朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
「もしもショッカーがSAO世界で暗躍していて、シノンが過去の経歴から怪人に選ばれたら」という脳内妄想です
悪魔の誘い
夕暮れの空にカラスが群れを成して飛び去り、黒い線を幾筋も描く。
『人殺しー!』
『犯罪者! お前なんか消えてしまえ!』
もう、何度も言われてきたことだ。
何度も。何度も。何度も。何度も。
繰り返し、飽きることなく浴びせられ、幾度となく心を傷つけられ、心折られてきた。
その度に「次は負けない」と決意してきたが――
「うっ、ううっ……」
閑静な住宅地の真ん中に佇むやや寂れた公園で、朝田詩乃は蹲り一人涙していた。
人っ子一人いない寒々しささえ感じるこの場所で、詩乃はブランコに座り、俯いて虚な目で地面を眺めた。
何故、自分がこんなに苦しい思いをしなくてはならないのか。
きっかけなど振り返るまでもなく、脳に焼き付いてさえいる。
数年前、母に同行して訪れた郵便局での強盗事件。
元々、心を病み精神が幼い母を守るために立ち向かい――
――そして、殺した。
そう、殺してしまったのだ。
相手から銃を奪い、誤射とはいえ撃ち抜いたのだ。それも一発だけではない。何発も。相手が事切れるまで打ち続け、黙らせた。
あの時の光景は忘れもしない。
銃口から香る嫌な煙の匂いと反動からくる全身の痛み、周囲から浴びせられる奇異の目。そして――
――そして、母親から向けられた、あの――
「ウ゛ッ……! ウ゛ェ゛ェ゛ェ……!」
溜まらず草むらに駆け寄り嘔吐する。
もう何年も苦しめられてきて、銃を見なければ起こらない発作だったはずが、ここ最近になって突発的に生じるようになった。
それだけではない、上京して程なくして同級生達となトラブルで始まったいじめが数日前から激しさが増し、今すぐ消えてしまいほどに追い詰められてもいた。
立ち向かおうにも相手の方が仲間も力も強く勝ち目など初めからない。いや、それとも自分が弱くなったから強く感じているだけかもしれない。
(負けない、負けてたまるか……)
ふらふらと力無く立ち上がり、拳を握りしめる。
何度もそう決意しては打ち砕かれてる思いだが、止めるわけにはいかない。いつかまた、己の弱さを克服し普通に暮らせるようになるためにも立ち向かい続けなければならないのだ。
それでも――
「うっ、うぅぅ……。……助けて、誰か助けてよ……」
再びしゃがんで顔を覆う。涙が堪らなく溢れて止まらない。
なんでこんなに自分は弱いのか。
悲しみと悔しさが押し寄せて苦しみに逃げ出したくなった。
「何かお悩みのようですね」
音もなく静かに、詩乃の元へと近づいてきた男が一人。ほんの少し前まで人の気配などしなかったのに、一体どこから現れたのだろうか。疑いの目を向けると、違和感はさらに強まった。
レザー生地のマントを纏った全身黒ずくめの男。マントの下にタキシードらしき衣服を着て、スラリとした2m近くはあろう長身。モデルのように整った顔には張り付いたような笑みを浮かべたどこか不気味な出立。
手には赤薔薇だろうか。花束を持ち、覆い被さるように詩乃の前に立ち塞がった。
「あ、あの……」
「言わなくても結構です。あなたの苦しみはよく分かります。過去からくる呪縛、後悔、怒り、私には痛いほど分かります」
なぜこの男は自分の過去を知っているのか。そもそも彼は何者なのか。
疑問は尽きることなく生まれ、困惑ばかりが詩乃の顔には浮かんでくる。
と、そこで周りがいつの間にかガスマスクを付けた集団に囲まれていることに気づいた。
流石にここまで大勢に見下ろされていると恐怖から全身黒ずくめのスーツの集団を前に後ずさるが、一瞬で円を描くように囲まれてしまう。
「ご心配なく、彼らは何もしませんよ。むしろあなたを助ける為にやって来たのですから」
男は詩乃の前に跪き、優しく語りかけた。
「……助ける? 私を……?」
「はい、私たちならあなたの苦しみを取り除くこと、そして更なる強さを与えることができる。その為にやってきたのですから」
花束を差し出し、続ける。
「ようこそショッカーへ。我々はあなたを歓迎します」
「ショッカー……?」
怪訝な顔で男を見つめながら、詩乃はそう呟く。
それから先はよく覚えていないが、いつしか詩乃は彼らに連れられ暗い通路を歩いていた。