朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
コントロール室から外に出て、詩乃が連れられたのは先程の改造手術室。工場のレーンのように長く連なるそこの始点で、全ての衣服を脱ぐよう命じられた。
『改造手術は新たなる自分へと生まれ変わる神聖なもの。何かで身体を隠すなど冒涜です』
スピーカー越しに男から告げられ、更衣室は無いかと尋ねたもののあっさりと却下されてしまい。結局は周りを囲まれたままブレザーへと手を掛けた。
ボタンを外して袖から腕を抜く。脱いだ衣服はその場に置いて、ネクタイを解き床に落とした。
ブラウスのボタンを一つずつ外すたびに周囲の視線が気になったが、耳と同様に彼らの眼からは感情が何も感じられず、ならばと臆することなく腕を抜き足元に放った。羞恥心は未だ健在だが、気にしたところで最早どうにもならない。
「美しいカラダです。それでこそ我らの仲間にふさわしい」
本心なのだろうがどこか気恥ずかしい言葉は無視して、飾り気の無いブラジャーにはまだ手をつけず。詩乃は革靴を脱いでハイソックスから足を抜く。
裸足が冷たいコンクリートの地面に触れ、寒さで震えた。
スカートのホックに手をかけ、そろそろと下ろせば詩乃は下着姿となった。グレーの地味なデザインだが、スタイルの良さは引き立っている。
『恥ずかしがってはいけません。ハダカになって全てを曝け出すのです。彼らはあなたの生まれ変わりを手助けする存在。いわば協力者なのですから。何も隠す必要などありません』
そう言われても乙女として割り切れるものではない。初対面の相手に、それも複数人に肌を晒すなど耐えられるわけなどないのだ。
けれども、いつまでもそうしてることなど出来るわけもなくて。詩乃は深呼吸を一度し、手を背中に回してブラのホックに手をかけた。
パチリと音がして、カップが乳肉に押し出される。平均よりは上だがデカいと呼べるほどではない詩乃の乳房。けれども形は最高クラスで、男なら一度は揉んでみたいと思うほど美しく滑らかだ。頂点に咲く可憐な桃色乳首も良いアクセントとして機能している。
普通の男達ならここで鑑賞したり感想を口にする程均一取れた女体だったが、ここにそんな普通の感想を語る者は一人もない。
男であろうが女であろうが、改造人間となれば皆等しくショッカーという個の存在となるのだから。
誰もが無言の空間で詩乃はショーツに手をかけ一息で下ろした。控えめな陰毛が露わになって、男を知らぬ花園が周囲に晒された。
足を上げて下着を抜いてやれば、詩乃はとうとう全裸となった。
『素敵なハダカですね。こんなお嫁さんなら未来の旦那様はさぞお慶びになるでしょう』
皮肉混じりに「まぁショッカーでは結婚なんて無理ですがね」と続ける男を無視して、詩乃は右手で胸を、左手で陰部を隠した。
『もう一つ残ってますね。危険ですので眼鏡も外してください』
男の指示に詩乃の肩が震える。
ハダカになるのと眼鏡を外すのでは圧倒的に前者の方が恥ずかしい行為だが、この眼鏡は詩乃にとって特別なものなのだ。本来、詩乃に視力の矯正器具など必要なく、恐怖の対象から自身を守ってくれることを願って防弾ガラスで出来た特殊なものを着用している。
自身の弱さを少しでも防ぐために。
『これからの強いあなたには最早必要のないものです。私に任せて』
男の言葉に押されて、詩乃は眼鏡も外してガスマスクの一人に渡した。流石に床に投げるわけにはいかないのと、何やら調整だか改良を施した上で返却するとの事だったので、変なことはしないよう念押しして託した。
『いつまでもハダカでは風邪を引いてしまいますね。では手術台へと横になってください』
白衣に促され手術台へと横たわる。金属製の冷たい温度に肌が泡立ち、無機質な感触に背筋が凍る。
手足を大の字に伸ばされるとそこに枷が施され、詩乃は自由を奪われた。手首と足首に感じる金属の重みと冷たさが、拘束され逃れられなくなったことを実感させ、覚悟を決めざるを得なくなる。
『それでは後はこちらに任せてください。成功を祈ってます』
その言葉を最後にスピーカーは切れ、同時にレーンが動き始めた。
無言に、無表情のままガスマスク達が遠ざかっていき、ここに来て初めて詩乃は一人になった。
身動きは取れないのでぼぉーっと天井だけを眺める。まるで自分が工場の製品になったようで、これから人を辞めるのだと実感した。
スキャンしているのか時折、赤や緑の光を通過する度に壁際にレントゲンや体内データが表示され、これを元にするのかなと思った。
恐怖がないわけではないが、脱走できないのなら受け入れるしかない。先程の少女のように惨たらしく死ぬことになっても、それは自分への罰だなと考えることにする。それでも――
(死にたくない。死ぬのは嫌、生きたい……)
目に自然と涙が溜まり、溢れた。身体が震え出して歯が鳴り、叫び出したくなる。
決意したのに結局は恐怖を抑えることなど出来ず。それでも無情にレーンは進み続ける。
「怖い……、怖い……」
か細い声で、思わず本音が漏れるも誰の耳にも届かない。
カゴンと音がして、手術台に衝撃が走る。激しい揺れと急停止で、詩乃はついにレーンの終点へと到達したのだと察した。
(いよいよ、始まる……)
頭上では風力タービンみたいに大きな風車が回って、ドリルも急速に回転を始める。傍では血液を循環させる為の機械が作動して、真っ黒な人工血液が巡り出した。
枷に締め付けられた手首と足首にちくりと鈍い痛みが広がって。どうやら仕込まれた針らしき物を刺されたようだが、その答えに辿り着く前に人工血液が詩乃の身体へと押し入ってきた。
「うっ……!? ……うううっ!!!」
詩乃の素肌に血管が浮き出て、苦痛に顔が歪んでいく。
「あっ……! あぁ……! あっ……!?」
腕に、足に、全身に血管が浮かび上がりどくどくと脈打つ。目を閉じることも出来ぬままにゾワゾワとした刺激が身体中を駆け登って。そして、顔に到達した瞬間に激しい痛みに襲われ、たまらず叫んだ。
「うあああああ!! あぁぁぁぁぁ!!」
充血するほどに大きく目を見開き、狂ったように暴れ悶える詩乃。もちろん拘束はされたままなのでせいぜい腰を捩るか首を振るかなのだが、そんなことを気にしてはいられぬほどに激痛は耐え難いものだった。
「がっ! ぐあっ……! あっ、あああああ!!」
髪を振り乱し必死の形相で逃れようと手足に力を込める。獣のような雄叫びを上げ、無理だと分かっていても限界などとっくに超えていて、早く解放されたいばかりでなりふりかまってなどいられなかった。
「ああっ! あ゛っ! あああ! ぎゃぁぁぁ!!」
身体中の血管が別の生き物みたいに蠢いてその度に意識が消えそうなほどの苦しみに苛まれる。
熱い、燃えるように肌が火照り汗が滲む。
心臓が激しく鼓動して、破裂しそうなほど脈を打つ。
内側から食い破られ、作り変えられていくような感覚が延々と続いて気が狂いそうになる。
「や゛っ、や゛めぇぇぇ……、助けっ……、ぎゃぁぁぁぁぁ……!!!」
詩乃がたまらず助けを乞いた瞬間に血流は速度を上げて、内側から壊しにかかった。
彼女の体内データは全てコントロール室へと転送され、詩乃本人さえ知り得ない情報までも正確に記録されていく。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……!」
首を振り乱して声にならぬ叫びで悶絶する。
が、やがて、終わることのない痛みの中で、ふわりと浮いた感覚と共に、詩乃の意識が次第に遠のいていく。
手足から力が抜け、身体から意識が離れていくように感じて和らいでいく。
これが良いことか悪いことか。詩乃には見当もつかないが、苦しみから解き放たれるならなんでもよかった。
(ようやく終わる……。これで終わるんだ……)
苦悩とは違う安堵の涙に詩乃は目を閉じる。
これで楽になれる。もう解放されていいんだ。
そう感じた瞬間、脳裏に男の言葉が過ぎった。
『いつまでも逃げてばかりでは何も変わりませんよ』
(……負けない。負ける、もんですか……!)
拳を握りしめ、目を見開く。宙を睨みつけるように力を込め、痛みに抗う。
苦痛は和らぐどころか増す一方だが負けるわけにはいかない。ここでの敗北は死なのだ。絶対に屈することなどできない。
「ぐっ、がっ、あぁぁぁぁぁ……!!! ま、けるかぁ……、負けて、たまるかぁぁぁ! うわぁぁっ……!」
歯を食い締め、負けじと身体を起こし立ち向かう。拘束され制限があるなんて関係ない。むしろ枷を破壊せんとばかりに詩乃は全力で戦った。
「はあああああぁぁぁぁぁ!」
魂からも力の限り叫ぶ。
やがて、機械の唸りが鎮まりチューブの血液供給が止む。すると、浮かんだ血管が嘘のように次々に消えていき元通りの綺麗な白い肌へと戻っていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
静かになった手術室に詩乃の荒い息だけが響く。大きく胸を上下させ、乱れた髪が張り付く汗だくの肌が照明に当てられ艶っぽく輝いていた。
(終わった……。本当に終わったんだ……)
汗だくのハダカをまずは拭きたいが手足が未だ動かさない以上どうすることもできない。どこからか聴こえてくる複数の足音が自身を解放する為だと考え、今は一時の休息に身を預けた。
(これで私、強くなれたのかな……? 本当に……)
とにかく今は、近づく足音と、何かの金属だろうか、鈍い接触音が次第に大きくなり、解放の時が待ち遠しかった。
『おめでとう、朝田詩乃くん! 君なら人工血液に適合できると信じていたが、まさかここまでやってみせるとは……! こんな数値は見たことがない……!』
これまで見たことがないくらい抑揚のついた声で語りかける男に返事をする気力は残されてはいない。
早く枷を外してほしい。
シャワーを浴びさせてほしい。
家に帰って自室のベッドで寝たい。
それだけが詩乃の心を満たしていた。
生まれ変わった自分のカラダがどうなったかなんて、意識から抜けていた。今は生き抜いた事実だけで十分だった。
『――これで第一段階は終了。これより第二段階へと移行します』
「……っ!?」
驚愕の一言に汗だくの乳房がぷるんと跳ね、汗を散らす。
「だ、第一段階……?」
あまりの事実に目を見開き衝撃を隠せない。空いた口が塞がらず、これから更なる苦行が待ち受けている事を認識出来ずにいた。
そこへ、白衣のガスマスク達が詩乃を囲むように現れた。各々、手にはドリルやメス、注射器といった機器を持ち、ライトの光を浴びて凶悪に輝いていた。
『そう、今までは第一段階。改造手術に耐えうる肉体となる為の準備だよ。これからが本番。ショッカーの誇る科学チームの手によって、君は別の生物の力をその肉体に与えられ、崇高なる存在へと進化するのだよ!』
高らかに宣言する男の声など最早耳には届かない。
真っ白になった頭は無意識に抵抗し、カラダを暴れさせる。
「い、いや……やめて……」
『もう遅い。君は人工血液が注入された時点で既に人ではなくなっているのだから。それに、この状態では君は死を待つだけなのだよ』
「いやぁぁぁぁぁ! もうやめてぇぇぇぇぇ!!」
告げられる事実に耐え切れず、ついに詩乃は泣き叫んだ。
「もういいっ!? 無理、もう無理っ……。やだ、やだ、やだやだやだ! いやっ、やめて、もうやめてよぉぉぉぉぉ!!」
恐怖のあまり失禁し涙と汗で顔を汚す。
一歩、また一歩と近づく科学者達に怯え抵抗を叫ぶが彼らには届かない。
『安心したまえ! その恐怖や苦しみも改造手術が完了すれば消えてなくなる! その時君は新しい自分として覚醒するのだから!』
「そんなのいや……! 戻して、私のカラダを返してぇぇぇぇぇ!!!」
頭を押さえつけられ、メスとドリルが目前へと迫る。
泣き叫ぶ詩乃に救いを出すものなどそこには誰もいない。
『朝田詩乃の肉体改造手術を開始しろ! 我らの手で、彼女を最高の改造人間とするのだぁーーー!』
「いやぁぁぁぁぁ、助けてっ! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!」
詩乃の絶叫が虚しく響くが、それは誰にも聞こえない。
「やだ、やだやだやだっ! 改造人間なんていやぁぁぁぁぁ! もう許してぇぇぇ……!」
懇願虚しく、全身白の集団に囲まれたまま手術は残酷にも執り行われ。聞くに耐えない悲鳴が基地中へと広がった。
鮮血が散り、隙間から覗く足が激しく暴れ狂う。
――が、時が経つにつれ、やがては、大人しく、静かに、そして、動かなくなった。