※この作品はR-18です。

朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う   作:名無しの猫

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最近オルフェノクもエッチに思えてきました(ファイズ20周年とか早い…)
SAOのヒロイン達がオルフェノクになったらどんな感じなんだろうか…



失脚する剣聖

 詩乃がアリスによる再改造手術を受けていたその夜。都内の上空を旋回する影が一つ。

 

 雨の降り頻る夜空を突き抜け、背中から生える羽根を自在に操るその姿はさながら妖精のようで。どんどんと上げていくスピードは音も時間も置き去りにして。雲を切り裂き、静止した世界で見るのは夜の街並み。

 夜の闇の元、溢れかえる人をゆっくりと、じっくりと見極め見定めて今宵の獲物を選任する。

 仕事終わりのくたびれたサラリーマンから品性に欠ける子連れのシングルマザー。いかにも金と教養のなさそうな若者。困窮気味の徘徊老人。

 獲物は慎重に決めなくては、いなくなっても騒がれないであろう人間を選び狙わねばならない。――でも、なるべく生きが良く食べ応えがある相手でなければならない。

 そうして吟味していると目についたのは一台の車。セダン型で銀色の車体を透視してみれば乗っていたのは若い男女。顔立ちや歳の離れていない様子からおそらく兄妹であろうことが見て取れて、ふいに幼き日の思い出がセピア色に浮かび上がってきて。

 ピンクの舌先を踊らせて舐めずって、今宵の獲物を決めると少女は一直線に降下していく。風圧で金色のポニーテールが靡き緑と白のドレスがはためいた。

 

 

「……ん?」

 

 車を運転していた男がサイドミラーに映るナ(・)ニ(・)カ(・)に気づいた。目を凝らしてみればそれは翼を生やした奇妙な女で、彼はそのまま一息にアクセルを踏むと加速していく。

 

「……バレちゃったか」

 

 自身の気配に勘付かれた事に内心驚きつつも、それはそれとして、獲物を狩る事を楽しむ事にした。

 更に加速してやれば車との距離を詰めることなど容易くて。右へ左へとハンドルを切り蛇行する車をじっくり見下ろしながら、加速して更に鋭くなった風の感触を噛み締める。そして。瞬時に召喚した剣を投擲。放物線を描いた切先はボンネットを貫いた。

 直後、コントロールを失った車体はくるくると旋回して電柱へと衝突。煙を上げ、動きを止めた。

 

 少女は静かに上空から舞い降りて地面に足を付けた。かなりの高度から落下したが着地の衝撃は恐ろしいまでに皆無で、ぱちゃぱちゃと水溜まりを踏み抜きながら、軽快に近づいていく。

 目前のご馳走を見定めて舌は更に揺れ踊り、足取りは軽やかにスキップを踏んだ。やがて、辿り着いた車の前で、嬉々とした光を宿す瞳は更に煌めいて、もう待ちきれないとばかりに運転席のドアに手を伸ばした――

 

 

 ――瞬間、大きな音と共にドアが蹴破られて。

 

「動くな、警察だ!」

 

 同時に助手席からも拳銃を構えた女――婦警が飛び出してきて。見計らったように現れる無数の警官と駆けつけるパトカー。

 周りを見渡す間に囲まれていって、少女はようやくこれが囮である事を察した。

 

「連続兄妹殺人事件の容疑でお前を逮捕する! 大人しく両手を上げろ!」

 

 そう言われて「はい、観念します」と、聞き分けが良い少女ではない。

 素早く運転席の警官を掴むとそのまま投げ飛ばし隊列を崩す、生じた隙に今度は婦警の背後を取ると彼女を盾に後退する。人質を前にすれば多少は優勢になると睨んでいたが、ここにいるのは全てが警察。その可能性も織り込み済みだったか、虚しくも抗ってくる婦警と狭まる周囲の輪を見て無駄だと悟り、その場に捨てて逃走を試みた。

 しかし、相手はプロ。いくら常人を超えた少女であっても逃れることは容易ではなかった。立ち塞がる警官を薙ぎ倒しては投げてと抵抗はするも、巧みな連携を前には追い詰められていって、時間をかければ恐らく勝つのは自分だが、生憎現(・)時(・)点(・)で(・)は(・)時間も発揮出来る力も限られている状況では長居もしてられなくて。

 流石の少女も苛立ちを隠せなくなってきた頃、隊列に異変が起こった。

 

「うわー、化物だー!」

「何者だキサマは?!」

 

 後方から木霊する悲鳴と共に大群をぶち破り現れたのは銀バッタ怪人――アスナ。彼女はそのまま上空へと飛び上がり少女を庇うように前に着地すると、素早く振り向き右手を翳した。放たれる念動力。それは瞬く間に警官達の首を締め上げ縛り上げて、一瞬にして全員を無力化した。

 殺してはいない、あくまで意識を奪うだけに留めている。

 

「あなた、一体何者……?」

 

 突然の乱入者を前にしても少女は余裕を崩さない。が、夜明けも近づいている。制限時間は、あまり残されていなかった。

 

「別に誰でもいい。ただ、あなたの味方なのは確かだけど」

 

 振り向き様に変身を解きアスナ――は人間態へと戻った。そして、掌に載せた緑色の鉱石をチラつかせると、少女の瞳が揺らいだ。

 

「信じてくれるなら、この石をあなたに上げるけど……どうする?」

 

 自身の腹部を撫でながら、少女は、明日奈の目を静かに見つめ返した。

 少女が無言で了承したのを見て、明日奈はくすりと笑った。悪意や思惑などない年相応の笑顔だった。

 

 

※

 

 

 カッ、と目が見開かれて桐ヶ谷直葉はベッドから飛ぶように身を起こした。

 顔面は蒼白に、全身を汗でぐっしょりと濡らして、目覚めたばかりなのに激しく息を切らし、顔を覆った。

 

「まただ……またあの夢……」

 

 もうずっとそれしか見ていない。最後に楽しい夢を見たのは、いやそもそも夢すら見ずに眠れたのはいつだろうか。それすら思い出せない。

 いつしか溢れ出した涙と嗚咽。口に残るのは夢で婦警に噛み付いた食感。指に感じるのは掴み投げ飛ばした無数の人々の感覚。悪夢の惨劇を物語るように残る忌まわしき余韻。

 これまではあくまで一般人だったが、今回はワケが違う。この悪夢に至ってはとうとう警察を相手にしていた。自分に反社会的な思想は一切無いしありえないが、それがやけにリアルすぎて。

 

「……もう嫌、何なのよこれ……」

 

 額の汗を拭いつつ起き上がり、スマホを手に取る。そして、いつしか日課になっていたトークアプリを起動する。目的の相手は「朝田詩乃」。かつて自分を助けてくれて親身に相談にも乗ってくれた相手だが、あの喫茶店での怪物騒動以来連絡が取れない。

 最後に別れてから何かに巻き込まれたのではと心配になるが、ただ忙しいだけかもしれないと言い聞かせる。それからメッセージや通話履歴も確認するが相変わらず反応はなく徒労に終わった。

 

 ……もしや自分が詩乃を食べてしまったのだという漠然とした不安に襲われるが、そんな事は断じてあり得ないと首を振る。

 

「……スグ、おはよう。もう起きてるか?」

 

 そんな時、ドアをノックする音がして我に返る。厳重、と呼べるほどにロックを重ねてあるため万が一にも開く心配はないが、それでも警戒してしまうほどに今の直葉は追い詰められていた。

 

「返事はしなくてもいいから……それじゃあ俺、学校行ってくるから」

 

 ドアの向こうに立つ声の主はそれだけを言い残して去っていく。遠のいていく足音の床の振動に、直葉は手を胸に置いた。高鳴る心臓の鼓動と脈を打ち熱を帯びていくカラダ。

 本当なら、今すぐにでも扉を開いて声の主を抱きしめたい。

 でも、出来ない。

 悪夢のこともある。でも、それ以上に時間が経ちすぎたのだ。別に特別仲が悪いわけではない。ただ成長するにつれてお互い変わって距離が開いてしまった。それだけの話で。

 だが今は、そんな状況になってしまったことが恨めしい。もっと仲の良い普通の兄妹だったのなら。もっと早く歩み寄っていれば。そんな後悔が募るばかりで。

 

「助けて……助けて、お兄ちゃん」

 

 届くはずのない叫びを漏らして直葉は蹲ることしか出来なかった。

 

 

 ――

 ――――

 

 

 家を出て間もなく。どこからか視線を感じて桐ヶ谷和人は振り向いた。視線の先はつい先程出たばかりの自宅で、カーテンの閉ざされたままの妹――直葉の部屋。

 彼女の部屋の窓が開かなくなってそれほど時間は経っていないはずなのに、それが遠い昔の事のように思えて。

 文化系でインドアな自分と違って体育会系でアウトドアな妹。

 正反対だけども家族なのは間違いない――はずなのだが。和人自身、いつからか、そのことに確証が持てなくなっていて。自分たちは本当に家族なのか、自分含めたここにいる人間はそもそも何者なのか。まるでわからなかった。

 一体いつからだっただろうか。

 幼き頃に剣道を辞めた時だろうか。それとも住基ネットに侵入した時だろうか。もうそれすらもあやふやになっていた。けれども――

 

 ――足を止めて再度直葉の部屋を見つめる。

 それでも、大切な妹、大切な存在であることは間違いなくて。

 彼女に異変が起きて部屋に篭りがちになって以来感じている胸のざわめきを今(・)日(・)も(・)感じつつも、結局出来ることなど何もなくて、和人はまた背を向けた。

 今ばかりは、家族にすら踏み込めない自分が、たまらなく恨めしかった。

 

 

※

 

 

 ゴルゴム基地――玉座の間。

 多くのゴルゴム怪人達が集ったその場にて宝珠の埋め込まれた黒鞘からサタンサーベルが抜かれ、真紅の刀身を顕にする。天高く備えられたシャンデリアの光に照らされたそれは妖しい輝きを堪えて見るものを惹きつけ、魅力した。

 それを握るのは剣の主たるアリス――ではなく明日奈。創世王が瀕死の今、組織の実権を担う世紀王である彼女は王座に背を預け、目下の反逆者を見下ろした。

 

「おはようアリスさん、気分はどう?」

「……明日奈、私を捕らえてただで済むと思っていますか? ……くっ」

 

 王座の前、身体を鎖で縛られたアリスはその両端を固める屈強な男に抑えられ、無理矢理に膝をつかされていた。

 必死に抵抗するも鎖に何らかの呪術でも施されているのか、力を振り絞ってもビクともせず、おまけに左右を挟むのは人間――などではなくどちらも力自慢の怪人であり、パワーに優れてもいる彼女であっても脱出は容易ではなかった。

  

「えぇ、もちろん。だってあなたはもう我がゴルゴムの裏切り者でしかないもの」

「裏切り者……? 何を根拠に――」

「――根拠ならあるよ」

 

 アリスを遮ったのは木綿季。

 彼女はアリスを一瞥することもなく広間を横切り、明日奈の横に立った。

 

「アリス、キミが処刑対象とはいえ同盟関係にあるショッカーの怪人に対して独断で人体実験を行ったことは間違いないよね」

「……たかが怪人の一体ごとき、あなた達もこれまで使い捨ての駒として使ってきたでしょう。なぜ今更……」

 

 悪びれる様子のないアリスに木綿季もまた冷ややかな視線をそのままに続けた。

 

「そうだね。シノンもあのまま命を奪われたとして、結局は脳以外のカラダを切り刻まれてまだ再利用されていただろうね」

 

 バットから耳にしていた裏切り者である彼女の末路を口にして、木綿季の表情が曇る。――が、それはもう過ぎた話。起こらなかったifの話だと切り替えて、ポケットからリモコンを取り出した。

 

「――でも、この問題はそれより重大だよ」

 

 空中に投影されたのは桐ヶ谷直葉の実験レポート。

 ショッカーの改造実験被験者として――ではなく、アリスが独断で施した凄惨な記録映像。

 簡単なカルテからストーン移植後に生じた肉体のデータ。及び現在に至るまでの経過観察が余すところなく記された人体実験の全て。

 彼女が暴走していた事を知らなかった怪人達はどよめき困惑を示した。彼らとて自分達の誕生経緯を知らないわけではないが、近年では緊急時を除き自由意志を尊重しての怪人化が行われる為、対象の意思を無視した改造手術は衝撃を隠せなかった。(基本強制的な改造を行うショッカーを内心見下し嫌悪している理由の一つでもある)

 それも自分達の為、怪人の未来のためと先導に立っていたアリスが実行犯というのは、尚信じられる話ではなかったのだ。

 

「桐ヶ谷直葉は本来、ボク達ショッカーの手により『ホーネット』として再誕するはずだった。……長らく空席となっていた怪人の女王として。……最強の改造人間『ホッパー』にも並ぶ存在として組織に尽くすはずだったんだ」

 

 映像が切り替わり投影されたのは無数の記事。新聞からネットニュース、SNSの投稿まで幅広く、いずれもここ数ヶ月に起きている連続殺人事件について取り上げたものだった。

 

「……だけど現在、桐ヶ谷直葉は暴走。本人の意思は不明だけど夜な夜な街に繰り出しては人を襲ってる。本当ならこんなことをしなくても彼女は崇高で美しい存在として君臨できた筈なのにね……」

 

 映像を消して、木綿季はアリスに背を向けた。

 元はと言えば自分が彼女の判断で任務を解かれ詩乃に引き継がれてしまったが故に起きた悲劇でもあり、同時に、親友もまた組織への造反に手を貸していた事実に胸が痛んだ。

 

「ボク達の首領はこの事実を重く受け止めている。これはボク達の同盟を壊しかねない大問題なんだ。それは分かるよね」

 

 木綿季の言葉にアリスは口を閉ざしたまま沈黙する。

 彼女とてこのことが露呈すれば首が飛びかねないことくらいは理解していた。だがしかし、成功すれば『ホーネット』など目ではない戦力を手にすることができ――事実今の彼女は遥かに優れた存在となっている――ショッカーの実権すらあの首領を打破し、洗脳という自由を束縛するものから解放できるチャンスだったのだ。(勿論、アリスやゴルゴムにとって都合の良い自由ではあるが)

 木綿季はホーネットを『崇高で美しい存在』と称したが、アリスからすれば直葉の内に潜んでいる『彼女』の方が崇高で美しいとさえ思っていた。

 

 互いに相容ることのない平行線を見かねて、明日奈が遮った。

 

「アリス、私たちとしてもショッカーとの無闇な争いなんてま(・)だ(・)避けたい。だから、あなたにはその首を捧げてもらいたいんだけども、いいわよね?」

「……誰が、応じるわけがない」

 

 アリスを縛る鎖が、ぎしり、音を立てるが拘束からは逃れられない。

 明日奈は王座から静かに腰を上げると彼女の元へと歩み寄り、膝を下ろして目線を合わせた。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫よ。だって、その後すぐにあの心臓――創世王もそっちに送って上げるから」

「何……!?」

 

 藻掻くのをやめて明日奈を睨むアリス。ただ自分の顔だけを映す瞳に堪えているのは悪意と邪悪。

 

「このままキングストーンを2つ揃えて私が創世王になったとしても、あの心臓の後を継ぐなんてごめんよ。私は私のまま力を得て、歴代の誰よりも強くなる。その為にあれは邪魔なの」

 

 勝利を確信して自信に満ちた微笑。

 明日奈はアリスの頬に手を当てて緩やかに撫でる。

 

「創世王の意思は次代に継がれてもそれが怨霊みたいに取り憑いてどこまでも続いていく。それを断ち切る為にも力が必要。だからアリス……あなたの石も貰うね」

「……ッ、そんなこと、させるかぁー!」

 

 明日奈の物言いにアリスの怒りは限界を越えた。

 地面が割れるほどに踏みしめると同時に左右の怪人を振り解くほどに身体を揺らし、鎖が千切れると共に前方の女の首を掴みかかる。

 蒸気が吹き荒れ、アリスが鎧騎士にも似た姿に変わる頃には明日奈の身体は壁に叩きつけられていた。

 

「怖い怖い、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

「……貴様、力を与えてくれた創世王に対しふざけた事をっ……!!」

 

 ぎりぎりと締め上げられていく首に構うことなく明日奈は煽ることをやめない。そんな態度も癪に触るのかアリスは呼び出した黄金の剣を彼女の目下に突き出して睨みつける。

 

「やはりお前は王に相応しくない。私がここで……」

「どうでもいいけど、周りをよく見たらどうかしら?」

「周り? ……っ?!」

 

 直後、腹部に激痛が走って、身体がよろめく。力が抜けて、体勢が維持できぬままに見上げるのは、揺れる紫色の長髪と深紅の瞳。

 

「ユウキ……」

「アリス、これ以上の抵抗は許さないよ」

 

 腹を貫く剣を引き抜こうと掴むが――それよりも早く首を締め上げるのは念力。

 

「ユウキは下がっていていいよ。アリスの狙いは私だもの」

 

 ユウキの肩を叩き、明日奈は前に出る。瞬間、緑色の閃光に包まれて世紀王シャドームーンへと変わった。

 

「もし私に勝てたら、首を差し出すのは変わって上げる。でも負けたら、あなたには死んでもらう」

「……私を舐めるな」

 

 間合いを取り睨み合う2人。まさに鬼の形相という具合に怒りに満ちたアリスに対し、飛蝗にも似た仮面に隠れたアスナは余裕に溢れていて。

 

「その剣も、その力も全て私のものだ!」

 

 剣を握り、アスナ目掛けて切りかかる。これまでの全てを込めた覚悟の一閃。

 アスナは冷静に見極め、鞘に納めたまま、サタンサーベルを横なぎにそれを払い除けた。――そして、その隙に剣を素早く抜き、縦一文字に切り捨てた。

 

「……ギッ、ギヤァァァァァ……!」

 

 強烈な一振りはアリスの右目を抉り、鎧を砕く。慈悲などない、ただ標的を屠るだけの攻撃を前にアリスはその場に倒れた。

 

「ぐっ……」

 

 痛む目を抑えのたうち回るが、身体をアスナに踏みつけられ動きを封じられる。

 

「所詮、王を守る程度の力しか持たないあなたが私に勝つなんて無理な話なのよ。――石を2(・)つ(・)揃えた王を相手に勝てるワケなんてないわ」

「……ッ!?」

 

 アリスは残った左目を見開いた。まるで、信じられないものを見たかのように。

 変身を解いた彼女の胸元。ブラウスの隙間から微かに覗く赤色の光。――そして、呼応する腹部の緑色。

 

「……き、貴様……、まさか……」

「さぁ? もう死ぬあなたには関係ないわ。そんなこと」

 

 明日奈の視線は動揺するアリスの腹部。――石の埋め込まれた腹部へと伸びていく。未だ抜いたままのサタンサーベルを翳し、無言のまま、そこへ一気に突き刺した。

 

「ウグゥゥゥゥゥ、アッ! ギィヤァァァ……!」

 

 痛みに叫び、暴れ悶えるアリスを念力で縛り無理矢理に石を抉り出していく。猟奇的な笑みのまま、腹部に刺さったままだったユウキの剣さえ使って器用に、冷徹に切り捌いた。

 

「ウッ、グァァァァ、や、やめっ、ろぉぉぉ……!」

「大丈夫。もう終わるから、ね」

 

 言い切るより早くアリスの腹部から飛び出す血飛沫。飛び散った無数の肉片の中に混じった石は人間に戻った木綿季の足元に転がっていく。

 鮮血に濡れ生臭い匂いの漂う中、明日奈はこれまで傍観していた怪人達に向き直った。返り血を拭うこともなく。

 

「これが裏切り者の末路。王である私に逆らう者は誰であろうとこうなる。――それが例え組織に尽くしていた怪人であってもね」

 

 白目を剥き痙攣するアリスを蹴る。死んではいないようで、時々震える身体を見下ろして、二度と向くことはなかった。

 

「これより我らゴルゴムはショッカーと共に本格的な世界制覇に向けて動き出す。この世界を怪人のものとする為に」

 

 王座の前に立ち、唖然とする怪人達を見渡す。目まぐるしい展開についていけていない様子だが構うことはない。

 

「これまで私達は人間より優れていながら影に隠れて暮らしてきた。それは何故か。――それはくだらないしきたりや誰が決めたかも知らない暗黙の了解があったから

「――でもそんな日々ももうおしまい。これからは上位存在が支配者として君臨し、人間という下等種族を支配して生きる世界を創る。

「私はその世界の王として君臨する。隠れることのない、ありのまま暮らせる世界を気づく為にも、私に協力してほしい」

 

 ベルトに手を翳し、世紀王の姿となって高らかに宣言する。天高く突き上げられたサタンサーベルの煌めきに当てられて、次第に怪人達は賛同するように叫びを上げ始めた。

 

 狂乱に包まれていく広間で、木綿季は転がっていたアリスの――剣聖ビルゲニアの力を宿したストーンを拾う。

 明日奈の言葉――

 

『――アリス、私たちとしてもショッカーとの無闇な争いなんてま(・)だ(・)避けたい』

 

『――私はその世界の王として君臨する』

 

 明らかにショッカーとの敵対を示唆するものではあるが、木綿季の頭によぎるのは一抹の不安。

 根拠などない。ただ漠然とした恐れのような物が込み上げてきて消えない。

 もしかすると明日奈は創世王になることや、ショッカーを打倒するよりも恐ろしい、別の何かを企んでいるのではないか。そんな考えが浮かんで仕方がなかった。

 

 だけど、今の自分にはどうすることもできない。今の明日奈には勝つことなど不可能なのだから。――このままの力では。

 

 とにかく力が必要だ。これから起きるであろう混沌を生き抜くための力が。

 木綿季は掌に載せたストーンを見つめ、握りしめた。

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