※この作品はR-18です。

朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う   作:名無しの猫

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サブタイトル修正しました。
前回投稿話からを「紺野木綿季は悪魔との契約を語る①」と置き、これまで①だった話を「シノン対ユウキ」に、②を「休息のバスタイム」としました。



紺野木綿季は悪魔との契約を語る②

「いくよー! えいっ!」

 

 快活な良い声と共にサッカーボールが蹴り上がり、宙を舞う。それを合図に子供達が広場を駆け回りそれを追う。

 

「よしっ! このまま決めるぞ」

「あっ! させないよ!」

 

 子供達は互いにボールを取り合い、あちこち走り回っていく。同じ年頃の少年少女達の中に木綿季の姿もあった。

 ボールを奪い合う混戦の最中、木綿季が隙をつき飛び出した。

 

「貰いっ!」

 

 木綿季は素早いドリブルで他を置き去りにし、ゴール目掛けて駆け抜けていく。しっかりとした足取りで地を踏み、走るその姿にはもはや病人の面影はない。

 

「シュート!」

 

 追いかけてくる相手を諸共せず、木綿季は得点を決めた。綺麗な汗が飛び散り、宝石のように煌めく。

 

「やったーーー!」

 

「木綿季ちゃんナイス!」

「今のシュートスゴかったよ!」

「また木綿季に負けたよ……」

 

 ゴールを決め、喜ぶ木綿季に駆け寄る子供達。皆が木綿季のシュートに歓喜し、勝敗に関わらず試合の達成感を共有し、讃えあった。

 

「おつかれ木綿季。格好良かったよ」

「ありがとう晴彦くん! ボクの活躍見てくれたんだ」

「うん、ずっと見てたよ。木綿季、一番目立っていたもん」

「……えっ、そうかな。なんだか照れるなぁ……」

 

 友達の輪から抜けて、すぐそばの石段に座る少年の横に腰掛ける木綿季。

 タオルで汗を拭いつつ、水を喉を鳴らして飲む木綿季を少年――晴彦はぼんやりと見つめていた。

 

「すっかり元気そうだね。来た時はあんなに痩せてたのに、今じゃ僕より健康そうだ」

「晴彦くんや皆のおかげだよ。ボク、いままでずっと一人ぼっちだったからさ。仲間が出来て嬉しいんだ!」

「……そっか、良かったね」

「晴彦くんは混ざらなくていいの? サッカー楽しいよ」

「……ボクは、いいよ。本を読んでる方が好きだからさ」

 

 ふーん、と木綿季は晴彦の肩に頭を乗せ本を眺めた。今日は図鑑を読んでいるようで、蛇のページが目に入る。

 いつも小説や漫画といった様々な本を読んでいる彼に(自称)読書家の木綿季が話しかけたのが始まりだったが、いつしか一番仲良くなっていた。

 

 ここはショッカーの児童施設。外界から遠い海の孤島建てられたここは、木綿季のように身寄りのない重い病気を患った子供達を集め、治療して育てている場所だった。

 普通の学校のような教育から遊びまで色々な事を体験でき、これまで学校にろくに通えなかった木綿季には楽園のように思えた。

 

 ――ただ一つだけ、月に一度、卒業、と呼ばれる、組織の幹部に選ばれた少年少女がここを去っていく行事があるらしく。一度ここを出ていった子供が戻ってくることは決してなく、一番長く施設にいるという晴彦に話を聞いても、口を閉ざされただけに終わった。

 

「……ねぇ木綿季」

「晴彦くん、どうしたの?」

「君はここを出たら何がしたい?」

「えっ……?」

 

 冷たい風が一陣、吹き抜ける。

 

「僕はここを出たら、医者になりたい。僕みたいに病気で苦しむ子供の力になりたいんだ」

「立派な考えだね。応援するよ!」

「……でも、僕はここを出られない気がする」

「晴彦くん……」

「前に一度だけ、卒業した子供がここの地下に連れて行かれるのを見たことあるんだ……。結局は扉が開かなくて分からなかったけど、この施設から何か悪いものを感じる。そんな予感がするんだ……」

 

 本を握りしめ、木綿季を見つめる晴彦。

 その視線は揺らぎ、不安と恐怖から絞り出すように口が開いた。

 

「……だから木綿季、君がよければ僕とここを抜け出そう。組織から離れて、僕と一緒に来てくれないか」

「晴彦くん、それって……」

「……僕は君が好きだ。元気で明るい、木綿季と一緒なら、僕は生きていける気がする」

 

 晴彦の頬が赤く染まり、瞳が潤んだ。

 どちらかともなく、二人の顔が近づいて、呼吸が重なりあう。瞳は瞳を映し合うだけの鏡になって、世界は時が止まったかの静止して、二人だけの空間が広がる。

 目が閉じて、スローモーションのように唇同士が触れ合う寸前――

 

 

「――すっかり仲良くなったようで何よりです」

 

 

 ――その世界を引き裂く者が現れた。

 

「……あ、あなたは」

「バット……」

 

 はっと振り向いた段上に、バットは静かに佇んでいた。初めて会った時から変わらない、張り付いたような不気味な笑みを浮かべて。

 

「晴彦くん、君の『卒業』が決まりました。それから木綿季さん、あなたもです」

 

 バットの陰から白衣のガスマスク達が現れて二人を囲む。

 

「おめでとう、貴方達二人は次のステージへと進む権利を獲得したのです。光栄に思ってくださいね」

 

 有無を言わさぬ圧を向けてくる男達に、木綿季と晴彦は互いに手を握り合い、唾を飲んだ。

 

 

※

 

 

 あれからバットにより施設の地下へと連行された木綿季は全裸で大の字に拘束されていた。

 大勢の監視する中で服を全て脱がされ、薄暗くて不気味な実験室と呼ばれる場所にやってきたのだ。晴彦とは途中で分かれてしまい、不安の中、周囲で機械を操作する科学者達を見つめることしかできなかった。

 

「木綿季さん、覚悟はよろしいですか」

 

 木綿季の拘束された右手側。バットが静かに近づいて見下ろしてきた。

 

「ボク達が何考えてるか、最初からお見通しだったの?」

「何の話ですか? 我々は木綿季さん達をデータで見た上で判断したのです。君達が何を考えているかなんて知るわけがない」

「……ボクの、データ?」

「はい、あなたの回復速度は驚異的でしてね。我々としては何としても早く組織の一員に迎え入れたい。そう考えて最速で卒業が決まったのです」

「卒業……、この拘束のどこが卒業なのさ」

「『人間からの卒業』ですよ。あなたは病弱な人間のカラダを捨て、怪人という上位存在として生まれ変わるのです」

「狂ってる……」

「……いずれわかりますよ。いずれね……」

 

 木綿季の側から離れ、科学者の一人が操作するモニターに目を向ける。計4台で構成されるそれには、木綿季の人体スキャナー画像と改造手術の設計図、そして、別所で同様に拘束された晴彦が映っていた。

 

「……ボクはもう助からない。でも、せめて一つだけボクのお願いを聞いてくれないかな」

「お願い?」

「……ボクが怪人になったら、ショッカーの為に何でもするよ。でも、そのかわり晴彦や、他の子供達を解放して。ボクみたいな存在をもう作らないで欲しい」

 

 木綿季の視線がバットを射抜く。

 自身の方が遥かに強いのは明らかだが、それでも、負けじと睨みつけてくる木綿季の瞳に興味が沸いて。

 

「……いいでしょう。貴方が手術に耐えられたら、の話ですが」

「……なら早くしてよ。元々死んだような命さ、惜しくない」

 

 一瞬、それを口にした瞬間に晴彦の笑顔が浮かんで、視界が滲んだが、唇を噛んで押し殺した。

 

「では始めましょう。紺野木綿季に人工血液及び蛇の遺伝子を移植しろ」

 

 バットの言葉を合図に科学者達は木綿季の手足に注射針を刺し、手術台の傍らに真っ黒な血液がたっぷり詰まったタンクを幾つも設置した。タンクと木綿季に繋がれたチューブが連結し、リーダー格であろう男に全員の視線が向けられる。

 彼は素早く木綿季を一瞥すると軽く頷き――それと同時に機械のスイッチが押され、黒い血流が木綿季目掛けて溢れ出した。

 

「ぐっ……」

 

 カラダの中をメリメリと引き裂くように、心臓へと逆流する人工血液。木綿季は首を右へ左へと振り、その痛みに抗う。

 

「がっ、うわぁぁぁ……、い、痛いっ」

 

 涙が溢れ思わず声が漏れる。拒絶する木綿季の意思に反して血液は心臓へと到達し、全身を侵食した。

 

「ぐっ、ウワァァァァァァ!!!」

 

 溜まらず絶叫する木綿季。カラダが大きくのけ反るが鉄枷がそれを許さず、そして、痛みに泣き叫ぶ少女に白衣の悪魔達が迫る。

 激痛の最中、不気味な集団に抵抗を試みるも、なすすべもなく――。

 

「や、やめ、ろぉ……」

 

 容赦なく歩みよる悪魔達に、襲いくる激痛に耐えかねて。

 

「う、うわぁぁぁぁぁーー!!!」

 

――そして、メスが白いお腹を引き裂いて、注射器が胸を突き刺して、一瞬で気絶して。

 

 

 目が覚めたら、紺野木綿季は人間であることを奪われていた。

 

 

※

 

 ショッカー科学チームが紺野木綿季の改造手術を開始して数時間。彼らはその間に彼女のカラダを余す所なくメスで切り開き、注射器で薬液を投与して少女の肉体を人ならざるものへと作り替えていった。

 遺伝子レベルで蛇の力を書き込み、筋肉を人工のより強靭な物と取り替え、病気で弱っていた臓器は怪人としての能力を引き上げる為にも機械に交換した。

 現在行われているのは、先日『博士』の誇るチームが開発した新型の人工心臓の移植手術。

これまでは被験体自身の心臓を機械や薬物により強化していたが、これは完全なる人造物であり。怪人としての能力向上だけに留まらず、適合者には生と死さえも超越した能力を与えるとされていた。

 

 ――ただ、現時点で適合できた被験体は皆無であり、木綿季同様に身寄りのない子供を実験に用いてきたが結果は乏しかった。

 

 木綿季の胸が開かれ心臓に悪魔の手が伸びる。ドクドクと確かに脈を打つそこは静かに蹂躙され、やがて、少しずつ体から抜き取られていく。

 

 直後、激しく痙攣し暴れる木綿季の肉体。目は開かれてないものの、確かに行われる所業に抗うかのように懸命にもがく。

 

「早く強化心臓を移植しろ! 急げ!」

 

 痺れを切らした科学者の一人が叫ぶ。木綿季の血管に一つずつコードが繋がれ、二つの心臓の動きが同調していく。

 

「適合率40、……50%、……60%」

 

 モニターが木綿季と心臓の適合率を表示する。着々と上がっていく数値と比例して木綿季のカラダも激しく暴れガタガタと揺れた。

 

「ぐっ……、がっ、あ゛ぁ……!」

 

 既に麻酔は切れ、大きく開かれた目から涙が溢れて手足の指が宙を掻きむしる。鉄製の拘束具が嵌められている以上抜け出すことは叶わないはずだが――

 

「がっ、ぎっい゛ぃぃぃ、や゛ぁぁぁぁぁ……!」

 

 既に改造手術も終わりに差し掛かっていた木綿季の肉体はその力を発揮し始めていて。全身に痛々しく浮かんだ手術痕から血が滲むほどに力み、瞳は人と爬虫類を明転するように変化を繰り返す。皮膚が蛇のように変色し、叫ぶ口から覗く舌は長く伸び始めて人外としての能力を目覚めさせつつあった。

 

「適合率90%……!」

「ガァァァァァーーーー!」

 

 首が激しく振り乱れ、暴れ狂う。

 処置を行う科学者達も必死の様相で、既に開かれていた胸は縫合され後は心臓の完全なる定着を待つのみだった。

 

「ガア゛ア゛ア゛ァァァァァーーー!!!」

「うわぁぁぉ!」

 

 ――が、必死に押さえつける白衣達の抵抗も虚しく。木綿季は枷を強引に引き剥がし、男達を吹き飛ばした。

 大きく飛び上がり手術台の上に着地する木綿季――正確には木綿季だった何か。髪や体格などは木綿季の面影を残しつつも、全身はさながら「ヘビ人間」とも言える様子で。従来の強化服を着る怪人達とも違う完全なるバイオテクノロジーの異形へと変貌した。

 

「ウ゛ッ、ア゛ァ、ァァァ……!」

 

 ひっくり返って散乱した鉄製のボールが映す自身を見つめるヘビ人間。少女らしい可愛い顔は完全に崩壊し、そこにいるのは醜い怪物。理解が及ばぬままに顔を触るも不快な感触ばかりが伝わって、涙が溢れてきた。

 

「ア゛ッ、ガッ、ア゛ァァァァァ……!」

 

 取り押さえてくる白衣を振り解けば、それだけで壁に激突して、真っ白な壁に赤いシミを作り、そのまま動かなくなった。

 

「……ウ゛ッ!」

 

 軽く触れただけでもこの怪力。もはや全てが恐ろしくなって、たまらず手術室を飛び出した。

 

「ワ゛ッ、ア゛ア゛ア゛ァァァーーー!」

 

 声にならぬ叫びをあげ、ショッカー基地を駆け巡る。警報が鳴り響き、すぐさま戦闘員達に取り押さえられる。

 

「ウ゛ッッッ……!」

 

 誰も殺したくない。

 

 誰も傷つけたくない。

 

 そんな想いと胸の痛みばかりが加速して、腕を振って遠ざけようと威嚇する。

 だが、自身の捕獲が目的の彼らは白い捕獲網を頭上に被せてきて、直後、激しい電流と鋭い痛みに襲われた。

 

「ギヤァァァァァーーー!」

 

 激痛に耐えかね暴れるとすぐに網は解け、周りの戦闘員を巻き込んでしまう。

 絡みついた糸を解こうと踠いていると、首に網とは違う素材の糸が巻き付いた。

 

「……ッ!?」

 

 動揺する間にもその糸は腕や足、腰に絡みついて動きを封じた。そして、どこからか飛んできた超音波が耳を貫き膝をつかせた。

 

「グッ、ワ゛ァァァーーー!」

 

「無駄な抵抗はよせ。これ以上被害を広げるな」

「木綿季さん、そんな姿になるとは、残念です……」

 

 変わり果てた木綿季を止める為に駆けつけたバットとスパイダー。彼らは見事なコンビネーションでヘビ人間の動きを止め、拘束に成功した。

 

「木綿季さん、あなたは心臓には適合した――いや、適合しすぎたのです。あなたの身体に組み込まれた蛇の力と合わさり暴走してしまった。でも、これ以上は危険です。心臓の稼働が激しすぎて自壊しようとしています」

 

 バットの言う通り、木綿季のカラダに新型の強化心臓は適合していた――が、その数値は異常値を超え、本来なら能力付与に留まるはずの蛇の遺伝子データを暴走させ、結果、木綿季そのものをヘビ怪人に変えてしまったのだ。

 しかも心臓の暴走は止まることを知らず、その稼働による血液循環は血管を破り、木綿季自身を死に向かわせているのだった。

 

「ギッ……、ギヤ゛ァァァァァ……!」

 

 蜘蛛糸に未だ抵抗を続けるヘビ人間。全身から噴き出す血潮は周囲に血溜まりを作り、それでもなお足掻く姿は怪物そのものだった。

 

「お願いです木綿季さん、私はあなたを殺したくはない。あなたと晴彦くん……二人が作る世界を見て見たいのです。だから――」

「グオ゛オ゛オ゛ォォォォォーーー!!!」

 

 バットの説得を引き裂き、ヘビ人間は咆哮を上げて蜘蛛糸を強引に断ち切った。己のカラダが傷つくこともいとわず、鬼神の如き形相で2体の怪人目掛けて飛びかかった。

 

「不味い……」

「木綿季さん、仕方ない……」

 

 応戦するべく身構える怪人達。

 

 ――その上空を飛び越え、乱入する怪人が一体。

 

「「……!?」」

 

「……!?」

 

 ヘビ人間の懐に潜り込み、漆黒のオーラを込めた拳を叩き込んだ。

 

「ゴガァァァッ!!!」

 

 激しく吹き飛ばされていくヘビ人間。

 コブラの頭を模した仮面を被り、コード型の強化服を纏ったその怪人は地面に転がるヘビの異形を静かに見つめていた。

 

「お前は……」

「……コブラ」

 

「…………」

 

 コブラと呼ばれた怪人は無言のままブーツの重い足音を鳴らし、ヘビ人間の元へと歩きだした。

 

「ウッ……、ウウッ……!」

 

 腹部の痛みを感じつつも近づく敵に身構えるヘビ人間――しかし、寸前でコブラの足が折れ膝をついた。

 

「…………ッ?」

「くっ、限界か……」

 

 コブラは仮面の淵に指をかけ、その素顔を晒す。ヘビ人間の目が大きく開き、動揺が浮かぶ。

 

「アッ……、アァ……、ハ、ハル、ヒコ……!?」

「……うん、僕だよ木綿季。心配しないで」

 

 コブラ――晴彦は木綿季の前で膝をつき、変わらぬ笑顔で彼女に微笑んだ。

 

 




ユウキ編は明日投稿予定のエピソードで終了となります
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