朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
どのくらい時間が経ったのだろう。
時を知るすべは手離して久しい。
あれから、手術は止まる事なく遂行され、滞りなく全てが達成された。
誰もいなくなった改造手術室。
詩乃は一人放置され、大の字に拘束されたハダカをそのままに晒していた。
「…………」
息を切らし虚な目で天井を見つめ、眉一つ動かすことはない。呼吸で揺れる汗だくのハダカには傷ひとつ見えず、照明の光で瑞々しく輝く様はどこか官能的でとても凄惨な手術を施されたようには思えない。
しかし、詩乃は知っている。
このカラダには余すところなくメスと注射器が突き立てられ、チューブを繋がれドリルで抉られ人では無くなっている事実を。
口にするのも憚られる残酷な所業を。
目を閉じればすぐに浮かぶ思い出したくもない光景。
全身を切られ、開かれ、抉られ、壊され、引きちぎられ、繋がれて。
破壊と修復を繰り返し何度も行われて。臓器や骨が別の物へと取り替えられ作り替えられ、人の身体には相応しくない、異形の器官や機械を詰め込まれる様子がはっきりと思い出される。
気絶する事も許されず、断続的な覚醒と端的に説明などできない苦痛と絶望の時間の中で、詩乃の精神は壊れていった。
「……くっ」
疲労の残るカラダが時折痙攣し、狂気に満ちた記憶から逃れるように顔をしかめ、横に向く。
が、超人レベルに強化された視力が壁のくすみまで捉えて脳に伝えてくる。
耳は何もしなくても基地中の音を鮮明に拾い、鼻は自身の散らした血と汗、そして得体の知れない奇妙な匂いを嗅ぎ分け判断を迫ってくる。
恐らく目を閉じても、耳と鼻を塞いでも変わらないであろう常人離れした感覚に最早溜め息も出なくて。
「……許さない。絶対に許さない……!」
歯を食いしばり、募るのはショッカーに対する怒り。
自身をこんな目に合わせ、人である事を奪った悪魔の組織。黒い感情が心を支配し、解放された暁には必ず組織を滅ぼしてやると決心した。
自分を改造したことを後悔させてやる。復讐心が満ち溢れ破裂して枷を軋ませた。
「お目覚めかな、詩乃くん。その様子だと調子は良さそうだね」
コツコツと音を立てて近づいてくる男。背後にはガスマスク達が並び、そのうち一人は銀色のケースを抱えていた。
男に言葉を返すのはやめ、変わりに怒りのままに睨みつけてやれば彼は満足したように笑い、ケースを受け取った。
「まずは改造手術の成功おめでとう。君の肉体に施された全ての処置は問題なく機能しているようだ」
詩乃の頭上にホログラムが投影され、レントゲン写真のようなものが映し出される。
人間の中に無理やり押し込められた機械や人工臓器の詳細が鮮明に撮られていて、さながらSF作品に登場するサイボーグのように、それは人のレントゲンだとは到底思えなかった。
「ふざけないでっ……、返して、私のカラダを返してよぉ……!」
「残念ながら我々にも無理な相談だ。君は生まれ変わったのだ。それを受け入れるしかない」
「悪魔め……! あんた達、絶対に許さないんだからっ……!?」
「その悪魔に君もなってしまっているのだよ。それを今教えてあげよう」
男が手を上げるのと同時に、ガスマスクの一人が動き、手術台の下から細いチューブらしきものを取り出して詩乃に見せつけた。
腕よりも細い、先端が奇妙に膨らんだそれに妙な既視感を覚えつつ眺めていると、開かされた股の間にそれは静かに置かれ、無言のままナカへと挿入された。
「……っ!? あっ、あうぅ……!」
痛みもなくズプズプとナカを割り開き進んでいくそれは詩乃を内側から侵食し、子宮口まで到達した。二度三度位置調整で抜き差しがなされる間、詩乃は喘ぎを溢し肩を震わせた。
(そ、そんな……。こんなのって、あんまりじゃない……)
チューブを握るガスマスクが離れていくのにも気づかず、詩乃の目から涙が溢れた。
朝田詩乃に男性経験はない。
そもそも16歳の自分にはまだ早いと思っていたし、何より事件以前から異性には苦手意識があったため、興味はあったが避けていたのだ。
それゆえにハジメテの挿入をたった今経験し、痛みなく遂行されたそれに心が痛んだ。
人生で一度しか味わえないハジメテのシルシが、知らぬ間に悪魔達に奪われていた。それを感じる機会さえ、乙女として、一人の少女としての経験さえ、与えてもらえなかったのだ。
「許さない……、あなた達、絶対に許さないんだから……!」
「君はそればかりだな。まぁいい、そんな人間の言葉を聞くのももうすぐ終わりだからね」
身体を屈め、涙する詩乃を見下ろす男。
頬は真っ赤に唇をキツく噛み締め睨む少女が愛おしくて、頭を撫でてやる。たまらず振り向いて逃げる詩乃など意に介さず、首筋から乳房を撫でてやれば若い女の肌の張りが瑞々しく、外科手術でこれが永遠となった事実に心が躍った。
「触らないで……! この変態!」
「変態とは心外だな。これから君を手取り足取り教育するのは私なんだ。少しは敬意を持って接してほしいものだ」
「教育係なんていらない、あんた達一人残らず殺してやる!!」
鬼気迫る形相で啖呵を切る詩乃にも男達は何の反応も示さなかった。
本人がどれだけ怒りをぶつけようが、彼らからすると詩乃もまたこれまで飽きるほど見てきた愚かな人間の一人に過ぎない。これがこの後の処置で忠実な下僕となる瞬間が待ち遠しくなるだけだった。
「そうか、それは立派な心掛けだね。――エネルギーを注入しろ」
「何を……、――ッ!? はっ、あぅぅぅ……!」
詩乃の困惑より先に男の方が早く、ガスマスクが手術台に付けられたボタンを押して液体を膣から注ぎ込んだ。
改造された子宮を介し、エネルギーへと分解されたそれは瞬く間に詩乃のカラダを循環し、肌に血の気を、目に光を、そして全身に活力を与えていく。
「あっ、あ……、ふぅん……、うっ……」
ドクドクと注がれ続ける液体に詩乃は悶えた。管が震えるたびに膣壁が揺られ、子宮は与えられる感覚に悦びを示すように火照った。
自分でするのよりも遥かに高い快感に、詩乃の表情は次第に蕩け、頬は赤く蒸気して視線が泳いだ。
口の端から涎が溢れる状況に抗おうにも、カラダが、脳が言うことを聞いてくれない。憎き仇敵から享受する悦楽に心は怒りに満たされていった。
全身に心地よさが回って、意識が薄れてきたタイミングで供給は停止され、すかさずプラグが引き抜かれた。
「あうっ……」
ヌラヌラと何かの液体で濡れたそれを詩乃は名残惜しそうに見送り――付着していたアレは断じて自分の液体ではないと念じつつ――首を倒した。
「満足していただけたかな? これが改造人間のエネルギー補給の一つだ。我々には飲食など必要ないが、産まれたてのキミには食事が必要だろうからね。素直な下のお口から注がせてもらったよ」
「最低……」
「その割には顔は悦んでいた気がするがね」
不敵に笑い詩乃の頭を撫でる男。今度は抵抗なく受け入れる彼女に満足すると、表情を一変させた。
飴は与えた。次は鞭の出番だ。
「今からキミのカラダに電流を流す」
「でん、りゅう……?」
「そう、5万ボルトの電流をね。並の人間なら一瞬にして黒焦げの死体になるほどだからキツいかもね」
「……ッ!?」
慌てて起きあがろうとするが、手足の枷がそれを許さない。
「でも安心していい。改造され、エネルギーを蓄えたキミのカラダにはヤケド一つつかないだろう。と言うより、それが付かない事の確認テストとも呼ぼうか」
パチパチと手元でスイッチを入れるガスマスクの無情さを耳にして、驚愕だけを顔に張り付かせて詩乃は男を見つめるしかなかった。
そんなはずない。何かの悪い冗談だと。
でも、淡々と、粛々と進められる準備を見て。無数に注がれる真剣な眼差しを見て。
自分に施された悪魔の所業を思い出して、今更の抵抗を試みた途端、ボタンを容赦なく押され、天板が黄色く発光した。
ビクンと跳ね上がったカラダから一瞬遅れて、詩乃の喉から悲鳴が搾り出された。
「ギャッ……!? ウワァァァァァ……!!!」
熱かった。
いきなり発火して燃え出したみたいに発熱して尋常ではない痛みが広がった。
というより、痛みと呼ばれる感覚を通り越した人では知り得ない程の痙攣がはじまって、狂ったみたいに首を左右に振り乱し、悶え暴れる。
「アアァァァァァ……、ギィャァァァァ……! アッ!」
カラダ中に充満したエネルギーの塊が一斉に還元されて爆発した。内側で破裂しているかの如き衝撃に意識が飛び、白目を剥きかける。
「アアッ、ギャッ……! イ、ヤァァァ……、も、もうっ、やめっ……!?」
「大丈夫。この痛みはまだ脳改造が済んでいないからさ。今から行うそれが終わって、指令のままに動くようになれば、そんな痛みは感じなくなる」
「アッ、そんなの、いやぁぁぁ……!」
「完璧なるショッカーの一員たる改造人間となれば痛みや苦しみから解放される。その時、キミはかつてない喜びと感謝の念をもち、自ら協力するようになる。これは、人間を辞める最後の儀式だから、ありのまま受け入れることだ」
決死で声を搾り救いを求めるも、その度に目盛が一つ上がり掻き消される。
恍惚とした表情で語る男への苛立ちをぶつけてやりたいがそんな余裕もない。周囲を黄色に染め上げるほどの眩い光だが、ガスマスク達は相変わらず無反応に、ただ詩乃が苦しむ様を眺めていた。
(ま、負けるものかこんな奴らに……!)
それがたまらなく悔しくて。溢れ出た涙を飲み込み、歯を食いしばって電流に耐える。
これから何が行われるのかわからないが、こうやって意識を強く保っていればいつかは奴らに報復ができるはずだ。諦めなければきっとできるはずだと。
今は信じるしかなかった。
この肉体を蹂躙し作り替えられた事実が変えられないとすれば、今はもうその怒りにしがみつくしかなかった。
発光が切れ、電流が途切れると詩乃は汗だくの乳房を激しく上下させ、空気を貪った。
「死んでも……、あなた達の、思い通りになんか……、なるものですか……!」
涙目になって、噛み続けた唇を腫らしながらも変わらず詩乃は抵抗を叫んだ。
「無駄だと分かっていながら最後まで抵抗、見事だよ。やはり私の目に狂いはなかった――」
無様でも枷から逃れようと足掻く詩乃を見下ろし男は思いを馳せた。
「――でもここまでだ。朝田詩乃の脳改造を開始する」
ケースを詩乃の真横に置き、冷ややかに宣告する。
「これが最後の調整。この過程を終える事で君は真にショッカーの怪人となり、我らに忠誠を誓うのだよ」
「忠誠なんて……! 誰が誓うもんですかっ!!! あなたたち、絶対に許さな――」
「誰しもが初めはそう言うのさ。だが、やがてショッカーに感謝する。そして、改造人間となれた事を悦びに、誇りに感じるようになるのだよ」
「誇りになんて……そんなことあるわけ――」
ケースが開かれ、詩乃の目下に中身が突きつけられる。
そこに入っていたのは仮面。頭全体を覆えるネコを模した仮面が一つ、収められていた。
「……これが、これが一体なんだというの……!」
「これはキミさ。新しいキミの顔、我らの誇る偉大なる改造人間『キャット』の顔さ」
「……キャット? ふざけた名前付けないで! 私の名前は朝田詩乃! それは誰にも奪わせない!」
「奪わないさ。だってそれを決めるのはキミなのだからね」
「どういう意味……?」
詩乃の言葉を待たず、男は手をあげて指示を出した。
ガスマスク達は詩乃の肩を、頭を押さえ、動きを封じる。
男は仮面を手にするとそれを詩乃の顔に重ね、不敵に笑った。
「それではさようなら、朝田詩乃くん。そしてはじめまして『キャット』。我らの新しき同志よ」
雄々しく宣言すると、仮面が降ろされ詩乃の頭に被せられていく。詩乃もされるがままではいられずに、勿論抵抗はするも、数人係相手では限界があり、呆気なく仮面は詩乃の視界を黒く埋め尽くしていく。
「いやっ……、やめてっ、たす、助けっ……」
微かに漏れる詩乃の声はもう誰にも届かない。
最後に「助けてお母さん……」と消え入りそうな声で呟いた直後、仮面は完全に頭を覆い。
すぐさま複眼が蒼く発光し、詩乃のカラダが動かなくなった。
ガスマスク達は死んだように固まった詩乃のカラダから離れていき、新たな同志の目覚めを穏やかな視線で見守っていた。