※この作品はR-18です。

朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う   作:名無しの猫

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2章最終回です


決戦ゲルダム団、そして……

 シノン達がゲルダム団アジト奇襲作戦を企てた同時刻。

 世界の果てともいえる秘境に建つ小屋。やや乱雑に取り付けられた扉が軋むように開いて、大柄な男が戸を潜るようにして入ってきた。

 手にはその日の食糧であろう山菜や魚、野生の動物を詰めた袋を抱えて。小屋の奥にたどり着くと、それを床においた。

 

「――深澄」

 

 自分以外誰も住んでいないはずの場所で、懐かしい名前を呼ばれても驚く素振りすら見せずに。男は寝床の上に腰かけている薄笑いを浮かべた少女――明日奈を見つめた。

 

「久しぶりだね。随分とイメチェンしたよね、深澄」

「……深澄は死んだ。今の私はミトと名乗っているわ」

 

 互いに表情を変えぬまま言葉を交わし続ける。

 

「……来るのはわかっていた。それで、望みはなに?」

「うーん、その前に……クジラから貰ってる秘薬を解いてくれるかな。私は、本当のあなたと話したいから」

 

 腹部に出現させたベルトをチラつかせながら、会話の主導権を握る。本当ならこんなことはしたくないが、今の彼女はこのまま逃げてしまう恐れもあったから、一秒でも惜しい今でこそとる非常手段だ。

 

 やがて、観念したように男の身体から蒸気が噴出して、大柄な体格がしぼんで小さくなった。

 

「凄いねそれ、クジラもどこかに隠れているの?」

「……クジラはあなたが目覚めた日にここを去ったわ。知らなかったんだ」

「今の私が興味あるのは深澄――ミトだけだから、それに私が知るのは眠っていた時間の出来事だけ」

 

 少女らしい外見と声に戻ったミトは再度、アスナと向き合った。

 本来なら、生き別れた親友と数年ぶりの再会をなんの気兼ねもなしに分かち合いたかった。互いに抱きしめあって抱えていた不安や恐怖を分かち合い共に生きていきたかった。――でも、それはもはやかなわない。

 

 あの儀式から逃げ出して、クジラ怪人に助けられ生きてきた数年で学んだのだ。

 

 もう、明日奈とはただの親友ではいられないことを。

 

「そんなに怖い顔しないでよ。別に戦いに来たわけじゃないから」

 

 彼女の警戒を解くためベルトを音もなく収納する。流石に、こちらが武装しすぎたと反省しつつ。

 

「最初に言ったでしょ。私は、ミトと話をしに来ただけ……力を貸してもらいに来ただけだから」

「明日奈、一体何をする――」

 

 

 

 

 

「――創世王を殺すの。私とミトでね」

 

 

 予想しないその言葉にミトは息を呑んだ。

 

「あいつがいる限りこの世界に明日はない……だから殺す。そして二人で理想の世界を作ろう」

 

 どこか濁って見えるかつての親友の瞳を見つめ、ミト――深澄は心に影が差すのを感じた。

 

 やはり親友はここにはいない。

 

 ここにいるのは変わり果てた怪物――世界を混沌に変えようとする魔王に過ぎないことを突き付けられて。思い知らされて。

 

 

※

 

 

 こうして翌朝に実行されたゲルダム団のアジトへの奇襲作戦――だったが、早くもその根底は崩れ去りつつあった。

 古びた遊園地の内部に作られた秘密基地では動きを察知されており、敵に見つかってしまったユウキとシリカをきっかけにショッカー怪人たちは強襲を受けることとなった。

 

「……わっ! どうしてボクたちの動きが敵に……っ!」

「知らないですよぉー」

 

 かつては広場として使われていた場所。

 降り注ぐ大砲の雨あられを前に、ユウキとシリカは敵に囲まれていた。絶え間なく撃ち込まれる砲撃のさなかにも敵は二人を包囲して絶体絶命の状況は刻一刻と悪化を続けていた。

 

「くっ……、他のみんなは大丈夫かな」

 

 自身の安全も保障できない状況でもユウキは仲間を案じ、いち早く合流するべく剣を構えた。

 

 

――

――――

 

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 アリスはサタンサーベルを振って迫る戦闘員を切り捨てた。

 深い森の中、仲間たちと分断されたアリスとシノン。二人は青と黄色の派手なカラーリングの戦闘員たちに囲まれたまま互いに背を合わせ、襲い来る相手を前に立ちまわっていた。

 

「一体どういうことかしら、こっちの動きが敵に漏れてるけど」

「聞きたいのはこっちも同じです。なぜこちらの動きが……!」

 

 高笑いが聞こえてその方向を見上げる二人。視線の先、大木の上に立つのは白衣を着た男で――その人物こそアリスが潜入させていたスパイに他ならなかった。

 

「貴様は……! さては裏切ったな!」

「ふん! 元より俺はこっち側だ。お前が忍ばせた三流スパイなどその日のうちに殺したわ!」

 

 男はアリスを鼻で笑うと、顔を両腕で覆い光を放った。虹彩色の輝きが歪んで中から現れたのは不気味な体表を備えた怪人。

 

「お前はヒルカメレオン?! まさか日本に来ていたとは……!」

 

 思わぬ怪人の登場にアリスは目を見開いた。

 その名の通りヒルとカメレオンの合成怪人である彼は、吸血機能と変身能力を活用し多くの都市を壊滅させてきたことで、その存在は怪人世界でも知れ渡っているのだ。

 

「キェェェー!」

 

 ヒルカメレオンは二人めがけて飛び掛かると、右腕の触手を鞭に見立てて振るい彼女たちの首を狙う。

 

「くっ……」

 

 地面を転がるように避け、シノンは冷や汗を浮かべた。攻撃パターンは先日の怪人と変わらないが技のスピードと威力は段違いで、今は回避できたものの、もし直撃したらと想像するだけで背筋が凍った。

 

「キェェェ! どうだ思い知ったか小娘!」

「舐めるな!」

 

 シノンが一時離脱した間に、アリスとヒルカメレオンは一進一退の攻防を繰り広げる。互いにまだ手札はいくらでもあるが、今手にしているサタンサーベルと触手ムチ。どちらも一撃必殺の獲物であり、両者とも実力者であるがために膠着状態を迎えていた。

 

「しぶとい女だ……」

「そっちこそ……」

 

 ヒルカメレオンはムチに電流を、アリスは刀身をギラつかせて溜めに入る。2人とも一撃で勝負を決めるつもりであった。

 

(いまだ……)

 

 その隙を見逃すシノンではない。素早く弓矢を召喚すると怪人へと狙いを定める。遺恨はあるものの、同じ組織に属する身、互いに支えあい協力するのは当然だった。

 

 

 

 

 

 その戦いの地より遠く離れた山の天辺で。現われしは太陽の炎を刻んだ白いマントを風に流し、黒い強化服に身を包んだ赤い兜の異形。

 左手には日輪を模した巨大な盾を抱え、そして右手に構えたショットガンをはるか先で静止したアリスへと向けた。

 人間はおろか怪人ですら認識が難しいほど遠距離にも関わらず、仮面の隙間から覗く肉眼は高性能なスコープよりも正確に標的を補足していた。狙いはただ一つ、異形は静かに引き金の上に指を置いた。

 

 

「――!?」

 

 弓矢を引いた瞬間、研ぎ澄まされた感覚は突如として流れ込んできたおぞましい悪意によって完全にかき乱されてしまった。全神経を集中させてしまったが故の悲劇で。

 これまで感じたことのない殺意すら超えた根源的な恐怖。まるで全身どころか魂を舐めまわされ這いまわられているような嫌悪感に、シノンの意識が乱れて定まらなくなる。

 

 ――だが、進化を続ける彼女の超感覚は、これが自分ではない誰かに向けられたものであることを本能的に察知し、周囲を見渡す。

 

 誰が、そして一体誰を狙っているのか。

 

 カラダのすべてを目と耳に向けて必死に探す。――そして、見つけた。微かに揺れる葉っぱの隙間からぼんやり覗く山。その頂に立つ異形を。鮮明には視認できずとも、この不快感の発生源はあそこで。それが、引き金を引いたのを聴覚が捉えた。

 

 もはや、判断している余裕なんかなくて。

 

 音よりも早く一直線に飛んでくる弾丸からアリスを突き飛ばして、地面をむなしく抉るそれに安堵したのも束の間――

 

 

「……っ!? シノン、逃げてっ!」

 

 叫ぶアリスの声に我に返って。そう、すっかり忘れていた。

 

「もらった!!!」

 

 得意げに叫ぶヒルカメレオン。たっぷり電気をため込んだ触手は容赦なく振り下ろされて。

 

 

 回避する気力もないままに、その一撃はシノンの頭部を残酷にも襲った。

 

 

――

――――

 

 

「俺の攻撃に気づいたか……」

 

 山頂で銃を下ろした異形は静かに呟いた。

 あのシノンとかいう怪人が覚醒していることは知っているがそれにも段階がある。もう何世紀も前に目覚めた自分や彼女でさえその果てに到達していないのだ。

 現時点では察知することもできないだろうと嵩をくくっていたが認識を改める必要がありそうだ。

 

「……だが『真人類』の素質に目覚めながらあの怪人の動きを躱せぬとは情けない」

 

 ヒルカメレオンの攻撃で遠くかなたに吹き飛ばされ、気絶して川を流されていくシノンを見下ろし、異形はその場を後にした。

 もうこの地に用はない。とばかりに去っていくその足元、重く抉るようについたブーツの跡からは火が燃えだしていた。

 

 

※

 

 

 激しい頭痛と込み上げてくる吐き気。

 

 鳴り止まぬ耳鳴りに目が眩むほどの光が視界を埋め尽くして。

 

 

 

 ――そして、記憶が、甦った。

 

 半ば強制的に連れ込まれた悪魔の拠点。

 

 ハダカのカラダを照らす眩しいほどの照明。

 

 そして、自身を囲む不気味な白衣の連中。

 

 強制的に輸血されたドス黒い人工血液の激痛が覚めぬままに、奴らに担がれて移動させられた不気味な改造手術室。

 

 抵抗もむなしく、円形の手術台に無理やり繋がれて。身勝手にも宣告される手術の合図。

 

『いやぁぁぁぁぁ、助けてっ! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!』

 

 どんなに藻掻いても手足を締め付ける鉄枷は外れる気配はなくて、泣き叫ぶ自分を取り囲む白衣はじわじわとその数を増やして。

 

『やだ、やだやだやだっ! 改造人間なんていやぁぁぁぁぁ! もう許してぇぇぇ……!』

 

 もはや外聞など捨てて涙と汗に顔を濡らして許しを請うが、返ってくるのは無感情な視線と凶悪にギラつくメスと注射針の輝き。

 

『いやっ、やだっ! やめてっ、もういやァァァー!』

 

 やがて押さえつけられた腰に迫り来るメスを前に、藻掻くことさえ封じられて、無理に起こした涙まみれの視線の先で刻一刻と絶望の刃先が肌に触れて。

 

 

――

――――

 

 

「――ッ?!」

 

 脳裏に響いた絶望交じりの悲鳴と湧き上がってくる恐怖に、思い出したように疼きだす激痛に、無理やり意識を引きずられて。

 

「……うっ、ここは――」

 

 排水トンネルの中。

 痛む腕を抑え、濡れた体を壁に預ける。きょろきょろと、周囲を見渡してみるが記憶がはっきりとしない。

 

(ここはどこなの……?)

 

 意識も何もかもが朧気で、自分が最後に何をしていたのかさえ定かではなかった。覚えているのは確か、公園で座っていた時に誰かが――

 

(……?)

 

 血が出ているのか、頭から流れる感覚がして触れる。――そして、両手に被さった奇妙なグローブが視界に入って。

 

「――あ、あ、ああ……ああぁあああ」

 

 震えだす瞳とわななく唇。喉は声にならないほど、微かに、同様の音だけを鳴らして。

 

 怒涛のように込み上げる記憶、奥底に眠っていた、殺すように眠らされていた自我が蘇って。

 

 

『我が名はシノン! 愚かな人間から世界を取り戻し、支配する為にショッカーに忠誠を誓おう!』

 

 

 誘拐され、悪魔にカラダを切り刻まれて、彼らに従うように植え付けられた怪物と成り果てた悪夢の記憶。

 

 異形の身体をもってなしてきた口にするのも憚られる残虐非道な行為。

 

 容赦なく人を殺し、全てを破壊し、あらゆるものを傷つけた。

 

 正気の沙汰とは思えない、狂気の日々。――だがそれは、紛れもなく、他でもない自分が引き起こした揺るがない事実で。

 

「……あっ、いいっ、いや、いやっ……」

 

 両手で顔を覆い、溢れ出す涙を隠して、不意に横に流した瞳の先、――残酷な真実を突きつけるように複眼をこちらに向けて睨む生首みたいな仮面と視線がぶつかって。

 

「いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 

 もう二度と人間には戻らぬ異形のカラダと犯してしまった返しきれぬ罪の数々、年端もいかぬ少女には過酷すぎる現実を前に耐え切れず、叫んだ。

 

 けれども狂うことは許されない。なぜなら、彼女を造り替えた組織が発狂する自由さえ奪い去ったから。

 

 

 ――こうして朝田詩乃は悪の組織の洗脳から解放された。でもそれは、新たなる地獄の始まりにしか過ぎなかった。

 




読んでいただきありがとうございます。気に入っていただけましたらブクマ・評価・感想などよろしければお願いいたします

これにて2章を終了し、次回より3章より突入したいと思います
次は年明けか早ければ年内にも。
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