止めて、姉さん!!」

 

 え?

 

「そんな、白くて、凄く綺麗な身体をしているのに」

 

―……え!?――

 

「変態な行為を、やっちゃダメだ、自分を粗末にしては!!」

 

 最期の方の、少年の言葉などはわたくしの耳に入らない。

 

――わたくしが、綺麗……?――

 

「美人の姉さんが、そんな事をしては!!」

 

 その、時。

 

 ポゥ……

 

 わたくしの、何の変哲もない顔、魅力の無い顔の、その目の端から。

 

 ポッ、トゥ……

 

――わたくしが、ビジン……!!――

 

 水滴が、溢れた。

 

――ああ、わたくしは、わたくしは!!――

 

「服を着て、姉さん!!」

 

――ここまで、慈悲を見せてくれる、人ならば、少年ならば、君ならば!!――

 

 ならば、このような行いをした、してしまった、わたくしの素顔も見せるのが。

 

「早く、その服を……!!」

 

――ありがとう、ありがとう!!――

 

 全てを失っても、正体を明かすのが、この少年への礼節ではないか、そうであると、わたくしは思いつつも。

 

――だ、だけど!!――

 

 今のわたくしの顔、それはおそらく。

 

――顔布の下に、涙を溢れさせた、女の、いや――

 

 情欲に満ちたオンナ、メスの獣のような表情をしている、確かめなくても、解る。

 

――口がカラカラなのに、よだれが――

 

「早く、誰か来ちゃうよ!?」

 

 心配の声など、もはや。

 

――身体からの汗、が――

 

 彼、少年の声は、もはや、わたくしの耳に入らない。

 

――そして、股間の穢れた粘液が、止まらない、ふとももに、垂れている……!!――

 

 恐らく、今のわたくしの顔を、鏡で見たら、実に。

 

――色欲に満ちた、浅ましい女……!!――

 

 その、顔をしているであろう。だが。

 

「そんなに綺麗な、美人なお姉さんなのに」

 

 ピィ、ネチャ……!!

 

「そんなに清らかな、美しい身体なのに!!」

 

――アタマが、ニクタイが、燃えてル……――

 

「こんな変質的な事を、美しい姉さんは、してはダメだ!!」

 

――カミ、サマ、ダメ、デス……!!――

 

 プ、ツゥ……

 

 わたくシ、の、なかデ、ナニか、が。

 

「……お姉さん?」

 

――アリガトウ、僕――

 

 クゥ……

 

 そして、そのままわたくしは、己の裸体を、勢いよく、本当に激しく、翻し。

 

――清らかな、優しい子……!!――

 

「……お、お姉さん?」

 

 ズゥ……

 

 素足、むきだしの脚、そして下半身と腹部に力を、きしむ程の、渾身の力を込めて。

 

 ガァウ!!

 

「う、ウワァア……!?」

 

――今、ワタクシの、全てヲ、差し上げ、マス!!――

 

 まさに、まさしく「獣」のように、彼に飛び掛かろうとした、凌辱しようとした、その次の瞬間。

 

 ゴゥウ!!

 

 何か、鈍器か何かであろう。

 

――ア、レッ……?――

 

 首筋に受けたその衝撃、それによって、

 

――何よ、この女は!!――

 

 その声、どこからともなく聴こえた、その叫びを最後に。

 

 スゥ……

 

 わたくしの、視界が漆黒に包まれた。

 

 

 

――――――

 

 

 

――何よ、この女は!?――

 

――わ、解らないよ!!――

 

――そう、アンタはあたしといつまでもヤれないから、こんな変態を買ったのね!?――

 

――ほ、本当に解らないんだ、信じて!!――

 

――……最っ低!!――

 

――あっ、そ、そんな……!!――

 

――申し開きは、後で聴くわ!!――

 

――ご、ごめん!!――

 

――それより、この痴女、コイツの顔を見なくては……――

 

――だっ、ダメだ!!――

 

――何よ!?――

 

――か、可哀想だよ!!――

 

――あ、アンタ何を言って……!!――

 

――お願い、何でもするから!!――

 

――……何でも?――

 

――う、うん……――

 

――……全く、このバカ!!――

 

――……ごめん、本当に――

 

――……でも、この女――

 

――えっ?――

 

――この恥女、どこかで見たような……?――

 

――そ、そう……?――

 

――……まあいいわ、それより、もうじき朝よ、集会の時間よ――

 

――まって、この人は丸裸だから……――

 

――だから、何?――

 

――せめて、大丈夫なように――

 

――ハア、本当に、あんたって人は……!!――

 

 

 

 サァ……

 

――カワイイ――

 

 サァア、ア……!!

 

――カワイイ、お人ヨシの、あたしの、オトコ――

 

 

 

――――――

 

 

 

 うっすらと、朝ぼらけが始まっている様子。

 

「……」

 

 それが、ぼんやりとした、わたくしの視界に滑り込む、小さく、光が差し込む。

 

「……朝」

 

 しかし、朝にしては目の前が暗い、そして、息も苦しい。それで、わたくしは。

 

「……朝!?」

 

 ガゥバ!!

 

 今の、いや先の真夜中からの、自分の姿格好、それを思い出す。

 

 ザァ……!!

 

 まずは、勢いよく、顔の白い覆面を脱ぎ去り、そして。

 

「……あれ?」

 

 完全に、昨晩に服を、神官衣を脱ぎ捨てた事に取り乱す、そのわたくしの裸体には。

 

「これは……?」

 

 自ら脱ぎ捨てたシスター服、純白のそれが、覆い被されている事に気が付いた。そして。

 

トゥ……

 

「……?」

 

 わたくしの傍ら、丁度近くの大樹の根元に、綺麗に折り畳まれた衣服。

 

「……多分、殿方用の服」

 

 男の衣服、それを訝しげに見つめつつも、わたくしはそっと、それを手に取った。

 

「腰布、そしてシャツ……」

 

 それらを持ち上げたその時、その衣服達の間から。

 

 スゥ、ン……

 

 小さな紙切れが、わたくしの素足の甲に落ちる。

 

――この辺りは危険です、早く帰って下さい、お姉さん――

 

「……」

 

――男物の下着と上の麻服ですが、洗ってはあります。取り合えずは、これを着て下さい。後で捨てても構いません――

 

「……」

 

 優しい、この世の中には、似つかわしく無いほど、優しい男の子。

 

「……主よ」

 

 彼は、わたくしを女として、見てくれて、感じてくれて。

 

「あの少年に、祝福を……」

 

 そして、この「不審者」かつ「変質者」の覆面も取らず、シスター服をわたくしの裸体に掛けて、休ませ。

 

「……そして、わたくしはあの少年に対して、侮辱に値する行いをしたことを」

 

 あまつさえ、衣服までくれる、優しい男。

 

「心から、懺悔致します……」

 

 また、会いたい。

 

「……金色の髪の、子」

 

 あの少年の瞳。侮蔑も無く、かとかいって男の欲望に満ちた、ギラついた目でもない。

 

「……清らかな、瞳と心を持った、子」

 

 肉体だけではあるが、確かにわたくしを、女として認めてくれた、あの男の子。

 

「……」

 

 いや、それどころではない。

 

――綺麗な、美しいお姉さん――

 

「……ありがとう、ございます」

 

 この、感謝の気持ちだけには、わたくしの低劣な罪の意識は無い。間違いなく彼の行いは、主の御心にかなった物だ。

 

「こんな、こんな心まで下劣な女、いやケダモノとなってしまった、わたくしに……」

 

 尊敬すべき、清らかな心の少年。

 

「……これは、これはわたくしの肉欲のみの気持ち、ではない」

 

 トゥ、ン……

 

 少し、思い出しただけでも心が熱くなる、あの少年の顔、その彼の瞳が。

 

「名前も知らない、あの子の……」

 

 あの瞳が、顔が金色の髪が、いつか。

 

「いつか、また……」

 

 わたくしに、向けられたい。

 

「……もう、わたくしはこのような真似は、決していたしません、神様」

 

 もう、今のわたくしのこの魂は、肉欲などでは、満たされない。

 

「……産まれて初めて、わたくしは、霊的な女性の喜びを知りました、ですので、もう」

 

 もう、相手が誰でもいいなどとは、決して考えません、天の主よ、偉大なる父よ。

 

「……だけど」

 

 しかし、神様。

 

「それでも、いつか……」

 

 いつか、いつか、わたくしに、わたくしの全てに、彼の心が向けられますように。

 

「……そして、これが」

 

 ツゥ、ウ……

 

 肉の欲望ではない、人の気持ちが、彼の心が、わたくしは、心底に、欲しい。

 

「わたくしの初恋、恋という物なのですか、神様……?」

 

――会いたい、また、会いたい――

 

 

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