※この作品はR-18です。

朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う   作:名無しの猫

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そういえば先日のギーツで登場した、新型ドライバーことヴィジョンドライバーの声がキリトくん(CV松岡禎丞さん)でしたね。あれもカッコよかった
こっちでも早くキリトくん出したい…



運命の日

 真っ暗な廃工場の中、眩く光を放つパソコンが一つ。

 細い指を巧みに流し、不慣れながら繊細なタッチでアリスはキーボードを弾き、プログラムを書き込んでいく。

 

 デスクトップタイプのパソコンには無数のケーブルが繋がれていて。その一部はヘルシューターのテストにて得たデータを保存したチップが接続され、それ以外のケーブルは地面に落ちて長く伸びて伝い、埃かぶったカバーに隠された、二つの物体に繋がっていた。

 微かな隙間から覗くのはバイク、だろうか。車輪のようなパーツが見え隠れしていて、画面を見続けた疲労に負けて、アリスもまた、それに視線を向けた。

 

 ゴルゴムで数年前に制作されたスーパーマシン。本来は次期創世王である世紀王達のためにそれぞれ造られたゴルゴム科学の粋を集めた専用マシンだったが、今は主人を失い眠りについて久しい。

 

 無言のまま見つめていると、月明かりが照らす微かに開いた窓の隙間から滑り込んでくる影が一つ。

 パタパタと羽を動かして、シーツの上に着地したそれは一匹の飛蝗。

 ゴルゴムにて神聖なる生物として扱われ、ある種の象徴として崇められるそれを眺めても、込み上げてくるのは、やはり後悔ばかりだった。

 

 

 思い出せる、どころか脳裏に焼きついてさえいる運命の日とも呼んでなんら誇張ならない、忘れられないあの皆既日蝕の夜。

 

 全ては順調だったのだ――そう、あの瞬間までは。

 

 

※

 

 

 今より2年前。

 

 人間にとってはなんてことない、ただの一年――だが、その年はゴルゴムにとってまさに未来を左右するといっても過言ではなかった。

 

 そう。

 それは、5万年に一度組織の主たる創世王の継承者である世紀王を生み出す儀式の時。

 

 すなわち次代の王を決める運命の瞬間を迎えたのだ。

 

 

 創世王から生み出されし偉大なるキングストーンが自らの意思で選んだ運命の神子達。2人を世紀王へと改造し、戦わせて競わせ、次の創世王にふさわしき強き者を決めるゴルゴムで最も誉れある儀式。

 

 

 そして、そんな運命に選ばれし彼らをゴルゴム神殿に誘う役目を担ったのはアリスに他ならなかった。

 

 日本人であった世紀王候補の少女2人を捕獲しやすいよう国外へと誘き寄せ、飛蝗の群を従えて彼女達を襲い、簡単に連れ去るに成功した。

 

 

 人間を攫うなど実に簡単で、滑稽なまでに楽勝だった。

 蝗害を用いて襲い、全身を貪る飛蝗の群生を相手に最後まで互いに手を取り庇い合う姿を覚えている。

 

――

――――

 

 数年に一度訪れる日食。

 我らが王に力を与えた崇高なるそれはゴルゴム怪人達にとって人間界での扱い以上に特別視され、人間なら時期や分類の予想程度で済むが、はるか長い時を生きる怪人達はそれら全てにそれぞれの意味や儀式を設けており、今宵は数万年に一度訪れる創世王を生み出す皆既日蝕の夜。

 

 人里離れ呪術にて外界より遮断された闇の世界。

 創世王の住居であるゴルゴム神殿では神聖なる儀式が執り行われていた。

 

 かつてアリスとユージオがされたように、部屋の中心で無数の触手に全身を縛られた2人の少女。一糸纏わぬ姿に剥かれ、真上から照らす眩い光に白い裸身をあまさず晒されながら、そのカラダは死んだように動かない。

 

 2人を見下ろすのは巨大な飛蝗怪人の姿をした創世王。寿命が近づきかつての麗しき女性の姿を維持できなくなりつつあった王は近年は怪人態である異形の姿で生きながらえていた。

 

 そのすぐ側には創世王に次いで地位の高い三神官ことダロム・ビシュム・バラオムが立ち、護衛役であるアリスも一歩下がった位置に構えていた。

 

 そして、儀式の間には新たなる王の誕生を一目見ようと世界中から集まったゴルゴム怪人が一堂に会し、奇跡の瞬間を待ち侘びており、蜘蛛、蝙蝠、ノミ、クジラとその容姿は様々だった。

 

 少し離れた通路の影にはユージオの姿もあったが、彼は暗い表情のまま片隅に一人座っていた。

 

「どうしましたユージオ?」

「……いや、本当にこの選択は正しかったのかな……と思って」

 

 浮かないユージオの横に腰を下ろし、アリスは首を傾げた。2人きりの時とは違い、今は幹部と一怪人。他の者への示しのためにも立場を踏まえた態度を取らねばならない事にアリスは多少の不満があった。

 

「……正しい、とは? これは我々怪人を導く次代の王候補達――世紀王を誕生させる儀式ですよ。間違っていることなど何も……」

「その為に人間としての彼女達の人生を終わらせても?」

 

 ユージオの意図にアリスも思う事はある。

 人間から怪人という上位種族への進化――聞こえ良くは言っても、その大半は個人の感情や意思を無視して強制的に行われるもの。アリスとユージオ達がそうだったように。

 

「……ですが、彼女達もいずれ分かってくれます。人間から怪人となる事がいかに素晴らしい事か。やがて人を支配する存在となる事を。」

 

「私達がそうだったではないですか」と、アリスはユージオの元から離れ、触手に囚われた哀れな王候補の元へと歩み寄る。――ユージオが怪訝な顔をした事にも気付かぬままに。

 

 やがて、姿を見せたのはゴルゴムが誇る科学チーム。彼らに取り囲まれ、全身にレーザー光線を撃たれる2人の少女を見下ろす。

 アリス時代から遥かに進んだ、カラダに刃物を入れない術式。痛みはかなりのものだが、手術の成功率を高めるだけでなく、今では迫る寿命の関係で力を失いつつある創世王の力を代用する役割も果たしており、精度は劣るものの、ストーンが用途の大部分を占めるゴルゴム式の改造手術では十分すぎる程の性能だった。(謙遜してるが現代のショッカーよりも技術力は上である)

 

 アリスは術中の少女の元に歩み寄り、そのうちの1人――亜麻色の長い髪の少女の顔に被せていた乱暴に布を剥ぎ取り、まだ発展途上ながら美しきその顔を覗き見た。

 

「喜びなさい……あなたはやがて全ての怪人を支配し、君臨する王となるべく選ばれた栄光の女なのですから……」

 

 アリスの言葉に少女は返す事ができない。いや、言葉が出ないのだ、強制的に異物を送り込まれ作り替えられていく激痛に苛まれては、何ひとつ抵抗を示す事ができないのだ。

 

「ううっ……」

 

 少女は搾れる力の限りで首を傾け、その横で自身と同じように苦行に晒される友を見た。顔に布を被せられて表情は分からないが、彼女とは親友だからこそ分かる。

 白衣の男達の隙間から覗く白い手足や肩が小刻みに震える姿や、伝う汗が彼女も苦しんでいるのが見てとれた。

 

 光を失った瞳で見つめ、乾き切った唇を開き励まそうとしたが、カラカラになって痛む喉からは声が出なかった。

 

「人の心配をしている場合ですか?」

 

 少女の顎を掴み、無理やり自身の方へと向けさせた。

 

「あなた達はこれから世紀王、ブラックサンとシャドームーンになる。そしていずれは……」

 

 そう遠くないうちに来るであろう未来を想像し不敵に笑うアリス。

 少女から手を離し、もう1人の少女の元へ歩み寄り、布を剥がして素顔を暴いた。やや紫の混じった黒髪ロングの少女は、突如刺し込んだ眩しさに目を細めながらも、アリスの顔を見るや負けじとキッとした表情で緑の瞳を尖らせた。

 光を失わない明らかな敵意を堪えた目つきにアリスは笑みを抑えられずにいた。

 

「下がれビルゲニア。彼女達にキングストーンを入れなさい」

 

 アリス(継承して以降一部を除いてビルゲニアと呼ばれている)に三神官達は命じた。

 アリスは踵を返して2人から離れ、怪人達の列へ――すれ違うようにダロム達三神官に一礼すると、玉座の横へと歩いた。

 

 三神官達は保管していた丸い水晶のような石――キングストーンを手にすると少女達の元、その腹部の横に立った。

 まずは黒髪の少女から。異形の3人に囲まれ、怯んだ様子の彼女を意に介さず、ダロムは赤いキングストーンを掲げた。

 

「創世王様よ……この者らに運命の王子としての祝福を……」

 

 それぞれの少女達のちょうど臍の辺り、そこにそれぞれ与えられるキングストーンを翳す。赤色と青色の二つの石は少女達の肉体に近づいた瞬間から眩いほどの輝きを放ち、魅せる不思議な魔力を前にして、彼女達の瞳にも同色の光が宿った。

 

(流石はキングストーンが自ら選んだ世紀王か……)

 

 部屋全体を包み込む赤と青の光を前に、アリスは眉を曇らせた。

 

 通常、世紀王とは日蝕に関連した人間や怪人が選ばれるのだが今回の2人はそのどちらにも当てはまらず、ただ後継者を決める儀式の最中に映し出された2人にすぎない。

 過去にも同様の事例があり、その際に選ばれ誕生した創世王は歴代の中でも優れた存在だった歴史もあることから問題ではない。

 

 

 ただ一つ。アリスとして気がかりなのは、そうして選ばれた世紀王がいる時代、必ずと言ってほどに怪人や人の世を脅かす脅威や災いが迫るという事象も存在する事だった。

 

 単なる杞憂で済めばそこまでだが、アリスの腹部、そこに埋め込まれたビルゲニアのストーンが何かを警告するように蠢いているのが不安を掻き立てた。

 

 アリスの不安を他所に、キングストーンの輝きと共にダロムの指先から透明な爪が展開する。

 キングストーンはやがてその形を固体から液体へと変化させて、ダロムの爪に流れ込み、ガラスのような先端に染み渡っていく。

 

 ダロムが掌を返すと同時に、溜め込まれたストーンの力が少女の腹部目掛けて降り注いだ。

 

「……ぐっ、うっ、ああぁっ、あああぁぁぁぁぁっ」

 

 少女は大きく目を開き、苦痛に美貌を歪ませた。

 緑色だった瞳は赤く染まり、その身から湧きあがる熱風に煽られるように、少女のカラダから緑の光に包まれた。

 

「あ、明日奈ーっ!」

「み、深澄ー!」

 

 終わりなき苦行に耐えきれず、また苦しむ友の姿を見ていられず2人の少女達は互いに手を伸ばし合う。懸命に、必死に掴もうとするが、2人の距離は僅かに届かず。そして、黒髪の少女の肉体は完全に飛蝗怪人へと変わり果てた。

 

「……ひっ!」

 

 かつて友だった異形を目にして、亜麻色髪の少女の表情に怯えが走った。可憐な容貌。引き攣らせて、涙目になった目尻から雫が散る。

 

「いつ見ても堪らない。人間が怪人になる瞬間は……!」

 

 アリスはそんな少女の変身に息を呑み、感嘆とした笑みと小さく本音を漏らした。

 傍らのユージオの顔に影が刺した事など気にも留めず、新たなる王誕生の瞬間を目に焼き付けた。

 

「ウッ……ウグゥゥゥ……ガアッ……」

 

 かつて少女だった飛蝗怪人は自らの変貌を受け入れられぬまま、無我夢中で触手をはらおうと踠き暴れる――が、まともな抵抗は一切敵わず、注がれ続けるエキスに含まれた鎮静作用を前に、やがては大人しくなってしまう。

 

「次はお前だ……」

「ひぃっ……! い、いやっ……やめてっ……」

 

 もう1人の少女もこの手術から逃れる事は許されない。素早く彼女を囲むと、同様に展開した爪にキングストーンを再填し、容赦なく光線で腹部を抉った。

 

「ぐっ、いっ……やあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 襲いくる激痛に堪らず、首を振り乱し痛みに震える少女。キングストーンは滞りなく少女の腹部に埋め込まれ、放射線状に波及するかの如く彼女のカラダは波打ち、緑の光に包まれていく。

 

「ギッ、ぎゃっ……、誰か、助けっ……!」

 

 終わりのない苦行の中、必死に助けを求める少女だったが、救いなどここにはどこにもない。

 見開かれ青色に染まる瞳からは涙が溢れ、光に覆われた肉体も親友同様に飛蝗怪人へと緩やかに変わっていく。

 

「……ゴルゴムの同士諸君! この瞬間を目に焼き付けなさい! 新たなる王の誕生を!」

 

 手術に付いてる三神官に代わって次いで位の高いアリスが音頭を取り、手にしたヘブン入りグラスを掲げた。新たな支配者の誕生と怪人の世の到来を願って。

 

「我ら怪人の未来と栄光に――」

 

 ――乾杯、と叫びかけた瞬間。

 

 耳を裂くような轟音と激しい爆風がアリス達を襲ったのだった。

 

 何者かによる攻撃と理解する間も与えずに繰り返される爆撃にゴルゴム怪人達は、為す術などなかった。

 

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