朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
ゴルゴム神殿大浴場。
空間全体を大理石で作られ、さながらギリシャ神話に出てくるような造りをしたそこは湯気に満ちていた。
溢れた湯が流れて全体へと流れていく。
空間の大半を占める大きな浴槽の中。ゆっくりと足を踏み入れた明日奈は静かに湯へと身を沈め、足先から脳へと伝っていくその心地よさに顔を綻ばせた。
王としての威厳ある振る舞いで、気を張り詰めているのもだが、彼女も元は普通の少女。いくら運命に選ばれたとはいえお風呂に浸かって身綺麗にでもすれば自然と緊張も解れるものだった。
「ねぇ、そんなとこに固まってないで木綿季もこっちにおいでよ。せっかくの女同士ハダカの付き合いじゃない」
ただ、ここを独占しているのかと聞かれたらそうでもなくて。脱衣所のすぐ側に立ったままの木綿季に声をかけた。明日奈同様、一糸まとわぬ姿の彼女に。
「もしかして、女の子と肌を見せ合ったこととかない? 詩乃のんとはそういうのなかった?」
「……別にそういうわけじゃないけど」
渋々といった感じに木綿季も近づいて湯船に浸かった。明日奈が気を緩めるのも納得で、身体だけでなく心も温かくなるような感覚に満たされて思わず眠りそうになる。
「気持ちいいでしょ? このお風呂、アネモネさんが調合した特殊な薬が混ぜてあるらしいよ。本人から取れた物もあれば、もう地上には存在しない植物まで色々」
「……へぇ」
明日奈の説明を興味なさげに聞くが効能自体は確かな物。
湯を掬い白い肌の上で滑らせればそれはなめらかに蕩けて身体に輝きを纏わせ綺麗に磨かれていくようで(最も人工物でもある木綿季の皮膚が外科手術以外で変化することなど基本ないが)一人の女の子としても美容効果については認めざるを得なかった。
ふと視線が泳いで浴槽の上、張り詰めた湯にぷかぷかと浮かぶ大きな風船みたいな物体が目に入って。
自然と目が落ちれば見えるのは同様の球体――ではなく、やや緩急のあるなだらかな丘で。そっと胸に手を当てればその格差に歯がぎしりと鳴って。
「どうしたの木綿季?」
「…………別に、なんでもないよ」
今度ばかりは皆目見当もつかないという様子できょとんと首を傾げる明日奈。
木綿季は半ば強引に思考を切り替えるべく鋭い視線をぶつけた。
「なんか冷たいね木綿季。私なにか怒らせるようなことしたかな?」
「そりゃ怒るよ……だって、ショッカーに歯向かうような事を口にすれば、ボクは怒るしかない」
途端にぶつかり合う視線。ピリピリと空気が凍てついて。同時に湯船から飛ぶように立ち上がり、木綿季は素早く召喚した剣を明日奈の首目掛けて振り下ろした。
弾ける金属の擦れ合う音。
木綿季の刃は僅か数センチの所で背中から生えてきた白いバッタ足によって遮られてしまった。
浴槽から湯が溢れて波となって流れていく。濡れた裸身をそのままに木綿季は剣を、明日奈はバッタ足と腹部に露出させたベルトをそのままに対峙した。
「明日奈、もう一度聞かせて。本当にショッカーに歯向かうつもりなの?」
「そうだとしたら、どうするの?」
「決まってる、ボクは明日奈を殺さなきゃならない。それがショッカーの改造人間としての役目だから」
シノンのように、と言いかけた所で口を閉ざし剣を握る手に力を込める。ぎりぎりと軋みはしても足の欠片一つ削れる気はしなくて、その硬さに驚きはしても負けじと握りしめる。
そんな木綿季とは対照的に明日奈は静かにバッタ足とベルトを身体に引き込んだ。
「降参、木綿季と戦うつもりはないもの」
溜め息をついて戦意はないと両手を上げて降伏を示す。しかし、木綿季は剣を納めることをしなかった。
「なら聞かせてもらえるかな。明日奈、本当は何が目的なの」
「さっきも言った通り世界の王になること。――でも、創世王にはならない」
明日奈の目的に木綿季は更に首を傾げるしかなかった。
アリスからざっくりではあるが世紀王と創世王の関係については聞いており、2つのキングストーンを揃えし世紀王が全てを支配できる創世王になれる。そして、その王は全てを支配し破壊し創造する存在へと至る、と。ならば明日奈の言う世界の王とは創世王の事ではないのか。
「木綿季、世紀王の本当の存在意義が何か知ってる? ――世紀王は創世王を継ぐ存在なんかじゃない。5万年周期で選ばれる創世王の次の肉体でしかないの。怪人を生み出すエキスを垂れ流すのみを目的とした、ね」
明日奈は目を伏せ、記憶を辿る。甦る情景。
――
――――
数年前、改造手術の際に受けた『帝国』によって明日奈の意識は別次元へと転送された。
そこは森。どこまでも深く果てしなく無限に広がる深い森。裸のまま川に倒れ意識が戻った瞬間に襲われたのは、痛み。次第に全身へと身動きひとつ取れなくて。
目覚め始めた意識で記憶を辿るもここが何処かさえどころか、自分の名前すらあやふやで。混乱して頭を抱えたその時、背後に視線を感じた。
そこに立っていたのは1人の女。筆舌し難い美貌の少女が生まれたままの姿でいつからかそこにはいた。
一歩ずつ近づいてくる少女に、どこか恥ずかしさを感じて。自分も少女も同性。多少容姿には自信のある明日奈でも眩しいまでの美貌に照れくさくて。
でも、同じく裸なのに隠そうと動いた瞬間に何故か目の前にいて。
――お休みなさい、私の子よ――
脳内に語りかけてくる声に意識が途切れて。
気がつけば明日奈は、どこかのベッドに寝かされていた。
ハダカのまま絡みついてくる少女。ぼんやりとした意識の中で施される愛撫はたまらない心地よさで、心と身体が同時に溶かされて解されていって記憶が薄れていく。
――そのままずっとお眠り。でも怖がることは何もありません。あなたは私の一部として永遠を生きるのですから――
もはや少女が何を言っているのかも分からなくて。どこからか立ち込めてくる蒸気に包まれながら。
なにもかもがどうでもよくなって。心地よい快感に満たされながら、明日奈の意識は、少しずつ消えて――
『ソイツに騙されてはいけない!』
――突如、響いた声に脳が揺らされ、はっと甦る意識。自分を見下ろす不気味なまでの笑顔を押し除けてベッドから転げ落ちるみたいに飛び降りて。
「逃すものか」
紫色の髪が触手みたいに踊り、明日奈を狙って迫り来る。悲鳴が漏れ、恐怖に煽られるがままに駆け出した。
当てもなくどこまでも。触手は影を纏っていつまでも明日奈を追い続け、明日奈もひたすらに逃げ続けた。
――まぁいいでしょう。いずれ、お前も私になる――
それからのことはあまりよく覚えていなくて。
森で隠れそうな場所を見つけては忍び、見つかればまた走っての繰り返し。森は際限なく続き出られそうにないことを悟れば、出口を探して彷徨う。
そうして、辿り着いたのはとある洞窟。髑髏に埋め尽くされ気絶しそうな死臭の漂う薄暗い中と、蜘蛛の巣に絡め取られそのまま息絶えたであろうミイラの山。ホラーは苦手だとか、言ってられなくて。足を踏み入れると、どのミイラも腹部を抉られているような痕があり、明日奈は自身の腹を撫で蘇った記憶の中で、改造手術を思い出した時。
「ようやく辿りついたのか。待ちくたびれたぞ」
どこか覚えのある声に振り向けば新たな影が1つ。自身と同じ亜麻色の髪をした眼鏡をかけた少女。
新手の敵かと警戒したが、彼女が懐から出したパンを見て、気が緩んで。腹が鳴って。
「わたしはお主の敵ではないシャドームーン」
食べ物に釣られて聞き慣れない呼び名に耳を貸すことにした。
そして知った。
自身と深澄が世紀王という怪人の王子にされた事を。いずれ創世王という王座をかけて殺しあわねばならない事を。――そして、それが全てでっち上げであることも。
「世紀王同士が戦い勝利しても無駄なこと。キングストーンを取り込み創世王の前に立った瞬間に意識があの女に乗っ取られてどの道死ぬ。そこにいる奴等のように」
少女に促され周りを見渡して悟った。
ここにあるミイラは全て元世紀王達。その成れの果てだと。
「お前はいずれ目覚めるだろう。だが、その後ブラックサンと戦えば同じ運命を辿る」
明日奈にすれば深澄と殺し合うなど到底想像できないが、相手は怪物を統べる親玉。どんな手を使っても戦わせ無理矢理にでも身体を奪いにくるだろう。――先程自分が取り込まれかけたように。
途端に真っ暗になった未来を見て震えが走るが、少女は明日奈の肩にそっと触れて。
「ブラックサンと手を組め。世界を支配する程の力を持つ、キングストーン2つの力を使えば奴を倒せるかもしれない。わたしと同じ過ちを辿るな」
無数の髑髏の山。そこでも一際丁寧に祀られた死体を見て、少女は目を細めた。自分よりも一回りくらい小さいその身体から、背負いきれないほどの重い影を感じて、明日奈も息を呑んだ。
その時、外から大きな音が聞こえて2人の意識は切り替わる。
「もう嗅ぎつけたか……シャドームーン――いや明日奈。お主は1人で逃げろ、奴の相手はわたしがする」
「1人って、あなたは……」
「わたしはもう充分生きた。そこに隠し通路がある。そこを抜ければ奴にしばらくは見つからずに済むだろう」
心配する明日奈を置いて少女は駆け出した。
姿を消した少女の先、微かに聞こえるぶつかり合う音が響いて、そして、何も聞こえなくなった。
その頃には明日奈は脱出してはいたが、再度そこに戻った時にはミイラすら跡形もなく消えていた。
それからも逃避行は続いていった。
逃げるうちにあの少女がかつて使っていたであろう拠点をいくつか見つけ、衣服や使えそうな武器を拝借してのサバイバル。彼女が独自に調べていたであろう情報を頼りに引き継いで、自らが生き延びる為に日々調べ、日々学んだ。迫り来る刺客を相手に立ち向かい、望みもせず与えられた力を我が物としていった。
現実世界において数年でもこの森の中では数百年、数千年の時が流れていた。
襲いかかるものは全て殺して、邪魔するものは容赦なく壊した。
通常、精神世界では怪人化は不可能とされているが明日奈は試行錯誤を繰り返すことでそれを可能とし、その能力もまた歴代の世紀王達を超えるまでに進化させてしまった。そして悲しいかな。生き延びる為に明日奈の精神は次第に荒れ果て、怪人の物へと変貌していった。
心の内では抵抗のあった異形への変身も自在に行い、時折精神攻撃として仕向けられた人間の姿をした敵も躊躇いなく始末できるようになった。
化物に変えられここに囚われて既に元の生活に戻るのを諦めたからか。それとも戦う内に吹っ切れてしまえたからかは明日奈自身にも分からない。
ただ、いつからか。身体を乗っ取られない方法を探す内、『力』に関する記載に目を惹かれるようになったことだけは覚えていた。
特に幾つかの伝承に
明日奈にはそれが突破口のように思えて。あの女ですら制御しきれない程の力――それこそ2つのキングストーンを揃え、世界を支配するほどの力を手に入れることが出来れば逆に奴を倒すことができるのではないかと。
だが、その為には今の自分では弱い。そして、1人では力を得るにも限界がある。ならば仲間を作るしかない。できるだけ強く、自身に匹敵するような味方が。
そうして模索して、出口ついでにあの女の周囲を探る内に更に分かってきたこともあった。
この特殊な世界。
どこまでも続くこの森はどうやらあの女の精神世界のようで、強い精神力により維持されていること。
そして、その維持のためには一定周期で生贄(すなわち次代の創世王)を必要とすること。
もしも仮にその継承が途絶えることがあれば、その力も弱まること。
そして、――あの女すら恐れる『新人類』なる存在がいること。
力を高めるうち脳内に流れ込んできた奇妙な単語。
怪人になるのともまた違う、全く異なる進化を遂げた存在。
人間はおろか、怪人さえ足元に及ばない、神の如き新たなる支配者。
その言葉を耳にした瞬間、森が、木々が、怯えるように揺れて、初めて動揺が露わになった。
あの女は、間違いなくそれを恐れている。
怪人や幾多の組織を使い陰から糸を引き、『新人類』の【芽】を宿した者を始末するだけでは飽き足らず。『真人類』という似て非なる存在を対抗馬として作り上げて世界を破壊しようとしている。
そして、その争いの果てに人類は、怪人は淘汰され滅亡することも知った。
どこまで勝手なのだろうか。と明日奈は怒った。自分から、深澄から、数えきれない人々から人生を奪ってまだ奪うつもりなのかと。
――同時に、これはチャンスなのだと、脳裏を過った。
時折、腹部に埋め込まれた石が、疼くみたいに語りかけてくるのだ。『全てを破壊しろ。世界を新たに
はじめは無視していたその声も、時がたつほどに大きく、そして魔法みたいに頭から離れなくなっていって。いつからか、それが自分の本心かのように思えてきて。
現状、自身が真に解放されるためにも、世界を裏で統べるあの女を倒すしかない。
そして、奴を消せば世界を支配することも叶う。ならば『新人類』か『真人類』のどちらかに到達して奴を討てばいい。
かつての彼女では決して考えなかったであろう邪悪な思想。そして皮肉なことに、それを可能にする知識を得るにはこの世界は最適すぎた。
あの女の思念を通して得られる外界の情報。
ゴルゴムの剣聖ビルゲニアがとある遺跡より、奇妙な隕石を二つ発見したこと。
同時期、ショッカーと呼ばれる組織に属する怪人が
その怪人にビルゲニアが接触したこと。
そして、その怪人二体が
そして、ついに自身が覚醒する時が来たことを。
現世で眠りながら力を高め続けた明日奈の目的は一つしかなかった。自由になるために世界でもなんでも好きにできるほどの力を得ること。それができなければ死ぬだけだと。
幸運にもビルゲニア――アリスが強化改造を施してくれたことで、更に進化した状態で、明日奈は現世へと帰還した。
――
――――
「……信じられないな。そんな話」
「木綿季はショッカー製だもんね。あの女に、あの世界に行かなきゃわからないわよ。でも、これは本当の話」
木綿季を見下ろすみたいに立って、明日奈は言う。
「近い将来、人間も怪人もまとめてあの女によって滅亡させられる。私は自由になりたいだけじゃない。あいつのすることが許せないから戦うの」
まっすぐに見つめてくるその眼差しに、思わず木綿季は目を反らした。
「そのための力の一つが、……その胸についてるペンダントかな?」
木綿季に言われ、明日奈は思わず胸を――首から掛けられたペンダントを握った。握りしめたその中で、針金でぐるぐる巻きにされた赤い石が微かに光った。
「それが、もしかして……」
「そう……、深澄が持っていたもう一つのキングストーン」
握っていた手を下ろし、明日奈は悲し気に口を開いた。
「実は、もう深澄には断られちゃったの……。その時に投げ渡されちゃって……」
自嘲気味に語る明日奈。その時の光景を思い出して、胸が締め付けられた。
同じ運命、同じ境遇に晒された親友――だと思っていたのはどうやら自分だけだったようで。どうやら数年の別れは想像以上に大きく、深いものだとその時ようやく思い知らされたのだ。
「明日奈……」
彼女が初めて見せたその顔に、木綿季は胸が詰まって。何故か、かつて詩乃が見せていた愁いを帯びた表情と、重なって。
あの子も、自分の過去の行いに、今進んでいる道にすら悩んでいる様子があって。それは力を得ても、崇拝すべきものにであっても変わらないようで。
ならば自分にできることはこれだけだと。木綿季は明日奈の胸に自分の胸を重ねた。
「木綿季……?」
「わかった。信じるよ明日奈のこと。ボクたち怪人のことを考えてくれてること、よくわかったから」
木綿季は背中に手を回し、上目遣いで明日奈を見やった。自分より少し身長が高い女の子、小さいとき、姉によくやっていたことを思い出して、自然と頬が緩んだ。
「ねぇ明日奈、ボクも、明日奈や詩乃みたいに石の力を得られるかな?」
「えっ……、まさか木綿季」
胸のペンダントを見て、一瞬ぎょっとするも即座に「違うよ」と木綿季は否定して。
「ボクが言いたいのはこっちだよ」
木綿季が取り出したもの。それはアリスの腹部に埋め込まれていた石――剣聖ビルゲニアに受け継がれてきた石だった。
「これを使えば、ボクももっと強くなれるかな。明日奈に勝てなくても、明日奈の盾になれるだけの力が」
覚悟を堪えた木綿季の目を見つめ、――明日奈は視線を落とした。
「やめておいたほうがいいと思う。木綿季には、木綿季のままでいてほしいから――」
「……えっ」
「怪人のストーンを用いた改造手術。それには欠点とも呼べる物が一つだけ存在する。――それは、石の力。すなわち、怪人としての力を使えば使うほどに、心がそれに蝕まれていく」
湯気で蒸し暑いくらいのその空間に、凍えるくらい冷たい気配が漂った、気がして。木綿季はゾクリと背筋を震わせた。
「元々、人間の精神では怪人の超寿命には耐えられないから。心も怪人とすることで維持するために見過ごされてきたのだけど、それは違う。――実際は、より残忍に。より邪悪な力に飲み込まれて、気づかない自分が染め上げられちゃうだけなのよ。……破壊することしか能のない醜い存在にね」
そう語る明日奈自身もそれに気づいたのは奇跡だった。精神世界に閉じ込められ、己と向き合うしかなかったからこそ気づいたのだ。自分の中に芽生えた残虐性に。決して抗うことのできない、いつかは敗れるであろう破壊衝動に。
これまでの継承者たちはそれを知ることもないままに力を使い、飲み込まれ、取り込まれ続けたのだろう。
明日奈はあの女に勝つためにも戦い続けているが、その衝動はいつも襲い掛かってきて、もし仮に打倒したとして、自分のままでいられかの不安は尽きなかった。
明日奈の話を聞いて、木綿季も思うところはあった。
それはアリスのこと。
かつてこの石の所有者だった彼女もまた、この力に呪われた犠牲者だったのだろう。事実、短い期間ながらゴルゴム怪人(ノミ怪人とコウモリ怪人)と交流した際に、彼女が昔は心優しい少女だったと耳にしていた。恐らくは、それも完全には消えていないのであろうが、詩乃に対する凶行や一連の暴走を見るに、飲まれていたのだろう。
明日奈の様子を見るに彼女もその例外ではない。そしておそらくは、この世界のどこかで生きている彼女も――
ハダカのせいか身震いして、思わず石を落としそうになった。自分が自分でなくなる恐怖。それは想像を絶するだろう。それでも――
「…………」
木綿季の唇が明日奈と重なる。
「見くびらないでよ。ボクらショッカー怪人だって、人格も改造済みなんだ。今更、また改造されることくらい――「兵器になるとかそんな次元じゃないの。あの石がもたらすのは、もっと酷い破滅……」――わかってるよ」
木綿季は俯き、肩を震わした。
明日奈のいう末路など、想像していないわけではない。
「いつかは、明日奈も詩乃も。アリスみたいに人をなんとも思わない怪物になるんでしょ? そんな運命、明日奈は本当に受け入れてるの?」
「それは……、そんなわけない。だから必死に抜け出す手段を探してる――」
「……だったらボクにも背負わせてよ」
「――っ!?」
「明日奈たちばかりにそんな辛い思いさせないよ。どうせ怪物になって生き永らえた命だ……好きに使うよ」
明日奈を再度見上げて気丈に決意を口にした木綿季に、明日奈の瞳が揺らいでいく。
「それに、ボクたちが本当のモンスターにならない方法を明日奈が見つけてくれたらそんな心配もなくなるしね。その時まで、ボクが明日奈と共に戦う剣になるよ」
「……うん、絶対に見つける」
木綿季と明日奈は身体が離れてもなお互いを見つめていた。そして、木綿季からビルゲニアの石が渡されたのが合図で。
「……それじゃあ、今からこの石を木綿季に託すね」
「うん、……って、改造手術はいらないんだ」
「私に与えられた三つの石の力が、儀式を簡略化してくれる」
「あとは彼女が少しでも自我を保てるように」と願い、明日奈は石を静かに握ると、瞬間、石が輝いて紫色に変色した。
「木綿季、はじめるよ……」
「……うん、おねがい」
木綿季は静かに目を閉ざすと、明日奈が抱きしめてくる感覚に身をゆだねた。
そして、明日奈は彼女の腹部に石をかざすと、一息に押し付けた。
「――――ッ!?」
途端に、まばゆい光が大浴場を包み、弾けるみたいに木綿季の目が開いた。
腹部を抉りながら、突き進んでくる硬質な物体の感覚。全身に浴びせられ、遺伝子を書き換えてくる虹色の閃光。麻酔も何もない状態で施されるその苦しみに、たまらず開いた口――そこを明日奈の唇が塞いだ。
もしここで彼女が叫べば、誰かが駆けつけてくるかもしれない。だから塞ぐ必要があるのだと言い聞かせて、暴れもだえる木綿季の華奢な身体をハダカのまま押さえつけて。
二人だけの世界で、木綿季の継承が終わるまで、二人はそのまま抱き合い続けるのだった。
読了ありがとうございます。
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