朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
彼女――チェーンソーリザードが組織に選ばれたのは単なる偶然だった。
組織で生まれた
まだ人間だった頃。
とあるIT企業にて秘書を務め、多忙ながら結婚を誓い合った恋人と共に、幸せに満ちた順風満帆な日々を過ごしていた彼女。
そんなある日。
残業で遅くなった帰り道。1秒でも早く愛しき人の顔が見たいとアクセルを踏み、先日渡されたばかりの真新しい婚約指輪を嵌めた手でハンドルを握りしめ、トンネルへと突入した。――瞬間、前から眩い光に照らされた。
慌ててブレーキを踏んで停まれば、そこには行く手を阻むようにガスマスクを被った全身防毒服のような恰好の集団。その中心、ガスマスク達の列の一歩前、同じく黒のライダースーツみたいなものに身を包んだ少女が大きな花束を抱えてそこにはいた。
「おめでとう、あなたは私達ショッカーの栄光なる実験体に選ばれたのよ。さぁ、みんなで彼女に祝福と拍手を……!」
少女の宣言を合図にガスマスク達が拍手を始め、トンネル中を包み込む。
理解が及ばぬ拍手だけが響き続けるこの場所がひたすら不気味で、危険だと分かっているのに車から降りて少女と向かい合った。薄ら笑いの浮かべたまま拍手を続ける彼女。
一旦、自分の置かれた状況を理解しようと冷静になろうとする。黒という色を除けばトンネルという場所もあってガスマスク達は危険物処理をしにきたと説明がつく。しかし、少女は違う。金具やベルトの散りばめられたエナメル質のスーツは明らかに異質で、傍らに抱えられた奇妙な形のヘルメットも違和感を放っていて。おまけに特徴的な青色の髪や目は逆にしっくりハマっていて人工的な感じが一切しなかった。花束を抱える姿だけは普通の女の子らしくもあるが、やはりこんなトンネルの中で赤いバラだけを敷き詰めているのは異彩だった。
異常であり正常。
それが一層不気味さを煽ってくる。
とにかく、この場から離れたくて足を後ろに下げた。
「逃がさないわよ」
微かに擦れた砂の音は逃さず少女の耳に入ってしまった。
ひっ、悲鳴を上げて後ろを向くと少女はたったの一瞬より早く背後に回っていて。一回りくらい年下ながら溢れる妖艶さと恍惚とした笑みが悍ましくて、後ずさる。その先にもガスマスク達がいるのが分かっていたにも関わらず。
「さっきも言ったでしょ。あなたは選ばれたの。大人しくその運命を受け入れなさい」
「……な、なんなのあなた。この人達も、一体……」
困惑ばかりを張り付かせて、震える声を向ければ、少女はきょとんと呆気に取られたみたいに首を傾げて。
「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。……私は――」
少女はにやりと笑みを浮かべると徐に頭を倒し、手に抱えていたヘルメット――猫を模した仮面を被った。仮面に穿たれた複眼が蒼く獰猛に光り、睨みつけた。
「――偉大なるショッカーより派遣された祝福の天使。光栄に思ってね。あなたもその仲間に加えてあげるわ」
「ひっ!」
少女の妖艶な雰囲気から一変。さながら肉食獣のような殺気に気圧され、本能のまま駆け出した。
咄嗟のことに足が縺れヒールが脱げるがお構いなしに走る。
「逃がさないって言ったでしょ……」
少女は軽く飛び上がるだけで彼女に追いつき、頭上に躍り出た。そして、空中で器用に身体を捻ると肩を押した。――途端に身体は吹き飛ばされ、大きな音を立てて、壁に激突した。
少女は華麗に着地すると戦闘員から花束を受け取り、悠然と女の元へと歩み寄った。
「誇りと思いなさい。私の血を分けた初の存在になれることを」
薄れゆく視界と意識で少女を見つめようとしたが敵わず、花束が投げられると同時に、女は意識を失った。
こうして彼女は少女――シノンによって攫われ、改造手術によって
※
「はぁ、はぁ、はぁ……」
見慣れない街並みを無尽に駆け抜け、和人は懸命に懸命に走った。
最初の一撃を躱せたのはまぐれだろう。レザースーツの女がチェーンソーを大ぶりに構えた瞬間、まるで世界がスローになったみたいに感じて、寸手のところで運よく避けられた。ただそれだけで。
相手がただの人間である自分を舐めていてくれたから助かったものの、きっと次はない。だから、相手が反動と動揺で乱れた隙に、一目散で逃げ出したのだ。住宅地を抜け、寂れた裏道を抜け、どこをどう走ったかも定かでないままに、いつしか人気のない廃工場までやってきていた。
「はぁっ、はぁ、はっ……」
逃げてるときは無限にすら感じていた体力もやはり無理していただけか、ここに着く直前くらいでもう立っているのもやっとだった。よろけて倒れそうになる足を引き摺って、後ろを向く勇気もないままに前へと進み続ける。
――そして、その背後から、地面が擦れるみたいな音がして。和人は咄嗟に積んであった資材の陰へと隠れた。隙間から様子を伺えば、やがてあの女は姿を現した。
「ボク~、出ていらっしゃい……お姉さんと最高にイイ事しましょう~。たーっぷりカワイがってあげるから……」
妖艶に自身を呼ぶ女をみて、恐怖に襲われながらも和人は口を閉ざし、息を殺した。
相手が昨日同様に人間ではないことはもはや明らかなのだ。人を超えた力を誇る存在が相手ならば、どんな事で隠れている場所がバレるかもわからない。出来るだけ悟られるようなことは避けたかった。
「ねえボク~~~」
チェーンソー片手に視線を泳がせ探索する女を前に心臓が早く高鳴る。不確かな足取りから、向こうはまだこちらに気づいていない様子だが、一歩、また一歩と確かに近づいてくる動きに冷や汗が止まらない。――そして、女の視線がいよいよこの資材へと向けられて和人は焦りを隠せなくなってきた。
「隠れていないで出てきなさい……痛いことはなにもしないから」
今度は迷うことなく落ち着いた足取りで迫る女に動悸が抑えられなくなって。早まる鼓動はもはや張り裂けそうで、止めている呼吸も限界で意識すら失いそうなのに恐怖の対象がすぐそばまで接近している状況にパニック寸前だった。
口元をゆがめ、不気味に笑う女を見つめて、視界がぼやけてきて――直後、工場の入口で大きな音が響いて。
二人してそっちを向けば、コロコロと空き缶が転がってきて。
「そっちにいたのね……」
和人が逃げるときに転がしたと勘違いしたのか、女は背を向けて資材に目もくれずに歩きだした。次第に遠ざかっていく背中。どういうわけかはわからないが、今はただ助かったことに安堵して。目を閉ざし、静かに息を吐きだした――
「――かくれんぼはもう満足?」
――死角。意識を外したほんの一瞬のうちに、その女は横にいた。妖しい笑顔を張り付かせて。
それを見た瞬間、心臓が破裂したみたいに跳ね上がり、慌てて下がった。あまりにも突然のことに悲鳴すらでなくて、ただ恐怖に染まったまま情けなく後ずさるしかない。
「楽しかったわよ、ボクとのお遊びは」
女――リザードからすれば最初から和人の居場所などわかっていた。
確かに自身の一撃を躱された事に驚いたのは事実だが、それも元より想定済み。当初よりあえて踊らせて逃げる様子を楽しんだ後に捕獲する予定だったからこそ、こうして寂れた工場まで相手をしてあげたのだから。
「でももうおしまい。……今度はお姉さんの遊びに付き合ってもらうわ……」
リザードはそう言って右手のチェーンソーを鳴らすと、獰猛に刃先を回しはじめた。
どこか鉄臭く赤色に滲んだそれを見てひっ、と悲鳴を零した。後ろに下がろうにももう壁に追い詰められて逃げ場はなくて、すぐに詰め寄ってきた彼女に襟首を掴まれ持ち上げられてしまえばもう逃げられなかった。昨日も似たように軽々と担がれる経験をしていたが、感じる恐怖は段違いで。今回こそは逃げられないと、和人は静かに観念した。
「……でも組織が求めているのは、ボクの脳みそだけだから、やっぱり腕か足の一本くらいは削って動けなくしてあげようかしら……」
和人はおもわずリザードの顔を凝視した。冗談などない、本気そのものを宿した狂気の眼差しに、恐怖が蘇って。今更暴れても無駄なのだろうが、じっとしているわけにもいかない。懸命に逃れようともがくも指一本開くことはかなわず、再び振り上げられた凶器を見上げ、走馬灯のような記憶が巡りだした。
その時、リザードの仮面が揺れる。複眼の視線が和人から反れ、あらぬ方向へと流れていく。
つられて和人もそっちを向けば、どこからか、風を切り裂く爆音が耳に届いて。
何事かと傾けたのも束の間――直後、工場の壁をぶち破り、赤と白の閃光が飛び込んできた。その正体――バイクに跨った詩乃は迷いなく一直線に怪人に捕まった和人を救うべく突っ込んでいく。
一瞬気を取られたリザードも瞬時にチェーンソーをしまい、迎撃に腕を向ける。――が、それよりも早く車体から身を乗り出し、脚を突き出した詩乃の蹴りがリザードの肩へと突き刺さり、はるか遠くへと吹き飛ばした。
肩から骨を砕きへし曲げる感触を感じ、吹き飛んだ先にあるドラム缶の山に沈む怪人を見て、和人のギリギリで停車した。急停止した衝撃で下腹部が痛む。どうやら手術の負荷は完全には癒えていないようだが、そんなこと言ってられなくて。和人の方へと視線を向けた。
「大丈夫?」
地面に座り込んだまま、和人は詩乃を見上げるしかなかった。リザードから解放され地面に落とされたが幸いにもケガは一つもなくて、もし彼女が助けに来てくれなかったらと考えるだけで背筋が凍った。
「あ、ありがと……」
「お礼はいい。今は早く逃げないと――」
詩乃がいうより早く、崩れたドラム缶から大きな音が鳴ってリザードが姿を現した。改造人間の視力をもってしてもやはり大したダメージは与えられていなくて、先ほど破壊した肩も再生していく様子がはっきりと見て取れた。
粉塵に隠れたその姿。はっきりとは見えないが初めて対峙する怪人。――のはずだが、どうにも目が離せなかった。
大型のチェーンソー。ショッカー製であろう強化スーツとトカゲを模しているであろう仮面。そして、胸元できらめく銀色の――
――思わず、目を見開いた。
「……私の邪魔をするなんて、……一体、どこのだれかし、ら――」
ダメージなど諸共せず立ち上がったリザード――だが、バイクに乗る詩乃を見た途端に、その動きもまた同様に静止して。見つめあう二人。
まるで信じられないものを見たというように驚愕の表情を浮かべたままの詩乃と、顔を隠した仮面越しからもわかるほどに興奮で息を乱したリザード。
「リザード…………」
詩乃に名を呼ばれ、リザードは静かに仮面を脱いだ。露わになった素顔には妖艶さは微塵もなくて、純粋な、少女のように微笑んでいた。
「……あぁ、お姉様。やっぱり、ご無事で……」
いつしか目じりには涙が滲んで、頬を伝いはじめたそれを拭うリザード。
「お姉様……?」
先程とは一変して泣きだしたリザードを前に、和人は傍観することしかできなくて。
泣いているリザード前にして、指一本動かせなくなった詩乃の脳裏、そこに過るのはかつての忌まわしい記憶で。バイクに跨ったまま、拭い難き過去へと引きずり込まれていった。
※
ショッカー日本支部戦闘訓練室。
組織を象徴する鷲のエンブレムが掛けられた狭い部屋、エンブレムに埋め込まれた宝石が放つ赤色の光のみが光源である真っ暗なその空間に、改造人間リザードと化した女は立っていた。その顔立ちにはもう人間の頃の面影は残っていなかった。
かつては薄いメイクをしていた整った顔立ちも厚めのメイクに隠され淫靡さを放ち、何一つ纏っていない均一の取れたハダカを晒してもなお恥じらい一つ見せず不敵な笑みで正面の一点を見つめていた。
やがて、暗闇が揺らいで白い裸身が浮かび上がり、ネコに似た仮面を被ったハダカの女――怪人シノンが現れた。
リザードより幼さを残しながら色気ある理想的なカラダを惜しげなく晒したシノン。リザードにはその仮面の下で、自分と同じように笑う彼女が見えた。
傍らに抱えたトカゲを模した仮面を装着する。全身の神経が覚醒し、怪人としての力が湧き上がる。
二人はそのまま静かに構え、複眼越しに睨み合った。リザードが拳を握ればシノンは腰を落とし、シノンが足に力を込めればリザードは腕を引いた。
先にシノンが飛び込む。リザードが迎え撃つべく力を込める――が彼女はそれよりはやく腹部に蹴りを浴びせ、吹き飛ばした。
激しく音を立て粉塵が上がる。改造人間同士与えるダメージは強烈だが、同時に回復も早い。
リザードはすぐさま膝を立て、見上げた先――指を曲げ静かに挑発する敵の作戦に乗ることにした。
今度はリザードが走り、シノン目掛けて拳を振るう。彼女はそれを首を傾けるだけで避けると続く二発、三発目も軽く後退しつつ掠ることさえない。
シノンとリザード。後発のリザードの方が肉体のスペックは高くパワーも優れているが、経験値ではシノンの方が上。おまけにパワータイプの怪人とは
リザードのパンチが壁を抉る。後退を続け、ついに壁際までシノンを追い詰めた。どんなにこちらを見切ろうと次は躱わせない。勝利を確信して腕を振り上げ、仮面の内で嗤い、全身の力を集中させ振り下ろした。――その瞬間をシノンは逃さない。
素早く身を屈め、背後に回るとリザードの細い腰に腕を回し組みついた。そして力強く持ち上げ、自分の身体を反らせて後方へと投げ飛ばした。所謂、バックドロップである。
身体を前方に倒していたこともあり後方への対応が間に合わず、リザードは頭部を地面に叩きつけられた。仮面越しとはいえ、その衝撃は凄まじく。目の眩む一撃に立つこともままならない。
力無く倒れ伏すリザードを解放すると、シノンは少し離れた場所に座り彼女の復帰を待った。勝負はまだこれから。リザードを鍛えてきた教官でもある彼女は、弟子がこの程度で終わらないことを知っていた。
期待通り、リザードは程なくして立ち上がり再び戦闘態勢を取った。戦意を喪失するどころかむしろ燃えたぎっているようなオーラさえ感じて。仮面の中で、口元が上がるのを感じた。
シノンも立ち上がり再度睨み合うが、どうやら力任せに向かってくるよつなことはなく。ついでにこちらの迎撃の態勢すら取っている。隙のない構え。洗脳時にプログラムされる様々な格闘術を元に組み合わせた怪人それぞれが生み出した型。
ならばと、シノンもまた独自の構えを取り迎え撃つ。通常なら強化スーツを着た状態で構える姿勢。それを裸でやっている滑稽さに呆れるが、それも殺気を前にしたら一瞬で吹き飛んだ。
態勢を崩さぬまま互いににじり寄り、一歩ずつ進み、仮面同士が触れるぎりぎりまで寄ってから、撃ち合う。拳と拳。足と足が激しく鳴って、筋肉がしなる。宝石みたいに散っていく汗の雫。それが落ちるより早く、再度拳が撃ち合って。肘が。膝が。肩が。次々に音を立てて赤く染まる。
仮面で窺い知ることは出来ないが、戦い続ける二人の姿はまるで踊り舞う女神のようで。――振り上げた足ガ互いの身体を打ち抜いて、態勢が揺らぐ。
次が最後の一発。考えるよりも早く拳は吹っ飛んでいって。
吹き飛ばされる仮面。
顎をぶち抜かれて、倒れ伏すのはリザード。意識も飛んで、頭から倒れていくその身体をシノンが素早く抱えた。
程なくして意識を取り戻したリザードが最初に見たのは自身を優しく抱き寄せ見下ろしている猫の仮面。表情なき鉄仮面なのに見下ろしてくる複眼の青は暖かくて。そっと添えるようにあたる腕も膝も心地よくて。
自分よりも強く気高き憧れの怪人。負けたはずなのにどこか清々しささえ感じて。――ふいに、夢見心地で見上げていた複眼に亀裂が走る。突如として、何の前触れもなく砕けた複眼に触れて、シノンは仮面を脱いだ。
「――合格よリザード」
ふっと柔和な笑みを浮かべると、点灯を始める壁のエンブレム。二人同時に視線を向けると明滅するランプに合わせ、男の野太い声が響いた。
『リザードの最終試験。たしかに見届けた』
どこからか聞こえてくる声に疑いも持たず二人は無言で耳を向ける。
『我が組織の誇る怪人シノンに攻撃を加えるという試験。中々面白い見せ物であった。シノン、よくぞリザードを鍛え上げた』
「お褒めに預かり光栄です。大首領」
首領からの言葉にシノンは深々と頭を下げた。
『リザードよ。これからの君の活躍を期待する』
その言葉を最後にランプの灯りが消え、首領の声は聞こえなくなった。
「立てる?」
「はい、お姉様……」
シノンに支えられ、リザードはゆっくりと立ち上がった。お互い汗まみれのハダカのまま。シノンよりやや背の高い彼女が見下ろす形となる。
「お姐様はやめてよ。あなたの方が歳上でしょ」
「改造されたのは後ですから……それに、シノンお姉様に比べると私なんて……」
「私もあなたとそう歳は変わらないから。お互い対等じゃない」
シノンは謙遜するが、リザードから見れば彼女は憧れの存在だった。
人智を超越した怪人とはいえ元は人間。ベースや適合率と言った元々の素質に左右される要素もある。その中で改造当初より類い稀なる数値を出してきたシノンとは対照的に、リザードの数値は平均値程度を維持し続けていた。
彼女やもう一人の女怪人スネークことユウキは対等に接してくれているが、優等生二人と比べて幹部や組織からの評価は芳しくない。せめて最終試験ではいいところを見せようとしたが、結果はまぐれの一発が関の山だった。
落ち込むリザードを見かねて、シノンは微笑むとその身体を抱き寄せた。
「大丈夫だから、あなたももっと経験を積めば私みたいになれる。強くて誰にも負けない怪人にね」
「お姉様……」
「その時は必ずくるわ。そして、その時こそ私と一緒に戦いましょう。ショッカーのために、偉大なる大首領様のために……」
「はい……」
顔を見合わせ二人は笑い合った。
尊敬する存在から崇拝する組織のために戦おうと言われれば舞い上がってしまって。脳改造を施され、組織の理想を刻み込まれたリザードは、シノンとともにその実現を夢想して、恍惚と頬を緩めた。
やる気を取り戻した後輩を見て、シノンは身体を離そうとする。――が、それは背に回ったリザードの腕に阻まれて。
「……リザード?」
「……お姉様、私、調子が悪くて……」
「調子が悪い?」
頬を赤らめそう告白したリザードに、シノンは眉を顰めた、
「……はい、なんだか、胸が苦しくて……身体が熱いんです……うぅ……」
身体をくねらせ、吐息を熱く、涎を滴らせるリザードを見て、シノンは嗤った。
「だからぁ、お姉様ぁ……ぅぅ……けんさ、してください……」
「悪いコね、まったく」
手のかかる後輩に苦笑しつつも、シノンもまた身を寄せた。――直後、二人の影は静かに重なった。
読了ありがとうございます。
もしよければお気に入り登録や評価、感想や意見等をお気軽にお願いします。