※この作品はR-18です。

朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う   作:名無しの猫

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拷問

「いやぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!」

 

 眩い閃光が部屋全体を満たしていく。プラズマが弾ける音が響き、絶叫と混じり合って木霊する。

 

「やっ?! ああっ、あぐっ、あぁぁぁぁぁー!」

 

 その中心、改造手術台の上。全裸で拘束されている詩乃はその苦しみから逃れようと踠き続けていた。

 

「うわぁぁぁ、あっ、ああぁ! いやぁぁぁぁぁ!」

 

 鉄枷によって大の字に縛られたカラダは僅かに捩る余地もなく、自由のきく腰を捩り首を振り乱してもなんの慰めにもならなくて。

 

「ぎゃぁぁぁ、あぅっ、うわぁぁぁ、ああぁぁぁー!」

 

 苦痛に堪らず開いた目からは涙が絶え間なく溢れて。白い蛇みたいな電流が彼女のカラダを這い回り撫で回していく。

 

「うっ、うわっ、あぁ! ……や、やめ、てぇぇぇ……、うぎぃ、あぁっ……」

 

 苦しみに抗い見上げるのは自身を囲むかつての仲間達。

 ユウキ、アリス、シリカ。操作盤の前に立ち、逃げられないように、そしてこの拷問の監視役としてシノンを冷徹に見下ろしていた。

 

「も、やめっ、……もうっ、助けっ……ぎゃぁぁぁっ!」

「シリカ、電流を最大まであげてください」

「……まっ!? やめっ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 詩乃の静止など構う事なくシリカは容赦なく目盛を最大まで一気に回した。瞬間、真っ白に染まる手術室と手術台から溢れ出す機械音に悲鳴が掻き消されて。

 人間ならばこの痛みを知ることなく死に至るほどの電撃。――だが詩乃は改造人間。気を失うことはできても苦痛からは逃れられない。

 強制的に気絶と覚醒を繰り返され、思考がどんどん奪われていく。もう自分がどんな姿を晒しているのか、どんな声を上げ苦しみ悶えているのかなんて分かるわけもなくて。

 白く塗りつぶされた視界にユウキ達は映ってなく。永遠とも呼べる時間の中で、激痛だけが唯一己を保つ術になっていった。

 

 白目を剥き言葉にならない音だけを漏らす口。やがて限界を迎えバチバチと吹き出し始めた手術台を見て、アリスはスイッチを落とした。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」

 

 全身を襲う痙攣は止まる気配がなく。カラダを濡らす汗は蒸発して湯気に変わり、局部からは尿が溢れ出した。

 惨めとしか言い様がない落第者の姿。

 アリスが無言で目配せするとユウキは取り出した注射器を詩乃の首筋に突き立てた。一瞬にして白目に虚な瞳が戻り、そこに色がつく。

 

「うっ、ああぁ……、ま、また……」

 

 無理矢理に意識の覚醒を促す薬液を投与され、未だ苦痛が残る肉体で身じろぐ詩乃。首筋の注射跡は一瞬で消えたがユウキの足元には大量の薬瓶の空が転がっていて、それがこの電気拷問が幾度となく繰り返された証明だった。

 

「反省しましたかシノン。組織から逃げ出したあなたを捕らえてから数日、この電気地獄も100回を超えました。まだ続けますか?」

「……うっ、もうっ、やめて……、もっ、ゆるし、てっ……」

「では、ショッカーに戻りますか?」

 

 アリスの冷ややかな視線を詩乃は睨み返す。

 拷問はたくさんだ――でも、それ以上に組織に戻るのは嫌だ、と。

 

「シリカ、電流の再充電を」

「もうやってますよ、後1分で終わります」

 

 攻めの再開を予告され、詩乃は力無く抵抗を試みる。

 首に付けられたチョーカーの力で怪人としての能力を封じられてる今、出来ることなど限られているがそれでも、諦めるわけにはいかなかった。

 明日奈に敗れ、ここに連れ戻されてから受けてきた拷問は様々だった。

 逃げ場のない狭い個室に閉じ込められて冷凍ガスに一週間もの間晒され、さながら棺桶のような箱に閉じ込められて火炙りにされたりと苦業が続いた。

 そして今。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 激しく胸を上下させ、乱れた呼吸を取り戻そうとする。

 が、その間にも攻めの準備は着々と整えられていき、身動きが取れず、ただ再会の時まで待つ事しかできない。

 

「……シノンさん、本当に人間なんかの世界に戻るつもりですか?」

 

 操作盤から離れ詩乃の髪を珪子は乱雑に掴んだ。

 

「シノンさんの過去も聞きました。私と同じでいじめを受けていた話を」

 

 忘れたくても忘れられない。まだ珪子が人間だった頃の忌々しい記憶。怪人として人を超えてなおも脳裏から消えてくれない悪夢。

 

「私達は、人間の頃からあの世界で居場所なんかなかった。……でも怪人になって始めて出来た。それなのに見捨てるつもりですか?」

 

 憐れむように胸を突いてくる珪子から詩乃は目を逸らした。どこかぼんやりとした視界では影に隠れた顔がはっきりと見えないが、今だけは、見えないことが、救い、だと思った。

 

「……居場所なんて私にはもう必要ない。私にはそんな資格はない。誰とも関わらない、誰も傷つけないためにも……」

 

 詩乃の答えは紛れもない本心だった。

 洗脳とはいえ、あれほど多くの人を傷つけ破壊した身だ。安らぎも平穏など、もはや自分に相応しくない。

 この忌まわしき手術台から逃れ、果てしなく襲いくるであろう刺客と対峙し続け、その果てに朽ちる。それが贖罪にもなるだろう、と信じている。

 

「……シリカ、今のシノンには何を言っても無駄です。彼女は貴方の知る偉大な怪人ではない、愚かな人の心を取り戻してしまった哀れな存在」

 

 桂子から奪い取るように詩乃の頭を掴んだアリス。

 

「私達の手で彼女を救ってあげなければなりません。そのためにも、弱い人間の心にはここで死んでもらいます」

「救うなんて、どの口が言うのかしら……」

 

 解放された後頭部が台と音を鳴らす。詩乃はアリスを睨みつけるが彼女はどこ吹く風と言わんばかりに、目をくれることさえなく、操作盤の前に再び立った。

 

「電流の強さを開始時から最大に設定します」

 

 カチカチと音を鳴らして絞られる目盛を睨み、レバースイッチが上がる事に唸りを増す背後の駆動音に息を呑んだ。

 

「それでは、地獄を楽しんで」

「……っ、私は、絶対に負けな――」

 

 言い切るよりも早く、詩乃のカラダは跳ね上がり、拷問が再会されたと理解する前に、スパークした意識は白い発光の中へと消えていった。

 

 

※

 

 

 拷問は、滞りなく執行された。

 

 時にコンクリートの中に生き埋めにされ、時に水中に一日中つけられた。

 酷い時にはナノマシンで作られた特殊な毒ガスの被験体にされ、危うく命を落とすところだった。

 

 組織にとって不要と看做された詩乃に与えられるのは、通常では知ることが許されない。貴重な怪人を犠牲にするリスクを伴う非情という言葉では表せない人体実験拷問。

 

 人間を遥かに超える怪人でも死に至る危険性のある程の地獄。――それが、偉大なる組織に歯向かった愚かな裏切り者の末路。

 嫌と言うほど味わった、声が枯れるほどに泣いて許しを乞いた。――でも、決して解放されることはなかった。

 

 

「あああぁぁぁぁぁーーー、あぁーーー、うわっ……!」

 

 白い部屋に超音波が反響する。脳を直接揉みくちゃにされて揺さぶるような不快な衝撃に、詩乃はのたうち回る。

 

「うっ、……うわぁ、あっ、や、やめろっ、ああっ!」

 

 音波は途切れることなく耳を貫き頭を揺らし、どんなに耳を塞ぎ頭を抑えても、吐き気を伴う痛みから逃れることは叶わない。

 

「うっ、ううぅ、うっ……! ああぁぁぁっ……」

 

 耳鳴りとして木霊する騒音からなんとか解放されようと無茶苦茶に壁を叩く。しかし、力を失った状態では微かな音を鳴らすことも出来なくて。代わりに強くなる音波に全身を貫かれて、抵抗する力もなく、その場に倒れた。

 

『シノン、貴方はもはやこの組織に不要な存在。首領はそう判断されました。ですが貴重なサンプルとしては最後まで役に立ってもらいます。それが、貴方に出来る最後の贖罪なのですから』

 

 管制室。マイクから淡々と語るアリスの声はどこか悦びも混じっているようで。――でも、とうの昔に鼓膜さえ破裂した詩乃に届いていない。

 彼女の反応を待つこと無く、音波をさらに強くすればさながら機械人形のようにビクビクと痙攣するそのカラダを見下ろして、次はどんな拷問にかけてやろうか。と、悪意に呼応するように腹部のストーンが輝き、アリスは残忍に笑った。

 彼女の背後。その後ろ姿を見つめる珪子も詩乃への所業に顔を顰め、木綿季はいつしか姿を消していた。

 

 

※

 

 

 カビ臭い地下牢。薄汚く真っ暗なその場所に詩乃は幽閉されていた。

 汚い壁にカラダを磔にされ、横一文字に伸びた腕は身じろぎ一つもしない。いや、もう身体を動かすことすらできないのだ。

 閉じること無く開いた目は虚で、既に心が破壊されているのは明らかだった。

 

 

 脳裏に絶え間なく浮かぶのは最悪の光景。

 ショッカーによって詩乃が受けた最後の拷問。頭にケーブルを繋がれた詩乃の脳内へと直接流し込まれるのは心への拷問。

 肉体の自由を奪わない代わりに意識は悪魔の作り出した電脳世界へと送り込まれ、そこで行われるのは記憶の追体験。

 自我のある中、自由の奪われた肉体が行う悪魔の所業を永遠と味わう地獄。

 どんなに抵抗しても言うことを聞かないカラダは淡々と人の命を奪い、砕き、踏み躙っていく。何度抵抗して拒絶しようが、それは止まることなどなくて。

 

 人の命を奪うことにトラウマを抱えている詩乃には効果絶大で。リアル感のある生々しい生命の消える感触を刻み込むように与え続けてやれば、簡単に心は折れた。

 半ば洗脳にも近いやり方だが、最早廃棄処理を待つだけの失敗作を黙らせるには十分な成果を上げていた。

 

 足音が近づいてきて牢屋の門が開く。もうそんな音にも何の反応も示すことはなく、俯いた視線に爪先が覗くと同時に力無く頭を上げた。

 

「随分と可愛い姿になりましたね。素敵ですよシノン」

「アリス、やっぱり貴方が来たのね……」

 

 予想通り、表れたアリスにもう思うことなどない。

 

「……私の処刑の日が決まったのかしら」

「はい。明朝、ショッカーの処刑場で斬首だそうです。残酷ですね」

「……その割には少し嬉しそうじゃない」

 

 言葉とは裏腹にどこか楽しげなアリスは腰を屈め、詩乃と目線を合わせた。

 

「……えぇ、だってこの時をずっと待っていましたから」

 

 凍てついた、寒々としたアリスの言葉に、鎖が、かちりと鳴る。

 

「……やっぱり裏があったわけね」

「やはり見抜かれてましたか」

「無断であんなヤバい怪人を蘇らせれば警戒するでしょ」

 

 それ以前から、というより元々信頼はしても信用はしていなかったが。(これでその信頼も消えた)

 

「あれは事故ですが……確かに疑うには十分でしたね」

 

 やはりあの失敗は思うところがあるのか、アリスは苦々しそうに笑った。

 

「ですが、あのおかげで確信がもてました。シノン、やはり貴方は私の見込み通りでした」

「……? 何を言ってる――」

「――あの時の拒絶反応(リジェクション)はかなりのものでしたね」

「――!?」

 

 アリスの言葉に詩乃は大きく目を見開いた。

 忘れもしないあの苦しみ。内側から引きちぎられるような、拷問にも匹敵するあの地獄を。

 

「正確に言うならばあれはリアクション(呼応反応)……。優れた素質同士が共鳴しあい互いに力を増幅させる現象、とでもしましょうか」

「あれも……明日奈の覚醒の影響、でもなんで私だけ……」

 

 組織の報告資料に目を通して、あれが明日奈――シャドームーンの復活に伴う予期せぬ事象であることは知っていた。だが、ユウキやシリカ、アリスと比べて過剰なまでの反応を示した事はそれとは別の要因が絡んでいると詩乃は予想していたが、まさか。

 

「それは……貴方もまた王の資格を……世界を統べる素質を備えている何よりの証拠に他ならない」

「それって、創世王の事?」

 

 詩乃の答えにアリスは頷いた。

 

「ありえない、創世王になれるのは世紀王だけ。そんなの、アリスが一番分かっているでしょ……!」

「えぇ、勿論。……ですが私は発見したのです。創世王に辿り着く為の新たなる道を」

 

 アリスはポケットから一枚の紙切れを取り出してみせると眼前へと突きつけた。そこに描かれているのは一体の異形。そして、その側に倒れ伏した飛蝗の異形――創世王。

 

「これは遥か古の時代に起きてしまった悲劇……創世王の死を記した禁断の歴史を記した一枚……」

 

 絵をまじまじと見つめてみると、ざっくりとだが読み解けてくる。かつて創世王だった飛蝗の異形は腹部から血を流し、かわりに倒した怪人は腹部から光、のようなものを放っている古の歴史。

 

「この創世王は、別の怪人にやられて石を奪われたのね」

「……そう、そしてその怪人が新たなる創世王になる……はずだった」

 

 アリスがもう一枚、古びた紙を取り出した。

 そこに記されていたのは哀れとも呼べる巨大な異形。容姿は先ほどの怪人に酷似しているが、全身を鎖に繋がれて拘束された惨めそのもの。

 

「……ですがこの怪人、彼は結局創世王になれなかった。怪人を創るエキスは垂れ流せても、自我までは持てなかったのです」

 

 悲しそうに瞼を閉ざし、アリスは紙を握りしめた。

 

「まるで話が見えてこない……結局、創世王には選ばれた者しかなれないだけじゃないの」

 

 要領を得ない、それどころかただの黒歴史を語る彼女に詩乃は理解が追いつかなくなっていく。

 

「確かにこれだけをみれば負の歴史です――ですが、この絵を重ねてみると……」

 

 詩乃の前で絵を重ねてみるアリス。――そして、浮かび上がるのは第三の絵。

 

 無様を晒す飛蝗の異形を破り、飛び出した全く異なる容姿をした不気味な影。人とも怪人とも似つかない、不思議な存在。

 

「ただの偶然でしょ、そんなの……」

「……本当にそうでしょうか? この2枚だけなら、多くの怪人が知る歴史を記しただけの古文書。ではなぜそんな物をゴルゴムの地下深くに隠されていたのでしょうか?」

 

 アリスの問いかけに詩乃は答えが出せない。そもそも組織が違うから知る由もない。

 

「私はこれをゴルゴムが……かつて内部にいた何者かが隠蔽していたのだと睨んでいます。創世王を選ぶ儀式、……いや、そもそも改造手術の中に、怪人を超える存在を生み出す為の因子が含まれている、確信は持てませんがそんな気がしてならないのです――」

 

 アリスがそう考えたのには二つほど理由があった。

 一つはかつてゴルゴムを襲った『帝国』を率いていた謎の存在。創世王に匹敵するほどの、創世王とどこか近しいナ(・)ニ(・)カ(・)を感じるあの影の存在に説明がつかない事。

 もう一つは改造手術には未だに謎が多い事。人間を怪人に変えるプロセスは既に解明され尽くされているものの、ある種人工的な存在にある怪人が自己進化をする理由、そして、ゴルゴム怪人より機械的な誕生をするショッカー怪人であるシノンが自分達より早く進化するのには、裏にいる何(・)者(・)か(・)の意図を感じてしまう。

 兵器として、生命体として作るには進化及び成長は必然ではあるが。どの怪人もより強靭な生命としての変化しかしないとなると、人為的な物を疑っても仕方がない。

 

 単なる妄想であればいいが、古文書に描かれた第三の存在。――それがかつてユージオを連れ去った異形の手と、重なってしまい、その考えが消えてくれないのだ。

 

 遠くなってしまった記憶の中。怪人になってしまったばかりの頃にユージオがよく口にしていた『怪人は何のために生み出されたのか』という言葉。もしかしたら彼はもっと早くに何かに気づいていたのかもしれないと、ふと思った。

 今となっては全てが遅いかもしれないが、試すことは、出来る。

 

 

「――今のところ、この仮説は想像の域を出ない。ですが、より強い怪人で検証してみる価値はある。」

 

 アリスの冷たい目が詩乃のハダカの胸を射抜く。込み上げてくる悍ましさに全身が震える。

 

「シノン、貴方は世紀王の復活に共鳴するほどの素質を持ち、怪人としての知力と体力にも優れている。――そして、仮に死んだとしても誰も惜しまない」

 

 ぞっとするような一言に詩乃は鎖を鳴らしてここから逃げ出そうとする。アリスの狙いなど明らかで。

 

「シノン、貴方が組織を裏切ってくれて本当によかった……。ブラックサンは消息を絶ち、シャドームーンも信用ならない。そんな時、貴方が王としての素質を見せてくれたのですから」

 

 懸命に足掻く詩乃の顎を掴み無理やりに視線を合わせさせる。

 自我を保つ保たないなど最早どうでもいい。この目の前にいる小娘さえ創世王として祀りあげてしまえば怪人の世界は安泰になるのだから。

 

「喜んでくださいね。これから貴方は私達を創造する母となるのですから」

「……やっ、待っ……、木綿季、助けっ……!」

 

 ジタバタと助けを乞う声も虚しく、腹部に突き刺さるアリスの拳。

 がくりと落ちる頭を撫でながら、悪魔の邪悪な笑い声は誰にも聞こえることはない。

 

「おやすみ詩乃、貴方ならきっと、意識を保てると信じていますよ」

 

 磔から解いた詩乃のカラダを抱え、アリスは牢から姿を消した。




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